さよなら日立! 三菱重工は "虎の子" の子会社で稼ぐ

火力の三菱パワーを総合エネルギー企業に

三菱重工業は 1 日に日立製作所と共同出資の火力発電システム会社を完全子会社化し、新社名「三菱パワー」として始動させた。 三菱重工の利益の大半を稼ぐ同システムの収益力をすべて取り込むとともに、三菱重工のグループ会社との連携を加速する。 ただ、環境問題を背景に石炭火力発電への逆風が強まっており、需要が先細りする可能性がある。 当面、保守などのサービスで収益を確保しつつ、水素分野に成長への布石を打つ。

三菱重工と日立は 2014 年に火力発電システム事業を統合し共同出資の三菱日立パワーシステムズ (MHPS) を設立した。 両社のタービンやボイラの技術面で融合を推進。 大型ガスタービンの世界シェアは約 3 割と、米ゼネラル・エレクトリック (GE) と独シーメンスを抑えて世界トップ。 ガスタービン・コンバインドサイクル (GTCC) の発電効率も世界最高水準という。 三菱重工、日立がそれぞれ対応していた保守を MHPS が引き受けることで業務効率が高まった。

ところが南アフリカ共和国での火力発電関連の案件をめぐり、両社の間に損失負担問題が発生。 仲裁手続きでの協議を経て、19 年末に和解した。 これにより日立が保有する MHPS の全株式 35% を三菱重工に引き渡すとともに 2,000 億円を同社に支払うことを決めた。 三菱重工は完全子会社化により日立の技術者を取り込む一方、日立は火力発電システムから事実上手を引く。

国産ジェット旅客機「スペースジェット」事業の損失で業績が悪化している三菱重工にとって、三菱パワーは "虎の子" だ。 三菱重工の 21 年 3 月期事業損益がトントンの見通しなのは、航空・防衛・宇宙部門がコロナ禍の影響で 900 億円の赤字ながらも、三菱パワーを含むエナジー部門が 1,000 億円の黒字を確保するのが大きい。 航空機分野の収益が落ち込み、"伝統の原動機" が再び稼ぎ頭になる格好。 「(三菱パワーを)火力発電設備の専業から総合エネルギー企業に発展させる(泉沢清次社長)」方針だ。

三菱重工は今後、三菱パワーとグループ各社との連携を本格化させる。 事業面での相乗効果を引き出す相手として、まず挙がるのが三菱重工エンジニアリング(横浜市西区)だ。 二酸化炭素 (CO2) の回収プラントなど環境対応の技術を持ち三菱パワーのビジネスモデルとの親和性が十分に見込める。 両社は早速、情報共有を進めている。 温暖化への危機感が世界的に高まり、機関投資家は ESG (環境・社会・企業統治)を重視し、化石燃料を利用する産業への投資から撤退を表明する資産運用機関も増えている。 大和総研の太田珠美 SDGs コンサルティング室長は「新型コロナウイルス収束後の経済の立て直しに向けて『脱炭素化』がより重視される」と指摘する。

三菱パワーは始動に合わせて、エネルギーの脱炭素化を進める姿勢を鮮明にする。 経済産業省が発電効率の低い石炭火力発電 100 基程度を 30 年度までに休廃止する方針を打ち出したこともあり、事業構造を見直さざるを得ない。 そこで見据えているのが水素の利活用だ。 岩塩空洞を開発・運営する米国企業と提携し、ユタ州の岩塩空洞に再生可能エネルギー由来の水素をはじめ 100 万キロワットのエネルギーを貯蔵する計画を進めている。 さらに同州で水素を使う GTCC 向けガスタービンを受注した。

