「生活どうなる」石炭火力の島 脱炭素が生む雇用は地域を救えるか

かつて捕鯨と炭鉱で栄え、いまは石炭火力発電所に頼る小さな島が、脱炭素に揺れている。 長崎県の本土側から 1 キロほど西の海に浮かぶ松島は、人口 2 万 6 千人の西海市と連絡船で結ばれている。 夕暮れ時、市中心部にある波止場に着く船は、作業着姿の男性らであふれていた。 電源開発(J パワー)の松島火力発電所(1、2 号機、計 100 万キロワット)での仕事を終えて家路を急ぐ人たちだ。

発電所のメンテナンスを担っているという市内の 30 代男性は「この辺りでは、貴重な働く場所です。」 周りには市役所などの公共施設や旅館はあるが、空き店舗が目立つ。 発電所の岸壁には石炭船が横付けされ、東京ドーム 3 個分に当たる約 13 万 6 千平方メートルの貯炭場に石炭が野積みされていた。 作業員が重機で仕分けし、粉砕して微粉にする。その後、ボイラーで燃やして蒸気を発生させ、タービンを回して発電する。

「石炭火力の島」に吹く逆風 国の方針に反し、存続を求める市

脱炭素によって新たな産業が興り、良質な雇用が生まれる - -。 「グリーン成長」の理想の姿だが、エネルギー転換に伴って打撃を受ける働き手もいます。 そこにどう配慮するか。 「公正な移行(ジャスト・トランジション)」の難問に直面する現場を訪ねました。 石炭は燃焼時に二酸化炭素 (CO2) を多く出すため、政府は 2030 年までに旧式の石炭火力をできる限り削減する方針で、松島火力も対象とされた。 これに対して、西海市は設備を更新して発電効率を上げることで存続を求めてきた。

J パワーは昨年 4 月、2 号機に石炭をガス化する設備を加えて発電効率を約 10% 高める計画を発表。 2 基のうち 1 基は存続させ、将来的には、(CO2)排出を抑えられるバイオマスやアンモニアを混ぜたり、CO2 を回収・貯蔵する新技術を導入したりする計画だ。 今より効率を高めるとはいっても、松島火力にはすさまじい逆風が吹く。 東京・銀座の J パワー本社前では、設備更新に反対する市民団体の集会が開かれる。

国の環境影響評価(アセスメント)でも「CO2 排出削減の道筋が描けない場合には事業の再検討を含め、あらゆる選択肢を勘案」との意見がついた。 発電所では下請けを含め約 500 人が働く。 1 年に 2 - 3 カ月ほど行う定期点検時には 1 千人規模が作業に当たる。 近隣の飲食店や宿泊施設、交通機関なども含めて地域にはカネが落ちる。 固定資産税も西海市にとっては貴重な財源だ。

「自分たちの生活、どうなるか」 風力開発移行に地元が抱く疑念

赤れんがづくりの巻揚機庫跡や、変電所跡。 島の方々に炭鉱の遺構がある。 最盛期の昭和初期には約 1 万 3 千人が住んだが、今は約 400 人。 地元の歴史に詳しい渋江一文さん (72) によると、高度経済成長期真っただ中の 1960 年代前半に最後のヤマが消えた。 子どもながらに「炭鉱がなくなって島から引っ越していく人たちが多くて寂しかった」と振り返る。

産炭地対策として松島火力 1 号機が運転を始めたのは 81 年。 渋江さんは「若い人が帰ってきた。 本当にうれしかった。」 太鼓や鐘などの拍子に合わせて手こぎの船で競う伝統行事「ペーロン」や、みこしや親子獅子舞が地域を練り歩く「松島くんち」には J パワーの社員も加わる。 「脱炭素が進む中、本当に存続できるのか。 発電所がなくなれば死活問題だ。」

杉沢泰彦市長は「街づくりの柱に脱炭素を掲げることで、企業の投資を呼び込みたい」と話す。 松島の北西約 30 キロ沖合に浮かぶ江島では、洋上風力発電の開発構想があり、国の「有望な区域」として準備が進む。 ただ石炭火力と比べ、洋上風力が生み出す雇用や経済効果はどれほどのものか。 地元の商工関係者からは「脱炭素は分かるが、自分たちの生活がどうなるかという関心が先だ」といぶかる声も上がる。

EV 移行、「100 年に 1 度」と言われる大変革期

脱炭素に伴って生じる痛みは、地域や産業で偏りがあります。 雇用への影響がとりわけ深刻だとみられるのが自動車業界です。 日本の基幹産業は、働き口を社会に提供し続けられるのか。 その成否に、日本の資本主義の生き残りもかかっています。 地域の産業や雇用に配慮しながら脱炭素を進める「公正な移行」は、資本主義を持続可能にするための考え方だ。 日本は欧米に比べると石油・石炭産業の規模が小さい。 エネルギー産業内での移行は、比較的スムーズだとの見方がある。

地球環境戦略研究機関 (IGES) の栗山昭久研究員は、脱炭素に伴う火力発電の縮小で失われる雇用は 2 万 - 3 万人にとどまる一方、再生可能エネルギーにより 30 万 - 50 万人の雇用が生まれると試算する。 それでも、と栗山氏は言う。 「ドイツは、なくなっていく産業や雇用向けに何兆円もの予算を投じる。 脱炭素を進めるには、そんな支援が欠かせない。」

