今月卒業なのに … 内定ゼロ コロナで「売り手市場」一変

新型コロナウイルスは、「売り手市場」だった雇用環境を一変させた。 就職先が決まらずに卒業する大学 4 年生。 コロナ禍で「第二新卒」としての就活を迫られる人も。 先が見通せないまま、新年度が迫る。 愛知県碧南市の大学 4 年生の男性 (21) は、卒業した 4 月以降の自分を想像できないでいる。 まだ就職先が決まっていない。 就職活動を始めたのは 3 年生の冬だった。 特に行きたい業界はなく、合同説明会でいろいろな企業を見て志望先を決めようと思っていた。 しかし、コロナ禍で説明会は軒並み中止。 オンラインに切り替わった。

就活で重視しようと思っていた一つが、会社の雰囲気だった。 しかしオンラインだと、画面の向こうは白い背景に社員 1 人だけ。 就職情報サイトで企業を検索しても、書いてある説明は似たような文言ばかりで違いがわからなかった。 約 20 社エントリーしたが、いずれも内定は出なかった。 昨年暮れごろから、2021 年 3 月卒の求人が減っているのが目に見えてわかり、焦りが募った。 親からは「アルバイトでも生きていけるから」と言われた。 「コロナで仕事がなくなった人に比べれば、自分は何も失っていないから …。 文句を言ってちゃダメかなって思います。」 卒業後は、アルバイトをしながら就活を続けるつもりだ。

コロナ禍で、転職を迫られている人もいる。 同県大府市の女性 (24) は、昨秋、8 カ月働いた東京の IT 系ベンチャー企業を辞めた。 昨年 1 月に、広報担当として入社した。 すぐに、メイン事業の一つだった中国企業との取引がコロナの影響でストップ。 勤め先からはプログラマーへの転向を勧められたが、経験がないため、給料はいったん 7 万 - 8 万円も下がり、いつ給料が上がるのかもわからなかった。 これでは東京で暮らせないと、退社。 実家に戻り、失業給付を受けながら次の仕事を探している。

企画や広報の仕事に関わってきた経験を生かしたいが、そうした求人は現状、少ない。 求人の多い建設業やシステムエンジニアなどの職種は、経験がなくて不安だ。 あわてて選んで、また転職せざるをえなくなる事態は何より避けたい。 「今まで重視していなかったけれど、今度はつぶれない、体力のある会社がいい。」 無事に転職できるのか、不安でたまらない。

内定率、前々年から 4.5 ポイント減

愛知県によると、この春に卒業を予定している県内の大学生と短大生の就職内定率(1 月末現在)は 85,8%。 同時点で比較できる 2019 年 1 月末より、4.5 ポイント低かった。 県内の大学 51 校、短大 19 校のうち計 65 校が答えた。 例年 10 月 - 3 月に毎月調査しているが、昨年度は 11 月 - 2 月は調べていない。 岐阜労働局によると、岐阜県では 1 月末時点の就職内定率は 83.5% で、前年同期より 3.4 ポイント低い。 三重県や三重労働局は最近の数字を公表していない。 新卒者以外の雇用状況も厳しい。 各労働局によると、1 月の正社員の有効求人倍率は、岐阜県は 1.15 倍だが、愛知県(0.94 倍)と三重県(0.89 倍)では 1 を下回った。

厚生労働省が、新卒者支援のために設ける「愛知新卒応援ハローワーク」の鈴木裕理枝所長によると、今年度の就活生は、コロナの影響でオンライン授業になり、友人と情報を交換できる機会が減った。 大学などの就職相談もオンライン化。 オンラインへの対応の得手不得手で、内定状況が二極化しているという。 コロナ禍で、同じ年代であれば、既卒の経験者が求められる傾向もあるという。

愛知県などは、昨年 12 月 - 今年 3 月に大学 4 年生を対象とした就職面接会を複数回実施。 12 月の面接会には 119 人が参加した。 同ハローワークの担当者は「すでに 3 年生向けのイベントに移行する時期に、4 年生向けの面接会はかなり珍しい。 就職先が決まっていない 4 年生は前年の倍はいると感じる。」と話した。 (山本知佳、asahi = 3-6-21)


ジョブ型雇用を機能させるには 堀田陽平氏(日比谷タックス & ロー弁護士法人・弁護士)

春闘も始まり、ますます光が当たるジョブ型雇用。 しかし日本の社会システムには「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる日本型雇用を前提として構築されたものが多く存在する。 ジョブ型雇用への転換を図る場合は、それによって失われるもの、変わっていくものに留意しながら進める必要がある。 たとえば雇用保障。 ジョブ型雇用では職務が労働契約で限定されるため、企業は広くジョブローテーションをする権利を持たない。 その代わりジョブローテーションで解雇をできるだけ回避するという企業側の義務が軽減され、雇用保障は弱まると考えられている。

ただしジョブ型の従業員は専門的なスキルを持ち、賃金も仕事に応じて決まることから、転職によって賃金が低下することはなく、「労働市場全体での雇用保障」が図られる「はず」ということになる。つまり、いま以上に労働市場を機能させることが重要となる。 労使交渉も変わるだろう。 ジョブ型雇用では「仕事」に賃金がつくことになる。 今のように企業別の組合が賃金交渉を行うのではなく、産業別の組合が交渉の主体になってくることが想定される。

