テレワークのガイドライン見直しへ 休日深夜の連絡にルールを

在宅勤務などのテレワークは長時間労働につながる懸念があるとして、厚生労働省の検討会はいわゆる「つながらない権利」を参考に休日や深夜の業務連絡の在り方について一定のルールを設けるべきだとする報告書をまとめました。 新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが広がった一方で、仕事と生活の時間を区別することが難しく、長時間労働につながる懸念があるという声が出ています。 厚生労働省が設置した専門家で作る検討会は、ことし 8 月からテレワークの在り方について話し合いを進め、23 日、国のガイドラインの見直しを求める報告書をまとめました。

この中では長時間労働や勤務時間を実際より少なく申告するケースをなくすために企業はテレワークを行う従業員の勤務時間を適切に把握することが重要だとしています。 そのうえで、フランスで定められている働く人が勤務時間外の業務連絡を拒否することができるいわゆる「つながらない権利」を参考に、休日や深夜の連絡の在り方について企業と従業員で話し合い一定のルールを設けることも有効だとしています。

また、従業員がオンライン上でも上司や同僚、産業医などに相談しやすい環境を作ることや、パソコンの配置や照明などの作業環境が適切かどうか確認・改善を進めることが重要だとしています。 さらに正社員と比べて非正規雇用で働く人のテレワークの実施率が低いことから、雇用形態の違いだけを理由としてテレワークの対象者を分けないよう留意する必要があると指摘しています。 厚生労働省はこの報告書を踏まえ、今年度中にテレワークのガイドラインを見直して企業に周知したいとしています。 (NHK = 12-23-20)


カシオ、早期退職者を募集 人数制限なし

カシオ計算機は 12 月 23 日、早期退職者を募集すると発表した。 営業またはスタッフ部門に在籍する社員の内、45 歳以上などが対象。 募集人数は定めない。 募集は 2021 年 1 月 18 日から 2 月 1 日まで行い、退職日は 5 月 20 日を予定。 該当部門に在籍する勤続 10 年以上の社員の内、45 歳以上の一般社員及び 50 歳以上の管理職社員を対象とする。 希望者には再就職支援を行う。 通常の退職金に特別退職金を加算して支給するため、2021 年 3 月期決算に特別損失を計上する。 人員整理によって既存事業の強化や新規事業の創出につなげる。 カシオ計算機は 19 年 2 月にも同社初となる早期退職者を募集し、156 人が応募していた。 (ITmedia = 12-23-20)


大学・短大 377 校、「対面授業」 49% にとどまる … 文科省再調査

文部科学省は 23 日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今夏の調査で対面授業の割合が半分未満だった大学・短大 377 校に行った再調査の結果を公表した。 このうち 187 校(49.6%) は依然、対面が半分未満で、学生が十分にキャンパスに通えていない実態が浮かんだ。 対象は、8 - 9 月に行った前回調査で後期の対面授業の割合が半分未満だった大学などで、後期授業の対面と遠隔の割合を尋ねた。

発表によると、北海道大、中央大など 146 校 (38.7%) は「おおむね半々」と答えた。 「3 割程度が対面」が京都大、慶応大など 122 校、東京大、早稲田大など 64 校 (17%) は「ほとんど遠隔(対面 2 割以下)」、国際教養大は「全面遠隔」と答えた。同校は文科省に「状況を見ながら段階的に学生を受け入れる」と回答している。 対面は 3 割の明治大の大六野耕作学長は「1 年生は対面の希望が多く、就活生は遠隔を好むなど、学生も分かれている。 対面の割合より学生の希望に応じた授業を選択できる体制をつくることが大事だ」と語る。

一方、鹿屋体育大など 29 校 (7.7%) は対面が「7 割程度」、長崎大など 11 校 (2.9%) は「8 割以上」、愛知文教大など 4 校 (1.1%) は「全面再開」とした。 対面が 7 割以上は計 44 校 (11.7%) にとどまっている。 一方、対面が半分に満たない 187 校のうち東京大、法政大、東京医科大など 140 校 (74.9%) は、文科省の再調査に、授業形態について「大多数の学生が理解・納得している」と回答。 お茶の水女子大、日本歯科大など 18 校 (9.6%) は「ほぼ全ての学生が理解・納得している」と答えた。 文科省は「遠隔だけでは授業や大学生活は完結しない。 感染防止策を講じた上で、対面授業を検討してほしい。」としている。 (yomiuri = 12-23-20)

前 報 (9-13-20)


コロナ禍で休退学 5 千人超 大学生・院生、文科省が調査

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、10 月までに大学・大学院を退学したり休学したりした学生が少なくとも計 5,238 人いることが 18 日、文部科学省の調査で分かった。 文科省は感染拡大で経済が冷え込めばさらに増えかねないとして、学生らへの支援を拡充させる。

文科省が全国の国公私立大に調査したところ、4 - 10 月に新型コロナの感染拡大の影響を受けて中退した学生・大学院生は 1,033 人、休学は 4,205 人に上った。 このうち、学部 1 年生はそれぞれ 378 人(約 37%)、759 人(約 18%)だった。 一方、全体の中退者は 2 万 5,008 人、休学は 6 万 3,460 人で、昨年の同時期と比べると、ともに 6,833 人、6,865 人減っていた。

