「外国人技能実習生」にまつわる深い闇!

【金木亮憲】 12 月 14 日、「外国人技能実習機構」のホームページに法務省入国管理局入国在留課、厚生労働省海外国人材育成担当参事官室、外国人技能実習機構管理団体本部の三者共同の監理団体向け通達「送出機関との不適切な関係についての注意喚起」が載った。 これは前代未聞のケースだ。 この世界は一種 "闇" で、「飲ませろ、食わせろ、抱かせろ!」が平然と行われてきたからだ。

そのすべてが「仲介料」や「保証金」の名目となって技能実習生に戻り、米国の公聴会や国連では「日本には人権無視の奴隷制度が存在する」と指摘されてきた。 この「悪の連鎖」を断ち切るために、外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律「技能実習法(17 年 11 月 1 日施行)」ができ、それに先がけて、17 年 1 月 25 日に「外国人技能実習機構(鈴木芳夫理事長・弁護士)」が設立された。

今後本当に約 2,000 ある監理団体の浄化は進むのか。 技能実習生やベトナム事情に詳しい DEVNET (*) アジア地域本部総裁、日本支局・DEVNET JAPAN の明川文保代表理事に聞いた。

悪の連鎖を断ち切る、という "やる気"

- - 先生は 12 月 14 日の通達はどのように受け止められましたか。

明川文保氏(以下、明川) このような通達は前代未聞です。 新設の外国人技能実習機構の「悪の連鎖」を断ち切るという強い "やる気" を感じました。

出入国管理行政を行うための機構、法務省入国管理局の地方入国管理局は現在 8 つ(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、高松、広島、福岡)設けられています。 しかし、人数が足りないことも要因の 1 つとなり、入管法関連外の技能実習生に関する専門知識は必ずしも十分ではありません。

一方、労働基準法そのほかの労働者保護法規に基づいて事業場に対する監督および労災保険の給付などを行う厚生労働省の出先機関に労働基準監督署があります。 しかし、その監督官(全国約 410 万の職場で 5,300 人)は入管事情を把握できているわけではありません。

外務省も同様です。 たとえば、「最低賃金」や「三六協定」などの知識があっても、その運用実態を知っているわけではありません。 今まではアクションを起こしたくても、日本の縦割り行政の高い壁に阻まれ、お互いに "もやもや" したものを抱えていました。

新設の「外国人技能実習機構」では、法務省、厚労省、外務省から現職組が出向、レベルの高い意見交換ができるようになりました。 しかし、同機構は今年 1 月 25 日に設立されましたが、外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律「技能実習法」は 11 月 1 日に施行されたばかりです。

寄合所帯でもあり、これから意思の疎通を図り、本格的に動き出そうと思っていた矢先に、『ガイアの夜明け(17 年 12 月 12 日・テレビ東京)』で、人権無視の奴隷制度ともいうべき、日本の技能実習生の実態が白日のもとに晒されました。 今回の素早い反応は、同機構のいわば所信表明みたいなものであり「始まりの始まり」に過ぎないと感じています。 下記の通り、技能実習法では、監理費以外の手数料、または報酬を明確に禁じています。

第 28 条 1 項 監理団体は、監理事業に関し、団体監理型実習実施者等、団体監理型技能実習生そのほか関係者から、いかなる名義でも、手数料または報酬を受けてはならない。

第 111 条 1 項 次の各号のいずれかに該当する者は、6 月以下の懲役または 30 万円以下の罰金に処する。
同 2 項 第 28 条第 1 項の規定に違反した場合におけるその違反行為をした監理団体の役員または職員
「技能実習法」から抜粋

許可認定の取り消しという厳しい処分に

- - 同機構の動きは大いに期待できるわけですね。 しかし、約 2,000 ある監理団体の 3 分の 2 が「許可」取消に該当するという話もあります。

明川 技能実習制度の進行は止められないので、改革は徐々に進んでいくものと思います。 たとえば、ある監理団体の許可を取り消した場合、当該技能実習生を、他の監理団体に転属させるのか、あるいは 1 時帰国させるのか等具体的なものはまだ何も定まっていないからです。 昨年 9 月以前に「許可」申請のあった約 480 の監理団体にはすでに許可が出ました。 その後も続々と許可申請があり認定審査が進行中です。 ところが、すでに許可認定の監理団体の多くが、いわゆる『ガイアの夜明け』のケースに該当するという話さえあります。

しかし、新制度では、「許可」後も、定期的な実地検査を行い、技能実習生からの相談・申告はもちろん、労働基準監督機関、地方入管局からの通報などを幅広く受け入れることになっています。 そして、違反のあった監理団体および事業者名などを公表、改善命令(法 15 条 1 項、36 条 1 項)、業務停止命令(法 37 条 3 項・監理団体のみ)、そして許可・認定の取り消し(法 16 条 1 項、37 条 1 項)という厳しい処分ができることになります。

ベトナムの技能実習生が大幅に増加した

- - 技能実習生について、日本とベトナムはどのような関係にありますか?

