アルツハイマー病の原因物質、細胞にたまる仕組み解明

神経細胞の中心から末端部に様々なたんぱく質を運ぶ「キネシン 1」という運搬役のたんぱく質が働かなくなると、アルツハイマー病の発症につながる物質が末端部にたまってしまうことを、名古屋大の松本邦弘教授と久本直毅准教授(生命理学)らが解明した。 仕組みがわかったことで、治療法の開発につなげられる可能性がある。 9 日付の米科学誌で発表する。

脳が萎縮するアルツハイマー病は、神経の伝達に必要な「APP」というたんぱく質が脳内の神経細胞の末端部にたまって変異し、蓄積されてしまうことが原因だと考えられている。 APP は、神経細胞の中心部から末端部に向けてレールのように延びた微小管をキネシン 1 によって運ばれる。 APP が末端部にたまりすぎると、通常は別の運搬役のたんぱく質によって中心部に戻され、分解される。

松本教授らは線虫の細胞を使い、キネシン 1 など運搬役の二つのたんぱく質を働かなくした上で、APP が往復するかどうかを観察した。 その結果、中心部から末端部に運ばれはするものの、中心部には戻らず、末端部にたまってしまうことがわかった。

キネシン 1 は APP のほか、復路用の別の運搬役も末端部まで運んでおり、実験でキネシン 1 などが働かなかったために、この復路用の運搬役が足りなくなったのが原因とみられる。 往路用の運搬役がキネシン 1 以外に存在するらしいことも、この実験でわかった。 アルツハイマー病の患者は国内に約 120 万人いるとみられ、久本准教授は「こうした仕組みの理解がさらに進めば、治療につながるかも知れない」と話している。 (高山裕喜、asahi = 2-9-11)


2010 年のエイズ発症者、過去最多 30 代目立つ

エイズウイルス (HIV) の感染に気づかないまま発症した新たな患者は 2010 年に、過去最多の 453 人(速報値)だったと、厚生労働省のエイズ動向委員会が 7 日、発表した。 前年より 22 人増えた。 HIV 感染者も合わせると過去 2 番目に多い 1,503 人で、感染者、患者ともに増加傾向が続いている。

新たな患者は 06 年に 400 人を超えてからは、毎年増え続けている。 患者のうち男性は 435 人、女性は 18 人だった。 年代別では、30 代が最も多く、40 歳以上は半数以上を占める。 直近の 10 - 12 月の患者と感染者の合計は 422 人で過去の四半期の中で最も多かった。 一方、保健所などで行われた検査や相談は前年より大幅に減っている。

HIV は早期に感染が分かれば、多くは薬剤治療で発症を抑えられる。 患者の増加は、感染に気づかず治療を受けなかったことが、原因とみられている。 動向委員会の岩本愛吉東京大医科研教授は「関心は薄れつつあるが、早期治療につながる検査を積極的に受けて欲しい」と話す。 (asahi = 2-7-11)


iPS 細胞からインスリン分泌組織 糖尿病治療に期待

iPS 細胞(人工多能性幹細胞)から、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵島(すいとう)という組織を作ることに、東京大の宮島篤教授らのチームがマウスで成功した。 これまでインスリンを出す細胞自体はできていたが、ほかの細胞とともに立体構造になった膵島づくりに成功した例はなかったという。 人の糖尿病治療につながると期待されている。 3 月 1 日から東京都内で始まる日本再生医療学会で発表する。

インスリンは血糖値を下げる働きをするホルモン。 糖尿病(1 型)は、自分の免疫反応の異常で膵臓にある膵島(ランゲルハンス島)が攻撃され、インスリン分泌能力が失われた状態。 患者は 1 日に数回、インスリンを注射して不足分を補う。 治療は膵島や膵臓の移植しかない。

チームの一人で東京大の斎藤弘樹研究員らは、マウスの胎児から膵島のもとになる細胞を見つけて取り出し成長させる培養方法を突き止めた。 この方法を使いマウスの皮膚から作製した iPS 細胞を膵島にすることに成功したという。 この膵島を、人工的に糖尿病にしたマウスに移植したところ、3 カ月にわたって血糖値を低く保つことができた。 移植した組織ががんになるなどの問題も起こらなかった。

これまで米国のチームなどが、iPS 細胞からインスリンを出す細胞を作っていたが、分泌量が少ないなどの課題があった。 さらに、体内で血糖値を調整するには、血糖値を下げすぎないよう働く細胞も必要で、治療に使うには膵島全体を作ることが課題になっていた。

ヒトの皮膚などから作製した iPS 細胞で効果や安全性を確かめることができれば、重い糖尿病患者への移植ができる。 組織そのものを薬や病気の研究にも使える。 斎藤さんらは「大量につくる方法の開発などハードルも高いが、人の治療法の実現を目指したい」という。 (福島慎吾、asahi = 2-6-11)


腸の味方ビフィズス菌、O157 もガード 理研など解明

腸内細菌の一種ビフィズス菌が、腸管出血性大腸菌 O157 による腸の炎症や死亡を防ぐしくみを、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターなどのグループがマウスで解明した。 菌が作り出す酢酸が大腸の粘膜を保護していた。 予防法の開発などに応用できると期待される。 27 日付の英科学誌ネイチャーで発表する。

