免震ゴム偽装のタワマン、当事者の企業が 37 億円で自ら買い取り

東洋ゴム工業(現 TOYO TIRE)が性能偽装した免震ゴムを使用し、住民に解体が通知されている福岡市中央区の 30 階建てタワーマンションを、同社が取得したことがわかった。 取得価格は 37 億 4 千万円。 同社は今後、解体に向けた準備や手続きを進めるという。 同社によると、今年 7 月 2 日、マンションを実質的に所有していた投資法人と売買契約を結び、9 月 30 日に譲渡を受けた。 取得にかかった 37 億 4 千万円は決算に特別損失として計上する。

マンションは 2006 年建築で、計 215 戸全室が賃貸物件。 免震ゴムの性能偽装は 15 年に発覚したが、交換などの作業が手つかずのまま、今年 7 月に住民に解体の方針が通知された。 住民は来年 6 月までの退去を求められている。 買い取りの経緯について、同社の担当者は「個別の案件にはお答えできない」とした上で「そもそもの問題が当社の免震ゴムから始まっているので、関係者と合議を重ねて結論に至った」と説明している。

一方、マンションに住む 50 代の男性は「7 月に突然、退去通知が来て以降、何の音沙汰もない。 せめてこれまでの経緯だけでも教えてもらいたい。」と話した。 同社によると、問題のゴムが使われていたのは官公庁や文化財を含む全国 154 棟。 このうち 148 棟はすでに製品の交換作業が完了し、このマンション以外の残る 5 棟も、交換作業の着手やそれに向けた協議が始まっているという。 (藤原慎一、asahi = 10-30-21)

前 報 (7-16-21)


防災・観光・農業経営 … 地方で最新の学び直し、できます 講座充実

社会人の学び直しを意味する「リカレント教育」は、今後必要とされる AI (人工知能)やデジタル技術に関わる講座ばかりではありません。 「地方活性化」や「女性の活躍」といった日本社会の課題に対応する講座も、近年各地で増えています。

地方で学ぶ経営理論

広島県福山市に住む会社員、吉岡明美さん (44) は今春までの半年間、県立広島大が市内で開いた講座に通った。 日曜日の「備後地域ビジネスリーダー養成講座」。 1 期生だった。 県立大は県西部の広島市に本部がある。 「県東部での人材育成に十分取り組めていない」と昨年、福山でのリカレント教育に乗り出した。 市や商工会議所の施設を使い、18 人が参加した。

吉岡さんは福山港の物流会社で、顧客の通関業務を代行する通関士として働く。 県立大生の友人から講座の話を聞き、「短大時代に勉強した経営学を学び直したい」と申し込んだ。 講座は、MBA (経営学修士)を取れる大学院の教授らが講師を務め、マーケティングやサプライチェーンマネジメントなど経営理論の基礎を学んだ。 グループワークでは「介護者を幸せにするビジネス」という課題で病院職員や薬剤師らと一緒に議論し、発表した。

「私の学生時代とは用語も考え方もすっかり変わって、目からうろこでした。 地元で最新の学びができるのも、ありがたかった。」 学んだ知識はそのまま仕事に使えるわけではない。 それでも修了後、社内の会議で自分のアイデアを積極的に発言するようになった。 「経営側の視点を得たおかげで、会社に対して受け身ではなく能動的に発信する考え方が生まれた。 自分にとっては大きな変化です。」 大学から声がかかり、今年度の講座にはアシスタントとして参加している。

秋田大も今年、地元の再生可能エネルギーや資源リサイクルについて学ぶ講座を開設。 滋賀県立大は地域再生学の講座を 2006 年から続ける。 いずれも地元企業の社員や自治体職員らが受講している。 滋賀県立大の鵜飼修教授は「『地域』という視点から新たなビジネスや活動に取り組もうとする社会人が集まり、持続可能な地域づくりの担い手に育っていっている」と話す。

働く女性の課題 「リカレント必要」

女性対象のリカレント講座を 07 年から続けるのは日本女子大(東京)だ。 出産や育児などで離職した女性の再就職に向けたコースは、これまでに約 700 人が受講している。 さらに今年 6 月、働く女性が夜間と土曜にオンラインで受けられる新コースをつくった。 初年度は企業で管理職をめざす女性ら 13 人が受講。 従来のコースにあった IT スキルやビジネス英語に加え、管理職に必要な人材育成やメンタルヘルスについても学ぶ。

坂本清恵・生涯学習センター所長は「今でも育児で離職を迫られるなど、女性が職場で抱える課題は多い。 働き続けるためのリカレントが、特に女性にとっては重要です。」と話す。 同大などは一昨年、「女性のためのリカレント教育推進協議会」を設立。 関西学院や明治など 7 大学が、合同シンポジウムや修了者との交流会を開いている。