メンバーシップ型雇用のもとでは、企業から従業員に対して生活給的な意味合いをもつ様々な手当も支給されていた。住宅手当、家族手当などは仕事との関連性が低く「メンバーシップ」であったからこそ合理性があったといえる。 ジョブ型で雇用の流動性が高まっていくと、企業は手当を支給する合理性が失われる。 これらの手当は従業員の生活に大きく寄与しているので、なくす場合は公的な給付も検討する必要があるだろう。

メンバーシップ型雇用では従業員が長期間その会社で働くので、企業が人的投資をすることに合理性がある。 ジョブ型雇用が進むと、こうした人的投資は誰が行うのかという問題も発生する。 それは企業、本人、あるいは大学や国になるのかもしれない。 ジョブ型雇用は多様な人材の雇用機会を創出する可能性があり、肯定的にとらえるべきだ。 ただ「失われるもの」の補填も併せ社会システム全体を考えなければ、長期的には日本全体の競争力が低下してしまう可能性もあるのではないだろうか。 (nikkei = 2-26-21)


NTT と KDDI、氷河期世代ら 300 人超の雇用創出へ

NTT と KDDI は 16 日、バブル崩壊後の就職難に苦しんだ「就職氷河期世代」を中心に 130 人超の正社員を新たに雇用すると発表した。 他企業での就職も支援し、合わせて 300 人超とする計画。 同日から 3 月末まで募集する。 各地の自治体などで氷河期世代を採用する動きはあるが、数人程度に限られることが多かった。 民間企業で大規模な採用は珍しいとみられる。 高校や大学などを卒業した 50 歳未満の人が対象だ。

両社はまず、応募者全員に対して、IT の基礎知識や在宅勤務で必要な会議ソフトの使い方などを学べるオンライン研修を提供する。 1 万人程度を想定しているという。 その後、エントリーシートなどで適性を見て 500 - 600 人を選抜。 受講者は ICT (情報通信技術)関連の資格取得をめざし、約 2 カ月、週 3 - 4 日のオンライン研修に参加する。 資格取得の受験費用も含め、無料という。 二つの研修を受けた人のうち希望者に対し、キャリア面談を実施。 今夏から就職活動を始め、来年 3 月までに 300 人超の就業をめざす。 NTT グループで約 100 人、KDDI グループで約 30 人採用する。 職種はシステムエンジニアや営業など幅広く検討するという。 また、残りの約 170 人は他社での就職をあっせんする。

同日、記者会見した NTT の島田明副社長は「ICT 産業で働きたかったが、かなわなかった人たちに機会を与えたい。」 KDDI の村本伸一副社長は「社会全体のデジタル化が進むなか、ICT 人材のニーズが高まっている」と話した。 この取り組みは、両社の社会貢献事業の一環。 第 1 弾では、災害時に早期復旧のため、両社が持つ船舶を融通することを発表していた。 申し込みは、専用サイト と電話 (0120・514・366) で受け付ける。 (井上亮、asahi = 2-26-21)


持続化給付金締め切り 不正受給容疑などで 509 人摘発

コロナ禍の中小企業支援策の持続化給付金をめぐり、不正受給などの疑いで警察に摘発された人が全国で 509 人、被害総額は約 4 億円に上っている。 自主的な返還も増えていて 9,924件、約 106 億円となっており、不適切な受け取りが広がっていたことを示している。 給付金の受け付けは 15 日に締め切られているが、捜査は続いており、今後も摘発事例が出てきそうだ。 経済産業省は、ホームページなどを通じて返還を促している。

警察庁によると、不正受給などの容疑で 44 都道府県警が 10 日までに 509 人を逮捕、または書類送検した。 事業をしていないのに書類を偽造するなどして申請するケースがめだった。 大学生らを誘って、組織的にだまし取ったものもあった。 捜査幹部は「不正が疑われる案件は依然として多数あり、引き続き捜査していく」としている。 経産省は、不適切な申請をした人に自主的な返還を呼びかけ、早期に返せば加算金などを科さないと昨年 10 月に発表した。 摘発が報じられたこともあり、返還する人も相次いでいる。

梶山弘志経産相は 16 日の会見で、必要な方に早く給付するため、手続きを簡素化し性善説に基づいて対応してきたと主張した。 「制度を悪用した不正受給が多数生じていることは極めて遺憾である。 裏に指南役がいるなど組織だったものも多く見られ、警察とも連携しながら厳正に対処してまいりたい。」としている。 経産省によると、昨年 5 月の受け付け開始から今月 25 日までに、約 441 万件の申請があった。給付実績は約 421 万件、約 5.5 兆円となっている。

手続き業務は民間委託されており、受け付けを締め切ってからも、申請者への対応はしばらく続ける。 オンライン申請をサポートする会場を全国に置いているが、2 月下旬に一部を残して閉じるという。 問い合わせはコールセンター (0120・279・292) まで。 持続化給付金は、コロナ禍で売り上げが減った中小企業などに最大 200 万円を支払うものだ。 手続き業務は当初、一般社団法人サービスデザイン推進協議会に委託され、事業の大半が広告大手電通に再委託されていた。 批判を受けて、昨年 9 月からは委託先が大手コンサルティング会社「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー」に変わった。

