いすゞ自動車、「自動運転トラック」の米ガティックに 47 億円出資

シリコンバレーを拠点とする物流分野に特化した自動運転テクノロジー企業、Gatik (ガティック)は米国時間 5 月 14 日、日本のいすゞ自動車との新たなパートナーシップで 3,000 万ドル(約 47 億円)の出資を受け、レベル 4 の自動運転の商用化を目指すと発表した。

共同創業者兼 CEO のゴータム・ナランはフォーブスの取材に対し、2027 年に生産が開始される次世代トラックは、いすゞの新たな工場で製造され、そこにガティックの技術が統合されると語った。 ガティックへのいすゞの累計出資額は、これで 2 億ドル(約 312 億円)を超えたとナランは述べている。 同社の自動運転トラックは、人間の運転手なしで走行するのに十分なセンサーやソフトウェア、コンピューティング能力を搭載するレベル 4 の能力を持つとされている。

「トラックメーカーがレベル 4 の自動運転トラックの大量生産を約束したのは、我々が知る限りこれが初めてだ」とナランは述べている。 「この提携は、当社の技術やそのユースケース、経済性を証明するもので、北米で 2,500 億ドル(約 39 兆円)規模になるミドルマイル市場に占める、ガティックのポジションの大きさを示している。」

フォーブスの人工知能 (AI) 分野の有力企業リスト「AI50」にも選出されたガティックは、アルファベット傘下のウェイモのように自動運転タクシーを開発するのではなく、ウォルマートやクローガーを含む小売大手のために、物流トラック向けの自動運転ソリューションを提供している。 現状で約 70 台の同社の自動運転トラックの多くは、いすゞの車両を改良したもので、都市部を人間のドライバーを乗せずに最高時速 45 マイル(約 70 キロメートル)で走行し、高速道路をセーフティドライバーを同乗させて走行している。

ガティックの収益は伸びているとナランは、詳細を明かさずに語った。 彼は、いすゞとの新たな提携によって同社が数百台規模のトラックを商用運転することになると予想しており、今後の数年以内の黒字化を目指している。 「私たちは、いすゞの生産ラインから出荷される車両に最初にアクセスすることになる」と彼は語った。

苦境の自動運転分野

ガティックのこの提携は、自動運転分野の他の企業の苦境を考えると注目に値する。 自動運転トラックの TuSimple (トゥーシンプル)は 1 月に米ナスダックでの上場を廃止し、同業の Embark (エンバーク)も 2023 年に従業員の 70% を削減した後にソフトウェア企業の Applied Intuition (アプライド・イントゥイション)に買収された。 また、Nuro (ニューロ)のような宅配ロボットの企業も、商業運転の規模を拡大するのに苦労してレイオフを実施した。 さらに、この分野のリーダーであるウェイモでさえ、ロボットタクシーのみに注力するために物流部門の計画を棚上げした。 ゼネラルモーターズが支援するクルーズも、安全面の課題で苦戦している。

ナランは、顧客からの 5 年間のコミットメントで収益を上げ、いすゞとの提携を獲得したガティックのテクノロジーは、多くの競合他社と一線を画していると述べている。 「自動運転分野の課題は、収益がまだ十分ではない点にある。 私たちが重視しているのは、収益を上げつつ成長を遂げていくことだ」と彼は語った。 (Alan Ohnsman、Fobes = 5-15-24)


実験中の自動運転バス、路線バスと接触 原因判明まで運休 岐阜

27 日午後 0 時 5 分ごろ、岐阜市神田町 9 の国道 157 号で、岐阜乗合自動車(岐阜バス)の路線バスと岐阜市が運行する自動運転小型バスが接触した。 けが人はなかった。 岐阜県警岐阜中署が事故原因を調べている。 市は原因が判明するまで自動運転バスの運行を休止する。 路線バスがバス停に停車するため車線変更した際、後方を走る自動運転バスの右前部に接触した。 路線バスに運転手と乗客の計 16 人、自動運転バスにはオペレーター 1 人と乗客 9 人が乗っていた。