明川 日本政府とベトナム政府は 17 年 6 月 6 日に、技能実習生に関する協力覚書(2 国間取り決め)を締結しました。 日本・ベトナム両国が技能実習を適正かつ円滑に行うことを狙いとしています。

技能実習生(総数 251,721 名)の国別では、第 1 位・ベトナム(104,802 名)、第 2 位・中国(79,959 名)、第 3 位・フィリピン(25,740 名)の 3 国が突出しています。 (「法務省在留外国人統計(2017 年 6 月)」)昨年まで 1 位であった中国は国内経済が豊かになった影響で減少、逆に間もなく総人口が 1 億を超えるといわれるベトナムが大幅に増えました。

現実に、良質な応募者が減少しています

- - 重要な関係ですね。 にも拘わらず「悪の連鎖」が存在するのは困ったものです。

明川 もう一度、この「悪の連鎖」の構図を考えて見ましょう。

日本での技能実習を希望するベトナム人がいるとします。 先ず彼・彼女がコンタクトを取るのは、国内の多数の「仲介者・ブローカー(1,000 - 2,000ドル/1 人の仲介料を要求)」になります。 そのブローカーが「送出機関(3,000 ドル/1 人の保証金、4,000 - 8,000 ドル/1 人の出国時費用を徴収)」と結託・癒着して「監理団体(日本の窓口)」へ技能実習生を送ります。 この時点で、日本の監理団体は 500 - 3,000 ドル/1 人のリベートを送出機関に要求すると言われています。 最終的には、監理団体が技能実習生を「受入会社」へ送ります。

1 人のベトナム技能実習生が日本へ行くために必要な金額は 7,000 - 13,000 ドルにおよびます。 月収 2 万円(約 178 ドル)前後の貧しいベトナム人は、この支払いを自己資金では賄い切れないので、高利貸しに借金をしてやって来ます。 しかし、日本で高給が稼げるわけではありません。 少ない給料収入の中、多額の金利・元金返済のプレッシャーに日々追われることになります。 そこで、初めて日本にきたメリットがほとんどなく、ブローカーや送出機関の勧誘に騙されたことに気づきます。

それだけではなく、劣悪処遇、賃金不払いへの不満、借金返済へのストレスが大きな動機となり、またその弱みにつけこんだ、国内犯罪組織からの誘いもあり、失踪、犯罪に陥るケースが増えているのです。 つまり、技術移転、海外企業進出、国際貢献、生産性向上という趣旨である本来の外国人技能実習制度が形骸化しているのです。 この情報(噂)はベトナムでも広がり、人数は増えても、良質な応募者が減少しています。

送出機関が、逆に監理団体を選択する?

- - ベトナム政府は、このような形骸化した「技能実習制度」をどのように見ているのですか?

明川 現政権のグエン・スアン・フック首相はこの事態を重く見ています。 同じ社会主義国家、中国の習近平主席の「「蠅も虎も一緒にたたく」に倣って共産党内部の浄化を積極的に進めています。 17 年 12 月 8 日には元交通運輸相のディン・ラ・タン氏(最大の国営企業ペトロベトナムグループ元会長)を汚職絡みで逮捕しました。 グエン・タン・ズン前首相まで捜査の手がおよぶのではないかとも言われています。

実はこの悪の連鎖関連で、『ガイアの夜明け』にも出てこなかった新事実があります。 それは、ベトナムの送出機関の姿です。 先ほど申し上げましたように、候補者(ベトナム)→仲介者・ブローカー(ベトナム)→送出機関(ベトナム)→監理団体(日本)→受入会社(日本)が一般的な流れです。 ところが、これとは違うもう 1 つの流れがあるのです。 それは、「送出機関(ベトナム)」→「受入会社(日本)」という、監理団体(日本)を事実上中抜きにした流れです。

ベトナムで送出機関の認可を取るには約 3,000 万円の費用がかかると言われています。 そのため、大企業でなければ認可は取れません。 大企業は認可を受けると、名義を細かく分け、「送出機関」業者に又貸しします。 その大企業の名義を借りたベトナムの「送出機関」が日本に進出、日本の「受入会社」と結託・癒着して直接搾取の構図を描きます。 そのうえで、自分のいう事を聞く日本の「監理団体」を選ぶというわけです。

このような主客転倒した状態で行われる搾取の金額の大きさは、変な言い方ですが、正常ルートの搾取の金額の比ではありません。 あるベトナムの送出機関は、地下に豪華なキャバレー施設のある市内の高級ホテルを買収、自分の取引先である日本の「監理団体」幹部を優先的に宿泊させ、接待し、「飲ませ、食わせ、抱かせ」を繰り返しています。 しかも、驚くことに、ここには「受入会社」の大企業の労務幹部までが招待されているのです。

日本とベトナム両政府が本気で取り組む

私はこの技能実習生の「悪の連鎖」はサラ金騒動(過払い金返還請求騒動)と同じ結末をたどるのではないかと予想しています。 今後は「技能実習法」に付随する法律が次から次にできることになると思います。 そうすると、技能実習生からの訴訟が、日本においては「監理団体」および「受入会社」に対して、ベトナムにおいては「送出機関」に対して続出します。 今日本政府もベトナム政府も本気でこの問題に取り組む姿勢を明らかにしています。 (Net IB = 1-15-18)

* 国連経済社会理事会 (ECOSOC) によって常設カテゴリー 1 にランクされる NPO・NGO 組織。 ロベルト・サビオ氏、ガリ元国連事務総長などの働きかけで 1986 年イタリア・ローマに創設。 発展途上国間および先進国と途上国間の交流、経済協力を推進することを目的として、世界規模の技術、経済および貿易を行うグローバルな情報ネットワーク・シス テムをもつ。 現在 166 カ国、150 万社がこの機構を利用している。

<プロフィール> 明川・文保 (あけがわ・ふみやす) : DEVNET アジア地域本部総裁、日本支局・(一財) DEVNET JAPAN 代表理事。 東久邇宮文化褒賞記念会 代表理事。

山口県美祢市生まれ。 1973 年山口県防府市に日本初の冷凍冷蔵庫・普通倉庫を備えた 3 温度対応の総合流通センター開設(コールドチェーン物流の魁)。 岸信介元内閣総理大臣後援会青年部会長、衆議院議員安倍晋太郎私設特別秘書、九州山口経済(連)の国際交流委員・運輸通信委員・農林水産委員、山口大学経済学部校外講師などを歴任。