これ以上働いたら壊れちゃう サービス残業の末の過労死

「これ以上働いたら壊れちゃう - -。」 42 歳で過労死した食品スーパーの男性社員は、亡くなる 1 カ月ほど前、友人宛てのメールにそう書いた。 背景にあったのは、出退勤記録に残らない「サービス残業」。 労働時間が正しく把握されなければ、働き手の命や健康を守ることはできない。 2014 年 5 月 17 日、首都圏地盤の食品スーパー、いなげや(本社・東京都立川市)の男性社員は友人あてのメールにこう書いた。

〈これ以上働いたら本当に壊れちゃうよ。〉

その 8 日後、男性は勤務中に言葉が出づらくなり、救急車で搬送されて入院。 いったん退院して仕事に復帰したが、翌月 5 日の夜、こんどは勤務が終わった直後に勤務先の店の駐車場で倒れているのを発見された。 脳梗塞(こうそく)で 21 日に息を引き取った。 42 歳だった。 大学を卒業し、新卒でいなげやに入社。 亡くなった当時、埼玉県志木市の志木柏町店に勤務し、一般食品売り場のチーフとして商品の発注や在庫管理を担当していた。

年末年始などに神奈川県の実家に帰省した際、「疲れた」とよく口にするのを父親 (77) は聞いていた。 「息子が倒れてすぐに、過労死だと直感しました。」 2 年後の 16 年 6 月、長時間労働による過労などが原因で死亡したとして、さいたま労働基準監督署が労災と認定した。 遺族の労災請求の代理人を務めた嶋崎量(ちから)弁護士によると、同店の従業員は IC カードを機械に通し、出退勤時間をコンピューターのシステムに入力していた。

システムに残る男性の出退勤記録を調べても、残業時間は月 80 時間の「過労死ライン」を大幅に下回っていた。 それでも、労災が認められたのはなぜか。 嶋崎氏は「毎月、記録に残らないサービス残業をかなりしていたからだ」と話す。 そう言える根拠は、店が保存していた「退店チェックリスト」にあった。 最後に店を出る従業員がエアコンや照明の消し忘れを防ぐために記入する用紙だ。 会社から入手すると、署名欄に男性の名前が何度も出てきた。 嶋崎氏は、退店時に店の警備機器を作動させた時刻を調べれば、男性が何時まで働いていたかを示す「証拠」になると考えた。

警備機器の記録とシステムの入力時間は大きく食い違っていた。 たとえば、亡くなる前月の 5 月 4 日。 システム上の退勤時刻は「21 時 18 分」だが、チェックリストに男性の名前があり、警備機器が作動したのは「26 時 1 分」。 こうしたズレを合計すると、5 月の残業はシステムの記録より約 20 時間も長くなった。 始業前に働く「早出」をしていた形跡もあったという。

同労基署もこうした実態を考慮。 警備記録を参照し、発症前の 4 カ月の平均で 75 時間 53 分、1 カ月あたりの最大で 96 時間 35 分の時間外労働があったと認定した。 いずれも政府が導入を目指す残業時間の上限規制の範囲内。 「過労死ライン」も下回るが、ほかにも具体的に時間数を特定できない早出・残業があったと推定し、労災を認めた。

いなげやでは 03 年にも都内の店に勤めていた 20 代の男性社員が自殺。 東京地裁での裁判の末、長時間労働などを原因とする労災と認められた。 判決によると、残業が 90 時間超の月が 2 カ月あった。 「同じ悲劇を何度も繰り返すつもりなのか。」 14 年に亡くなった男性の父は、サービス残業の実態調査や労働時間管理の徹底を会社に求めている。 いなげやの広報担当者は「労災認定の詳細を把握しておらず、コメントは控える。 ご遺族からお話を伺った上でしっかりと対応したい、」としている。 (牧内昇平、asahi = 6-11-17)


教員悲鳴「休みがない」 中学の 6 割「過労死ライン」超

教員の長時間勤務の悪化ぶりが、文部科学省の調査で明らかになった。 28 日に公表された勤務実態調査では 10 年前から労働時間がさらに増え、小学校教諭の約 3 割、中学校教諭の約 6 割が「過労死ライン」に達していた。 文科省は「看過できない事態」と言うものの、改善に向けた道筋は見えない。 その間も、現場からは悲鳴が上がる。

神奈川県内の小学校の男性教諭 (36) の出勤は毎朝 7 時半ごろ。 陸上クラブの朝練習の指導に始まり、授業や職員会議、行事の準備、事務作業 - -。 息つく間もなく仕事が続き、帰りは午後 9 時ごろだ。 忙しい時は午後 11 時になることもある。 「今の働き方を定年まで続けるのは厳しい。 社会の変化に対応するために仕事が増えるのは仕方ないが、教員の数はそう増えておらず、負担が重くなっている。」とため息をつく。

どんな仕事が増えたか。 ▽ 学力、安全対策などの調査への回答、▽ 授業増加に備えた研修、▽ トラブル対応のための会議 - - など様々だ。 「かつて子どもや保護者が自ら解決できていたトラブルに、学校が介入を求められている」と感じる。 「脱ゆとり」を目指した 2008 年の学習指導要領改訂で授業時間は増加。 最近は、グループ活動や討論を取り入れた学習方法の導入も求められ、入念な準備が必要だ。

