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Amazon、偽ブランド品を推奨 AI が見過ごす

「Amazon (アマゾン)で、大手ブランドの模造品販売が野放しになっている - -。」 偽ブランド品問題に取り組む日本の専門家の間で、そんな声が上がっている。 他の通販サイトよりも審査が甘く、悪質業者による不正な出品が集中しているという。 批判は本当なのか。 記者 (39) が米アマゾン・ドット・コムの日本サイトで模造品の有無を探り、自分で出品者登録もして確かめてみた。 アマゾンは AI (人工知能)を駆使した不正検知システムなど模造品対策に力を入れることで知られる。 記者が見つけたのは、アマゾンの不正対策の「抜け穴」の意外な多さと、信用低下につながりかねない対応の危うさだった。

業者のウソを「見逃し」

2019 年 2 月以降、記者はアマゾンのサイト上で模造品の出品を探った。 するとたちまち、仏高級ブランド「ゴヤール」のバッグやドイツの「MCM」の財布など多くの模造品が出品されているのをみつけた。 いずれも正規の新品として出品されているが、表示価格は本来の値段の半額や 10 分の 1 以下となっていた。 購入して専門家の査定を受けると、ことごとく模造品と判明した。 東京都内の百貨店にあるゴヤールの正規店の従業員は、ひと目で「正規品ではないですね」と苦笑いした。 悪質な業者からの不正な出品だった。

アマゾンは不正を見逃しただけでなく「お薦め商品」にさえしていた。 同社には、サイトに出品された商品のうち、アマゾンが特に推奨するものに「アマゾンズ・チョイス」のマークを付ける仕組みがある。 記者が確認しただけで 20 点以上の模造品が、このマークの対象に選ばれていた。 業者に連絡しようと、アマゾンに登録されている情報を確かめると驚いた。 登録情報の多くがウソだったからだ。 電話番号は桁が通常よりも 1 つ多くて不通だったり、住所が存在しない番地だったりした。 ゴヤールの模造品を売っていた業者が登録していた住所は愛知県刈谷市となっていたが、記者が訪れるとそこは新築アパートの建設現場だった。 事務所は見当たらず、連絡も取れなかった。

模造品防止の取り組みについてアマゾンジャパン(東京・目黒)に聞くと、「模造品の販売は厳しく禁じている」と強調した。 AI で画像などのデータを分析する、不正検知システムも整備しているとの説明だった。 一方、ブランド品の権利保護団体「ユニオン・デ・ファブリカン(東京)」の堤隆幸・事務局長は「担当者による登録情報の確認などの取り組みは弱い」と指摘する。 どちらの言い分が正しいのか。 記者は自分でアマゾンに出品者登録をして試した。 アマゾンと同様に業者からの出品が多い楽天にも登録を申し込み、審査の内容を比べた。

登録手続きにスキ

登録に利用したのは、記者の私用のメールアドレスとクレジットカードなどだ。 虚偽の情報がチェックされるか確かめるため、電話番号と住所だけは、わざと間違えて存在しないものを入力した。 反応が早かったのは楽天だ。 登録手続きの途中の段階で担当者から「お電話しましたが、ご不在でございました」とメールが届いた。 さらに身元確認のため、住民票や印鑑証明書などの提出を求められた。 虚偽の情報があれば登録できない仕組みになっていた。 登録審査に 2 週間以上かかる。 登録後でも、模造品の出品がひとつでも確認されれば出品を全面的に禁じる可能性があると、規約で定めている。

一方でアマゾンの出品者登録は、実質的な審査はクレジットカードの認証だけだった。 存在しない電話番号と住所に対する指摘はなく、数時間で登録が完了した。 その後、1 カ月以上たっても、担当者からの指摘や確認はなかった。 記者は実際には出品していない。

アマゾンが消費者からの不正の指摘にどう対応するかも、確かめてみた。 まず実際に購入したゴヤールの模造品について、サイトの口コミ評価に「この商品は模造品でした」と投稿した。 しかし投稿は表示されず、アマゾンから「公開できませんでした」とのメールが来た。 内容が規約に違反しているとの説明だった。 同社は他人の悪口や嫌がらせの投稿をガイドラインで禁じている。 記者は 3 月から 4 月にかけて模造品と確認した 8 点以上について、不正を指摘する投稿を繰り返した。 だが全て「ガイドライン違反」との理由で、非公開となった。 不正な出品だと他の消費者に警告したかったが、かなわなかった。