貯蔵している水素の発電への利用を見込んでいる。 「水素の生産量が増え、コストが下がることで、(発電設備での)専焼に必要な水素を確保できる(河相健三菱パワー社長)」とみている。 また石炭をガス化し、ガスタービンと蒸気タービンを稼働させて発電する石炭ガス化複合発電 (IGCC) も、従来の石炭火力より排出量を低減するだけでなく、ガス化技術の応用で水素の生成につながる。 ガス化炉から出てくるガスに対する CO2 の分離・回収を通じて水素が得られ、燃料電池などへの供給が見込める。 IGCC により老朽化した火力発電の更新需要を取り込むのに加え、「脱炭素化して水素を作れる(藤井貴 IGCC プロセスグループ長)」ことで、ガス化技術の用途が広がる。

ライバルの動向をめぐっては、シーメンスがエネルギー事業の分社化を決断し、新会社が 9 月末に上場する。 GE も減損損失などで人員削減を迫られた。 三菱パワーも構造改革を進めており、火力発電と再生エネが共存する戦略で打開を図る。 (NewSwitch = 9-4-20)


抗ウイルスのガラス、抗菌繊維 … 衛生的な新素材が続々

素材メーカー各社は、店舗のレジ前に置く抗ウイルスの仕切りガラスや衣服向け抗菌繊維など、抗ウイルス・抗菌性能がある新製品や新素材の開発を加速させている。 新型コロナウイルスの感染拡大による衛生意識の高まりを受け、需要が大幅に増えているからだ。 ただ新型コロナへの効果は証明できていない。

付着ウイルス 99% 減

日本板硝子は 9 月、付着したウイルスを 99% 減らせるガラスを使った仕切り用キットを発売する。 表面に抗ウイルス効果のある銅系化合物などの膜が貼ってある。 コンビニエンスストアのレジなどで使うことを想定する。 ガラスそのものは数年前に開発され、これまで病院などに販売してきた。 だが新型コロナの感染拡大を受け、医療機関以外に向けた製品を開発したという。 価格は一般的な建築用ガラスの2倍程度。 新型コロナへの効果は「検証中」とする。

日本製紙も 8 月、木材の繊維成分で紙製品の原料になるセルロースに抗ウイルス性能を持たせたものを開発したと発表した。 セルロースの表面に、抗ウイルス性能がある金属イオンを付着させたという。 新型コロナへの効果は「確認できていない。」 9 月に印刷用紙として販売を始め、カレンダーやノートなどにも拡大していく考えだ。

人が動いた電気で抗菌

村田製作所と帝人フロンティアは 6 月、人が動き繊維が収縮したりねじれたりすることで微弱な電気を起こし、抗菌性能を発揮する世界初の繊維を開発したと発表。 薬剤は使っていない。肌着やスポーツウェアなどに向けて年度内に売り出す予定で、2025 年度には売上高 100 億円を目指す。 新型コロナへの効果は「検証しているが、確定した結果はでていない」という。 新型コロナへの効果の確認が進まないのは、「ウイルスそのものが手に入らない(日本製紙)」ことが大きい。

一方で、各社の開発競争は熱を帯びている。 素材や家電などの抗菌加工製品メーカーで構成する抗菌製品技術協議会によると、抗菌関連製品の市場規模は年間 1 兆円強。「新型コロナの影響で国内需要は拡大する見込みだ(同協議会)」という。 会員も 3 月の 350 社から、7 月には 500 社に急増。 業種を問わず、「抗ウイルス・抗菌」に注力していることがうかがえる。 (江口英佑、asahi = 9-2-20)


オシャレすぎるパイプ椅子 町工場の技術力を見せたくて

愛知県安城市にあるデザイン会社とパイプ加工会社がコラボして「オシャレなパイプ椅子」を開発した。 町工場の技術力を見せつけるためのデザインだ。 自動車部品の設計などを手掛ける D-WEBER (ディーウェーバー)と、創業 70 年を迎えたパイプ加工会社のキムラ工業。 いずれも安城市にある 2 社がコラボして手がけたパイプ椅子が「リバース」だ。 その名前には「生まれ変わり (rebirth)」と「反転 (reverse)」がかかっている。

