前面に窓がない? NASA の超音速ジェット機「X-59」

NASA が作るメカというと、超大型ロケットの「SLS (スペース・ローンチ・システム)」や次世代火星探査機「MARS 2020」。 もしくは MIT と共同開発している、翼がトランスフォームする飛行機なんていうものがあります。

ですがほかにも、ロッキード・マーティンと共に、ソニックブームを減らし、ほとんど騒音を出さずに飛ぶ超音速旅客機「X-59」を作っている、と designboom が伝えています。 これが面白いのは、操縦席が機体に埋め込まれた形の超音速ジェット機だというところ。

確かに前方を目視できないデザインなのですが、そこは外部視界システム (XVS) と呼ばれる、2 台のカメラと高精細モニター、そして地形データを組み合わせて前面を見るので問題ありません。 逆にいうと、このシステムが出来たからこそ、操縦席が機体から突出しなくても済むようになり、ひいては風の抵抗を抑えることが出来るようになることで、衝撃波の軽減に繋がるワケです。

このプロジェクトは 2018 年から始まり、3 年計画で 2021 年に初飛行することを見据えています。 「X-59」は静音超音速技術 「Quiet Supersonic Technology (QueSST)」を導入して作られており、超音速飛行時の騒音は自動車のドアが閉まるのと同程度のボリュームにしか聞こえないのだそうな。 全長 29m、全幅 9m の「X-59」は、地上約 17km地点を 1,513km/h で飛ぶ計算になっているそうです。これはマッハにすると約 1.24 くらいですかね。 商業用への転用も視野に入れているようですが、いまのままでは大人数を一度に運べないので、いつかはもうちょと気軽に海外旅行ができる旅客機も作って欲しいなぁと思います。 (Gizmodo = 6-28-19)



ボーイング「極・超音速機」はマッハ 5、相次ぐ開発構想

音より速い「超音速機」の開発競争が始まった。 米ボーイングは音速の 5 倍(マッハ 5)で飛行する「極・超音速機」の実用化を目指すと表明。 米スタートアップのブーム・テクノロジーやスペース X も、2020 年以降に旅客の高速輸送を実現させる構想に野心を隠さない。 空の未来を巡る新旧勢力の主導権争いはスピード勝負の様相だ。

「ボーイングは高速旅行に旅客の未来を見ている。」 世界最大級の航空展示会「ファンボロー国際航空ショー」の開幕を翌日に控えた 15 日。 ロンドン市内で記者会見したボーイングのデニス・マレンバーグ最高経営責任者 (CEO) は、30 年代とみられる極・超音速機の実用化について、こう切り出した。

「THE FUTURE IS BUILT HERE. (未来はここに建てられている。)」 ファンボローのボーイングのパビリオンにはこんな前のめりのメッセージが掲げられ、航空機だけでなく、航空・宇宙の未来をアピールした。 パビリオン内には極・超音速機の模型が展示され、詰めかけた来場者の注目の的となっていた。 新型機にはまだ名前もないが、空気抵抗を極限まで受けない流麗な機体デザインが目を引く。 全長 61 メートル、翼幅は 21.6 メートルあり、全長はボーイング主力の中型機「787」に相当する大きさとなる。 マッハ 5 で飛行し、米国を起点とすると世界の主要都市に 2 - 3 時間で到達できるという。

構想が実現すれば、日本から欧米への出張でも日帰りが可能になる。 例えば、ロサンゼルス(米国)からシドニー(オーストラリア)までは 4 時間、ニューヨークからロンドンなら 2 時間半と、現状の 3 分の 1 程度に短縮できる。 ボーイングで極・超音速プロジェクトの主任研究員を務めるケビン・ボウカット・シニア技術フェローも「(米国から)欧州、アジアへの日帰り往復フライトが可能になる」と明るい未来を夢見る一人だ。

眼下に地球、感覚は宇宙旅行

速いだけではない。 極・超音速機は高度 9 万 5,000 フィート(2 万 9,000 メートル)の上空を飛ぶ。 一般的な旅客機の高度 3 万 5,000 フィート(約 1 万メートル)よりもはるかに高く、「眼下には湾曲する地球が見える。 見上げれば、宇宙の漆黒が広がる」とボウカット氏。 もはや宇宙旅行の感覚に近い。

