全固体電池を大容量に マクセルが 24 年サンプル出荷

マクセルは、容量 200mAh の円筒形全固体電池「PSB23280」の開発を進め、2024 年 1 月下旬に、サンプル出荷を予定している。 全固体電池は、現在主に使われている電解質が液体のリチウムイオン電池などとは異なり、電解質に固体を使用する電池。 発火のリスクを抑えた安全性を特徴とする。

同社は、硫化物系固体電解質を使用した全固体電池のうち、セラミックパッケージ型とハイポーラ型を開発し、既にサンプルを供給している。 今回の円筒形全固体電池「PSB23280」は、電極構造と外装体を大幅に見直し、セラミックパッケージ型全固体電池「PSB401010H」の 25 倍となる、大容量を実現したもの。 (河原塚英信、家電Watch = 10-27-23)


不燃性の「固体電池」を使用したポータブル電源発売 2,500 回以上の充放電に対応

ヨシノパワージャパンは、10 月 4 日に世界初をうたう固体電池を使用したポータブル電源を発表した。 Amazon、楽天市場、YOSHINO 公式販売ページで順次取り扱う。 本製品は不燃性でリチウムイオン電池と比較すると 2.5 倍程度のエネルギー密度があり、2,500 回以上の充放電に耐えるという固定電池を採用。 製品と連携できる専用アプリでは使用しているポータブル電源のステータス、充電状況、使用可能時間などの設定を確認できる。

入力は AC 充電やソーラー充電、車載充電、USB Type-C、出力は AC ポート、USB Type-C/USB Type-A ポート、DC ポート、ワイヤレス充電に対応する(一部製品は非対応)。 「B300 SST」、「B600 SST」、「B2000 SST」、「B3300 SST」の 4 種で展開し、300 Wから 3,300W までの電子機器で利用可能。 最も充電スピードが速いモデルでは家庭用コンセントから約 45 分で 80% まで充電できる。 (ITmedia = 10-4-23)


105℃ 環境で 10 年稼働、「メンテ不要」の全固体電池

硫化物系電解質を使用

マクセルは「Sensor Expo Japan 2023(2023 年 9 月 13 - 15 日、東京ビッグサイト)」にて、硫化物系固体電解質を使用した全固体電池を展示した。 105℃ 環境で 10 年使用できるほど長寿命かつ最大 125℃ で放熱可能な高耐熱で、点検しにくい場所や過酷な環境下にあるインフラ設備のモニタリング/異常検知に貢献するという。 また、酸化物系全固体電池と比べて高容量で最大放電電流が大きいという。

マクセルの全固体電池の大きな特徴は長寿命だ。 セラミックパッケージ型の製品は105℃ 環境で 10 年間連続使用できる。 セラミックで内容物を覆うことで密閉性を高め、水分などによる劣化を防いでいる。 マクセルの担当者は「原子半径が最も小さいヘリウムすら通さないほどの高密閉性だ」と語っていた。 また、放熱可能温度は最高 125℃ と高耐熱で、200℃ での加熱試験でも発火や発煙は確認されなかったという。

こうした特徴から、マクセルは同社の全固体電池について「ほぼメンテナンス要らず」だとし、点検しにくい場所や過酷な環境下にあることも多いインフラ設備のモニタリング/異常検知用途での活用を見込む。 FA (ファクトリーオートメーション)機器用にも引き合いがあるという。 ブースでは商用電源が近くにない場所での活用例として、太陽光発電設備やセンサーと組み合わせ、独立電源で立体駐車場のひずみをモニタリングするデモが展示された。 同様の組み合わせでトンネル内壁や橋梁の劣化監視が行えるという。

全固体電池には酸化物系電解質が使われる場合が多いが、マクセルの全固体電池はアルジロダイト型の硫化物系固体電解質を使用していて、酸化物系以上の高容量化と高出力化が実現できるという。 セラミックパッケージ型製品「PSB401515H(14.5mm x 14.5mm x 4.0mm)」では標準容量が 16.0mAh、最大電流は 60.0mA。 硫化物系固体電解質はイオン伝導度が高いほか、常温での圧密化による電極製造が可能だ。 同社担当者は「こうした性質とマクセルの培ってきた乾式混合、成形、封止などの技術の相性が良く、特長を最大限に引き出すことができた」と説明する。 マクセルは、2023 年度中に硫化物系全固体電池の量産品の出荷開始を予定している。 (浅井涼、EE Times = 9-28-23)