パイプ椅子と聞いてイメージする「安っぽさ」を感じさせないデザインについて、ディーウェーバーの水野健一社長 (49) はこう説明する。 「便利さや汎用性を追求せず、万人受けする必要がない。 見せたかったのはパイプ加工技術とデザインです。」

パイプをあえて主役に

開発のきっかけは昨年 9 月、市商工課の集まりでキムラ工業の木村忠嗣社長 (51) と偶然隣の席になったことだった。 「何か一緒にできたらいいですね」という話になり、水野さんはその日の晩にデザインをスケッチした。 パイプ加工と聞いて思い浮かんだのがパイプ椅子。 普段は見えない部分に使われているパイプをあえて主役にして、その技術を見てもらうデザインを意識した。 1 週間後には 3D デザイン化したものを提案。 それを見た木村さんは「見たことないかっこいいデザイン。 でも作るのは大変そう。」と思った。

普段は電動工具の部品などを製造していて、メーカーの設計図の寸法通りに作ることが最重要視される。 それに対して今回の依頼は「できるところまでやってほしい」だった。 きれいな S 字形のデザインを具現化するには、曲げるための機械を操作するスピードが速すぎても遅すぎてもダメ。 最後にものを言ったのは手作業による経験と勘だった。 「斬新なデザインを見て、これまでにない作り方が必要だと思って取り組みましたが、結局は今までの技術を突き詰めることで完成できました。 これは発見でした。」

用途としては、公共施設、結婚式場、美容関連などを想定。 現時点ではコンセプトモデルで、反響を見た上で量産化を検討するという。 「価格については現時点で 8 万 - 30 万円ぐらいになりそうですが、量産化できればさらに安くできます」と水野さん。 リバースを通じて中小企業 2 社の攻めの姿勢を感じてほしいと話す。 「中小企業はこれまでの依頼を待つだけでなく、攻めていくことが必要。 この取り組みを通じてビジネスをデザインしていきたい。」 (若松真平、asahi = 8-19-20)


プラスチックの新用途にロボット、金属の代替で軽量化なるか?

化学各社は、プラスチックなどの新たな用途として、ロボット分野の開拓に注力している。 三井化学は特にユニークな活動を展開。 メルティン MMI (東京都中央区)のアバターロボット実証試験機「MELTANT-β」のスキン向け素材や、人間の拍手を再現したロボハンドを開発した。 ロボの部材は金属製が多く、プラ代替による軽量化も期待される。,/p>

三井化学は、MELTANT-β のスキン向けに、弱い力でも伸びて元に戻る特徴を持つ素材「アブソートマー」を配合したシートを開発し、供給している。 ゴム弾性の強い素材をスキンに使うと筋トレのように多くのエネルギーを消費するが、弱い力で伸びるアブソートマーによって余分なエネルギー消費を抑えられる。 また熱をかけてつなぎ合わせられるため、縫製で穴を開けずに済み、防滴防塵性を実現した。 「デザイナーさんがやりたいことと素材屋の技術を組み合わせると、面白いことができる(三井化学)」という。

また同社は拍手や声で人を楽しませる、バイバイワールド(東京都品川区)のエンターテインメントロボ「ビッグクラッピー」向けに拍手ハンドを開発した。 肌に近い感触のゲル新素材をベースに、素材の分子構造を変えて硬度や反発性の異なる拍手ハンドを作り、音響テストで最適な素材を選んだ。 三菱ケミカルは、自動車などで軽量化部材として使われているエンジニアリングプラスチック製品を、ロボ分野でも販売拡大を図る。 軽量化による動作時のエネルギー削減は、車もロボも共通の課題だ。 また新たな素材も、ロボ向けにサンプルワークしているという。

ENENOS は、熱刺激で伸縮するエラストマー系新素材を開発した。 将来、介護や体の動きを補助する用途でソフトアクチュエーターとしての採用を目指す。 介護ロボや体の動きを補助する装着型ロボの開発は多様化しており、柔らかく、音の出ないアクチュエーターが求められる分野も出てくると予想する。 (梶原洵子、NewSwitch = 8-10-20)