働き手が自立する「武器」に

記者の私 (38) も 4 年前、リカレント教育を経験した。 2 年間休職し、イギリスの大学院で「移民公共政策学」を学んだ。 新聞記者として 10 年以上、日本で暮らす外国人を取材してきた。 移民受け入れの歴史が長いイギリスで、最新の政策や社会課題を学び、新しい視点の記事を書きたい - -、という動機だった。 社会人としての学びは、学生時代とは違った。 目的がはっきりしている分、勉強に向かう熱量が大きい。 現場で働いた経験があるから、小難しい理論が具体的な場面と結びついて頭に入る。

多様な現場で仕事をしてきた同級生と議論し、つながりが生まれたことも、大きな財産だ。 メディアの世界でもデジタル化が進み、紙の新聞は読まれにくくなっている。 記者が新しい知識や技能を身につけ、書き手として生き残るための表現方法や取材テーマを見つけることは、欠かせなくなった。 リカレント教育が求められる背景は、そのまま新聞業界にもあてはまる。

復職後、大学院で得た知識や視点は取材や執筆に生きている。 一方、修士号を取ったことが会社から評価されたり、職場で考慮されたりする場面は、あまりないように感じる。

今回取材した大学関係者らも話していたが、日本には、働く中で学ぶ「オン・ザ・ジョブ・トレーニング (OJT)」中心の職業文化が根強くある。 OJT はもちろん大事だが、職場外で先進的な学びに専念するリカレント教育の意義が、十分に浸透していないのではないだろうか。 それでも、AI の進化や雇用環境の変化は待ってはくれない。 働き手が会社に頼るだけではなく、個人として自立していくためにも、リカレント教育は必須の「武器」となるはずだ。 (玉置太郎、asahi = 10-25-21)


阿蘇山が噴火、噴煙が上空 3,500m まで 警戒レベルを 3 に引き上げ

熊本県の阿蘇山・中岳第 1 火口で 20 日午前 11 時 43 分ごろ噴火が発生し、火砕流が火口から西に約 1.3 キロまで流れた。 福岡管区気象台は 5 段階ある噴火警戒レベルを 2 (火口周辺規制)から 3 (入山規制)に引き上げ、火口から約 2 キロ以内の立ち入りが規制された。 阿蘇山がレベル 3 に上がるのは 2016 年 10 月 8 日の爆発的噴火以来、5 年ぶり。 (安田朋起、asahi = 10-20-21)


「強く胸に刻む」震災後初の成人式に 46 人の笑顔 福島県大熊町

東京電力福島第一原発事故の避難指示が 2 年前に一部で解除された福島県大熊町で 16 日、震災後初となる町内での成人式が行われた。 当時、小学 4 年生だった新成人 46 人が全国各地から故郷に集まり、再会を喜んだ。 震災後、町の成人式は町外で行い、今年も 1 月に町外で開催予定だった。 しかし、コロナ禍で 2 度延期され、今回は建設中だった町の新たな交流施設の完成に合わせ、10 年ぶりに地元で開催した。

新成人代表の新潟大 3 年の遠藤瞭さん (21) は「10 年前の震災と現在のコロナ禍で、私たちの日常生活は当たり前ではないと 2 度も実感した。 大人の仲間入りをする私たちも、当たり前の生活のため役割を果たせるよう、強く胸に刻んでいきたい」とあいさつした。 将来は福島第一原発の廃炉問題に取り組みたいという。 (飯島啓史、asahi = 10-16-21)


「魅力度 44 位」の群馬、知事「法的措置も」 調査会社は反発

調査会社が今月発表した 2021 年の 47 都道府県の魅力度ランキングで、44 位だった群馬県の山本一太知事が反発を強めている。 14 日の記者会見では「根拠の乏しいデータで、県のイメージにマイナスの影響を与える可能性がある」と述べ、法的措置の可能性にも言及した。 調査会社側は「中傷だ」と反発している。 ランキングは、ブランド総合研究所(東京都港区)が 9 日に発表した。 群馬県は昨年から順位を 4 つ下げて、44 位だった。

山本知事は 12 日に「根拠の乏しいデータで群馬を低く位置づけるのは、県民を侮辱していることになる。 県のイメージや観光にもマイナスの影響を与える可能性がある。」と述べ、弁護士と相談して法的措置も検討すると話した。 14 日の会見でも「主要メディアにも取り上げられており、無視できない。 ランキングがずさんで信頼度が低いことを県民や国民に正確に理解してもらうため、(法的措置が)有効なら可能性の一つとして検討している」と述べた。

山本知事はかねてランキングを疑問視し、昨年 10 月に県庁内に検証チームを作って分析を開始。 今年 7 月には根拠となるアンケートの設問数や配点などに問題があるとの結果を発表し「緻密さを欠く、ずさんで不正確なもの」と批判した。 一部のデータが非公表になっていると指摘し、「ランキングを出すなら、結果について説明責任を果たすべきだ」と主張していた。

これに対し、ブランド総合研究所の田中章雄社長は 14 日、朝日新聞の取材に「我々や回答者に対する誹謗中傷だ。 謝罪をお願いしたい。」と話した。 ランキングの根拠について「報告書の中ですべて開示している」とし、都道府県から問い合わせを受けた際は回答していると説明。 だが、「群馬県からは質問も相談もない。 それで『信頼できない』、『ずさん』などと言われ、報道しないよう圧力をかけるのは、知事としていかがなものか。」と訴えた。 (星井麻紀、小林直子、asahi = 10-14-21)