文科省は 18 日、学びの継続への支援として、バイト収入が大幅に減った学生らへ無利子の奨学金の再募集を行うとともに、就職内定が取り消された学生らがやむを得ず留年する場合、奨学金の貸与期間を 1 年延長すると発表した。 担当者は「様々な支援制度を用意しており、困ったら諦めずにまずは大学に相談してほしい」と話している。 (伊藤和行、asahi = 12-18-20)


介護報酬 0.7% 引き上げ コロナで利用控え・収支悪化

政府は、2021 年度からの介護報酬を 0.7% 引き上げる方針を固めた。 プラス改定は前回 18 年度の改定に続き、2 回連続となる。 新型コロナウイルスの影響による利用控えなどで介護事業所の収支が悪化していることから、前回を上回るプラス幅で報酬を増やし、経営を後押しする。 介護報酬は介護保険サービスの公定価格で 3 年に 1 度見直しており、週内に正式決定する。 介護報酬を引き上げると介護事業所の収入が増え、介護職員の待遇改善につながる。 一方、サービス利用者の自己負担が増し、40 歳以上が支払う保険料も増える。 前回は 6 年ぶりのプラス改定で 0.54% の引き上げだった。

今回の改定では、財務省が当初、引き上げに慎重な姿勢を示していた。 だが、厚生労働省が事業所の経営を調査したところ、前回のプラス改定後も目立った収支改善はみられず、新型コロナの感染拡大で収支が悪化したと回答した事業所も全体の約半数にのぼった。 介護現場は人手不足が深刻で、職員の待遇改善が急務だとの声が与党内にも強い。 政府も前回を上回る幅の報酬引き上げが必要との認識で一致した。 (山本恭介、asahi = 12-15-20)


高齢者医療費 2 割負担、対象は「単身世帯、年収 200 万円以上」 自公合意

菅義偉首相と公明党の山口那津男代表は 9 日、75 歳以上の高齢者が医療機関で払う窓口負担の 1 割から 2 割への引き上げを巡り、対象者を単身世帯で年収 200 万円以上とすることで合意した。 所得上位 30% の約 370 万人が該当する。 2022 年夏の参院選への影響を考慮し、同年 10 月以降に実施する方向だ。 菅首相と山口代表が同日夜、東京都内で会談し、こうした方針で一致した。 75 歳以上の人が医療機関で支払う窓口負担は原則 1 割で、現役並み所得(単身世帯で年収 383 万円以上)なら 3 割を負担する。 社会保障給付費の削減に向け、政府は 1 割負担の人のうち一定所得以上を 2 割にする方針で、所得の線引きが焦点となっていた。

厚生労働省は既に 3 割負担となっている人を含む所得上位 20 - 44% の 5 案を社会保障審議会に提示。 政府は所得上位 38% が該当する年収 170 万円以上を対象に含める構えだったが、公明党は所得上位 20% に該当する 240 万円に絞り込むよう主張。 与党内で調整が続いていた。 新たに示された年収 200 万円は、5 案のうち首相が実施を強く主張してきた年収 170 万円よりも対象者を1段階絞り込んだ案で、互いに歩み寄った内容だ。 高齢者医療に対する現役世代の負担としては年間約 880 億円が抑制される。 既に 3 割負担をしている人を除くと 23% が新たな対象者となる。

また政府は、対象となる高齢者向けに 1 カ月間の負担が急増しない軽減措置を 2 年間実施する案を厚労省の審議会に示しているが、これを 3 年に延長する案も浮上している。 また、児童手当で高所得世帯が減額支給される年収の判定基準について、「夫婦の合計」とせずに、現行の「世帯主」を維持する方向だ。 ただ、減額基準を超えた世帯に配られる「特例給付(子ども 1 人につき月額 5,000 円)」については、一定の年収を超えた人には支給しない所得制限を設けることで一致した。 今後、具体的な所得基準の調整に入る。 (原田啓之、横田愛、mainichi = 12-10-20)


児童手当の特例給付、年収 1,200 万円以上は廃止へ

政府・与党は 10 日、中学生以下の子どもがいる世帯に支給される児童手当の見直しを巡り、高所得世帯に配っている子ども 1 人当たり月 5 千円の「特例給付」の対象から年収 1,200 万円以上の世帯を外す方針を決めた。 浮いた財源を待機児童解消に向けた「保育の受け皿」整備にあてる。 この日、自民・公明の政調会長と田村憲久厚労相の会合で合意した。 実施されるのは 2022 年 10 月支給分からとなる見通し。

当初は所得制限の算定基準を現在の「世帯の中で所得が最も高い人」から「世帯合算」に変更することも検討していたが、見送った。 児童手当は原則、子ども 1 人につき 3 歳未満は月 1 万 5 千円、3 歳 - 中学校卒業までは月 1 万円を支給している。 所得制限が設けられており、子ども 2 人の専業主婦家庭の場合では、夫が年収 960 万円未満なら満額支給。960 万円以上の場合は対象外となるが、当分の間の措置として特例給付が支給されている。 今回の見直しでは、この特例給付の対象を狭め、年収 960 万円 - 1,200 万円まで世帯を対象とし、1,200 万円以上の世帯は給付なしとする。

