8 月の中国 PPI は前年比 -2.0%、CPI は +2.4%

[北京] 中国の 8 月の生産者物価指数 (PPI) は 7 カ月連続の低下ながら、低下幅は過去 5 カ月で最も小さく、新型コロナウイルス禍から工業部門が順調に回復していることをうかがわせた。 消費者物価は、豚肉価格の急騰に歯止めがかかり、上昇率が鈍化した。 中国国家統計局が発表した 8 月の PPI は前年比 2.0% 低下。 ロイター調査によるアナリスト予想と一致した。 7 月は 2.4% 低下だった。 消費者物価指数 (CPI) は前年比 2.4% 上昇。 こちらもアナリスト予想と一致した。 7 月は 2.7% 上昇だった。 アフリカ豚熱の流行で昨年 8 月から急騰している豚肉価格は前年比 52.6% 上昇で、7 月(85.7% 上昇)から大きく減速した。

変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアインフレ率は 7 月と同じく前年比 0.5% 上昇。 ただし前月比では 0.1% 上昇と 1 月以来のプラスとなった。 キャピタル・エコノミクスの中国シニアエコノミスト、ジュリアン・エバンスプリチャード氏は、今後は豚肉の供給回復が続き、総合 CPI はさらに鈍化するとの見方を示した。 PPI は前月比 0.3% 上昇で、7 月(0.4% 上昇)から若干減速した。 国家統計局は声明で「8 月は鉱工業生産が引き続き回復し、市場の需要も改善が続いた」と説明した。

ただ華宝信託のエコノミスト、ニー・ウェン氏は、PPI が年内に前年比プラスに回復することはないとみる。 「つまるところ、(新型コロナの)パンデミック(大流行)がいつ収束するかだ。 冬になると中国で感染が再び拡大する可能性が強く、(鉱工業生産の回復を巡り)なお不確実性が高い。」と述べた。 (Reuters = 9-9-20)


中国経済、工業生産主導の回復続く 7 月の小売売上高なお減少

7 月の工業生産は前年同月比 4.8% 増 - 小売売上高は 1.1% 減
消費の出遅れ続く、速いペースの景気回復期待は後退 - コメルツ銀

中国経済は 7 月も回復が続いた。 工業生産が前月と同じ伸びを維持する一方、消費が引き続き足を引っ張った。 7 月の工業生産は前年同月比 4.8% 増。 市場予想中央値は 5.2% 増、6 月も 4.8% 増だった。 小売売上高は同 1.1% 減、予想は 0.1% 増加。 7 月の失業率は調査ベースで 5.7% と前月と同じだった。 1 - 7 月の固定資産投資は前年同期比 1.6% 減と、市場予想と一致した。

7 月の経済指標は中国の景気回復がなおまだら模様で、工業生産の持ち直しに消費が追い付いていないことを示した。 米国との対立激化や新型コロナウイルス感染再拡大の可能性が年初来で予想外に堅調な外需にリスクとなる中で、持続的な景気回復には個人消費の力強い持ち直しが必要になる。 コメルツ銀行の新興国市場担当シニアエコノミスト、周浩氏(シンガポール在勤)は「消費がなお後れを取っているほか、労働市場も引き続き圧迫されていることから、速いペースの景気回復期待は明らかに後退している」と指摘。 政策当局がリスク管理を強調し、一部刺激策も徐々に縮小していることから、「成長モメンタムは近い将来鈍るだろう」とコメントした。

中国当局は経済成長の主な原動力として国内経済により軸足を置いた「双循環」の発展モデルを最近強調している。 オーストラリア・ニュージーランド銀行 (ANZ) の●(= 刑のつくりがおおざと)兆鵬エコノミスト(上海在勤)は「景気回復ペースが鈍っており、成長率が潜在的な水準に戻るにはさらに時間を要するだろう」と分析。 セクター間の不均衡は全体的な刺激策で是正することはできず、年後半は的を絞った刺激策が講じられるはずだと話した。 (Bloomberg = 8-14-20)

◇ ◇ ◇

中国成長率、4 - 6 月期 3.2% 増 感染対策で経済再開

中国の国家統計局が 16 日に発表した 2020 年 4 - 6 月期の国内総生産 (GDP) の速報値は、物価の影響を除いた実質で前年同期より 3.2% 増えた。 新型コロナウイルス対策で、1 - 3 月期は 6.8% 減と統計開始以来のマイナス成長だったが、徹底した対策で感染は下火となり経済の再開が進展。 プラス成長へと転換した。 1 -6 月期で見ると、前年同期より 1.6% 減った。

同時に発表された 4 - 6 月期の生産と消費、投資の動きを示す統計は、軒並み 1 - 3 月期に比べて改善をみせている。 外国で新型コロナの流行が続き外需は弱いままだが、政府が工場の再開を推進しており、鉱工業生産は 4.4% 増となった。 1 - 3 月期の 8.4% 減から大きく戻した。 小売総額は 1 - 3 月期の 19% 減から 3.9% 減まで戻したが、プラスにはならなかった。 一部で「爆買い」が戻ったが、多くの人が失業や減収といった苦境に陥り消費全体は低調だ。 投資は 1 - 6 月期は 3.1% 減だった。 1 - 3 月期の 16.1% %減から改善した。 6 月の失業率は 5.7% で、5 月の 5.9% から改善した。 (北京 = 福田直之、asahi = 7-16-20)