今回の調査では、公立小中学校の教諭の勤務時間が 10 年前と比べ 1 日あたり 30 - 40 分増え、11 時間以上働いている実態が明らかになった。 労災認定基準で使われる時間外労働の「過労死ライン」は 1 カ月 100 時間または 2 - 6 カ月の月平均 80 時間。 教諭に当てはめると、小学校の 17% と中学校の 41% が 100 時間、小学校の 34% と中学校の 58% が 80 時間の基準以上だ。

中学校では土日の部活動の指導時間が 1 日当たり 130 分で、10 年前から倍増した。 「部活があって今月は土曜日と日曜日に休みがなかった。」 神奈川県の公立中学校でバレーボール部の顧問をする教諭の男性 (36) は打ち明ける。 平日は 2 年生の担任と顧問の二役。 土日は練習試合や公式戦があり、半日か丸一日、働くことも多い。 「教師になって 13 年目。 こんな生活がずっと続いている。」と話す。

仕事の見直しを進める現場もある。 静岡県富士市の富士見台小学校は 4 月から水曜日の午後の授業を 1 コマ削った。 その分、朝に 15 分の基礎学習の時間が週に 3 - 4 回あり、教員の勤務時間が単純に減るわけではない。 それでも、「教材研究や子どもの提出物をじっくり確認するまとまった時間を確保したかった」と内田新吾校長は語る。

校内の花壇や庭木、畑の手入れも約 70 人の住民ボランティアに手伝ってもらい、教員の負担軽減を図っている。 内田校長は「最も大事なのは子どもと過ごす時間を確保し、充実させること。 学校行事も、前例踏襲を当たり前とせずに見直していく。」と話す。 (前田育穂、土居新平)

授業時間増える

看過できない深刻な事態が、客観的なエビデンス(証拠)として裏付けられた。」 松野博一文科相は調査結果を受けてこのように語り、長時間労働の改善策を中央教育審議会で検討してもらう考えを述べた。 文科省はこれまでも教職員定数の確保を求めてきたが、そのたびに財務省や経済財政諮問会議から「科学的根拠」を要求されてきた。 10 年ぶりの調査に踏み切ったのは、反論の材料を得る意味があった。

しかし、この間にも学校現場の負担は強まっている。 06 年度の調査と比べて勤務時間が増えた大きな理由は、授業時間の増加。 「学力向上」をうたって文科省が進めた学習指導要領の改訂が直接影響した形だ。 学校では発達障害などのため、丁寧な対応が必要な子どもや、日本語指導が必要な子どもも増えている。 ある文科省幹部は勤務時間の増加について「予想以上のひどさだった」と打ち明けた。

疲弊する現場を手当てするため、文科省は、@ 教職員の確保、A 仕事内容の見直し - - の両方を進めたい方針だ。 調査では学校での ICT (情報通信技術)の活用状況や教員のストレスについても尋ねており、今年度中に公表する。 ただ、今回得た「エビデンス」を元に財務当局を説得し、抜本的な改善が実現できるかは、まだ未知数だ。(根岸拓朗、asahi = 4-29-17)

〈勤務実態調査の手法〉 昨年 10 - 11 月の連続する 7 日間の勤務状況について校長、副校長、教諭、講師らフルタイムで働く教員に調査票に記入してもらう形式で実施。 全国から抽出した公立小中各 400 校のうち、小学校は 397 校の 8,951 人、中学校は 399 校の 1 万 687 人が回答した。 文部科学省による同様の調査は 40 年ぶりの実施だった 06 年度以来、10 年ぶり。

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公立小中の教員、平均 11 時間超勤務 30 - 40 分増

公立小中学校の教員の勤務時間が 10 年前と比べて増えたことが 28 日、文部科学省の調査で分かった。 授業の増加が主な理由とみられ、教諭の場合は 1 日あたり 30 - 40 分増え、11 時間以上働いている。 教育現場が深刻な長時間労働に支えられている実態が、改めて裏付けられた。

調査は昨年 10 - 11 月、全国の小中学校 400 校ずつを抽出し、校長や副校長、教諭や講師らフルタイムで働く教員を対象に実施された。 小学校は 8,951 人、中学校は 1 万 687 人が答えた。 その結果によると、小学校教諭は平均で平日 1 日あたり 11 時間 15 分(2006 年度比 43 分増)、中学校教諭は同 11 時間 32 分(同 32 分増)働いていた。

労災認定基準で使われる時間外労働の「過労死ライン」は、1 カ月 100 時間または 2 - 6 カ月の月平均 80 時間とされている。 今回の結果をあてはめると、小学校教諭の約 2 割と中学校教諭の約 4 割が 100 時間、小学校の約 3 割と中学校の約 6 割が 80 時間の基準に触れている。

文科省は「脱ゆとり」にかじを切った 08 年の学習指導要領改訂で、小中学校の授業時間を増やした。 今回の調査と 06 年度を比較すると、授業と準備時間の合計は小学校教諭で 1 日あたり 35 分、中学校教諭で 30 分増えており、授業の増加が反映された形だ。 その一方、成績処理や学級経営などの時間は減っておらず、結果的に総時間が膨らんでいる。 (根岸拓朗、asahi = 4-28-17)

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部活に休日、愛知が義務化 中学は週 2 日 高校は週 1 日

教員の忙しさを解消しようと業務の見直しを進めている愛知県教育委員会は 27 日、公立の中学・高校での部活動の休養日について基準を決めた。 4 月から、中学校は平日を含めた週 2 日、高校は週 1 日(土日のいずれか)の休みを「必須」とし、事実上義務化した。 県教委がまとめた「教員の多忙化解消プラン」によると、大会参加などで土日に部活動をする場合、学校側には代替休養日を確保することも求めている。

