休みなし、未払い 440 万円 … 逃げた中国人実習生の願い

外国人労働者の受け入れ拡大のため、新たな在留資格「特定技能」が 4 月に始まった。 法改正の議論で光が当てられたのは、途上国への技術移転を目的とした技能実習制度だ。 低賃金や長時間労働の実態などが改めて浮上したが、地場産業を支えている実習生について、今回の統一地方選で争点になっているだろうか。 岐阜県で暮らす中国人技能実習生の女性 (51) は「婦人子供服製造」の実習目的で 2016 年 5 月に来日した。 翌月から岐阜市内の縫製工場で働き始めたが、残業代がきちんと支払われなかった。 工場にはそもそも勤務時間を記録する仕組みがなかったという。

《 工場では 6 人ほどの実習生が朝 8 時から深夜 1 時までずっとミシンを踏み、ズボンやスカートなどを縫いました。 》
《 最初の 6 月は 6 日間働いて、給与は 1 万 8,100 円でした。 次の 7 月は 31 日間休みゼロで、13 万 9 千円。 説明では「残業は時給 800 円」と聞いていたのに。おかしいなと思って、ノートに記録を始めたんです。 》

残業時間をノートに記録

女性を支援する岐阜一般労働組合の甄凱(けんかい)さん (60) = 中国出身 = によると、女性の雇用契約書に基本給 13 万 1 千円と記されている。 16 年 7 月のノートの記録では、平日の残業は計 161 時間、割増しのある休日出勤を含む土日祝日を合わせると 277 時間で、当時の岐阜県の最低賃金 754 円で単純計算しても、この 1 カ月だけで 23 万 3,235 円足りない。

《 社長さんには何度も「おかしい」と訴えたんです。 すると、(実習状況を監査する)監理団体の人が来て、「自分の意思で残業する。 時給は 500 円」という書類にサインしろと迫られて。インターネットで調べると、こんな金額は全くの違法と分かったんです。 》

女性は昨年 7 月、共同生活のアパートを抜け出し、甄凱さんが運営するシェルターに入った。 甄凱さんの計算では、働き始めた 16 年 6 月 25 日から逃げる直前の 18 年 7 月 14 日まで 2 年余りの未払い賃金は計 440 万 1,467 円になるという。 休みが 1 年間で 2 日だけの期間もあった。 労働法令に触れる働かせ方だった。

《 故郷の中国・浙江省に暮らす夫と 20 代の息子に早く会いたいです。 でも、賃金を取り返すまでは帰れません。 日本に来る時、中国の送り出し機関に旅券取得費用などとして 47 万円ほど払っていますし。 》

工場は「破産手続き」

昨年 10 月、未払い賃金を立て替える国の制度に申請した。 すると、労働基準監督署から思いもよらない書類を受け取った。 「当該事業主については、破産手続き開始の決定があった」と記されていた。 甄凱さんは、破産申請は賃金支払い逃れの方便だとみている。

《 中国では 20 代から縫製工場で働き、ミシンの腕には自信があります。 今回も「即戦力」として誘われたんです。 岐阜の縫製工場は人手が足りないらしいから、と。 でも、これなら中国でそのまま働いた方が給与もましです。 》
《 日本の人がみんな悪い人ではないのはよく知っています。 「ちゃんと給与を払ってほしい」と言っているだけです。 でも、私たちの力だけで取り戻すのは限界もあります。 技能実習は、中国と日本の政府が認めた仕組みなのだから、解決の責任は政府にもあると思いませんか。 》

岐阜市議会本会議の議事録で「技能実習」と検索すると、質疑の多くはこの 4 月に始まった新しい外国人労働者受け入れ策に関係するものだった。 質疑は 2010 年以降の 9 年間で 6 回だった。

《 日本には選挙があります。 日本の政治家には、私たちの問題を解決するために関心を持ってほしいです。 》 (前川浩之、asahi = 4-17-19)


国内初の特定技能試験、7 カ所で開始 夢や希望を口々に

4 月に始まった新たな在留資格「特定技能」の資格を得るための、国内で初めての技能試験が 14 日、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の 7 カ所で行われた。 受験者は、口々に夢や希望を語った。 この日は宿泊業での資格の取得をめざす外国人たちが受験した。 所管する国土交通省によると、申し込みは全国で 761 人。すでに日本でアルバイトとして働いている留学生が多いとみられ、国籍別ではベトナムやミャンマー、ネパールが大半を占める。