◇ ◇ ◇

中国生産、4 月は 3.9% 増 4 カ月ぶりプラス

【北京 = 原田逸策】 中国国家統計局が 15 日発表した 2020 年 4 月の主な経済統計によると、工業生産は前年同月比 3.9% 増えた。 前年同月の水準を上回るのは昨年 12 月以来、4 カ月ぶりとなる。 半導体やパソコンの回復が全体をけん引した。 新型コロナウイルスの打撃から生産がいち早く回復している。 工業生産は 1 - 2 月に前年同期比 13.5% 減と統計開始以来、初めてのマイナスを記録したが、3 月のマイナス幅は 1.1% まで縮んでいた。 4 月は市場予想の平均 (+1.5%) を大きく上回った。

4 月は生産量でみると自動車や鋼材、セメントなども前年同月の水準を上回った。 政府の景気対策で公共工事の執行が進んでいるのが一因だ。 今後の生産回復には需要不足がカベになりそう。 国家統計局の調査でも多くの製造業が「新規受注が足りない」と答えている。 需要が弱いのに生産が増えているため、多くの工業素材が値下がりし、4 月の卸売物価指数 (PPI) は 4 年ぶりの下落幅を記録した。 5 月以降は輸出も落ちこみそうで、工業生産の足かせとなる恐れがある。

一方、同時に発表したスーパーや百貨店、電子商取引 (EC) などの売上高を合計した社会消費品小売総額は 4 月に前年同月比 7.5% 減った。 減少幅は 3 月(15.8% 減)から縮小したが、依然としてマイナスだ。 「巣ごもり消費」で食品や飲料などの販売が好調だった。 レストランの売上高は同 31% も減っており、回復が鈍いままだ。

オフィスビルや工場の建設など固定資産投資は 1 - 4 月の累計で前年同期比 10.3% 減った。 減少幅は 1 - 3 月(同 16.1% 減)から縮小した。 国主導で大型工事の再開を急いでいることを反映した。 道路や空港などインフラ投資は 1 - 4 月に同 11.8% 減で減少幅は 1 - 3 月(同 19.7%)から縮んだ。 一方、利益縮小や輸出の先行き不透明感から製造業の投資は 1 - 4 月に同 18.8% 減っており、マイナス幅が依然として大きい。 (nikkei = 5-15-20)


中国対外融資が膨張
途上国へ強まる支配力、重債務 68 カ国向け 4 年で倍

中国の対外融資の膨張ぶりが明らかになった。 債務の重い発展途上国 68 カ国向けの貸し付けは 2018 年末までの 4 年間で倍増し、世界最大の開発援助機関である世界銀行に肩を並べた。 融資が政策やインフラ運営を縛る「債務のワナ」が途上国を覆い、国際秩序も揺るがす。 「香港の情勢を批判するのは中国への内政干渉にあたる。」 中国が統制強化のために施行した「香港国家安全維持法」を巡り、6 月末の国連人権理事会で 53 カ国が中国を支持した。 中国批判の声明に加わったのは日本を含む 27 カ国にとどまり、ほとんどは先進国だ。

米メディアのアクシオスによると、中国を支持したのはキューバやパキスタン、カンボジア、アフリカ諸国など。 王族支配の中東産油国や強権政治の国を除くと、中国が開発資金の融資などで支援する国が名を連ねた。 中国がこのほど世銀を通じて初めて開示した途上国 68 カ国への融資状況。 18 年末の残高は 1,017 億ドル(約 10.7 兆円)に達した。 4 年間で 1.9 倍に急増し、世銀(1,037 億ドル)に迫った。 この間、世銀は 4 割増、国際通貨基金 (IMF) は 1 割増にとどまった。

中国の融資は金利が高い。 20 年の期中平均の債務残高をもとに計算すると、融資期間が比較的短いにもかかわらず平均 3.5% となり、IMF の 0.6% や世銀の 1% を大きく上回る。 途上国は専制国家も多く、IMF などから融資の条件として財政規律などを迫られるのを嫌う傾向が特に強い。 金利が高くても中国を頼るのは、こうした制約が少ないためとみられる。

68 カ国のうち 14 カ国が国内総生産 (GDP) の 1 割を超える額を中国から借り入れ、アフリカ東部のジブチでは 39% に達した。 5% 以上に達した 26 カ国をみると、過半数の 14 カ国が国連人権理事会で中国支持に回った。 米欧は中国が膨大な融資で途上国への影響力や支配力を強めるのを「債務のワナ」と呼んで警戒してきた。 中国は広域経済圏構想「一帯一路」を掲げて鉄道や港湾の建設資金を融資し、中国国有企業の受注などで自国の経済や外交、安全保障上の利益も得る。 返済に行き詰まったスリランカは 17 年、主要港湾を中国国有企業に 99 年間もリースする事態に陥った。

中国一辺倒を見直す動きもあり、アフリカ南西部のアンゴラは IMF からの 37 億ドルの融資対象になった。 世銀と IMF は途上国への融資が中国への返済の原資に充てられるだけになることには警戒を続けている。 融資の実態が明らかになったのは新型コロナウイルスがきっかけだ。 途上国が債務危機に陥ったり、医療予算の減少で感染爆発を招いたりする懸念が強まり、4 月の主要 20 カ国・地域 (G20) 財務相・中央銀行総裁会議で返済猶予に合意。 各国が抱える債務の実態把握が必要になり、中国も国別の情報を開示した。