県教委は 2017 年度に部活動指導の実態を調べ、18 年度に「部活動指導ガイドライン」を策定。 その後も休養日の基準については見直しを検討するという。 県教委が公立小中学校・高校・特別支援学校の教員を対象とした 15 年度の調査では、1 カ月の残業が 80 時間を超えた教員の割合は中学校が 4 割近くで最も多く、100 時間超も 2 割を占めた。 多くは部活動の顧問をしていた。 また、県立の高校と特別支援学校では、月 80 時間以上の残業をした教員の従事時間の内訳をみると、4 割以上が部活動を指導していた。 (小若理恵、asahi = 3-27-17)


残業の上限規制に「抜け穴」 「休日労働」は含まれず

政府が導入を目指す「残業時間の上限規制」で、「720 時間(月平均 60 時間)」と定めた年間の上限に「抜け穴」があることがわかった。 休日に出勤して働く時間が上限の範囲外とされていて、「休日労働」の時間を合わせれば、年に 960 時間まで働かせられる制度設計になっていた。 残業時間の上限規制は、安倍政権が進める働き方改革の最重要テーマ。 「過労死ゼロ」を目指して労働基準法に上限を明記し、「抜け穴」をつぶすことが改革の狙いだが、「休日労働」が年間の上限の例外になっていることで、規制の実効性に対する信頼は揺らぎかねない。

労基法は原則として週 1 日の休日を義務づけている。 政府と経団連、連合が合意して 17 日の働き方改革実現会議で提案された新たな規制案では、この「法定休日(ふつうは日曜)」を除く日の時間外労働(残業)だけが上限の範囲とされている。 法定休日に出勤して働いた時間とあわせれば、過労死ラインぎりぎりの「月 80 時間」の時間外労働を 12 カ月続けることが可能な制度設計になっている。

政府の担当者は「年 720 時間の上限に、休日労働を上乗せすることは理論上可能」と認めた。 一方、休日労働をさせるには労使協定を結び、35% 以上の割増賃金を支払う必要があるため、「実態として(企業には)できない」と説明する。 だが、労働問題に詳しい菅俊治弁護士は「休日労働について議論がされておらず、真の意味での上限規制になっていない」と指摘する。(編集委員・沢路毅彦、千葉卓朗、asahi = 3-18-17)

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残業上限「月 100 時間未満」 首相が「裁定」

政府が導入をめざす「残業時間の上限規制」をめぐり、安倍晋三首相は 13 日、経団連の榊原定征(さだゆき)会長、連合の神津里季生(りきお)会長と首相官邸で会談し、焦点だった「きわめて忙しい 1 カ月」の上限を「100 時間未満」とするよう要請した。 経団連は「100 時間」、連合は「100 時間未満」を主張して譲らずに対立が続いていたが、首相が連合の案に軍配を上げた形。 経団連は首相の「裁定」を受け入れ、上限規制は決着する見通しだ。

繁忙期の残業時間の上限をめぐっては連合側が、過労死ラインの月 100 時間まで残業を合法化するのは「到底ありえない(神津氏)」と批判。 労使合意が規制導入の前提だとして、安倍首相が労使双方に協議を促していた。 榊原氏と神津氏は会談に先立ち、繁忙期の上限について「100 時間を基準値とする」とする合意文書を作成した。 しかし、労使間の対立は解けず、この文書では「100 時間未満」の表現は使っていなかった。

安倍首相はこの日の会談で、労使トップに対し、「ぜひ 100 時間未満とする方向で検討いただきたい」と要請。 神津氏と榊原氏は会談後、記者団に対し、首相の意向を踏まえて対応を検討する、とそろって表明した。 首相が裁定に乗り出した背景には、「過労死ラインまで働かせていいと法律で容認している」との世論の批判を避ける狙いがあるとみられる。

17 日に開く政府の働き方改革実現会議(議長・安倍首相)で、労使の合意に基づく繁忙期の残業上限を含む規制案が示され、今月末にまとめる実行計画に盛り込まれる予定だ。 政府は今秋にも、実行計画の内容を反映した、罰則付きの残業上限規制を定める労働基準法改正案を国会に提出する。 事実上青天井になっている残業時間の上限に、初めて法的な強制力がある規制が設けられることになる。

残業規制については、労使合意による協定(36 協定)を結ぶことを前提に、「月 45 時間、年 360 時間」を「原則的上限」に設定。 繁忙期などの特例として、▽ 年間の上限を「720 時間(月平均 60 時間)」にする、▽ 月 45 時間を超えられるのは 6 カ月まで、▽ とくに忙しい時期の上限は「2 - 6 カ月の平均でいずれも月 80 時間」を上限にする - - ことも固まった。

上限規制について明記した改正法の施行から 5 年が過ぎた後に、▽ 必要な見直しを検討する、▽ 終業と始業の間に一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」について、事業主に導入の努力義務を課すことを法律に盛り込む、▽ 職場でのパワーハラスメント防止に向け、労使を交えた検討の場を設置する、▽ メンタルヘルス対策に関する新たな数値目標をつくる - - ことも固まった。(千葉卓朗、高橋健次郎、asahi = 3-13-17)