幕張メッセ(千葉市)で昨秋にあった医療・介護機器の展示会。 「お力になれることはありませんか。」 自動車部品をかばんから取り出して売り込む男性がいた。 創業 70 年超の老舗自動車部品メーカー、タツミ(栃木県足利市)で新事業開拓の「特命」を受けた小林薫さん (62) だ。 最初は目ぼしい企業をネットで探し、サイトの問い合わせフォームから連絡しても、返事はほとんどなかった。

そこで、こうした展示会に参加し、部品を見てもらって技術力を示す作戦に切り替えた。 関心を示す企業も出てきた。 「一筋縄にはいかない。 下手な鉄砲でも撃ち続けるしかない。」 タツミはかつて航空機や自転車、ミシン用部品をつくってきたが、事業の柱を車部品に移して成長。 ほとんどの国内メーカーの車に部品が搭載されている。 国内では約 320 人の従業員を抱え、インドネシアやメキシコにも拠点を構える。

電気自動車 (EV) への移行など「100 年に 1 度」と言われる大変革期で、その主軸が揺らぎ始めた。 伏島利行社長 (58) は、部品の売り上げの 3 割は電動化で不要になるとみる。 エンジン部品の納入先からは「今回で最後の発注になるかもしれない」という「最終通告」が増えた。 タツミは、EV やハイブリッド車 (HV) で使われるブレーキ部品へと注力する。 ただ、エンジン車で 3 万点とされる部品が EV では半減し、競争が激しくなるのは必至だ。

タツミは 2020 年、希望退職を初めて募った。 翌 21 年に就任した伏島社長は「悩みはつきない。 それでも、顔を上げて立ち向かうしかない。」 キャリアの先が長い若手ほど危機感は強い。 愛知県の自動車部品メーカーで働く 30 代の女性は、職場に新入社員が配属されてくるたび、会社の未来を案じる。 「定年退職する最後まで、雇用を維持し続けていけるのだろうか。」 2 年ほど前に公募に手を挙げ、いま新規事業の開拓に携わる。 「衰退していかないよう、会社に貢献していきたい。」

主力取引先に依存する中小・零細企業、さらなる危機感

余力がない中小・零細企業はより深刻だ。 愛知県扶桑町にある部品メーカー「ダイワ化工」。 従業員約 30 人、年商 2 億円の町工場で、車のエンジンなどで使われる防振ゴムを得意としている。 トヨタ自動車を主力取引先とする大手部品メーカー向け 1 社に依存し、その売り上げが全体の 9 割以上を占める。 自動車は衝突を防ぐ安全支援システムやネットとつながる車など高度化が進む。 こうしたコストがかさむうえ、既存の部品に対する価格競争は激しさを増していると感じていた。 そこに EV 化の加速が重なる。

トヨタは昨年 12 月、EV の世界販売を 30 年に 350 万台まで大幅に増やす目標を発表した。 ダイワの大藪建治社長 (51) は、「このままでは今の雇用を維持するのは無理だ」と話す。 大手に依存した下請けや価格競争からの脱皮をめざし、数年前から会社のホームページを充実させ、車以外のゴム製品の事業に力を入れてきた。 大手メーカーの試作や研究開発向けから、個人が愛用するバイクや家電向けまで、少量多品種の受注に取り組む。 ゴムと異素材を接着する技術を生かし、顧客の開拓にも力をいれる。

「車の仕事と、他から取ってきた仕事で、なんとか生き残っていきたい。」

膨大なサプライチェーン(部品供給網)を持つ自動車業界は、日本の基幹産業として多くの雇用を抱えてきた。 日本自動車工業会によると、部品や資材関連で国内雇用は 110 万人に上る。 すべて EV に切り替わると、30 万人以上の雇用が失われる可能性があると、アーサー・ディ・リトル・ジャパン社パートナーの祖父江謙介氏は試算する。

残る雇用の内実も、今とは異なる。 自動運転技術などの進展を見据え、ソフトウェア系人材の争奪戦が激化。 機械系のエンジニアを再教育し、ソフトウェア系人材を育てる動きもある。 アーサー社の祖父江氏は言う。 「日本のものづくりは、カイゼンの積み重ねで成長してきた。 だが、転換期に小さな改善に逃げ、大きな変化が起こせなければ、いつか行き詰まる。」 (北川慧一、asahi = 5-14-22)


格付けされるギグワーカー「スコア地獄のよう」 仕事失うケースも

インターネットで単発で仕事を受ける「ギグワーク」。 ギグワーカーの多くは、仕事ごとに業務委託を結びます。 利用者らから評価を受ける仕組みもありますが、働く人にとってはこれが悩みのタネだそうです。 なぜなのでしょうか。

スコアで選別される仕事

東京都内に住む 50 代の男性ドライバーは 2019 年ごろから、ある配送マッチングサービスに登録し、単発で仕事を請け負っている。 運営会社が荷主から配送依頼を受け取り、登録したドライバーに配送を委託する仕組み。 運営会社のホームページによると、3 万 5 千人以上のドライバーが登録している。 飲食宅配の「出前館」の商品や工事資材、スーパーやコンビニの買い物代行の商品などを運ぶ仕事がスマホのアプリで業務リストが表示され、ドライバーが申し込む。

