「求む副業人材」大手企業で募集拡大 競争率 300 倍も

副業として働いてくれる人を求めます - - 大手企業で人材を募る動きが広がっている。 自社にはない知識や経験を生かしてもらうねらいだ。 コロナ禍で在宅勤務が進み、応募しやすい状況も生まれている。 一方で、長時間労働をどう防ぐかなど課題も多い。

DeNA も副業 OK 「収入はランチ代の足し程度でも …」

IT 大手ヤフーが 7 月から始めた公募には約 110 人の採用枠に 4 千人超が殺到した。 ネットサービスを企画する「戦略アドバイザー」などが仕事の内容だ。 採用者は 10 月から 3 カ月契約で勤務を始める。 原則出社せず、オンラインで会議などに参加する。 月 5 時間ほどの勤務で月給は 5 万円ほどを想定。 湯川高康・執行役員は「社外の発想を組み合わせれば新しいものが生まれる」と期待する。

生活用品メーカーのライオンは 5 - 6 月、新規事業の戦略立案などの人材を募った。 同社が重視したのは人材の「鮮度」。 最新の知識や経験がある人を呼び込もうとした。 5 人程度の枠に 40 歳代を中心に 1,649 人の応募があり、競争率は 300 倍を超えた。 営業や研究職など他社の正社員からも応募があったという。 同社ビジネス開発センターの佐々木聡さんは「新規事業の可能性を探るにあたり、外の目を生かしていきたい」と話す。

日用品大手のユニリーバ・ジャパンは、7 月からずっと受けつける。 各部署からの要望に応じたもので、年間最大 30 人の登用を見込む。 月 10 時間ほど働き、報酬は 10 万 - 20 万円を見込む。 島田由香・人事総務本部長は「テレワークで空いた時間を生かして、いくつかの仕事をかけもちする人が増えている」という。 ダイハツ工業も今月 10 日から 3 人程度を募集している。 車や電車などを組み合わせスムーズな移動を実現する「MaaS (マース)」の分野で、活躍してもらう。 飲料大手のダイドーグループホールディングスも募集を始める予定だ。 ほかにも三菱地所、ヤマハ発動機なども副業人材を登用している。

大手企業がこぞって募集し始めたのは、コストをかけずに優秀な人材を利用できることがある。 国も働き方改革として後押しする。 厚生労働省は多くの企業で禁止されていた副業や兼業をしやすくするため、就業規則のひな型を 2018 年に改めた。 各企業は業務に支障のない範囲で認めるようになってきた。 コロナ禍で業務が減った企業には社員に促すところもある。

大手企業は IT など専門知識がある人材に注目するが、ほかにもネットを通じて様々な仕事が募集されている。 事務・経理の手伝いやデータの入力、商品の箱詰めなどもあり、一般の人でも副業は始めやすくなった。 仕事紹介サイト大手のクラウドワークスでは、6 月末の登録者は 379 万人で 1 年前より 100 万人近く増加。 成田修造副社長は「オンラインの仕事なら副業をしやすいと考えている人が多い。 ひとつの会社に依存しない働き方を求める人も増えている。」とみる。

課題は働き手の健康対策などだ。 本業の収入が少なく、仕事をかけ持ちして長時間働かざるを得ない人もいる。 厚労省は労働時間を本業先と副業先にそれぞれに申告してもらい、長時間労働を抑えるガイドラインを今月から導入した。 ただ、働く人の自己申告が前提で、適切な時間管理ができない可能性もある。 業務を請け負うフリーランス(個人事業主)は雇用関係がないとして規制の対象外とされている。 働く側も仕事ごとに時間を区別し、業務上知り得た秘密を漏らさないなど注意が必要だ。 (編集委員・堀篭俊材、asahi = 9-20-20)

副業をする際の主な注意点

○ 会社が解禁していることを確認し届け出る
○ 競合他社は禁止など会社のルールには従う
○ 業務上知り得た情報は絶対に漏らさない
○ 会社の備品や機材などを勝手に利用しない
○ 働く時間を仕事ごとにはっきりと区別する
○ 働いた時間をそれぞれの会社に正しく申告
○ 長時間働き過ぎないよう自分でも管理する


「これでやっと大学生」 広がる対面授業、1 年生に配慮

新型コロナウイルスの影響で原則オンライン授業が続いていた大学で、後期から対面授業を増やす動きが広がっている。 背景の一つには「大学生になったのにキャンパスに入れない」という 1 年生の思いがある。 鹿児島大は 10 月からの後期、学年ごとに 2 回、キャンパスで授業を受ける「スクーリング期間」を設ける。 まずは学部 1 年生約 2 千人。 10 月 1 - 14 日、感染対策をしたうえで教員の指導を受け、学生同士の交流も深めてもらう。 12 月 3 - 16 日も同様にする。 学生に伝えると、「これでやっと大学生になれる」と 1 年生が喜んだという。

