日本品質を途上国価格で 「エネルギーのはしご」見据え

南アジアやアフリカの送電網がほとんど整備されていない地域で、電気のある暮らしが急速に広がっている。 かぎを握るのは、太陽光パネルを使った簡素な機器と、低所得者層の実情にあった販売手法の組み合わせだ。 貧困問題の解決はビジネスチャンスにもつながる。 日本企業も本腰を入れ始めた。 レンガ造りの家の中で、子どもたちが本を読んでいた。 インド・ニューデリーの東約 200 キロにあるゴート村。 明かりは、小さな太陽光パネルとリチウムイオン電池、LED 照明を組み合わせたソーラーランタンだ。

「ケロシン(灯油)の明かりは、暗くて煙で目が痛かった。 これで夜も勉強できるようになった。」 大学生のポージャ・チャンドラさん (18) と中学生のアカシュ君 (12) のきょうだいは口をそろえた。 家の外では母親のマヤさん (45) がもう 1 台で夕食の準備をしていた。 送電線はあるが、電気がつくのは日に 2 - 3 時間。 昨年末に 2 台買ってから、市場で野菜などを売って暮らす一家の生活は明らかに上向いた。 夜も商売ができるようになり、収入が 2 割増えたという。 約 900 世帯の集落では、ランタンの明かりの下で店を開いたり、工芸品を加工したりする人たちも目につく。

この村で一番売れているのはパナソニック製だ。 機能を絞って、価格を 1,500 - 2,500 円に抑えた。 インド全体ではこれまでに約 5 万台売れた。 ソーラーランタンはインドで年間約 300 万台が売れている。 大半は欧米のベンチャー企業製。 日本製はこれまで「機能や品質は高いが価格も高い」と敬遠され、もっぱら社会貢献として寄贈されてきた。 そこにあえて参入したのが、パナソニック・インド事業開発センターの柿本敦さん (39) たちだ。

電気が使えると、教育や健康も改善され、貧困から抜け出す足がかりになる。 自然エネルギーの電気なら地球温暖化防止にも役立つ。 安くて信頼できるエネルギーへのアクセスは、国連が 2030 年までに解決をめざす「持続可能な開発目標 (SDGs)」の重要なテーマでもある。 寄贈や援助でなく、ビジネスを通じて社会課題を解決するのが世界の流れだ。 パナソニックは 14 年 11 月、価格をこれまでの半分以下に抑えた低所得者層向け製品を発売した。 販売面では現地の社会的企業と連携し、「なぜ健康や家計にプラスなのか」という啓発や代金回収、アフターサービスの窓口などを委託した。

もうけは薄い。 ただ、インドの無電化人口は 2 億 4 千万人もいる。 潜在的な市場は巨大だ。 電気のない生活から、安定した電気が使える生活へと発展していく道筋は「エネルギーのはしご」と呼ばれる。 ソーラーランタンは「はしご」の 1 段目にあたる。 柿本さんは、その先を見据える。「ブランドイメージは、最初に手にする商品でつくられる。」 パナソニックは家電のラインアップが豊富だ。 無電化地域の人たちはこれから「はしご」を登り、家電を増やしていく。 目先の利益は難しくても、将来的には大きな利益が見込めるはずだ。 「うちも元は二股ソケットで大きくなった。大きな可能性があると思う。」

電気のない生活をしている人は世界に約 12 億人、不安定な電気しか使えない人は約 10 億人いる。 多くは年間 3 千ドル(約 30 万円)未満で暮らす低所得者層だ。 この人たちが灯油やロウソクなどのエネルギーに使うお金は、年間約 270 億ドルにのぼる。 送電網につなげないソーラーランタンなどの「オフグリッド(独立電源)」の市場は、まだ世界で 7 億ドルだが、20 年には 31 億ドルに拡大し、約 1 億世帯に普及するとみられている。

南アジアだけでなくアフリカでも

世界には、インドを含む南アジアのほかにもう一つ、広大な無電化地域がある。 アフリカだ。 人口約 1 億人とアフリカで 2 番目に多いエチオピアでは、日本の中小企業連合がエネルギービジネスに挑む。 「東京電力の顧客の 2 倍にあたる 1 億人に電気を届けましょう。」 8 月上旬、東京・新宿のスナックに中小企業の社長ら 10 人が集まって気勢をあげた。 町工場の技術を結集した「ソーラー・ホーム・システム (SHS)」が完成したのだ。

SHS は「はしご」の 2 段目にあたる機器。 ランタンよりひと回り大きい 10 - 100 ワット程度の太陽光パネルを屋根に置いて蓄電池にためる。 複数の照明やテレビ、扇風機などを動かせる。 きっかけは、LED や蓄電池製品を製造・販売するアイガジェット(東京都千代田区)の川口辰彦社長 (62) が、途上国の低炭素化事業を企画する会社を経営する松尾直樹さん (55) と出会ったことだ。 2 年前、松尾さんが国内の大企業と開発していた SHS の試作品をたまたま見かけ、川口さんはダメ出しをした。 松尾さんが「あなたはできるの」と聞くと、「できますよ」と答えた。