自動運転バスは自動運転モード時、側面 30 センチ以内に車両が近づくと自動でブレーキがかかる。 岐阜市は事故時の運転モードを確認している。 路線バスの運転手が自動運転バスを目視で認識していたかどうかは「確認が取れていない(岐阜バス)」という。 自動運転バスは 2023 年 11 月から 28 年 3 月末まで、JR 岐阜駅と柳ケ瀬や市役所の周回ルートなど 2 路線で実証実験中。 オペレーターが、ゲーム用コントローラーで路上駐車の車両などの回避操作をする「レベル 2」で自動運転を導入した。 (太田圭介、mainichi = 3-27-24)


自動運転バスに記者が試乗 たびたび「手動」に 課題は路上駐車回避

運転手不足問題の解決に向け、鳥取市が導入を目指して実証運行の実験をしている自動運転バスに 15 日、記者が試乗した。 試乗ルート中、運転手がハンドルを握って「手動運転」になる場面も多く、完全自動化の実現は簡単ではないと感じた。 実証運行は、市と地元の運行事業者、車両を管理する「ティアフォー(名古屋市)」などが取り組む国の補助事業。 道路運送車両法に基づく運転者を必要としない「レベル 4」を目指し、1 月下旬から市中心部で実施している。

16 日から市民の試乗が始まるのを前に 15 日、報道機関向けの試乗会があった。 カメラやレーダーなど 30 個のセンサーを車体前部に装着した電動バスは、JR 鳥取駅前を出発。 走行ルートは、若桜街道を直進し、鳥取城跡付近や県庁を通って戻る約 4.6 キロ。 最高時速 35 キロで走った。 電動らしく発進はスムーズ。 緊急時に備えて運転席に座る運転手の背後にはモニターがあり、各センサーがとらえた周囲の車や歩行者の動き、バスの走行位置などが刻々と表示された。運転手がハンドルを握ったりブレーキを踏んだりすると手動運転に切り替わり、現在の走行が自動か手動かも示された。

駅前ロータリーには信号に対し車体が斜めに停車する交差点があるが、ここでは手動運転になった。車両前面のカメラが信号を認識できないためだ。 若桜街道は路上駐車が多く、ほぼ運転手がハンドル操作で回避。 幹線道路から鳥取城跡方面へ右折する際も対向車がなかなか途切れず、手動運転だった。自動運転中に急ブレーキがかかり、立っていれば大きくよろけたと思われる衝撃を受けることもあった。

市によると、路駐車両は自動運転でも回避できるがセンターラインをはみ出すなどして急ブレーキがかかることがあり、今回は安全優先でほぼ手動運転にしたという。 ティアフォーによると、他にも市内にある信号のない環状交差点や長いトンネルは自動運転には不向き。一方で路駐車両が少ないなど交通条件が良ければ、今回のルートの 7 割程度を自動運転できるという。 16 日から 25 日まで、市民が無料で試乗できる。 市によると、15 日午前の時点で定員(約 650 人)に対し 97% の乗車希望が寄せられているという。 (清野貴幸、asahi = 2-16-24)


自動運転タクシーを群衆が破壊 米で相次ぐ事故、不満募らせ反発か

米グーグルの親会社アルファベット傘下のウェイモが運行する自動運転タクシーが 10 日夜、サンフランシスコの中華街で群衆に破壊され放火された。 乗客はおらず、けが人はいなかった。 米国では自動運転タクシーによる事故が相次いでおり、不満を募らせた群衆による嫌がらせの可能性がある。

サンフランシスコ消防署が X (ツイッター)に「ウェイモの車両が取り囲まれ、落書きされ、窓ガラスが割られ、火の付いた花火が車内に投げ込まれ、最終的に車両全体が炎上した」と投稿した。 炎上する車体など 4 枚の写真が添付されている。 現場は当時、中国の旧正月を祝うイベントでにぎわっていた。 ウェイモの自動運転タクシーは今月、サンフランシスコ市内で走行中の自転車と接触事故を起こしていた。 米自動車大手ゼネラル・モーターズ傘下のクルーズも昨年、自動運転タクシーが重大な人身事故を起こし、全米で営業を停止している。 (ワシントン・大久保渉、mainichi = 2-13-24)