「密」避ける自転車や釣り人気 シマノの業績が回復基調

自転車部品大手シマノの業績が回復しつつある。 新型コロナウイルスの感染拡大で通勤や通学に自転車が見直されているからだ。 運動不足の解消に乗り始める人が増えていることも、追い風になっている。

シマノは変速機やブレーキの製造を手がけ、中高級機種向けのシェアが圧倒的に高い。 今年前半はコロナで主力の欧米で店が閉まり、自転車も売れなくなったが、5 月以降は受注が急速に戻っているという。 各地の当局が自転車通勤を推奨する一環で購入補助策を打ち出し、「密」を避ける娯楽としても注目が集まっているためで、16 万円前後の自転車がよく売れているという。

島野容三社長は 28 日の電話会見で「自転車に乗っていなかった層が購入しており、さらに高価格帯の自転車の購入にもつながる」と期待する。 また売り上げの 2 割を占める釣り具事業も 5 月以降の回復が鮮明で、7 月以降に世界で 25 種類ほどの新製品を投入する計画だ。 「自然の中で 3 密を気にせず楽しめる釣りの人気が高まっている」と話す。

とはいえ今期はコロナの影響からは完全には逃れられない。 28 日発表した 2020 年 1 - 6 月期決算は売上高が前年同期比 11.9% 減の 1,602 億円、営業利益が 15.8% 減の 286 億円だった。 だが年後半は盛り返し、通期の売上高は 3.6% 減の 3,500 億円、営業利益は 6.6% 減の 635 億円になると見込む。 (森田岳穂、asahi = 7-28-20)


米政府、量子インターネットの開発戦略を発表

最先端技術

記事コピー (6-23-20 & 7-27-20)


テスラも認める技術、神奈川の黒子企業が電動化で海外巨大企業に挑む

モーター用巻線設備開発の小田原エンジニアリングはテスラにも供給
市場の急拡大で欧州同業は大手が買収 - ABB グループなどと競合

米テスラなど世界の名だたる自動車会社を陰で支える企業が神奈川県西部の山に囲まれた小さな町にある。 神奈川県松田町に本社を置く小田原エンジニアリングが手掛けるのはモーター用の巻線機。 モーターは電気自動車 (EV) やハイブリッド車のほか、家電製品や発電機といった産業機械など幅広い用途で使われており、その性能は巻線によって大きく左右される。

自動車の世界では電動化の流れで内燃機関からモーターによる駆動への移行が進み、巻線技術の重要性が高まっていることを背景に、過去数年の間に欧州では同業の中小企業の多くは大手に買収された。 そのため、小田原エンジニアリングの競合相手は今やスイスの ABB グループや独ティッセンクルップなどの巨大企業に様変わりしたという。 小田原エンジニアリングの保科雅彦副社長はブルームバーグとのオンラインインタビューで、「草野球チームでしていたのが急にメジャーリーグになってしまった」と語った。

モーター用巻線設備の市場規模は急速に拡大している。 小田原エンジニアリングによると、2017 年の同設備の市場規模はわずか約 400 億円の「ニッチな分野」だった。 車の電動化の流れと共に同市場は拡大し、保科氏は「あっという間に 3 倍とか 4 倍とか 5 倍となって、今、実はどのくらい大きくなっているのかわれわれも把握できない」と語った。 しかし、市場の成長に合わせて会社の規模を急速に拡大していくつもりはないという。 受注生産で巻線設備を開発する同社にとって、「自分たちの力で確実にできる範囲にとどめておかないと、結果的にお客さんに迷惑をかけてしまう」と保科氏は述べた。

同社はほとんどの顧客と秘密保持契約 (NDA) を結んでおり、小田原エンジニアリングの設備を使っている顧客企業は外部からはほとんどうかがい知ることができない。 保科氏によると、同社が開発する巻線機は数年先に発売される車向けのものが多く、「引き合いの段階で NDA なので、注文を取ったとか取らないとか、話があったことすらできない」という。