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繁忙期の残業時間、上限は 労使で隔たり、見えぬ着地点

安倍政権が進める働き方改革の最重要テーマである残業時間の上限規制について、政府は 14 日、たたき台となる「事務局案」を示した。 年間の上限を「720 時間(月平均 60 時間)」にすると明記したが、忙しい時期に 1 カ月あたりの残業をどこまで認めるかについては労使の考え方に隔たりが大きく、上限の数字は示せなかった。 議論の着地点はまだ見えない。

この日の働き方改革実現会議(議長・安倍晋三首相)で、事務局案をもとに労使の代表らが月あたりの上限についても議論したが、溝は埋まらなかった。 政府は働き方改革の実行計画を 3 月末にまとめる予定だが、上限規制を計画にどう盛り込むかは不透明だ。 「労使が合意を形成していただかなければ、(上限規制の)法案は出せない。 実行計画決定まであとひと月強。 胸襟を開いての責任ある議論を、労使双方にお願いしたい。」 安倍首相は会議の終盤で、語気を強めて異例の注文をつけた。

「首相の発言はしっかり受け止めていくべきだ。 合意形成に努めていきたい。(連合の神津里季生会長)」 「首相の意向も踏まえて協議する必要がある。(経団連の榊原定征会長)」 会議後、労使の代表はともに歩み寄りの必要性を示したが、短期間で隔たりを埋める道筋は見通せない。 (千葉卓朗、高橋健次郎、贄川俊、asahi = 2-15-17)

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残業、月 60 時間上限、繁忙期は最大 100 時間 最終調整

政府が長時間労働の是正などを目指す働き方改革で、新たに導入する残業時間の上限規制について、年間で月平均 60 時間(年間計 720 時間)、繁忙期は最大で月 100 時間まで認める方向で最終調整に入ったことが、関係者への取材で分かった。 2 カ月連続で長時間働く場合は、平均 80 時間までとする。 3 月までにまとめる働き方改革の実行計画に盛り込み、労働基準法改正案を年内に国会に提出する方針だが、「過労死ライン」ぎりぎりまで残業を認める案を巡り野党から反発が出そうだ。

労基法が定める法定の労働時間は、1 日 8 時間、週 40 時間だが、同法 36 条に基づく労使協定(36 協定)を結ぶと月 45 時間、年間 360 時間まで残業が可能になる。 さらに、特別条項を付ければ最大半年(年 6 回)まで無制限で残業させることが可能になることから、「残業時間が実質は青天井」との批判が上がっていた。

政府は、過労死ラインの基準である「1 カ月 100 時間超の残業」または「2 - 6 カ月平均で月 80 時間超の残業」を踏まえ、特別条項について年間 720 時間、月最大で 100 時間の上限を設ける方向だ。 一部の職種については上限規制の適用対象外とし、厳罰化は見送る方針。 政府内では一時、月 100 時間ではなく 80 時間を上限とする案も浮上したが、特定の期間に仕事が集中する企業もあることから、経営実態に配慮した。【阿部亮介、mainichi = 1-28-17】

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法規制改正し「総労働時間に枠を」 厚労省検討会が提案

時間外労働の規制について議論してきた厚生労働省の有識者検討会(座長 = 今野浩一郎・学習院大教授)は 23 日、論点整理案をまとめた。 現行の法規制を改正して「総労働時間の枠」を定めることなどを提案しており、2 月 1 日に開催予定の働き方改革実現会議で報告される。 今の労働基準法では、労使の合意による協定(36 協定)で残業時間の上限を事実上青天井に設定できる。 論点整理案は「長時間労働の歯止めとして協定が十分機能していない」と指摘。 「総労働時間の枠を定め、健康を確保しつつ効率的に働くことを可能とする制度への転換を指向すべきだ」とした。

ただ、経済界などに「繁忙期に配慮してほしい」との声があることを踏まえ、論点整理案は「1 日」、「1 週」といった短期間で上限を設ける規制には「留意が必要」とした。 退社から出社まで一定の休息を確保する「インターバル規制」については、「企業自らが導入することを促していくべきだ」との表現にとどめた。 (千葉卓朗、asahi = 1-23-17)


月 200 時間超の残業 関西電力病院に労基署が是正勧告

関西電力は 23 日、運営する関西電力病院(大阪市)の従業員に労働組合との間で定めた上限時間を超える残業をさせたとして、大阪労働局西野田労働基準監督署から是正勧告を受けたと発表した。 労働時間の正確な把握や再発防止策を報告するよう指導も受けた。 関電によると、関電病院の従業員 2 人について、例外的な残業の上限と定めた月 200 時間を超えて働かせていたという。 月 200 時間の残業の協定は、救急医療や重病者の介助など長時間勤務になる場合の特例として労使で結んでいる。

関電では、高浜原発 1、2 号機(福井県高浜町)の運転延長の手続きを担当していた社員が過労自殺し、労基署から指導を受けた。 本店(大阪市)でも社員の残業の割増賃金の不払いで是正勧告を受けた。 これを受けて関電は 2 月以降、原則として残業を月 80 時間以下にすることを決めたうえ、働き方の見直しや休みをとりやすくする対策を検討している。 (asahi = 2-23-17)


パナソニック、午後 8 時までの退社指示 10 万人対象

パナソニックは、従業員が仕事を午後 8 時までに終えて退社するよう、国内の全グループ従業員約 10 万人に指示した。 仕事の効率を上げ、長時間労働を減らす意識を従業員に改めて持ってもらう狙いだという。 津賀一宏社長が 1 月 31 日付の従業員向け文書で指示した。 午後 8 時までの退社に加え、月 80 時間を超える時間外労働をなくすことも求めている。 対象には、部課長ら管理職も含む。