信用揺るがすリスクも

アマゾンは「GAFA (グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」と呼ばれる米ネット大手 4 強の中でも、今後の潜在的な成長力が最も大きいとの見方もある。 ネットを通じて膨大なデータを集めるだけでなく、物流やデータセンター、実店舗などのインフラも持ち、世界の小売市場で圧倒的な地位を築きあげているからだ。 アマゾンは年間 1,657 億ドル(約 18 兆円)を売り上げ、米国のネット通販で約半分のシェアを握る。 日本でも利用者が 4 千万人を超え、売上高は約 1 兆 5,300 億円と、楽天をしのぐ規模に成長してきた。

だが不正出品に対する審査の甘さは、盤石にみえるアマゾンの足をすくう問題につながる可能性がある。 サービスの効率や使いやすさを追求するあまり、不正な出品への対応にスキをみせれば、アマゾンそのものの信頼を損ないかねない。 アマゾンジャパンは 12 日、有料会員「プライム」の年会費の値上げを発表したばかりだ。 ネット上には「値上げするなら出店者の管理をしっかりしてほしい」との声が出るなど利用者の目も厳しくなる。 偽ニュースの氾濫や個人データの取り扱いの不備から、世界的な批判を浴びたフェイスブックの事例は対岸の火事ではない。

アマゾンは「不正防止に力を入れている」と強調する。 しかし出品手続きでは楽天より確認作業が少なく、実際に出品された商品への「模造品」との指摘への反応も薄いのが実態だ。 一方で返品の手続きは迅速だった。悪質な業者とは連絡がつかなくても、商品の発送や返品手続きはアマゾンが代行するため問題は起きない仕組みだ。 模造品と判明した商品を返送すると、1 週間以内に送料も含めて全額が返金された。 1 人の消費者としては、ほとんど不満は感じなかった。

返品手続きがしっかりしていれば、消費者側の損害は最小限に抑えられ、苦情も出にくいのかもしれない。 だが本当にそれでいいのか。 改めてアマゾンに聞いてみた。 「不正防止の取り組みが不十分ではありませんか。 企業の社会的責任を果たしていないのではないでしょうか。」 アマゾンジャパンの広報は、「真摯に受け止め、引き続き不正防止に取り組んで参ります」と回答を寄せた。 3 月に記者が購入し、「模造品だ」と指摘したゴヤールのバッグは、今もアマゾンに出品され続けている。 (兼松雄一郎、nikkei = 4-12-19)



Amazon プライムデー 2018 も過去最高を更新 日本で売れたのは洗剤

米 Amazon.com は 7 月 18 日(現地時間)、16 日に世界で開催したプライム会員向け特別セール「プライムデー」の売り上げは、36 時間当たりとして過去最高だったと発表した。 セール期間中、1 億点以上の商品が売れた。 昨年は 4,000 万点以上売れた、という発表だった。 Amazon は具体的な数字は公表しないことで知られる。

スタート段階でアクセス障害があったものの、その後はサイトがダウンすることはなかった。 今年は昨年よりセール期間を 6 時間延長し、17 カ国で開催した。 世界で最も売れたのは、「Fire TV Stick with Alexa Voice Remote (日本ではまだ販売されていない)」と「Echo Dot」だった。 新規プライム会員登録も過去最高だった。

国別ベストセラーは、日本はライオンの「トップ スーパーナノックス 洗濯洗剤 液体」の本体 + 特大詰め替えセットと明治の「ザバス (SAVAS) ホエイプロテイン100 ココア味 50食分 1050g」だった。 米国では「マルチクッカー 炊飯器 圧力鍋 5.6L」と「23 and Me DNA Test」、「LifeStraw 個人水フィルタ」だった。 (佐藤由紀子、ITmedia = 7-19-18)


アマゾン「プライムデー」、開始早々にシステム障害

世界最大手の E コマース企業である同社は 16 日、年に 1 度の「プライムデー」セールを開始したが、同サイトを訪問した米 CNET のスタッフや、ソーシャルメディア上の多数の報告によると、米国では 1 時間以上にわたって同サイトが一連のシステム障害に見舞われたという。 DownDetector.com によると、プライムデーが正式に開始された、米国太平洋時間の正午ごろが障害のピークで、米国の Amazon.com で最も問題が深刻だったようだ。 それよりは軽微な問題が、中国、メキシコ、欧州の一部の地域でも報告された。

