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「重いバッテリーが主因」 EV "過体重問題" … 性能低下・タイヤ摩耗・維持費増に直結

重いバッテリーが主因
コーナリング性能・エネルギー効率の低下
タイヤ摩耗も早まる

電気自動車がエコカーの主流となった一方で、「重量」という避けられない弱点がある。 端的に言えば、電気自動車は同クラスの内燃機関モデルよりもはるかに重い。 大容量バッテリーパックが原因で、走行性能から維持費に至るまで予想外の影響を及ぼしている。

電気自動車の重量増加の最大要因はバッテリーだ。 航続距離を確保するため車体下部に搭載されるリチウムイオンバッテリーパックは数百kgに達する。 例えばジェネシス G80 電動モデルは内燃機関仕様より約 300kg重い。 常に大人 4 - 5 人を乗せているのと同じ負担で、車両総重量の 20 - 30% を占める。エンジンやトランスミッションを省いてもなお、大きな重量差を生む根本的な要因となっている。

この「過体重」は数々の欠点をもたらす。 重い車体は物理的に慣性が大きくなり、コーナリング時の俊敏さが失われる。 メーカーはサスペンションを硬めにして補うが、低速域や荒れた路面では乗り心地の悪化を招く。 重量はより多くのエネルギーを必要とし、電費効率を下げる。 最も現実的なのはタイヤ摩耗で、重量と電動モーター特有の強力な初期トルクが原因となり、摩耗速度は内燃機関モデルより 20% 以上早いとされる。

結論として、電気自動車の重量は数字以上に運転の質や維持費に直結する。 重量に耐える専用タイヤは通常品より高価で、交換時のコストはさらに増える。 EV を購入する際は環境性能や静粛性といったメリットだけでなく、重量がもたらすデメリットも理解したうえで選択する必要がある。 (山田雅彦、江南タイムズ = 9-28-25)


「高くても」国産 EV バス、京王が大量導入へ 中国製から "路線転換" バス会社の本音を聞いた

京王電鉄子会社の京王バスは路線バスに、いすゞ自動車の国産初の大型電気自動車 (EV) バス「エルガ EV」を大量導入することを筆者の取材に明らかにしました。 これまでの中国 EV 大手、BYD (比亜迪)の大型 EV バス「K8」からの "路線転換" には、納得の理由がありました。

東京都西部を中心に路線バスを運行している京王バス(京王電鉄バスを含む)は通常のディーゼルバス以外に、脱炭素化に役立つ環境対応車を 2025 年 3 月末時点で 69 台を抱えています。 うち日野自動車の大型ハイブリッドバス「ブルーリボンハイブリッド」が 52 台、日野の連接ハイブリッドバス「ブルーリボンハイブリッド連節バス」が 2 台、それぞれ走行時に二酸化炭素 (CO2) を排出しないゼロエミッション車であるトヨタ自動車の大型燃料電池バス「ソラ」が 9 台、BYD の「K8」が 6 台です。

「ソラ」は多摩(東京都多摩市)、桜ヶ丘(日野市)、高尾(八王子)の 3 営業所、「K8」は桜ヶ丘、永福町(杉並区)両営業所にそれぞれ所属しています。 京王グループは 2030 年度の CO2 排出量を 19 年度比で 30% 減らす目標を掲げており、京王バスの大きな柱が EV バスです。 25 年度はソラの導入が 1 台にとどまる一方、「エルガ EV」を 14 台購入します。 27 年ごろまでにゼロエミッション車(EV バスと燃料電池バス)の保有台数を 45 台程度と現在の約 3 倍に引き上げ、路線バス全体のうち 5% にする計画です。

現在運行する中国製の EV バス「K8」は 2023 年度に 2 台、24 年度に 4 台導入されました。 全長が 10.5m、全幅 2.495m、全高 3.27m で、日本発の EV 急速充電方式「CHAdeMO (チャデモ)」に対応。 モーターを動かすのに必要なバッテリーの充電 1 回当たりの航続距離は 240km です。 定員は 80 人で、客室に 25 席あります。 壁面に充電用の USB ポートを取り付けており、スマートフォンなどの充電に「ご利用いただいて構いません(京王バス)」と言います。 まだ走行実績は限られているものの、京王バスは「社内アンケートでは騒音や振動の少なさについて高評価を得ている」と解説します。