また、中小企業などに最大 600 万円を給付する家賃支援給付金も、今月 15 日に受け付けを締め切った。 経産省によると昨年 7 月の受け付け開始から 15 日までに約 108 万件の申請があった。 約 98 万件、約 8,500 億円を支払ったという。 問い合わせはコールセンター (0120・653・930)。 (新宅あゆみ、田内康介、asahi =2-16-21)


リモートが揺さぶる長期雇用 消える 3 つの「無限定」

長期の雇用保障と引き換えに、転勤命令に従い長時間の残業も受け入れる。 そうした日本の正社員の雇用慣行に、新型コロナウイルス禍で広がるリモートワークが風穴を開け始めた。 たとえば遠く離れた地域の仕事もネットを介してこなせば、転勤は不要になる。 気になるのは会社命令に従う代わりに正社員が享受してきた雇用保障の行方だ。

日本の雇用システムは職務を定めない雇用契約を土台に形づくられている。 雇用契約は会社という組織の一員になる資格を得る意味があり、そのため日本型雇用はメンバーシップ(資格)型と呼ばれる。 職務が限定されず、受け持つ仕事の範囲が不明確なことは、さらに 2 つの正社員の特徴を生んだ。 ひとつは仕事量が増えがちで、慢性的な長時間労働に陥りやすいこと。 働く時間も限定されないわけだ。 もう一つは配置転換に柔軟に従う必要があり、本意でない転勤命令にも応じなければならないことだ。 つまり働く場所も限定されず、どこに赴任することになるか分からない。 日本の正社員の雇用はこうした 3 つの「無限定」の慣行から成ってきた。

リモートワークで急速に崩れるとみられるのがまず、勤務地が会社都合で決まり、本人の自由度が乏しい慣行だ。 富士通は本人が望まない単身赴任を解消する制度を始めた。 社員に「遠隔勤務」を認め、親の介護など家族の事情で居住地を変えるのが難しい場合、転居せずに遠方からのリモートワークで業務をこなせるようにした。 奈良県や福岡県に住みながら東京の本社の仕事をする社員もいる。 地理的な距離を取り払うネットの力のおかげだ。

離れた 2 つのオフィス空間をつなぎ、双方の社員が協力して仕事を進められるようにして、転勤を不要にするリモート技術も登場した。 内装会社のフロンティアコンサルティング(東京・中央)は、東京本社と大阪支店を常時接続し、互いに相手方の等身大の映像を映し出すシステムを導入した。 会議や打ち合わせに活用している。 ベンチャー企業の tonari (東京・渋谷)が開発したシステムで、画面の中央に高解像度の微少なカメラを埋め込んで自然と目線が合うようにし、相手が隣にいるような感覚で臨場感のあるコミュニケーションがとれる。 「分散する事業拠点を、あたかもひとつの空間のように運営できる」とフロンティアコンサルティングの稲田晋司執行役員は話す。 技術の進歩が在宅勤務に限らない「リモートワーク」を広げている。

転勤をめぐっては東亜ペイント(現トウペ)訴訟で 1986 年に最高裁が出した判決が知られる。 転勤を拒否して解雇された元社員がその無効と損害賠償を求めた。 単身赴任を強いられるこのケースで最高裁は、家庭生活への影響は「通常甘受すべき程度のもの」とみなし、転勤命令が会社の権利乱用には当たらないとした。 雇用保障があるのだから単身赴任は我慢すべきだという考え方だ。 この判決は会社の転勤命令は原則拒否できないという暗黙のルールのよりどころとなった。 だがリモートワークの普及で転勤自体が不要になっていけば、判決の重要性は薄れる。

正社員の働き方の根っこにある「職務が無限定」の慣行も、リモートワークが見直しを迫る。 離れた場所で働く社員を的確に評価するには、受け持ってもらう仕事の内容を明確にし、可視化することが第一歩になるからだ。 経団連が 1 月に発表した人事・労務分野の調査によると、テレワークが広がるなかでは職務の明確化が求められると考える会員企業が目立った。 「従業員個人の職務内容・範囲の明確化」を実施済み、実施予定の企業は合わせて 30.3%。 検討中とした企業も 33.6% あった。

人材の活性化策として、ポジションごとに使命、役割や具体的な仕事内容を明確にする「ジョブ型」人事制度も産業界に広がり始めている。 テレワークとの親和性が高いとする経営者が多い。 職務を曖昧にし、正社員を便利な労働力と位置づけてきた日本的慣行は確実に崩れる方向にある。 「職務が無限定」の見直しが進めば長時間労働もおのずと是正に向かう。 政府の働き方改革では時間外労働への罰則付き上限規制が設けられた。 長時間労働の是正に一定の成果を上げているが、職務が不明確という根っこの原因が除かれる効果は大きい。