セールが開始して 1 時間が経過した午後 1 時の時点でも、同サイトにはいくつかの問題があったようだ。 ホームページは全般的に利用可能な状態だったが、チェックアウト時にエラーが発生し、買い物かごの商品が消えたり、モバイルのアラートが遅れたり、商品検察で結果が表示されなかったり、「Shop All Deals(プライムデーセール会場へ)」が繰り返し表示されてサイトに入れない買い物客もいた。 しかし、間もなくサイトは復旧し、メインのプライムデーのホームページが利用可能になったようだ。 (Ben Fox Rubin、CNET = 7-17-18)


米国 e コマースにおける Amazon のシェアが 49% に - 小売全体では 5% を占める

独占禁止調査の脅しに関して、Amazon はすでにホワイトハウスの標的になっている。 これは特定のものを標的にするトランプ流の猛攻なのだと言う人もいるが、このほど eMarketer の研究員が発表した数字は、火に油を注ぐことになるかもしれない。 eMarketer の数字によると、Amazon の米国内における 2018 年の小売売上高は 2,582 億 2,000 万ドルを超えそうだ。 これは米国全体のオンライン小売売上の 49.1% を占め、総小売売上の 5% にあたる。

Amazon はオンラインブックストアとして始まったが、グロサリーからファッションに至るまで、その幅をまだ拡大させつつあるサードパーティ業者による強力な Marketplace ネットワークと、Prime という人気のロイヤルティープログラムにより、今やあらゆるものを扱う巨大な e コマースとなっている。

人々がオンラインショッピングをする時、Amazon で買うのか、それとも Amazon 以外の業者(全てひっくるめて)で買うのかというその割合は転換点にかなり近づいている。 e コマース売上高で Amazon の次にくるのが eBay だが、Amazon とはかなりの差がついていて、シェアは 6.6% だ。 そして Apple が 3.9% で 3 位にくる。 実在店舗では世界最大の小売の Walmart は 3.7% で Apple の後塵を拝している。

調査会社や政府機関、メディア、企業、そして幹部の新聞インタビュー、広告バイヤー、広告代理店などからの膨大な量のデータをもとに推測したもの、と eMarketer は説明している。 驚くべき点は、Amazon の販売規模ではなく、Amazon の販売ペースが落ちていないことだ。 e コマース全体の売上の 43% を占めた 1 年前に比べて売上は 29.2% アップしている。

Amazon の成長の起爆剤は今のところ Marketplace だ。 このプラットフォームではサードパーティ業者がそこで販売し(もし選択すれば)ロジスティックインフラも使って Amazon の顧客に販売・配達できる。 直近では販売の 68% を Marketplace が占めていて、額にすると 1,760 億ドル。 これに対し、Amazon 直販は 32% だ。 今年末までに Marketplace のシェアは Amazon の直販の倍以上となることが見込まれる(すでに倍に近い)。

他の多くのオンラインコマース事業がマーケットプレスモデルを追随するのは無理もない。 このモデルでは、プラットフォームオペレーターにとって 2 通りの取引が必然的に発生する。 それゆえに、直販しないことで減りそうなマージンは実は伸びるのだ。

「Amazon の Marketplace が今後も伸びることはあらゆる数字が物語っている」と eMarketer の主任アナリスト Andrew Lipsman はレポートの中で述べている。 「多くの人が Amazon で購入すればするほど、サードパーティ業者を惹きつける。 サードパーティとの取引は利益が多いため、Amazon はプラットフォームを利用する業者にとってその利用プロセスが可能な限りシームレスなものになるように努めている。」

人気のカテゴリーに関していえば、家庭用電気機器とテクノロジー関係がプロダクトカテゴリーを牽引している。 eMarketer は売上 658 億 2,000 万ドルは総売上高の 4 分の 1 にあたると算出している。 次にくるのがアパレルとアクセサリーで、売上は 398 億 8,000 万ドルだ。 そして 3 番目はヘルス・パーソナルケア・美容で、売上は 160 億ドル。 4 番目は食品・飲料で、こちらの売上はぐっと下がって 47 億 5,000 万ドルだ。 こうした売上はすでに 1 年前に比べ 38% %超アップしている。 しかしここで最も注目すべきは、Amazon が全カテゴリーの直販においていかに投資しているかということだろう。