製品化を考えたことはなかったが、勝算はあった。 太陽光パネルや蓄電池を世界各地から安く調達できる人脈と、核となる制御装置に日本の高い技術を投入できる人脈を両方持っていたからだ。 松尾さんとエチオピアを訪ね、社会的な意義も実感した。 1 年後にできた試作品は、大企業のものよりはるかに能力が高かった。 コストもぎりぎりまで抑え、1 万円程度で量産できる見込みだ。 6 - 12 カ月のローンなら現地の人にも手が届く。 年内に 1 千台のテスト販売を予定している。

川口さんを突き動かしたのは「技術ではどこにも負けない」という中小企業の意地と、「短期的な利益は薄くても将来性は十分ある」という確信だ。 「日本品質の製品を途上国価格で提供することは十分可能。 日本の生きる道はここだと示したい。」と川口さん。 アフリカの無電化人口は 6 億 3 千万人で世界の半分以上を占める。 27、28 日にケニア・ナイロビで開かれる第 6 回アフリカ開発会議 (TICAD) でもエネルギーアクセスの向上が議論される。

コストダウンとマイクロクレジットの広がり

太陽光パネルと蓄電池を組み合わせて電気を自前でまかなう動きは、送電網が整備された先進国にもある。 だが、いま世界で先頭を走っているのは途上国の人たちだ。 いくつかの無電化地域を歩いて、その勢いを感じた。 後押ししているのは、最近 6 年間で 80% も下がった太陽光パネルの急激なコストダウンと、貧困層への無担保少額融資(マイクロクレジット)の広がりだ。

実は、SHS が世界で最も普及している国はバングラデシュだ。 グラミン銀行の創設者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏は、マイクロクレジットの手法で、1996 年から販売に取り組んだ。 初めは月に 2、3 セットだったが、いまでは 1 日に 1 千セット。 通算で 160 万セットも売れた。 他社分も合わせ 400 万世帯に普及した。 SHS は 1 万 - 5 万円。 3 年ローンを組めば、毎月の返済は明かりの灯油代とほぼ同じになる。 マイクロクレジットは、インドやアフリカでも広がる。 最近は各国で携帯電話による決済も可能になっている。

お金と時間をかけて発電所や送電網を整備する前に、電気のある暮らしが広がる。 電話回線を引く前に携帯電話が普及したのと同じ「カエル跳び」現象だ。 自然エネルギーの技術と新しいビジネスモデルが融合し、世界のエネルギーの構図を変えつつある。 (編集委員・石井徹、asahi = 8-21-16)


掃除ロボット「ルンバ」やぞうきんがけロボットの新モデル「ブラーバ ジェット 240」

ルンバで知られる iRobot の日本総代理店であるセールス・オンデマンドは 8 月 4 日、床拭きロボット「ブラーバ ジェット 240」とロボット掃除機「ルンバ 960」、「ルンバ 680」を 8 月 26 日から順次発売すると発表した。 スマートホームを視野にいれた新ラインアップで、ブラーバ ジェット 240 とルンバ 960 は新たにスマートフォンアプリ「iRobot HOME」と連携できる機能を搭載。 アプリから本体を操作したり掃除状況を確認したりできる。

ブラーバ ジェット 240 は、床にこびりついた汚れにジェットスプレーで水を噴きつけ、クリーニングヘッドを細かく振動させることでこすり落とし、くまなく拭き掃除をできることを特徴とする。 公式オンラインストア価格は 2 万 9,880 円(税別)で、8 月 26 日に発売する。 2014 年 7 月に販売を開始した「ブラーバ 380j」の姉妹モデルで、ブラーバ 380jも継続して販売される。 ドライモードで約 56 畳に対応するブラーバ 380j に対し、小型のブラーバ ジェット 240 は 15 畳まで。 コンパクトな分小回りが効き、玄関口やトイレなどの狭いスペースにも対応可能だ。

専用のクリーニングパッドは「ウェットモップパッド」、「ダンプスウィープパッド」、「ドライスウィープパッド」の 3 つがある。 いずれも 10 枚セットで 1,200 円(税別)だ。 床の汚れに合わせて専用のクリーニングパッドを装着すると、自動的に最適な清掃モードがスタートする。 ウェットモップモードは、同じ場所を 3 回念入りに拭き掃除するもの。 専用のモップに含まれた洗浄剤と水によって、こびりついた汚れをこすり落とせるという。

ダンプスウィープモードは、同じ場所を 2 度拭きする。 少量の水と洗浄剤によって日常的な汚れやホコリを拭き取るとしている。 ドライスウィープモードは、から拭きだ。 ホコリや汚れ、ペットの毛などをからめ取る。 このほか、洗濯することで繰り返し使えるパッドの 3 種類セット(4,000 円)も別売する。 最大 50 回の洗濯が可能だ。 このパッドには洗浄剤は含まれない。 iRobot Home アプリからは、スイッチをオンにできるだけでなく、小さなエリアを集中的に拭き掃除する「スポットモード」を指示したり、本体のソフトウェアをアップデートしたりできる。

ルンバ、最高峰の 900 シリーズとベーシックな 600 シリーズが登場

ロボット掃除機ルンバは、最高峰の「ルンバ 900 シリーズ」と、ベーシックな清掃機能を搭載した「ルンバ 600 シリーズ」の新製品が登場した。 ルンバ 960 は、従来発売してきた人気モデル「ルンバ 885」の後継機種に位置付けられている。 最大 112 畳の掃除が可能だ。 公式オンラインストア価格は 8 万 9,880 円(税抜)で、8 月 26 日に発売する。 ルンバ本体に搭載されたカメラとフロアトラッキングセンサーなどの多彩なセンサにより、ルンバ自身が今どこにいるのか、部屋のどこがまだ清掃されていないのかを高精度に判断できる「iAdapt 2.0 ビジュアルローカリゼーション」を搭載する。

