トヨタ、リハビリ支援ロボ貸し出しへ 3 年 100 台目標

トヨタ自動車は、ロボットを使ったリハビリ支援事業に参入する。 自動車をつくる産業用ロボットの技術を応用。 医療機関への貸し出しを 9 月から始める。 リハビリや介護用ロボットは高齢化や人手不足を背景に市場が拡大している。

トヨタのロボ「ウェルウォーク WW-1000」は箱形で、幅 1.2 メートル、奥行き 2.7 メートル、高さ 2.4 メートル。 脳卒中の患者らに、まひした方の足に機器をつけてもらい、動く床の上を歩いてもらう。 機器のモーターで、ひざの曲げ伸ばしを補助。 前方の画面に映像を表示し、歩く姿勢を確認してもらう。 藤田保健衛生大(愛知県豊明市)と共同開発し、厚生労働省から医療機器として承認された。 9 月から初期費用 100 万円、月 35 万円で医療機関などに貸し出す。 3 年で 100 台をめざす。 (竹山栄太郎、asahi = 4-12-17)


離乳食に蜂蜜 … 6 カ月の男児死亡 乳児ボツリヌス症

東京都は 7 日、足立区内の生後 6 カ月の男児が 3 月 30 日、蜂蜜に含まれていたボツリヌス菌が原因の「乳児ボツリヌス症」で死亡したと発表した。 記録の残る 1986 年以降、同症による死亡例は国内で初めてという。

都によると、男児は 2 月 20 日にけいれんや呼吸不全などの症状が出て入院し、同症と診断された。 男児の便と自宅にあった蜂蜜から同菌が検出されたという。 家族は発症の約 1 カ月前から、離乳食として男児に蜂蜜を混ぜたジュースを飲ませていた。 同症は同菌の繁殖を抑える腸内細菌が十分にない 1 歳未満の乳児が発症するとされ、原因食品の大半は蜂蜜のため、都は 1 歳未満の子どもに蜂蜜を与えないよう呼びかけている。 (asahi = 4-7-17)


コエンザイム Q10、加齢臭抑える効果 資生堂が初発見

疲労回復や老化防止などの効果があるとして、サプリメントや化粧品などに含まれている成分「コエンザイム Q10」に、加齢臭を抑える効果があることを、資生堂が世界で初めて発見した。 5 日、発表した。 65 - 74 歳の女性 6 人にコエンザイム Q10 を毎日 100 ミリグラム摂取してもらい、加齢臭の原因物質で、肌から放出されるノネナールの濃度を 4 週間後に計測した。 濃度は摂取前と比べて 2 - 3 割減少したという。 コエンザイムは 2 種類に大別されるが、ともに効果が確認された。

コエンザイムは人間の細胞にあるミトコンドリアがエネルギーを作る際に使われる成分。 加齢により減少することが知られていたが、加齢臭との関係性は明らかになっていなかった。 加齢臭は男女ともにある。 個人差があるが 40 代から目立つケースが多い。 においを抑える対策としては従来、皮脂や汗を洗い流したり制汗剤を使ったりが中心だったが、コエンザイムを摂取すれば体内から抑制ができることになる。 コエンザイムは、イワシや牛肉、ブロッコリーなどに含まれているが、通常の食事では一日 5 - 10 ミリグラムほどしか摂取できないため、サプリメントも多く発売されている。 (野口陽、asahi = 4-5-17)


全身まひ治療に光 脳に電極、手の機能回復 米大発表

全身まひの男性の脳に電極を付けて右手と結ぶと、再びものをつかめるようになった - - こんな研究成果を米ケース・ウェスタン・リザーブ大(オハイオ州)などが医学誌ランセット(電子版)に発表した。 まだ試験段階の技術だが、将来は脊髄損傷に苦しむ患者の画期的な治療法になる可能性があるという。 全身まひは、首や背骨を通る中枢神経がけがなどで損傷し、脳からの信号が手足に届かなくなることで起きる。 中枢神経は再生しにくいため、完全な回復は難しい。 幹細胞を使った再生医療の研究も進むが、実用化はまだ先だ。

研究チームは、交通事故で 8 年間、手足がまひした男性 (56) の脳に小さな電極を埋め込み、画面上でコンピューターによる仮想の右手が動く様子を繰り返し見てもらい、右手を動かす際の脳の信号を解読した。 右手と右腕の筋肉の 36 カ所にも電極を取り付けて、読み取った脳の信号を専用装置で処理した上で伝えた。 脳が出した指示通りに右手が動くように訓練を重ねると、約1年後には皿の上のマッシュポテトをフォークですくって口に運び、カップに入ったコーヒーを自分で飲めるようになった。

これまでも脳の信号を取り出してまひした手を開いたり、ロボットアームを動かしたりする研究はあったが、ものを取る一連の動作を回復できたのは初めてという。 研究チームは「技術が進めば、多様な動きがより正確にできるようになるはずで、まひした患者の人生を変えるだろう」としている。 (ワシントン = 小林哲、asahi = 4-1-17)