68 カ国は返済猶予の対象国で、重い債務を抱える小規模な国が多い。 G20 では債務免除まで議論が進む可能性がある。 これまで危機のたびに日米欧の主要国を中心とするパリクラブ(主要債権国会議)が途上国救済の枠組みを決めてきたが、最大の貸し手である中国抜きで議論を進められなくなった。 香港問題などを巡る米欧と中国の対立がさらに深まれば、途上国債務での協調に影を落とす恐れもある。

中国は融資を通じて人民元の国際化も探っている。 米調査会社ユーラシア・グループは「米ドルで貸した途上国向けの債務を、一部免除する代わりに人民元建てに切り替える案が中国国内で浮上している」と指摘した。 1944 年に開かれたブレトンウッズ会議は IMF と世銀の設立を決め、ドルの基軸通貨としての地位も認めた。 それから 70 年以上続いた米国主導の国際金融秩序が中国の挑戦を受けている。 (nikkei = 8-7-20)


AIIB、5 年目の岐路 金総裁「環境融資を 5 割に」

中国の国際金融貢献

記事コピー (8-1-20)


中国の大手国有企業、上期純利益が 3 割減の背景
6 月以降の業績は前年同月超える水準に回復

7 月 16 日、中国政府の国務院国有資産監督管理委員会(略称は国資委)は記者会見を開き、2020 年 1 - 6 月期の中央企業(中央政府直轄の大手国有企業)の業績を発表した。 それによれば、今年上半期は新型コロナウイルス流行の影響を受け、中央企業の総売上高は 13 兆 4,000 億元(約 205 兆円)と前年同期比 7.8% 減少。 純利益は 4,385 億 5,000 万元(約 6 兆 7,100 億円)と同 37.7% 減少した。

だが国資委秘書長の彭華崗氏の説明によれば、上述の業績は事前の予想よりもよかったという。 と言うのも、新型コロナは一部の大手国有企業の経営に深刻な打撃を与え、中央企業全体の業績をさらに押し下げる懸念があったからだ。 例えば中国国際航空、中国南方航空、中国東方航空の航空大手 3 社は上半期に合計 140 億元(約 2,142 億円)もの損失を計上した。

また、中央企業の一部は政府の景気浮揚政策に従って利益の社会還元を実施している。 それが純利益の減少幅を広げた一面もある。 例えば国家電網と中国南方電網の送電大手 2 社は 1 - 6 月期に合計 540 億元(約8262億円)を、中国移動、中国電信、中国聯合通信の通信大手 3 社は合計 420 億元(約 6,426 億円)をそれぞれ還元した。

政府のインフラ投資拡大で設備投資が増加

なお、中国国内で新型コロナの感染拡大が抑えられるとともに、中央企業の業績は徐々に回復している。 6 月単月で見ると、中央企業 97 社のうち半数を超える 58 社の純利益が前年同月を上回り、46 社の純利益の増加率は前年同月比 10% を超えた。 また中央企業全体でも、6 月の純利益の総額は 1,664 億 8,000 万元(約 2 兆 5,500 億円)と前年同月比 5% 増加した。

生産活動も正常に戻りつつある。 中央企業による 1 - 6 月期の鉄鋼生産量、原油生産量、発電量はいずれも前年同期の 98% 以上の水準に回復した。 また、船舶の新規受注は前年同期比 21.2%、電力設備の設置容量は同 5.1%、石炭販売量は同 1.8% それぞれ増加した。 政府のインフラ投資拡大を受けて、中央企業の固定資産投資(設備投資に相当)も伸びている。 1 - 6 月期の中央企業の固定資産投資は前年同期比 7.2% 増の総額 1 兆元(約 15 兆 3,000 億円)に達し、なかでも発電、自動車、通信、金属精錬などの産業では増加率が 15% を上回った。 (財新・白宇潔/東洋経済 = 7-28-20)


中国企業の香港での重複上場相次ぐ
資金調達機能としての香港の役割はますます重要に

米国市場で株式を上場している中国の大手ハイテク・IT 企業が、香港で重複上場する事例が相次ぐ。 香港証券取引所の改革が実を結んだことに加え、米国政府などによる中国企業への規制強化の動きが広まっていることも、中国企業の香港上場を後押しする材料だ。 香港証券取引所の李小加(チャールズ・リー) CEO (最高経営責任者)は、今後の香港市場のさらなる活性化に自信をみせる。

有力企業囲い込みのため、上場規則を改正

阿里巴巴(アリババ)集団は中国の電子商取引最大手で、ニューヨーク証券取引所に上場している。 同社は 2019 年 11 月、香港で重複上場を果たした。 新規株式公開 (IPO) によって 1,012 億香港ドル(約 1 兆 4,168 億円、1 香港ドル = 約 14 円)を調達した。 資金調達額で過去最大の大型案件となった。 それまで最大だったバドワイザー・ブリューイング・カンパニー APAC(2019 年 9 月に IPO を実施し、451 億香港ドルを調達)の 2.2 倍だ。 また、2019 年に香港証券取引所で IPO を実施した全企業の資金調達総額(3,129 億香港ドル)の 3 分の 1 に迫る規模だ。