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「魅力度ランキング」栃木が最下位を脱出 ランクダウンした県は

民間調査会社による 2021 年の 47 都道府県の「魅力度ランキング」が 9 日発表され、昨年 7 年連続の最下位を脱出し、42 位だった茨城県が 2 年ぶりに最下位に戻った。 昨年最下位の栃木県は 41 位だった。 1 位は 13 年連続で北海道。京都府、沖縄県、東京都と続き、大阪府が過去最高の 5 位になった。 ランキングは、ブランド総合研究所(東京都港区)が 7 月、ネット上で各地の認知度や訪問経験、観光意欲など 89 項目について約 3 万 5 千人から回答を得て、年齢や人口分布を考慮した上で点数化した。

最下位になった茨城県の点数は 11.6 点。 特に西日本での認知度が低かったという。 同社の田中章雄社長は「茨城県はつくば市を中心に『IT・先端技術の地域』としては評価されている。 その魅力をうまく活用できれば、もっと評価が高まるのでは。」と指摘する。

茨城・栃木、最下位逆手に PR

一昨年まで 7 年連続最下位だった茨城県は仮想キャラクター「茨(いばら)ひより」が県内の観光地やメロンなどの特産品を紹介する動画を作るなどして魅力発信に取り組んだ。 ただ、昨年、順位が上がったことに SNS などでは「最下位を逆手にとって PR できていたのに」と惜しむ声もあり、県は今月、これまでの情報発信の取り組みを冊子にまとめ「魅力度最下位の過ごし方」として、県のホームページに公開した。

一方、昨年、最下位になった栃木県は「47 (そこ)から始まる栃木県」と開き直った PR 作戦を展開。 地元ゆかりの著名人に魅力を語ってもらい、ネットで発信してきた。 「あなた、『栃木』って漢字で書ける?」、「地味な栃木を大切にする人が好き」 - -。 求愛する男性に女性がそう語りかける CM も作って、東京や大阪の FM 局で流れた。 県はこれらの事業に計約 3 千万円をかけた。 県ブランディング推進室の担当者は「今後も栃木県の魅力をしっかり伝えていく」と話している。

1 位の北海道の魅力度の点数は 73.4 点。 昨年から 12.6 点伸ばし、全国で最も魅力度の伸びが大きかった。 9 割近い回答者が「魅力的」と答えたという。 今夏、東京五輪・パラリンピックがあった東京都も昨年比で 11.1 点伸ばした。 千葉県は昨年 21 位から一気に 12 位に上昇した。 同時に発表された市区町村別の魅力度ランキングでは 1 位が札幌市、2 位が函館市、3 位が京都市だった。 長野県軽井沢町が昨年 20 位から 8 位にランクインした。 同社は新型コロナ下で休暇を楽しみながら仕事をするワーケーションの対象として人気を集めている可能性があると分析している。 (西崎啓太朗、池田拓哉、asahi = 10-9-21)


日本ハムの新本拠地に農業学習施設 北大やクボタと連携協定

北海道北広島市で北海道日本ハムファイターズの新本拠地となる「北海道ボールパーク F ビレッジ (BP)」。 そこに新たな農業学習施設が作られることになった。 BP を運営するファイターズスポーツ & エンターテイメントと北海道大学、農業機械メーカーのクボタが 9 日、建設に向けて連携協定を締結。 新球場が開業する 2023 年 3 月の設置を目指す。

農業学習施設は、新球場の南側に建設される。 2 階建てで延べ床面積約 2,400 平方メートル。 北大やクボタが取り組むスマート農業など最先端の農業技術を紹介する展示エリアや、ロボットや AI を活用した植物工場エリア、親子で収穫体験などができる露地栽培エリアなどが設けられる。 想定事業費は 10 数億円。 22 年春に着工し、同年末に完成予定という。

BP 構想で球団は、農業を含めた持続可能な街づくりを掲げる。 未来の農業のあり方について BP を起点に発信していこうという球団側の働きかけで 3 者の連携が実現した。 農園や農業体験ができる BP は国内初で、「世界にまだ見ぬ施設となる(川村浩二・球団社長)」としている。 会見で川村社長は「農園を活用したふれいあいの創出などを行いながら、ここに集う人たちが農業への興味や感謝を感じる場となり、農業の未来を支える象徴的な取り組みになればと期待している」と述べた。 (志田修二、asahi = 10-10-21)