男性は軽バンで主に首都圏周辺で配送をしており、週 6 日ほど、4 - 10 時間のチャーター便を受注することが多い。 最近、悩ましいのが、「スコア」の問題だ。 このサービスでは、運行報告やユーザー評価など、5 項目の総合点が「スコア」になる。 アプリにはドライバーの名前と顔付きで、順位が表示される。 男性のスコアは、1 千点満点で 694 点。 3,563 位だ。

問題は、スコアが一定以上でないと、エントリーすらできない仕事があることだ。 そうした仕事は、報酬が高額な案件も多い。 たとえば、午前 10 時から 1 時間で、埼玉県内から横浜市内まで資材を運ぶ仕事の報酬は、1 万 2,518 円。 この仕事の場合、必要なスコアは 813 点以上だ。 エントリーしようとすると、スマートフォンのアプリにこんな通知が来る。 「エントリーできません。 あなたの現在のスコア : 694 点。」 「この仕事はほしいですが、スコアが足りないのであきらめるしかないですね」と男性はため息をもらした。

男性の場合、スコアが低いのには理由がある。 評価される 5 項目の一つである「ユーザー評価」はゼロ点だ。 スーパーや飲食店での個人宅への買い物代行など、主に個人相手の仕事を受注するとこのスコアがつくというが、拘束される時間の割に報酬が少ないため、引き受けていないからだ。 「チャレンジ」の項目は、案件ごとについている 1 - 5 のランクが元になっており、ランクが高い案件ほど得られるスコアも高くなる。 ところが、そもそもスコアが足りず、受注できない仕事も多く、いつまでたっても上がらないという悪循環だ。

実は男性は以前、こうした評価の影響で、仕事自体を失ったことがある。 男性は 19 年ごろ、ネット通販大手アマゾンが個人ドライバーとマッチングするサービス「アマゾンフレックス」に登録した。 だが、配達完了率が低いという理由で、半年ほどで仕事の受注や配達に使うアカウントが一方的に削除されて仕事ができなくなった。 そしてたどり着いたのが、今の仕事だ。

男性は「最近は高スコアが条件の案件が増えている印象で、取れる仕事も減ってきた。 このシステムから締め出される不安は常にあります。 スコアを上げるために割に合わない仕事もこなさなければならず、評価基準もブラックボックス。 システム上でスコアに踊らされ、スコア地獄のようです。」と話す。 こうした「働き手の格付け制度」は、ギグワークで広がっていると言われる。

飲食宅配代行サービス「ウーバーイーツ」は、飲食店や登録する配達員に相互評価制度を導入している。 配達員は注文者と飲食店から評価を受けると同時に、配達員も評価する。 「グッド」か「バッド」のマークをつける方法だ。 都内で配達員を 2 年間続ける 30 代男性は、90% 後半の高評価を保っているが、「評価が下がると警告がきて、さらに下がるとアカウント停止になって仕事ができなくなることもあると聞くので心配です」と話す。

ウーバー社のコミュニティガイドラインでは、「地域ごとに最低平均評価が設定されている。 評価が平均値を大幅に下回る場合、アプリの利用権を一時的または恒久的に失う可能性がある。」としている。

労働政策研究・研修機構の統括研究員の呉学殊さんは「相互評価は、シェアリングエコノミーではサービス向上のために必要なツールだが、評価の透明性と納得感が確保されていないのが問題だ」と指摘する。 呉さんが 20 - 21 年に配達員に行った聞き取り調査では、評価が 70% 台になったり、各都市の最低ラインを下回り続けたりした場合に、アカウントが停止になった、といった声も寄せられたという。

「アルゴリズムを使った評価基準をプラットフォーム側が設定し、配達員がそれに合わせるだけで、配達員の声が反映されず、相互評価が機能せず働き方の改善や産業の発展にもつながらない。 現状では、働き手を管理して評価の低い人を淘汰する道具になっている。」と話す。 (片田貴也、asahi = 5-1-22)


コロナ禍で非正規雇用女性が収入減 … 全体の2/3が「経済的なゆとりがない」

Tokyo MX(地上波 9ch))朝の報道・情報生番組「堀潤モーニング Flag(毎週月 - 金曜 7:00〜)」、「Flag News」のコーナーでは、"非正規雇用女性の収入状況" について取り上げました。

非正規雇用で働く女性にとってコロナが追い打ち

連合のアンケート調査によると、非正規雇用で働く女性 1,000 人のうち、新型コロナウイルスの影響で約 23% が「収入が減った」と回答。 また、約 21% が勤務日数や労働時間が減少したと回答しています。 さらに、全体の 3 分の 2 にあたる約 66% が「経済的なゆとりがない」と答えたということです。 回答者の平均年収は、パートタイマーが約 137 万円。 フルタイムで働く人が約 250 万円。 また、主に自分の収入で家計を支えていると回答した人の平均年収は、約 214 万円に留まりました。