〈編者注〉 自動運転バス・タクシーを普及出来る環境は日本にしか無いようです。 日本はむしろ真剣に研究、普及することに集中すべきなのかもしれません。


自動運転バス、つなげて電車に? 全国初の試乗会始まる 東広島

JR西日本は広島県東広島市内で、サイズの異なる 2 台のバスを自動運転で隊列走行させる実証実験を続けている。 昨年 11 月に始まった国内初の試みだ。 1 月 10 日からはバス路線で一般向けの試乗会も始まり、記者も乗り心地を体験した。 実験は、市中心部の JR 西条駅から広島大学東広島キャンパスを結ぶ公道で行われている。 運行するのは、通常より長い車体に多くの乗客を乗せられる「連節バス」。 自動運転で走る区間は緩いカーブの 3.2 キロで、このうち 1.5 キロの区間では別の自動運転バスと隊列を組んで走る。

これまで乗客は乗せてこなかったが、10 日の初回の試乗会には記者を含む約 20 人の報道陣がバスに乗り込んだ。 急発進や急ブレーキに備えてヘルメットをかぶって乗車した。 出発点は広島大学東広島キャンパス。 運転手が乗り込み、最初は手動で運転していたが、途中のバス停で停車して自動運転での隊列走行に切り替えた。 自動でアクセルがかかり、運転手が手を離した後もハンドルが回っていた。

連節バスの前方には、車などの形状や距離、路面の白線を識別するカメラやセンサーと、人工衛星などから位置情報を受け取るアンテナもついている。 隊列走行する後ろのバスとの通信機能もある。 運転席付近にあるモニター画面をのぞくと、周囲の車や歩行者を検知している様子や、道路の中央からのズレが1センチ単位で表示される様子が確認できた。 最高速度は 40 キロに設定され、隊列走行ではバス同士の車間を約 20 メートルに保った。 交差点にさしかかると、赤信号や前の車の位置を検知して、緩やかに減速して止まった。

信号が青になった際には、バスが不自然にガタガタと揺れる場面も。 同乗していたシステム担当者によると、前方で順番に発進する複数の車と距離を保つために起こった現象という。 その後は不自然に感じることはなく自動運転が終わるバス停に着いた。 バス停は路肩にあったが、スムーズに車線を変更して入っていった。 一方、技術開発の途中であるため、自動運転の間も運転手の操作に頼る場面もあった。 信号待ちの先頭になったときは前の車がおらず止まりにくいため、運転手がブレーキを踏んでいた。 また、通信状況が悪い高架下などでも操作を手動に切り替えていた。

今回の実験のような、隊列走行によるバス高速輸送システム (BRT) は路面電車に近い運行ができる。 運転手を減らしても多くの貨客を運べるため、JR 西は運転手不足の解決につながることを期待する。 東広島市は実用化に向け、道路にバス専用または優先のレーンの設置を検討中だ。 自動運転バスは、JR 東日本が 2022 年 12 月から宮城県内で実用化し、JR 西も鉄道路線の維持が難しい地域での活用を視野に入れる。 試乗会後、JR 西の広岡研二・広島支社長は「特定の線区まではまだイメージしていないが、各地域が導入に関心を持ってもらえたら、ぜひ相談していきたい」と話した。

今後の試乗会は 1 月 12 日、19 - 21 日、26 - 28 日、2 月 2 - 4 日に、1 日 4 便で行われる。 東広島芸術文化ホール前から 1 周約 12 キロの路線を約 1 時間かけて運行する。 運賃は無料で、LINE 公式アカウント「東広島市 BRT 自動運転」から事前予約が必要。 乗車 30 分前まで受け付けており、車いす席もある。 (黒田陸離、asahi = 1-13-24)


走り出す自動運転バス 運転手不要の「レベル 4」、人手不足の救世主

一定の条件つきで車の運転の全てをシステムが担う「レベル 4」の自動運転バスが、公道で走り出す日が近づいてきた。 国土交通省の認可を受けた車両が、今後数カ月で実用化される見通し。 従業員ひとりで複数台を運用することも可能で、人手不足で細る公共交通網の「救世主」として期待が高まっている。