前期は学部によっては対面授業もあったが、ほぼオンラインの学部もあった。 「学問は人との交流の中で生まれる。 対面の機会があるかないかで、オンラインの意味も変わってくる」と武隈晃副学長はいう。 医学や教育学の専門家と話し合いを重ね、スクーリング期間を設けることにした。 ただ通学は不安という学生もいるし、状況次第でスクーリング中止もありうる。 このため、希望者はオンラインでも受講できる仕組みを残しておく方針だ。 「いろんな可能性を考えつつ、学生に不利益のないように準備したい」と武隈副学長は話す。

九州大も春・夏学期はほぼオンライン授業だったが、10 月からの秋・冬学期は対面授業を増やす方向だ。 対面の方が教育効果が高ければ、実験や実習に限らず、感染対策をすれば対面でも可とする。 1 年生は全員必修の授業を対面で受講できる。 九大が 6 月、1 年生にオンライン授業をどこで受けたかを尋ねると、回答した 1,900 人の 4 割が「福岡県外」と答えた。 まだ引っ越しを済ませておらず、「受験以来、キャンパスに入ったことがない」という 1 年生がかなりいると学務企画課はみる。

九州では、新型コロナの 1 日あたりの感染者数が一時に比べ減少傾向にある。 琉球大や長崎大も、教室に入る人数は定員の半分以下、マスク着用などの条件を満たせば対面授業 OK とする。 ただ、長崎大の担当者は「東京など全国から学生が戻ってくるので、最初から対面は厳しいかも」と話す。 前期は実験や実習に限っていた京都大も、後期は対面での講義を認めることにした。 「経済活動も動いている。 あまり活動を縛るのはよくないと判断した。(教務企画課)」という。

一方、熊本大は後期も前期と同じく、実験や実習以外はオンラインとする予定だ。 担当者は「学生と家族の感染防止を最優先する」と話す。 6、7 月に大半の 1 年生は対面授業を経験しているといい、後期もオンラインで交流を図る。

「孤独や孤立を感じる」 40%

文部科学省によると、7 月 1 日時点で国公私立大の 24% がすべて遠隔授業、61% が対面との併用だった。 文科省は各大学に感染対策をしたうえで対面授業も検討するよう要請している。 九大は 6 月上旬、大学院も含めた全学生を対象にアンケートをした。 学生生活については 5,888 人、オンライン授業については 4,835 人から回答を得た。

生活面では「この 1 カ月、友人と直接話をしていますか」という問いに、36% が「あまりしない」、「まったくしない」と答えた。 「孤独感や孤立感を感じる」という項目には 40% が「あてはまる」、「ややあてはまる」と回答。 「よく眠れない」など、体の不調を訴える割合も前年を上回った。 キャンパスライフ・健康支援センターの丸山徹センター長は「特に 1 年生は入学式もなく、キャンパスライフを全く知らない。 2 年生以上とは大きな違いがあるだろう。」とみる。

オンライン授業の受け止め方は、1 年生と 2 - 4 年生で大きな差が出た。 対面授業を「代替できていた」と答えた 2 - 4 年生は 53% にのぼるが、1 年生は 20%。 コロナ収束後も一部の授業をオンラインでやってほしいと思うかを問うと、「思う」、「やや思う」と答えた 2 - 4 年は 73% に達したが、1 年生は 48% にとどまった。 1 年生は履修科目が多く、すべてオンラインだと負担も大きいと、調査に携わった九大教育改革推進本部の長沼祥太郎講師はみる。

オンライン授業の形態ごとの様々な意見も寄せられた。 録画された講義動画を視聴する「オンデマンド型」は好きな時間にできる半面、やる気が出にくい。 生中継の「ライブ型」は、やる気は出るが時間に縛られるなど、それぞれの利点や欠点も浮かび上がった。 九大は今後、望ましいオンライン授業の事例を学内で共有し、授業の質を高めていくという。 鹿児島大も6 月上旬、1 年生 1,950 人対象にアンケートした。 オンライン授業の課題の多さや「友だちがいない」などの不安が多く寄せられた。 (渡辺純子、asahi = 9-13-20)


雇用と賃金、統計が示す 2 つの事実 新たな課題は?

2012 年 12 月に発足した第 2 次安倍政権は「アベノミクス」と呼ばれる一連の経済政策を打ち出し、雇用情勢は大きく改善したとされています。 一方で、市民の暮らしは楽になっていないという声も根強く聞かれます。 雇用統計から言えることは「どちらも事実」。 データから新たな政権の課題を見ていきます。

求人倍率と失業率は改善

安倍政権の 7 年 8 か月で大きく改善したのが有効求人倍率です。 仕事を求める人 1 人に対して、企業から何人の求人があるかを示します。 政権発足時の 2012 年 12 月には 0.83 倍でしたが、おととしには 1.63 倍に上昇し、およそ 45 年ぶりの高水準となりました。 完全失業率も改善しました。 2012 年 12 月には 4.3% だったのが去年 11 月には 2.2% に低下。 1992 年 10 月以来の低水準となりました。

新たな雇用も

背景にあるのは新たな雇用の増加です。 企業などで雇われて働いている人 = 「雇用者」のうち役員を除いた数は、去年、5,669 万人と、比較可能な 2013 年と比べて 400 万人以上増えました。