非正規雇用女性の多くが「経済的なゆとりがない」

このニュースに対し、株式会社 Poteto Media 代表取締役の古井康介さんは「正規・非正規、その 2 種類でいいのか?」と疑問を呈します。 今やフリーランスも増えているなかで「正規・非正規にこだわってしまうがゆえに、いろいろなエラーが多いと思う」と主張。 というのも、正規にこだわるからこそ「賃金や解雇、なかなか給料が上がらず採用が広がっていかないなど、モヤモヤとしたなかで、非正規を悪いもののように言ってしまうところが、人材の流動化を少し止めてしまっているのではないか」と指摘します。

一方、NPO 法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんは、非正規が悪いわけではなく、留意すべきは「現実問題として、非正規雇用の人たちの待遇にものすごく問題がある」と言います。 そもそも非正規雇用と正規雇用との間には大きな格差があり、非正規雇用の多くは女性であるなど、問題は山積。 しかも、コロナ禍のような有事の際に最も影響を受けてしまうのは女性という現状に、大空さんは「まずは正規と非正規の格差をなくしていくこと。 その上でフリーランスの活用を含めてという議論になっていくのが筋だと思う。」と私見を述べます。 これにキャスターの堀潤は、「区分ではなく、待遇。 そして、社会の見え方ですよね。」と頷いていました。 (Tokyo MX = 4-14-22)


アマゾンで初の労組結成案が可決 米 NY の拠点、人手不足で立場強く

米ニューヨーク (NY) 市にあるアマゾンの拠点で、労働組合の結成案が賛成多数で可決された。 1 日、投票結果が公表された。 アマゾンで組合結成の試みは他にもあるが、同社が反対してきたこともあり、可決されたのは初めて。 米国では深刻な人手不足を背景に、労働者側が賃上げや労働環境の改善を求める運動が盛り上がっており、組合結成の動きはアマゾンの別の拠点や他社にもさらに広がる可能性がある。

組合結成案が可決されたのは、NY 市のスタテン島にあるアマゾンの物流拠点「JFK8」。 従業員が 3 月 25 - 30 日に投票した結果、投票総数4785票のうち賛成は 2,654 票で、反対の 2,131 票を上回った。 労組結成を目指した従業員らの団体「アマゾン・レーバー・ユニオン (ALU)」の代表で元従業員のクリスチャン・スモールズ氏は開票結果を受けて仲間らと抱き合い、「これで会社と対等に交渉できる。 別の地域にもこの流れは広がるだろう」と述べた。 団体は、賃金の引き上げや休憩時間の増加などを求める方針だ。

会社「従業員と直接関係持ちたい」

アマゾンは、「組合を通じてでなく、従業員と直接関係を持ちたい」などとして、労組結成に一貫して反対してきた。 今回も労組結成に反対する特設サイトをつくったほか、これまで賃上げしたり、労働環境を改善したりしてきたことをアピールしていた。 結果を受け、「会社と直接関係を持つことが従業員にとってベストだと考えている」との声明を発表し、異議申し立てなどを検討していることを明らかにした。

アマゾンの拠点では他にも、米南部アラバマ州ベッセマーの拠点で労組結成について投票が行われ、開票作業が続いている。 今月下旬には、NY 市スタテン島の別の拠点でも投票が行われる予定だ。 米国ではスターバックスでも昨年末、NY 州バファローの店舗で初めての労組結成が決まり、その後、各地で結成案が可決されている。 米コーネル大の調査によると、全米のストライキの数は今年 1 - 3 月に少なくとも 95 件と、前年同期の 2 倍近くに増えた。 人手不足で労働者の立場が強くなっていることや労働環境が悪化していること、物価高で労働者が賃上げを求めていることなどが理由とされる。 (ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 4-2-22)

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アマゾンが西日本最大拠点 兵庫県尼崎市、2,000 人雇用

インターネット通販大手のアマゾンジャパン(東京)は 22 日、同社として西日本最大となる物流拠点を兵庫県尼崎市に開設したと発表した。 地上 4 階建て、延べ床面積は 10 万平方メートル以上で、商品の梱包や出荷作業などを担う従業員を 2 千人以上雇用する。 物流拠点の名称は「アマゾン尼崎フルフィルメントセンター」。 ネット通販の利用者に届ける日用品や書籍、文房具などの商品を保管する。 アマゾンの物流拠点は全国に 20 カ所以上あり、これまで西日本では京都府京田辺市の拠点が最大だった。 担当者は「これまで以上に幅広い商品を迅速、効率的に届けることが可能になる」と説明している。 (kyodo = 3-22-22)


春闘の回答、目立つ前年超え 大手は満額も相次ぐ

春闘は 16 日、大手企業の経営側が労組の要求に答える集中回答日を迎えた。 電機大手の NEC は、労組の要求通り月 3 千円のベースアップを回答した。 東芝も同様の方針だ。 電機大手の満額回答は近年では異例。 自動車も満額回答が相次いでおり、コロナ禍の影響が大きかった前年を上回る水準が目立つ。 ただし、ウクライナ情勢を一因に物価も上がっており、賃上げが物価の上昇に追いつかないのではないか、との懸念はなお残る。