アリババに続き、2020 年 6 月には、米国新興企業向け株式市場のナスダック (NASDAQ) 上場の中国ポータルサイト運営大手の網易(ネットイース)と、中国インターネット通販大手の京東集団 (JD.com) が、香港証券取引所に上場。 それぞれ 243 億香港ドルと 301 億香港ドルを調達した。 これら 2 社の株式上場による資金調達額の合計は、544 億香港ドルに上った。 これは、2020 年第 1 四半期(1 - 3 月)の香港証券取引所で IPO 調達総額の 3.7 倍に当たる。

海外市場で上場済みの中国企業が香港で重複上場するのが相次ぐ背景には、主に 2 つの環境変化がある。

まず、香港証券取引所が 2018 年に上場規則を改正したことによって、ハイテク・IT 系などの企業が上場しやすい環境が整ったこと。 香港証券取引所は 2018 年 4 月、国際金融センターとしての競争力強化、成長性の高い企業の誘致および市場の多様化を目的に、(1) 収益を計上していないバイオ企業、(2) 1 株当たりの議決権数が異なる種類株式の発行企業、(3) 海外市場に上場する企業による重複上場を認めた。

中国企業に対する米国の規制強化も後押し

香港証券取引所による上場規則改正に加え、米中間の対立激化や中国企業による会計不正により、中国企業に対する米国政府などの見方が厳しくなっていることも大きい。 米国議会上院は 2020 年 5 月、法案を可決。 この法案には、(1) 上場企業に対して外国政府の支配下にない証明を求める、(2) 上場企業の監査内容を米国公開会社会計監督委員会 (PCAOB) が 3 年連続して検証できない場合、当該企業の上場を廃止する、ことが盛り込まれた。

このほか、ナスダックも上場審査の厳格化に向けて動き出している。 海外企業は新規株式公開 (IPO) 時に、最低 2,500 万米ドル(約 26 億円)、または時価総額の 25% に相当する額を投資家から調達するよう義務付けられるようになった。 いずれも中国企業を名指ししたものではないが、事実上、中国企業をターゲットとした規制強化策だ。

さらに 6 月には、トランプ大統領が、米国の株式市場に上場する中国企業が及ぼす投資家へのリスクを協議するための作業部会を設置する覚書に署名した。 実際、中国のコーヒーチェーンのラッキンコーヒーは、ナスダックに上場していた。 しかし、不正会計問題が発覚し、6 月には 2 度にわたり上場廃止通知を受けた。 これら米国政府などによる一連の中国企業に対する規制強化の動きが、中国企業による香港上場を促すきっかけとなった。

香港重複上場の予備軍は 30 社以上か

このように、米国で厳しい逆風にさらされる中国企業の現実がある。 外貨調達が可能で、しかも環境が十分に整備された自国の金融市場である香港に「回帰」する流れが強まるのは、自然な流れだろう。 2000 年に米議会の諮問機関として設立され、米中間の経済問題や安全保障問題について超党派で検討を行なう「米中経済安全保障検討委員会」によると、ニューヨーク証券取引所 (NYSE)、ナスダック、NYSE アメリカン取引所に株式を上場する中国企業は、2019 年 2 月時点で 156 社存在する。

このうち、IT・通信および電子商取引 (EC) を手掛ける企業は 42 社あり、中国インターネット検索大手の百度(バイドゥ)や EC プラットフォームのピン多多、動画配信大手の愛奇芸を含む 30 社以上が香港証券取引所の重複上場の基準を満たすという。 米国政府の動きを受け、5 月 21 日付「香港経済日報」では、バイドゥが香港での重複上場を検討している、と報じられている。

香港証券取引所の李小加 CEO は、6 月 22 - 24 日に開催されたブルームバーグ主催のバーチャルイベントで、「現在、多くの大型 IPO 案件を抱えており、2020 年は香港証券取引所にとって重要な年になる」と宣言。 今後の香港 IPO 市場が活況を呈するとの見通しを明らかにした。 その上で、米国で中国企業を念頭においた規制が強化されていることについて、「香港証券取引所は、規則を順守せず、問題を抱えて上場廃止となるような企業は望んでいない。 米国側が、単に中国企業というだけで市場からの退出を迫ることがないことを信じている」と見解を示した上で、「質の高い企業は歓迎する」と強調した。

今後、貿易摩擦や香港問題などを巡る米中間の緊張の高まりが、本格的に資本市場にまで広がることも考えられる。 そうなれば、香港での上場を目指す中国企業はさらに増えるだろう。 中国企業の資金調達機能としての香港の役割は短期的に変わることはなく、むしろ強化されることになろう。 香港証券取引所にとっては当面、追い風が吹き続けることなりそうだ。 (JETRO = 7-20-20)


中国が焦る人民元の国際化、米国との緊張激化で新たな重要性

中国の企業や貸し手にとってドル資金へのアクセスは死活問題
世界の決済と中銀の外貨準備に占める人民元の割合はまだ 2%

米ドルへのアクセスが制限されるかもしれないという課題に対し、中国が出している答えは自国通貨をより多くの人に使ってもらうというものだ。 米中関係緊張の影響が金融面にもますます波及するなか、中国では人民元の国際化を巡る新たな動きに火が付いている。 ここ数週間、政府当局者や影響力ある市場関係者の間では、より一層の努力を求める声が高まっている。 香港国家安全維持法(国安法)の施行に対する米国からの報復の脅威を受け、人民元の国際化は新たな重要性を持った形だ。