「松坂屋」の後継に「三越」出店 GU・ニトリ・成城石井も 愛知

9 月末で閉店した松坂屋豊田店があった愛知県豊田市の商業ビル「T-FACE」について、市などが出資する第三セクター「豊田まちづくり株式会社」は 1 日、後継となる主要テナントを発表した。 一部には名古屋三越(名古屋市)が「三越豊田」を出店する。 12 月からの改装工事を経て、来年春の開業を予定している。 松坂屋が入っていた A 館 1 - 6 階のうち、2 階に三越豊田が入り、服飾雑貨や化粧品、贈答品などを扱う。 名古屋三越によると、デジタルを活用して東京などにいる店員によるリモート接客で、店頭にない商品の品定めもできるようになる。

主に食品売り場だった 1 階には、やはり食材を扱う「成城石井」が入る。 3 階は松坂屋から継続出店となるレディースアパレルなど、4 階はファーストリテイリング傘下でユニクロより安めの衣料品を展開する「GU」と、家具チェーン大手のインテリア雑貨店「ニトリデコホーム」。 5 階はホームセンターを予定し、6 階にはコーヒーを飲みながら本を選べる書店として「MARUZEN」を誘致した。

三セクでは、A 館の松坂屋跡に入る約 50 店舗と B 館などの計 140 店舗で、年 125 億円の売り上げを見込んでいる。 名古屋三越の三河地区への出店は初めて。 担当者は「市場規模のほか、百貨店に親和性が高く、若い世代も多い客層などに成長市場として魅力がある。 市や商工会議所などの熱意もあって決断に至った」と話した。 (中川史、asahi = 10-2-21)


コメの価格形成、現物取引市場で 農水省、創設に向け検討開始

農林水産省は 29 日、コメを取引する全国規模の現物市場の創設に向けて、検討会の初会合を開いた。 具体的な制度づくりを進め、来年 3 月をめどに大枠を固める方針。 需給の実態を正確に反映した価格指標をつくり、コメ取引の透明性向上につなげる狙いがある。 コメは、生産者や集荷業者、卸売業者、スーパーや食品メーカーなどが個別に取引している。 以前は「全国米穀取引・価格形成センター」が価格指標を出していたが、取引量が落ち込み、2011 年に解散した。 今は農水省が関係業者の報告をもとに平均の相対取引価格を公表しているが、開かれた市場がないため、価格形成の透明性に課題がある。

大阪堂島商品取引所が先物の試験上場を続けてきたが、農水省に取引実績が十分と認められず、8 月に廃止が決定。 その議論の中で、需給の実態に即した価格形成につながる現物市場の創設を自民党が農水省に求めていた。 この日の会合は非公開で開かれ、関係業者や有識者らが出席。 新市場を機能させるには、上場されるコメの量を担保し、取引に参加しやすくする必要があるといった意見が出たという。 今後は運営主体や参加資格、取引ルールなどが検討課題になる。 (五郎丸健一、asahi = 9-29-21)

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コロナ禍で余るコメ、外食需要減が農家直撃 新たな需要開拓へ

出来秋の北海道内で、米の収穫が最終盤を迎えた。 生育は良好で味も期待できそうだ。 ただ、新型コロナウイルスの影響で外食向け需要が減り、米価は下落傾向。 古米の在庫も増え、農業関係者は需要開拓に頭を悩ませている。

9 月中旬。うっすらと明るくなってきた午前 6 時半、ホクレンなどでつくる上川ライスターミナル(鷹栖町)に、刈り取ったばかりのモミを満載したトラックが続々とやってきた。 20 日ごろまで、計 1 万トンが運び込まれた。 施設の佐藤直樹常務は「天気に恵まれ高温だったため、出来はよさそう。 たんぱく含有量も低そうで、おいしいものが期待できる。」と話す。

在庫は例年の 3 倍以上

ただ、各地の倉庫にはすでに多くの古米の在庫がある。 ホクレンは 10 月末時点で、5 万 9 千トンの古米を繰り越し在庫として抱える見込み。 新米収穫時点の在庫としては、例年の 3倍以上という。 コロナ禍で時短営業や休業を強いられた飲食店の需要が減り、在庫が積み上がっている。 「コメ余り」を背景に、コメ生産者への対価は大きく下落しそうだ。 ホクレンは、農家への仮払金となる「概算金」を 2 年連続で引き下げた模様だ。 これが卸売価格の目安となる。

関係者によると、2021 年産のブランド米「ななつぼし」の概算金は、60 キロあたり 1 万 1 千円で前年比 2,200 円の下落。 20 年産は同 300 円下落の 1 万 3,200 円だったが、下げ幅が大きく拡大した。 関係者は「米価下落は生産意欲にかかわる。 高齢の営農者も多く、離農者が相次ぎかねない。」と心配する。 生産者も環境の変化に対応しようとしている。 千歳市幌加地区の農業、橋場正人さん (45) は 12 ヘクタール分の刈り取りを終えた。 「作柄は例年よりはいい」とし、ゆめぴりかなど約 70 トンを地元農協に出荷する。 橋場さんがコンバインで刈り取り作業していた水田の向こうには納豆の原料となる大豆、ユキシズカの畑が広がる。