半分以上が非正規

ただ、その詳しい内容を見ると違う面も見えてきます。 新たに増えた「雇用者」の半数以上は、パートやアルバイト、契約社員などの非正規労働者でした。 「雇用者」のうち、非正規労働者が占める割合は年々高くなる傾向にあり、去年は 38.2% と比較可能な 2013 年に比べて 3 ポイント高くなりました。

賃金データも↑↓両面が

賃金のデータからも同じく両面の事実がうかがえます。 政府はデフレからの脱却を図るためには賃金の引き上げが欠かせないとして繰り返し経済界に賃上げを要請してきました。 こうした中、2014 年からことしまで春闘での賃上げ率は 7 年連続で 2% 台となり、政府の要請を受けた「官製春闘」とも呼ばれました。 また、最低賃金についても政府は全国平均で時給 1,000 円を早期に達成するという目標を掲げ、去年まで 4 年連続で 3% 台の大幅な引き上げが行われました。

厚生労働省がまとめている働く人 1 人あたりの給与総額は去年までの 7 年のうち 5 年で前年比プラスとなりました。 ところが、物価の変動分を反映した実質賃金で見てみると、逆の結果に。去年までの 7 年のうち 5 年で前年比マイナスとなっています。 賃金の額は上がったものの、物価の上昇などに追いついていないのです。 「暮らしは楽になっていない」という多くの人の実感は、統計データからも裏付けられています。

コロナ影響でかげりも

そして、今、雇用統計には新型コロナウイルスによる深刻な影響が出始めています。 有効求人倍率は 1.6 倍を超えていたものが、ことし 7 月には 1.08 倍まで低下。 企業などで働く「雇用者」も減少に転じ、ことし 7 月まで 4 か月連続で去年の同じ月との比較でマイナスとなりました。 とくに顕著なのが非正規労働者の減少で、しわ寄せが立場の弱い非正規労働者に真っ先に及んでいることを示しています。 完全失業率も年平均で去年は 2.4% という低い水準となっていましたが、ことし 7 月は 2.9% と増加していて、さらなる悪化も懸念されています。

賃金にも深刻な影響が出ていて、給与総額はことし 7 月まで 4 か月連続で去年の同じ月を下回りました。 とくに娯楽業や宿泊業、飲食サービス業などでは労働時間が短くなり、残業代などが大幅に減少しています。 最低賃金の引き上げ額も去年は全国平均で 27 円でしたが、ことしはわずか 1 円となりました。 雇用や賃金にどこまで影響が広がるのか不透明な中、改善への道筋をつけられるのか。 新たな政権では難しいかじ取りが求められます。

賃金上がれど生活は改善せず

統計データによりますと、「業績は上がったけれど社員の暮らしにまでは恩恵が及んでいない」という企業が多いとみられます。 東京・武蔵村山市の機械加工業「平田精機」はそうした企業の一つ。 およそ 20 人の社員が大手メーカーからの受注を受け精密機械の部品などを加工しています。 会社によりますと、アベノミクスの影響などで大手から安定して仕事を請け負うことができたということで、中小企業向けの国の補助金を活用した設備投資も積極的に行いました。 ここ 7 年、業績は好調で、社員の給料も上げてきました。

ところが、社員の暮らしが上向いたわけではないといいます。 社会保険料の負担増や消費税の増税などに給料の増加分が追いついていないということで、実質的な賃金上昇には至っていないのです。 42 歳の男性社員は「給料は確かに上がっているがその分、負担も増えている。 子どもにかかる支出も多く、結局、就職したときから実質的な給料は変わらず生活が楽になったという感じはしない」と話しています。

ことしに入ってからは、新型コロナウイルスの影響があるため、会社の先行きは不透明です。 藤元佳子社長は「社員は会社にとってなくてはならない存在でなんとか生活を改善させてあげたいが先行きも不透明で難しい。 社会保険料の増加は会社にとっても負担だが、経営者にはどうすることもできない問題で、どうすればいいか常に頭を悩ませている。」と話しています。 (NHK = 9-9-20)


「家や車、一生買えぬ」 据え置きの最低賃金に異議殺到

「今年は最低賃金を引き上げない。」 そう結論づけた 7 都道府県の一つ、東京の最低賃金審議会には、再考を求める「異議」の申し立てが前年の 5 倍以上も寄せられました。 「貧困で苦しい」、「新型コロナウイルス下で低賃金で働く人に報いて」などの切実な声が殺到したのです。 異議を受けた審議会は、こうした声にどう向き合い、どんな結論を出したのでしょうか。

「少し高いお肉なんて」

「うつ病の原因になった長時間労働は、最低賃金が今より高かったら、しなくてすんだことです。 どうか最低賃金引き上げ凍結を撤回してください。(50 代、非正規労働者)」
「昼間は不動産屋で働いていますが最低賃金です。 消費税も上がり、家計が圧迫されているのに、見合った給料がもらえません。(40 代、ダブルワーカー)」
「保育士は国家資格なのに、子どもたちの命を守っているというのに、(賃金が)低いです。 最低賃金で働かされている人たちが、どれだけいるでしょうか。 貧困で苦しい人がほとんどだと思います。(20 代、非正規保育士)」
「私は両親のように家を建てたり車を買ったり、休日に少し高いお肉を買ったりなんてことは、一生できないのだろうなと思っています。(20 代、非正規労働者)」