自動車ではホンダが 2 年ぶりのベアに踏み切る。 ベアを含む月 3 千円の賃金改善と 6.0 カ月分の年間一時金(ボーナス)の要求に満額で回答した。 日産も賃金の月 8 千円引き上げと 5.2 カ月分の年間一時金という要求に満額で答えた。 トヨタ自動車は先立つ 9 日に回答済みだ。 年間一時金は前年を 0.9 カ月分上回る月給 6.9 カ月分で決着した。 賃上げも満額だ。 ベアの有無は労使ともに明らかにしていない。

日本製鉄は 16 日、ベア相当で月 3 千円を回答した。 2 年に 1 度の交渉になった 1998 年以降では最大の上げ幅だ。 重工大手IHIはベア 1,500 円と年間一時金 4.8 カ月、三菱重工業はベア 1,500 円と年間一時金 5.8 カ月、富士通はベア 1,500 円をそれぞれ回答した。 厚生労働省の集計では、ベアゼロが相次いだ昨年の春闘では、大手企業の平均賃上げ率は定昇を含めて 1.86% にとどまった。 3 年連続で前年割れし、8 年ぶりに 2% を割り込んだ。 今年は 2% を回復できるかが注目点となっている。 春闘は、大手に続いて中小企業などの労使も賃上げを含む待遇の改善について交渉を進める。 (asahi = 3-16-22)


雇用調整助成金の申請、年間 50 件から 1 日 300 件に急増
テレワーク進まぬ 労働局が悲鳴「集団感染起きたらどうなる!?」

雇用調整助成金の問題点

記事コピー (8-15-21〜2-28-22)


高齢者雇用、関西企業も動く 希望者は「何歳でも」

意欲があれば何歳でも働ける職場づくりに、関西 2 府 4 県の企業も動く。 元気に働く高齢者が増えれば、人手不足の解消だけでなく、医療や介護にかかる費用を抑え、人口減少下での財政の下支えにもつながる。 総務省の就業構造基本調査で、65 歳以上の有業率が関西で 2017 年に全国平均 (24.4%) を上回ったのは京都府 (25.9%) と和歌山県 (24.8%)。 現場を訪ねた。

和歌山県かつらぎ町に本社を置く溝端紙工印刷。 60 歳で一度、退職金を受け取った後も本人が希望すれば何歳でも働ける。 18 年からは 60 歳以降に大きく変わっていた役職や給与、賞与をそのままに再雇用し始めた。 「60 歳で辞める人はほとんどいない」と溝端繁樹社長は語る。 約 300 人の従業員のうち、60 歳以上は約 2 割を占める。 最高齢は 77 歳の中本吉計さん。 箸袋のデザインなどを手がける。 中本さんは「病気で倒れない限りは仕事を続けたい」と話す。 同社は高齢者を特別扱いせず、評価方法や報酬基準を変えないのが特徴だ。 上司が生産性や社への貢献度を判断し、成績が良ければ昇給もある。

高齢者雇用を続けるのは溝端社長の信念で、現役世代の社会保障負担の増加を気にかけてのことだ。 「人生 100 年時代というのに 60 歳で引退し、残り 40 年を働かずに年金生活を送れるほど日本人は次世代を生み育てていない」と強調する。 溝端社長は上昇を続ける最低賃金が高齢者雇用の足かせになるとも指摘する。 高齢で生産性が下がれば、若者と異なりマイペースで働きたいとの要望が高齢者側から上がる可能性はある。 最低賃金に見合わなくても「高齢者雇用の場合は賃金を柔軟に設定できた方がいい」と訴える。

石英ガラス加工の英興(京都市)は 18 年に定年を 65 歳とし、希望者は 70 歳まで雇用継続し始めた。 それ以降も健康で、希望すれば 1 年ごとに雇用契約を更新している。 従業員 107 人のうち 60 歳以上は 18 人。 70 歳以上は 5 人いる。 職人技が要で、高齢でも活躍の場がある。 手に持つ石英ガラスを、バーナーの火で成形するには火の色の観察眼やガラスを正確に回す技術が求められる。 好況な半導体向けの製造装置に使われ、需要は堅調だが、少量多種を求められ、機械化は難しい。 「一人前になるには経験が必要。 元気なうちは働いて若者を育てたい。」と技術者の入江実さん (72) は話す。

同社では年 2 回の健康診断を必ず実施する。 65 歳までは昇給するが、その後は 8 割ほどの給与に。 ただ、特定の技術を持つ社員には上乗せがある。 課題は若者の雇用だ。 京都市郊外の工場へは車での通勤が必要だが「車を持たない若者が増えたのも採用を難しくしている。(同社幹部)」 ものづくりにやりがいを感じる一方で「黙々と作業するのを敬遠する若者も多い(同)」といい、現在は中途採用が大半だ。

大手にも高齢者雇用は広がる。 堀場製作所は 60 歳定年後も、65 歳まで 1 年ごとに再雇用する制度を持つ。 65 歳以降は優れた技術や営業先とのパイプがあるなどの要件を満たせば、70 歳まで半年ごとに雇用延長している。 レンゴーは 19 年に定年を 65 歳に上げ、20 年に 70 歳までの雇用継続を可能にした。 堀場製作所では 70 歳までの雇用を通じ、健康で優秀なベテラン人材に若手育成などでの活躍を期待する。 週 3 - 5 日で出社日を決められ、個人の事情に合わせて多様な働き方を選べるようにした。 65 - 70 歳はグループで計数十人おり、今後は「70 歳を超えての雇用継続も検討している」という。 (小嶋誠治、大平祐嗣、福冨隼太郎、nikkei = 2-25-22)