体内に菌のいない無菌マウスに O157 を感染させると 7 日以内に死ぬが、同センターの大野博司チームリーダーらが人間の腸内にいるビフィズス菌の一種を事前に与えると、O157 を感染させても死亡せず、腸の粘膜に炎症も起きなかった。 別の種類のビフィズス菌だと、死亡までの平均日数が 2 日延びただけだった。 生き延びたマウスは死亡したマウスに比べて、腸内のビフィズス菌が作る酢酸が2倍以上あった。

酢酸は腸の粘膜を保護し、粘膜の新陳代謝を促す働きがある。 ビフィズス菌は通常、腸内のブドウ糖を原料に酢酸を作るが、腸内は下部に行くほどブドウ糖が少なくなり、果糖が多くなる。 予防効果が見られたビフィズス菌は果糖を菌内に取り込む遺伝子も持っているため、腸の下部でも酢酸を作ることができ、O157 の被害を防げたと考えられる。 (大岩ゆり、asahi = 1-27-11)


B型肝炎集団訴訟、和解へ 全国原告団も地裁案受け入れ

乳幼児期の集団予防接種の注射器の使い回しで B 型肝炎ウイルスに感染したとして、国を相手取り損害賠償を求める集団訴訟を起こした全国原告団は 22 日、東京都内で総会を開き、札幌地裁が示した和解案を受け入れることを決めた。 国も受け入れる方針を決めており、10 地裁で原告 630 人に広がった訴訟は和解が成立する見通しになった。

原告側は 2 月 15 日の和解協議までに札幌地裁に伝える。 今年度内の基本合意を目指すが、国による謝罪や全員救済実現、差別や偏見の解消などの課題を解決する道筋が付くことを「前提条件」としており、国側と細部を詰める作業が残されている。 話し合いが順調に進めば、和解協議入りしている札幌、福岡両地裁に続き、他の 8 地裁でも和解に向けた手続きに移る見通し。

政府は和解案に沿って救済策を講じた場合の費用を、原告以外の人たちを含め最大 3.2 兆円と試算。 今後政府や与野党間で財源や立法措置の検討が加速するとみられる。

総会後の記者会見で全国原告団の谷口三枝子代表 (61) は「すべてに満足できるわけではないが、(各地からの)代議員の議決で札幌地裁の所見を受け入れることに決めた」と述べた。 症状がまだ出ていない持続感染者への和解金が 50 万円と少ないことなどから、「積み残された課題は多い」と話し、検査体制充実や差別、偏見をなくす取り組みに向けて国と協議を続ける意向を示した。

長年にわたり感染被害が広がったことについては、加害責任に基づき国が真摯に謝罪するよう求めた。 発症から 20 年たった肝炎患者や、予防接種で感染した母親からうつった「二次感染者」への対応は和解案に盛り込まれなかったが、これらも課題に挙げた。

総会には札幌、東京、新潟、静岡、金沢、大阪、鳥取、松江、広島、福岡の各地裁の原告団から代議員 29 人が参加した。 「持続感染者の和解金が低すぎる」との意見が出たが、「重症化している患者も多く、訴訟を長引かせるわけにはいかない」との結論に至ったという。

札幌地裁は「厚生行政上の過誤による被害の救済策」として、肝がんや肝硬変、慢性肝炎を発症している患者や亡くなった人に症状に応じ 3,600 万 - 1,250 万円、症状が出ていない持続感染者に 50 万円と検査費用などを支払う和解案を示していた。 菅政権は「司法の判断を重く受け止め、基本的には前向きに検討する」との基本姿勢を確認、1 月中にも受け入れを正式に表明する方針。 (北林晃治、asahi = 1-22-11)

全国 B 型肝炎訴訟原告団の声明(骨子)

  • 和解案(所見)は、苦渋の選択だが基本的に受け入れる。
  • 被害者の全員救済を実現するため、予防接種を受けた事実について不可能な証拠提出を必要としないよう国に求める。
  • 国は国民に集団予防接種による加害などの事実を説明し、被害者に謝罪すべきだ。
  • 財源論を強調し、増税論までちらつかせる国の姿勢は許せない。
  • 全面解決に向けて、国に正確な医学知識の普及による差別・偏見をなくす施策を求める。

〈B 型肝炎集団訴訟〉1948 - 88 年に国が地方自治体に実施させた集団予防接種などで B 型肝炎ウイルスに感染したとして、08 年 3 月、患者ら 5 人が札幌地裁に提訴した。 これを皮切りに、全国 10 地裁で原告計 630 人(22 日現在)が国に損害賠償を求めている。 今月 11 日、札幌地裁が、症状がまだ出ていない持続感染者も救済対象に含める和解案を示し、国は受け入れる姿勢を見せていた。

B 型肝炎ウイルスは、出産時の母子感染のほか、注射器の使い回しなどの医療行為で主に血液を介して感染。 発症すると肝機能が低下、肝硬変や肝がんになる場合がある。


痛風に 40 年ぶり新治療薬 1 日 1 回で尿酸を目標値に

帝人ファーマは、痛風や高尿酸血症の新しい治療薬「フェブリク錠」を日本で今春発売すると 21 日発表した。 尿酸の形成を阻害する薬としては約 40 年ぶり。 国内では約 1,600 万人の患者がいると推定され、久々の大型新薬は注目されそうだ。