パナソニックの就業規則では 1 日の所定労働時間は 7 時間 45 分だが、始業時間は部署で異なる。 3 交代勤務で深夜も稼働する工場や時差のある海外の取引先がある部署などもあり、「午後 8 時まで」はあくまで原則だ。 勤務時間を柔軟に変えられるフレックスタイム制や在宅勤務の活用、有給休暇の消化なども呼びかけたという。 パナソニックは旧松下電器産業時代の 1965 年、大手企業でいち早く完全週休 2 日制を導入したことで知られる。 長時間労働を減らす取り組みは今後も続けるという。 (新田哲史、asahi = 2-2-17)


日本電産、残業ゼロへ 1,000 億円投資 工場自動化や人材育成

日本電産は 2020 年までに 1,000 億円を投資して、同年に国内従業員約 1 万人の残業をゼロにする。 最新のロボットやスーパーコンピューターを導入して製品の開発期間を短縮したり、業務の効率化につながるソフトウエアを取り入れるなどして実現する。 優秀な人材確保のためには働き方を抜本的に変える必要があると判断、大型投資に踏み切る。 工場などの生産部門と、開発や事務など間接部門に約 500 億円ずつ投資する。

工場では外部委託している検査工程などを自社に取り込んだり、最新鋭の自動化設備を導入したりして作業時間を短縮する。 開発部門などでも、スパコンを複数台導入して開発期間を短縮する。 工場部門より生産性が劣る事務系社員の改革を重視する。 会計や労務部門には業務の効率化につながるソフトウエアやテレビ会議システムを導入する。 職場配置も見直し社員の移動にかかる時間を減らす。 残業代がなくなる分は賞与や手当の増額で補い、年収が減らないようにする。 語学や専門知識の習得にあててもらうため、教育関連の投資を従来に比べ 3 倍に増やす。 在宅勤務の試験導入に続き、時差出勤も始める。

日本電産は 15 年秋時点で本社社員平均の残業時間は月 40 時間あった。 残業の申告を厳格化したり、会議の時間や資料を減らし残業を半減してきた。 ただ「さらなる残業削減に投資は惜しまない。(永守重信会長兼社長)」として決断した。 今回の改革では総人件費を減らさないため、一時的には利益の圧迫要因となるが、持続的な成長のためには優秀な人材確保や社員個人の能力向上は不可欠だと判断した。 (nikkei = 1-25-17)


三菱電機、社員に長時間労働させた疑い 書類送検

厚生労働省神奈川労働局の藤沢労働基準監督署は 11 日、元社員の男性 (31) に違法な長時間労働をさせたとして、大手電機メーカー三菱電機(本社・東京都千代田区)と労務管理担当の社員 1 人を労働基準法違反の疑いで横浜地検に書類送検し、発表した。 三菱電機は「真摯に受け止めている。 改めて適切な労働時間管理を徹底していく」とのコメントを出した。 同局によると、同社は情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)で働いていた研究職の男性に対し、2014 年 1 月 16 日から同年 2 月 15 日まで、労使で定める上限(60 時間)を超える違法な時間外労働(約 18 時間超過)をさせた疑いがある。

男性側によると、男性は精神疾患で同年 6 月から休業し、去年 6 月に解雇された。 藤沢労働基準監督署は去年 11 月、月 100 時間を超えることもあった時間外労働など、長時間労働が精神疾患の原因だったとして、労災を認定した。 男性は 2013 年 4 月に三菱電機に入社。 家電などに使うレーザーの研究開発を担当していた。 労働時間の管理は自己申告制で、時間外労働は労基署に届け出た上限以内に抑えるように、上司から虚偽申告を指示されていたという。 (asahi = 1-11-17)


「1 日単位の規制、業務に問題」長時間労働で経団連会長

経団連の榊原定征会長は 2016 年末の朝日新聞などのインタビューで、政府が検討する長時間労働の見直しについて、「産業界の実態に合わせ慎重な対応が必要」と語った。 退社から翌日の出社まで一定の休息時間を確保する「インターバル規制」の導入などを牽制した。 電通社員の過労自殺問題では、月 100 時間を超す時間外労働が批判された。 政府は、榊原氏も加わる「働き方改革実現会議」で長時間労働の是正を進め、自民党はインターバル規制の導入などを検討する。

榊原氏は「1 日単位で規制をかけると業務の継続性に問題が出てくる。 研究開発やクレーム処理などの仕事は、集中して作業をした方が効率が上がる。 仮に義務化されれば、産業活動を阻害する。」と語った。 また、「仕事によって異なる繁忙期に配慮してほしい」とも話し、一律に勤務時間に制限をかけることには慎重な姿勢を示した。

長時間労働の対策としては、「労使が事前協議すれば無制限に残業できる『36 協定』の見直しがポイントになる」と述べた。残業時間の上限を事実上なくせる労使協定のあり方を見直すべきだとする考えだ。 さらに榊原氏は、高年収の専門職を労働時間の規制から外す労働基準法改正案について、「長時間労働の是正や同一労働同一賃金などを加味した新しい法体系があってもいい」と述べ、働き方改革の中で、継続審議となっている同改正案の位置づけを明確にするべきだ、との認識を示した。 (編集委員・堀篭俊材、asahi = 1-1-17)