最低賃金の大幅引き上げを訴える市民団体「エキタス」には 8 月、こうした切実な声が 170 人から届いた。 労働者側と使用者側の委員、そして大学教授ら中立の公益委員でつくる「東京地方最低賃金審議会」が 8 月 5 日、新型コロナ禍で企業経営が打撃を受けていることなどを背景に、今年は東京の最低賃金は引き上げずに据え置くよう、東京労働局長に答申したからだ。 エキタスは同 19 日、集まった意見を東京労働局に提出。 「最低賃金の引き上げ凍結は、労働者の生活のリアルを無視している」と、審議のやり直しを求める「異議」を申し立てた。

東京労働局によると、今年の審議会の答申に対する異議申し立ては 66 件。 前年の 12 件を大きく上回った。 一般市民やエキタスなどの団体に加え、医療や建設、交通、銀行など、新型コロナ禍のなかでも出勤せざるを得ない「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる働き手の労働組合からも申し立てが相次いだ。 苦しい生活の働き手に少しでも報いるべきだとの意見に加え、コロナ禍でも大幅に最低賃金を上げている国があるとの指摘や、最低賃金の引き上げは個人消費の下支えになり、経済にプラスに働くと説くものもあった。

労働側の委員「一日たりとも忘れずに」

答申に対する異議の申し立てを受けて、8 月 21 日に開かれた審議会。 冒頭、事務局を務める東京労働局の職員が約 45 分にわたり、寄せられた異議の趣旨や代表的な声などを読み上げた。 その上で、会長の都留康・一橋大名誉教授が、委員に意見を尋ねた。 求めてきた「据え置き」が答申に反映されている使用者側の委員は、もちろん「裁決で決まった答申の尊重」を求めた。 複雑だったのが、異議と同じ立場で最低賃金の引き上げを求めてきた、労働者側の委員だ。

中立の公益委員が示した「据え置き」の結論を採決する際には、抗議の退席をした経緯もあるだけに、連合東京の吉岡敦士委員は「公益の先生方は、この申し入れの多さや中身を決して一日たりとも忘れずに、次年度の議論に臨んで頂きたい」と述べた。 しかし、審議のやり直しを強く求めることはなかった。 その結果、異議は粛々と退けられ、据え置き答申の維持が決まった。 なぜ労働者側の委員は、強くやり直しを求めなかったのか。

背景には、再審議を求めても、それが認められる公算がほぼないことがある。 答申は多数決で決まっており、再び採決をしても、同じ結果が繰り返されるだけだからだ。 各地の最低賃金審議会でも、異議が認められて審議がやり直されることは、ほとんどない。 そもそも異議が正式に認められるためには、答申時点までの審議では出てこなかった、新たな切り口や視点を含んでいることが必要とされる。 そのため、今回のように「異議の内容は、これまでの審議において十分に考慮されている(都留会長)」などと総括され、退けられることが多い。

勝負は「答申を出すまで」の声も

ただ、40 県が 3 - 1 円の「引き上げ」の結論を出すなかで、粛々と異議を退けた審議会の姿勢には批判も出た。 傍聴していた男性の一人は、「これだけたくさんの異議が出ている。 おかしいだろう、何を考えているんだ。」と抗議して退席。 やはり傍聴をしたエキタスの鎌田建さんは「寄せられた 170 人の声を踏まえて、審議を尽くしたのか疑問だ。 働き手の生存権がないがしろにされているように感じた。」と話した。

最低賃金の大幅引き上げを求めている全国労働組合総連合の黒沢幸一事務局長も、異議の審議のあり方には不満を示す。 一方で、一度出てしまった答申を覆すことが難しい現実がある以上、やはり「答申を出すまで」の審議会の議論が勝負だと考えている。 「そもそも、公益委員に『据え置き』の見解を出させないような、労働者側からのプレッシャーが重要。 最低賃金で働く人たちがもっと声を上げられ、それが審議会にしっかり届くように、労働界が力をつけないといけない。」 (榊原謙、asahi = 9-5-20)

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最低賃金、あなたは上がる? 40 県で引き上げ答申

今年の最低賃金の改定額が 21 日、全都道府県で出そろった。 新型コロナウイルスの影響を踏まえ、国の審議会が引き上げ額の目安を示さない異例の展開だったが、各地の審議では 40 県が時給 1 - 3 円の引き上げを答申。 全国加重平均は 1 円増の 902 円になる。 秋以降、順次引き上げられる。 最低賃金は、昨年は全国平均で 27 円上がった。 ところが、例年なら各地の引き上げ額の目安を示している厚生労働省の中央最低賃金審議会は 7 月、今年は新型コロナによる経済的な打撃に鑑みて「現行水準の維持が適当」と答申した。