ソフトバンク子会社の「ボードリー」は 16 日、自動運転用電気自動車 (EV) 「アルマ」を報道陣に公開した。 11 人乗りの小型バスで、運転席はない。 10 月下旬、羽田空港近くの複合施設羽田イノベーションシティ(東京都大田区)の敷地全周約 800 メートルの決められたルートに限って、レベル 4 で運行する認可を国交省から得た。 東京都公安委員会や警視庁の許可を得た後、段階的にレベル 4 に切り替える方針だ。

アルマは 2020 年 9 月から約 3 年間、乗務員が一部運転する「レベル 2」で同施設内を定時運行してきた。 発進時などは乗務員が手元のコントローラーで操作するが、走り出すとレーザー光を使って障害物を検知する「LiDAR (ライダー)」や GPS、3D マップ情報を元に走る自動運転に切り替わる。 今後、レベル 4 になれば乗務員は不要になり、全てシステムが運転する「完全無人運転」が実現する。 ボードリーは現在、北海道上士幌町でもレベル 2 の自動運転バスを運行しており、レベル 4 への移行をめざしている。

名古屋大発のスタートアップ(新興企業)「ティアフォー」も 10 月、自社開発した自動運転システムを搭載した「ミニバス」で、相模原市の物流施設でのレベル 4 運行の認可を取得した。 同社が手がける自動運転システムはミニバス以外の車両にも搭載が可能で、今後も複数の車両でレベル 4 の認可取得をめざしている。 レベル 4 での公道走行は今年 4 月の改正道交法の施行で解禁された。 今のところ、実用化されているのは福井県永平寺町のゴルフカートベースの EV だけで、バスの例はない。 政府は 2025 年までに全国 50 カ所以上でバスなどを自動運転化する目標を掲げ、各地で自動運転化への支援を強化している。

自動運転バスが注目されるのは、公共交通機関のドライバー不足が深刻化しているからだ。 ドライバーの残業に上限規制が設けられる「2024 年問題」の影響もあり、日本バス協会は 2030 年にバス運転手が全国で 3 万 6 千人不足すると見込む。 ボードリーの佐治友基社長は「レベル 4 が普及すれば人手不足を大幅に解消できる可能性がある。」と話す。

レベル 4 の自動運転では遠隔監視のオペレーターさえいれば、バスの運転手は不要だ。 ボードリーには全国各地の自動運転バスを一括管理する遠隔監視センターがあり、そこから一人のオペレーターが複数台のバスを運行する計画だという。 レベル 4 を実現した後も、利用者の不安を和らげるため、子どもや高齢者の乗り降りを手伝う添乗員を配置する予定だ。 運転に関する資格は不要で、人が集めやすくなる。 佐治社長は「レベル 4 が普及すれば、バス業界以外の人も活躍できる。 自動運転バスが走ることで、その地域に多様な雇用機会を生み出せるかもしれない。」と話す。 (若井琢水、asahi = 11-19-23)


安全装置が機能せず自転車と接触 国内初の完全自動運転で初の事故

国内で初めて公道での本格的な自動運転を行っている福井県永平寺町で 29 日、初めての接触事故が起きた。 本来は車が走るコースに障害物があれば自動的に停止して事故を未然に防ぐ機能があるが、それが機能しなかった。 運営会社は事故後は車の運転を止めており、再開のめどは立っていないという。 福井県警福井署によると、事故は29 日午前 10 時 25 分ごろに起きた。車は 4 人の乗客を乗せて走行していたが、進路上に駐輪してあった自転車の後輪と接触したという。 4 人にけがはなかった。 永平寺町は事故の原因について「調査中」としており、安全対策が確認できるまでは運行を中止するという。

永平寺町での自動運転は今年 5 月に始まった。 特定の区間や条件のもとで「完全自動運転」するレベル 4 で、土日祝日に約 2 キロの区間を往復運転していた。 政府は、2025 年をめどに全国 50 カ所ほどで、27 年までに 100 カ所以上で、地域限定型の無人自動運転移動サービスを実現できるよう、あらゆる施策を講じるとしている。 (小田健司、asahi = 10-29-23)