PC 強制終了・ノー残業デー … 長時間労働なくす実践例

長時間労働をなくすために、様々な試みがみられます。 そろって残業をしない日を決めたり、持ち帰り残業を防ぐ仕組みを導入したり。 各社がどんなことに取り組んでいるのか、その中で効果があったと実感できたものは何なのか。 NPO 法人のアンケートから探ります。 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた試みも紹介します。

【アンケート】 どうなくす? 長時間労働

長時間労働をなくすために、どんな取り組みが効果的なのでしょうか。 NPO 法人ファザーリング・ジャパン (FJ) が先月 21 日から今月 8 日にかけて、「イクボス企業同盟」の加盟 116 社(11 月 20 日時点)に尋ねたアンケート結果があります(89 社が回答)。

実際に取り組んでいることと、その中で効果が高かったものを、40 あまりの選択肢を示して質問。 多くの会社がとりくんでいるのが、「経営層から長時間労働是正へのメッセージを発信(53 社)」、「各人の労働時間を集計し役員会に報告。 長時間労働の部署へ是正措置を求める。」、「新任管理職に対し労働時間管理を含む研修を実施」、「有給休暇取得の進捗などを管理する仕組み」(いずれも 50 社)、「全社毎週水曜日」など一律の「ノー残業デー(49 社)」。 ノー残業デーや経営層からのメッセージは、効果があったと感じた企業数でも上位に並びました。

また、取り組んだ会社のうち「効果が高かった」と答えた割合で見ると、PC の強制シャットダウンが 1 位(4 社中 4 社)。 ノー残業デー(49 社中 27 社)、再点灯不可の強制消灯(4 社中 2 社)が続きます。 「ある程度の上限を半強制的に設定し、型にはめることで、業務効率化を行う必要性を感じ実行に移すことができる」、「強制的な退社による業務のしわ寄せや後ろ倒しなども懸念されたが、結果として、全社的な時間外勤務時間の削減につながった」などの声が寄せられました。

選択肢になかった取り組みには「サーバー強制シャットダウン(午後 8 時)」、「外部メールの上司転送(添付ファイル付きのメールは上司に自動転送)による持ち帰り残業の抑制」、「ノー残業デーに生の社内放送を日替わりで実施(役員、本部長、部長)。 話す内容もその日の担当者が決める。」などがありました。 結果について、FJ は「長時間労働削減には、強制力、トップメッセージ、全員参画がカギであることが見えてきた」としています。 イクボスとは、仕事と生活を両立し、部下にもその環境づくりをする上司(経営者・管理職)を指し、賛同企業のネットワークがイクボス企業同盟です。 (三島あずさ)

個人も企業もストレス把握を

「労働は商品ではない。」 国際労働機関 (ILO) の基礎となる根本原則をうたった宣言はこう始まります。 産業医科大教授の堀江正知さん (54) は、長時間労働の問題を考える時はここに立ち返るべきだといいます。 「『労働者は取り換えられる』、『壊れたら捨てる』。 社会全体がそういう風潮になっていないでしょうか。 人は、ものではないという根源を忘れてはいけない。」

長時間労働が循環器疾患を引き起こすことは知られています。 最近はストレスによる健康障害の研究も進んでいます。 「長時間労働と心理的ストレスによる循環器疾患、精神障害の発生は互いに関連しています。」 大切なのは、そうなる前に負の連鎖を断ち切ることです。 事態が深刻化すると、「自殺してはだめだ」という判断もできなくなります。 「熟睡できない」、「趣味を楽しめない」などの状態になったら、注意が必要です。

昨年 12 月から、50 人以上の事業所にストレスチェックが義務化されました。 質問に答えることで、自分のストレス状態を知ることができます。 「企業内外にある相談窓口でいいので、まず自分の気持ちを話して」と日本産業カウンセラー協会執行理事の田中節子さん (63)。 「言いたいのに言えないこと自体がストレスになる場合がある。 まず心のうちを話してもらうことが大切です。」

企業による集団分析(現在は努力義務)も重要だと言います。 集団分析では全国との比較や、高ストレス者が多い部署、「仕事量が多い」と感じている人が多い部署などを知ることができます。 事業所が現状を客観的に把握し、課題の解決を探る手立てになります。 周囲の人は何に気をつけたらいいのでしょう。 「顔色が悪い」、「服装に構わなくなる」、「あいさつをしなくなる」など、同僚の変化を見逃さないことが大切です。 「いつもと違うと感じたら声をかけ、相談できる人や機関に行くよう促してください」と田中さんはアドバイスします。

日本産業カウンセラー協会は月 - 土曜午後 3 - 8 時、無料の電話相談を受け付けています。 1 人 30 分まで。 03・5772・2183 「働く人の悩みホットライン」 (千葉恵理子)

ノー残業、職場全体で

朝日新聞デジタルのアンケートには、長時間労働をしないための会社や個人の取り組みについて書かれたものもあります。 そんな中から一部を抜粋して紹介します。

● 「残業したらきりがないので定時か定時 + 1 時間以内に帰るようにしています。 至急の仕事以外は明日まででもいいか確認をとるようにしています。(静岡県・20 代女性)」

● 「今の会社は残業代が出ない会社です。 その代わり極力残業はしない流れができています。 就業時間内(10 時 - 18 時)に終わらせることが求められるので、自分でやるべきことに優先順位をつけて、取り組んでいます。(神奈川県・20 代女性)」