「無限定」な働き方が見直されれば、その見返りに正社員が得てきた長期的な雇用保障は緩み始めておかしくない。 現に、職務を曖昧にする慣行が崩れていけば様々な変化が起きると指摘されている。 「社員が携わる業務の可視化が進めば、正社員にまかせず外部委託で足りる仕事があることも見えてくる。 リモートワークは正社員の人数を絞るきっかけになるのではないか。」 経済学者の間にはそんな見方がある。 経団連は 2021 年春季労使交渉の企業向け指針である「経営労働政策特別委員会報告」で、ジョブ型雇用が企業に浸透すれば転職の橋渡しをする外部(企業外)労働市場の発達が期待できるとした。 プロジェクトごとに専門性を備えた人材を期限付きで雇用するなど、人材の流動化が今後の方向性との認識だ。

労働組合の中央組織である連合はジョブ型について、「人工知能 (AI) 分野など高度専門人材の採用ではあり得る」としながらも、「技能育成を誰が担うのかなど、職場における課題の深掘りも必要」としている。 テレワークの急速な広がりを背景に経団連が普及に積極的なジョブ型に対し、警戒感は強い。 それだけ長期雇用の慣行への逆風を感じ取っているのではないか。 (編集委員・水野裕司、nikkei = 2-15-21)


昨年の平均求人倍率は 1.18 倍 45 年ぶりの大幅下落

厚生労働省が 29 日発表した 2020 年の年平均の有効求人倍率は 1.18 倍で、前年より 0.42 ポイント低下した。 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、オイルショック後で雇用が不安定だった 1975 年(前年比 0.59 ポイント低下)以来、45 年ぶりの下落幅だった。

求人倍率は、求職者 1 人あたり求人が何件あるかを示す。 昨年 12 月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月と同じ 1.06 倍だった。 ただ、企業の雇用意欲を示すとされる新規求人は 11 月より減り、前年同月より 18.6% 少ない水準。 産業別では、宿泊・飲食サービス業が同 31.4% 減、生活関連サービス・娯楽業が同 30.8% 減だった。 総務省が 29 日発表した昨年 12 月の完全失業率(季節調整値)は 2.9% で、前月と同じだった。 完全失業者数は、前月より 6 万人増の 204 万人だった。 (asahi = 1-29-21)


トヨタ労組、ベア有無など非公表 春闘要求を総額のみに

トヨタ自動車労働組合(組合員約 7 万人)は 25 日、2021 年春闘の要求の執行部案を固めた。 今回から、賃上げの要求総額のみを公表し、基本給を底上げするベースアップ(ベア)や定期昇給(定昇)、手当などが含まれるかどうかは公表しない。 ベアを重視してきた春闘からの脱却が一段と鮮明になる。 賃上げ要求の総額は「組合員 1 人平均月 9,200 円」。 ベアと定昇、手当などを含んだ昨年の要求額 1 万 100 円より 900 円少ない。「ベアゼロ」となった昨年の妥結額 8,600 円より 600 円高い。 いずれも単純比較できないが、ベアを含んでいた例年の要求額に比べると、若干低い水準となる。

年間一時金(ボーナス)は 20 年実績より 0.5 カ月分低い基準内賃金の 6.0 カ月分を求める。 要求案は 26 日に組合員に示し、2 月 10 日に正式決定する予定。 トヨタ労組執行部は組合員に対しても、ベア、定昇、手当などが含まれるかどうかは提示しない方針。 トヨタは 18 年春闘から経営側が具体的なベア額を非公表にし、19 年からは労組がベアの要求額も公表していない。 (千葉卓朗、asahi = 1-25-21)

トヨタの賃金をめぐる最近の主な動き
2018年会社側がベースアップ(ベア)の額を非開示
19年労組側がベア要求額を非開示
経営側が冬のボーナス額の回答を秋に持ち越し
20年経営側が7年ぶりのベアゼロを回答(3月)
労組側が一律定昇廃止の新制度受け入れ(9月)


丸紅、新卒総合職の半数女性に 「男社会」脱却へ大幅増

大手総合商社の丸紅は、2024 年までに新卒で採用する総合職の半数近くを女性にする。 女性の総合職は例年 2 - 3 割にとどまっており、「環境変化に柔軟に対応するには、同質的な集団からの脱却が必要不可欠だ(柿木真澄社長)」として大幅に増やす。 大手総合商社は総じて新卒総合職に占める女性の割合が 2 - 3 割と少なく、半数近くへの大幅増は、きわめて異例とみられる。

丸紅は総合職(約 3,300 人)のうち、女性が約 1 割で、管理職に占める女性は 6.4% となっている。 今春入社の総合職は女性の割合が過去最高の3割に達したが、いまの比率で採用を続けると、20 年後も男性がほぼ 8 割で、現状とほぼ同じ状態と試算。 「(経営目標の一つとして)社会課題を先取りして解決することを掲げていながら、男性 8 割の会社が十分に応えていけるのか(人事部)」という問題意識がある。