給付総額を減らして得た財源は、待機児童の解消にあてる。 安倍政権が掲げた「待機児童ゼロ」を引き継いだ菅政権は、2024 年度末までに約 14 万人分の保育の受け皿を整備する方針。 必要となる保育士の人件費などの施設運営費が年 1,440 億円増えると想定する。 このうち 440 億円分は公費でまかなう必要があり、児童手当を縮小する案が検討されてきた。

児童手当の見直しは、これまで手当の拡充を訴えてきた公明党が反対の姿勢を示してきた。 これに対して政府は 9 日夕、児童手当の見直しについて年収 1,100 万円以上の特例給付を廃止するものと、所得制限の算定基準を「世帯で最も所得が高い人」から「世帯合算」にするものの、二つの案を与党との協議の場で示した。 同日夜に菅義偉首相と山口那津男・公明党代表が都内で会談し、二案のうち公明の反発が強かった「世帯合算」は見送ることで一致したという。 (浜田知宏、asahi = 12-10-20)

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児童手当の縮小を政府が検討 「特例給付」廃止も視野

政府は、中学生以下の子どもがいる世帯に支給している児童手当を縮小する検討に入った。 所得制限の算定基準を見直す方向のほか、所得制限を超える世帯に子ども 1 人当たり月 5 千円を支給する「特例給付」は廃止も含めて検討する。 支給総額を減らして浮いた財源を待機児童対策に充てる。 菅義偉首相が議長を務める全世代型社会保障検討会議で議論し、年内に結論を出す見通しだ。

児童手当は原則、子ども 1 人につき 3 歳未満は月 1 万 5 千円、3 歳 - 中学校卒業までは月 1 万円を支給する。 子どもの人数に応じた所得制限があり、子ども 2 人の共働き世帯の場合、所得が高い方の年収が 960 万円未満なら満額が支給される。 960 万円以上なら対象外となるが、当分の間の措置として特例給付を支給している。 対象児童は 1,660 万人(19 年 2 月末)で、政府は今年度、1 兆 1,496 億円の予算を組んでいる。

見直し案は、共働き世帯の場合、所得制限の算定基準を「夫婦で所得が高い方」から「夫婦の所得の合算」に変更することで、支給する基準を厳しくする。 特例給付は支給額の減額や、一定の所得以上の世帯は廃止も検討する。 子ども 2 人の共働き世帯で夫の年収が 600 万円、妻が 500 万円の場合、いまは児童手当が満額でもらえるが、仮に「夫婦の所得の合算」に見直す場合、児童手当を満額で受け取れなくなる。

政府は待機児童対策として、2024 年度末までに約 14 万人分の保育の受け皿を整備する方針だ。 保育士の人件費などの施設運営費は最大で年 1,600 億円増えると想定される。 財源として政府は経済界に対し、企業の社会保険料に上乗せする拠出金の引き上げを求めているが、「反応は芳しくない。 当然、公費の投入も必要になる(政府関係者)」として、児童手当の見直しが浮上した。 とりわけ特例給付は財務省の審議会が「必ずしも子どものために充てられるとは限らない」などとして廃止を含めた見直しを提言しており、議論の対象になった。

見直しは、企業側の拠出額にも左右されるとみられる。 ただ、共働きを中心とする子育て世帯への影響が大きいうえ、待機児童対策の費用を子育て世帯に負担させることには「子育て世帯に対する悪いメッセージになる(政府関係者)」との懸念も漏れる。 与党内にも「選挙に影響する」との声があり、特に児童手当の拡充を推進してきた公明党内の反発は強い。 同党の竹内譲政調会長は 25 日の記者会見で「児童手当の見直しではなく、政府全体の予算を投入して待機児童を解消すべきだ」と語気を強めた。 (浜田知宏、asahi = 11-25-20)

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待機児童ゼロへ、14 万人分の受け皿必要 政府が集計

認可保育園などに入れない「待機児童」の解消に向け、政府は 2024 年度末までにさらに 14 万人分の保育の受け皿が必要と集計した。 安倍政権下で未達に終わった「待機児童ゼロ」の政府目標を引き継ぐために、厚生労働省が年内にも策定する 21 年度以降の新たな整備プランに盛り込む。 保育の受け皿数は、各自治体に必要な上積み分の報告を求めてまとめた。 今春時点で 77.2% の女性の就業率を 25 年に 82% に引き上げるとの政府目標も考慮しながら、最終的な受け皿整備数を固める。

政府は安倍政権時に 20 年度末までの待機児童ゼロをうたった「子育て安心プラン」をつくり、来春までに全国で合計 324 万 7 千人分の保育の受け皿を整える予定だ。 しかし、今年 4 月 1 日時点での待機児童数は 1 万 2,439 人で来春の「ゼロ」達成は厳しい。 菅義偉首相は、待機児童ゼロの目標を引き継ぐ考えを示しており、今回の集計結果をもとに新たなプランをつくる。 受け皿を増やすには不足する保育人材への対応が必要なうえ、保育施設の整備・運営費は消費税の増税分や企業からの拠出金でまかなわれている。 新型コロナウイルスの影響で経済状況が悪化するなか、企業の理解を得られるかも課題となる。 (田中瞳子、asahi = 10-3-20)