「適所適材」雇用で生産性向上 賃上げへの課題
佐々木勝・大阪大学教授

ポイント
○ 雇用のミスマッチあると生産性引き下げ
○ 解雇規制緩和は労働者にプラスの側面も
○ 「ジョブ型」に雇用のミスマッチ防ぐ効果

岸田文雄首相は経済界に賃上げを強く要請している。 賃上げを通じて中間層への分配を増やし、消費の刺激からデフレ脱却につなげることで「成長と分配の好循環」を期待している。 だが企業が賃上げ要請に応えることは短期的には可能かもしれないが、持続的に可能だろうか。 労働者の賃金が伸び悩むのは、生産性が伸び悩んでいることを意味している。 日本生産性本部によると時間当たり実質労働生産性上昇率は長い間ゼロ % 近辺で推移している。 2019 年度は 0.6% だけ上昇し、そして 20 年度には 0.4% 低下した。 国際比較では、20 年の日本の時間当たり労働生産性は経済協力開発機構 (OECD) 38 カ国中 23 番目で、平均を下回る。

長期的に賃金を引き上げるには生産性の向上に努めなければいけない。 そのための政策として、政府による教育訓練や人への投資といった措置が必要なのは言うまでもなく、労働市場全体の構造改革に取り組まなければならない。 本稿では構造改革の一部として、企業と労働者のミスマッチの解消とジョブ型雇用の採用に焦点を当てて論じたい。

雇用のミスマッチとは、企業が求めている能力やスキルと労働者が有する能力やスキルがかみ合わないことだ。 かみ合わないがゆえに、本来の生産力が発揮できず、非効率的な生産活動に陥ってしまう。 川田恵介・東大准教授によると、12 - 16 年の間で、新規雇用の 9% 前後がミスマッチにより喪失されている。 実際、この期間に求人数と求職者数のズレが幅広い職種で観察される。 例えば、事務職は求人を求職者が大幅に上回る過大な労働供給、保安やサービスは過小な労働供給に陥っている。

雇用のミスマッチには「事前のミスマッチ」と「事後のミスマッチ」がある。 前者の場合、企業は求めている能力やスキルを有する労働者に出会えず、未充足のままの求人状態が続く。 あるいは求められる能力やスキルを有していない労働者が、求職活動してもなかなか仕事が見つからない状態もありうる。 一方、生産性に関わるのは事後のミスマッチだ。 企業が雇用契約を結んだ後に採用した労働者の能力やスキルが期待していたほどの水準でなかったことに気付くことだ。 企業が最新の機材を用意しても、それを扱えるスキルが労働者になければ、機材は宝の持ち腐れになる。 ほかにも労働者の能力やスキルに見合う仕事を用意しなければ、その労働者本来の能力を最大限に生かせないケースもある。

こうしたミスマッチが、企業と労働者の組み合わせが持つ潜在的な生産性を引き下げる。 採用プロセスの段階では互いにわからない部分があるので、必ずしも質の高いマッチングが成立するとは限らない。 労働者の場合、自分の能力やスキルが十分に評価されないなら、転職によりミスマッチは解消される。 だが企業が採用した労働者との関係でミスマッチに気づいた場合、解消はなかなか難しい。 解雇規制により企業は簡単に被雇用者を解雇できないからだ。 ミスマッチの解消を促進するには、労働者が自由に企業を選べるようにするとともに、企業もある程度労働者を選べるようにして、人材の流動化を進めるのが原則だろう。

解雇規制の緩和というと労働者にとって不利になるように聞こえるが、必ずしもそうではない。 解雇規制の緩和により人材配置の自由度が増す企業は、これまでのように採用に慎重になりすぎる必要がなくなり、採用人数を増やせる。 求職活動する労働者にとっても、採用意欲の旺盛な企業に出会う確率が高くなることを意味する。 解雇規制の緩和は人材の流動性を高めるので、新たな求人企業に出会い、就職しやすくなる側面もある。 全体的にマッチングの機会が増えることで適所に適材が配置され、雇用のミスマッチの解消が期待できる。

労働者が解雇された理由がスキルの陳腐化ならば、新たなスキルを習得する職業訓練の機会を用意すればよい。 職業訓練のようなセーフティーネット(安全網)を整備したうえで、人材の流動化を促し、ミスマッチの解消を目指すべきだ。 雇用のミスマッチの解消により全体の生産性が向上しても、生産性の異質性は存在する。 つまりマッチングがうまくいっても生産性の高い労働者と低い労働者がいる状態は変わらない。 ここで重要になるのは、労働者の生産性を把握し、正しく評価することだ。