入院ベッド 15 万床削減 25 年、医療費減へ在宅移行

2025 年の医療の提供体制を示す「地域医療構想」が各都道府県でまとまり、全国で計 15 万床以上の入院ベッドを減らす計画となった。 医療費を減らすため入院患者を在宅医療に移す流れを受けたものだが、全国で 1 割以上の削減が必要だ。 入院に代わる受け皿づくりが急務となる。

各都道府県がまとめた地域医療構想では、団塊の世代がすべて 75 歳以上になって高齢化がピークを迎える 25 年時点で必要となる入院ベッド数を示した。 その結果を集計したところ、計約 119 万床だった。 ただ、13 年の約 135 万床に比べ、15 万 6 千床余り少ない。 15 年に内閣官房が示した削減の目安は 16 万 - 20 万床で、ほぼ近い数字になった。 入院ベッド数が増えるのは、特に高齢者が急増する首都圏と大阪、沖縄の 6 都府県のみ。 残る 41 道府県は減らす計画で、削減率は鹿児島県(34.9% 減)など 8 県が 3 割を超えた。 (生田大介、asahi = 4-1-17)


睡眠薬や抗不安薬 44 種類「規定量で薬物依存の恐れ」

睡眠薬や抗不安薬、抗てんかん薬として処方される「ベンゾジアゼピン (BZ) 系」という薬などについて、規定量でも薬物依存に陥る恐れがあるので長期使用を避けることなどを明記するよう、厚生労働省は 21 日、日本製薬団体連合会などに対し、使用上の注意の改訂を指示し、医療関係者らに注意を呼びかけた。

対象はエチゾラムやアルプラゾラムなど 44 種類の薬。 BZ 系薬は短期の使用では高い効果を得られるが、薬をやめられない依存性や、やめたときに不安、不眠などの離脱症状が生じることがあるとされる。 日本では広く使われているが、欧米では処方が控えられ、長期的な使用も制限されている。 厚労省は、「承認用量の範囲内でも、薬物依存が生じる。 漫然とした継続投与による長期使用を避けること。」、「投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行うこと」などと使用上の注意に明記することを求めている。 (黒田壮吉、asahi = 3-21-17)


非アルコール性の脂肪肝炎、肺の薬が効く可能性

大量に飲酒していないのにアルコール性肝炎と同じような症状になり、肝硬変や肝がんに進むことがある非アルコール性脂肪肝炎 (NASH)。 その治療に、肺の病気で使われている薬が効く可能性を東京医科歯科大の小川佳宏教授らのグループが見つけた。 これまでなかった有効な治療法につながると期待される。 17 日、英科学誌サイエンティフィックリポーツ電子版に発表した。

グループは、NASH の特徴である炎症と組織が硬くなる繊維化という症状が、「特発性肺線維症」という、進行すると呼吸困難になる肺の病気でも起こることに注目。 この病気の進行を抑える治療薬ピルフェニドンを NASH に使うことを考えた。 NASH とそっくりな症状のマウスに、同じ薬を 8 週間与える実験の結果、これらの症状を抑えられることがわかった。 薬を与えなかったマウスの肝臓は炎症と繊維化が起こった。 「すでに安全性が確認されて病気の治療に使われている薬なので、さらに長期間投与した時の影響などを調べ、臨床応用につなげる方法を探りたい」と小川教授は話す。 (瀬川茂子、asahi = 3-18-17)


治験中新薬と大腸がんの薬併用 新薬耐性肺がんに有効か

がん研究会(東京都江東区)や京都大などの研究グループは、新しい分子標的薬が効かなくなった肺がんに対し、腫瘍(しゅよう)の縮小効果がある薬の使い方を動物実験で見つけた。 海外で臨床試験(治験)中の薬と、既存の大腸がんの治療薬を併用するもので、人でも効果が確認されれば、新たな治療法につながる可能性がある。 13 日付の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)で発表した。

肺がんは国内では年 7 万人が亡くなり、部位別で最も多い。 だが近年、がんの増殖にかかわる物質の働きを抑える分子標的薬が続々と登場している。 患者の約 3 割に見つかる EGFR という遺伝子変異がある肺がんに対しては「イレッサ」などがあるが、やがてがん細胞側に耐性ができて効かなくなる。 この耐性の半数を占めるタイプに治療効果がある「タグリッソ」という新しい分子標的薬が昨年承認されたが、さらに耐性ができた場合の治療法は確立されていない。 (川村剛志、asahi = 3-14-17)


アトピー新治療薬、かゆみ抑える効果を確認 京大など

日本で開発されたアトピー性皮膚炎の新しい治療薬について、かゆみを抑える効果が、日米欧での臨床試験(治験)で確認された。 京都大の椛島健治教授(皮膚科学)らの国際研究グループが 2 日、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに発表した。 新しい薬は中外製薬が開発した「ネモリズマブ」で、かゆみにかかわる生理活性物質「インターロイキン 31」の働きを妨げる。 日米欧 5 カ国の 7 医療機関で、中程度から重度のアトピー性皮膚炎の約 140 人に月 1 回注射し、3 カ月後にかゆみや皮膚の状態などを調べた。