テック分野では、数ある中でも Kindle や Fire タブレット、Fire テレビ、そして大ヒットとなっている Alexa 搭載の Echo などが挙げられる。 アパレル分野ではプライベートレーベルを売り込んでいる。 Amazon はつい先日、オンライン薬局の PillPack を 10億 ドルで買収することを発表したが、この買収はヘルス関連の商品・サービス戦略をより広汎なものにすると予想される。 そして最後に、Whole Foods の買収。 食事キットの販売や実店舗という面で大きな役割を果たしている。 このカテゴリーでは実店舗の存在感は大きいと eMarketer はみている。

「食品・飲料カテゴリーにおける Amazon の戦略はいくつかの点では本の販売とさほど差はない。」 eMarketer シニアアナリストの Patricia Orsini はレポートでこう述べている。 「しかしながらグロサリー部門の e コマースは難しい。 ほとんどの人が実在店舗での食品の購入を好むため、このカテゴリーのオンライン売上は低い。 Amazon の客はオンラインショッピングに慣れているので、この点はアドバンテージとなる。 Whole Foods の利用者についていうと、Amazon にとって実在店舗でグロサリーを購入する人をオンラインでの購入へと導く絶好のチャンスとなる。」

こうした投資は、全てのカテゴリーでアマゾンの直販を増やすだけでなく、人々が破格の値段の商品あるいは他のブランドのものがないか Amazon をみてみようか、という環境づくりに貢献する。 これまでのところ、Amazon が独占禁止の調査の対象となるとは考えにくい。 というのも、e コマースはまだ小売全体の中では小さい存在だからだ(全小売の売上において e コマースの売上は 5% というのがその証拠だ)。 "オムニコマース" 業界において Amazon はまだ弱小プレイヤーだ、と Amazon は主張するだろう。 しかしながら e コマースだけをみたとき、Amazon の支配は明らかだ。 (Ingrid Lunden、TechCrunch = 7-15-18)


特売品 100 万点 アマゾンが 16 日からプライムデー

アマゾンジャパンは 16 日正午から、年会費税込み 3,900 円のプライム会員を対象にしたセール「プライムデー」を始める。 17 日の午後 11 時 59 分まで。 家電や日用品など世界で 100 万点以上がセール商品となる。 プライムデーはアマゾンが世界で展開しているセール。 年々規模を拡大しており、昨年の全世界の売上高は前年比 60% 増だったという。 アマゾンはセールをきっかけにプライム会員の獲得のほか、既存の会員にも音楽や動画配信などのサービスをさらに使ってもらうことをねらう。

今年は西日本豪雨の影響で、一部地域で配達が遅延している。 例年、プライムデー期間中は荷物量が増加していることもあり、セールで物流に影響が出る懸念もある。 アマゾンジャパンの担当者は「売り上げの増加を踏まえ、配達パートナーと協力して準備している」と話した。 (asahi = 7-13-18)


米アマゾン、医薬品通販に参入 ピルパック買収

【ニューヨーク = 中山修志】 米アマゾン・ドット・コムは 28 日、処方薬のインターネット販売を手掛けるピルパック(ニューハンプシャー州)を買収すると発表した。 成長株の新興企業を買収し、医薬品の販売に本格参入する。 比較的業績が堅調だった米国のドラッグストア業界にも「アマゾン・エフェクト」が及びそうだ。 アマゾンは買収額を明らかにしていないが、市場関係者によると 10 億ドル(約 1,100 億円)程度とみられる。 2018 年中に買収手続きを完了する計画だ。

ピルパックは薬剤師の創業者が 13 年に設立した新興企業。 ハワイを除く全米で処方薬やビタミン剤の宅配サービスを手掛ける。 ネットで処方箋を受け付け、1 回の服用分を小分けに包装して配送する。 高齢者らを中心に利用が広がっている。 米メディアによると、米小売り最大手のウォルマートもピルパック買収に関心を示していたという。

ピルパックの 17 年の売上高は 1 億ドル程度とみられる。 規模は小さいものの、アマゾンが品ぞろえに加えれば販売を大きく押し上げる可能性がある。 自社の AI スピーカーで家庭の常備薬を管理し、減った分を定期的に配送するといったサービスも視野に入る。 処方薬の販売には認可や薬剤師の配置が必要なため、日用品などと比べて通販企業による参入のハードルが高い。 スーパーや百貨店がアマゾンの影響で業績を落としているのに対し、処方薬を強みとするドラッグストアの業績は堅調だった。