● 「長時間労働の根本の原因は部活と受験勉強にあると思う。 どちらも長時間勉強や練習をして結果を出すことを是としている。 親と教師が、というより社会全体が徹夜の受験勉強や部活の朝練や土日練習を肯定している。 受験競争に勝った有名大学出身者や体育会系の部活出身者が大企業に就職する。 違法残業を指摘された朝日新聞社も例外ではない。 10 代のうちに『長時間やることよりも、時間を区切って勉強や部活をした上で遊ぶときは遊び、結果を出すのが良いこと』という価値観で教育しないと日本から長時間労働はなくならない。(東京都・30 代女性)」

● 「いまの職場は 19 時で物理的に閉まるため、帰らざるを得なくなりました。 前の職場では 1 時 2 時までいることもあったのですが、一気に健康的に! 持ち帰り仕事が増える、と思っていたこともありましたが、クラウドや仕事効率化アプリの活用で、時間をうまく使えるようになりました。 学校の場合は外国の体制を取り入れるべきです。 ランチタイムのスタッフを雇ったり、部活動ではなく地域で好きなスポーツを楽しんだりするなど。 学校って大人にも子どもにもブラックな空間であることが多いです。 学校がホワイトにならなければ、これからも新たな社畜を生み出し続けることでしょう。(新潟県・30 代女性)」

● 「公務員の管理職です。 自身もこれまで、多くの時間を仕事に割いてきました。 ときには体調を崩すこともありました。 数年前に管理職になってからは、残業に対しては特に注意を払っています。 個人との面接において、健康管理や時間のマネジメントについて意見交換をしています。 また、就業時間後は地域の活動や趣味の活動、家族サービスに時間を割くよう助言しています。」

「他部署を見ると、残業手当が青天井のこともあって、アウトプットのない無意味な残業も見られます。 また、残業癖のついた職員は、どの部署に異動しても同様のスタイルで仕事をしています。 ノー残業デーもかけ声ばかりです。 職場全体、管理職が積極的に関与すべきと考えます。(岩手県・50 代男性)」

● 「1 人当たりの売り上げ目標を掲げている限り長時間労働は増えることがあっても減ることは無いと感じています。 国の考え方としてワークシェアリングで雇用を増やしたいとハッキリ表明してもらい社会全体の目標を明確にし事業主に強制させる法令を作る。 発注者にも、一定の歯止めとなるような罰則規定を設けなければ実効性は乏しい。(神奈川県・50 代男性)」

お互い協力できる職場の関係づくりを

事件・事故があれば駆けつける記者や、夜勤のある編集者が長時間労働を避けるには難しい状況もあります。 ただ、働き方に無駄がないか、といわれれば、改善できることもあります。 長時間労働の原因を考えたアンケートで「長く働くことを評価する空気がある」を多くの方が選びました。 入社 8 年目になる私も先輩より早く帰ることに気が引けて残業したことがあり、共感しました。

今月、朝日新聞社も労働基準監督署から是正勧告を受けました。 私自身、新聞社で長時間働くのは当たり前という感覚があり、無頓着さを痛感しました。 自分の経験に基づいた働き方を押し通すのではなく、お互い協力できる職場の関係づくりを心がけたいと胸に刻みました。 (逸見那由子、asahi = 12-25-16)


官民で常態化する長時間労働と賃金未払い、若手に募る不満

[東京] 日本で働く多くの勤労者が、長時間労働に直面し、一部の時間外勤務では賃金不払いが常態化している例もある。 この現象は民間企業だけでなく、政府の中枢である「霞が関」でもみられ、「過労死基準」とされる 80 時間超の残業を強いられる若年世代では、不満と徒労感が拡大中だ。 抜本的な解決には、企業文化や人事評価制度、経済システム全般の大幅な見直しが求められる。

ただ働きの実態

「残業は月 80 - 100 時間、繁忙期はさらに 30 時間程度余分に働く。 残業代が支払われるのは概ね 35 時間だけ。」 東京都内の鉄鋼商社で電子部品の営業を担当する男性社員(26 歳)は、残業申請の際に時間調整を余儀なくされていると打ち明ける。 残業申請をカットされる背景について「会社の労働生産性が低過ぎて、マージンが取れないことがある」と、その男性社員は勤務している企業の利益率の低さを冷静に分析している。 大学卒業後、正社員として雇用され、非正規社員よりは高い給与水準ではあるが「体力的にもきつく、給与水準にも不満が残り、退職して米国留学を目指す」と語った。

連合総研が今年 10 月、民間企業に勤務している 20 - 64 歳の 2,000 人を対象にインターネット経由で調査した「勤労者短観」によると、正規・不正規社員を含め、不払い残業が「あった」との回答は全体の 38.2% を占め、過去 3 年間で最高となった。 所定外労働時間(残業プラス休日出勤)の平均は 40.3 時間、そのうち 17.6 時間が残業代未払いとなっている。

残業しても自己申告しない「慣行」も根強く存在している。 IT 企業でネットワークエンジニアとして勤務する男性社員(38 歳)は「自ら稼いだプロジェクトの利益から、残業代が差し引かれる制度になっており、人事評価を上げるために残業代は申請しないことがある」と、その背景を説明した。