学童保育の待機児童数、緊急事態宣言中でも過去最多更新

共働きやひとり親家庭の小学生が放課後を過ごす学童保育(放課後児童クラブ)を利用したくてもできないでいる待機児童が、今年 5 月 1 日時点で少なくとも 1 万 8,783 人にのぼると、民間団体「全国学童保育連絡協議会」が 9 日発表した。 前年より 607 人増で過去最多となった。 新型コロナウイルスの緊急事態宣言中の調査で、担当者は「利用自粛を呼びかける自治体があるなかでの最多更新。 本来ならば、利用希望者はもっと多かったはずだ。」とみる。

調査は全 1,741 市区町村に調査票を送付した。 都道府県別で最も多かったのは東京で 4,211 人。 埼玉 1,643 人、千葉 1,604 人が続いた。 179 自治体は待機児童を把握しておらず、26 自治体は未回答だった。 学童保育を利用する児童数は、前年から 3 万 5,681 人増えて 130 万 5,420 人と過去最多になった。 厚生労働省令は「参考にすべき基準」として、学童保育 1 クラスの児童数を「おおむね 40 人以下」と定めるが、調査では 71 人以上のクラスも前年から増加していた。 協議会の佐藤愛子事務局次長は「学童は長時間を過ごす生活の場。 教育・感染症予防の観点からも集団の規模を小さくすることが必要だ。 待機児童対策では学童保育の質と量の両面の拡充が必要だ。」と訴えた。 (浜田知宏、asahi = 12-9-20)


ホンダ、21 年 4 月から早期退職優遇制度 55 歳以上

ホンダは 2021 年度から中高年やシニアの正社員向けに早期退職時に割増退職金を払う制度を導入する。 55 歳以上が対象で、希望すれば再就職支援も実施する。 ホンダは 17 年に定年を 60 歳から 65 歳に延長したが、車の電動化などが急速に進み若手やソフトウエア技術に強い中途社員へのニーズが強まっている。 新制度で年齢構成や人員配置の適正化を進める。 21 年 4 月から「ライフシフト・プログラム」と名付けた制度を新たに導入する。 早期退職の募集人数や期限は定めない。 初年度は 55 歳以上 64 歳未満、2 年目以降は 59 歳未満の社員を対象とする。 ホンダはかつて早期退職者の退職金を割り増しで払う制度があったが、11 年に終了していた。 当時は 45 歳以上が対象だった。

今回は直近の定年延長に伴い生じつつあるシニア人材の余剰感に対応する。 自動車業界では自動運転や電動化など「CASE」と呼ばれる新領域の発展により求められる技術も変わってきている。 長年の経験よりも新たな知識が必要な場合も多く、新制度で組織の新陳代謝を進めやすくする。 期間を募って退職者を求めるような措置はとらない。 継続して働きたいシニア社員の雇用は続ける。 希望する社員には再就職を手助けする。 ホンダは新型コロナウイルスの感染拡大を受けた販売減などで、21 年 3 月期の連結営業利益(国際会計基準)が前期比 34% 減の 4,200 億円となる見込み。 早期退職の優遇制度の導入で、シニア社員を中心とする人件費の圧縮を進める狙いもありそうだ。 (nikkei = 12-2-20)


ひとり親世帯向けの給付金、再支給へ 予備費の活用視野

新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、政府は生活が苦しいひとり親世帯を支援する「臨時特別給付金」を再度、支給する方向で調整に入った。 自民党が 26 日、再支給を求める緊急提言を菅義偉首相に提出し、首相は 2 度目の支給に応じる意向を示した。 予備費の余り 7.2 兆円の一部の活用を検討する。 ひとり親世帯向けの臨時特別給付金は 6 月に成立した今年度第 2 次補正予算に盛り込まれた。 子どもが 1 人の場合は 5 万円、第2子以降は 1 人当たり 3 万円で、対象は低所得者向けの児童扶養手当や、遺族年金などの公的年金を受け取っている世帯など。コロナ禍で収入が大きく減った世帯はさらに 5 万円を追加支給する。 予算は 1,365 億円で、約 120 万世帯への支給を想定し、自治体が順次配っている。

再支給は年内をめざし、金額や対象者は前回同様とする案が出ており、厚生労働・財務両省で詰める。 ひとり親世帯は 2016 年の推計で 141 万 9 千世帯。 うち 8 割超の母子家庭は、働いて得る所得が年間平均で 231 万円と、児童のいる世帯全体の平均の 3 分の 1 にとどまる。 子育てと仕事を両立するためにパートなどの非正規の仕事に就く親が多く、コロナ禍で仕事を失う例も少なくないとされる。 一般社団法人「ひとり親支援協会」がひとり親 1,300 人を対象に実施した緊急調査では、昨年と比べて「減収」、「減収見込み」との回答は 65.6% に上った。 給付金をすでに受け取った親に使い道を尋ねると、「生活費や返済に使った」が 74.8% を占めた。 生活費を節約するため、食事の回数や量を減らしているといった声も出ている。

足元では感染が再拡大し、東京都など各地の自治体は飲食店などに営業時間の短縮を要請している。 非正規を中心に厳しい雇用情勢が続くとみられる。 ひとり親世帯の生活苦が長期化しかねないとして、支援協会は今月、給付金の再支給を厚労省に要請した。 立憲民主、共産、国民民主、社民の野党 4 党は 16 日に再支給する法案を国会に提出し、与党・公明党も 24 日、ひとり親世帯などへのさらなる支援を求める提言を出した。