そんな同社が唯一開示しているのが、今や時価総額でトヨタ自動車を超えて自動車メーカーで世界一となった米国の EV メーカー、テスラだ。 小田原エンジニアリングの 17 年度と 18 年度の売上高の 10% 以上をテスラが占めていたため、日本の法律上、有価証券報告書で開示せざるを得なかったという。 テスラは今月初旬、トヨタを抜いて、時価総額で世界最大の自動車メーカーとなった。 株価はその後も上昇を続け、年初から 3 倍以上の水準まで急騰しているが、市場にはさらなる上昇余地があるとの見方もある。

保科氏は小田原エンジニアリングの巻線機の受注残高は昨年 12 月末よりも増加しており、「仕事としてはいっぱいある」とした上で、「現時点では売り上げとか利益の修正を出すところまではいっていない」と語った。 今後も「車の電動化だけは進んでいく」として、電動化に欠かせない巻線設備への需要は底堅いとの見方を示した。 (稲島剛史、竹沢紫帆、Bloomberg = 7-20-20)


電機大手が競い合う「タッチレス・ソリューション」 "第 2 波" 防衛なるか

電機大手は新型コロナウイルス感染拡大を受けて、非接触や抗菌機能を付加した新製品・技術を相次ぎ開発する。 日立製作所は行き先階登録ボタンに触れずに済むエレベーターを準備し、コニカミノルタは複合機向けに音声入力技術を開発した。 未曽有のパンデミック(世界的大流行)を機に高まった人々の衛生意識が新たな市場を生み出しそうだ。

日立グループの日立ビルシステム(東京都千代田区)はセンサーを使って非接触で利用可能なエレベーターの操作盤を開発する。 スマートフォンアプリで行き先階を登録できるシステムも別途開発する。 「タッチレス・ソリューションはスピード勝負なので、社内に特別チームをつくって鋭意取り組んでいる(光冨真哉社長)」と新たな商機ととらえる。 2020 年度内の実用化を目指す。 コニカミノルタは開発した複合機向けの音声入力技術について 20 年度以降の実装を検討する。 「音声認識はコロナ禍で重要な機能になる。 スキャンなどの音声指示は非接触ニーズに応えるものだ。(山名昌衛社長)」とオフィスのタッチレス需要を狙う。

富士電機は自動販売機の購入ボタンなどを 20 年秋から抗菌対応にする。 ボタンや商品取り出し口の扉に抗菌材料を混ぜて成型するほか、抗菌フィルムを貼る方式も検討する。 「手が触れる部分に抗菌対応する。 (既設の自販機も)顧客からのニーズがあるので受注改造で対応する。(食品流通事業本部・土井伸介商品企画部長)」と準備を急ぐ。 小売店舗の自動釣り銭機も接触部分に抗菌対応を施す。 セルフレジも増えて、利用する消費者の不安を解消する。 東京都などで新型コロナの感染第 2 波への不安が高まっており、国民生活に身近な製品でも新たな衛生対策ニーズへの早期対応を迫られている。 (NewSwitch = 7-12-20)


日産リーフの技術者、「全樹脂」電池でコスト 9 割減 - 安全性も両立

「鉄鋼生産のように」変革、23 年までに 1 ギガワット時目指す
3 月には大林組や横河電、帝人から約 80 億円の開発資金を調達

スマートフォンから電気自動車 (EV) まで広く使われているリチウムイオン電池について、材料や製造工程を変えることで、生産コストの 9 割削減と安全性向上の両立に挑もうとする起業家がいる。 全樹脂電池を開発する APB (東京都千代田区)を 2018 年に設立した堀江英明社長だ。 日産自動車で EV 「リーフ」の電池開発に携わった経歴を持ち、今年 3 月には大林組や横河電機、帝人などの企業グループから約 80 億円を調達した。