政府は特定技能で、今後 5 年間に最大約 34 万人の受け入れを見込んでいる。 1 号の資格を得るにはこの日の試験に加え、日本語能力試験で日常会話レベルの N4 以上に合格しなければならない。 また出入国在留管理庁の審査もパスする必要がある。 この日に受験して資格を得た外国人がホテルや旅館で働くことができるのは早くて夏ごろになりそうだ。 国内での特定技能の試験はこの後、外食業の試験が 4 月 25、26 日と 6 月、秋に実施される予定だ。 それ以外の試験は、国内外ともにどの国でいつ実施するか、まだほとんど決まっていない。 (浦野直樹、波多野陽、斉藤佑介、佐藤英彬、asahi = 4-14-19)


ベトナム実習生、新たに 70 人 リオン・ドール、受け入れ過去最多

スーパーを展開するリオン・ドールコーポレーション(会津若松市)は、ベトナムからの技能実習生 70 人を新たに受け入れた。 技能実習生の受け入れは 2016 (平成 28)年 12 月が最初で、今回は第 4 期生となる。 過去 3 回はいずれも 20 人前後だったが、4 期生は倍以上に増やした。

同社によると、これまでは会津若松市の流通センターや会津地区の店舗が配属先で、総菜やベーカリー、水産などの仕事を担当していたが、器用さや勤勉さ、明るさが社員からも高く評価されているため、新潟、栃木両県の店舗や中通りの店舗などにも配属先を増やすという。 新たな在留資格を設け外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が 1 日に施行されたこともあり、同社は、日本語検定 2 級に合格するなど要件を満たせば正社員としての採用も検討するとしている。

◆ 「求められる人材に

リオン・ドールグループの合同入社式は 10 日、会津若松市のリオン・ドール本部で行われ、新入社員 11 人とベトナムからの技能実習生が入社した。 小池信介社長が「新しい時代に新しいリオン・ドールをつくるのは皆さん。 マーケットは厳しく多様性も進む時代だが、視野を広げていい会社をつくろう」と呼び掛け、一人一人に辞令を手渡した。 社員代表らが歓迎の言葉を述べ、新入社員代表と技能実習生代表が「求められる人材となれるよう精いっぱい頑張ります」と誓った。 (福島民友 = 4-11-19)


外国人材受け入れ、中小企業で遅れ 支援「受け皿」間に合わず

外国人労働者の拡大を目指し 1 日から始まった新制度をめぐり、人手不足が深刻な中小企業の受け入れが大企業に比べて遅れる見通しであることが 5 日、分かった。 体力のない中小企業に代わって外国人の生活支援を担う「登録支援機関」の設置手続きに時間がかかるため。制度に実務が追い付かない現状が早くも浮き彫りになった形だ。 「審査に 2 カ月はかかる。 開始予定日を 5 月 1 日から 6 月 1 日に書き直してもらえないか。」 新制度がスタートした 1 日。 登録支援機関になるための申請書類を福岡出入国在留管理局(福岡市中央区)の窓口に提出した九州在住の行政書士の男性は、係官からこう懇願された。

男性は農業・建設分野の外国人技能実習生を受け入れている中小企業をサポートしてきた実績がある。 100 人以上の実習生が新しい在留資格「特定技能」に移行する予定のため、通訳などのスタッフを雇って登録支援機関を設立し、サポートを続けることにしている。

14 業種で今後 5 年間に約 34 万人受け入れを見込む新制度では、特定技能の外国人を雇う事業者に対し、事前の十分な情報提供や母国語での相談体制の構築といった手厚い支援を義務づけている。 中小企業には負担が大きいため、実務を登録支援機関に委託できるとしているが、出入国在留管理庁の幹部は「事務手続きにある程度時間がかかる。 実際に登録支援機関が誕生するのは、早くても 5 月中になる。」と明かす。

3 年間以上の実務経験がある実習生は無試験で新資格に移行できるが、支援態勢が整わなければ移行手続きに入れない。 このため入管庁は、同じ職場で継続して働くことが決まっている実習生から特定技能への移行者に限り、技能実習としての在留期間が切れても、4 カ月間は在留延長できる特例措置を設けている。 一方で、自前で雇用する外国人への支援を行える大企業は、こうした「時間差」は発生しない。 男性は「在留資格の審査にも 2 週間以上かかると聞く。 苦しんでいる中小より先に大手で人材確保が進むなら本末転倒だ。」と困惑気味に話した。 (sankei = 4-5-19)


実習生、退職取り消し求め提訴へ 北海道の水産加工会社

北海道小平町の水産加工会社「岸良海産興業」で外国人技能実習生として働いていたモンゴル人女性 (32) が、不当な退職で強制帰国させられたとして、同社に退職取り消しや未払い賃金などの支払いを求め、来週にも札幌地裁に提訴することが 3 日、分かった。 代理人の小野寺信勝弁護士は「会社の都合で退職させ、帰国させる悪質なケースの一つ。 技能実習制度を踏まえて新設された在留資格『特定技能』でも同様の被害が出る可能性があり、問題を世に問いたい。」と話した。 (kyodo = 4-3-19)