清掃途中でバッテリ残量が少なくなると自動でホームベースに戻って充電・再開するほか、髪の毛などがからまりにくい「AeroForce エクストラクタ」、ゴミの多い場所を集中的に清掃する「ダートディテクトモード」など、ルンバ 900 シリーズ、800 シリーズに搭載されている多くの機能を搭載する。 さらに iRobot Home アプリに対応。 ルンバを遠隔で操作できるため、隣の部屋にいるときや外出先からも清掃を指示可能だ。 また、予約のスケジュール設定やルンバがいつどのくらいの時間を掃除したのかチェックできる。

ルンバ 680 は、比較的手ごろなスタンダードモデルだ。 公式オンラインストア価格は 4 万 9,880 円(税抜)で、9 月 16 日に発売する。 3 段階クリーニングシステムに対応。 清掃が終了すると自動でホームベースに戻る自動充電機能や決まった時間に清掃をスタートできる機能も搭載する。 (坂本純子、Cnet = 8-5-16)


X 線天文衛星ひとみ、後継機開発へ 20 年打ち上げ予定

内閣府の宇宙科学・探査小委員会は 1 日、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が打ち上げ、2 カ月余りで運用を断念した X 線天文衛星「ひとみ」の後継機開発を了承した。 文部科学省が来年度概算要求に関連予算を盛り込む見通し。

JAXA はひとみについて「世界唯一の大型 X 線天文衛星で国際的な期待も高い。 米国など関係機関の協力も得られる見通し」と説明。 小委員会は JAXA によるひとみのトラブルに関する原因究明と再発防止策に一定のめどがつき、科学的意義や国際的な信頼回復のために後継機開発は必要と判断した。 後継機の打ち上げは 2020 年の予定。 基本設計はひとみとほぼ同じため、開発費は縮小する見通し。 (竹石涼子、asahi = 8-2-16)


LED で野菜の光合成促進 三菱電機が新冷蔵庫

三菱電機は、冷蔵庫「置けるスマート大容量」の新シリーズ 8 機種を 8 月 25 日から発売する。 野菜室に赤、緑、青の 3 色の LED を搭載しており、3 色を効果的に照射して、野菜の光合成を促進する。 野菜のビタミン C を増やす効果があるという。 内容量 455 - 700 リットルで税別の想定価格は 27 万 - 43 万円前後。 (asahi = 7-30-16)


ソニー、リチウム電池から撤退 村田製作所に事業売却

ソニーは 28 日、リチウムイオン電池事業からの撤退を発表した。 2017 年 3 月末をめどに事業を村田製作所に売却する。 電池はソニーが世界で初めて商品化し、他社を含むパソコンや携帯電話に幅広く使われたが、近年は中韓勢との価格競争で赤字が続いていた。 今後は経営資源を画像センサーなどに集中させる。 譲渡の範囲や売却額を両社で決め、10 月中旬の正式契約をめざす。 中心となるのは、生産・開発を担う完全子会社「ソニーエナジー・デバイス(福島県郡山市)」や、中国、シンガポールの工場となる。

グループ従業員の 6% 強にあたる約 8,500 人が村田に転籍する見通し。 ソニーは乾電池やスマートフォン用充電池(モバイルバッテリー)など、個人向け販売だけ残す考えだ。 ソニーが 1991 年に商品化したリチウムイオン電池は、まずビデオカメラに搭載された。 その後、パソコンにも広がり、いまではスマホや自動車など世界中で幅広く使われている。 (鈴木友里子、伊沢友之、asahi = 7-28-16)

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ソニー、2 年連続の黒字予想 リストラ経て開発に本腰

ソニーは 24 日、熊本地震の発生で遅れていた 2017 年 3 月期の業績予想を発表した。 工場の被災によるマイナス影響は 1,150 億円にのぼりそうだが、ここ数年のリストラで稼ぐ力が戻り、営業利益は過去 6 番目の高水準になる。 本格的な「復活」に向け、新製品開発にも積極的だ。 売上高は前年比 3.8% 減の 7 兆 8 千億円を見込む。 純利益 800 億円は、オリンパス株を売った前年より半減するが、2 年連続の黒字を見込む。

4 月の熊本地震では、カメラ用の画像センサーなどをつくる半導体工場(熊本県菊陽町)が被災で停止した。 この影響で、営業損益が画像センサーなどの半導体事業で 600 億円、センサーをつかうカメラ事業で 450 億円減る。 工場は 5 月 21 日に生産を再開し、8 月末には全面復旧できる見通しという。 17 年 3 月期は、進めてきたリストラによる損失が一段落する。 例えば携帯電話事業は 3 年ぶりに営業黒字になる。 ソニーの代名詞ながら赤字続きだった AV 事業も、テレビやオーディオを高価格帯に絞って利益が出るようになった。 記者会見で吉田憲一郎副社長は「商品力はかなり上がってきた」とした。