GM 傘下のクルーズ、全米の無人タクシーの運行を停止 人身事故受け

米自動車大手ゼネラル・モーターズ (GM) 傘下のクルーズは 26 日、全米での無人タクシーの運行を停止すると発表した。 サンフランシスコで起きた人身事故を受け、カリフォルニア州当局が同社の無人タクシーの運行許可を停止しており、全米規模に拡大した。 クルーズは声明で「我々にとって最も大事なことは社会の信頼を再建することだ」とした上で、「システム、業務手順などを時間をかけて調査し、より良く運行できるように反映していく」とコメントした。

無人タクシー、テキサスでも

クルーズの無人タクシーは、南部テキサス州オースティンやヒューストン、西部アリゾナ州フェニックスで運行している。 運転手付きの自動運転車の運行は続けるという。 サンフランシスコ市内で今月、クルーズの無人タクシーが他の車がはねた歩行者をひく事故が発生。 カリフォルニア州当局は 24 日、この事故での同社の対応を問題視し、運行許可を取り消した。

州当局によると、事故車両は女性が下敷きになった状態で一度止まった後、女性を引きずったまま約 6 メートル進んだと指摘。 「歩行者の被害を悪化させた可能性がある」としていた。 ホンダは今月、GM とクルーズの 3 社による合弁会社を立ち上げ、無人タクシーサービスを 2026 年に東京都内で始めると発表している。 (サンフランシスコ = 五十嵐大介、asahi = 10-28-23)


ホンダ 2026 年に自動運転タクシーサービス 都内の一部で開始へ

ホンダは、アメリカの GM = ゼネラルモーターズと共同で 3 年後の 2026年に自動運転タクシーのサービスを始める計画を明らかにしました。 運転手のいない車両を使って東京都内の一部のエリアでサービスを開始します。 発表によりますと、ホンダとアメリカの GM = ゼネラルモーターズ、それにアメリカで自動運転サービスを提供する GM の子会社は、2024 年前半に合弁会社を設立し、2026 年に自動運転タクシーのサービスを始める計画です。

特定の条件のもとで完全自動運転を行うレベル 4 の技術で、運転手のいない 6 人乗りの車両を使うということです。 まずは、東京都内の一部のエリアに限って、走行ルートを定めずに目的地を自由に指定できるサービスを始める計画です。 数十台規模でサービスを開始し、そのあと、500 台規模の車両を導入し、エリアの拡大も目指すとしています。 レベル 4 の自動運転は、全国各地で自治体などを中心に、小型バスなど公共交通機関として活用しようという取り組みも広がっていて、技術開発や事業化に向けた動きはさらに活発化しそうです。 (NHK = 10-19-23)


完全無人タクシー、サンフランシスコ全域で解禁 自動運転に懸念も

米カリフォルニア州当局は 10 日、米グーグル傘下ウェイモと米ゼネラル・モーターズ (GM) 傘下クルーズの 2 社に、サンフランシスコ市内で自動運転車による「完全無人タクシー」の 24 時間営業を認めた。 普及に向けた大きな一歩だが、安全面では課題も残る。 「今日の認可は、サンフランシスコでの我々の商業運行の本当の始まりだ。」 ウェイモのテケドラ・マワカナ共同最高経営責任者 (CEO) は同日の声明でそう訴えた。 同社は今後数週間で、有料の無人タクシーサービスを市内全域で始めるという。

7 日夜、クルーズの無人タクシーを利用してみた。 スマートフォンのアプリを開いて目的地を入力すると、7 分ほどで運転手がいない自動運転車が道路脇に止まった。 車内に乗り込みシートベルトを締め、前方画面の「運転開始」のボタンを押すと、ゆっくりと車は走り出した。 クルーズは昨年 6 月、同州当局から完全無人運転の商用運行の許可を得て、同市の一部地域で深夜から早朝までの間、タクシーサービスを始めた。 今回の認可で 24 4時間、市内全域で運行できるようになる。 カイル・ボート CEO は SNS の投稿で「自動運転業界にとって大きな節目だ」と述べた。