しかし、都道府県ごとの審議会が各地の実情を踏まえて議論した結果、40 県で最賃を上げる答申が出た。 最高は 3 円引き上げで、青森、岩手、山形、徳島、愛媛、長崎、熊本、宮崎、鹿児島の 9 県。 茨城、香川など 14 県が 2 円、宮城、神奈川など 17 県が 1 円上げる。 一方、東京、大阪など 7 都道府県は据え置いた。 引き上げ後の最低賃金の最高額は東京の 1,013 円のままで、1 千円超も引き続き東京、神奈川だけ。 最低額は 792 円になり、秋田や鳥取、高知、大分など 7 県。東京が上げないことで、最高額と最低額の差は 221 円と、現行より 2 円縮まる。 (岡林佐和、滝沢卓、asahi = 8-21-20)

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最低賃金、引き上げ目安示さず コロナ影響、11 年ぶり

最低賃金の今年の改定について、厚生労働省の中央最低賃金審議会は 22 日、具体的な引き上げ額の目安を示さない異例の答申をまとめた。 目安額を示さないのは、前年にリーマン・ショックがあった 2009 年以来 11 年ぶり。 過去 4 年は約 3% 引き上げる内容だったが、今年は新型コロナウイルスの影響が大きく、目安額は示せないと判断した。

最低賃金は地域によって違い、実際の引き上げの有無は、審議会の結論を参考に都道府県ごとに決める。 現在は東京都が時給 1,013 円で最も高く、青森・島根・高知・鹿児島など 15 県が 790 円で最も低い。 全国加重平均は 901 円。 新型コロナで引き上げ凍結を求める経営側と、格差是正などのために引き上げを求める労働側の隔たりは大きく、20 日から 3 日連続で断続的に続いた大詰めの審議は 22 日夜にようやく決着した。 (滝沢卓、岡林佐和、asahi = 7-22-20)


7 月の失業率、2.9% に コロナで雇用への打撃広がる

総務省は 1 日、7 月の完全失業率(季節調整値)が前月から 0.1 ポイント上昇し、2.9% になったと発表した。 悪化は 2 カ月ぶり。 新型コロナウイルスの影響による経済の冷え込みで、雇用への打撃が広がっている。 7 月の完全失業者は 196 万人で、前月より 2 万人増えた。 仕事は失っていないが休業している人は 220 万人だった。 休業している人は 4 月には 597 万人いたが、6 月には 236 万人まで減っていた。

また厚生労働省が 1 日発表した 7 月の有効求人倍率(季節調整値)は前月より 0.03 ポイント低い 1.08 倍で、7 カ月連続で悪化した。 就業地別では、東京が 0.97 倍と、2013 年 5 月以来、7 年 2 カ月ぶりに 1 倍を割り込んだ。 最も低いのは沖縄の 0.74 倍。 一方、地域により、持ち直しの動きも出始めている。 (asahi = 9-1-20)


ホンダ、通勤手当廃止 在宅勤務手当を新設

ホンダは 10 月 1 日から、固定支給してきた通勤手当を廃止する。 定期代などの代わりに、本社や工場といった拠点へ実際に出社した回数に応じて実費精算で支払う。 在宅勤務用の手当も新設する。 新型コロナウイルスの感染拡大で普及したテレワークに対応した制度の整備を進める。

これまでホンダは公共交通機関で出勤する人には定期代、自家用車を使って通う人にはガソリン代を 1 カ月単位で固定支給してきた。 10 月から出社日数や走行距離に応じた支払いに切り替える。 自宅などで働く人を対象とした在宅勤務手当も併せて導入する。 1 日あたり 250 円を支給し、在宅勤務で増加する光熱費や、ヘッドセットといった備品購入の負担を軽くする。

新型コロナによる働き方の変化を受け、IT (情報技術)企業を中心に、通勤手当を見直す動きが広がっている。 ソフトバンクは 9 月から通勤定期代の代わりに通勤の交通費を実費で支払う。 在宅勤務を想定した月額 4,000 円の手当を導入する。 NTT グループは 10 月から 1 日あたり 200 円の在宅勤務手当を支給する方針だ。 (nikkei = 8-29-20)


女性教員の割合、中高大学などで過去最高に 文科省調査

中学校や高校、大学などで教える女性教員の割合が今年度、過去最高になったことが 25 日、文部科学省の学校基本調査(速報値)で分かった。 文科省は、女性が働きやすい環境整備が進んだ結果とみている。 ただ、高校や大学の女性教員は 3 割前後で、上の学校になるほど割合が小さくなる傾向は変わっていない。 調査は 1948 年度から毎年行っており、今年度は 5 月 1 日現在の状況を調べた。 その結果、女性教員の割合は、▽ 幼稚園 93.4%、▽ 幼保連携型認定こども園 94.8%、▽ 小学校 62.3%、▽ 中学校 43.7%、▽ 義務教育学校 54.4%、▽ 高校 32.5%、▽ 中等教育学校 35.2%、▽ 特別支援学校 61.9%、▽ 大学 25.9% - - だった。