課題は、唯一の赤字となる半導体事業だ。 400 億円の営業赤字を見込む。 スマートフォン向け画像センサーが好調だった 15 年 3 月期は 886 億円の営業黒字で事業別でも稼ぎ頭だったが、世界的にスマホの需要が落ち、さらに熊本地震が追い打ちをかけた。 モルガン・スタンレー MUFG 証券の小野雅弘アナリストは「車載カメラ向けなどにも広げることが重要」と指摘する。 (鈴木友里子、asahi = 5-25-16)

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ソニー、3 年ぶり黒字 ゲーム・音楽好調、半導体は不振

ソニーが 28 日に発表した 2016 年 3 月期決算は、純利益が 1,477 億円となり、3 年ぶりに黒字回復した。 大規模なリストラで前年までの不振を脱して業績が回復する一方、新たな稼ぎ頭として期待する半導体事業は収益が悪化した。 復活を本物にできるか、正念場を迎えている。

売上高は前年より 1.3% 減の 8 兆 1,057 億円、本業のもうけを示す営業利益は 4 倍以上の 2,941 億円だった。 純利益は、前回の黒字だった 13 年 3 月期は資産売却効果が大きかったため、事実上は 09 年 3 月期から 7 年続いた赤字体質を脱したことになる。 営業利益は、今後の成長の柱と位置づけるゲーム事業が 887 億円、音楽事業が 873 億円といずれも前年実績を上回った。 カメラやテレビ事業も、利益が出やすい高価格製品を充実させて利益を伸ばした。 記者会見で吉田憲一郎副社長は「商品力、販売力強化の成果が出た」と語る。

痛手だったのは、スマートフォンのカメラなどに使われる画像センサーなどの半導体事業。 当初は 1,210 億円の営業利益を見込んでいたが、286 億円の営業赤字に陥った。 下半期にスマホ市場が伸び悩んで収益が大きく悪化し、資産の評価を一度に切り下げる減損を実施したためだ。 吉田氏は「(低成長を)前提に事業を組み立てる必要がある」とした。 収益の柱に育て直す課題が残る。 (鈴木友里子、asahi = 4-28-16)

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ソニー、2 年ぶり黒字 金融・ゲームけん引、復活の兆し

不振続きだったソニーの業績が復活しつつある。 29 日に発表した 2015 年 4 - 12 月期決算は、純利益が 2,361 億円となって 2 年ぶりに黒字化した。 通期も 3 年ぶりの黒字を見込む。 テレビなど赤字事業のリストラにはめどが立ったが、復活を確実なものにできるかが問われる。 「会社全体の収益構造は改善してきている。」 ソニーの吉田憲一郎最高財務責任者 (CFO) は記者会見で自信をのぞかせた。

ソニーの 15 年 4 - 12 月期決算は、売上高が 6 兆 2,816 億円、本業のもうけを示す営業利益が 3,870 億円だった。 前年同期より売上高は 0.1% 増、営業利益は 2 倍以上に増えた。 16 年 3 月期は売上高で前年比 3.8% 減の 7 兆 9 千億円を見込むが、営業利益は前年の 4 倍以上の 3,200 億円、純利益は 1,400 億円となる見通しで、09 年 3 月期から続いた赤字体質から脱しようとしている。

利益を支えるのは、金融とゲーム事業だ。 ソニー生命を中心とする金融の営業利益が 1,394 億円と全体の約 3 分の 1 を稼ぎ出す。 ゲーム事業もプレイステーション (PS) 4 が好調で、過去の PS に比べて最速で累計販売台数は 3,500 万台を突破した。 この 2 事業は「成長牽引(けんいん)領域」と位置づけ、積極的な投資も続ける方針だ。 (鈴木友里子、asahi = 1-29-16)


主エンジン、年明け燃焼試験 = H3 ロケット開発順調 - JAXA

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は 20 日、2020 年の初号機打ち上げを目指し開発中の H3 ロケットについて、新開発の 1 段目エンジンの燃焼試験を、鹿児島県・種子島宇宙センターで来年初めにも行う方針を明らかにした。 記者会見した JAXA の岡田匡史プロジェクトマネジャーは「先輩たちが培ってきた技術を集大成しつつ、優れた技術を集めてロケットに使っていく」と述べた。

H3 ロケットは全長約 63 メートル。 2 段式で、1 段目は新開発の液体燃料エンジンを 2 基または 3 基配置する。 現行の H2A ロケットと異なり、液体エンジンのみで打ち上げ可能だが、搭載する衛星の大きさに応じて固体ロケットブースターを 2 - 4 本追加する。 設計の簡素化や民生品の採用などでコストダウンを徹底。 最もシンプルな液体エンジンのみの場合、打ち上げ費用は H2A の半分の約 50 億円を目指す。 (jiji = 7-20-16)


看板にいかが 曲がる大型モニター、業務用に 10 月発売

大日本印刷は、薄くて高画質のディスプレー「有機 EL」を使った大型デジタルサイネージ(電子看板)を業務用として 10 月から販売する。 画面を大きく曲げられるのが特徴で、迫力のある空間を演出できるという。