2009 年 12 月に厚生労働省に製造販売の申請をし、21 日に承認された。 すでに欧米 9 カ国で先行発売しており、今後、全世界で 1 千億円以上の売上高をめざす。 ここ約 40 年間は、英グラクソ・スミスクライン社の「ザイロリック錠」が治療薬として主流で、1 日に 2、3 回の服用が必要だった。 新薬は 1 日 1 回で尿酸値を治療目標値まで下げる。 腎機能が低下した患者に用量を調節せずに使えるのも特徴という。 (asahi = 1-22-11)


糖尿病でも楽しめるメニュー増えてます 北里研病院調査

フルコースでもカロリーや糖質が控えめで、糖尿病でも楽しめるメニューが高級料理店で増えている。 北里研究所病院などの昨年の調査に回答があった高級店の 4 割が、こうした料理ができるか開発中で、前年の 3 倍以上に増えていた。 専門家は「おいしい料理が楽しめると、治療を続けやすい」と歓迎している。

北里研究所病院の山田悟糖尿病センター長らは昨夏、レストラン・和食店の格付け本「ミシュランガイド東京」 2010 年版に載った 197 店にアンケートした。 回答した 68 店のうち 14 店がカロリーや糖質を抑えたメニューがあるか、用意できると答えた。 前年の同じ調査の 8 店から倍増。 前年は 1 店だったメニュー開発中も 15 店あった。

ミシュランには載っていないが、糖尿病友の会の一つが食事会で定期的に利用する東京・六本木のレストラン「ボタニカ」は糖質の少ない小麦粉や甘味料を使った、血糖値の上がらないメニューを準備した。 フルコースでも糖質は 20 グラムほどという。 山田さんは「どの店も濃厚なソースを控え、塩・コショウで味付けしたり、ハーブや野菜のピューレをソース替わりにしたりするなど様々に工夫している」と話している。

糖尿病患者は全国で約 890 万人おり、これからも増加が予想されている。 治療にはカロリーまたは糖質を抑えたバランス良い食事を続ける必要があるが、外食時の献立選びに悩む人も少なくない。 (杉本崇、asahi = 1-19-11)


インフル流行本格化 患者急増、20 - 30 代目立つ

インフルエンザの流行が本格化したことが 14 日、国立感染症研究所の調査でわかった。 最新の 1 週間(1 月 3 - 9 日)で、全国約 5 千の医療機関の患者数が 1 機関あたり 5.06 人になり、前週 (2.3) から倍増。 今季初めて全都道府県で流行開始の目安となる 1 を超えた。 沖縄では警報発令レベルの 30 に近い 25.9、福岡県などで注意報発令レベルの 10 を超えた。

患者数が多い自治体は、福岡 (11.53)、佐賀 (11.41)、長崎 (9.29)、宮城 (9.15)、鹿児島 (7.41)、宮崎 (7.25)、千葉 (6.6) など。 北海道は 5.47、東京は 4.28、岐阜は 4.7、愛知は 4.18、三重は 2.9 だった。 感染研の感染症情報センターによると、患者は 20 - 30 代が目立つ。 学校再開後の患者数が判明する来週は、更に子どもの患者が増えるとみる。 昨季に流行がさほど広がらなかった 0 - 4 歳の乳幼児への感染拡大も心配する。

年明けに検出されたウイルスの 8 割以上が新型の豚インフル。 A 香港型を 12 月に逆転、更に勢いを増した。

専門家は、予防接種を「最後の機会」として勧める一方で、基本的な対策として、外出後や食事前の手洗いやせきエチケットの徹底を呼びかけている。 感染が広がりやすい保育園や幼稚園児は具合が悪い場合は可能な限り休ませることを勧める。 妊婦や出産直後の女性は免疫が落ちているため、ワクチン接種をしていない場合、インフルにかかると重症化する恐れがあると注意を促している。 (熊井洋美、asahi = 1-14-11)


インフル万能ワクチン開発に期待 新型患者から抗体発見

【ワシントン = 勝田敏彦】 米国のシカゴ大とエモリー大などの研究チームが、2009 年に流行した新型の豚インフルエンザにかかったが回復した患者が広い範囲のインフルを予防できる抗体を持っていることを突き止めた。 ウイルスの変異によらず効く「万能ワクチン」の開発につながる可能性がある発見で、10 日発行の米専門誌ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディスンに発表した。

チームは、新型インフルのワクチンを開発するため、21 - 45 歳の患者 9 人の血液から抗体の遺伝子を特定。 その遺伝子から 86 種類の抗体を作り、ハツカネズミに各種のインフルのウイルスを与えて反応を確かめた。 その結果、5 種類の抗体では、過去 10 年ほどの間に流行したすべての H1N1 型ウイルスに対して予防効果があった。 また、「スペイン風邪」を起こした型や、毒性が強い H5N1 型(鳥インフル)にも効果があった。