道のコメ作付面積は、在庫や需要予測などに基づき、道やホクレンなどでつくる道農業再生協議会水田部会が毎年末に出す「生産の目安」で事実上決められる。 コメ需要の減少で作物の転換がここ数十年、促されてきた。 橋場さん一家も親の代で 2 ヘクタールの水田を大豆畑に変えた。 「(コメの作付面積の)水張り面積はできれば維持したいのが本音。 しかし人々が食べるものも少しずつ変化しているので、状況に応じて変わっていかないと。」と話す。

「マツコさん」起用の企画がヒット

道産米の需要を開拓する試みも始まっている。 ホクレンなど関係団体は 6 - 8 月、道産米の半数超を消費する道外で、「ななつぼし」を 7% 増量して販売するキャンペーンを展開した。 マツコ・デラックスさんを起用した統一デザインで「マツコのお福分け 今だけ増量中」と袋に表示。 実質的な一斉値下げといえる異例の企画だが、これが当たった。 他産地からもシェアを奪ったとみられ、8 月末の在庫は 4 月末時点から半減の 8 万 9 千トンになった。 新米についても、10 月から同様のキャンペーンを道内外で展開する予定だ。 都道府県別の販売実績シェアで、今年(6 月末現在)は 2 年ぶりに新潟県に 1 位の座を奪われており、失地回復も目指す。

道内向けには新たなキャンペーンが検討されている。 関係者によると、20 年産の「ななつぼし」と、やはりブランド米の「ふっくりんこ」を調合した高品質ブレンド米を販売する計画があるという。 増量した上で価格も抑え、道外産のコメに対抗する。 「道内農家の努力で道内市場で 8 割のシェアを取ってきた。 スーパーの棚は死守したい。(関係者)」という。

食用米を日本酒に使う試みも動き始めている。 今年創業した七飯町の箱館醸蔵(冨原節子社長)は、酒米の代わりに「ふっくりんこ」を使った純米酒を開発中。 すでに搾りを終えており、度数の調整などを経て、10 月下旬の商品化を目指しているという。 冨原剛・同社取締役は「コロナ禍でコメもお酒も業務用の需要が落ち込んでいる。 ふっくりんこの知名度を生かしつつ、道南の農家の応援もしたいと思った。」と語る。 杜氏(とうじ)の東谷浩樹さん (53) は「食用米は酒造好適米よりも硬いため、炊きあがった米にこうじを念入りになじませるなど工夫した」という。

JA 新はこだての三浦治・米穀畑作課長は「業務用需要の低迷で、どの銘柄米も卸し先で滞留している。 店頭での試食キャンペーンも難しいなか、箱館酒蔵の取り組みは消費者への話題性もあり、ありがたい。」と歓迎する。 (佐藤亜季、戸田拓、三木一哉、松尾一郎、asahi = 9-25-21)

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コシヒカリ引き取り価格 27% 安 農家は「まじでつぶす気?」 栃木

JA 全農とちぎは、2021 年産の県産米を県内の JA から引き取る価格(概算金)を決めた。 コシヒカリ(1 等)は 60 キロ当たり 9 千円となり、前年産に比べて 27% (3,400 円)下落した。 コロナ禍で業務用米の需要が低迷した。 栃木県は業務用の出荷が多く、大きく影響を受けた。 農家からも悲鳴が上がっている。 農家はコメ販売を委託した各農協から、出荷時に前払い金として概算金を受け取る。

コシヒカリが 1 万円を下回ったのは、過剰作付けで値崩れした 14 年産の 8 千円以来。 27% の下げ幅もここ 10 年では 14 年産の 32% に次ぐ高さになった。 他の銘柄も大きく下落した。 JA が積極的に売り出す「とちぎの星」は 41% も下落した。 「あさひの夢」も 40% 下落し、両銘柄とも 7 千円となった。 「なすひかり」は 32% 減の 8 千円。 全農とちぎが取り扱う主食用米は、7 - 8 割が外食産業やコンビニ向けの業務用として出荷されている。 コロナ禍により業務用米の需要の落ち込みは深刻で、県産米の在庫は 21 年 6 月末で 11 万 5 千トン。 全国有数の多さになっている。

全農とちぎの吉田浩之・米麦総合課長は「コロナまで業務用は安定して出荷できていた」と説明する。 関西や九州地域は自県の消費が多く、新潟や北陸地域は関西方面への出荷が多くて下落幅は緩やか。 一方、業務用の出荷が多い栃木など関東、東北地域では下げ幅が大きくなる自治体が目立つという。 とちぎの星は 19 年の「大嘗祭(だいじょうさい)」で使われた純県産のブランド米。 大嘗祭で注目され、作付面積を増やしてきた。 その矢先のコロナ禍でダメージを受けた。 吉田課長は「コロナ禍がいつ収束するか見通せないことも下落の一因だ。 米の消費を一層喚起したい。」と話した。 22 年産では主食用米から飼料用米などに作付け転換を進め、需給均衡をめざす方針という。(中野渉)