韓国 LG グループの LG エレクトロニクス・ジャパンとの共同事業で、LG 製の有機 EL パネルを使う。 両社は、訪日外国人が増える 2020 年の東京五輪に向け、大型商業施設や公共交通機関向けの需要が高まると期待しており、55 インチの有機 EL ディスプレーを 24 枚並べた大型の看板を中心に売り込む。 価格は、平面が中心の液晶ディスプレーの 3 - 4 倍になるという。 大日本印刷は「20 年の電子看板市場は 5 千億 - 1 兆円規模になる(閑郁文 = しずかいくふみ= デジタルサイネージ推進本部長)」とみており、映像コンテンツの制作や販売なども含め、19 年度までに 20 億円の売り上げを目指す。 (宮崎健、asahi = 7-14-16)


スパコン「京」、ビッグデータ解析は世界 1 位 3 期連続

スーパーコンピューターの性能の世界ランキングのうちビッグデータの解析性能を競う「グラフ 500」で、理化学研究所にある「京(けい、神戸市)」が 3 期連続で 1 位となった。 理研などが 13 日発表した。 1 位は通算 4 期になった。 2 位は中国、3、4 位は米国、5 位はドイツのスパコンだった。 一方、計算速度を競う別のランキング「トップ 500」の最新順位だと、京は 5 位となっている。 グラフ 500 は 2010 年に始まったランキング。 インターネット上で「誰と誰がつながっているか」など、ビッグデータと呼ばれる大量のデータを解析するときに必要な性能を競う。 (asahi = 7-13-16)

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日本のスパコン「菖蒲」と「皐月」が省エネ性能ランクで世界 1 位 2 位の快挙

理化学研究所(理研)情報基盤センター、株式会社 ExaScaler、株式会社 PEZY Computing が共同開発した液浸冷却スパコン「Shoubu (菖蒲)」が 2016 年 6 月 20 日付けのスパコン消費電力性能部門ランキング「Green500」で世界第 1 位を獲得した。 Shoubu の消費電力性能値は 6.673GFLOPS/W。 同システムが Green500 で世界 1 位となるのは、これで 3 期(18 カ月)連続の 3 回目で、世界最多となる。 また、同システムは 2016 年 4 月にシステムボード類の全換装を行ない、演算理論性能は 2PFLOPS 級となるが、LINPACK 性能で 1PFLOPS を超える大規模システムが Green500 で第 1 位となるのもこれが初という。

Shoubu に使われているのは、PEZY Computing のメニーコアプロセッサ「PEZY-SCnp」。 1,280 個を 567MHz 駆動させ、Rmax で 1.001PFLOPS を実現。 スパコンの絶対性能のランキングである TOP500 では、世界 93 位(国内 11 位)となる。 また、3 者が開発した別のスパコン「Satsuki (皐月)」も、6.195GFLOPS/W で Green500 世界第 2 位に認定。 世界で初めて Green500 の 1 位と 2 位を同時獲得した。 理研らでは、今後さらなる消費電力性能と演算性能実現に向け、最適化作業を計画している。 (若杉紀彦、PCWatch = 6-21-16)


家庭用エアコン、猛暑で販売好調 工場は休み返上で増産

家庭用エアコンをつくる各社が増産対応に追われている。 今年は記録的猛暑となった 2010 年のような暑い夏になるとの予想もあり、足もとの販売が好調だ。 各社とも工場の休みを返上するなどして生産台数を引き上げている。

国内 2 位のダイキン工業の滋賀製作所(滋賀県草津市)。 8 日、工場では部品を運ぶ運搬車が行き交う中、従業員らが手早い作業でエアコンの部品を加工し、組み立てていった。 7 月に入ってからの生産台数は前年実績の 1.5 倍。 月内は休みを急きょ返上して増産する。 7 月の出荷台数は平年より 2 割多い 28 万台に増やす。 神野仁志執行役員は「増産で人の手配がままならない。 公休も出勤してもらって生産量を稼ぐ。」と話す。 (新宅あゆみ、伊沢友之、asahi = 7-10-16)


ソユーズ、ISS とドッキング 大西さん 4 カ月間滞在へ

宇宙飛行士の大西卓哉さん (40) らを乗せたロシアのソユーズ宇宙船が 9 日午後 1 時 12 分(日本時間)、チリの西、東太平洋上空で国際宇宙ステーション (ISS) にドッキングした。 大西さんは同日中に ISS へ移り、約 4 カ月間の長期滞在を始める。 日本人による ISS での長期滞在は 6 人目。 モスクワ郊外のツープ管制センターでは同日午前 10 時 40 分ごろ(日本時間)、「自動ドッキングシステムによりアプローチ中。 すべて順調だ。」とのアナウンスが流れた。 その後、映像などを通じてドッキングが確認されると、集まっていた関係者から拍手が起きた。 大西さんが ISS に入った後、交信する予定。

ソユーズ宇宙船を載せたロケットは 7 日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から発射。 通信や航法システムに改良を加えた新型機のため、約 50 時間かけて地球を 34 周する間に動作確認をし、ドッキングした。 従来型のソユーズに乗った油井亀美也宇宙飛行士の場合、打ち上げからドッキングまで約 6 時間だった。 大西さんは ISS 滞在中に、月内に打ち上げが予定される米国の補給船で運ばれるマウスの飼育実験や、高品質のたんぱく質結晶生成実験などを行う。(モスクワ = 香取啓介、asahi = 7-9-16)