米国の利益や世界の金融システム全体にも大きなダメージを与える恐れがある思い切った行動に米国が出る公算は小さい。 しかし、そうしたリスクを意識させるだけで十分な警鐘となっている。 オフショア債券とオフショアローンの規模が計 1 兆ドル(約 107 兆円)近くに上り、国有銀行の負債が 1 兆 1,000 億ドルとなる状況で、中国の企業や貸し手にとってドル資金へのアクセスは死活問題だ。

スタンダードチャータードの大中華圏・北アジア担当チーフエコノミスト、丁爽氏(香港在勤)は「人民元の国際化は、中国政府にとって望ましいものから不可欠なものに変化した」と指摘。 「政治状況が不透明な中、中国はドルに代わるものを見つける必要がある。 それができなければ国に金融リスクが生じることになる。」と述べた。 世界の決済と中央銀行の外貨準備に占める人民元の割合は約 2% と依然低い。 また、中国金融市場の着実な開放は外国からの資金流入を促しているが、本土企業の株式や債券に占める外国人投資家の保有比率は相対的に小さい。

中国の焦りは最近の当局者発言からも見て取れる。 中国証券監督管理委員会(証監会)の方星海副主席は先月、人民元の国際化を通じて「潜在的なデカップリングに対するわれわれの防御能力は大幅に強化される」と述べた。 また、中国人民銀行(中央銀行)の貨幣政策委員会委員だった黄益平氏は、ドル依存度を下げることが中国には必要だと語った。 人民元を円やユーロ並みの国際通貨にする動きを加速させるためには、中国は資本規制を弱める必要がある。 しかし、それは資本流出の不安定化リスクを高めることにつながる。 輸入を拡大して経常収支を継続的に赤字にする道もあるが、こうした政策変更も想定するのは難しい。

中国人民銀の貨幣政策委員を務めた余永定氏は「人民元の国際化は資本勘定における兌換(だかん)性に大きく依存しているが、中国はその準備がまだできていない」と指摘。 その上で「中国は、米国による一連の金融制裁の可能性という深刻な課題に直面しており、中国の金融資産が凍結される恐れも排除できない。 規制当局は不測の事態に備えた計画を持っていると私は考える。」と述べた。 (Tian Chen、Jun Luo、Heng Xie、Ran Li、Bloomberg = 7-13-20)


中国本土株の値上がり止まらず、5 日続伸 - 2015 年バブル再現の恐れも

1 日当たりの売買は 1 兆元超、個人投資家の参入示唆 - 証券株に買い
14、15 年に見舞われたような浮き沈みを経験する公算小さい - 戴明氏

6 日の中国本土株は 5 営業日続伸。 急ピッチな上げは 2015 年に崩壊したバブルを想起させつつある。 CSI300 指数は前週末比 5.7% 高で取引を終了。 1 日当たりの売買も 1 兆元を上回っており、個人投資家の参加が広がりつつあることを示唆。 証券株が買われた。 上海総合指数も前週末比 5.7% 高で引けた。 低金利や一部の人気理財商品での初の元本割れなどで株式に資金が流入している。 また、国営メディアの中国証券報は 6 日、新型コロナウイルス感染症流行後に「健全な」強気相場を促すことは、経済にとってこれまで以上に重要になっていると主張。 中国のソーシャルメディアでは「株式口座の開設」の検索が盛んだ。

だが、株式バリュエーションの出発点が低めなど 14 年当時との大きな違いもある。 信用取引を手掛ける向きも増えているが、株式市場のレバレッジは 15 年のピーク時の約半分にとどまっている。 中国人民銀行(中央銀行)も 6 日、7営業日連続で金融システムから流動性を吸収した。 ●(= 王偏に行)生資産管理の戴明ファンドマネジャー(上海在勤)は、「14、15 年に見舞われたような浮き沈みを経験する公算は非常に小さい」と指摘。 不動産株を買っているという同氏は、「前回のように至るところに市場が資金であふれているわけではない。 中国当局は金融政策面でなお非常に慎重だ。」とコメントした。

CSI300 指数は年初来で約 14% 高と、世界の主要株価指数の中でも大きく値上がりし、5 年ぶりの高値を付けている。 相対力指数(RSI、14 日ベース)は約 88 と、14 年 12 月以来の高い水準にある。 一方、中国の 10 年物国債利回りは 2016 年以来の大幅上昇となった。 香港市場ではハンセン指数が 3.8% 高で取引を終了。 3 月の安値からの上昇率は 21% に達し、強気相場入りした。 (Bloomberg = 7-6-20)


コロナ禍で岐路に立つ中国 守勢に追い込んだ内憂外患

中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が 22 日、開幕した。 2 カ月半の延期を経て、ようやく行われた李克強(リーコーチアン)首相の政府活動報告は、「守り」の姿勢が目立つ内容となった。 習近平(シーチンピン)指導部に求められるのは新型コロナウイルスの感染抑制と経済の落ち込みを防ぐ「二正面作戦」だが、道のりは険しい。