「悲しいくらい良いお米なのに …」 「まじでつぶす気?」

大田原市花園の米農家西岡智子さん (45) は驚きを隠せない。 兼業農家なので生計は立てられるが、設備投資は先送りにせざるを得ないかもしれない。 この春、計 11 ヘクタールの水田にコシヒカリ、とちぎの星、ゆうだい 21、酒米の苗を植えた。 近くコシヒカリの刈り取りを迎える。 「稲刈りしながら来年の種もみの申し込みをワクワクしながら考える楽しい時期だったのに。 生産調整(減反)を達成しているので、価格が下がると余計に苦しい。 何のためにやっているのかわからなくなる。」 収量は増えそうだ。 「悲しいくらい良いお米ができました」と苦笑した。 「暑すぎず寒すぎず極端な気温差にならなかったので、お米もきれいで、ものすごくおいしいと思います。」

大田原市荻野目の専業農家水口博さんは、無農薬栽培の米作りを続け、JA は通さない。 自ら開拓した販路は家庭向けが多い。 コロナ禍でも売り上げは落ちていない。 とはいえ、今回の下落は他人事ではない。 「県内のコメ農家に元気がなくなってしまう。 ここまで下落すると新しい機械を買う余力は持てないでしょう。 担い手が確保できなくなるのでは。 自給率を上げるためにも、もっと消費量を増やしてほしい。」 (小野智美、asahi = 9-3-21)


佐渡航路、停止の危機 「来春以降、運営困難」社長が異例の言及

新型コロナ禍による利用減が重なって経営難に陥っている佐渡汽船(佐渡市)の尾崎弘明社長は 28 日、佐渡市議会の全員協議会に出席し、「債務超過が解消されないと来年 4 月以降、佐渡航路の運営が困難になる」との見方を明らかにした。 公共交通機関のトップが運航停止に言及するのは異例だ。 同社によると、佐渡航路の輸送量は、新型コロナ禍前の 2019 年と比べて、5 月は 37%、8 月も 41% にとどまった。 同社は昨年末に約 9 億円の債務超過となり、県や佐渡市の支援を受けたが、新型コロナ禍の影響で、今年 6 月末の債務超過は約 27 億円に膨らんだ。

このため同社は、経営改善計画案を修正し、人件費のさらなる削減や運賃値上げ、割引の見直し、営業所の廃止、広告宣伝費の削減などを盛り込んだ。 新たな計画に基づく収支改善と、第三者出資による資本増強が経営改善に不可欠としている。 尾崎社長によると、出資は「特定の方に検討していただいている」と語った。 佐渡市は支援のために今年、佐渡汽船の第三者割当増資に応じ、約 3 億 5,800 万円を出資したばかり。 また、市議会は昨年 12 月、「佐渡航路は島民の生命線」として市、県、国に抜本的な対策を要望するとともに、同社経営陣に責任の明確化を求めていた。

尾崎社長はこの日の全員協議会で新たな経営改善計画案について初めて説明し、その中で来春以降の運航停止の可能性について再三言及した。 市議からは「公共交通事業者として責任ある立場の人が簡単にそんなことを言ってもらっては困る」との批判が噴出した。 閉会後、尾崎社長は「リスクがあることを皆さんにご理解いただくことが必要だと思った」と話した。 国土交通省によると、離島などを結ぶ生活航路の廃止には 6 カ月前の届け出が必要。 代替の交通手段などを示し、関係自治体との協議も要るという。 (古西洋、長橋亮文、asahi = 9-29-21)


加藤長官「国際社会に復興示すことに」 日本産食品の輸入停止撤廃

米政府が東京電力福島第一原発の事故後に導入した日本産食品の輸入停止措置をすべて撤廃したことについて、加藤勝信官房長官は 22 日午前の記者会見で、「東日本大震災から 10 年という節目の年に米国の規制が撤廃に至ったことは、被災地の復興を国際社会に示すことにもつながり、歓迎している」と語った。 米国の輸入停止では、福島県産のコメやキノコ・山菜類、葉物野菜や、東北・関東の原木シイタケなど、14 県産の延べ 100 品目が残っていたが、撤廃した。 加藤氏は「農林水産物食品の輸出促進にも積極的に取り組み、米国在住の多くの方に安全で高品質な日本産の農林水産食品をぜひ楽しんで頂きたい」と話した。

日本産食品に対しては、欧州連合 (EU) も 20 日に日本で栽培されたキノコ類などの輸入規制を 10 月 10 日から緩和すると発表。 2011 年の原発事故後、55 の国・地域が輸入規制を導入したが、今回の米国の撤廃で、何らかの規制を続けるのは中国、香港、台湾、韓国など 14 の国・地域に減る。 加藤氏は今回の米国の撤廃について、「規制措置を継続する他の国・地域に対する働きかけを行う上でも非常に重要なものと考えている。 残された規制の撤廃に向け、政府一丸となって、粘り強く、引き続き働きかけを行っていく。」と述べた。 (asahi = 9-22-21)

関連記事 (7-9-21)