そのため、例年 100 - 110 人を採用している新卒総合職について、3 年以内に女性を 40 - 50% とする。 今夏には転勤の伴わない総合職のコースを新設するほか、入社後の業務や部署を明示した上で、各部署が主体的に選考する通年採用も始めており、採用のあり方も多様化させている。 一般的に、大手総合商社は給与水準が高く、海外駐在の機会も多いため、学生の人気企業ランキングの上位に何社も名を連ねている。 その一方、総合職は「典型的な男社会」と言われてきた。 激務で、勤務環境の厳しい土地で働くことも珍しくないためだ。 新卒総合職のうち、女性の採用割合は 2 - 3 割が「相場」とされており、敬遠する女子学生も少なくないという。 (橋田正城、asahi = 1-24-21)


トヨタグループ、三菱重工などの人員数百人受け入れ

トヨタ自動車グループのトヨタ車体が三菱重工業の人員を出向の形で 2 月から受け入れることが 23 日分かった。 すでに川崎重工業などが人員を送っており、受け入れ規模は数百人に上る。 重工メーカーは航空部品の需要低迷で余剰人員を抱える一方自動車メーカーは増産が続く。 業種の垣根をこえて人を融通しあう動きが国内を代表する製造業にも広がってきた。 新型コロナにともなう航空機需要の落ち込みで重工メーカーでは工場の稼働が低下している。 米ボーイング向けの航空部品の受注減に加え、三菱重工グループが手掛ける国産ジェット旅客機「スペースジェット」の事業化凍結も響く。 一方でトヨタは 2020 年春を底に生産が回復している。 中国などで販売が好調で土曜日も稼働するなどして需要の急回復に対応している状態だ。

三菱重工は複数社に社員の一時的な受け入れを打診しており、トヨタもグループを通じて応じた。 トヨタ車体は多目的スポーツ車 (SUV) 「ランドクルーザー」の生産が好調で、愛知県や三重県の工場で人手が足りていない。 エアバッグなどを手掛ける豊田合成も受け入れを検討している。 新型コロナの問題が大きくなって以降、トヨタが他社の人員を受け入れるのは初めて。 過去には 2010 年代に電機業界からの出向者を引き受けたことがある。 長引くコロナ禍で余剰人員を抱える企業が増える一方、人手不足に悩む企業も出ている。 雇用のミスマッチの解消策として、ノジマはこのほど全日本空輸 (ANA) や日本航空 (JAL) から 300 人を受け入れた。 (nikkei = 1-23-21)


雇用調整金、3 月末まで延長へ 住居確保給付金も再支給

菅義偉首相は 22 日夕、新型コロナウイルス対応で拡充した雇用調整助成金(雇調金)の特例措置について、現行の助成率や 1 日あたりの上限額を維持したまま、3 月末まで延長する方針を表明した。 また、生活苦で住まいを失う恐れのある人の家賃を支援する「住居確保給付金」を再支給することも明らかにした。 首相官邸で開いた政府の対策本部で言及した。 雇調金の特例措置は 2 月末を期限とし、3 月以降は段階的に縮小する方針だった。 緊急事態宣言が再び出されたことを受けて、雇用悪化を防ぐ措置を現行のまま続ける必要があると判断した。

雇調金は、企業が働き手を休業させた場合に払う休業手当の費用を支援する制度。 新型コロナ対応の特例では、助成率を中小企業なら 100%、大企業も緊急事態宣言の対象地域で、営業時間の短縮に応じた飲食店などは、最大 100% に引き上げている。 (asahi = 1-22-21)


記述なしでも「時間足りない」 共通テスト何が変わった

17 日に第 1 日程が終わった大学入学共通テストは、多くの科目で、身近な話題を題材にしたり会話文を盛り込んだりする新しい傾向の問題が目立った。 一方で、2017、18 年の試行調査で指摘された出題方法などの問題点を修正した科目もみられた。 文部科学省は今回のテスト結果も参考にして、24 年度以降の入試制度改革にとりかかる。

100 メートル走のタイムが最も良くなるストライド(1 歩の長さ)とピッチ(1 秒あたりの歩数)を、2次関数を用いて考える。

これは「数学T」、「数学T・数学A」の問題だ。 ほかにも高校生の読書に関する新聞記事を扱った「数学U」、「数学U・数学B」や、生徒が光合成の実験を行う計画を取り上げた「生物」など、2 日目も受験生に身近な出題が目立った。 こうした問題が増えた背景には、2022 年度から高校で導入が始まる新学習指導要領がある。 学んだことを日常生活で生かすため、資料を読み、調べ、話し合い、課題を解決する - -。 新指導要領は、そんな「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を各教科に採り入れ、「思考力・判断力・表現力」を育成するように高校に求めるからだ。

こうした力を測るため、17 年に国語・数学への記述式問題の導入と、英語の「読む・聞く・話す・書く」の 4 技能を測る民間試験の活用が決まったが、いずれも 19 年に見送られた。 だが、従来からのマークシート式問題も出題の内容や方法などが見直された。 一方、17、18 年に実施された共通テストの試行調査の結果を受けて、今回、一部の科目で出題方法などが修正された。 数学の 2 科目では、試行調査で多く見られた「太郎さんと花子さん」の会話文は減った。 2 回目の試行調査で平均正答率がどちらも 5 割を切り、記述式問題を含んでいた「数学T・A」を中心に、「時間が足りない」との指摘が相次いだためだ。 それでも今回、問題文の情報量はセンター試験より増えた。 大手予備校は、難易度に大きな変化はなかったとみている。