超音速機の開発には長い歴史がある。 1940 年代にはすでに米航空宇宙局 (NASA) の前身となった米国の航空当局が有人の超音速飛行の実験に成功。 69 年には英仏が「コンコルド」を共同開発し、商用運航を始めた。 ボーイングも 66 年、米政府から超音速機の試作機の製造先に選ばれた。 26 の航空会社から 122 機の発注があったものの、試作機の完成を待たず、政府からの資金が 71 年に打ち切られた。

前世代の超音速機は燃費が悪く、費用対効果も合わなかった。 飛行時に発生する「ソニックブーム」と呼ばれる衝撃波が社会問題となり、路線は事実上限定。 コンコルドは数千億円規模の開発コストをかけた割にビジネスとして成り立たず、パリでの墜落事故を経て 03 年に退役した。 低燃費機の全盛時代を迎え、超音速の旅客輸送機は冬の時代に入っていた。

技術革新と新規参入、構想後押し

再び、超音速機の開発ブームが起きつつある背景には技術革新がある。 NASA は衝撃波を生まない超音速機を開発中で、20 年にも試験飛行させる。 ボーイングもマッハ 5 の飛行時に出る超高温に耐えるチタンの外装や、極・超音速の最新鋭エンジンを開発している。 新規参入組も競争を刺激している。 超音速機を開発するブームは 17 年 12 月、日本航空と資本業務提携し、世界の航空会社を驚かせた。 日航は 1,000 万ドル(約 11 億円)を出資し、ブームへの出資比率は数 % になるようだ。 プロモーションで協力するほか、将来の 20 機の優先発注権を得た。

超音速機の開発はメーカー主導になりがちだが、航空機の安全な運航に一日の長がある航空会社のノウハウも加えることで「航空業界全体に超音速機の流れを作りたい」と日航の事業創造戦略部・森田健士事業戦略グループ長。ブームの開発に参画するのも運航上の知見を提供して実用的な開発に生かし、20 年代半ばの商業化に確実につなげてほしいからだ。

ブームの超音速機はマッハ 2.2 で、航続距離は 8,334 キロメートルに達する。 ビジネスクラスを導入した場合、座席数は 45 - 55 席を想定。 富裕層やビジネスパーソンにスピード移動への需要は根強い。 「時間短縮が実現できれば他社と差異化でき、競争力の源泉になる(森田氏)」のは確かだ。

移動時間短縮は最大のサービス

「飛行時間の短縮」は古くて新しいテーマともいえる。 実はこの半世紀、東京 - サンフランシスコ間の約 10 時間という飛行時間はほとんど変わっていない。 森田氏によると、同区間の飛行時間は 50 年代の 14 時間から 60 年代に約 10 時間まで短縮したものの、そこからは縮まっていないという。 機内サービスや機内食、座席などによる差異化にも限りがあり、移動時間の短縮は最大のセールスポイントになりうる。

この半世紀、航空機業界が乗り越え切れていない宿題にイノベーションの臭いをかぎ取ったのは日航だけではない。 人工衛星の打ち上げロケット輸送サービスに価格破壊を起こしたスペース X も 22 年以降、ロケット技術を用いて世界の主要都市を結ぶ旅客輸送事業に乗り出すと発表。 高速輸送に名乗りを上げた。

スペース X は火星旅行を目指して開発中の超大型ロケット「BFR」を転用する。 海上にロケット発着用の港をもうけ、打ち上げたロケットは宇宙を経由して地球に戻り、目的地の港に着陸する構想だ。 BFR で中型旅客機並みの 240 人を運べるという。 ニューヨーク - 上海間は航空機で 15 時間かかるが、BFR は 39 分間に短縮できるという。 地球上のどこでも 1 時間以内で移動可能だ。

一昔前なら考えもしなかった宇宙ロケットからの挑戦状を航空機はどう受け止めるのか。ファンボロー航空ショーで超音速機を巡る討論会に参加していた米超音速機開発スタートアップのスパイク・エアロスペースのビック・カチョリア CEO にスペース X が将来、超音速機の競合になり得るかを聞いてみた。 カチョリア CEO は「そうはならないだろう」と述べた。 ロケットでは大陸間移動も片道切符の可能性があり、競争力のある価格で提供できるかが不透明なためだ。