堀江氏はインタビューで、リチウムイオン電池の生産を、工程が複雑で高度な専門技術が必要な半導体のような構造から比較的単純な鉄鋼生産のようにすることが目標だと述べた。 業界常識としては少額な投資でも 21 年の量産化には十分と説明。 中部地方に工場を建設し、23 年までに生産能力を1ギガワット時に高める計画だ。 金属製の電極と液体の電解質を基本材料とする現在のリチウムイオン電池の生産には、超低湿度など厳格に管理されたクリーンルームが必要で、手掛けるのは巨額投資が可能な一握りの企業にとどまる。 中国の寧徳時代新能源科技股 (CATL) や韓国の LG 化学、パナソニックなどだ。

堀江氏が目指す技術革新は、電極や電解質を樹脂に置き換えることで構造を単純化させ、コストも削減するというもの。 長いシート状のバッテリーを積み重ねて容量を大幅に増やすことができるほか、材料が樹脂のため穴を開けても発火しにくい。 APB は、大手が独占する EV 向けでなく、オフィスや発電所で使用される定置用に焦点を当てる。 堀江氏は 8 月にも最初の顧客を発表する予定で、「私たちの電池を大量生産できることの証明になる」と述べた。

ただ、米トータルバッテリーコンサルティングのメナヘム・アンダーマン社長は「樹脂は金属ほど導電性がない」と指摘。 技術革新には期待するものの、現在のリチウムイオン電池は、今後 15 年以上は主力であり続けるとみている。 (Pavel Alpeyev、古川有希、Bloomberg = 7-9-20)


キヤノン電子の衛星載せたロケット、打ち上げ失敗

キヤノン電子の人工衛星「CE-SAT-IB」を搭載したロケット「エレクトロン」が 5 日、打ち上げられたが機体に不具合が起きて行方不明となり、失敗に終わった。 スタートアップのロケットラボがニュージーランドにある発射場で日本時間の午前 6 時 20 分ごろに打ち上げた。 同社によると、2 段階目の燃焼時に機体トラブルが発生したという。 同日発射されたロケットには 7 基の小型衛星が搭載されていた。その 1 つであるキヤノン電子の衛星は、キヤノン製のデジタルカメラ 2 台を備えていた。 高度 500 キロメートルから地上の写真を撮影するなど、2 年間の性能試験に臨む予定だった。

キヤノン電子は 2009 年に宇宙事業に参入した。 自社で生産する人工衛星の販売や宇宙から撮影した画像データの販売など事業の拡大を目指している。 17 年に 1 基目の衛星の打ち上げに成功。 20 年後半にも、今回の発射場でロケットラボによる衛星 3 号基を搭載したロケットの打ち上げを予定している。 キヤノン電子が出資するロケット開発のスペースワン(東京・港)は、21 年に国内では民間初となるロケット発射場を和歌山県に建設する計画を進めている。

2 号基の打ち上げは、新型コロナの感染拡大を受けて当初予定の 5 月中旬ごろから遅れていた。 海外渡航の制限により、キヤノン電子や米国にいるロケットラボの技術者が現地に入れなかったという。 実際の発射も、天候のために打ち上げが 1 日延期されていた。 ロケットラボが提供するライブストリーミング映像では順調に上昇しているように見えたが、機体を喪失したという。 (nikkei = 7-5-20)


走るロボット、紫外線で殺菌 コロナ診療の病院で実験中

強力な紫外線を照射しながら自走し、壁や床に付着したウイルスを殺菌消毒するロボットの実証試験が、新型コロナウイルス診療にあたる日本大学板橋病院で行われている。 ロボットは、ベンチャー企業のファームロイド(東京都板橋区)が開発に取り組んでいる「UV バスター」。 ロボットが照射する「深紫外線」は、一般的な紫外線より波長が短く、10 センチ以内で 2.46 秒照射すると、99.99% のインフルエンザウイルスが、感染力を失う「不活化」する効果があるとされている。 板橋病院で、新型コロナウイルスの検体に照射したところ、ウイルスの「死滅」を確認したという。