パナ、全固体電池実用化へ ドローン向けに開発

パナソニックホールディングス (HD) は 13 日までに、ドローン向けに開発を進めている全固体電池について 2020 年代後半に実用化する方針を示した。 小川立夫最高技術責任者 (CTO) が報道陣に明らかにした。 容量の 8 割充電するのに 1 時間程度を要する現状のリチウムイオン電池に比べ、全固体電池は約 3 分で充電が可能。 (jiji = 9-13-23)


全固体電池の容量、世界最高レベル達成 東京工業大学

東京工業大学の菅野了次特命教授らの研究グループは全固体電池の急速充電性能と容量を向上させることに成功した。 基幹材料を新たに開発したり、製造工程を見直したりすることで実現した。 急速充電の性能を左右する指標は現行に比べて最大 3.8 倍、正極容量についても電極面積当たりで1.8 倍向上し、いずれも世界最高レベルと説 明する。 米科学誌「サイエンス」に掲載された。

研究グループは全固体電池の基幹材料である固体電解質を新たに開発した。 新材料は同氏らが 2011 年に開発した硫化物系固体電解質の改良版で、構成する元素の種類を 4 種類から 7 種類に増やした。 急速充電の性能に関わるリチウムイオンの伝導率は 1 センチメートル当たり 32 ミリジーメンスで、従来材料の約 2.3 - 3.8 倍の値となった。 イオン伝導率を高めれば、充電にかかる時間を短くできる。

製造工程も改良、固体電解質と正極の粉体を混合させるようにした。 そのため、従来必要だった電極の乾燥工程を省けるとみられる。 負極には従来の黒鉛の代わりにリチウム金属を採用した。 試作した全固体電池の容量は電極 1 平方センチメートル当たり 20 ミリアンペア時以上と、これまで報告された最高値になった。 (nikkei = 7-7-23)


「全固体電池」実用化に弾み、大阪公立大が「イオン伝導性」最大 1 万倍の新合成法

大阪公立大学の研究チームは、全固体電池を実現する有力材料の一つである硫化物系電解質のイオン伝導性を、室温下において従来の研究の最大 1 万倍に向上する新たな合成法を開発した。 エネルギーの源となるリチウムイオンの動きを阻む「イオン伝導性の低さ」は、全固体電池の実用化に向けた最大の障壁。 この手法の活用によりボトルネック解消につなげることで、実用化に弾みがつく可能性がある。

全固体電池はリチウムイオン電池などに比べてエネルギー密度や、安全性や寿命などで高い優位性がある。 そういった点に着目してトヨタ自動車が 2027 年にも全固体電池を搭載した電気自動車 (EV) を投入するほか、出光興産が固体電解質の実証設備の生産能力の増強や 27 年の量産を目指すなど企業や研究機関で研究開発が加速。 そのカギとなるのがイオン伝導性の向上だ。

高いイオン伝導性の達成には、より高温で熱力学的に安定な結晶構造が必要。 大阪府立大学(現大阪公立大)の木村拓哉大学院生(研究当時)や大阪公立大の辰巳砂昌弘学長、林晃敏教授らの研究チームは結晶化において加熱や冷却の温度を制御することで、条件を満たす構造を持つ電解質の作製を目指した。 具体的には 1 分間に約 400 度 C に上昇させる速度で約 280 度 C まで電解質を組成する材料を加熱させた後、ステンレス板でこれを挟んで室温まで急冷した。

処理を行った結果、25 度 C の室温下において、過去の研究で作製した構造の最大 1 万倍のイオン伝導性を示し、安定化したことを確かめた。 「開発した合成法は、使用した硫化物系以外の電解質にも適用できる(林教授)」という。 成果は米国化学会誌 (JACS) 電子版に 21 日掲載された。 (NewSwitch = 6-22-23)


出光、全固体電池向け固体電解質の生産能力を増強へ

[東京] 出光興産は 19 日、全固体リチウムイオン二次電池の普及・拡大へ向け、固体電解質の小型実証設備第 1 プラントの生産能力を 2024 年度内に増強すると発表した。 今年 7 月から同第 2 プラントの稼働も開始し、全固体電池を開発する自動車・電池メーカーなどへの固体電解質の供給を進める。 (Reuters = 6-19-23)