その結果、患者の 6 割でかゆみの程度が注射前と比べ、50% 以上改善していた。 注射の 1 週間後、寝付くまでの時間が 20 分短縮され、3 週間後には安眠している時間が薬を使わない患者と比べて 40 - 50 分以上長くなっていた。 かゆみが減り熟睡につながったとみられる。 重い副作用は確認されなかったという。 椛島教授は「アトピー性皮膚炎の治療は 10 年以上進歩がなく、かゆみを抑える薬もなかった。 2 - 3 年後には患者の手に届くようにしたい」と話している。 (西川迅、asahi = 3-3-17)

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アトピー性皮膚炎 かゆみを起こす物質特定と発表 九州大学

アトピー性皮膚炎の強いかゆみを起こすと見られる特定のたんぱく質を突き止めたと、九州大学の研究グループが発表しました。 症状を根本から治す治療薬の開発につながるのではないかと注目されています。 アトピー性皮膚炎は国内では人口の 1 割前後が患っていると見られ、これまでの研究で強いかゆみの症状は、免疫細胞により「IL-31」という物質が過剰に作られて起きることがわかっていますが、詳しい仕組みは明らかになっていません。

そこで、九州大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授などのグループはマウスを使った実験を行い、アトピー性皮膚炎が起きると健康な場合と比べ、免疫細胞の核の中で「EPAS1」と呼ばれる特定のたんぱく質が増えていることを突き止めました。 さらに、この「EPAS1」が増えないよう遺伝子を操作すると、「IL-31」が減って症状が抑えられ、この現象は、患者の細胞を使った実験でも確認できたということです。

研究グループは、「EPAS1」が強いかゆみを起こすのに重要な役割を持つと見て、症状を根本から治す新たな治療薬の開発につながるのではないかと期待しています。 福井主幹教授は「これまでは対症療法しかなかったが、今回の発見により、かゆみを根源から断つ新たな薬の開発につなげたい」と話しています。 (NHK = 1-10-17)


3D プリンターで神経再生 京大、細胞から筒状組織作成

細胞を立体的に加工できる「バイオ 3D プリンター」を使って、自分の細胞から筒状の組織を作り、傷んだ末梢(まっしょう)神経を再生する技術を、京都大の池口良輔・准教授(整形外科)らが開発した。 ラットによる実験で成功し、米科学誌プロスワンに発表した。 2020 年度の治験開始をめざす。

けがなどで末梢神経が傷つくと、手足の動きや感覚などに影響が出る。 現在は、別の部分から正常な神経の一部を切り取って移植する治療法が主流だが、患者の負担が大きい。 池口さんらは、人間の皮膚の細胞を培養して作った塊を、バイオ 3D プリンターを使って積み重ね、筒状の組織(長さ 8 ミリ、直径 3 ミリ)を作製。 傷んだ末梢神経の末端同士を橋渡しするようにつないで、ラットの足に埋め込んだ。 (西川迅、asahi = 2-26-17)


白血病治療薬、やめられる? 中断でも「2 年再発なし」

慢性骨髄性白血病の治療薬「グリベック」を長期間飲み続けた患者が薬をやめてみたところ、約 3 分の 2 が 2 年以上再発しなかったという臨床研究の結果を、秋田大学の高橋直人教授(血液内科学)らがまとめた。 いまは生涯飲み続けるのが原則だが、やめられる可能性を示しているという。 慢性骨髄性白血病は、染色体の異常で生じる遺伝子が原因で起きる。 正常な細胞にはない遺伝子で、グリベックはこの働きを抑える。 国内では数千人が使っているとみられる。

臨床研究は、東京医科歯科大、防衛医科大など約 40 施設で実施。 グリベックを 3 年以上服用し、遺伝子検査で 2 年以上、この遺伝子が検出されないなどの条件を満たした 23 - 84 歳の患者 68 人が参加した。 服用中止から 1 年目で約 70%、2 年目でも 65% 以上が再発しなかった。 再発しなかった患者はその後も服用中止を続けている。

また、 1 年目までに再発した患者は、薬を再び飲むことで全員が、数カ月以内にこの遺伝子が見つからないか、ごくわずかしか検出されない状態に戻れたという。 慢性骨髄性白血病は、2000 年代にグリベックなどの分子標的薬が登場し、多くの人が安定した状態を保てるようになった。 ただ長期間飲んでいると、むくみなどの副作用が出る場合がある。 また、費用は薬価ベースで月数十万円になり、経済的な負担も大きい。

薬をやめても再発しないかどうかを事前に見極めるのは困難なため、中止には定期的な検査が必要。 高橋教授は「自己判断でやめるのは危険」と警告する。 フランスなどで実施された同様の研究では、再発しなかったのは 4 割程度だった。 秋田大などでの研究は、よい状態をより長く保っている人が多く参加したためではないか、と高橋教授はみている。 (鍛治信太郎、asahi = 2-23-17)