記述式問題はなくなったものの、「数学T・A」の試験時間は当初の予定通り、センター試験よりも 10 分長い 70 分が維持された。 新傾向の問題は考える時間が必要だと考えられたためだ。 それでも大阪市立の高校 3 年の男子生徒 (17) は、問題文が長いと思った。 化学も「問題文が長く、読んで理解するのに時間がかかり、解答時間が足りなかった」と振り返る。 「理系でも、問題文を読解する国語力が求められていると感じた」と話した。(編集委員・増谷文生、花房吾早子)

どうなる記述式

そもそも、共通テストの「二枚看板」は、記述式問題と英語民間試験だった。 だが、ともに活用は見送られ、仕切り直しの議論をしている間に初回を迎えることになった。 一昨年末に記述式問題の導入を見送った文科省は昨年 1 月、新たな入試制度を検討する有識者会議「大学入試のあり方に関する検討会議」を立ち上げた。 会議には、入試専門家や教育学者、大学・高校の各団体代表らが参加。 高校 3 年間を新指導要領で学ぶ、今の中学 2 年生が大学受験を迎える 24 年度以降の入試制度について、すでに 20 回にわたり議論してきた。 今回のテスト結果も参考にして年度内にも文科省への提言をまとめる予定だ。

会議では、共通テストでの記述式問題や英語民間試験の活用には否定的な意見が目立つ。 昨秋報告された文科省の調査結果でも、大学の 8 割超が共通テストに記述式問題を出すべきではないと答え、大学の 8 割弱が英語 4 技能は入学後に独自に評価すべきだと考えていた。 会議関係者は「大きな混乱を招く恐れがあった改革を『やっぱりやる』と言うには根拠がなさすぎる。 各大学が個別に工夫して評価する方が現実的だ。」と話す。

24 年度以降の共通テストは、新学習指導要領で必修となる「情報」が新設されるなど出題科目が再編される見通しだ。 さらに、家庭の経済環境や障害の有無にかかわらず安心して受験できる配慮のあり方や、入試のデジタル化なども議論されている。 文科省は会議の提言を踏まえ、今夏までには制度改革の内容を公表することになっている。 (伊藤和行、西村悠輔、asahi = 1-17-21)


希望退職募った上場企業、昨年 91 社 前年から 2.6 倍

コロナ禍が深刻になるなか、企業の人減らしが広がっている。 東京商工リサーチによると、昨年 1 年間に希望退職を募った上場企業は 91 社で、19 年の 2.6 倍だった。 今年の実施を公表したところも 14 日時点ですでに 20 社ある。 緊急事態宣言による経済への打撃もあって、今後もハイペースで募集が続きそうだ。 昨年の募集企業数は、リーマン・ショック後の 2009 年に記録した 191 社以来の多さだった。 募集者数(非公表の企業は応募者数)の合計は判明分だけで 1 万 8 千人を超えた 。これも 09 年の約 2 万 3 千人以来の規模だ。 業種別ではアパレルの 18 社が最多で、自動車関連が 11 社、電気機器が 10 社だった。 外食も 7 社、旅行などサービス業も 6 社あり、幅広い業種にコロナ禍の影響が広がっている。

紳士服大手の青山商事は、在宅勤務によるスーツの需要減もあって業績が落ちこむ。 20 年 9 月中間決算の売上高は前年同期比 40.1% 減の 610 億円で、純損益は 169 億円の赤字だった。 昨年 12 月から 40 歳以上の社員らを対象に 400 人ほどの希望退職を募集中だ。 国内全店舗の 2 割にあたる約 160 店も閉める方向だ。 旅行大手の KNT-CT ホールディングスは、傘下の近畿日本ツーリストを中心に今月 4 日から募集を始めた。 店舗網を縮小し、24 年度末までに出向や定年退職なども含めてグループの全社員の 3 分の 1 を減らす。 今後はオンラインでの事業に力を入れるという。

東京商工リサーチが集計しているのは、上場企業の公表分だけだ。 非公表のものや非上場企業の分も含めれば、希望退職の実施数はもっと多くなる。 ソニーの設計子会社に勤める 50 代男性は今月 13 日に会見し、昨秋から希望退職への応募を上司に促されていると明かした。 ソニーは取材に一部のグループ企業での募集を認めたものの、「人事施策の詳細は控えたい(広報)」としている。 非上場企業では、JTB はグループの社員数を 21 年度までに 19 年度比で 2 割強(約 6,500 人)減らす方針だ。 希望退職に加えて、22 年春の新卒採用の見送りなども実施する。 上場企業による募集は、19 年も前年の 3 倍ほどの 35 社に増えていた。 景気の不透明感から企業が経営の効率化を進めていたところに、20 年はコロナ禍が重なった。