インフルのウイルスの型は、表面に突き出る棒のようなたんぱく質の形状で決まるが、今回見つかった抗体は、変異しやすい先端部ではなく、あまり変化しない「軸」の部分に反応しやすく、広範囲のウイルスに効くらしい。 チームのパトリック・ウィルソン博士は取材に「すべてのウイルスに反応するわけではないが、万能ワクチンができそうだ」と答えた。

季節性インフルに感染すると、体内に抗体ができるが、別の型が流行すると予防効果は期待できず、次の流行期に広がる型を予想して製造されるワクチンを接種する必要がある。 「万能ワクチン」ができれば、抗体の効き目が残っている間は新たな接種の必要がなくなって副反応のリスクが減るほか、製造コストの低減などが期待される。 (asahi = 1-11-11)

田代真人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の話 軸に作用する抗体があることは以前から分かっていた。 万能ワクチンを作るという方向性を支える一つの要素にはなるが、実現には、形状が複雑な最近の季節性インフルに効くか、ワクチン自体がアレルギー反応を起こさないかなど、課題が多く時間がかかるだろう。


胃がん増殖助長する遺伝子発見、新治療薬期待 東大など

胃がんの増殖を助ける遺伝子を、東京大や横浜市立大などのグループが見つけた。 この遺伝子を働かなくしたマウスは胃がんができにくくなった。 胃がんの新しい治療薬の開発に役立つと期待される。

横浜市立大の前田愼教授らが 66 人の胃がん患者のがん組織を調べたところ、ASK1 という遺伝子が活発に働いていた。 この遺伝子はもともと、侵入してきた細菌やウイルスに対抗するために炎症を起こしたり、傷ついた細胞をがん化する前に殺したりする働きがある。 しかし、胃がんでは細胞分裂を促して増殖を助けていることがわかった。

ASK1 を働かなくしたマウスに胃がんになる薬を飲ませたところ、正常なマウスに比べて、できた胃がんの数が 3 分の 1 ほどに減り、胃がんの大きさも半分以下に抑えられたという。 前田教授は「ASK1 の働きを抑える薬ができれば、胃がんの新しい治療薬になりそうだ」と話す。 成果は米科学アカデミー紀要に掲載された。 (福島慎吾、asahi = 1-6-11)


乳房再生、本人の幹細胞で治験へ … 九大など

乳がんで乳房を切除した患者のため、九州大や大阪大などは今春に複数の国立大や医療機関などによる研究組織を設立し、来年 3 月までに本人の幹細胞を使って乳房を再生させる治験(薬事法に基づく臨床試験)に乗り出す方針を決めた。

国の承認を受けるためのデータを集め、健康保険が適用される医療を目指す。 乳房修復は現在、シリコーンや本人の脂肪移植が主流。 しかしシリコーンには感染症の危険性、脂肪は体内に吸収され効果が持続しないなどの欠点がある。 また健康保険も適用されない。

一方、幹細胞は体を作る大もとの細胞で特定の細胞に変化したり自分をコピーしたりできる。 九州大などの再建法は、本人の腹部から 200 - 400 ミリ・リットル前後の脂肪を採取。 専用の分離器で幹細胞を多く含む細胞群を取り出し、乳房を失った部分の筋肉と皮膚の間に 2 - 3cc ずつ 30 - 40 回注入、生着すると修復される。 拒絶反応が起きにくく、より自然な形になるという。 (yomiuri = 1-2-11)


新型が A 香港型の 3 倍に インフル検出状況

インフルエンザウイルス A 香港型に代わり、12 月に入って新型の豚インフルが急増している。 国立感染症研究所によると、全国的に流行期入りした最新の 1 週間(13 - 19 日)では、ウイルス検出数で新型は A 香港型の約 3 倍だった。 インフル患者が報告され始めた 9 - 10 月のウイルスの検出状況は、A 香港型が全体の 7 割近くで、新型が 3 割弱、残りが B 型だった。

11 月 29 日 - 12 月 5 日は検出数が新型 26 に対し A 香港型 52 と 2 倍だったが、12 月 6 - 12 日は新型 89、A 香港型 43 と逆転。 13 - 19 日は新型 70、A 香港型 24 だった。 感染研によると、ウイルス変異は確認されておらず、急増の理由はよくわかっていない。 安井良則・主任研究官は「今後の動きを見極めたい」といい、年始の休み明けに学校や保育所、高齢者施設など集団生活の場で感染予防を徹底するよう呼びかけている。 (asahi = 12-28-10)


ポリオの未承認ワクチン、取り扱い急増 安全性高く

ポリオ(小児まひ)の予防接種で、国内で未承認のワクチンを海外から輸入して使う医療機関が急増している。 国内で承認されているワクチンより安全性が高いためだ。 未承認ワクチンを扱う医療機関は 9 月から 1.5 倍になり、薬販売業者の取扱量は昨年の 4 倍になっている。

ポリオは、ポリオウイルスの感染で手足にまひが起こる感染症。 国内で承認されている現行ワクチンは毒性を弱めたものだが、それでも約 200 万 - 450 万回の接種(1 人 2 回接種)に 1 人の頻度で副作用のまひが起こるとされる。 先進国の多くで、毒性をなくした「不活化ワクチン」が開発され、導入されている。 日本は他のワクチンとの混合型を開発中だが、導入まで数年はかかりそうだ。