26 日に自民党女性活躍推進特別委員会が首相に提出した緊急提言では「新規感染者数が増加し、『第 3 波』のおそれも出てきている今、困難を抱えた女性・女の子に寄り添った支援を強化すべきだ」と指摘。 給付金について、国会審議を経ずに使える予備費を活用することで年内の再支給を求めた。 提出後、森雅子前法相は記者団に「5 万円の支援金と同様のものを年内にと申し上げ、総理から『わかった』と力強い答えをいただいた」と語った。 同席した松島みどり元法相は「12 月は児童手当と児童扶養手当がどちらも出ない。 クリスマスや正月があるときにひとり親の子どもたちがつらい思いをしないようにと、ご理解いただいた」と話した。

加藤勝信官房長官は 26 日午後の会見で、ひとり親世帯への支援について「ひとり親家庭が置かれる実情を把握しつつ、適切に対応したい」と述べた。 自民党の緊急提言はこのほか、増加する DV (家庭内暴力)や性暴力の被害に対する支援や相談窓口の拡充、休校・休園の判断の際には母親への影響を視野に入れることも求めた。 望まない妊娠を防ぐ緊急避妊薬の市販解禁や、各種給付金を世帯単位でなく個人単位で支給することも要請。子どもへの性被害を防ぐため、性犯罪に関する経歴を照会できる仕組みの導入を検討することも盛り込んだ。 (asahi = 11-26-20)


大学生の就職内定率 69.8% リーマン以来の下げ幅

来春卒業予定の大学生の就職内定率は、正式内定が解禁された 10 月 1 日時点で 69.8% となり、5 年ぶりに 70% を下回った。 厚生労働省と文部科学省が 17 日発表した。 新型コロナウイルス禍で就職活動や経済に影響が出たためで、前年同期からの下げ幅は 7.0 ポイントと、2008 年のリーマン・ショックの影響が直撃した 10 年卒の 7.4 ポイント減以来の大きさとなった。 国公立 24 大学・私立 38 大学の 4,770 人を抽出して調べた。 文系の内定率は 68.7% (前年同期比 7.5 ポイント減)、理系は 74.5% (同 4.8 ポイント減)だった。

今春卒業した大学生の最終的な就職率(4 月 1 日時点)は、少子高齢化による人手不足などを背景に、過去最高の 98.0% だった。 例年、内定率は年度末にかけてさらに上がるが、10 月時点で前年から大きく落ち込んだ 10 年卒の場合、最終的な就職率は前年春より 3.9 ポイント低かった。 厚労省は「新型コロナの影響で企業説明会などが中止になり学生の動き出しが遅くなったほか、その後も採用規模が縮小している業界もあり、この先の回復も見通しづらい」と分析する。 短大生の内定率(調査対象は 20 校 520 人)も、27.1% (同 13.5 ポイント減)と例年以上に低くなっている。 厚労省によると、保育などの資格職の職場実習が、新型コロナ禍で遅れている影響が出ているという。 (吉田貴司、asahi = 11-17-20)


公的年金運用益、7 - 9 月は 5 兆円 2 四半期連続の黒字

今年度 7 - 9 月期の公的年金の積立金の運用益は 4 兆 9,237 億円で、2 四半期連続の黒字となった。 年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) が 6 日、発表した。 9 月末現在の運用資産額は 167 兆 5,358 億円になった。

運用益を資産別にみると、外国株式が約 2 兆 7 千億円、国内株式が約 2 兆円だった。 新型コロナウイルスの感染が収束しない一方で、各国の積極的な金融緩和政策を受けて株価が堅調に推移したためだ。 4 - 9 月の運用益の合計は 17 兆 4,106 億円。 2019 年度は新型コロナの感染拡大による株価の急落を受けて、運用損が 8 兆 2,831 億円と過去 2 番目の赤字幅となったが、今年度に入ってから回復を見せている。 市場で年金資産の運用を始めた 01 年度以降の累積の運用益は、74 兆 9,483 億円になった。 (石川春菜、asahi = 11-6-20)


年功序列廃止、管理職の希望退職募る 三菱ケミカル

三菱ケミカルは 4 日、50 歳以上の管理職を対象に希望退職を募ると発表した。 10 月に、年功序列ではなく職務に適性がある人を充てる「ジョブ型」の人事制度を管理職で始めたことに伴うもの。 親会社の三菱ケミカルホールディングス (HD) の伊達英文・最高財務責任者(CFO)は同日の記者会見で「50 歳過ぎの方が年功序列でつけると思っていたのに(ポストを)若手にとられていく。 じくじたる思いをする人をサポートする。」と説明した。

対象は 50 歳以上かつ勤続 10 年以上の管理職で、定年後に再雇用された人を合わせて 2,900 人。 募集人数は定めず、再募集の予定はないという。 12 月に募り、来年 3 - 〜6 月末に退職する。 最大 50 カ月分の賃金を上乗せ。 100 億円の費用を見込む。 伊達氏はジョブ型を導入した狙いについて、「活力の高い会社にしたい」としたうえで、「主体的に自分のキャリアを決めてほしい。 ご賛同頂けない方には転身を支援する。」、「入社した時はそうじゃなかった、という人のミスマッチを金銭的に解決する。」と希望退職を募る理由を説明した。