発症続くが「対応は正当」と強調

「人民が壮絶な努力と犠牲を払った結果、感染対策は戦略的成果を収めた。」 人民大会堂に集まったマスク姿の代表らの前で、李氏は冒頭、共産党の指導による新型コロナ対応が正当だったと強調してみせた。 だが、中国の感染が終息したとは言い難い。 世界で最初に感染が広がった武漢では無症状の感染者の確認が続き、今月初めには約 40 日ぶりに発症者も出た。 市内を覆う恐れと不信をぬぐいたい地元当局は今、約 1,100 万人の住民の「PCR 全員検査」を進める。

町内会にあたる自治組織を動員し、団地の庭や商業施設の駐車場など様々な場所で検査が行われている。 14 日からの 1 週間で検査数は約 300 万件に上り、99 人の陽性反応が出た。 全員が無症状だったという。 武漢の封鎖は 4 月 8 日に解除され、商店は再開し交通渋滞も起きるようになった。 しかし、相次ぐ無症状の感染者の確認は、ウイルスとの闘いが長くなることを市民に覚悟させている。 ホテル従業員の魏涛さん (29) は「ウイルスは常にいるという意識で自分を守る必要がある」と、家と職場だけを往復する生活を今も続ける。

1985 年以来続いていた全人代の 3 月開催をあきらめた習指導部は開催のタイミングを模索し続けた。 今回の会期は 4 月末に決定したが、党関係者は「さらに延期を求める声は直前まであった」と明かす。 李氏が活動報告で武漢市民の努力などをたたえ「人民に心から感謝したい」と寄り添う姿勢を示したのは、8 万人以上の感染者と 4,500 人以上の死者が出る中、政治を優先したと受け止められないための配慮にも見える。 李氏は「一部の幹部に職責の不履行、能力欠如もみられる」と認め、改善も誓った。

一方、習指導部はこの非常事態のなか、国際社会の反発も承知で、昨年の党会議で宣言した香港の治安法制の整備に踏みきった。 全人代の開催には政権の安定を内外に示す狙いの半面、香港問題など対応を急がねばならない課題を抱えている事情もある。 党関係者は「多少の足踏みを覚悟しつつ、打つべき手を打つ我慢の時だ。 共産党体制の優位性が揺らぐことはない。」と強調する。

習氏は 2017 年の党大会で、改革開放を続けたケ小平時代の「豊かになる時代」から「強くなる時代」に移行すると宣言した。 だが、政権への信任の礎である経済成長の落ち込みは避けられない。 さらに新型コロナは情報開示をめぐる政権への不信、米国との対立など新たな問題ももたらした。 強国の道を突き進んできた習指導部だが、大きな岐路に立たされている。 政府活動報告でも、雇用や食糧の確保といった「六つの保障」が新たに掲げられるなど、これまでにない守りの姿勢がにじんだ。 (北京 = 冨名腰隆、武漢 = 平井良和)

米中関係、不安の要素に

「大きな代価を払ったが、かけがえのない命を前に受け止めるべき代価だ。」 李氏は厳しい感染対策で 1 - 3 月期の成長率が前年同期比マイナス 6.8% に落ち込んだ点を総括した。 中国政府関係者によると昨年末の会議で 20 年の成長率目標は 6.0% 前後となった。 だが、新型コロナは国内経済を傷つけ、世界に広がり外需も消滅させた。 国家主導経済の中国が最も重要な成長率目標を設定できないという事態は、衝撃の大きさと問題の複雑さを物語る。

難局を乗り越えるため、李氏は頼みの内需の拡大に打って出る。 財政赤字の国内総生産 (GDP) 比の目標を昨年の 2.8% から 3.6% 以上に引き上げ、感染症対策の特別国債の発行などで捻出した2兆元(約 30 兆円)を消費刺激策の財源に回す。 地方特別債の発行も昨年の 1.7 倍となる 3 兆 7,500 億元に増やして公共投資に使う。 それでも 08 年のリーマン・ショック後に中国が打ち出した「4 兆元」対策に匹敵するインパクトはない。 思い切れないのは、野放図な対策で過剰生産や大気汚染などの後遺症が出た反省があるからだ。

キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之氏は「4 兆元の際の無駄な政策もなく安定感のある内容だが、末端に政策が行き届くかが焦点だ」と見る。 指導部を待ち受ける道は多難だ。 李氏は「(感染は)終息しておらず、発展の任務はきわめて重い」と語った。 第 2 波が起きれば、景気回復は一気にしぼみかねない。

悪化の一途をたどる米中関係も不安要素だ。 李氏は「中米の第 1 段階の貿易合意をともに徹底する」と強調。 「内外企業が公平に競争する市場環境を整える」と述べ、貿易摩擦の再燃を避けたい考えを示した。 李氏は 20 年の国家目標「小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的な実現」を「確保しなければならない」と述べた。 従来の「公約」も実現させなければ、国内でも不満や批判が高まりかねない状況だ。 (福田直之、高田正幸 = 北京、西山明宏、asahi = 5-23-20)

◇ ◇ ◇

中国全人代、5 月 22 日開幕へ 2 カ月半遅れ
経済対策を議論へ

【北京 = 羽田野主】 中国の国会に相当する全国人民代表大会を運営する常務委員会は 29 日に開いた会議で、延期になっていた全人代を 5 月 22 日に開幕すると決めた。 新型コロナウイルスの新たな感染者と死者数の増加ペースが抑えられ、国内で収束に近づいているとの判断がある。 景気の悪化に歯止めをかけるため、経済対策を議論する見通しだ。 中国国営の新華社が伝えた。 全人代常務委では「新型コロナの情勢がよい方向に向かい続けており、経済や社会生活が徐々に正常に回復している」との意見で一致した。 「各方面の要素を総合的に考慮して全人代の開幕条件が整った」と強調した。