このため、海外から未承認の不活化ワクチンを独自に輸入して使う医療機関が出始めた。 今年、現行ワクチンで被害報告が複数あり、親のワクチンへの関心が高まるとともに、ネットを通じた医師同士の情報交換が盛んになった。

患者団体「ポリオの会」会員の調べでは、9 月に 26 施設だったのが、今月は 39 施設と 13 施設増えた。 未承認薬の販売会社「RHC USA コーポレーション」日本支社によると、昨年の販売は 899 本(1 本接種 1 回分)だったが、今年は 10 月で 3,658 本と 4 倍以上になっている。

不活化ワクチンの接種は、生後 2 カ月以降 3 - 4 回で費用は高い場合は計 3 万円。 副作用が出た場合、国の補償制度は適用されない。 それでも接種のために東北、東海地方から上京したり、すでに承認されている韓国に行ったりする人もいるという。

「ポリオの会」は、ウェブサイト(http://www5b.biglobe.ne.jp/polio)で、不活化ワクチンの問い合わせに応じている。 「最近は 1 日 1 千件もの問い合わせメールが来る」と小山万里子代表。 年明けから接種を予定している千葉県立佐原病院小児科の松山剛医師 (46) は「親が選択できる環境をつくってあげたい」と話している。 (熊井洋美、金子淳、asahi - 12-26-10)


心筋梗塞を起こす遺伝子発見、治療へ道 三重大グループ

年間約 5 万人が死亡する心筋梗塞(こうそく)の発症にかかわる二つの遺伝子を、三重大の山田芳司教授(分子遺伝疫学)らの研究グループが発見し、21 日に発表した。 予防や治療につながる可能性があるという。 今週末にも欧州の学会誌電子版に発表する。

心筋梗塞は、血管がつまって、心臓を動かす心筋に血液が届かなくなる病気。 発症すると致死率が高く、寝たきりになる人も多い。 山田教授らは、「A」、「T」、「G」、「C」という 4 種の塩基が約 30 億並んでつくる「生命の設計図」であるヒトゲノム(全遺伝情報)について、個人ごとの細かな配列の違いに着目した。

日本人と韓国人の計約 1 万 7,400 人のゲノムを調べた結果、「BTN2A1」という遺伝子の塩基配列で、ある部分が C から T に置き換わっていると、心筋梗塞の発症率が約 1.5 倍に高まっていることを突き止めた。 この型の場合、血管をつまらせる血栓を作りやすくなるという。

また、「ILF3」遺伝子の塩基配列の特定部分が A から G に置き換わっている場合も発症率を約 1.4 倍に高めていたことがわかった。 山田教授は「今後は欧米人を対象に調べ、一人一人に適した予防や治療法の開発につなげたい」と話している。 (高山裕喜、asahi = 12-21-10)


風邪薬飲んだら … 半日後も眠る脳 東北大が初の実証実験

市販の風邪薬や花粉症の薬などに入っている眠くなる成分(抗ヒスタミン薬)は、服用後 12 時間たっても脳の中から抜けきらず、強い眠気や判断力低下を招く状態だったという実験結果を東北大チームが発表した。 経験的に知られる「薬の二日酔い」を世界で初めて実証したという。 チームは「車の運転や受験を控えた夜の服用にはやはり注意が必要だ」と呼びかけている。

東北大医学系研究科の谷内一彦教授(機能薬理学)らの研究。抗ヒスタミン薬のうち眠くなるタイプと眠くならないタイプとを 8 人の被験者に飲んでもらい、12 時間後の脳内の残存量を同大の PET (ポジトロン断層)装置で比較した。

この薬は本来はヒスタミンと結合する部分(受容体)をふさいで邪魔をする。 服用直後は受容体の 60 - 80% が占拠され、眠くならないタイプは 12 時間たつと占拠率が 15% に減った。 しかし眠くなるタイプは 50% も残っており、強い眠気と脳の機能障害が起きるレベルだった。 (斎藤義浩、asahi = 12-18-10)


生産能力 10 倍 「石油」つくる藻類、日本で有望株発見

藻類に「石油」を作らせる研究で、筑波大のチームが従来より 10 倍以上も油の生産能力が高いタイプを沖縄の海で発見した。 チームは工業利用に向けて特許を申請している。 将来は燃料油としての利用が期待され、資源小国の日本にとって朗報となりそうだ。 茨城県で開かれた国際会議で 14 日に発表した。

筑波大の渡邉信教授、彼谷邦光特任教授らの研究チーム。 海水や泥の中などにすむ「オーランチオキトリウム」という単細胞の藻類に注目し、東京湾やベトナムの海などで計 150 株を採った。 これらの性質を調べたところ、沖縄の海で採れた株が極めて高い油の生産能力を持つことが分かった。

球形で直径は 5 - 15 マイクロメートル(マイクロは 100 万分の 1)。 水中の有機物をもとに、化石燃料の重油に相当する炭化水素を作り、細胞内にため込む性質がある。 同じ温度条件で培養すると、これまで有望だとされていた藻類のボトリオコッカスに比べて、10 - 12 倍の量の炭化水素を作ることが分かった。