日大の権寧博(ごんやすひろ)・医学部主任教授 (54) は「緊急事態宣言は解除されたが、ロボットの活用など感染対策を徹底し、第 2 波に備えたい」と話す。 同社ではロボットの製品版を 7 月上旬に発表予定。 受注生産で、医療機関や空港、商業施設への導入を想定している。 照射する紫外線は人体に悪影響を及ぼす可能性があり、使用時は周囲に人がいないことなど安全を確認しながら作業する。 一般家庭向けには販売しないという。 同社代表の飯村一樹さん (45) は「海外メーカーの同様の製品より低価格で提供したい」と話す。 (瀬戸口翼、asahi = 6-25-20)


再エネ用蓄電池の本命か? リチウム電池を超える新型鉛電池が量産実用化へ

古河電気工業と古河電池が、実用化が困難とされてきた次世代型蓄電池「バイポーラ型蓄電池」の開発に成功。 現在主流のリチウムイオン電池より低コストで安全性に優れる蓄電池として、再エネの出力変動対策など向けに量産実用化する。

古河電気工業と古河電池は 6 月 9 日、実用化が困難とされてきた次世代型蓄電池「バイポーラ型蓄電池」を開発したと発表した。 現在主流のリチウムイオン電池と比較し、トータルコストを約半分にできるとしており、まずは電力系統向けの定置用蓄電池など向けに商品化する。 2021 年度中にサンプル出荷、2022 年度から製品出荷を開始する計画だ。 バイポーラ型蓄電池とは、1枚の電極基板の表と裏に、それぞれ正極と負極を持つというシンプルな構造が特徴の蓄電池。

バイポーラ型という構造自体は古くから考案されているが、鉛の薄箔化と長寿命化の両立、樹脂プレートの成形と接合、鉛箔と樹脂プレートという異種材料の接合といった技術課題があり、実用化に至っていなかったという。 両社は今回、古河電気工業のメタル・ポリマー素材関連の技術や、古河電池の電池加工技術などを活用し、これらの技術課題をクリア。 リチウムイオン電池と比較してリサイクル性や安全性で優れるといわれる鉛蓄電池を、バイポーラ型で実現することに成功した。

開発したバイポーラ型蓄電池は、外形寸法が縦 300 x 横 300 x 厚さ 250mm、容量は 50Ah、定格電圧は 48V、寿命は 4,500 サイクル。 これは1日に充放電を 1 サイクル行う長周期向け電力貯蔵用電池であれば約 15 年の寿命に相当するという。 また、従来の電力貯蔵用鉛バッテリーと比較すると、体積エネルギー密度は約 1.5 5倍、重量エネルギー密度は約 2 倍としており、複数の蓄電池を組み合わせれば MW 級システムも構築可能だという。

リチウムイオン電池と比較してコストは半分

開発したバイポーラ型蓄電池の充放電電流は、電池の満充電と全放電をそれぞれ 5 時間で終えられる 0.2CA となっている。 これは再生可能エネルギー電源の出力変動対策としてよく利用される、ピークシフト制御などへの対応を想定したものだ。 再生可能エネルギーの出力変動対策など、電力系統向けの蓄電池では、大型のリチウムイオン電池や、NAS 電池、レドックスフロー電池などの実用化が進んでいる。 今回開発したバイポーラ型蓄電池はこれらの電池と比較した場合、鉛バッテリーと同じリサイクルプロセスを適用可能である点や、蓄電システムとしてのトータルコストで見ればリチウムイオン電池の 2 分の 1 で済むといった優位性があるという。

リチウムイオン電池と比較してコストを半減できる根拠としては、システム構築時にリチウムイオン電池で必要となる離隔距離が不要であり、設置面積当たりのエネルギー量を高められるといった点や、排熱対策用の空調システムが簡略化できるためとしている。 両者は今後、2021 年度中にサンプル出荷、2022 年度から製品出荷し、電力事業者や発電事業者向けに拡販を進めていく方針だ。 (スマートジャパン = 6-17-20)