技能実習、ずさん運用 失踪 759 人、不正な扱い受けた疑い 法務省 PT 調査

外国人の技能実習制度の運用状況を調べる法務省のプロジェクトチーム (PT) の調査結果が 29 日発表され、ずさんな運用の一端が判明した。 4 月 1 日からは新たな在留資格「特定技能」で外国人労働者の受け入れが拡大される。 支援団体や遺族は「外国人を労働力として使い捨てにしてはいけない」と訴える。 調査では、2012 - 17 年の 6 年間に亡くなった実習生が 171 人で、そのうち 43 人の死亡を法務省が今回の調査まで把握していなかったことが判明した。

また 17 年 1 月 - 18 年 9 月に失踪して摘発された実習生 5,218 人のうち、759 人が最低賃金割れなどの労働法令違反を含む不正な扱いを受けていた疑いがあることも判明。 このうち、法務省が失踪の把握後に受け入れ先を調査し、不正が確認されたのは 38 人分(31 機関)だけだった。 報告書によると、171 人の死因は、▽ 実習中の事故 28 人、▽ 病死 59 人、▽ 自殺 17 人 - - など。 失踪者に対する不正に関する調査は、摘発された 5,218 人を受け入れていた企業など 4,280 機関を対象に実施した。

ただ支援者はこの調査結果にも厳しい目を向ける。

実習生の実情に詳しい山村淳平医師は、取り締まりを担う入管当局による調査の限界を指摘。 「『騒いでいるが、たいしたことはない』と伝える意図を持った報告書だ。 第三者機関が調査しなければ意味がない。」

外国人の支援団体「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」の鳥井一平代表理事らは 29 日、記者会見を開き、不正な扱いを受けていた人を 759 人とする調査結果について「受け入れ機関側への聞き取り調査が中心だったことをうかがわせる結果だ」と指摘。 指宿昭一弁護士は「この数字はありえない。 帰国済みの実習生から事情を聴いておらず、本気で調査したとは思えない。」などと批判した。 「特定技能」による新たな外国人受け入れについても、声明で「深刻な人権問題が指摘されてきた技能実習制度を引き継ぐものだ」などと警鐘を鳴らした。(浦野直樹、小松隆次郎)

「日本は働き手に責任を」、「死者もっと多い」

「日本の企業と政府に、働き手に対する責任を持つよう強く求めたい。」 国別で最多の技能実習生を送り出しているベトナム。 北部バクザン省に暮らすブー・ゴク・トゥイさん (38) は 29 日、朝日新聞の取材に訴えた。 今年 2 月、実習生として日本で働いていた妻のグエン・ティ・チャンさん(当時 34)を病気で亡くした。 11 歳と5歳の子どもを抱える。

チャンさんは 2016 年 7 月から青森県内の農業関係の企業に派遣され、農作物の包装などを担当していた。 昨年 12 2月、頭痛と発熱で仕事を休むようになった後、同月下旬に入院し、脳出血と診断された。 1 月にトゥイさんが駆けつけた時には意思疎通は図れなくなっていた。 2 月に息を引き取った。 「派遣先がもっと心配してくれていたら、妻は今も生きていたかもしれない。 なぜもっと早く病院に連れていかなかったのか。」

東京都港区の寺院「日新窟(にっしんくつ)」を拠点に活動し、日本で亡くなったベトナム人実習生を弔っているベトナム人の尼僧ティック・タム・チーさん (41) は 28 日も、盛岡市で亡くなった実習生の男性 (32) の葬儀を営んだ。 貧しくて来日できない家族のために、葬儀の模様をネットで伝えた。 昨年 1 年で約 30 人のベトナム人を弔った。 7 割は実習生。 20、30 代の若者が大半だ。 タム・チーさんは、法務省の報告書に記された実習生の死者数に「ありえない。 ベトナム人だけでこれだけ多いのだから、中国や別の国の人を含めたらもっと多いはず。」と話した。 「借金を抱えて来日するようなシステムそのものを変えて欲しい。」 (平山亜理、ハノイ = 鈴木暁子、asahi = 3-30-19)

実習生の死亡や、不正な扱いが疑われる主な例

<死亡>

  • 農作業の実習中に熱中症により意識不明に陥り、病院に搬送されたが死亡
  • 約 3 カ月半の間、休日は 4 日間。その後自殺
  • 寮で就寝中に体調を崩し、救急搬送されたが死亡。 亡くなる前、「過労死ライン」は超えないものの、労使協定違反の時間外労働。