三菱ケミカル HD は 2021 年 3 月期の純損益が 590 億円の赤字に転落するとの見通しも発表した。 通期での赤字は 09 年 3 月期以来 12 年ぶり。 傘下のイスラエルの製薬会社で、新型コロナウイルスの影響でパーキンソン病治療薬の開発が遅れ、845 億円の減損損失を計上した。 米国のアクリル樹脂原料の工場を閉鎖し、減損処理などで 240 億円を計上することも響く。 (江口英佑、asahi = 11-4-20)


出産一時金 42 万円、増額検討へ 09 年から据え置き

出産した人に公的医療保険から原則 42 万円を支給する出産育児一時金について、田村憲久厚生労働相は 27 日の閣議後会見で、増額を視野に検討する考えを示した。 医療保険改革の一つとして年内のとりまとめをめざす。

出産育児一時金は、公的医療保険に入る人や扶養されている人が出産した際、経済的な負担を和らげるために支給される。 金額は 2009 年 10 月に 42 万円に引き上げられて以降、据え置かれているが、都市部を中心に出産費用の上昇が続く。 自民党の岸田文雄・前政調会長や野田聖子・幹事長代行は、一時金の増額を検討する議員連盟を 29 日にも発足させる予定だ。 田村氏は厚生労働省が進める出産費用の実態調査の結果を踏まえるとしたうえで「必要性があれば、対応していく。 (一時金を負担する)保険者の理解をいただかないといけない」と述べ、保険料を払う国民や企業の理解を前提に検討する姿勢を示した。 (久永隆一、asahi = 10-27-20)


地方雇用、受け皿探し奔走 工場の閉鎖・縮小相次ぐ

地方の工場で閉鎖や事業縮小の動きが相次ぎ、地元の自治体や経済界が離職者の再就職先確保に奔走している。 コロナ禍で地域経済が停滞し、新規求人は全国的に減少。 離職者の受け皿が見つからなければ地域の雇用が一段と悪化するおそれもあり、官民を挙げて対策に取り組む。 「求職者 127 人のうち再就職が決まったのは 4 人。」 青森県むつ市や青森労働局、地元経済団体などが 10 月上旬に開いた会合で厳しい数字が報告された。

ストッキング大手のアツギ傘下、アツギ東北が需要減を理由に主力のむつ事業所などで 330 人の希望退職を募集。 「これまでにない最大規模の雇用危機(宮下宗一郎市長)」と官民を挙げて再就職を支援する。 労働局やむつ市、周辺自治体、商工会議所などでつくる連絡会議が 8 月下旬に発足。 むつ市内外の約 30 社が雇用への協力を市に申し出ているが、うまくマッチングできるかが課題だ。

新型コロナウイルスの影響で雇用環境が悪化するなか、大量の離職者への対応は地域全体の課題だ。 長野市では住友電気工業の孫会社で、光通信装置部品を手がける住電デバイスマイクロアセンブリが 2021 年 3 月に解散する。 長野県内では合計 135 人の離職者が順次発生する見込みで、基本的に全員が再就職を希望しているという。 地元のハローワーク篠ノ井(長野市)は長野労働局や県、近隣市町村でつくる対策会議を 9 月に開催。 ハローワークは長野市などで就職面接会を予定するほか、求人情報の提供や履歴書の書き方といった個人指導で離職者を支える。

離職者の再就職が進みつつある地域もある。 5 月に経営破綻したレナウンのグループ会社、ダーバン宮崎ソーイング(宮崎県日南市)は従業員約 140 人を解雇。 「ダーバン」ブランドを買収した企業からの受注継続が決まり、ダーバン宮崎の下請けだった 3 社が新会社を設立した。 ダーバン宮崎を解雇された約 40 人を受け入れ、9 月末に操業を始めた。

宮崎市にある産業雇用安定センターによると、相談に訪れた離職者約 80 人のうち約 40 人が以前と同じ縫製などの仕事を希望したという。 紳士服は縫製や裁断など熟練の技術が必要で、新会社での雇用につながった。 日南市は新会社に対し、固定資産税の減免など優遇措置の適用を検討中だ。 このほか 10 人は別の業種への就職が決まり、残る約 30 人が求職中。 多くは「できるだけ地元の日南で働きたい」と希望しているという。

工場従業員の地元志向は企業城下町でも強い。 日本製鉄は 23 年 9 月末に瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)を閉鎖し、県外の製鉄所への配置転換などで社員の雇用を維持する方針。 ただ、入社からずっと呉で働いてきた現場従業員も多く、地元に残りたい離職者が発生する可能性がある。 呉市は 2 月に対策チームを立ち上げ、情報収集に取り組むが、呉に残る人数や退職時期が分からない段階では具体的な支援に動きにくいという。 地元の協力会社では建設業などの新規分野に参入し、雇用を確保する動きも出始めている。