がん 10 年生存率 58.5% 早期発見ほど高率

国立がん研究センターなどの研究班は 16 日、がん患者を 10 年間追跡した生存率を発表する。 2000 - 03 年の 4 年間にがんと診断された約 4 万 5 千人の 10 年後の生存率は 58.5% だった。 がんが初期で見つかった人ほど生存率が高く、検診を定期的に受けることの重要性が示された。 20 のがん専門病院にかかった 5 - 94 歳の患者 4 万 5,359 人を対象に調査。 がん以外で亡くなる影響を除いて生存率を示した。 1999 年からの 4 年間の患者を対象にした前回調査から 0.3 ポイント上昇した。 その後の治療の進歩で、今がんになった人はさらに生存率が上がっているとみられる。

部位別の生存率は乳房 81.7%、大腸 69.2%、肺 32.6% など。 高かったのは前立腺が 94.5%、甲状腺が 89.3% などで、低かったのは膵臓が 5.1%、肝臓が 16.4% だった。 進行度別の生存率は、早期の 1 期で 85.3% だが、進行した 4 期は 12.9% だった。 大腸と胃は 1 期では 9 割超だが、4 期は 1 割を下回った。 同センターの若尾文彦・がん対策情報センター長は「がん検診を受けることで死亡率減少の効果が示されている胃、大腸、肺、乳房、子宮頸(けい)は定期的に受けてほしい」と話す。 (川村剛志、asahi = 2-16-17)


脳動脈瘤、薬の治療に道 京大、炎症の仕組み解明

破裂すると、くも膜下出血につながる脳動脈瘤(りゅう)の進行を薬で抑えられることを、京都大の青木友浩・特定准教授(脳神経外科)らが、ラットを使った研究で確認した。 現在は外科的な治療法しかないが、薬の開発につながる可能性がある。 8 日、米科学誌サイエンス・シグナリングに発表する。

脳動脈瘤は、脳の血管にこぶができる病気で、国内の推定患者数は 330 万 - 550 万人。 破裂を防ぐには、開頭してこぶの根元をクリップで留めたり、カテーテル(細管)を血管に入れてコイルでこぶを塞いだりする。 血管内の炎症が、発症に関わっていると考えられていたが、詳しい仕組みは不明だった。 青木さんらは、白血球の一種であるマクロファージという細胞の表面にあるたんぱく質に着目。 このたんぱく質が炎症を起こす物質を活発化させ、動脈瘤を作ることを突き止めた。 血流が増えて血管の内壁が刺激されると、マクロファージが集まって炎症を起こすと見られるという。 (西川迅、asahi = 2-8-17)


C 型肝炎ウイルス排除後に肝がんリスク 遺伝子型を解明

薬物療法で C 型肝炎ウイルスを体内から排除できた後でも肝がんになる人がおり、名古屋市立大や東京大などの研究チームは 6 日、がんになりやすい人の遺伝子型を突き止めたと発表した。 この型の人は、排除後も定期的に検査を受けることで、がんの早期発見、治療につなげられる可能性があるという。 C 型肝炎ウイルスの感染者は国内に 100 万 - 150 万人いると推計され、肝がんの原因の約 7 割が C 型肝炎とされる。 近年、効果の高い飲み薬が登場し、大半の感染者は体内からウイルスをなくせるようになった。 だが、排除後に肝がんが見つかる人は数 % おり、なりやすい人を見分けるのが課題となっている。

チームは 2007 - 15 年、治療の主流だった注射薬インターフェロンなどでウイルスを排除できた計 943 人の血液などを全国 44 病院から集め、遺伝子解析をした。 その結果、「TLL1」という遺伝子が、肝がんの発生にかかわっていることがわかった。 その遺伝子の型の違いによって、がんになるリスクの差が約 2 倍あったという。 論文が 3 日付の米科学誌ガストロエンテロロジー電子版に掲載された。 名古屋市立大の田中靖人教授(ウイルス学・肝臓学)は「C 型肝炎ウイルスを排除できた患者は年々増えている。 肝がんになりやすい人がわかれば、医師も患者もより注意深く経過をみていくことができる」と話す。(小川裕介、asahi = 2-6-17)


ドローン活用、救助時間 3 分の 1 に 九大で実証実験

人命救助の現場にドローンなどの新技術を採り入れることで救命確率を大幅に高めようとする実証実験が、九州大伊都キャンパス(福岡市西区)で行われた。 ドローンが撮影した画像を救助隊がリアルタイムで共有すると、救助時間は従来の 3 分の 1 に短縮されたという。 成果は 8 日に東京都内のシンポジウムで発表される。

実証実験に取り組むのは、救急医療の革新をめざす専門家や技術者らの団体「救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会(東京)」。 あらゆる機器をネットにつなぐ「IoT (モノのインターネット)」を使った新サービス創出をめざす総務省の事業に採択された。 散歩中などに山林で体調不良になりスマホで 119 番通報した人を救うため、救助隊が出動するという想定。 昨年 9 月以降、キャンパス内の森林で実験を 4 度繰り返し、使う技術によって発見・救助までの時間がどう変わるかを調べた。