正しく評価することはそう簡単ではない。 評価する立場にある上司は、評価される部下の特性や行動を完全に把握できない。 両者の間に「情報の非対称性」が存在するからだ。 例えば成績が悪い部下を巡り、本人の努力が足りないのか、外部環境が悪いのかを容易に判断できない。 上司が能力の高い部下と低い部下を区別できない場合、能力の平均に相当する賃金を全員に適用したくなる。 そうすると平均未満の能力の部下は能力以上の高い賃金をもらえるのでそのまま居続けるが、平均以上の部下は転職してしまう。

こうした情報の非対称性がもたらす弊害は、2 年に及ぶコロナ禍で拡大していると考えられる。 リモートワークという新しい働き方の普及により、上司と部下の間の距離が開いているからだ。 上司が部下の働きぶりを以前のように観察できない状況で、いかにして評価すればよいだろうか。 解決方法の一つは、働きぶりをなるべく可視化して達成度で判断することだ。 具体的には「ジョブ型雇用」という雇用制度を導入することが考えられる。 これまで多くの日本企業が採用してきた新卒一括採用や年功序列の「メンバーシップ型雇用」とは異なり、ジョブの職務内容に応じて適任者を採用し、その職務の達成度に応じて報酬を支払う。

上司と部下が職務内容を事前に職務記述書に明記して、互いに合意したうえで雇用契約を結ぶ。 職務記述書を基に職務の達成度を確認して報酬を支払う。 職務記述書に記載された職務内容を社内で共有すると、従業員同士はある程度互いに求められる職務とその成果を観察できるので、自分たちが正しく公平に評価されているのかを確認できる。 また職務記述書の職務内容と必要なスキルの社外公開は、最適な人材を幅広く募ることを可能にする。

日立製作所はジョブ型雇用を本体の全社員に適用する方針である。 単に導入するだけでなく、職務内容と必要なスキルを社外公開することで、どのような人材を求めているのかを明確に示し、職務遂行に適した人材を効率良く探せるような制度とする。 職務内容と必要なスキルの社外公開は、ミスマッチを未然に防ぐ役割を果たす。 欧米と肩を並べるまで賃金を引き上げるには、教育や訓練を通じた労働者個人の人的資本の蓄積だでなく、「適所適材」が実現しやすい風通しの良い労働市場にしていく必要がある。 (nikkei = 2-18-22)


若者の所得格差拡大 … 500 万円未満の世帯、子を持つ割合が大きく低下

内閣府は 7 日、国内経済の動向などを分析した「日本経済 2021 - 2022」を公表した。 所得格差の指標である「ジニ係数」が 25 - 34 歳の若年層の間で上昇しており、「晩婚化や少子化への対応では、結婚や子育てを控える層の所得増加が重要だ」と指摘した。 ジニ係数は 0 から 1 の値で示され、格差が大きくなるほど「1」に近づく。 年齢別にみると、25 - 29 歳は 2002 年の 0.24 から 17 年に 0.25 へと上昇し、30 - 34 歳も 0,311 から 0.318 になった。 報告書は、男性で非正規社員の比率が高まり、労働時間が減ったことなどが背景にあると分析した。 ほかの年齢層では、ジニ係数が緩やかに低下傾向にあった。

25 - 34 歳は、単身世帯の割合が高まった一方、夫婦と子どもの世帯が減少した。 14 年と 19 年を比較したところ、所得が 500 万円未満の世帯は子どもを持つ割合が大きく低下しており、「低所得世帯では、結婚や子どもを持つという選択が難しくなっている」と分析した。 岸田首相は「分厚い中間層」の復活を目指しており、社会保障制度の改革などを通し、子育て世帯や若者の所得増加を図るとしている。 (yomiuri = 2-7-22)


有効求人倍率 1.13 倍 3 年連続悪化 厚労省

厚生労働省が発表した 2021 年の有効求人倍率は 1.13 倍で、大幅に悪化した前年を 0.05 ポイント下回り 3 年連続の低下となりました。 新型コロナによる影響が依然として続いていて、収入の減少などから仕事を探す人が増えた一方、企業からの有効求人数がわずかな増加にとどまったことが影響しています。 一方、総務省によりますと、2021 年の完全失業率は、前年と同じ 2.8% で横ばいでした。 (テレ東 = 2-1-22)


教員不足、全国で 2,065 人 管理職が担任務める例も 文科省調査

教員が足りず、学校に本来配置するはずの人数を満たせない状態が今年度、全国の公立小中学校、高校、特別支援学校の 4.8% にあたる 1,591 校で生じていることが、文部科学省の調査で分かった。 不足は昨年 5 月 1 日時点で 2,065 人に上り、小学校の担任を管理職が代理で務める事態も起きている。 休業・休職者の増加や、教員志望者の減少が背景にある。 文科省は全国の教育委員会に計画的な採用を促す方針だ。

都道府県教育委員会などが配置を計画する教員の人数に対し、休業・休職した正規教員に代わるフルタイムの臨時的任用教員(臨任)や、非常勤講師らを雇っても足りない状態が近年問題視され、文科省が初めて実態を調査。 各都道府県と政令指定市の計 67 教委などに、始業日と 5 月 1 日時点の不足状況を尋ね、31 日に公表した。