全米の主要都市の中でも坂が多く、霧などの悪天候に見舞われるサンフランシスコは、全米屈指の自動運転の「実験場」となってきた。 ウェイモとクルーズは同市内で現在、計 500 台以上の自動運転車を保有している。 今回の認可について自動運転に詳しいオレゴン大のニコ・ラルコ教授は「自動運転の拡大に扉を開きうる重要な決定で、全米の議論に影響を与える」との見方を示した。 巨額の出費を続けてきた両社は収益化への圧力にもさらされており、今年に入り運行地域の拡大を加速させている。

路上で停止事例 雇用への影響も

ウェイモは 2018 年にアリゾナ州フェニックス近郊で自動運転の営業を開始。 今年 8 月には米国で 4 都市目となるオースティンでの商用運行を発表した。 クルーズは今年、ヒューストンやナッシュビルでの運行を発表。 8 月にはアトランタへの進出も公表し、「近くさらに広げる」という。 ボート CEO は今年 3 月、米フォーチュン誌のインタビューで、30 年までに少なくとも米国で 100 万台の無人タクシーを展開し、日本にも参入する方針を示した。

自動車各社や IT 大手は人工知能 (AI) を活用した自動運転の開発に数十億ドルを投じてきたが、実現のハードルの高さから断念する企業も相次いでいる。 米自動車大手フォード・モーターは昨年 10 月、独大手フォルクスワーゲン (VW) と共同出資した自動運転ベンチャー「アルゴ AI」の解散を発表。 米アップルが開発中の電気自動車 (EV) の完全自動運転を断念したとも報じられた。 一方、安全面での懸念は根強い。 自動運転の規制は州当局が管轄するが、地元サンフランシスコ市当局は認可に難色を示していた。

同市では、自動運転車が路上で止まって動けなくなる事例が多発。 市消防局によると、自動運転車が救急車などの緊急車両の通行を妨げた事案が今年だけで 50 件近くあった。 「我々はテクノロジーに反対しているわけではない。 懸念しているのは安全性だ。」 市消防局のジャニン・ニコルソン局長は今月 7 日の市議会公聴会でそう訴えた。 自動運転車が路上で停止してしまうなどの事例は今年 6 月で 120 件を超えたという。 10 日にあった認可への賛否を問う投票の前に、当局側はウェイモなど業者に対し、地元警察や消防などとの対話を引き続き続けるよう釘を刺した。

雇用への影響も懸念されている。 「完全自動運転のタクシーができれば、我々の仕事がなくなってしまう。」 今月 7 日開かれた反対派の抗議集会で、タクシー運転手のスポーキー・ウッズさん (70) はそう訴えた。 約 30 年前に運転手の仕事を始めたが、配車サービス「ウーバー」の登場やコロナ禍で市街地に人が戻らず、収入もコロナ前から半減した。 「AI 企業は我々に代わりの仕事を与えてくれるわけではない。 これはタクシー業界の終わりの始まりだ。」 (サンフランシスコ = 五十嵐大介、asahi = 8-11-23)


打倒テスラが目標 将棋名人を破った AI 開発者らが挑む完全自動運転

世界で開発競争が行われている完全自動運転車の実現にスタートアップ企業「Turing (チューリング、千葉県柏市)」が挑んでいる。 掲げるのは「打倒テスラ」。 この分野のトップランナーに対する自信の源は、開発した将棋の AI (人工知能)ソフトで名人を倒すなどの輝かしいキャリアを持つ、日本の AI 開発の第一人者たちが指揮をとるところにある。 開発の状況、今後の展望はどのようなものだろうか?(重政紀元)

既存メーカーと違うアプローチ

「いま自動運転に切り替わりました。」 公道を走行する Turing 所有の SUV (スポーツ用多目的車)。 運転席の田中大介 COO (最高執行責任者)の手はハンドルに添えられているだけなのに、車は左右に曲がる白線に沿ってなめらかに進む。 前を走る車の速度が変わると自動でアクセル、ブレーキが働く。 同乗した車は、市販車を改造したもので、同社の最新の自動運転システムを積んでいる。 能力としては 5 段階ある自動運転のうち、運転者の監視の下で車線変更や追い越しなどの複数の操作を車がする「レベル 2」。 すでに多くのメーカーの市販車に搭載されている機能だが、他社とはアプローチが大きく違う。