スマホから得た大まかな位置情報をもとに、消防指令センターから音声だけで救助隊が指示を受ける従来手法だと、平均 36 分かかった。 一方、ドローンで正確な位置を知ってから指示された場合は平均 15 分。 さらに、救助隊がめがねのように装着する小型ディスプレー機器(スマートグラス)を身に着け、ドローンが撮った画像を見ながら指示に従った場合、平均 12 分まで短縮した。 協議会の副理事長で、救急車にタブレット端末を配備して搬送時間を短縮した実績で知られる佐賀県職員の円城寺雄介さんは「まずは今の技術やルールで出来ることをモデルケースにする。 技術改良が進めば活用場面も広がる。」と話す。 (小林舞子、asahi = 2-5-17)


ラット体内で膵臓作製 → マウスに移植 糖尿病治療に成功

ES 細胞(胚性幹細胞)や iPS 細胞を使って、ラットの体内で、別の種の動物であるマウスの膵臓をつくり、糖尿病のマウスに移植して治療することに、東京大などのグループが成功した。 別の種の動物に作らせた臓器を移植し、治療効果が確認されたのは初めてという。 将来はヒトの臓器を動物でつくらせる研究につなげたい考えだ。 25 日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表する。

東大の山口智之特任准教授(幹細胞生物学)らは、膵臓がつくれないように遺伝子を改変したラットの受精卵を、分割が進んだ「胚盤胞(はいばんほう)」という状態まで成長させ、マウスの ES 細胞を注入した。 この胚をラットの子宮に着床させると、膵臓を持ったラットが生まれた。 膵臓の中の血管はマウスとラットの細胞が混じっていたが、膵臓の細胞はマウスの細胞でできていた。 生まれたラットのおなかに糖を注射すると、いったん上がった血糖値が正常に下がることが確認できた。 iPS 細胞でも同じように膵臓ができた。

さらにグループはできたマウスの膵臓の組織を、薬で糖尿病にした別のマウスの腎臓部分に移植した。 再び組織を取り出すまでの約 370 日間、血糖値が正常に保たれ、取り出した後は血糖値が高い状態に戻った。 移植から 5 日間は炎症を抑えるために免疫抑制剤を使ったが、その後は使わずに済んだ。 (福宮智代、asahi = 1-26-17)


インフルエンザ 累積患者数は 386 万人 全国 36 か所で警報レベル超え

厚生労働省と国立感染症研究所は 1 月 20 日、平成 29 年第 2 週(1 月 9 日 - 15 日)のインフルエンザの発生状況を公表した。 定点あたりの患者報告数は前週より多い 15.25 人。 1 週間の推計受診患者数は約 99 万人。 保健所地域別では、全国 36 か所で警報レベルを超えている。 定点あたりの患者報告数は、第 1 週(1 月 2 日 - 8 日)の 10.58 人から 4.67 人増の 15.25 人。 定点医療機関からの報告をもとにこの 1 週間に受診した患者数を推計すると、約 99 万人にのぼり、前週の約 81 万人からさらに増加。 今シーズンの累積受診者数は、推計約 386 万人となった。

都道府県別では、愛知県の 24.74 人がもっとも多く、岐阜県 21.00 人、埼玉県 20.21 人、千葉県 20.04 人、福井県 19.50 人、茨城県 18.48 人、静岡県 18.26 人、三重県 17.93 人、山梨県 17.54 人などと続いている。 前週より患者報告数が減少したのは 3 道県のみで、44 都府県では前週から増加。 保健所レベルでは、21 都道府県の 36 か所で警報レベル、47 都道府県の 368 か所で注意報レベルを超えている。

冬休みも終わり通学が再開し、再びインフルエンザによる学級閉鎖も出始めており、第 2 週は全国で 227 の保育所、幼稚園、小学校、中学校、高校が休校や学年・学級閉鎖の措置をとった。 このうち、休校は 8、学年閉鎖 43、学級閉鎖は 176 だった。 本格的な受験シーズンに入り、受験生や保護者にとっては特に気になるインフルエンザ対策。 厚生労働省によると、予防には流行前のワクチン接種が有効であるほか、マスク着用、外出後の手洗い、アルコール消毒、適度な湿度の保持、十分な休養とバランスのとれた栄養摂取などが大切だという。 (奥山直美、RESEMOM = 1-21-17)


武田薬品工業 米の製薬会社買収 約 6,200 億円で

大手製薬会社の武田薬品工業は、がんの治療薬に強みのあるアメリカの製薬会社をおよそ 6,200 億円で買収し、この分野での競争力を強化することになりました。

武田薬品工業は、アメリカの製薬会社、アリアド・ファーマシューティカルズを 54 億ドル(およそ 6,200 億円)で買収すると発表しました。 武田薬品は来月までに TOB = 株式公開買い付けを実施し、発行済みの株式すべてを取得して子会社にする予定です。 アリアド社は 1,991 年に設立され、血液がんの一種の急性リンパ性白血病の治療薬を販売したり、肺がんの治療薬の開発を行ったりするなど、がん治療薬の分野に強みがあるということです。