<不正の疑い>

  • 失踪前の約 7 カ月間、基本給は月額 6 万円しか支給されず最低賃金割れ。労使協定に違反する月平均約 60 時間の残業につき、時給 700 円しか支給されず
  • 農業の実習生で夜間外出、寮での携帯電話の使用を制限されていた

被災地、募る危機感「外国人に選ばれないと街が消える」

外国人の受け入れを増やそうと出入国管理法が改正され、4 月に施行される。 人手不足が深刻な東北の被災地では、地場産業の「外国人頼み」が強まっているが、法改正がかえって流出を招きかねない、との声が出ている。 なぜなのか。

入管法の改正、流出を促しかねず

被災地の主要産業の一つは水産加工だ。 法改正の業者向け説明会が 3 月上旬、仙台市であった。 水産庁の官僚は人手不足の解消をめざすと説明した後、こう述べた。 「新しい制度では転職や転居が自由。 地方に住む外国人労働者が都会に行きたいと転職する場合、法的に止める手段はない。」 参加者たちは「外国人がいなくなったら、何もできない」と不安を募らせた。

その 1 人、森下幹生さん (69) は、イカやサンマなどの加工を岩手県大船渡市で手がける。 素材は季節ごとに変わる。 注文に応じるための機械をそのつどは導入できず、人手に頼る。 だが、日本人を新卒で採ることは厳しく、地元の人口が急減した震災からしばらくして、あきらめた。 一方、1993 年に受け入れ始めた中国人は震災後の一時帰国を乗り越え、いまや 28 人で、従業員の 2 割を超えた。 程度の差こそあれ、被災地の中小企業では珍しくない。 在留資格はみな、技術を学ぶ名目の「技能実習生」だが、主力産業の担い手。 その動向は被災地の将来を左右する。

改正法が施行される 4 月には、すでにある「技能実習」に加え、新しい在留資格「特定技能」ができる。 3 年ほどの「実習」を修了した実習生は、試験なしで「特定技能」に移れる。 最長でさらに 5 年、日本に滞在できる。 業種が大ぐくりで同じなら転職は自由だ。 被災地でイカの塩辛をつくっていた実習生が、食品製造の特定技能に移行すると、賃金が高い東京のパン屋で働くようになりかねない。 宮城から選ばれた自民党の衆院議員、小野寺五典氏は、そう指摘する。

岩手、宮城、福島の沿岸部では、人口が震災前から 1 割近く減少。 人手不足を示す有効求人倍率は、全国平均をいまも上回る。 技能実習生は昨秋時点で全国に約 30 万 8 千人。 うち東京、大阪、名古屋の 3 都市で計 2 割を占め、残る 8 割は各地に散らばる。 法改正が外国人材の大都市集中を促しかねない課題について、法務省入国管理局の佐々木聖子局長は「看過しがたい偏在が生じていれば、大都市圏企業による人材引き抜きの自粛を要請する」というが、効果は不透明だ。(内山修、渡辺洋介)

礼拝の場所を設置。断食も OK

外国人を奪い合う地方の相手は、日本の大都市圏だけではない。 韓国や台湾、中国の大都市圏もライバルで、東南アジアからの勧誘にも動く。 勝ち抜くには、外国人に選ばれる取り組みが欠かせない。 宮城県塩釜市は、外国人の働き手対策に専念する職員を昨年設けた。 ことし 1 月下旬には、実習生と市民の交流会を開いた。 インドネシアの出身者が民族衣装で踊ると会場は拍手に包まれた。

サケなどを扱う「ぜんぎょれん食品」で働くハフィダ・リズカ・フマイローさん (20) は「この日を楽しみにしていました。」 参加した地元の主婦伊藤太美さん (81) は実習生と初めて言葉を交わし、「みんな明るく、かわいらしい」と言った。 ワカメやイクラなどの加工を宮城県気仙沼市で手がける「加和喜フーズ」は、イスラム教徒の実習生向けに礼拝の場所を設けた。 断食月(ラマダン)に、教えに沿って日の出から日没まで飲食を絶つことも、仕事に差し支えない範囲で認めた。

インドネシアからの実習生、イコ・ドゥイ・マハリニさん (22) は「ラマダンはとても大切。 分かってくれてうれしい。」と滑らかな日本語で話す。 加和喜フーズ会長の川村賢壽さん (69) は危機感を隠さない。 「働く場として選ばれないといけない。 そうしないと、街が消えてしまう。」 (角拓哉、asahi = 3-27-19)


岐阜の縫製、技能実習生で延命の 20 年 相次ぐ違法行為

「縫い子」の人手を外国人技能実習生に頼る岐阜県のファッション産業が岐路に立っている。 4 月に始まる新しい外国人の「特定技能」の対象業界には選ばれなかった。 実習生の残業代未払いといった違法行為が後を絶たず、業界みずからが、どうしていくか問われている。