研究チームの試算では、深さ 1 メートルのプールで培養すれば面積 1 ヘクタールあたり年間約 1 万トン作り出せる。 「国内の耕作放棄地などを利用して生産施設を約 2 万ヘクタールにすれば、日本の石油輸入量に匹敵する生産量になる」としている。

炭化水素をつくる藻類は複数の種類が知られているが生産効率の低さが課題だった。 渡邉教授は「大規模なプラントで大量培養すれば、自動車の燃料用に 1 リットル 50 円以下で供給できるようになるだろう」と話している。 また、この藻類は水中の有機物を吸収して増殖するため、生活排水などを浄化しながら油を生産するプラントをつくる一石二鳥の構想もある。 (山本智之、asahi = 12-15-10)


ヒト iPS 細胞移植、脊髄損傷のサル歩いた 慶応大発表

ヒトの iPS (人工多能性幹)細胞から作った細胞を、脊髄損傷で手足がまひしたサルに移植して、歩けるようになるまで回復させることに慶応大などのグループが成功した。 7 日、神戸市で開かれた日本分子生物学会で発表した。

慶応大の岡野栄之教授らのグループは、京都大が作ったヒトの iPS 細胞から神経細胞のもとになる細胞を作製。 サルの仲間のマーモセットに、脊髄損傷から 9 日目に移植した。 移植を受けないと手足がまひして起きあがれず、握力も弱いが、移植を受けたマーモセットは、6 週間後に自由に歩き回れるまで回復。 握力も改善した。

経過をみた 84 日まで、がんはできなかった。 移植した細胞がうまく働かなくなる拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤を使った。 今回は、レトロウイルスを使って作製した iPS 細胞を用いているので、移植した細胞が、がんを引き起こす恐れが残っている。 岡野教授は、レトロウイルスを使わずに作製した iPS 細胞で同様の実験を行い、人の治療に応用する準備を進めていくという。 (瀬川茂子、asahi = 12-7-10)


ヒ素食べる細菌、NASA など発見 生物の「常識」覆す

猛毒のヒ素を「食べる」細菌を、米航空宇宙局 (NASA) などの研究グループが見つけた。 生物が生命を維持して増えるために、炭素や水素、窒素、酸素、リン、硫黄の「6 元素」が欠かせないが、この細菌はリンの代わりにヒ素を DNA の中に取り込んでいた。 これまでの「生物学の常識」を覆す発見といえそうだ。

今回の発見では、NASA が記者会見「宇宙生物学上の発見」を設定したため、「地球外生命体発見か」と、CNN など国内外の主要メディアがニュースやワイドショーで取り上げるなど「宇宙人騒動」が起きていた。

この細菌「GFAJ-1」株は、天然のヒ素を多く含む米カリフォルニア州の塩湖「モノ湖」の堆積(たいせき)物から見つかった。 研究室で培養して調べたところ、リンの代わりにヒ素を代謝に使い、増殖していた。 リンは、炭素などほかの 5 元素とともに、生命体が核酸(DNA やリボ核酸)やたんぱく質などを作るのに必要な元素だ。 ヒ素とリンは化学的な性質が似ている。

これまで、永久凍土や深海の熱水の中など「極限環境」で生きる微生物は複数見つかっているが、こうした性質はもっていなかった。 地下水や土壌のヒ素汚染に苦しむ地域において、汚染環境の浄化に応用できる可能性も秘めているという。 この発見は、生命が環境に応じて柔軟に対応できることを示しており、地球外生命体探しでの「生命に必須な水を探す」といった「常識」も覆される可能性がありそうだ。

金沢大の牧輝弥准教授(微生物生態学)は「これまでは生物が利用できないと考えられていた物質の満ちた環境でも、微生物が増殖し生存する可能性が出てきた。 この細菌の発見で生物細胞を構成する『六つの元素』の概念が変わり、生物細胞内での新たな代謝の仕組みが提唱されるかもしれない。」としている。 研究成果は 2 日付の米科学誌サイエンス電子版で発表される。(松尾一郎、勝田敏彦 = ストックホルム、asahi = 12-3-10)


インフル薬市場、競争過熱 日本勢参入し海外薬に対抗

インフルエンザの本格的な流行期を前に、治療薬を巡る製薬各社の販売競争が過熱している。 タミフルやリレンザなど輸入薬が主流だった国内市場に今年、塩野義製薬と第一三共の日本勢が参入したためだ。 4 社の競合で、全体の供給計画は最大で 2,700 万人分を超える規模まで拡大。 業界では供給過剰を懸念する声も出始めている。

「小児科医や内科医に第一に選ばれる治療薬を目指す。」 第一三共の木伏良一・常務執行役員は 25 日の会見で、10 月から販売を始めたインフルエンザ治療薬「イナビル」にかける意気込みを強調した。 原料調達から製造・販売までを自前で行う「純国産」の治療薬は、日本で初めてだ。 リレンザやタミフルは 1 日 2 回、ともに 5 日間服用する必要がある。 一方、イナビルは専用の器具で 1 日 1 回、粉末を吸い込むだけで効果が長持ちする。