全人代は中国の憲法で年に 1 回の開催が義務づけられている重要な政治日程。 1998 年以降は毎年 3 月 5 日に開いているが、2020 年はコロナのまん延を理由に延期となっていた。 国政助言機関である全国政治協商会議(政協)は 5 月 21 日から全人代と並行する形で開く。 2 つを指して「両会」と呼ばれる。 全人代は首相が説明する経済政策の運営方針などを地方代表らが議論する場になる。 首相が全人代に示すその年の経済成長率目標に最も注目が集まるが、2020 年は新型コロナ対策を優先して数値目標の設定を見送るとの観測もある。

中国の 2020 年 1 - 3 月期の経済成長率は前年同期比マイナス 6.8% と初めてのマイナスになり、景気に急ブレーキがかかっている。 外需も乏しくなり、先行きの不透明感が高まっている。 2008 年のリーマン・ショック時には当時の最高指導部が「4 兆元(当時の為替レートで約 56 兆円)対策」を素早く打ち出したが、今回は大規模な経済対策をなお打ち出せていない。 全人代は国と地方の予算を承認し、大規模な減税や債券の発行も決めることができることから市場では大型の経済対策を期待する声がでている。

ある共産党関係者は「全人代は習指導部が新型コロナを克服したとアピールする場になるだろう」との見方を示す。 米欧日など民主主義国で新型コロナがまん延するなかで、いち早く「克服」を強調し、共産党の統治の優位性を内外に誇示するねらいがあるとみられる。 (nikkei = 4-29-20)


メイド・イン・チャイナが山積み 貯金に走る中国の若者

新型コロナウイルスの「震源地」中国は、政治や経済活動の正常化を急ぐ。 22 日には 2 カ月半遅れで全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕するが、発展を支えてきた外需と内需の両輪が打撃を受けており、局面の厳しさはリーマン・ショック後を大きくしのぎそうだ。

輸出向けの衣類や雑貨などの工場が集まる中国沿海部・浙江省義烏市。 市内にある世界最大級の卸市場はいま、閑散としている。 「注文のキャンセルばかりで新規商談はゼロ。 先が見えず不安でいっぱいだ。」 クリスマス用品業者が軒を並べる一角で、男性店長 (45) はスマートフォンをいじりながらそう話した。

30 元(1 元 = 約 15 円)のクリスマスツリー、23 元のオルゴール、2.5 元のサンタクロース型のワインボトルケース …。 豊富な種類と低価格。 細かな発注にも対応可能な小規模工場の強みを生かし、世界で使われるクリスマス用品の 6 割を義烏産が占めるとも言われる。 卸市場のクリスマス用品エリアは外国からのバイヤーで常に熱気にあふれる場所だった。

例年ならこの時期、欧米からの注文が本格化し工場はフル稼働するが、今年は新型コロナで 2 月中旬まで工場も市場も閉鎖された。 国内の感染状況が落ち着き始めた 3 月、従業員も職場に戻ったが、今度は世界各地で感染が深刻化。 中国政府は一般の外国人の入国を事実上禁じる措置に踏み切り、バイヤーの往来も商談もほぼ止まった。

「就職できたら給料の 2 割は貯金する。 家賃の安い家に住み、高い店にも行かない。」と話す 26 歳。 若者の消費行動は変わっていきそうです。

2008 年のリーマン・ショックで米欧の注文が激減したため、業者は東南アジアや南米などに販路を広げてきた。 しかし、新型コロナはほとんどの国や地域の経済を止めてしまった。 店長は「リスク分散したつもりだったが、こんな事態は考えもしなかった」と途方に暮れる。

中国で始まったコロナ禍は、国際市場の極端な冷え込みという形で再び中国を直撃し、中国の発展を支えてきた「世界の工場」を締め上げる。 義烏の今年 1 - 3 月の輸出総額は約 510 億元(約 7,700 億円)と、昨年同期比 14.7% 減。 右肩上がりを続けてきた街は立ちすくんでいる。 市内の物流会社の倉庫には、「MADE IN CHINA」と書かれた段ボールが山積みされていた。 周囲の工場から集められた輸出用商品だが、各国の空港や港湾が次々と封鎖され出荷できないのだという。

市内のパジャマ縫製工場では習近平(シーチンピン)指導部が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」の広がりに乗り、近年、取引が増えていた中東や欧州からの注文が約 9 割減った。 人件費を抑えるため、60 人の従業員の出勤を交代制にした。 国内需要を掘り起こしたいが、販路の開拓は容易ではない。 輸出担当者の女性 (42) は「輸出分の持ち直しが先か倒産が先か。 ぎりぎりの状態が続いている。」と話す。

政府は工場の再稼働を急ぎ、3 月以降、各地で工場再開が本格化していった。 1 - 2 月に大きく落ち込んだ鉱工業生産は 4 月、前年同月比 3.9% 増に転じたが、伸びは昨年 12 月の半分強。マスクなど特需を迎えた商品以外、輸出向けの工場はフル操業にはほど遠いのが実態だ。 (浙江省義烏 = 宮嶋加菜子)