縫製業者が加入する岐阜県既製服縫製工業組合の平嶋千里理事長 (64) は「ここ 20 年、我々の業界は技能実習制度に依存してきた」と振り返る。 岐阜のファッション産業は、大手メーカーやデザイナーの商品を受注して作る下請け工場で成り立っており、近年はより安く作れる海外に生産が奪われてきた。 安い加工賃しかもらえない工場では、低賃金で働く実習生がいるのが当たり前とされてきた。 法務省によると、昨年 6 月時点で県内の実習生は 1 万 1,705 人。

平嶋さんが理事長を務める組合は、技能実習の不正で処分も受けた。 実習を監査する監理団体でもあるのに、数年前に組合傘下の 2 工場で賃金未払いや旅券取り上げなどが発覚。 実習生を扱えなくなった。 昨年秋、再び監理団体の申請ができるようになったが、平嶋さんは「荷が重い」と申請していない。 「ちゃんとやってますかと(傘下の実習先に)聞いたら、そりゃあ『やっている』と答えますよね。 組合理事長職は無給のボランティア。 監査に限界もありますよ。」

法務省によると、2017 年に賃金未払いといった技能実習の不正行為の通知を受けた実習先は全国で 183 件あったが、このうち 94 件が「繊維・衣服関係」で、過半を占めた。 経済産業省によると、「まずは足元の状態を改善する法令順守の徹底が先(生活製品課)」との判断があり、繊維産業は 4 月の「特定技能」の外国人受け入れ対象業種から外れた。 岐阜の関係団体を束ねる岐阜県繊維協会の関係者は「後継者不足に直面していて、人手も足らず、元気がない。 当面は技能実習生で続けることになる。」と話す。 岐阜県工業統計によると、ピークの 1991 年には 4,553 億円あった繊維工業の製造品出荷額は、2016 年に 1,449 億円となり、7 割減った。

国も実習状況の適正化に取り組んできた。 全国で唯一、地域限定の「技能実習生等受入適正化推進会議」を設け、法令順守意識を高める活動を 12 年間続けたが、昨年 1 月、「啓発の役割は終了した」と宣言。 今年から会議は開かれない。 事務局の厚生労働省岐阜労働局は「技能実習適正化法に基づく全国 8 ブロックごとの地域協議会に機能を移す」と説明するが、宣言でうたわれた岐阜限定の連絡会議の開催は「白紙状態」という。

「私の残業代、ちゃんと払ってほしい。」 岐阜市内の縫製工場を昨年秋に逃げ出し、県内のシェルターに身を寄せる中国人の女性 (50) は、若いころから中国の縫製工場でミシンを踏み、15 年に「即戦力」の技能実習生として入国した。 午前 7 時から午後 11 時まで働きづめだったが、残業代はゼロで月給は約 13 万円。 自分のノートの記録で計算すると、約 300 万円の残業代が未払いだと訴える。

技能実習に詳しい上林千恵子・法政大学教授(産業社会学)は「岐阜の繊維業界は技能実習で生き延びてきた。 今後は、自主ブランドを立ち上げて付加価値を高める、後継者のいないところは上手に廃業する、といった選択肢も検討されるべきだ。」と指摘する。 (室田賢、前川浩之、asahi = 3-25-19)

繊維・衣服認められず

「技能実習」は、金属プレス加工などの 80 職種で技能を学んで働く仕組みだが、4 月開始の「特定技能」は、より高い技能が必要で人手不足が顕著な 14 分野に限って外国人が働くことを認める制度。 特定技能の 5 割は、技能実習を終えた人からの移行になるとみられている。 14 分野は飲食料品製造業や宿泊、産業機械製造業といった比較的大きな枠組みで、技能実習の 80 職種のうち特定技能でも認められた職種は 46。 紳士服製造や婦人子供服製造など繊維・衣服関係の 13 職種は、特定技能では認められなかった。


未払い社長に「不当だ」 技能実習生守る男、異色の経歴

賃金未払いやパワハラなどに苦しむ技能実習生ら外国人労働者を助ける労働組合に、1 人の中国人がいます。 日本の労働運動の仕組みを学び、労働条件の改善に 15 年にわたり取り組んできました。 2 月末、「岐阜一般労働組合(岐阜市)」第二外国人支部で支部長を務める甄凱(ケンカイ)さん (60) は、ごろごろとスーツケースを引き、愛媛県今治市の縫製会社に向かった。

そこで働く中国人の技能実習生 3 人から SNS を通じ、「3 月に実習期間が終わるが、残業代がずっと払われていない」と相談されていた。 労働時間や賃金の支払い状況を示す資料はメールですでにもらっていた。 (堀内京子、asahi = 3-25-19)