文科省によると、幼稚園と小学校以外は過去最高の割合となった。 大学の女性教員数は前年度より約 1,500 人増え、過去最多の約 4 万 9 千人だった。 文科省の担当者は女性の社会進出や働き方改革などを理由に挙げ、「もともと女性の割合が高い幼稚園や小学校以外でも増えたのは成果のあらわれ。 ただ、管理職はまだ少ない。 能力ある女性の積極登用が進んで欲しい。」と話す。 一方、小学校の児童数は前年度比で約 6 万 8 千人減の約 630 万 1 千人、中学校の生徒数は同約 7 千人減の約 321 万 1 千人で、いずれも過去最少だった。 (伊藤和行、asahi = 8-25-20)


KDDI の「ジョブ型雇用」に注目集まる 日本型雇用から脱却できるか、単なる賃下げに終わるか

KDDI が職務に対して賃金を支払う「ジョブ型雇用」の導入を決定したことが話題となっています。 年功序列に代表される硬直した雇用制度が変わると期待する声がある一方、解雇のリスクが高まることや、単なる人件費の削減に制度が利用される可能性を懸念する声もあるようです。

日本型雇用が事実上消滅か

雇用形態には、社員であることそのものに賃金を支払うメンバーシップ型と職務内容に応じて賃金を支払うジョブ型の 2 があるといわれています。 しかしながら、メンバーシップ型と呼ばれる雇用制度になっているのは主要国では日本だけですから、メンバーシップ型 = 日本型雇用、ジョブ型 = 標準的な雇用、と考えてよいでしょう。

KDDI には約 1 万 3,000 人の正社員が勤務していますが、8 月から段階的にジョブ型の雇用制度に移行します。 ジョブ型になれば、仕事内容によって賃金が決まりますから、年次が若い人の給料が一律に安くなるということは、少なくともルール上はなくなるはずです。 しかし業務に対して賃金を支払うということであれば、時代の変化によって該当する業務がなくなった場合、会社に居場所がなくなってしまう可能性も否定できません。 ジョブ型と終身雇用は基本的に相容れませんから、日本型の雇用が事実上消滅したとの見方もできるでしょう。

もっともよくないパターンは、ジョブ型への移行が単なる賃下げの理由にされてしまうことです。 ジョブ型に移行する場合には、職種ごとに標準的な賃金を設定する必要がありますが、この標準賃金や個別の評価点を恣意的に設定すれば、多くの人が減給となってしまい、総人件費が減らされる可能性もあります。 単なる賃下げになってしまえば従業員の士気は下がる一方ですから、ジョブ型にうまくシフトするためには、会社側の姿勢が強く問われることになります。 その意味では、他社に先がけてジョブ型への移行を表明した KDDI の取り組みに対しては、多くの企業がその結果に注目しています。

ジョブ型という名称はともかくとして、人口減少と市場の縮小が進む日本の場合、右肩上がりの成長を前提にした従来型の雇用制度を維持できないのは明白です。 会社に所属していることではなく、会社に提供するスキルに対して賃金が支払われる制度に移行するのは、ごく自然な流れといってよいでしょう。 日本の会社員は就職ではなく就社するなどと揶揄されていましたが、これからのビジネスパーソンは、真剣にスキルを磨く努力が必要となりそうです。 (The Capital Tribune Japan、The Page = 8-13-20)


リモート飲み、男性が「スッピン見たい」 リモハラ急増

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて急激に広がったテレワーク。 上司や同僚と直接顔を合わせないために、やりとりがスムーズにいかず、ストレスを抱える人が増えている。 新しい働き方の定着に向け、コミュニケーションのあり方が問われている。 6 月中旬、東京都内の大手企業で広報部に所属する 20 - 40 代の男女 6 人が、3 カ月ほど続く在宅勤務について感じていた不安やモヤモヤをリモートで打ち明け合った。

まず話題になったのは、メールでのやりとりだ。 35 歳の女性は、受信メールが増えたために返信が遅くなった。 すると上司が電話をしてきて、「寝てた?」と言われたという。 上司との距離が近すぎる - -。 テレワークにストレスや不快感があった人は、8 割にのぼるそうです。 世代間ギャップも一因のようです。 38 歳の女性は「用件だけのメールが冷たく感じてしまう。 意思疎通がうまくいかないことも増えた。」と話す。 交代で一部の社員が出勤しているが、出勤者と在宅者で業務量や情報量に差が出て、すれ違いや不信感も生まれているという。

39 歳の男性は電話に悩む。 「話した方が早く済むけど、相手が部下でも電話をかけるタイミングには悩んでしまう。」 一方、50 代以上の上司からの連絡はメールよりも電話が多い。 「オンライン会議中だと伝えていてもかかってくる。」 4 月に配属された 28 歳の男性は、オンライン会議の時に自分が映る画面が上司にどう見られているか、気になっている。 自宅の室内は映したくない。 「画面の背景をぼかしたり、バーチャル映像にしたりしたら失礼でしょうか。 カメラをオフするのもダメですか。」と同僚に問いかけた。

仕事を終えても、それぞれが自宅などで飲食しながらオンラインで会話する「リモート飲み」もある。 女性の中には、自宅なので化粧をせず、カメラを「オフ」にして参加する人も。男性から「スッピンが見たい」、「オンにして」と言われ、不快だったという。 ハラスメント対策の研修を行っているダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社(東京)が 5 月にインターネットで実施した調査によると、テレワークで上司とのコミュニケーションにストレスや不快感を感じたことが「何度もある」、「ある」と答えた人が 79% にのぼった。 9 割以上は、上司との距離が近すぎることによるストレスや不快感を感じると答えた。