政府は「雇用調整助成金」の拡充など企業の支援策をアピールしているが、コロナ禍は収束のめどが立っていない。 当面は業績の回復が見通せなくなった企業は、雇用の削減へとかじを切り始めている。 東京商工リサーチの二木章吉氏は、今年は年初で早くも 20 社の募集が判明していることについて、「異例の多さだ」と指摘する。 「緊急事態宣言の影響はこれからで、さらに増えていくのは確実だ」とみる。 希望退職は、退職金の上乗せなどの優遇策を用意して募ることが多い。 人減らしの手法として定着しているが、応じるかどうかを決める権利は社員にある。 退職の意思はないと示した社員に、上司らがしつこく応募をせまれば、違法な「退職強要」になり得る。 (内藤尚志、asahi = 1-16-21)

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希望退職 2.5 倍の 91 社 20 年 1.8 万人、アパレルが最多

新型コロナウイルスの流行をうけ、人員削減に乗り出す上場企業が増えている。 2020 年は前年比 2.5 倍の 91 社が希望退職を募集した。 個別の経営状態に基づくリストラが多かった 19 年とは異なり、幅広い業種の企業業績が悪化し人件費削減でしのごうとする動きが広がった。 退職者の再就職支援などの重要性が一層高まりそうだ。 財務省の法人企業統計によると、国内企業の 7 - 9 月期の経常利益(金融と保険除く)は前年同期と比べ 28.4% 減った。 3 四半期連続で 25% 以上の落ち込みが続いており、企業経営は厳しさを増している。 京商工リサーチによると 20 年に希望退職を募集した企業は 91 社、募集人数は 1 万 8,000 人強となった。 企業数はリーマン・ショック直後の 09 年(191 社)に次ぐ水準だ。

19 年の募集社数と人数はそれぞれ 36 社、約 1 万 1,350 人だった。 富士通や液晶パネル大手のジャパンディスプレイ (JDI) などが 1,000 人以上募集した。 20 年は 1 社あたりの人数は 200 人弱と 19 年比 4 割減ったものの、多くの企業がリストラを迫られた。 業種別で最多だったのは 18 社のアパレル・繊維だ。 外出自粛や在宅勤務の普及が逆風となった。 アパレル大手の TSI ホールディングスは約 300 人の希望退職を募っている。 21 年 2 月期の連結純利益は 5,000 万円と前期比 98% 減を見込む。 「ブランドや店舗の乱立で厳しい経営環境に新型コロナが加わった(同社)」ためで、21 年 2 月末までに不採算店を 122 店閉める。 人員も減らし、立て直しを急ぐ。

紳士服最大手の青山商事も同社として初めて希望退職を募集した。 21 年 3 月期に創業以来最大となる 292 億円の最終赤字(前期は 169 億円の赤字)となる見通し。 「新たな働き方の浸透でコロナ後も以前の需要には戻らない」とみて人員削減に踏み切る。 外出自粛が響いたのは、19 年に募集がなかった外食も同様だ。 20 年はロイヤルホールディングス (HD) など 7 社が募集した。 ロイヤル HD は 21 年末までに約 90 店を閉じる予定で、200 人の希望退職の募集に 315 人が応じた。 「コロナの影響が長引き、売り上げの早期回復が難しい(黒須康宏社長)」という。 ほかの業種では電気・精密(14 社)や自動車関連(11 社)が目立った。

東京商工リサーチによると、募集人数では日立金属とレオパレス 21 がそれぞれ 1,000 人程度と多かった。 日立金属は自動車や航空機向け部材が不振で、22 年 3 月期までに採用抑制などとあわせ、グループの 1 割にあたる 3,200人を減らす。 経営再建中のレオパレスでも 1,000 人強が応募した。 19 年の希望退職の募集企業のうち、約 6 割は業績が良好なうちに人員構成を見直す「黒字リストラ」だった。 20 年は「新型コロナによる潮目の変化に耐えきれない企業がリストラに踏み切っている。(東京商工リサーチの二木章吉氏)」

コロナ禍の収束がみえないなか、希望退職が一層広がる可能性がある。 21 年には LIXIL グループなど 18 社が合計 3,300 人以上の募集を予定する。 日本板硝子も 29 日、21 年 1 月に国内で約 400 人の希望退職を募集すると発表した。 グループで 2,000 人の削減を打ち出しており、その一環だ。

人材マッチングの重要性増す

新型コロナウイルス禍が続くなかでも、人手不足に悩む業界や企業はある。 ノジマも退職者などの受け入れに積極的だ。 今後はこうした企業と再就職を望む人とを効率的にマッチングすることが、新型コロナウイルスで傷んだ経済の再生には欠かせない。 パソナは退職者の再就職を支援する事業を手掛ける。 既に再就職希望者の約 3 倍の求人を確保。 「有能な人を採用したいという、求人票に出ない潜在需要がある(西谷誠専務執行役員)」、「中小でも業績が伸びている企業はある」という。

パーソルキャリアコンサルティングの山崎晃子東京支社長も「求人総数が激減した感覚はない」と話す。 IT (情報技術)や医療業界で引き合いが強いという。 中小企業には、大企業で当然の品質管理といったノウハウが貴重なこともある。 人材流動化には人材マッチングに加え、退職者自身が自らの職歴に基づく強みを分析してアピールすることも必要だ。 (nikkei = 12-29-20)