実習生の作業柔軟化、厚労省が見直し検討

厚生労働省は 19 日、外国人技能実習制度の柔軟化に向けた検討チームを立ち上げ、初会合を開いた。 実習生は計画で定めた作業以外に当たることは認められず、業界団体などから幅広い作業ができるよう制度改正を求める意見が出ている。 4 月中にも制度の方向性を決める。 初会合は非公開で開催。 上野宏史厚労政務官をトップに厚労省や法務省の職員でつくり、業界団体や都道府県などから意見を聞く。

受け入れ企業は実習生ごとに実習計画を作成する必要があり、実習生は計画で定められた作業以外はできない。 ただ中小の工場などでは 1 人で複数の作業を行う必要があるほか、農業は冬場の作業がないこともあり、農業以外もできるよう求める意見がある。 しかし技能実習制度を巡っては、企業の違法残業や賃金未払いなどの法令違反も問題になっている。 制度を柔軟化すれば企業による悪質な運用が増える可能性もある。 (nikkei = 3-20-19)


結核集団感染、2 割外国人 留学・実習で拡大 16 - 18 年

2016 - 18 年の 3 年間に国内で起きた結核の集団感染 100 件のうち少なくとも 19 件は、技能実習生や日本語学校の留学生など外国人を中心に広がっていた。 このうち、学校や職場などで日本人に感染が広がったケースも 8 件確認された。 毎日新聞が厚生労働省や自治体に情報公開請求した結核の集団感染に関する記録で判明した。 (mainichi = 3-17-19)


外国人実習生受け入れ先、7 割増員 監視を強化

厚生労働省は外国人技能実習生の受け入れ企業に対する監視体制を強化する。 受け入れる企業の実地検査や実習計画の審査などをする人員を 7 割増やすほか、実習生からの相談や通報を受ける体制をつくる。 人手不足を背景に実習生の受け入れは急増し、違法残業などが目立つ。 外国人材が適切な環境で働けるように、法令順守の体制を整える。

実習生の受け入れ先のチェックなどをする外国人技能実習機構(東京・港)の職員を 2019 年度に 7 割増やし、約 590 人とする。 機構は 17 年 1 月に設立され、外国人に実習先をあっせんする監理団体や受け入れ企業に対し、法令を順守しているかの実地検査をしている。 技能実習計画の審査も担う。 主に企業などへの実地検査をする人員と、計画の審査・認定を行う人員を拡充する。 実習生からの相談や通報に対応する担当職員も配置する。

18 年 10 月末時点の外国人技能実習生の人数は約 31 万人で、前年に比べて 2 割増えた。 人手不足が深刻になり、企業が働き手として受け入れを増やしているのが実態だ。 日本で働く 146 万人の外国人労働者の 2 割強を占める。 一方、厚労省が 17 年に調査に入った実習生が働く 5,966 事業所のうち、4,226 事業所で違法残業や賃金未払いなどの法令違反が確認された。 外国人材に選ばれる国になるには、外国人の働き手との接点となっている実習生が適切に働ける環境を整える必要がある。

厚労省は外国人労働者についても、海外のブローカーが不当に金銭を徴収することを防ぐため、悪質なブローカーを利用した国内の職業紹介業者の事業許可を取り消す方針だ。 職業安定法に基づく業者の許可基準を改正し、4 月から取り組む。 厚労省は外国人雇用に関する企業向け指針も改定し、4 月から適用する。 新たな指針では労働条件を示す時や健康診断などの際に、外国人に母国語で説明することを求めた。 社会保険や最低賃金などが日本人と同様に適用されることも改めて明記した。 (nikkei = 3-10-19)


日立と系列 10 社に改善勧告・指導 技能実習業務で違反

日立製作所とグループ会社 10 社の計 11 社 12 事業所が昨年 4 - 9 月、国の監督機関「外国人技能実習機構」の実地検査で、技能実習適正化法違反があるとして改善勧告や改善指導を受けていたことがわかった。 朝日新聞の取材に日立が認めた。 実習での必須業務を技能実習生にさせていないことや、給与が、日立と技能実習生が結んだ労働契約で定め、実習計画に記した賃金を下回っているなどの違反が指摘されていた。

日立では、笠戸事業所(山口県下松市)で「電気機器組み立て」の実習生に必須業務以外の作業しかさせていないなど同法違反の実態があるとみて、実習機構に加え法務省などが昨年から今年にかけて実地検査し、日立への行政処分を検討している。 日立広報・IR 部は笠戸について「現時点で法違反と認定された事実はない」とするが、他の現場では違法状態が広がっていたことが明らかになった。 日立は経団連の中西宏明会長の出身企業。 こうした大企業グループで軒並み同法違反の指摘が表面化するのは異例だ。