小学校は 5 月 1 日時点で全体の 4.2% にあたる 794 校で 979 人が不足。 このうち学級担任は 367 校で 474 人が足りず、代わりに校長・副校長・教頭が 53 人、担任を持たない予定の教務主任ら 205 人が担任を受け持っていた。 中学校では 6.0% の 556 校で 722 人が不足。 5 月 1 日時点で教科担任が足りず、必要な授業ができない学校が 16 校あった。 他の教科の授業を行うなどしていたが、文科省によると講師が見つかるなどし、その後解消したという。

都道府県教委別にみると、小学校で不足数が最も多かったのは千葉県の 91 人、中学校は福岡県の 59 人だった。 いずれも首都圏や愛知県、関西圏、九州北部で不足が目立つ。 不足の原因について、産休・育休・病休取得者が見込みより増えたことや、特別支援学級数の増加のほか、教員採用試験が低倍率で合格しやすくなり、主に不合格者が担ってきた臨任や非常勤講師が減ったことを挙げる教委が目立った。

この日公表された今年度の公立校教員採用試験の結果は、受験者の減少などで小学校の採用倍率が 2.6 倍と 3 年連続で過去最低に。 中学校は4・4倍で1991年度(4・2倍)に次ぐ2番目の低水準だった。 文科省は、退職者数に合わせて正規教員を大量採用し、臨任などからの補充のやりくりが難しくなった教委もあることから、複数年単位で計画的に採用したり、臨任や講師のなり手を増やしたりする取り組みを紹介するなどし、なり手確保につなげたい考えだ。 (桑原紀彦、asahi = 1-31-22)


広島の社会福祉法人、30億円「消失」で民事再生に 県は特別監査

東京、広島、岡山の 3 都県で特別養護老人ホームなど約 20 事業所を運営する社会福祉法人(広島県福山市)で 2016 年に理事長が交代した後、約 30 億円あった預金が急減してほぼなくなり、東京地裁が昨年秋、民事再生手続きの開始を決定した。 広島県は運営に重大な問題があったとみて特別監査を実施した。 法人は 1994 年に設立されたサンフェニックス。 法人関係者によると、前理事長の医師が後任理事長になった公認会計士に実質的な経営権を譲渡し、会計士側が法人の資金から医師側に約 30 億円を払う形になっていたという。 国は公益事業を担う社会福祉法人の経営権の売買は認めていない。

朝日新聞が入手した民事再生手続きの開始申立書や関係者の話では、医師は 16 年、東京の公認会計士の男性に 42 億円で経営権を移転することで合意した。 会計士側は医師側に 20 億円を渡し、残りは年 2 億 2 千万円ずつ 10 年分割で払う条件だったという。 法人関係者によると、会計士は 16 年 4 月に理事長になった後、香港に法人を設立し、前理事長の医師が代表になった。 サンフェニックスから会計士の関係企業などを介して香港法人に 20 億円が送られた。 ほか 5 年間で分割分の計 11 億円が医師に支払われたという。

16 年時点で約 30 億円あったサンフェニックスの預金は昨年 9 月時点で 2,700 万円に激減。 従業員の給与も払えなくなり、東京地裁が同月、民事再生手続きの開始を決定した。 負債は 58 億円超。 運営する施設は事業を継続している。 関係者によると、医師は広島国税局の税務調査を受け、20 億円の申告漏れを指摘された。 経営権移転で得た所得の一部を申告しなかったと認定された模様だ。 過少申告加算税を含めた所得税の追徴税額(更正処分)は約 9 億 7 千万円。 医師は課税処分を不服として国税不服審判所に審査請求しているという。

厚生労働省によると、社福法人は社会福祉法に基づいて公益的な事業を非営利で実施する。 税制面の優遇などもある。 このため経営権の売買はできず、施設運営などの目的以外の資金の外部流出も認められないとされている。 所轄庁の広島県は同 10 月、特別監査を実施した。 会計士は直後に理事長を退任した。 医師は 24 日、福山市内で報道陣の取材に対し、「詐欺にかけられた。 弁護士に相談して訴える。」と話した。 申告漏れを指摘されたことについては 25 日、自身が院長を務める医療機関を通じ、「(香港法人への 20 億円は)出資だ。 個人の所得とされるのは心外だ。」とした。 資金はスリランカの茶の会社や水力発電などへの投資に充てたという。

広島県の湯崎英彦知事は 25 日の記者会見で、「社福法人の資金は公益の目的で支出されるべきもの。 流出したことが事実なら遺憾。」と述べた。 外部から情報提供に加え、民事再生手続きの開始を受けて、監査に踏み切ったという。 湯崎知事は運営事業所の利用者について「現時点では大きな影響はないと認識している」とし、「きちんとサービスが継続されるようにしたい」と語った。 法人認可の取り消しは「利用者が行き場を失い、スタッフもいるので、現時点で考えていない」とした。 (松田史朗、比嘉展玖、蜷川大介、asahi = 1-26-22)

〈編者注〉 上記の報道内容だけでは事件の全容は掴めていないのではないでしょうか。 読み始めて、先ず考えたのは、理事長医師と次の理事長会計士が結託した単純な脱税事件ではないかと思えたのですが、社福法人を舞台とするのは余りにも安易、かような結果になることは、分かり切っています。 基本的に、違法な取引の上に起こったことであり、明確な処断が必要です。