日本が全固体空気二次電池を開発、中国名門大教授「中国メーカーは重視を!」―中国メディア

5 月 25 日、毎日経済新聞は、日本の大学が新たな全固体空気二次電池の開発に成功したことを伝えるとともに、清華大学の教授が中国メーカーに対しこの分野への重視を呼びかけたことを報じた。

記事は、山梨大学と早稲田大学が 5 月 19 日、イオン交換膜を電解質とし、酸化還元活性を持つ有機化合物を負極とする全固体空気二次電池を開発したと発表し、研究成果の論文がドイツ化学会の学術雑誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に掲載されたと紹介。 従来の空気電池に比べて安全性が高く、電極性能低下の原因となる水分を用いないといった特徴があり、今後材料の性能向上、耐久性の改善によりスマートフォンなどのモバイルデバイスの電源として利用できる可能性があると伝えた。

そして「現在世界において、全固体電池に最も多く投資をしているのは日本企業だ」とし、この分野で最も多くの技術特許を持つトヨタが 2025 年までに全固体電池の小規模生産、30 年までに安定的な量産を実現する計画を立てているほか、ホンダも 4 月 26 日の記者会見において液体リチウムイオン電池の開発と並行して半固体・全固体電池などの次世代電池の開発、発表に取り組み、24 年に全固体電池のモデル生産ラインを動かす計画を明らかにしたと紹介している。

その上で、既存の液体電池が安全性に問題点を抱え、産業界ではさらに高いエネルギー密度が求められつつある中で新技術として固体電池が脚光を浴びる一方、その実用化に向けてはなお一定の開発期間が必要であることから、当面は固体と液体のハイブリッド型電池が主流となり、徐々に全固体電池に置き換わっていくとの見方を華泰証券が示し、30 年には全固体電池の世界市場規模が 3,000 億元(約 5 兆 9,000 億円)にまで膨らむと予測していることを伝えた。

記事はまた、4 月 16 日に上海市で行われた世界動力電池大会のプレフォーラムで座長を務めた中国科学院会員で清華大学教授の欧陽明高(オウヤン・ミンガオ)氏が「全固体電池技術は現在なおも多くの課題に直面しているが、それでもわれわれが追い求めるに値する目標であることに変わりはない」と述べ、中国の新エネルギー車企業や電池企業に対して全固体電池技術を重視するべきだと提言していたことを伝えた。 (川尻、Record China = 5-26-23)


FDK が 23 年度内にも量産、「全固体電池」の特徴は?

FDK は 2023 年度内にも全固体電池を湖西工場(静岡県湖西市)で量産する。 まずは工場設備向け製品の生産を始め、IoT (モノのインターネット)機器やウエアラブル機器、車載電装品向けなど幅広く提案する。 フル生産した場合の月産能力は 30 万個を見込む。 将来的には「容量を増やした(全固体電池の)次世代バージョンの製造も考えている。(長野良社長)」 ニッケル亜鉛電池なども含めた次世代電池事業の育成を急ぐ。

FDK の全固体電池には酸化物系の固体電解質が用いられている。 小型かつ表面実装部品 (SMD) に対応し、安全性も高い点が特徴。 顧客の要望への対応が必要になったことや、「想定していなかった技術的な問題が出てきた(長野社長)」ことで量産が遅れていた。 このほど技術課題の解決にめどがつき、顧客との調整も進んでいることから、23 年度の出荷を見込む。

同社は 23 - 25 年度にかけて全固体電池を含めた次世代電池に約 15 億円を投資する計画。 新たな全固体電池の製造に当たっては、数年後にも別途、投資が必要になる見通しだ。 次世代電池には全固体電池のほか、ニッケル亜鉛電池や水素/空気二次電池を含む。 中でも「ニッケル亜鉛電池は量産試作として、多くのサンプル品を製造している。(同)」 既存事業ではリチウム電池で 23 年度に十数億円の投資を計画。 内製化や製造効率向上を目指す。 (NewSwitch = 5-18-23)


次世代電池の本命探る リチウムイオンに代わるのは

電気自動車 (EV) やモバイル端末、蓄電池などに幅広く使われるリチウムイオン電池の「次」を狙った開発競争が激しくなっています。 性能や安全性を向上させる本命の 1 つが全固体電池です。 リチウム資源の価格高騰や安定調達の観点からリチウムを使わない電池の開発も進んでいます。