完成度はスゴイ、でも「高い」国産

一方、京王バスが 2025 年度に導入を始める「エルガ EV」は、いすゞと日野が折半出資するバス製造会社、ジェイ・バスの宇都宮工場(宇都宮市)で 24 年 11 月に量産が始まりました。 日本で 21 年 1 月に納車を始めた「K8」に比べて後発ですが、京王バスを含めて多くの国内バス会社が積極的に発注しているのは納得できる理由があります。 「エルガ EV」で手始めに売り出された都市型モデル (ZAC−LV828L1) は全長が 10.54m、全幅 2.485m、全高 3.33m で「K8」とほぼ同じ。 同じくチャデモに対応し、充電 1 回当たりの航続距離は 360km と、「K8」の実に 1.5 倍に達します。

もっとも、航続距離については既に EV バスを導入しているバス会社幹部が筆者に「実際の運行時の航続距離は各社ともメーカーの公称よりはるかに短く、公称は全く当てにならない」と断言しました。 その要因とは「メーカーの公称は同じ速度で巡航した場合の数値なのに対し、路線バスは停留所に止まったり、信号待ちをしたり、渋滞で待ったりしながら運行するうえ、EV バスは季節によって変動がかなりあるためだ」とか。

「エルガ EV」で目を見張るのが、車いすやベビーカーの利用者、お年寄りにも乗降しやすく、車内でも移動しやすいバリアフリーの設計です。 リアアクスル(後車軸)の左右にそれぞれモーターを内蔵することで、乗り降りしやすい低床化を実現。 さらに、最前部の乗降口から最後部の座席まで段差がなく、いずれの座席もそのまま着席できます。 バッテリーを屋根上と車体後部の床下に配置したことで実現できた設計で、段差がないため利用者が安全に移動できるのは大きな利点です。

「K8」の場合、後ろ半分の座席に腰掛けるにはいずれも段差を上がる必要があります。 筆者が見学した京王バスの車両は、乗客が気づかずに転倒することを防ぐため、段差の部分に黄色い線で縁取りするとともに、段差注意のシールを貼り付けて注意を呼びかけていました。 ただし、「エルガ EV」の都市型モデルの希望小売価格は 5,980 万 1,800 円(消費税込み 6,578 万 1,980 円)と、「K8」が日本で販売を始めた当初の価格の 3,850 万円(税別)を大きく上回ります。

「高くても国産がいい」 でもいまは「健全な状態ではない」

それでも京王バスが「K8」に代わって「エルガ EV」の導入を決めたのには、納得できる 3 つの大きな理由があります。

1 つは国と東京都の EV バスの補助金を活用すると、実質価格では「K8」とは大差がないためです。 走行中に排ガスを出さない EV バスの普及を図るため、国と都は基準となるディーゼルエンジンバスとの差額を負担しています。 バス運行事業者としては実質価格が同程度であれば、性能面で「K8」を上回り、国内生産のため日本経済および雇用に大きく貢献する「エルガ EV」を選ぶのは自然です。

2 つ目は国産バスの品質が高く評価されているためです。 筆者の取材に応じた京王バスの田井豊典取締役安全技術部長は「国産 EV バスはモーター部分を含めてきれいに造ってある」とする一方、「海外製だと見た目はバスに仕上がっていても、料金箱や案内用液晶パネルを取り付ける際に配線を通したり、設置したりすることを想定しないような造りになっていることがある」と指摘しました。

残る 1 つは、故障時のアフターケアを含めた信頼性があるためです。 田井氏は「長く使う中で故障が一切発生しないこともおそらくなく、部品交換は絶対発生するため、その時に支援が得られるかというアフターケアの体制は気になる」と話し、「エルガ EV」を販売するいすゞは路線バスを長年手がけてきた信頼感があるとの認識を示しました。

京王バスは将来的なカーボンニュートラル化を視野に入れ、保有する路線バス全体の 2 割に当たる 180 台をゼロエミッション車にする「内部目標」を策定しました。 脱炭素化を進める中で、国と東京都の補助金を活用すれば EV バスのコストパフォーマンスが高いことが背景にあります。 田井氏は、導入費用と運行コストを含めたライフサイクルコストをみると「EV バスが計算上は一番安く、あとはハイブリッドバス、ディーゼルバス、燃料電池バスの順番となる」と説明します。 燃料電池バスの購入にも国と東京都の手厚い補助金が適用されるものの、燃料の水素の価格高騰が運行コストを押し上げるためです。

一方、補助金がなかった場合のライフサイクルコストは「ディーゼルバス、続いてハイブリッドとなり、すごい差があって EV バス、燃料電池バスの順番になる」と教えてくれました。 現状では「EV バス、燃料電池バスともに補助金なしにはライフサイクルコストでの採算は取れない」と断言します。 田井氏は「EV バスと燃料電池バスの導入が補助金頼みなのは「事業として健全な状態とは言えない」とし、「ゼロエミッションバス市場全体の技術革新と価格競争が進むことを強く期待しています」と訴えています。 (大塚圭一郎、kyodo = 9-22-25)

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