スタートアップや異業種の参入が競争を後押しし、技術革新にアクセルをかける。 ボーイングのマレンバーグ CEO は「イノベーションに投資し、ディスラプティブ(破壊的)なテクノロジーや製造技術を導入し、新たな商品群を投入していく」と強調する。 ボーイングは「ボーイングネクスト」を立ち上げ、人工知能 (AI) を用いた無人飛行システムなどの開発も加速させる。 ついに幕を開けた空の移動革命が立ち止まることを許さない。 (ファンボロー(英南部) = 星正道、nikkei = 7-22-18)


NASA の新しい実験機は、空を再び「超音速」で旅する道を切り開く

NASA が開発している最新の「X プレーン」は、超音速機から生じるソニックブームの抑制を目指した実験機だ。 超音速機が居住地域の上空を飛べるようになれば、超音速旅客機「コンコルド」の後継機が実用化される道が開けるかもしれない。 その開発のいまを紹介する。/p>

NASA とロッキード・マーティンは、「ローブーム飛行実証試験機 (Low Boom Flight Demonstrator)」を次期 X プレーンにする契約を結んだ。 契約金額は 2 億 4,750 万ドルだ。 もしI偉大な航空機たちが集まる殿堂があったとしたら、歴代の実験機・記録機である「X プレーン」は、それだけで一棟全体を与えるに値するだろう。 1947 年、チャック・イェーガーの操縦によって初めて音速の壁を破った「ベル X-1」以来、これらの実験機の数々は飛行能力の限界を押し上げ、あるいは打ち破ってきた。

「X-15」は 67 年に初めて極超音速(マッハ 5 を超える速度域)の飛行に成功し、有人飛行速度の記録を樹立した。 2000 年代初頭には、「X-35」が F-35 ジェット戦闘機に進化した。 そして最新の「X-57」は、地上と同様に空中でも電気動力が役立つことを証明しようとしている。

コンコルドの "伝説" を再び

X プレーンプログラムを運営する NASA は先日、この自慢のラインナップに最新のメンバーが加わることを明らかにした。 ロッキード・マーティンとの間で、超音速航空機の製作に関する 2 億 4,750 万ドルの契約を結んだのだ。 いまや、音よりも速く飛ぶことはさほど難しくはない。 難しいのは、どうすれば、鼓膜を破りそうなソニックブーム(衝撃波が生む大音響)を起こさずに超音速で飛べるかだ。 この問題は、民間向け超音速飛行の復活を妨げる大きなハードルのひとつになっている。

最終的な目標は、1976 年に就航した超音速旅客機コンコルドの後継に道を開くことだ。 コンコルドには、飛行ルート下の地上に轟音を響かせる欠点があった。 このため米国とヨーロッパでは、当局が人の住む地域の上空を超音速で飛ぶことを禁止した。 このため、航路は事実上ごく少数の大西洋横断便のみに限定され、なかなか採算が取れなかった。 結果としてコンコルドは、2003 年限りで営業飛行を終えることになった。

より静粛性の高い航空機ができれば、そうした制限は緩和される可能性があると、誰でも考えることだろう。 そうすれば、洋上の航路ばかりでなく、たとえばニューヨークから LA やサンフランシスコへ裕福な経営幹部たちを運ぶような、採算の取りやすい便にも使える可能性が出てくる。 NASA の航空工学研究部門を率いるジェイウォン・シンは、「この X プレーンは、エキサイティングな未来に近づくための重要な一歩です」と語る。 「将来、安価で静かな超音速飛行を楽しむ人々は、2018 年 4 月 3 日にすべてが始まったと語ることでしょう。」

衝撃波の轟音は最小限に

ロッキード・マーティンの "任務" は、有人飛行が可能な試作機「ローブーム飛行実証試験機 (Low Boom Flight Demonstrator)」を 1 機製作して納入することで、すでに開発は 2 年ほど前から始まっている。 この機体には、まだ「X」を伴う正式呼称が与えられていないが(今後 2 - 3 カ月のうちに、NASA が米空軍に呼称の付与を申請する予定)、これまでの例から言えば、X-58 と呼ばれることになるだろう。 最近では遠隔操作の飛行実証試験機が続いていたため、これは久しぶりの有人 X プレーンとなる。