武田薬品は、がんや神経系疾患などを重点領域に掲げていて、クリストフ・ウェバー社長は、今回の買収について「重点を置く戦略を推進する絶好の機会だ」というコメントを発表しています。 武田薬品は先月、子会社の試薬品メーカーの売却を発表するなど、事業の選択と集中を加速させています。 (NHK = 1-10-17)


梅毒患者 4 千人超、5 年で 5 倍に … 増加要因不明

性感染症の梅毒と診断された患者数が、昨年は 4,000 人を超え、約 40 年前と同水準となったことが国立感染症研究所のまとめでわかった。 2011 年と比べ 5 倍に増えた。 妊婦を通じ胎児が感染すると死産などを起こす恐れがあり、専門家は注意を呼びかけている。

感染研によると、昨年 11 月 27 日までの患者数は 4,077 人で 1974 年の 4,165 人に迫った。 年間の集計では同年を上回る見込み。 男性が 2,848 人、女性が 1,229 人で、女性は 20 歳代が半数を占めた。 梅毒は、戦後間もない 1940 年代後半に患者が 20 万人を超えていたが、抗菌薬治療の普及で激減。 再流行した 67 年の約 1 万 2,000 人をピークに減少を続け、一時は 500 人を切った。 しかし、2011 年以降、再び増加。 感染研は「増加のはっきりした要因は分からない」としている。 (yomiuri = 1-7-16)


「高齢者は 75 歳から」学会提言 65 歳以上は準備期間

一般的に 65 歳以上とされている高齢者の定義について、日本老年学会と日本老年医学会は 5 日、75 歳以上とすべきだとする提言を発表した。 65 - 74 歳は「心身とも元気な人が多く、高齢者とするのは時代に合わない」として、新たに「准高齢者」と位置づけた。 医師や心理学者、社会学者らでつくる両学会のワーキンググループが日本人の心身の健康に関する複数の調査結果をもとに 2013 年から検討してきた。

65 歳以上では脳卒中などで治療を受ける割合が以前より低下する一方、身体能力をみる指標の歩行速度などが上がる傾向にあり、生物学的にみた年齢は 10 - 20 年前に比べて 5 - 10 歳は若返っていると判断した。 知的機能の面でも、70 代の検査の平均得点は、10 年前の 60 代に相当するという報告があり、根拠の一つとされた。 また、「高齢者とは何歳以上か」を問うた内閣府の意識調査(2014 年)では、「75 歳以上」との答えが 28% で、15 年前より 13 ポイント上がったのに対して、「65 歳以上」は 6% で、12 ポイント下がった。 (編集委員・田村建二、川村剛志、asahi = 1-5-17)


心臓硬化の背景にたんぱく質 生理学研究所が解明

心臓病の原因の一つとされる心臓の硬化の仕組みについて、愛知県岡崎市の生理学研究所などが解明したと発表した。 19 日付の英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。 心不全患者の約半数は「拡張機能障害を伴う心不全 (HFpEF)」とされている。 主な原因は心臓の硬化とみられるが、詳しい仕組みがわかっていなかったという。

HFpEF の患者は、左心室に血がたまりやすい状態になる。 そうすると、風船が膨らむように内側から心筋を引っ張ってしまう。 心臓は膨張を防ぐために、硬くなって心不全を引き起こすという。 生理学研究所の西田基宏教授 (43) らによると、硬くなるのは心臓が組織内のコラーゲン線維を蓄積するためだ。 今回、西田教授らの研究で、コラーゲン線維の蓄積に重要な役割を果たしているのが、心筋細胞膜にあるたんぱく質「TRPC3」であることをつきとめた。 (北上田剛、asahi = 12-19-16)


新型出生前診断、3 年半で 3 万 7 千人受診

妊婦の血液で胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断の臨床研究をしているグループ(約 70 医療機関)は 16 日、開始から 3 年半分の実績を発表した。 2013 年 4 月から今年 9 月までの集計によると、新型出生前診断を受けたのは 3 万 7,506 人で、今年 3 月時点から 7 千人近く増えた。 3 万 7,506 人のうち陽性と判定されたのは 673 人。 この後、羊水検査などで染色体異常が確定したのは 508 人で、このうち 94% にあたる 476 人が人工妊娠中絶をし、13 人が妊娠を継続、残り 19 人は胎児が死亡したという。

事務局の関沢明彦・昭和大教授は「検査の精度やカウンセリング態勢がきちんと確保されていると考えている」と話した。 新型出生前診断は、日本産科婦人科学会の指針に基づき、日本医学会が実施できる医療機関を認定している。 検査を受けられる妊婦は、出産時の年齢が 35 歳以上や、染色体異常のある子どもの妊娠・出産経験がある、などと定めている。 (asahi = 12-16-16)