Uber Eats、全国 47 都道府県を制覇 徳島・島根・鳥取・福井でサービス開始へ

Uber Japan は 9 月 13 日、徳島県徳島市、島根県松江市、鳥取県鳥取市、福井県福井市でフードデリバリー「Uber Eats」のサービスを 9 月 28 日に始めると発表した。 これにより Uber Eats は全国 47 都道府県をカバーする。 28 日からサービスを始める 4 県は、各市の一部地域から開始。 計 200 店以上のレストランが利用できるという。 営業時間は午前 9 時から深夜 24 時まで。 一部店舗によって異なる。 Uber Eats は 16 年 9 月に東京でサービスを開始。 9 日には山形県山形市と山梨県甲府市でサービスを始めるなど、これまで 43 都道府県でサービスを展開している。 (ITmedia = 9-15-21)


落差 181 メートル、「九州最大級」の滝確認 奄美市が名前を募集

鹿児島県・奄美大島にある奄美市は、島の東海岸で九州最大級の滝を確認した、と発表した。 山中の断崖から太平洋へと注ぐ落差は 181 メートルで、「確認できる滝の中では九州一でないか」とする。 名称がないため、市はホームページで滝の映像を公開し、10 月 8 日まで名前を公募する。

滝の存在は漁師やマリンレジャー関係者などには知られていたが、海から見える部分だけで、全容が分かっていなかった。 市内在住の写真家浜田太さん (67) が昨年 5 月から数回、ドローンで全体を撮影。

その映像や情報の提供を受けた市が今年 8 月末、衛星による測量で落差をはじき出したという。 奄美大島は今夏、世界自然遺産に登録されたばかりで、浜田さんは「奄美にはまだまだ未知の世界がある」と話す。 海上からは約 100 メートル分を見ることができるが、滝近くの海岸は岩場で波が荒く、近づけないという。 (奄美通信員・神田和明、asahi = 9-12-21)


夕張リゾート、スキー場は今冬営業再開へ 昨冬経営破綻

昨年 12 月末に経営破綻した北海道夕張市のホテル・スキー場運営会社「夕張リゾート」の後継会社が、今冬にスキー場のみ再開させる方針であることがわかった。 9 日、同社の親会社の代理人弁護士が明らかにした。 日帰り客の需要が見込めると判断したという。 施設を所有する親会社「夕張リゾートホールディング (HD)」代理人の杉山真一弁護士(第二東京弁護士会)によると、同社は今年 3 月、スキー場などを運営するため、破綻した会社の後継として「夕張リゾートオペレーション(夕張市)」を設立。 その後出資者を募り、沖縄でホテルを営む観光業者や中国人経営者が代表に就任した。

同社は、今年 2 月から始まった子会社の破産手続きに一定のめどがついたことから、「マウントレースイスキー場」の今冬からの再開方針を固めた。 現在、リフトの営業許可取得や設備の補修、運営スタッフの確保など、11 月下旬からの再開をめざし、具体的な準備を進めているという。 一方、夕張 HD が所有する「ホテルマウントレースイ」など三つの宿泊施設は、老朽化が著しく改修が間に合わないため、今冬の再開は断念したという。

杉山弁護士は「オーナーはスキー場として高く評価しており、コロナが収まれば日帰り客の需要があると見込んでいる。 再開を希望する地元の意向も理解しているので、いましばらく見守っていただきたい」と話した。 一方、9 日に札幌地裁で開かれた夕張リゾートの 2 回目の債権者集会では、破産管財人から、ホテルのキャンセル料の回収などを加えた同社の財産が約 1,750 万円となったことが説明された。 これを弁済原資に、夕張市や取引先企業など約 350 人の債権者に分配される。 元従業員への未払い給料は支払い済みという。 (斎藤徹、asahi = 9-9-21)


津波被害の防波堤で波力発電開発中 目指すはエネルギーの地産地消

波の力で発電し、エネルギーを地産地消するモデルを作ろうと、岩手県釜石市で技術開発が始まっている。 東日本大震災の津波で壊れ、再建された釜石湾の防波堤が実験の舞台だ。 実用化できれば、全国の漁港や離島でも活用できると関係者は夢を膨らませる。 事業主体は、市内の海洋土木会社や電気工事会社など 4 社が出資する株式会社「マリンエナジー(泉修一社長)」。

構想では、釜石湾の湾口防波堤の上に、縦 10 メートル、横 15 メートルほどの施設を設置し、波の上下や斜めの揺れなどでダクトを通った空気の動きを利用してタービン発電機を回す。 AI (人工知能)を使って波の強さを予測、制御しながら効率よく発電機を回転させる。 年間発電量の目標は、一般家庭 83 世帯分の使用量にあたる 33 万 3 千キロワット時。小規模だが、蓄電して、漁港施設や定置網の監視など漁業や水産業に役立つ機器に「地産地消」する。 災害時は非常用電源にもなる。

環境省の二酸化炭素 (CO2) 削減に貢献する委託事業に採択された。 今年度から 2022 年度まで約 4 億円をかけ、まず 1 台を設置して技術開発と実証実験をする。 その後は 5 台に増やす構想だ。 釜石市は 15 年に国の海洋再生可能エネルギー実証フィールドに選ばれ、波力発電の海洋試験を続けてきた。 18 年度までは海に浮かせた装置で研究していたが、費用や安全性などで課題が多く、実用化できなかった。