公式統計で把握できない実態

しかし、政府の公式統計では、こうした実態はなかなか浮かび上がって来ない。 企業側が回答する厚生労働省の毎月勤労統計では、9 月所定外労働時間は平均で 14.2 時間。 働く人自身が回答した「勤労者短観」の 40.3 時間の半分以下だ。 このギャップについて、人事コンサルタントの松本利明・HR ソトラテジー代表は「残業代の支払いを避けたい企業は多い。 行政の監督が厳しくなっているとはいえ、不払いの問題はまだ多い。」と指摘。 さらに「社員がどんなに働いても、残業時間が上限を超えないように記録することはよくある」と述べている。

霞が関の常識、不払いの時間外賃金

こうした残業代なしの「ただ働き」の実態は、民間企業に限ったことではない。 働き方改革を掲げている安倍晋三政権のお膝元、中央官庁のエリート官僚が働く霞が関でも、深刻な事態となっている。 経済官庁に勤務するある若手官僚(26 歳)は、法案書類のチェックや部署間の調整などで、毎日午後 11 時過ぎまで役所のデスクにかじりつき、毎月の平均残業時間は平均 90 時間にのぼる。

だが、100% 申請しても、実際に残業代が支払われるのは 7 割程度と、その実態を明らかにした。 また、自分の残業時間は「ましな方だ」と話す。 「3 割はただ働きしているという感じは持っている。 本当は早く帰宅して、自分にとって有意義な時間を確保したい。」と語る。

安倍晋三首相自らが議長を務める「働き方改革実現会議」では、働く人の視点での議論を掲げている。 同会議の有識者委員、白河桃子氏は「労働者側の実態把握も必要。 不払い賃金をなくす工夫が求められる。」と指摘する。 白河氏は、長時間労働是正に向け、労働基準法 36 条で明記されているいわゆる「36 協定」改定の議論が同会議で行われる際に、不払い残業についても提言するつもりだという。

残業時間に上限を設けても、それを超える残業時間に対し不払い残業が増える可能性があり、罰則を強化し、政府がしっかりと監督することがその防止につながるとの考え方だ。 労働力不足が深刻となる中、「残業の上限は過労死基準と呼ばれる月 80 時間より少なくすることが必要だと思っている。 そうでないと海外から知的労働者は誰も来てくれないだろう。」とも語る。

ロイターの試算では、不払い残業をしている労働者に残業代が全額支払われた場合、1 カ月に 1 人平均 3 万 2,543 円の賃金増加となる。 消費性向を勘案すると、単身勤労者の場合、残業代が全額支払われれば月間消費額が 2 万 4,000 円分、13.4% 程度増える余地がある。 第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は「労働者側にとっては、その分所得が増えて消費に回す可能性もあろう。 他方で企業にとっては労働コストは増えることになり、労働時間を減らすために生産性を上げる工夫をとるインセンティブにもなる」と指摘する。

残業時間が減れば早めの帰宅により、消費に回る効果も生まれる。 むしろそうした形の効果の方が望ましいと熊野氏は説明する。 単に残業時間の上限を設定するだけはなく、日本人の労働慣行、企業の生産性向上、商慣行など、経済全般のシステムまで踏み込む必要があるようだ。 (中川泉、取材協力 : スタンレー・ホワイト、Reuters = 12-19-16)


経団連、「働き過ぎ」防止を要請 会員企業 1,300 社に

経団連は 15 日、広告大手の電通に勤務していた新入の女性社員が昨年末に自殺し、長時間労働に批判が高まっているのを受けて、会員企業約 1,300 社に対し、社員の「働き過ぎ」防止に取り組むように文書で要請した。 経団連が過重労働防止について呼びかけるのは異例だ。

文書は、榊原定征会長名で、経営トップに対し、長時間労働の撲滅に向けて社内の意識改革を図り、労働時間を正しく把握するなど、法令がきちんと守られているか常時点検することなどを求めている。 また、管理職に対し部下との意思疎通を密にすることで、疲労のたまり具合などを確認して、負担の軽減などに努めることも要請している。 政府の進める働き方改革と歩調を合わせ、経団連は今年度を「働き方・休み方改革集中取り組み年」に定めて、有給休暇取得の推進などを会員企業に求めていた。 (asahi = 11-15-16)


電通に労働局が立ち入り 長時間労働、全社で常態化疑い

広告大手、電通の女性新入社員(当時 24)が昨年末に過労自殺し、労災認定されたことを受け、東京労働局と三田労働基準監督署は 14 日午後、労働基準法違反の疑いで電通の本社(東京都港区)と支社数カ所に一斉に立ち入り調査に入った。 違法な長時間労働が全社的に常態化していた疑いがあるとみて、労務管理の実態を詳しく調べる。

この日の立ち入り調査は、労基法に基づく「特別監督指導」と呼ばれるもので、調査の結果、法令違反が見つかり、悪質と判断されれば刑事事件として立件することができる。 今回の労災認定は、過労自殺した新入社員の問題にとどまらず、雇用者の刑事責任が問われる事態に発展する可能性が出てきた。

労災認定を受けたのは、入社 1 年目だった高橋まつりさん。 昨年 12 月 25 日、都内の電通の女子寮で自殺した。 三田労基署は「仕事量が著しく増加し、時間外労働も大幅に増える状況になった」と認め、先月 30 日に労災認定した。 三田労基署は、高橋さんの 1 カ月(昨年 10 月 9 日 - 11 月 7 日)の時間外労働を約 105 時間と認定している。 (千葉卓朗、asahi = 10-14-16)