手持ちの Suica がドアの鍵に 高性能化したスマートロック「Akerun Pro」、API 連携も

フォトシンスは 7 月 7 日、スマートロックロボット「Akerun Pro」を発表した。 7 月 23 日より順次発送を開始する。 価格は、初期費用なし、月額 9,500 円のレンタルプランを提供。 単品購入向けに初代 Akerun も併売する。 Akerun Pro は、オフィスや事務所での利用を想定した後付け型のスマートロックデバイス。 多人数の出入りでも手間なく利用でき、正確なセキュリティ管理を実現すべく、すでに販売している「Akerun」よりも基本性能を高めている。

同社代表取締役社長の河瀬航大氏は、「マイナンバーやプライバシーマークの取得など、電気錠を導入したいというニーズは多い。 ただし、おおよそ 50 万円以上と導入コストも高く、中小企業にはハードルがあった。」と説明。 また、「煩わしい仕事を Akerun が奪うことで、人はクリエイティブな作業のみに集中できる」と、スマートオフィスが叶える働き方について語った。

「Suica」、「PASMO」で開場可能 Akerun Pro は、100 万回の開閉試験を突破している

Akerun Pro のシステムは、Akerun Pro 本体、NFC カードリーダ、ドアセンサーで構成。 すべてバッテリー駆動で、Bluetooth で連携する。 電源は、Akerun Pro 本体で「CR123A」を 8 本、NFC カードリーダで 4 本使用する。 ドアセンサーはコイン電池を使用。 いずれも 1 日数百回の使用で約 1 年間稼働するという。 電池の残量が少なくなると、アプリやメールで使用者に通知する。 交換用の電池代は月額プランに含まれる。 また、バッテリー駆動のため停電時でも利用できるほか、AC アダプタによる外部給電にも対応する。

本体はアルミダイカスト製 円形のノブは、アルミの削り出しで、質感の向上を果たした

また、スマートロック初となる NFC に対応。 「Suica」、「PASMO」での開閉が可能で、正確な開閉履歴が取得できる。 取得したデータは、ウェブ上の管理画面「Akerun Manager」で一括管理でき、会議室の利用状況の確認、喫煙室の利用状況から社員の健康を管理するといった利用が可能となる。 API 連携により、入退室をトリガーにしたウェブサービスとの連携も可能。 「誕生日のスタッフが出社したらバースデイメロディが鳴る」、「入退室に合わせて照明をオンオフ」、「外出時に雨が降っているとお知らせ」、「地震速報を受けてロックを自動で解除」といった利用が可能。 河瀬氏は「空気を読むロボットになる」としている。 (山川晶之、Cnet = 7-7-16)

前 報 (3-24-15)


「4K 放送、受信機必要」客に説明を 総務省、販売店に

総務省は 30 日から、高画質な「4K」画質のテレビを売る販売店に、いま市販されているテレビだけでは 2018 年に始まる 4K 放送を受信できないことを客に説明するよう求める。 夏のボーナス商戦で、受信機が別に必要なことを知らずにテレビを買う人が増えているためだ。

4K 放送は、8 月から試験放送が、18 年からは実用放送が、それぞれ衛星放送で始まる。 ただ、視聴に必要な受信機はまだ開発段階で、市販は実用放送が始まる直前になりそうだ。 メーカー担当者は「発売当初の受信機は、安くても数万円になる」とみる。 店内にチラシを掲示したり、客に配ったりさせるとともに、口頭説明も求める。 販売に水を差す懸念もあるが、「知らずに買って『だまされた』と感じる人が多数出てしまうことの方が問題(総務省放送技術課)」と判断した。 (上栗崇、asahi = 6-30-16)


高級炊飯器好調、象印が最高益 5 月中間決算

象印マホービンが 28 日発表した 2016 年 5 月中間決算は、営業利益が前年同期比 28.0% 増の 85 億円、純利益が同 11.5% 増の 50 億円となり、いずれも過去最高だった。 外国人観光客の「爆買い」は半減したものの、5 万円以上の高価格帯の炊飯器の販売比率などが上がったという。

免税店向け売り上げは前年同期の約 20 億円から約 11 億円に減った。 観光客が持ち帰る高額品の関税を中国当局が引き上げたことなどが響いた。 通期でも前期実績の 36 億円の半分以下の 15 億円に減る見込みだという。 市川典男社長は「異常な状態が終わり、平常に戻りつつある」と話した。 それでも、売上高は同 5.8% 増の 519 億円と過去最高だった。 コーヒーメーカーなどが伸びたほか、中国で携帯魔法瓶がよく売れた。 円高が進み、海外でつくり日本に持ち込んで売る製品の採算も改善した。 (asahi = 6-28-16)


「家庭用ロボ 15 年以内に実現」 トヨタ子会社トップ

トヨタ自動車の AI (人工知能)子会社のトップ、ギル・プラット氏が 20 日の取材に対し、「車を作る技術をほかの分野に適用したい。 介護などの家庭用ロボットは、今後 15 年以内に実現するという信念を持っている」と述べた。 トヨタは、AI 研究の子会社、トヨタ・リサーチ・インスティテュート (TRI) を今年 1 月、米シリコンバレーに設立。 その最高経営責任者 (CEO) に、AI やロボットの研究者であるプラット氏を米国防総省から招いた。