全国の有効求人倍率は下がり続け、8 月は 1.04 倍と 1 倍割れが目前に迫る。 地域によっては離職者を吸収しきれないおそれもある。 厚生労働省は 21 年度予算の概算要求で再就職支援に 1,206 億円を計上。 職業訓練やハローワークの体制強化、移住を伴う再就職の支援などを通じ、離職者の就業機会を確保する。 東京商工リサーチによると 20 年 1 - 8 月に休業や廃業、解散した企業は前年同期比で 23.9% 増えた。 コロナの打撃が大きい飲食業のほか、製造業や建設業の休廃業も多い。 再就職の受け皿づくりが離職者の増加ペースに追いつくかが課題だ。 (nikkei = 10-24-20)


非社員の待遇差「不合理」 最高裁、手当や休暇認める

日本郵便(東京都千代田区)の契約社員らが正社員との待遇格差について訴えた三つの裁判の上告審判決があり、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は 15 日、扶養手当や有給の夏休み・冬休みなど審理対象になった 5 項目をすべて認めた。 継続的な勤務が見込まれる契約社員の労働条件が正社員と違うのは「不合理」などと判断し、同社側の訴えを退けた。 いずれも裁判官 5 人の全員一致の結論。

従業員約 38 万人の約半数の 18 万 5 千人が非正社員という巨大企業に対する初の最高裁判断。 13 日には退職金やボーナスの支給を認めない第三小法廷の判決が出たが、この日は実質的な原告勝訴で、非正社員の待遇を見直す動きが広がる可能性がある。 裁判は集配などに携わる男性らが東京、大阪、佐賀の各地裁に起こした。 東京で 3 人、大阪で 8 人が、それぞれ 10 項目の手当・有給休暇がないことについて労働契約法 20 条が禁じる「不合理な格差」だと主張。 佐賀では 1 人が有給の夏休み・冬休みがないのはおかしいと訴えた。

第一小法廷は、2018 年 6 月の最高裁判例をもとに、日本郵便における労働事情や条件をふまえ不合理かどうかを検討した。 扶養手当については、福利厚生を充実させ正社員の継続雇用を確保するという同社の支給目的を「経営判断として尊重しうる」としつつ、半年から 1 年単位で契約更新を繰り返してきた原告ら契約社員についても「継続的な勤務が見込まれる」と指摘。 支給しないのは「不合理だ」と判断した。 有給の病気休暇も、ほぼ同じ理由で認めた。

年賀状の取り扱いで多忙な年末年始の勤務手当や年始の祝日給(有給)については、「その時期に働いたこと自体に対する対価」で契約社員も違いはないと判断した。 夏休み・冬休みは「心身の回復を図る目的」で、繁忙期に限定せず働いていた原告らにも当てはまるとした。 佐賀の裁判は確定した一方、東京・大阪の裁判は各手当や休暇を与えなかったことに対する損害賠償の額を計算させるため、両高裁に審理を差し戻した。

待遇格差をめぐっては、13 年 4 月に施行された労契法 20 条を根拠に裁判が相次いだ。 20 条は 18 年成立のパートタイム・有期雇用労働法(今年 4 月から施行)に移され、待遇差の不合理認定の基準が「賃金の項目ごとに性質・目的を検討する」とより明確になった。(阿部峻介)

日本郵便は判決を受け、「この問題の重要性に鑑み、速やかに労使交渉を進め、必要な制度改正について適切に取り組んでいきたい」とコメントした。 (asahi = 10-15-20)

最高裁判決の骨子

  • 正社員の継続的な勤務確保のため、扶養手当や有給の病気休暇を与えることは経営判断として尊重されるが、相応に継続的な勤務が見込まれる契約社員に与えないのは労働契約法 20 条が言う不合理な格差にあたる。
  • 最繁忙期である年末年始に勤務したこと自体への対価である年末年始勤務手当や、年始の祝日給を、契約社員に支給しないのは不合理な格差にあたる。
  • 夏期冬期休暇を、繁忙期限定の短期勤務ではない契約社員に与えないのは不合理な格差にあたる。

ウーバー配達員、事故時の補償拡充へ 見舞金上限を倍増

飲食宅配代行サービス「ウーバーイーツ」の運営会社は、自転車やバイクを使う配達員向けの補償を 10 月 1 日から拡充する。 配達リクエストを受けた時から配達完了までに事故に遭った場合、配達員に支払う「医療見舞金」の上限を 25 万円から 50 万円に引き上げるのが柱だ。 さらに、入院を伴うけがをした場合は、事故時にヘルメットを着けていた配達員には一律 2 万円を上乗せする。 未着用の場合は 5 千円と金額に差をつけ、自転車を使う配達員にヘルメット着用を促す。

また、手術が必要になった場合に払う一時金も新設する。 宿泊入院を伴う手術は 7 万 5 千円、日帰りの手術は 3 万 7,500 円。 これまでは入院時やその後に働けなくなった場合に、日額 7,500 円の補償を支払っているが、この期間の上限を 30 日から 60 日に延ばす。 ウーバーイーツの配達員は運営会社と雇用関係のない個人事業主で、労災保険が適用されない。 運営会社側は昨年 10 月、三井住友海上火災保険と協力し、最大 25 万円の医療費を補償するなどの仕組みを導入した。 ただ、補償内容が不十分との声も出ていた。 (山下裕志、asahi = 9-28-20)