だが、アマゾンが医薬品に参入すればドラッグストアへの影響は避けられない。 28 日の米株式市場では、大手の CVS ヘルスやウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの株価が大幅に下落した。 生鮮食品に続いて医薬品にも品ぞろえを広げることで、アマゾンの経済圏はさらに巨大になる。 米国や日本では事業の成長スピードに配送体制が追いつかず、宅配の担い手不足が問題化した。 アマゾンは車両や情報システムを個人事業主に提供して宅配を請け負ってもらう仕組みを米国で導入。 自前で配送網を整備し、商圏拡大に備える。 (nikkei = 6-28-18)



米 Amazon、"試着して購入を判断できる" 衣料品通販「Prime Wardrobe」正式スタート

米 Amazon.com はこのほど、プライム会員向けに、衣料品を購入前に試着できる通販サービス「Prime Wardrobe」の提供を正式に始めた。 サービス自体は 2017 年 6 月に発表していた。 日本国内での展開は未定。 Web サイト上で好きな衣料品を 3 点以上選び、自宅に届いたものを試着してから購入するか判断できる。 注文から 4 - 6 営業日で商品が到着し、7 日間以内に試着。 購入するものだけを手元に残し、不要な商品は無料で返品できる。 支払い方法は、クレジットカードかデビットカードのみ。 女性、男性ものに限らず、子ども服、ベビー服なども用意している。 (ITmedia = 6-21-18)


アマゾンファッション、日本に本格参入 - 衣料品通販業は競争激化へ

⇒ 日本の自分流重視はチャンス、ネット通じて多様な製品提供 - 副社長
⇒ 世界最大の撮影スタジオ設立、Fリテイリやスタートトゥデイを追撃

「われわれはいま飛躍的な成長を遂げている。」 アマゾン・ドット・コムが日本で本格的にファッション事業を展開し始めた。 2014 年に日本市場に正式参入し、今年 3 月には同社として最大のアパレル専用撮影スタジオを都内に設立。 「ユニクロ」を手掛けるファーストリテイリングや「ゾゾタウン」のスタートトゥデイなど衣料品通販事業で先行する国内企業を追う。

アマゾンジャパン副社長で「アマゾンファッション」を束ねるジェームズ・ピータース氏は 21 日のインタビューで、「日本では高級バッグに安価な T シャツ、中価格帯の靴やジーンズを組み合わせている」と指摘。 自分流のスタイルを作り上げる日本においては、多種多様な製品に接する機会が必要となり、衣料品通販業での商機もそこにあるとの見方を示した。

アマゾンファッションでは 17 年に新たに 1,000 を超えるブランドの取り扱いを開始しており、そのうちの多くが国内ブランドだったと明かす。 各社は当初、カニバリゼーション(共食い)や自社製品の並び順を懸念していたが、最終的にはアマゾンで販売しなければ消費者は購入しないことに気付いてくれたと説明した。 今後も毎年数千の取り扱いブランド追加を想定していると話した。 一方で販売を固辞するブランドもある。 共同通信によると、F リテイリの柳井正社長は昨年 10 月、多くのブランドのうちの 1 つとして扱われるため、アマゾンを通じて商品を販売する考えはないと明言した。 こうした動きについて、ピータース氏は「彼らの選択を尊重する」との考えを示した。

商品の並び順を懸念

一部のブランドがアマゾンでの販売をちゅうちょする理由の 1 つが商品の並び順だ。 高級品が低価格品と並んで表示されるとブランドイメージが損なわれる恐れがある。 ピータース氏は、多くの消費者が買い物に使っているスマートフォンでは 6 - 9 件程度の検索結果しか同時に表示できないと指摘。 「消費者は店のコンセプトや並び順を気にしていない」と話した。 今後 1 - 2 年間は、アマゾンが抱える膨大な商品群を活用し、顧客個人の好みに応じたサービスの提供に注力する考えを示した。

衣料品通販業界では体型に合った商品の提供が鍵になるとも言われており、スタートトゥデイは体型採寸用のボディースーツを用いたサービスを展開している。 ピータース氏は「体のサイズを知っているからと言って、消費者が好むサイズが分かるわけではない」と指摘。 具体的な内容については言及を控えたものの「アマゾンはその先を考えている」と語った。 (高橋舞子、Lisa Du、Bloomberg = 5-21-18)