家庭用ロボットは AI と機械を正確に動かす技術が欠かせない。 自動運転と並び、TRI の研究の柱だ。 プラット氏は「年をとると家事も大変。 高齢化している日本では家庭用ロボットが必要」と指摘。 AI が人間の設定に頼らずに対応できる技術「ディープラーニング」の登場も踏まえ「(研究の)時は熟した」と話した。 (友田雄大、asahi = 6-21-16)


元シャープ液晶トップ、ライバル企業 JDI に転身

液晶パネル大手のジャパンディスプレイ (JDI) は 16 日、事業が競合するシャープの元専務執行役員で液晶部門トップを務めた方志教和氏 (63) を副社長執行役員に招く人事を発表した。 7 月 1 日付で就任し、主に液晶パネルの営業分野を担当する。 鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入り再建を目指すシャープにとって、方志氏のライバル企業への "転職" は社内外に波紋を広げそうだ。

液晶パネルの営業には「顔が売れた経営者が必要(業界関係者)」とされる。 矢継ぎ早に新モデルを発売するスマートフォン(スマホ)メーカーの要求に対応し、個別に改良した液晶パネルを素早く供給するためには強いトップ同士の信頼関係が物を言う。 方志氏はシャープ液晶のトップとして 2014 年には急成長していた中国スマホの雄、小米科技(シャオミ)創業者の雷軍董事長と関係を構築。 わずか数カ月で数千万枚の液晶パネルを供給し、一時はシャープの業績を急回復させた実績を持つ。

その後は市況悪化などで業績が落ち込み、方志氏は 15 年に取締役を退任。 その際に雷氏が「何で方志氏を外したんだ」と怒り、しばらくシャープ側はシャオミ側と意思疎通ができなかったという。 シャープは自ら育てた「スター」を JDI に奪われることになる。 経営危機に伴うリストラや鴻海への傘下入りなどで、シャープでは液晶部門の人材流出が続いている。 社内には方志氏に引っ張られる形で JDI に転職する社員が増える懸念もくすぶる。 くしの歯が欠けるように液晶の技術者らが辞めていけば、鴻海が欲したシャープの液晶事業の再建シナリオにも影を落とすことになりそうだ。

一方の JDI。 シャープ再建を巡っては、JDI の筆頭株主でもある官民ファンドの産業革新機構が一時、買収に動いた経緯もある。 機構案の柱は JDI とシャープの液晶事業の統合だった。 国内の液晶技術を JDI に一本化して韓国や中国のパネルメーカーとの競争を有利に運ぶ狙いがあった。 最終的に鴻海の傘下入りが決まり、JDI は抜本的な業績回復の手立てが打ち出せていない。 16 日の JDI 株の終値は 180 円と上場来安値を更新した。 ライバル企業の方志氏を招いて浮上を目指す JDI と、かつて "液晶王国" を築いた立役者のひとりを失うシャープ。 両社を取り巻く環境は厳しくなるばかりだ。

液晶は有機 EL への置き換えが加速し、韓国や中国のパネルメーカーの勢いは増している。 日本という「コップの中」での人材争奪戦は、JDI とシャープの液晶事業が苦戦する実情を映し出す。 (細川幸太郎、飯山順、nikkei = 6-16-16)


VR 元年、ゲームや映画 … 仮想と融合 区別失う恐れも

今年はバーチャルリアリティー (VR) 元年と言われ、ゲーム機などの VR 製品が続々と発売される。 サイバー空間に生身の自分が存在する感覚を作り出す技術が進化。 現実と仮想の間を行き来できる時代がやって来ている。 「私」を乗せた小さなかごが海の中をゆっくり降りていく。 頭を突き出すように見下ろすと、海底に横たわる難破船が見える。 光るクラゲの群れが現れて、かごをぐるりと取り囲む。突然、横からホホジロザメが現れた - -。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントが 10 月に発売するプレイステーション (PS) VR を体験させてもらった。 ゴーグル型のヘッドマウントディスプレー (HMD) をかぶり、ゲーム機の PS4 に接続して遊ぶ。 HMD に内蔵のジャイロセンサーで頭の傾きや姿勢を、加速度センサーで動きの速度を測定。 HMD に取り付けられた LED の光を離れた場所からカメラでとらえ、前後左右に動く頭の位置をつかむ。 これらの情報に合わせて映像を動かし、現実にそこにいる感覚を作る。 頭をぐるりと回すと 360 度を見回すことができる。

同社グローバル商品企画部の高橋泰生課長によると、開発の際には没入感を向上させることに力を注いだ。 映像が頭の動きより遅れると、人は違和感や酔いを感じ、没入感の妨げになる。 ディスプレーに高速で動く有機 EL を採用し、両者のずれを人間が意識できない 0.018 秒未満に抑えた。 技術は 2 年ほど前にほぼ完成。 ソフトが出そろうのを待ち、今年発売する。 現在 230 社以上が開発中で、年末までに 50 種類が発売される。 今年は米オキュラスと台湾 HTC が HMD を発売。 韓国のサムスンの製品も発売される。

PSVR は一台 4 万 4,980 円だが、千円前後の安価な製品もある。 「ハコスコ」や、グーグルの「カードボード」などは、段ボールの部品を組み立ててスマホを差し込むだけだ。 基本的なしくみは PSVR と共通で、スマホに組み込まれた加速度センサーなどを活用して VR を実現している。 (嘉幡久敬、asahi = 6-12-16)