なぜ画面越しなのに近く感じるのか。 同社代表の倉本祐子さんは、▽ 家で仕事していることでプライベートと混同してしまう、▽ 画面で顔がアップになることで、対面より近いと錯覚してしまう - - などを挙げる。 「生活空間でテレビ会議をすれば、ベッドや洗濯物、本棚などが映り込む。 それらについて、バラエティー番組で芸人さんがするように『突っ込む』ことがコミュニケーションだと信じている上司が多いのでは。」と読み解く。

「ルールがないまま急にテレワークが始まったことで行き違いが起きている。」 SOMPO リスクマネジメント(東京)の上級コンサルタント梶尾詩織さんは、こう見る。 同社は、リモートの場でのハラスメントを「リモハラ」と称し、5 月末に企業向け研修を発表すると問い合わせが急増した。 メールや SNS、電話などの使い方は世代によって異なる。 梶尾さんは「新たなルールを作るために、まずは何を不快に思うのか、社内アンケートなどで洗い出し、世代間ギャップを埋める必要がある」と話す。

東京都の今年 5 月の調査では、従業員 30 人以上の企業で 62%、300 人以上の企業では約 8 割がテレワークを導入済みだ。 テレワーク導入を支援する日本テレワーク協会(東京)の田宮一夫専務理事は、「グループチャットなどのコミュニケーションツールを使いながら、情報共有、進捗の管理、助言、課題の解決、評価を行わないといけない。 日本型のマネジメントのあり方も変わってくると思う。」と話す。 (斉藤寛子、伊木緑、asahi = 8-9-20)


失業率、なお悪化懸念 6 月微減も雇用の受け皿は限定的

有効求人倍率の悪化が続いた一方、総務省が 31 日に発表した 6 月の完全失業率(季節調整値)は、前月より 0.1 ポイント低い 2.8% と 7 カ月ぶりに改善した。 だが、勤め先の都合で離職した人は 5 カ月連続で増えるなど、新型コロナウイルスの影響は続いており、これから失業率は再び悪化に向かうとの見方が強い。

完全失業者は 194 万人で、5 月に比べて 3 万人減った。 失業者が増えていない背景について、第一生命経済研究所の星野卓也・副主任エコノミストは、雇われて働く人が減る一方、自営業などで働く人が増えた点に注目。 「新型コロナで失職した人が、ネットを通じた仕事のマッチングサービスなどを使い、フリーランスとして働き始めているのではないか」とみる。

ただ、働き手の大半を占める雇われて働く人の数は 3 カ月連続で減っている。 フリーランスなど他の働き方は、雇用の受け皿としては限られるため、星野氏は失業率の見通しについて「再び悪化し、年末までに 4% を超える」とみる。 一方、勤め先から仕事を休むように言われた休業者の数は、緊急事態宣言が出た 4 月は 597 万人に急増したが、5 月は 423 万人、6 月は 236 万人まで減った。 総務省の抽出調査によると、5 月に休業していた人のうち約半数は 6 月に仕事に戻ったが、45% は休業が続いた。 仕事に戻れないまま、失業したり、働くことをやめてしまったりした人も 7% いたという。

31 日は東京都で 400 人を超える新規感染が確認され、飲食店に改めて営業時間の短縮などを求める動きも出ている。 星野氏は「再び社会の動きが止まるような事態になれば、事業の見通しが立たないとして倒産する企業が増え、失業率もより悪化するだろう」と指摘する。 (岡林佐和、滝沢卓、asahi = 8-1-20)


派遣労働者の雇用維持 派遣会社に要請を 国に申し入れ

企業に再三、雇用の維持を要請しているにもかかわらず、新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止めにあう労働者があとを絶たないとして、支援するグループが国に対し、特に派遣会社への要請を強めるよう申し入れました。 申し入れを行ったのは、労働組合や大学教授、それに弁護士などでつくるグループです。

それによりますと、派遣労働者からの相談のおよそ 3 割が解雇や雇い止めに関するもので、その割合は正社員や契約社員より高く、国が企業に再三雇用の維持を要請しているにもかかわらず、特に派遣労働者では、解雇や雇い止めにあうケースがあとを絶たないとしています。 そのうえで国に対し、実態を調べ、派遣会社に雇用の維持や休業中の補償を十分に行うよう、一層強く要請することを求めています。

申し入れのあと会見に参加した、派遣で保育士として働く 20 代の女性は、派遣先が臨時休園となった期間、休業手当が賃金の6割しか支払われず、組合に加入して団体交渉をした結果、全額支払われることになりましたが、その後、雇い止めになったということです。 女性は「保育士は不足しているはずなのに、休業手当がはじめ十分に支払われなかったうえに突然、雇い止めにあい、その対応に疑問を抱きました。 派遣会社は、早く次の派遣先を探して雇用の維持に努めてほしい。」と話していました。 (NHK = 7-31-20)