ユニクロ、ゾゾを狙い撃つ「アマゾン・ファッション」の驚異的な戦術

日本のファッション界を揺るがす大変革

アマゾンが日本のファッション界に本格参入。 ユニクロがその脅威にさらされ、ゾゾタウンが迎え撃つ。 2018 年アパレル大戦争の幕開けを『アマゾンが描く 2022 年の世界』の著者、田中道昭氏が読み解く。

品川スタジオをオープンした狙い

アマゾンジャパンのファッション事業部門のトップ、ジェームズ・ピータースは、「Amazon Fashion 東京撮影スタジオ(以下、品川スタジオ)」のオープンに即してこんなコメントを出した。 「私たちは常にお客様がオンラインでファッションアイテムを購入する際の体験を改善したいと考えています。 このスタジオで撮影・制作される、より高精度な写真や動画によって、お客様にはサイト上でカラー、カッティング、サイズ感やテクスチャーなどを更に詳細にご確認いただけるようになります。」 この品川スタジオがオープンした 2018 年 3 月 15 日は日本のファッション界にとって大変革が始まった日として、やがて記憶されることになるかもしれない。

品川スタジオは総面積約 7,500u をほこり、そこに 11 のスチール撮影室、5 つの動画撮影室、2 つの編集スタジオとヘア & メイクエリア、ライブラリ、ラウンジ、会議室が備えられる。 そこから送り出されるのは年間 100 万本を超える商品画像や動画である。 その狙いはいたってシンプル。 長らく EC ファッション界では商品のデザインの細部や、試着した上でのフィット感をどう顧客に伝えるかが課題とされてきたが、ジェームズ・ピータースが語るように、これらを満たす十分な情報がこの品川スタジオから発信される。

アマゾンのサイトに訪れた消費者は、これから述べるアマゾンの戦術が出揃ってくると、極めて近い将来、店舗に買い物に出かけたのと変わらない情報を入手できるようになるわけだ。 ただし、これだけではアマゾン・ファッションの実力を十分理解したとは言い難い。 筆者は昨年の 12 月 8 日 - 11 日まで渋谷モディと渋谷マルイで開催された「Amazon Holiday 2017」に足を運び、アマゾンのファッション戦略を観察した。 また同じタイミングにおいて、アメリカのサイト「アマゾン・ドット・コム(以下、米サイト)」の分析を行い、Amazon Fashion が日本でどのように展開されていくのかを予測した。

アメリカでは Amazon Fashion スタジオが 13 年にニューヨーク州ブルックリンに建設されており、そこから送られてくる画像や動画によってサイトが構成されている。 やがて米サイトにおける展開が、日本の「amazon.co.jp (以下、日本サイト)」でも行われることになるだろう。 その大胆な展開と緻密な戦術が、日本のアパレル界に大きな地殻変動を引き起こすことになるのである。 Amazon Holiday 2017 ポップアップストアはアメリカで年末商戦のビッグセールが開始される「サイバーマンデー」の一環として展開された。 EC 企業であるアマゾンがリアル店舗を展開するという意味でも興味深いイベントだ。

渋谷モディの 3 階に展開された「Amazon Fashion ホリディスタイル」を訪れると、その店舗スタイルからアマゾンの狙いを確信することができた。 アパレルの商品構成はベーシックなものを起点とするユニクロ型と、デザイン点数が多く、そのコーディネートで勝負する ZARA 型の融合。 「ユニクロ x ZARA」が「アマゾン・ファッション」の定番と言えるだろう。

ベーシックカジュアルを豊富に取り揃え、そのコーディネートを積極的に提案しているのも特徴だ。 例えば、「Beach Resort」のコーナーでは涼しげなワンピースや水着からサンダル、ハンモック、ビーチ用のリクライニングチェアも取りそろえたアパレルからアイテムまでトータルにコーディネートしている。 「Snow Resort」でもスノーウェア、ブーツやショルダーバッグなどまでコーディネート提案がなされている。

「出会い」を演出する商品陳列

EC 企業であるアマゾンならではの商品陳列もある。 QR コードと値段の付いた商品カードが棚に並んでいるのが、EC 企業のリアル店舗運営の手本であり、オンラインとオフラインをつなぐ O2O の一つの形を想像させるものだ。 顧客は QR コードをスマホで読み取り、アマゾンサイトで商品を購入する。 リアル店舗で買い物を楽しみ、買った商品は家に届けられる。この趣向性と利便性は他の既存アパレルを圧倒するだろう。 商品カードのアイテムの点数も豊富だが、その陳列の仕方もまた興味深い。 アパレルもアイテムも、ジャケットもシューズも靴下も、また男性用、女性用の商品も、また商品の値段の高低もまったくカテゴライズされることなく、無造作に並んでいるのだ。