第一三共は今季、約 2,400 人の専門職を投入し、病院になじみの薄いイナビルの売り込み攻勢をかける。 来年 3 月末までに最大 400 万人分を供給できる生産計画をたてており、初年度だけで 64 億円の売り上げを見込む。 また、豪州の製薬メーカー・バイオタとも提携、世界市場にも乗り出す計画だ。

塩野義製薬が今年 1 月から販売している「ラピアクタ」は、有効成分を輸入し、国内で薬として製造している。 注射や点滴に使う薬で、10 月からは子どもにも使えるようになった。 担当者は「飲み薬や吸入薬が使いにくい重症患者や高齢者も使いやすいのが特徴。 医師が管理するので飲み忘れもない。」と話す。

各社が国産にこだわるのは、昨年の新型インフルエンザの大流行で治療薬が不足した苦い経験がある。 国産であれば、製薬会社は大流行で急な増産が必要になった場合でも素早く対応できる。 国内では中堅メーカーの富山化学工業も国産薬の開発中だ。 ただ、相次ぐ参入で、今季の 4 社の供給量は最大 2,730 万人分に達している。 今季のインフルエンザの流行が小規模に終われば、供給過剰となり、各社の在庫が積み上がる恐れもある。 (杉本崇、福山崇、asahi = 11-27-10)


ノロウイルス、流行本格化 消毒・手洗い、徹底を

下痢や嘔吐(おうと)、腹痛などの症状が出る感染性胃腸炎の流行が本格化している。 大半が、冬場に猛威をふるうノロウイルスによるものと見られる。 国立感染症研究所は、予防のため手洗いを励行し、感染拡大防止のため感染者が吐いた物を適切に処理するよう、注意を呼びかけている。

感染研によると、全国 3 千の小児科の定点医療機関を最近の 1 週間(11 月 8 - 14 日)に受診した患者は 1 医療機関あたり 7.70 人で、4 週連続で増えた。 都道府県別では、多い順に大分 (30.22)、山形 (22.97)、新潟 (19.51)、山口 (17.51) と続く。 例年は 12 月中旬にピークを迎えるが、今季はやや立ち上がりが早い。

保育園や小学校などでの集団発生が目立つ。 患者やウイルスを持つ人との接触が主な感染経路だ。 吐いた物や下痢の処理が不十分でウイルスが床や壁に残り、掃除などで舞い上がって口などから入ることもあるという。 感染研感染症情報センターの安井良則主任研究官は、マスクや厚手の手袋をして、タオルなどでしっかりふき取り、薄めた塩素系漂白剤で広範囲を消毒するように指導している。 流水やせっけんでの手洗いも徹底するよう求めている。 (熊井洋美、asahi = 11-26-10)


アルツハイマー治療薬、2 種類目を承認へ 厚労省審議会

厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は 24 日、アルツハイマー型認知症の進行を抑えるヤンセンファーマの「ガランタミン(商品名・レミニール)」について、「承認して差しつかえない」との結論をまとめた。 上部組織の薬事分科会への報告を経て、最終的に承認される見込み。

国内で承認されているアルツハイマー型認知症治療薬は「アリセプト」しかないため、海外ではすでに承認されていて実績のあるガランタミンなどについて関連の学会が早期承認を求めていた。 アリセプトやガランタミンとは別の作用がある第一三共の「メマンチン(商品名・メマリー)」についても、次回分科会で議論することになった。 (月舘彩子、asahi = 11-25-10)


ES 細胞使う 2 例目の治験 米ベンチャー、目の病気に

【ワシントン = 勝田敏彦】 米バイオベンチャーのアドバンスト・セル・テクノロジー(ACT、カリフォルニア州)は 22 日、ヒト胚(はい)性幹細胞(ES 細胞)を使い、若年者の失明につながる目の病気「黄斑変性」の臨床試験(治験)の承認を米食品医薬品局 (FDA) から受けた、と発表した。

この病気は、目の網膜色素上皮 (RPE) 細胞が死ぬことで起きるが、有効な治療法は見つかっていない。 ACT によると、放置しておくと失明するネズミにこの治療をしたところ、視力が大幅に改善し、副作用もなかったという。 治験では ES 細胞から育てた RPE を 12 人の患者の網膜に移植して安全性や耐久性を調べる。 今回の治験がうまくいけば、高齢者の失明の大きな原因になっている別の型の黄斑変性に応用することも視野に入れている。

ヒト ES 細胞を使う再生医療の治験は、米ジェロン社が 10 月、脊髄(せきずい)損傷の患者を対象に始めたものに続き 2 例目。 (asahi = 11-24-10)


乳がん、きれいなまま治せる医師養成 25 日に学会設立

「きちんと取って、きれいに治す」を合言葉に、乳がん手術に携わる医師らが術後の乳房の形も考えて治療を行う学会を立ち上げ、25 日に設立総会を開く。 生涯で日本人女性の 16 人に 1 人が乳がんになり、半数以上が乳房を残す手術を選ぶが、変形や傷跡に悩む人も多い。 女性の乳房へのこだわりを理解し、きれいに治せる医師を養成していく。