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新型出生前診断 指針違反で 3 医師を懲戒処分 日産婦

妊婦の血液で胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断を、学会の指針に反して認可外の施設で実施したとして、日本産科婦人科学会(日産婦)は 10 日、会員医師計 3 人を譴責などの懲戒処分とした。 東京都の 2 人と大阪府の 1 人で、氏名や施設名は公表しなかった。

同学会によると、今後は指針に従うとの始末書を提出した 2 人を最も軽い厳重注意とし、始末書を出さず指針に従う意思が確認できなかった 1 人を一段階重い譴責にした。 譴責にした医師には年末までに指針に従うという誓約書の提出を求め、提出がない場合はさらに処分を検討するという。 新型出生前診断は、同学会の指針に基づき日本医学会が認可した医療機関で、35 歳以上などの妊婦を対象に実施されている。 処分を受けた 3 人が所属する 3 施設は、いずれも認定を受けていなかった。 (福宮智代、asahi = 12-11-16)

前 報 (7-16-16)


富士フイルム、再生医療の収益化へ着々 成長の軸に

富士フイルムホールディングスが和光純薬工業を買収するのは、将来の収益源と位置付ける再生医療分野で既存事業との相乗効果を引き出すためだ。 自社が持つ細胞や足場材といった技術に和光が持つ培地を組み合わせ、再生医療に必要な主要材料の全てを自社で手掛ける体制を整える。 「再生医療の富士フイルム」のイメージを高め、早期の事業黒字化につなげる。

15 日に都内で記者会見を開いた古森重隆会長兼最高経営責任者 (CEO) は「再生医療の最強の布陣にできた」と強調した。 和光純薬は細胞を培養する際の栄養剤の役割を果たす培地を手掛ける。 富士フイルムは苗床のような機能を持ち、ヒトの細胞を臓器など立体物に育てる足場材の技術を既に持つ。 培地事業の獲得により再生医療に必要な材料を個別に医療機関に提供したり、細胞を培養したうえで供給したりする総合的なサービス体制が整う。 古森氏は「和光と技術も融合し、シナジーを引き出してビジネスを最大化する」と述べた。

富士フイルムは M & A (合併・買収)を通じ、再生医療事業に参入してきた。 2014 年に再生皮膚などを手がけるジャパン・ティッシュ・エンジニアリング (J-TEC) を子会社化。 15 年には iPS 細胞を手掛ける米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル (CDI) を買収した。 J-TEC は既に再生医療製品の承認を得て、やけどの患者向けの自家培養皮膚などを販売している。 移植が可能な医療施設が増え、増収効果により研究開発費を吸収し始め、16 年度の黒字化がみえてきた。 CDI Iも iPS 細胞の供給事業が収益の柱として育ちつつある。

和光純薬は年間売上高が約 800 億円で、営業利益率が 1 割。 富士フイルムの助野健児社長兼最高執行責任者 (COO) は「10 年強で投資を回収できる」と説明した。 和光は培地を低コストで供給する技術が高く、医療機関に広く販路を持つ。 細胞を培養した再生医療製品や培地、足場材など材料事業は今後需要が拡大するとみられている。

富士フイルムホールディングスの 16 年 3 月期の連結売上高は 2 兆 4,916 億円。 47% を占めるドキュメント事業はオフィスの印刷需要の低迷で伸び悩み、デジカメやミニラボも同様だ。 4,235 億円だったヘルスケア分野を成長領域と位置付け、19 年 3 月期にも 1 兆円を目指す計画。 そのなかでも再生医療は成長性だけでなく、企業イメージを高める先進性を持つ事業とみて経営資源を厚く配分する。

けがや病気で機能しなくなった臓器や組織と置き換えて治療する再生医療は期待が高く、参入も相次ぐ。 日本では 14 年 11 月に施行された医薬品医療機器等法(旧薬事法)で再生医療製品の製造・販売承認の手続きが簡素になり、製品化しやすい環境になった。 これまでに重いやけどの治療に使う培養表皮や心不全治療用の製品が実用化されている。 従来はベンチャー企業が中心だったが、製薬大手が力を入れ始めたほか、日立化成など異業種も相次いで参入している。 (nikkei = 12-15-16)

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富士フイルム、武田子会社買収へ 2,000 億円規模

再生医療や創薬を強化

富士フイルムホールディングスは武田薬品工業傘下の試薬大手、和光純薬工業を買収する。 買収総額は 2 千億円規模になる見通しで、武田と最終調整に入った。 和光が持つ再生医療の研究開発に必要な技術などを取り込み、機器や創薬とともに医療事業を広げる。 先進国の高齢化で先端医療分野は高い成長が見込める。 M & A (合併・買収)による事業の争奪戦が激しくなってきた。