今回のプロジェクトには、東京大学先端科学技術研究センターと一般社団法人「ブローホール波力発電機構」が参加。 両者は福井県越前町で、岩盤を掘削した「潮吹き穴」を使う波力発電の実証実験をしており、湾口防波堤の上に装置を置く方法を試すことにした。 釜石の 4 社が協力して設備の設計や安全性を確認しながら、来年 6 月には発電装置を設置し、9 カ月間運転させる予定。

25 年までに低コスト化や改良を進めて量産化をはかり、30 年には防波堤を持つ他の自治体や漁港への普及をめざす。 まとめ役をする釜石・大槌地域産業育成センターの小笠原順一・海洋エネルギー産業化コーディネーターは「津波被害をもたらした波を使って、今度は地域おこしをしたい。 小規模だが、実用化できれば海外の離島でも活用できる。」と期待している。 (東野真和、asahi = 9-7-21)


石巻の津波伝承館、評判さんざん 監修者語る「盛大な失敗」の決定打

宮城県石巻市に 6 月、国と県が整備した「みやぎ東日本大震災津波伝承館」が開館した。 震災の記憶と教訓を伝え継ぐ展示施設のはずが、映像が見づらい、他県施設に比べ見劣りするなどと、評判はさんざんだ。 展示を監修した山内宏泰さん (50) = リアス・アーク美術館長 = 自身が「盛大な失敗だ」と認める。 なぜこんなことに?

- - ガラス張りの円形の建物は、外光が注ぎ込み、中で展示をするのは不向きに思えます。

「建物をつくった国は、祈りの空間と位置づけ、式典に使うことを想定した。 建物の設計が終わったところ(2017 年度)で、県が伝承の展示をすることになり、あとづけで検討が始まった。 そこに決定的なボタンの掛け違えがあった。」

- - 山内さんはどう関わったのですか。

「県が展示設計のプロポーザルを募集し、その審査員を頼まれた。 18 年 8 月に審査で選ばれたのが、業界大手の乃村工芸社。 建物の半周分のガラス窓を可動式のスクリーンで覆い、そこに映写するなどの提案で、私も評価していた。」 「ところが県が国(所管する国土交通省・東北国営公園事務所)に乃村の案を示したところ、窓をふさぐのはダメだといわれた。 ほかにも条件があり、案を一からつくりなおすことに。 県の依頼で 19 年 11 月、展示制作の監修アドバイザーを引き受けた。」

- - 国側はどんな条件を出してきたのですか。

「乃村は窓に代わり、中央部の横長の壁を映像に使うことを考えた。 だが壁にモニターを埋め込むのも、映写が見えやすい高反射率の塗料を塗るのもダメ。」 「展示物を置くのも、高さ 115 センチまでと制限された。 外にある献花台や日和山を見通せるよう、視線確保のためだ、と。人の視線の高さ 140センチを中心に展示するのが、博物館の常識なんだが …。」 「展示を想定していなかった建物を展示空間に変えるための工夫が、却下される繰り返し。 誰のための、何のための施設なのか。」

「決定的なのは、展示内容が固まったところで、国交省東北地方整備局が、役所の震災時の対応などについて展示させてほしいと、県に言ってきたこと。 『いい加減にしてくれ』と思った。 いずれ伝承団体の企画展示にも使えると考えていたミーティングスペース(19 平方メートル)を、明け渡すことになった。」

- - 相当腹にすえかねている様子です。

「これまでも似た例はある。 好景気の頃、『○○ミュージアム』などと呼ばれる箱物が各地にできた。 行政がビジョンもないまま予算をつぎこみ、業者が電気仕掛けなどでつくりこんだ展示をつくり、結果、何のためかわからない、維持費だけが高くつく施設がたくさんある。」 「大災害の被災地でも復興予算がつくため、同じことが繰り返されている。」

- - せっかくできた伝承館。 これからどうすればいいですか。

「石巻は最大の被災地なのに、住民の声を十分聞かずに計画が進められた。 地域の住民が足を運び、こんな展示でいいかどうか、考えてほしい。」 )聞き手 = 編集委員・石橋英昭、asahi = 9-6-21)

みやぎ東日本大震災津波伝承館〉 石巻南浜津波復興祈念公園内にあり、1,520 平方メートルの建物のうち展示面積 765 平方メートル。 建物に 10 億円、展示に 3.5 億円をかけた。 岩手県の同種施設(陸前高田市)や福島県施設(双葉町)に比べ規模は小さい。

失われた街の記憶や津波の教訓を伝えるシアター、パネル展示、被災者や語り部の証言映像などがある。 県復興支援・伝承課は「国が整備した施設で、国のコンセプトの制約の下でできるものをつくった」としている。 この伝承館とは別に、国として震災ミュージアムをつくってほしいと要望を続けているという。