朝日新聞が入手した改善勧告・指導書や日立への取材などによると、日立アプライアンス多賀事業所(茨城県日立市)では昨年 7 月、「電子機器組み立て」の習得が目的の実習生が多数いるのに実習の必須業務であるプリント基板の作業を外注していて、実習生にさせていなかった。 日立金属九州工場(福岡県苅田町)では昨年 8 月、「鋳造」の技能実習生に必須業務とは違う作業をさせている例が確認された。 茨城県ひたちなか市にある日立ハイテクノロジーズの工場でも同月、「機械加工」の実習生に必要な作業を十分させていなかったと指摘された。

日立製作所大みか事業所(日立市)では昨年 7 月、基本月給約 13 万円が、日立と技能実習生が結んだ労働契約で定め、実習計画に記した賃金に満たないとして、同年 4 月にさかのぼり差額を払うよう求められた。 実習機構は同法に違反する実態を確認すると「改善指導書」や「改善勧告書」を出す。 国が改善は不十分だと判断すれば、改善命令や、実習計画の認定取り消しなどの行政処分をする。 日立は 12 事業所については「改善を実施し、機構に改善内容を報告済みである」と取材に答えた。

大企業での技能実習を巡っては法務省と厚生労働省が 1 月、実習計画と異なる作業をさせたなどの同法違反で三菱自動車とパナソニックに対し、実習計画の認定を取り消している。 (前川浩之、嶋田圭一郎、asahi = 3-5-19)

関連記事 (10-20-18)


「ひどい仕打ち 来日を後悔」 実習生が最賃以下残業で申し立て

福知山市の縫製加工会社で働いていたベトナム人技能実習生の女性 (39) が、最低賃金以下で働かされたとして未払い分 250 万円を会社に求め、4 日に労働審判を京都地裁に申し立てる。 「過労死ライン」を超える残業をさせられ、パスポートの取り上げや強制貯金などの行為もあったとして、慰謝料など 110 万円も請求する。

女性は「これから日本へ働きに来る人のためにも、声を上げないといけない」と語る。 会社側の締め付けで賃金実態を裏付ける資料は限られているといい、乏しい日本語能力では法的救済を求めるにも壁が高い。 外国人労働者受け入れ拡大が 4 月に迫る中、女性の訴えは、権利保障に向けた課題を浮き彫りにする。

「ひどい仕打ちを受けた。 来たことを本当に後悔した。」 転居した東京都内で通訳を介した取材に応じた女性は、福知山での日々を振り返った。 女性は夫と死別後、母国で縫製の仕事に就き、大学進学を望む娘 2 人の学費を賄うために来日を決めた。 出国前、送り出し機関から最低賃金を下回る実際の基本給や残業の時給を告げられたというが、「(当時は)日本の貨幣価値は分からなかった。 違法とは思わなかった。」と話す。

女性によると、福知山での仕事はミシンがけの簡単な作業だったがノルマは大きく、大声でプレッシャーをかけられたという。 強制的な貯金は会社側から「逃げた時の保険金みたいなもの」と説明を受けた。 連日の残業に疲れて頭痛が続き、週 1 回の休日は専ら寝て過ごした。 職場には他に 8 人の技能実習生が働いていて、二段ベッドがぎゅうぎゅう詰めの寮で暮らしていた、という。 「頼れる人はいなかった。 置かれた環境は変えられないと思うと、つらかった。 日本語で何を言っていいかも分からなかった。」

働き始めて 11 カ月たってから、同胞などを介して「きょうとユニオン」とつながり、支援を受けるようになった。 だが労組への加入を知った会社側は脱退を求めて書面への署名を迫ったり、業務指示の声を荒らげたりした、と女性は主張する。 同ユニオンによると、交付義務がある給与支払い明細書や労働条件通知書は女性に渡されず、作業内容や勤務時間を記録した業務日誌は一部の写しが手元に残るのみで、現物は会社側が回収した、という。 ユニオン側もベトナム語の通訳の手配に苦労した。 女性とのメールはひらがなで、細かな事実の確認に手間取った。

同ユニオンの服部恭子書記長は「外国人労働者を支える資源は乏しい。 アクセスしやすい相談窓口の整備や、企業側の法令順守を厳しくチェックする仕組みなど、行政が背負う課題は大きい。」と問題提起している。 (京都新聞 = 3-2-19)