既存のレベル 2 の車のほとんどは、センサーやレーダー、より高度な自動運転をするには GPS (全地球測位システム)、高精密の三次元データなどを使って車を制御している。 ただ、センサーなどの機器はコストが高く、三次元データではデータがない場所での走行はできない短所がある。 これに対し、同社が使うのはルームミラーの横に取り付けた 2 台のカメラとグローブボックスに積んだ AI (人工知能)だけだ。 カメラが撮影した画像を、AI が瞬時に分析して、車体を制御する。 カメラなどは市販品で、従来のシステムに比べ大幅にコストを下げられるという。 すでに走行検証を済ませ、1 月には初の市販車となる同型車を 1 台限定で発売した。

国内では、一定条件のもとでほぼ完全に自動化する「レベル 4」の実用化が、今年度から一部地域で始まった。 ただ、いま世界レベルで開発競争が行われているのは、場所・条件を問わずすべてを自動化する「レベル 5」の車の実現だ。 公道での完全自動運転は、AI がカギを握るといわれている。 運転データがより蓄積されるほど、急な歩行者の飛び出しなど様々な突発事象に AI で対応できるようになる。 現状の同社の AI はまだその域には達していないが、将来的にはセンサーやレーダーに頼った技術に対して、画像と AI を組み合わせた同社のシステムが強みを発揮する可能性が高いという。

田中さんは「AI がまだ人間に勝てないのは経験が少ないから。 データが集まれば、一足飛びにレベル 5 の技術を目指す。 そうでないと競争を勝ち抜けない。」と話す。

めざすのは自動車メーカーへの新規参入

Turing の創業は 2021 年。 翌年に産学官の連携拠点である柏の葉スマートシティ(柏市)に本社を移転し、ベンチャーキャピタルから 10 億円を調達。 3 月には経済産業省のスタートアップ企業対象の支援先にも選定された。 順調な船出だが、同社が目指すのは自動運転システムの完成だけではない。 もう一つの目標は自動車メーカーへの新規参入だ。 完全自動運転システムを搭載するオリジナルの電気自動車 (EV) を、開発から生産まで一貫して手がけたいという。

40 人ほどの社員に自動車開発の専門家はほとんどいない。 それでも壮大な旗印を掲げる根拠になっているのが異彩な人材だ。 会社を率いる山本一成 CEO (最高経営責任者)は、17 年に将棋の佐藤天彦名人(当時)を破った AI 「ポナンザ」を開発した日本を代表するプログラマー。 青木俊介 CTO (最高技術責任者)は、自動運転技術研究で世界の最高峰とされる米カーネギーメロン大で博士号を取得し、米自動車メーカーや国立情報学研究所でシステム研究を続ける第一人者だ。

手足となるのは、青木さんが直接スカウトしたこの分野でトップレベルの学生や技術者たち。 さらに経営や法制度の専門家がそれを支える。 COO (最高執行責任者)として資金獲得や財務など指揮する田中さんは、前職の医療 IT で事業責任者、執行役員として新規上場を達成させたキャリアを捨てて参加した。 目標設定も明確にしている。 25 年までに「レベル 2」のシステムを積んだ EV 100 台の販売を実現、30 年には完全自動運転車 1 万台の生産・販売を目指すという。 すでに柏市内に生産拠点となる工場の確保を済ませた。 生産車の部品は市販品を流用する予定だが、すでにオリジナルの車体開発にも着手した。

田中さんは「レベル 5 が実現すれば自動車業界には大変革が起きる。 だからこそシステムだけでなく、車を含めた生産まで一貫してやらないといけない。 自動車メーカーで時価総額世界一のテスラだって創業はわずか 20 年前。 テスラのようになるにはこれから奇跡が 4、5 回いるかもしれない。 それでも本気で『打倒テスラ』を柏の葉から目指します。」と話す。 (asahi = 6-4-23)