「杵屋」の運営会社、違法な長時間労働させた疑いで送検

大阪労働局は 12 日、従業員に違法な時間外労働をさせたとして、「杵屋」、「そじ坊」などの飲食店を全国で展開する運営会社「グルメ杵屋レストラン(大阪市住之江区)」を労働基準法違反の疑いで大阪地検に書類送検し、発表した。 大阪労働局の「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」によると、同社は 2019 年 4 月 1 日から同 12 月 31 日の間、大阪市内の 5 店舗で、正社員やアルバイト社員の男女 12 人に違法な長時間労働をさせた疑いがある。 労使で定めた時間外労働の上限は 1 カ月あたり 45 - 75 時間だったが、最長で 110.5 時間の時間外労働をさせていたという。 親会社の「グルメ杵屋(同)」は取材に、「現在は改善している」としている。 (asahi = 1-12-21)


新型コロナ影響 失業者 8万人超 見込み含め 6日までに 厚労省

新型コロナ感染拡大による雇用問題

記事コピー (3-19-20 〜 1-7-21)


採用面接で体重やウエストを質問 明治の工場に行政指導

大手食品メーカー「明治(本社・東京)」の大阪工場(大阪府高槻市)がアルバイトの採用面接で、応募者に体重やウエスト、既往歴などを書面で尋ねていたことがわかった。 こうした質問は 10 年以上前から続いており、公共職業安定所(ハローワーク)は職業安定法に抵触する恐れがあるとして行政指導を実施。 同工場は質問の書面を廃止するという。

同社によると、大阪工場ではチョコレート菓子を製造しており、約 750 人が勤務する。 製品の製造や検品の業務にあたるアルバイト従業員を募集する採用面接で、「面接票」を会場に集まった採用希望者に渡し、面接前に記入させていた。 面接票は通勤時間や最寄り駅などを聞くと共に、10 年以上前から身長や体重、ウエストなどを尋ねていたほか、2015 年から既往歴や労災歴などについても記入を求めていたという。

職業安定法は、業務に直接関係ない個人情報の収集を禁じている。 同工場は昨年 12 月 22 日、ハローワーク茨木(大阪府茨木市)から「身長、体重、既往歴を聞くのは問題がある。 直ちに法律違反ではないものの、法に抵触する恐れがある。」とする指導を口頭で受けた。 全国に 26 ある工場のうち、この質問票を使っていたのは大阪工場だけだったという。 同社広報部は取材に、身長や体重などの質問は「作業着を作るために確認していた」、既往歴については「安全、健康に勤務してもらうためだった。 小麦などを扱うため、アレルギーを持たれている方が原因物質に触れないようにする目的だった」と説明。 「不快な思いをする方もおり、配慮不足だったと認識している。 今後は質問票を廃止する。」と話している。

「ウソついた方がよかったのか?」
「なぜこんなことを答えなければいけないんだろうと不快に感じた。」

昨年 12 月に明治大阪工場のアルバイト採用面接を受けた兵庫県の 20 代の女性は、既往歴や体重などを尋ねる面接票を見たときの心境を振り返った。 女性は過去に病気にかかったことを面接票に記入し、実際にその後の面接で病歴について聞かれた。 女性は「病気にかかってはいけないのかと感じた。 病歴はないとうそをついた方がよかったのかと、帰宅後も不安な気持ちが続いた。」という。 工場に制服があると知っており、体重も記入したが、「体重は制服に関係ない」と思ったという。 結果は不採用だった。

厚生労働省は「社会的差別につながる恐れがある」として、適性や能力のみを採用基準とするよう企業に呼びかけている。 しかし、採用面接で不適切な質問がなされたケースは少なくない。 大阪府によると、分譲住宅メーカーや化粧品製造・販売会社が 2019 年度、病歴や過去のけがについて尋ねたほか、18 年度には電気機器卸売会社で身長、体重、視力を尋ねる質問があった。 いずれも公共職業安定所に連絡し、企業側は指導を受けたという。

日本労働弁護団(事務局・東京)の常任幹事を務める谷真介弁護士(大阪弁護士会)は「既往歴を尋ねるなら、どのように業務と関連があるのが具体的に明記すべきだった。 体重なども、かりに制服を作るためなら、『S』、『M』などサイズを選択させればよかった。」と指摘。 「人権やハラスメントへの社会の意識が厳しく変化しており、昔からの手法を続ける採用の現場とのギャップがある。 一般常識に照らし合わせ、不快に感じることは聞かないよう意識すべきだ。」と話す。 (寺尾佳恵、asahi = 1-5-21)

採用面接での不適切な質問の事例

Q 「過去に大きな病気があるか?」
→ 病名などの情報で予断や偏見が生じる恐れがある。

Q 「尊敬する人物は誰ですか?」
→ 思想・信条・人生観などは憲法で保障されている個人の自由であるべき事項。

Q 「家族は何人いるのか?」 「母の仕事は?」
→ 家族についての話は本人が業務を遂行する上で関係ない。 本人に責任のない事項。

Q 「彼氏はいますか?」
→ 本人の適性や能力に関係ない。 男女雇用機会均等法に抵触する恐れがある。

Q 「結婚・出産しても仕事を続けるか?」
→ 本人の適性や能力に関係ない。 男女雇用機会均等法に抵触する恐れがある。

(2019 - 20 年に大阪府に報告された事例)