「人間らしい睡眠とりたい」農業の技能実習生 5 人が訴え

愛知県豊橋市の農家で働くミャンマー国籍の技能実習生 5 人が 26 日、長時間労働を強いられ、未払い賃金もあるとして豊橋労働基準監督署に事実関係の調査を申し立てた。 支援する労働組合などとともに名古屋市で記者会見を開き、明らかにした。 労働組合 JAM などによると、申し立てたのは 20 - 30 代の女性 5 人で、それぞれ、2017 年 6 月 - 18 年 6 月に来日。 大葉を束ねてパック詰めする作業に従事したが、休日は無く、1 時間半の自由時間と 15 分間の昼食休憩を除いて午前 7 時(日曜は午前 8 時)から午前 0 時まで作業させられた。

賃金は出来高払いで、今年 1 月の労働時間が 452 時間に上った女性は、時給に換算すると 339 円だった。 未払い賃金は 1 人当たり 150 万 - 300 万円に達する可能性があるという。 JAM などはこの日、5 人を保護し、未払い賃金の支払いなどを農家に要求。 農家は「夜は働かせていない」などと否定したという。 記者会見で、実習生らは「農業を学びたいと思ってきたが、言葉にできない心の傷を負った」、「人間らしい睡眠時間がとれる仕事を希望したい」などと訴えた。

県によると、愛知県のシソ(主に大葉など)の産出額は全国 1 位。 JAM の小山正樹参与は「愛知県の誇る大葉の栽培、生産が彼女たちの血のにじむような働き方の中で作られていることを知ってほしい」と話した。 (堀川勝元、asahi = 2-26-19)


ベトナム人実習生の死 借金して来日、働きづくめの末に

日本で亡くなったベトナム人技能実習生や留学生らを弔っている東京都港区の寺院「日新窟(にっしんくつ)」の僧侶らが今月、ベトナムを訪れた。 希望を抱いて日本に来た若者が、なぜ苦しい状況に追い込まれてしまうのか。 僧侶らは遺族や送り出し機関から話を聞き、対策につなげたいと願っている。 日新窟の寺務長の吉水里枝さん (49) らは 19 日、ベトナム北部バクザン省を訪れた。 青森県内で今月死亡した実習生グエン・ティ・チャンさん (34) と、岩手県内で昨年 12 月に死亡した実習生のグエン・バン・ハさん (36) の遺族を訪ね、位牌(いはい)に手を合わせた。

ハさんの妻マイさん (32) によると、ハさんは寮で朝、布団の中で死亡しているのを同室の同僚が見つけた。 「ベトナムでは給料も安く貯金もできない」と来日したが、渡航にかかった 150 万円の借金は返済できたものの、貯金はほとんどできなかった。 家族の元に帰国したのは 4 年余の間に 1 度だけ。 10 歳と 7 歳の息子は、毎日テレビ電話で話すたび「お父さん(電話から)出てきて!」と声をかけていたという。 (鈴木暁子 = ハノイ、平山亜理 、asahi = 2-23-19)

前 報 (10-14-18)


新入生 49 人のうち 41 人が外国籍 愛知の小学校

愛知県知立市の市立知立東小学校で、新年度の新入生 49 人中 41 人が外国籍になる見込みになった。 市は同校で日本語指導などを担当するサポート教員を 2 人増やすことを決めた。 知立東小は、ブラジル人など外国人住民が多い知立団地内にあり、1 月現在の在校生 308 人中 212 人 (68.8%) が日本語指導が必要な外国籍児童。 新年度は外国籍新入生が 8 割を超え、国籍は 12 カ国に及ぶ。 新入生の日本人児童は 8 人で、初めて 1 桁になる。 知立市では、不登校やいじめ対応のため、1 日 4 時間勤務の臨時講師として教員免許を持つサポート教員が小・中全 10 校に 1 人ずつ配置されていて、知立東小のみ 2 人増えて 3 人態勢になる。 新年度予算案に増員分を含めた 12 人分の人件費 2,857 万円を計上した。 (小西正人、asahi = 2-18-19)


実習生への賃金支払い指導 北海道の水産業者に労基署

北海道小平町の水産加工会社「岸良海産興業」が、外国人技能実習生として働いていたモンゴル人女性 (32) ら 4 人に残業代などの割増賃金を支払っていなかったとして、留萌労働基準監督署が同社を指導していたことが 18 日、分かった。 関係者によると、留萌労基署が先月、同社を立ち入り調査し、過去 2 年分の賃金の支払い状況を見直して未払い賃金を支払うよう求めた。

同社は指導を受けたことを認めた上で「これまでに支払った給料を調べ直し、労基署に報告している。 近いうちに 4 人に差額を支払いたい。」としている。 労基署は「個別事案については回答できない」とした。 同社をめぐっては、この女性に割増賃金を支給せず、発覚を免れるため給与明細を改竄した上、賃金未払いを指摘した女性に退職を強要したなどとして、女性の代理人弁護士らが昨年 12 月、外国人技能実習機構に不正行為を申告。 機構が調査し、処分を検討する。 (sankei = 2-18-19)