武田は和光の株式の約 7 割を持つ。 10 月に実施した最終入札には富士フイルムと日立製作所子会社の日立化成、米投資ファンドのカーライル・グループの 3 陣営が応札していた。 富士フイルムの提示額は日立化成が応札にあたってあらかじめ定めた上限額を上回り、最高額になった。 武田側は優先交渉先を富士フイルムとする方針を関係先に伝え始めた。 月内にも基本合意し、2016 年度中の手続き完了をめざす。

和光は研究用試薬の国内最大手で、2015 年度の売上高は約 800 億円。 難病治療のカギを握る胚性幹細胞(ES 細胞)や iPS 細胞の培養に使う試薬など有望技術を持っており、医療事業の強化を狙う企業や海外投資ファンドなどが関心を寄せていた。 富士フイルムは既に和光株の 10% 弱を持つ第 2 位株主。 武田は提示額に加え、富士フイルムと和光が技術協力したり、医薬品の販路を相互利用したりすることなどで相乗効果を引き出しやすいと判断した。

富士フイルムは X 線画像診断装置や内視鏡など医療機器に強みを発揮してきたが、中堅製薬会社の富山化学工業や米再生医療ベンチャーを相次ぎ買収するなど医療分野の事業領域を広げている。 今回の買収で和光のノウハウを生かした創薬やがん診断、新興国の検査薬市場開拓も進められるとみている。 主力の事務機やデジタルカメラは市場成長が見込みにくい。 富士フイルムのヘルスケア部門の売上高(16 年 3 月期)は約 4,200 億円で全体の 2 割近くを占める。 今春、東芝メディカルシステムズの買収戦でキヤノンに競り負けたが、1 兆円事業をめざして M & A の新たな機会を狙っていた。

大型新薬開発への回帰を進める武田は非中核事業を見直し、事業選別を急いでいる。 現在カナダ製薬大手の胃腸薬事業を巡り 1 兆円規模の買収交渉を進めている。 15 年末には英製薬大手への呼吸器薬事業売却を決めた。 売却で得た資金を有望な候補薬を持つ企業の買収や研究開発に充てる。

世界の医薬品大手では大型 M & A が相次いでいる。 米医薬大手ファイザーは 8 月、米バイオ医薬大手を買収すると発表。 がん治療薬に集中するため 140 億ドル(約 1 兆 4,500 億円)を投じる。 テルモも 10 月、米アボット・ラボラトリーズなどから血管治療機器の事業の一部を買収することで基本合意した。 (nikkei = 11-3-16)


頭の中に電極、脳波を無線送信 難病患者向け臨床研究へ

全身の筋肉が動かせなくなる難病患者の頭の中に電極を入れ、読み取った脳波を無線で送ってパソコンやロボット義手を操作する世界初の臨床研究を、大阪大などのグループが来年度にも始める。 脳の信号で機器を操る「BMI (ブレーン・マシン・インターフェース)」という技術の一種で、患者の意思伝達や生活支援につなげる。

今年度中に学内の倫理委員会に申請する。 対象は、全身の運動神経が徐々に減る筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の患者。 国内に約 1 万人おり、症状が進むと自力での呼吸や発声ができなくなる。 まぶたやほおの動きでパソコンを操る装置が開発されているが、操作に時間がかかり、筋肉が動かなくなると利用できない。 研究グループは、体の動きをイメージした時に生じる脳波を元に、手やひじの動きを推定できる技術を開発。 2013 年、ALS 患者の脳の表面に、脳波を測る電極を手術で直接置き、体外とケーブルでつなぎ、パソコンなどを操作できることを試験的に 3 週間調べた。

この脳波の計測法は、てんかん手術前の検査で使われている。 頭皮から測るよりも精度が高く、細かな情報がとれるため、患者の意図する動きをとらえやすくなると期待されている。 今回は、頭を開いて直径約 1 ミリの電極 100 個ほどを脳の表面に直接置いた上で、頭蓋骨(ずがいこつ)を数センチ四方切り取った部分に、無線で体外に信号を送る装置を埋め込む。 装置は体外から充電できる。 手術や異物を長期間体内に入れるリスクはあるが、ケーブルでつなぐ場合と比べ、感染の危険性が低いことが利点だ。

手術後、文章の作成や照明の電源操作などができるパソコンや、ロボットの義手を試してもらう。 期間は 1 年間で、患者が希望すれば延長する。 うまくいけば、医療機器の承認を目指して 19 年度ごろから治験を始める。 将来は脊髄(せきずい)損傷などへの適応拡大も視野に入れる。 同大の平田雅之・臨床神経医工学寄付研究部門教授は「装置が体内に長期間入るので、安全性の確認が第一。 その上で、どこまで性能を高められるか、限界に挑みたい。」と話す。 (阿部彰芳、asahi = 12-14-16)

BMI〉 「ブレーン・マシン・インターフェース」の略。 脳の信号で機械を操る研究は 2000 年ごろから本格化した。 米国では電極の針を脳に刺し、神経細胞の活動を測る手法が主流で、手足がまひした患者でロボットの義手を操作できた報告などがある。 国内では、頭皮の上から脳波を測り、パソコン上の絵文字などを選んで意思を伝える装置の開発も進んでいる。