日本の百貨店をはじめ既存のファッション店から見れば、実に非常識な陳列で、筆者もこれにはかなり戸惑った。 しかしやがて、これは「出会いの演出だ」と思い至ったのだ。 買いものとは自分のお気に入りのアイテムに「出会うこと」を楽しむ行為だ。 どの商品を買うのか決まっている目的客は、EC サイトの検索でさっさとお目当ての商品を買っていくが、レジャーとしての買い物ではぶらりと店舗に入って探索し、掘り出し物の「発見」や「出会い」を消費者は楽しんでいる。 ファッションはこうした要素が特に強いので、画一的な店舗構成ではつまらなく感じてしまうのだ。

たとえば、ドンキホーテの陳列はごちゃごちゃしているが、それがドンキの人気の秘密でもある。 アマゾンもアトランダムな陳列が効果的だと考えているということだ。 その証拠に米サイトのアマゾン・ファッションも、目的客用の通常陳列に加えて、実に無差別に商品が表示されている。 これは「ビッグデータ x AI」による分析で、こうした陳列がより効果を生むことをアマゾンは知っているからだと考えられる。

なぜファッションに進出するのか?

そもそもアマゾンはなぜ今ファッションに本格的に進出するのだろう。 今や日本でもファッションは EC と最も親和性が高いカテゴリーの一つだと考えられるようになっている。 アマゾンではさらにその武器である「ビッグデータ x AI」を生かしやすい分野と考えているのだろう。 人工知能アレクサが搭載された「アマゾンエコー」に続き、アマゾンは「エコー・ショー」やカメラ付の「エコー・ルック」のデバイスをリリースしている。 エコー・ショーはタッチスクリーンがついていて、画像の表示や動画の再生に適している。 エコー・ルックは、顧客が撮影した画像から、AI がファッション指南をしてくれる機能がついている。

EC サイトやこうしたデバイスで収集されるビッグデータで、消費者の志向を把握して、やがて最適な商品を勧めることをアマゾンは意図している。 その行き着く先は「マスカスタマイゼーション(低コストの大量生産プロセスと一人ひとりへのカスタマイゼーションを組み合わせた製造・販売方法)」だ。 アマゾンはやがて一人ひとりの趣向に合わせたプライベートブランド製品を作り、販売することになるだろう。

粗利の高いジュエリーを売る秘策

話を「Amazon Holiday 2017」にもどそう。 アマゾン・ファッションのリアル店舗を物色していて、さらに筆者の目を引いたのは、ジュエリーやアクセサリーに力が入れられ、アマゾン・ファッションの中核的なポジションを占めていることだった。 アマゾンはジュエリーまで含めて、ファッション全般をトータルコーディネートしようとしているのだが、これは実に巧みな戦術である。 ジュエリーは一般に粗利率が高いからだ。 一般的な宝石ブランドは、商品をブランド化するために多額の広告宣伝費にコストをかけている。 しかしアマゾンはそれをファッションのトータルコーディネートに組み込むことで、粗利率の高いジュエリーで利益を出そうとしていることが伺えるのだ。

リアル店舗で見せつけられたのはアマゾンのファッションの驚異的な戦術だったが、ではこれから、品川の巨大スタジオはどのような役割を果たしていくのだろうか。 米サイトからそのヒントを探ってみよう。 年末商戦が展開されていた 12 月、米サイトでアマゾン・ファッションの中核になっていたのは、やはりジュエリーだった。 ブルックリンのファッションスタジオから送られてくる画像は、一つの商品につき 4 点の画像・動画をセットにして構成されていた。 まず、(1) 商品の画像、次に (2) 商品を装着したイメージ画像、そして (3) パッケージの画像を示し、さらに (4) 商品を 360 度俯瞰できる動画を示すという構成である。 そこに商品のレビューとレイティングがつく。

ここで他社と大きな差がつくのは、(3) パッケージの画像と (4) 360 度俯瞰する動画がついていることだ。 ジュエリーの販売戦略からこの意味を説明しよう。 商品において大事なのは、商品そのものと、ネーミング、パッケージだが(商品戦略の 3 大要素でもある)、中でもパッケージはプレゼント用などには見逃せない点だ。 日本では同じブランドなら同様のパッケージで出すところが多いが、アメリカでは商品ごとにパッケージを全く違うものにしているブランドもあるほどだ。 米サイトでは商品画像にこのパッケージ画像も加えて、巧みにアピールしている。 ブランド間で簡単に横断比較できることから、すべての商品に同じパッケージを使用しているブランドは陳腐に見えてしまう。