渡航後に無給待機 → 説明求めた看護師解雇 東京女子医大

東京女子医科大学病院(東京都新宿区)で 4 月から新人看護師として働き始めたばかりの女性 (21) が、6 月末で解雇された。 新型コロナウイルスの感染が拡大していた 2 月末から 3 月はじめに海外への卒業旅行をした 3 週間後、病院から無給での自宅待機や自費での PCR 検査を求められた。 こうした対応の詳しい理由を説明してほしいと伝えたところ、「勤務態度が芳しくない」などとみなされたという。

女性は、東京女子医大看護専門学校(東京都荒川区)で学んだ。 国家試験を終え、卒業を待つだけだった 2 月 27 日、米国ロサンゼルスに卒業旅行に出かけた。 専門学校で 2 月中旬に海外渡航は控えるように言われたが、3 カ月前から計画していたこともあり出発した。 現地の友人宅に滞在し、3 月 5 日に帰国。 海外へ渡航したことは、3 月下旬にあった病院からのアンケートに答えて伝えた。 病院の寮に転居し、初出勤に備えていた 3 月 31 日夜、病院から電話で 3 週間の自宅待機を言い渡された。 さらに自費(5 万 5 千円)でPCR検査を受けるよう指示された。

検査の結果は陰性。 女性は 4 月 23 日から働き始めた。 ところが 5 月に入り、病院から、@ 海外渡航についての弁明書か始末書の提出、A PCR 検査の自費負担、B 自宅待機中は無給 - - の 3 点を自宅待機解除の要件として同意するという内容の書面の提出を求められた。 女性によると、就職前に海外渡航した新人看護師は 30 人以上おり、病院側に対応をただす質問が相次いでいたという。

女性は 5 月末に同意書を提出。 同時に、法的根拠などを丁寧に説明してほしいと伝えた。 すると 3 日後、6 月 30 日に雇用契約を終了するとの通知書が届いた。 通知書には、「海外渡航したことや PCR 検査代金の自己負担にかかわる同意書の提出までの経緯などに鑑み、勤務態度が芳しくないものと判断した」などと書かれていた。 寮からの退去も命じられ、4 年働けば免除されることになっていた看護専門学校時代の奨学金計 108 万円の返却も求められた。

職場と住む場、同時に失い転々と

東京女子医大は取材に対し、「双方の弁護士間で折衝中の事案であり、コメントは控えさせていただく(広報室)」としている。 女性は親から虐待を受けて育ち、保護された後に 15 歳から里親のもとで育った。 高校卒業後、シェアハウスで生活しながら看護専門学校で学んできた。 身を寄せる家もないため、解雇によって職場と住む場を同時に失った。 6 月 28 日に寮を出てからは家財道具など荷物を 3 人の知人宅に分けて置かせてもらい、約 2 週間、スーツケースを抱えて友人宅を転々と渡り歩いた。 いまはなんとか住まいは確保できたという。

「海外渡航をしたことは反省している。 でも、帰国後 3 週間以上たって命じられた自宅待機が無給というのは納得できない。 私はやめる気はなかったし、ちゃんと説明してほしいと言っただけなのに …。」と女性はうなだれる。 奨学金の返却期限は 7月末とされている。 弁護士を通して返却免除などを求めているが、話し合いは平行線という。 女性から相談を受けた弁護士は「帰国して 1 カ月以上たってから PCR 検査を自費で受けさせ、陰性証明として使ったことも疑問だし、それらの対応について説明を求めたからといって解雇するのはさらにおかしい」と話す。 (編集委員・大久保真紀、asahi = 7-18-20)

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ボーナスなく看護師数百人退職の恐れ 東京女子医大病院

東京女子医科大学病院(東京都新宿区)が、夏の一時金(ボーナス)を支給しないと労働組合側に伝えていたことがわかった。 新型コロナウイルスの感染拡大で経営が厳しくなり、医療従事者がしわ寄せを受けている。 看護師らが数百人規模で退職する可能性もあり、地域医療に影響が出ることが懸念されている。 関係者によると、東京女子医大病院ではコロナ禍で大幅に収入が減ったなどとして、6 月半ばに夏のボーナスを支給しないことを決めた。 看護師の昨年の実績は、1 人あたり平均で約 55 万円だったという。

労組は理事会に再検討を求めているが、待遇の悪化を受けて退職を検討している看護師らが多数いる模様だ。 関係者によると、退職する意向の看護師は、都内の系列病院も含めて全体の約 2 割に相当する 400 人規模になるとみられる。 同病院は1千超の病床があり、東京都が指定する救急搬送先の一つになっている。 都は「現時点では状況を確認できておらず、今後の対応を検討している(医療政策課)」という。 同病院は朝日新聞の取材に、14 日夕方時点で回答していない。

新型コロナウイルスの感染拡大で、患者が受診を控えるようになり、全国的に病院の経営は悪化している。 日本医療労働組合連合会の調査では、全国の約 350 の医療機関や福祉施設などの 3 割超で、この夏の看護師らへのボーナスが減る見通しだ。 最前線で働く看護師らの待遇改善が、大きな課題になっている。 (内藤尚志、細見るい、asahi = 7-14-20)