野菜カットやご飯計量 … ロボット続々、食品加工現場に

食品工場で「働く」ロボットや機械を展示する「国際食品工業展」が 7 日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開幕した。 野菜や果物を切り分けたり、選別したりする機能に磨きをかけたロボットが目立った。 石川県の馬場鉄工所などは、ジャガイモの芽を取り除くことができるロボットを出展した。 ロボットアームがジャガイモをつかみ、レーザーとカメラをつかって、芽の位置を特定、カッターで取り除く。 人手不足に備え、機械化のニーズは高いとみた。 馬場博邦事業部次長は「ロボットなら 24 時間働けるようになる」と太鼓判を押す。

北海道芽室町のフクザワ・オーダー農機が開発したのは、ブロッコリーのカット機。 機械にブロッコリーをセットしてボタンを押すと、カッターが回り、数秒で一口サイズに切り分ける。 同社は農家向けに開発したが、「冷凍食品工場や外食店のセントラルキッチンからの引き合いが多い。(福沢剛志代表)」 (南日慶子、asahi = 6-8-16)


地図のゼンリン、広げる商機 ドローン空域やジオラマ

国内最大の地図製作会社ゼンリン(北九州市)が、地図データに「ひと味」加えた新しいサービスに力を入れている。 主力だった事業の収益が伸び悩むなか、手つかずだった分野に新しい発想で飛び込んで、会社を支える柱にしようという狙いがある。 北九州市小倉北区の中心部に近い山田緑地。 映像制作会社オリオンファクトリーの代表・渋田慎さんは、タブレット端末に表示させた地図を確認してから、カメラを搭載した小型無人機「ドローン」を飛ばした。 この地図では、自由にドローンを飛ばせない「飛行制限区域」がピンク色で表示される。 自由に飛ばせる山田緑地は、地図上のピンクではないエリアにある。

この地図は、ゼンリンがドローンの普及団体などと協力して 5 月 25 日に始めたドローン専用の地図情報サービス「ソラパス」だ。 ドローンは、住宅街や空港周辺などでの飛行が法律で制限されている。 ソラパスは制限区域のデータとゼンリンの住宅地図データを組み合わせた、いわば「空の地図」。 会員登録すれば誰でも無料で使える。 オリオン社の渋田さんは、ドローンを使って北九州市の観光 PR 映像などをつくっている。 ソラパスを使い始めるまでは国が公開する地図で飛ばせるエリアを確認していたが、建物名などの詳しい情報が少ないため、別に用意した住宅地図と併用していた。 「撮影地点は細かく決めるので、建物名などが詳しいソラパスは使いやすい」と話す。

ソラパスでは、飛行制限区域でドローンを飛ばすために国土交通省へ提出する書類の作成支援も有料(1 回税別 6 千円)で受け付けている。 今後はドローン専用の損害保険や機体の紹介などの機能を追加し、保険会社やメーカーといった提携企業からの手数料で収益を上げる考えだ。 会員数は現在、空撮や建設現場での測量を手がける企業など約 6 千。 今後 3 年間で 10 万会員の獲得を目指すという。

ドローンは将来、宅配業などの日常サービスで使われる可能性があり、市場の広がりも期待される。 ソラパスの開発を担当したゼンリン公共企画課の深田雅之さんは「将来的にはドローン向けのナビゲーションシステムをつくり、自動航行させたい」と話す。 ドローンに行き先の住所を入力すれば、自動で荷物を届けてくれる - -。 そんな「ドローン物流」の時代が、ソラパスの進化で実現するかもしれない。

模型会社と協力

地図データをいかした新サービスは他にもある。 建設業者や模型ファンに「都市のジオラマ」を、2 月から売り始めた。 3D 模型制作会社アイジェット(東京)と協力している。 ジオラマ化できる地域は今のところ、東京の神宮球場の周辺のほか、東京タワー、熊本地震で被災した熊本城周辺などに限られるが、今後は対象地域を広げる。 熊本城周辺のジオラマ販売による利益は全額が被災地へ寄付される。 価格は税別 9,800 円(9 センチ x 9 センチ)から。 アイジェットのホームページから注文できる。

ゼンリンは東京 23 区と大阪市全域のほか、政令指定都市の中心部で、専用カメラを載せた車を走らせて街並みを撮影。 ビルの高さや道幅などの 3 次元データを収集している。 今回のジオラマはこのデータの一部を使った。 ゼンリンは集めたデータをゲーム会社や建設会社などに売っており、今後もデータの販売先を増やして収益につなげる方針だ。

売上高 3 割増めざす

ゼンリンが地図データにひと味加えた付加価値の高いサービスに力を入れる背景には、主力事業の伸び悩みがある。 歩行者向けのスマートフォン用地図サービスは、グーグルマップなどネット上の無料サービスに押されて有料会員が減少。 カーナビ向けの地図データの販売も、カーナビ本体の価格下落を受けて単価が下落傾向にある。 苦しい中でも業績を伸ばすため、新領域に挑戦している。 車の自動運転に使われる高精度地図「ダイナミックマップ」づくりも、メーカーと協力して進めている。 ゼンリンは新領域を事業の柱に育てることで、2020 年 3 月期の売上高を、16 年 3 月期より約 3 割多い 700 億円に引き上げることを目指している。 (村上晃一、asahi = 6-5-16)