そして 360 度俯瞰する動画は、日本の既存ブランドの EC サイトを一気に凌駕する商品情報が、日本サイトで消費者に提供されることになるのである。 米サイトではすでに 8 割の商品に、この 4 点セットの画像・動画が表示されているが、日本の既存ブランドの EC サイトは動画対応するだけで、サイトの作り直しを余儀なくされるだろう。 しかも撮影スタジオが必要になることを考えれば、大変な設備投資を強いられることになるわけだ。 それだけではない。 アマゾンは昨年 11 月に画像にさらに多くの情報を付加して、よりリアルに見せる拡張現実 (AR) の新機能「AR View」を公開している。 品川スタジオから送られてくる画像にも、やがてこの AR View が加わってくることになる。

ユニクロ、ゾゾはどう迎え撃つか?

こうして見てみるとアマゾンはファッションの世界でもネットの領域とリアルの領域を往来し、ネットとリアルの利便性を融合させて、その垣根をなくしていこうとしていることがわかる。 なぜそうするのかは、彼らのマーケティング戦術を見ればわかるだろう。 一般的なマーケティング戦術には「4P」と呼ばれる要素がある。 (1) Product (商品)、(2) Price (価格)、(3) Place (流通チャネル)、(4) Promotion (プロモーション)であるが、これは従来の企業側の視点で構成されたマーケティング戦術だった。

アマゾンのマーケティング戦術は 4P というよりは「4C」である。 (1) Customer Value (顧客の価値)、(2) Cost (顧客にかかる取引コスト)、(3) Convenience (顧客の利便性)、(4) Communication (顧客との対話)。 4C を追求するアマゾンは「顧客第一主義」であり、消費者の利便性の追求こそがアマゾンが巨大化する原動力なのだ。 アマゾンのファッション戦術を俯瞰した時、やはり厳しくなるのは日本のアパレルでトップを走るユニクロだろう。

アマゾンのアパレル商品構成はユニクロとガチンコで競合するベーシックカジュアル。 ブランドの違いが小さく、さらに顧客ネットワークを持ち、ビッグデータ x AI で、アマゾンは自ら開発・製造・販売までを行う SPA 企業となって有利に戦いを進めていくことになるだろう。 昨年 10 月、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長は、アマゾンの通販サイトに出店しない方針を表明した。 「アマゾン恐れるに足らず」の姿勢を打ち出す柳井会長は、どのような迎撃策を示してくるのか。 その中味もまた 18 年のアパレル業界を左右する関心事の一つである。

一方でアマゾンを迎え撃つうえで強力な武器を持っているのが、ゾゾタウンを運営するスタートトゥディだ。 日本のアパレル EC サイトの雄として急成長を遂げた同社はアマゾンといかにして渡り合うことになるのだろうか。 次回は熾烈を極めることになるアマゾンとゾゾタウンの攻防を見ていこう。 (立教大学ビジネススクール教授・田中 道昭、現代ビジネス Premium = 4-10-18)


アマゾン、品川に巨大スタジオ ファッション商品を撮影

ネット通販大手のアマゾンジャパンは 15 日、東京都品川区に新設した大規模なスタジオを公開した。 販売に力を入れるファッションアイテムの撮影が目的で、年間 100 万点を超える画像や動画を制作できるという。 ネット通販の競争が激化する中、売れ行きを左右するイメージの量と質を高める狙いだ。

スタジオの延べ床面積はサッカーの国際試合のピッチに相当する約 7,500 平方メートルで、アマゾンとして世界最大。 最新鋭の機材を備えた 11 の写真撮影ブースと 5 つの動画撮影ブース、2 つの編集ブースがある。 メイク室や会議室、くつろいで話ができるラウンジなども備える。 アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は「日本でビジネスをスタートしてから 17 年。 今回のスタジオで、新たな雇用の創出や最良のサービスが提供できるよう、今後も投資をする。」と話した。 同社は 19 日から始まる東京コレクションの冠スポンサーになるなど、ファッション分野を強化している。 (木村尚貴、asahi = 3-15-18)

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