個人向け支援金なし「就職できたら給料の 2 割貯金」

中国の自動車メーカー長安汽車が北京市内に構える販売店。 19 日は平日にもかかわらず 6 組の客が販売員と商談をしていた。 「買い替えようと思って来た」と初老の女性。 客の目当ては同社が実施する「新型コロナ割引」だ。 売れ筋のスポーツ用多目的車 (SUV) は約 8% 引きの 13 万 2 千元(約 200 万円)で売られていた。 中国自動車工業協会によると、4 月の中国の新車販売は前年同月比 4.4% 増の 207 万台。 ただ、そのにぎわいはうわべだけのようだ。 「割引がなければ客は来ない」と販売員は言う。 購買意欲はまだらで、セールス電話をしても「新型コロナで職が不安定で」、「お金がなくなった」と断る客も多いという。

北京市の食品企業のネット通販部門で働いていた明心さん (26) は長安の SUV を買ってすぐの 3 月、職を失った。 会社は新型コロナで材料の輸入や生産ができなくなった。 残ったのは 17 万元のローン。 「毎月 1 万 5 千元の給料をもらっていて、月 3 千元の返済はなんともないと思っていたが、収入のない身には痛い」と話す。 北京市中心部に住んでいたがルームメートと折半していた月 4 千元の家賃も払えなくなり、実家のある山東省に戻った。 いまは青島市で自作のパソコンを売って小銭を稼ぎながら職を探す。

「若者の消費は変わると思う」と明さんは言う。 最近多くの同年代が解雇された。 「996 (午前 9 時から午後 9 時まで、週 6 日出勤)」でがむしゃらに働き、中国の消費をリードしてきた世代だ。 趣味のパソコンや映画鑑賞、食事と、毎月給料を使い尽くしてきた明さんは今、有り金をかき集めてどうにか暮らす。 明さんが得た教訓は貯金の大切さだ。 「就職できたら給料の 2 割は貯金する。 家賃の安い家に住み、高い店にも行かない。」と話す。

北京市のイベント会社を解雇された男性 (32) も、故郷の吉林省で家を買ったばかりだ。 手元にお金はなく、帰郷も考えた。 だが「帰ったところで再就職の見込みは少ない」と、節約しながら北京で職を探す。 政府に訴えたいことはないか聞くと、男性は「お金をもらえれば、それに越したことはない」と答えた。 中国政府は日米欧のような個人向けの補償や支援金を支給していない。 男性は「皆に貯金するよう言いたい。 新型コロナのように想定しないことはこの先も起こるのだから。」と話す。

中国で新型コロナによる失業者は 7 千万人とも推計される。 消費者が節約に走れば、世界を驚かせてきた購買力にも影響がでる。 物価は下落し、日本に長期停滞をもたらしたデフレの深淵をのぞくことにさえなりかねない。 食品とエネルギー価格を除く中国の消費者物価(コア CPI)上昇率は 4 月、1.1% にとどまった。 この 5 年でほぼ最低水準だ。

リーマンの後遺症 有効な対策打ち出せない政府

国際通貨基金 (IMF) の見通しで、中国の 20 年の成長率は 1.2% にとどまる。 世界 (-3.0%)、米国 (-5.9%)、日本 (-5.2%) に比べれば高いが、新型コロナは中国の外需と内需の両輪を揺さぶっている。 李克強(リーコーチアン)首相は 13 日の政府の会議で「刻々と形勢を分析し、経済調整を強めよ」と指示したが、政府は有効な対策を打ち出せていない。 12 年前の後遺症があるからだ。

08 年のリーマン・ショック後、中国は 07 年の名目国内総生産 (GDP) の 7 分の 1 にあたる 4 兆元の景気対策を打ち、世界経済の底割れを防いだ。 だが、旧来型産業への投資は鉄の過剰生産や環境汚染、不動産バブルなどを招き、国内の債務もふくれあがった。 習近平(シーチンピン)指導部は 12 年の発足後、4 兆元の後遺症退治にとりかかった。 金融のリスク排除を進め、過剰生産の解消や大気汚染の改善に力を入れた。 だが、どれも未完成のままだ。

22 日に開幕する全人代では新型コロナ特別国債の発行による経済対策や、格差是正や不動産バブル対策で検討されてきた不動産税立法の先送りが話題になりそうだが、当時の 4 兆元に匹敵する超巨額の対策はとれず、金融を不安定化させる恐れのある大規模緩和も難しい。 新型コロナを契機に中国が低成長時代に突入すれば、厳しい状況にある世界経済は強力なエンジンを失いかねない。

20 年は国内の貧困人口をゼロにし、実質 GDP を 10 年比で 2 倍にするといった目標を含む「小康社会(ややゆとりのある社会)」の全面的な実現を掲げる年だ。 だが、GDP 2 倍の達成は絶望的な状況だ。 「中国共産党を支持するのは、今日より明日を豊かにしてくれるからだ。」 中国人にはそんな意識が広くある。 だが、1 - 3 月の実質成長率はマイナス 6.8% に低下。 四半期統計開始以来のマイナス成長は、中国人の政治意識に影響を与える可能性もある。 (北京 = 福田直之、asahi = 5-21-20)