乳がんになるのは年間約 5 万人。 40 代後半が最もなりやすく、この 20 年で倍増している。 早期発見や腫瘍の場所により「乳房温存療法」が可能だ。 温存を選ぶ人は現在、全手術の約 6 割を占める。 しかし、一般的に日本人の乳房は小さく、数センチ切っただけでも変形しやすい。 術後にショックを受ける例も多い。 学会は乳腺外科医や形成外科医らが設立。 日本乳癌学会前理事長の園尾博司・川崎医科大教授が理事長を務める。

傷跡が目立たず、変形しにくい温存手術法の研究や、身体的負担が少ない手術と乳房再建の同時手術の普及を進める。 将来的には認定医制度も検討しており、各地の乳腺外科への配置を目指す。 発起人の一人、ナグモクリニックの南雲吉則院長は「乳房を失いたくないと手術を拒否し、亡くなる患者もいる。 乳房は美しく生きるには必要不可欠で、その思いに応える医師を養成したい」と話している。 (岡崎明子、asahi = 11-21-10)


カラオケ、認知症に効くかな? 患者歌って三重大が研究

カラオケで歌うと、認知症に効果はあるのか - -。 こんな研究を、三重大学大学院医学系研究科の冨本秀和教授(神経内科)らが 12 月、通信カラオケ事業を手がけるエクシング社(本社・名古屋市)、ブラザー工業(同)と共同で始める。 軽度の認知症の患者に病院や自宅で歌ってもらい、前後で脳の働きに変化が生じるかを調べる。

国内には現在、約 200 万人の認知症患者がいるとされるが、治療は薬によるものが中心。 高齢化による患者数の増加が見込まれる中、「音楽療法」も効果が期待されて取り入れる動きもあり、こうした薬以外の治療法を医学的に確立することが期待されている。

研究では、軽度の患者 15 人を対象に、まず機能的磁気共鳴断層撮影 (fMRI) などの装置を使って脳の活動をみる。 その上で、同大医学部付属病院(津市)に設けたカラオケ室で週 1 回、「夕焼け小焼け」や「ふるさと」など、なじみのある曲を練習。 独自の「音痴矯正法」を開発した同大教育学部の弓場徹教授(発声学)が歌い方を指導する。

さらに、自宅でもカラオケ CD などを使って週 3 回歌ってもらい、半年後に再び検査をする。 カラオケで定期的に歌わなかった患者 15 人と比べて、症状の進行が抑えられていることが見込まれている。 対象となるのは、付属病院に通院でき、日常の状態がわかる人が近くにいる患者。 現在、同大の認知症医療学講座で参加者を募集している。 冨本教授は「認知症と音楽のかかわりについて科学的なデータを集めたい」と話している。 (高山裕喜、asahi = 11-18-10)


ペット犬も新型インフル 家庭内で人から感染? 国内初

昨季流行した新型の豚インフルエンザに、ペットの犬も感染していたことが、東大農学部の堀本泰介准教授らの調査でわかった。 8 日に徳島市で開かれた日本ウイルス学会学術集会で発表した。 新型インフルによる犬の感染例は米国や中国で確認されていたが、国内は初めてという。

山口大学(山口県)と麻布大学(神奈川県)の協力を得た。 昨年 4 月から今年 7 月、両大学の付属の動物病院を骨折などで受診した犬計 366 匹の血液を調べたところ、14 匹が新型インフルに感染していたことが認められた。 トイプードルやミニチュアダックスフント、チワワなど小型犬が多かった。 詳細な犬の症状や受診時に飼い主がインフルエンザにかかっていたかどうかは不明だが、家庭内で人から感染したのではないかとみられている。 犬から人に感染する恐れは少ないという。

堀本准教授は「発症しても自然に治ったか、感染はしたが発症しなかったとみられる。 神経質になる必要はないが、インフルに感染している人は飼い犬と濃厚な接触は避けた方がいい。」という。 (熊井洋美、asahi = 11-8-10)


認知症治療薬、一つのまま 8 年ぶりガイドライン改定

日本神経学会など 6 学会が「認知症疾患治療ガイドライン」をまとめた。 2002 年以来の改定だが、アルツハイマー型認知症に使える薬は従来と同じ一つだけで、薬以外の対応策の情報を充実させた。 海外ではほかに三つの薬が広く使われている。 日本は薬の導入体制が遅れているという問題も改めて浮き彫りにした。

認知症患者は全国に約 220 万人。 25 年後には 330 万人を超えると推計される。 国内でアルツハイマー型認知症の薬として承認されているのは 1999 年発売の「アリセプト」しかない。 海外ではアリセプトと同様に脳内の神経に情報を伝える物質の分解を抑える「ガランタミン」と「リバスチグミン」、脳の神経細胞が壊れるのを防ぐ働きのある「メマンチン」が使われている。

日本でもようやく今年、この 3 薬について薬事法にもとづく製造販売の承認申請がされた。 審査は 1 年ほどはかかるため、指針は認知症の早期診断や予防法など薬以外の対応を幅広く採り上げた。 3 薬は有効性を示す科学的な裏付けがあるとし「本邦未発売」とただし書きで紹介した。 指針作成の責任者、中島健二鳥取大教授(脳神経内科学)は「限られた治療法の中で最善の治療をするための指針として医療現場で活用してほしい」と話している。 (岡崎明子、asahi = 11-4-10)