終電前倒し、背景にある深夜作業「数日でやめる若者も」

JR 西日本が来年 3 月から、近畿の主要な路線で終電時間を大幅に早めることに決めた。 背景には、深刻な保線作業現場の人手不足がある。 「休日が少ない」などの理由で離職が後を絶たず、人が足りないと仕事はきつくなり、さらに人離れが進む - -。 そんな悪循環に、新型コロナウイルスが拍車をかける。

大阪環状線の大阪城公園駅(大阪市中央区)近くの高架下に深夜、約 40 人の作業員が集まっていた。 午前 0 時 40 分、最終電車が通り過ぎたのを見届けると、現場責任者が業務用スマホを取り出した。 専用アプリで指令所につなぎ、周辺の信号が赤信号に変わったか、本当に終電だったかどうかなどを問い合わせた。20 分ほどしてアプリに安全確認を知らせる通知が届いた。 「右よし、左よし、立ち入りよし。」 指さし確認をしてから線路に入る作業員らの声が響いた。

同駅から京橋駅(同市都島区)までの区間で、古くなった鉄製レールを 244 メートルにわたって交換する作業に取りかかった。 作業員たちは、専用のガスバーナーで古いレールを 25 メートルほどの長さに切断すると、複数の小型クレーンを使って持ち上げ、線路脇にどけた。 そして同じようにして、新しいレールを枕木の上に載せた。 午前 2 時半、レールどうしの溶接作業が始まった。 「ここからが職人技です。」 JR 西近畿統括本部の佐野功・施設課長が教えてくれた。

作業員が、定規のような計測器をレールの溶接する部分の上に置いた。 新しく設置したレールの下に杭のような器具をはさみ、その器具をハンマーで小刻みにたたき、溶接するレール部分が同じ高さや位置になるよう調節する。 作業員はレールにくっつきそうになるほど顔を近づけ、何度も微調整を繰り返す。 溶接する断面を段差なく合わせないと、その上を通る列車の揺れにつながり、乗り心地が悪くなるという。

断面を調整して固定できたら、つぼ状の器具で接続部分を覆い、アルミニウムや鉄などの金属片を加える。 バーナーでつぼの中をあぶって金属片を溶かし、溶接する。 冷えて固まったこぶのような金属の塊を作業員が研磨機で丁寧に削って滑らかに仕上げた。 無事レール交換が終わったのは、午前 4 時前だった。

休みは月 8 日未満、高い離職率

近畿圏の在来線だけでこうした作業が 1 日に少なくとも約 100 カ所であり、グループ会社やその下請け会社で働く約 1,400 人の作業員が必要だ。 「新卒の応募が少なく、入社しても早期に退職する例も多い。」 JR 西グループの建設会社「大鉄工業(大阪市淀川区)」の荒谷雅則・線路本部副本部長は打ち明ける。 JR 西の佐野施設課長も「『昼の仕事が良い』、『休みが少ない』と言って、入社して数日でやめてしまう若い人がいる」と話す。

国土交通省による全国の建設作業員(鉄道の保線作業員を含む)を対象にした調査(2019 年)では、約 45% の作業員が月に計 8 日未満の休みしかとれていなかった。 総務省によると、08 - 19 年の間に建設業全体の労働人口は 12% 減少したが、大鉄工業の下請け企業では 23% が離職した。 同社は夜間作業が敬遠されたとみている。 JR 西と大鉄工業は、人手不足対策と作業の効率化のため、電柱や枕木の交換を自動でできる作業車などを研究開発し、実用化している。 枕木を木製からコンクリート製に変えて耐用年限を長くしたり、架線の構造をシンプルにしたりして作業負担を軽減する努力も続けている。

しかし、昼間に電車を止めるわけにはいかず、作業はどうしても終電後に。 労働環境の抜本的な改善は難しい。 一方で、おおさか東線(新大阪 - 久宝寺)が 19 年に全線開業し、31 年にはなにわ筋線の開業も見込まれるなど作業はむしろ増えている。 そこへ新型コロナウイルスの感染が広がった。 JR 西は、利用客が激減したことを受けて、大幅に便数も減らして対応。 社員どうしの「密」を避ける目的もあり、5 - 7 月には、駅員や乗務員、車両検査の担当社員らを 1 日あたり最大で約 1,400 人休ませる「一時帰休」も試みた。

一方で、いくら減便しても、線路のメンテナンスは必要だ。 保線作業員は一時帰休の対象にはならず、従来と同じペースで作業を続けている。 その負担感は大きい。 佐野施設課長は「作業員たちは、見えないところで『鉄道の安全のために』という気持ちでやっている」と言う。 何年も経験を積まないと一人前になれないといい、「技術継承のためにも労働環境を改善する必要がある」と話す。 終電の前倒しによって日々の作業時間を長く確保できるため、休日を増やせるという。 「安全運行を維持するための終電の前倒し。 理解を求めていきたい。」 (古田寛也、asahi = 9-23-20)

JR 西日本の終電前倒し> JR 西は保線作業員の働き方改革のため、来年 3 月から、大阪環状線や神戸線、京都線など近畿の 12 の主要路線の終電時刻を最大 30 分早める。 一晩の作業量は 5% 増え、1 人あたり月 1 日の休みが増えるという。 新型コロナウイルスの影響で深夜の利用が激減していることも背景にあり、JR 東日本も来春のダイヤ改定で首都圏の在来線の終電を早めると発表している。