このローブーム飛行実証試験機は、コンコルドの長く尖ったノーズと後退翼を継承し、極限まで進化させている。 結果として、機体は小さな翼を持ったミサイルのように見えるが、これは超音速飛行時に機体から発生する圧力波(これが轟音の原因となる)を最小限に抑えることを狙いとしたものだ。 この航空機は、通常の亜音速旅客機が飛ぶ 35,000 フィート (10,670m) よりはるかに高い 55,000 フィート (16,760m) 前後の高さで巡航し、最高速度は時速 940 マイル(同 1,504km)に達することを目標に設計される。 ロッキードによると、地上にいる人に聞こえる衝撃波は、コンコルドでは大砲を発射したような音だったが、自動車のドアを閉めた程度の音でしかないという。

推進力を発生させるのは、F/A-18 戦闘機にも使われたゼネラル・エレクトリックの F414 エンジン 1 基。 コックピットについては、T-38 ジェット練習機の後席と同じ設計を用いる。 NASA のパイロットを務めるジム・レスは、「超音速の有人 X プレーンにかかわる機会は、わたしにとっておそらく一生に一度のことでしょう」と言う。 彼はカリフォルニア州にある NASA アームストロング飛行研究センターで、この機体を飛ばす予定であるふたりのパイロットのうちのひとりだ。 「みんなが胸の高鳴る思いでいます。」

2022 年には都市上空をテスト飛行へ

もし、あなたもイェーガーのように超音速で米国を横断する考えに胸を躍らせているなら、もうしばらく待つことが必要だ。 NASA はこの技術が、最終的には民間旅客機に応用されることを期待しているものの、今回の実験機の全長はわずか 96 フィート (29.3m) で、機内にはパイロットが 1 1人乗れるだけの空間しかない。

ロッキード・マーティンで航空機設計および技術担当ディレクターを務めるデイヴ・リチャードソンは、「この飛行機は、ベル X-1 や X-15 と同様に、研究目的のために作られる実験機です」と言う。 同氏によれば、乗客はどこに乗るのか、あるいはミサイルはどこに積むのかという質問を頻繁に受けるが、この機体はビジネスジェットや軍用機のプロトタイプではないと答えているという。 この機体のミッションは、CEO を送り届けることでも敵を殲滅することでもなく、ソニックブームに打ち勝つことなのだ。

ロッキード・マーティンでの開発が予定通りに進行すれば、NASA は 2021 年中にこの航空機の飛行を始めたいと考えている。 これまでのところ同社は、風洞でスケールモデルを使ったテストを行っている。 「初飛行までに、わたしの頭はさらにはげ上がっているでしょうね」とリチャードソンは言う。 飛行はまず試験場の上空から始めて、機体の安全性を確かめる。 そのあと、22 年には米国内のいくつかの都市の上空を飛ばして、地上の人々を対象とした調査を実施する予定だ。 すべてが計画通りに運べば、その地域の住民から苦情が出ることはないだろう。 そして、いずれはそうした住民たちも、気軽に超音速旅客機を利用できるようになるはずだ。 (Jack Stewaart、Wired = 4-11-18)


超音速旅客機開発へ 翼と機体一体型など検討 NASA

米航空宇宙局 (NASA) は 29 日、音速を超える高速で飛び、騒音や燃料の消費が少ない革新的な次世代旅客機「X (エックス)プレーン」の開発に乗り出すと発表した。 2020 年ごろ試作機を開発し、試験飛行を目指すという。 NASA によると、航空大手ロッキード・マーチン社などの開発チームに 2 千万ドル(約 22 億円)を投じ、約 1 年半で基本設計を取りまとめる。 ボールデン長官は、約 70 年前に米国が世界に先駆けて有人超音速飛行に成功したことに触れ、「我々はいまも超音速機のレガシー(遺産)を引き継いでいる」などと述べた。

NASA は今後 10 年をめどに、従来の航空機の設計にとらわれず、燃費や安全性を高めた複数の「X プレーン」の試験機開発などを構想している。 主翼と機体が一体化したようなデザインや、長くて幅が狭い主翼を持った機体、従来のジェットエンジンと異なる仕組みで推進力を得る新システムなど、様々な可能性が検討されている。 (ワシントン = 小林哲、asahi = 3-2-16)