安全な全固体電池、開発正念場

次世代電池の本命とされてきたのが、「全固体リチウムイオン電池」です。電解液を液体から固体にするのが特長です。 一般的なリチウムイオン電池に比べ安全性が高くなり、エネルギー密度の向上や高速充電が期待されています。 EV 向けでの開発が先行していて、トヨタ自動車やホンダ、日産自動車などが開発を進めています。

EV への搭載は 2020 年代後半になると想定されています。 マクセルは産業機械向けに大容量の全固体電池を量産しています。 調査会社の富士経済(東京・中央)によると、全固体電池の市場規模は 40 年には 3 兆 8,605 億円にまで拡大しそうです。 ただ、電解質が固体のため、充放電により電極が膨張・収縮すると電解質が離れ、性能が低下するなど課題は残っています。

ナトリウムイオン、フッ化物 … 脱リチウム狙う

脱リチウムイオンを目指し、ナトリウムイオンやフッ化物イオン、マグネシウムイオンなどを使う電池の開発も進んでいます。 リチウムと違って原料を安く確保できたり、運べる電子の量が増えて性能が向上したりする可能性もあります。 ナトリウムイオン電池は電圧やエネルギー密度が低く、リチウムイオン電池に比べると性能が落ちます。 フッ化物イオン電池はリチウムイオン電池よりもはるかに高い性能が出ると期待されていますが、電極の最適な材料が見つかっておらず、実用化は 35 年以降ともいわれています。 (nikkei = 5-5-23)


主要部材全て結晶化ガラス、新開発「全固体電池」が実現する性能
日本電気硝子が早期実用化へ

日本電気硝子は、主要部材が全て結晶化ガラスで構成された全固体ナトリウム (Na) イオン二次電池を開発した。 有機系電解液より Na イオン伝導性が高い結晶化ガラス製の固体電解質を新たに開発し、すでに開発していた結晶化ガラス製の正極と負極と一体化した。 広い温度範囲で稼働可能なのが特徴。 幅広い用途での利用を見込み、早期の実用化を目指す。

新開発の全固体電池は主要部材である正極と負極、固体電解質を全て結晶化ガラスで統一した。 電解質が固体のため温度によって蒸発したり凍結することがなく、マイナス 40 - 200 度 C まで、広い作動温度域を実現。 出力電圧は 3 ボルトで、現行のリチウムイオン二次電池に匹敵する。 同社が以前開発した固体電解質にベータアルミナを活用している全固体電池より、フラットかつ薄いのも特徴。 これにより、電池の設計自由度が高まるという。 資源量が豊富な Na を活用でき、安定な物質である酸化物材料で構成されているため、クギなどが刺さっても発火や有害ガスが発生しない高い安全性が特徴。 (NewsWatch = 3-5-23)

〈編者注〉 素人目でも、これで決まりと思えるほどの「全固体電池」です。 車と言わず、携帯の電池が置き換われば、「携帯でやけど」といった事故もなくなることでしょう。


全固体電池、立ちはだかる 3 つの壁 険しい主役への道

「次世代電池の大本命」とされてきた全固体電池は開発が遅れ気味だ。 背景には大きく 3 つの技術的な課題があり、いまだ解決できていない。 全固体電池の開発に傾倒してきた日本は、従来の電池技術で中韓に逆転を許して政策転換を迫られる事態にもなっている。 国や企業は今後、資金や人的資源をどこにどれだけ投資するのかより慎重に見極める必要がある。

全固体電池はリチウムイオン電池の液体電解質を固体に置き換えたもの。 発火の危険性が低く、セルを容易に積み重ねられるため体積あたりの蓄電量を 3 倍にできるとされる。 次世代電池の主役に躍り出たが、3 つの課題が立ちはだかる。 1 つ目は充放電により電極が膨張収縮すると固体電解質との界面が離れ、性能が低下する問題だ。 2 つ目に、そもそも固体電解質の中では電気を運ぶイオンが動きにくい課題がある。 固体電解質の中でも硫黄系の材料はイオンが比較的動きやすいと期待されている。 ただ、電池の製造時や故障時に有害な硫化水素を発生する可能性があるのが、3 つ目の壁だ。

全固体電池は当初、2020 年代前半の EV 搭載を期待されたが、開発が遅れた。 ホンダや日産自動車は 20 年代後半に EV 搭載をめざす。 関連特許で世界最多の出願数を誇るトヨタ自動車は 20 年代前半にハイブリッド車で実用化をめざすが、EV への搭載時期の目標は 20 年代後半を掲げる。 韓国の大手電池メーカー、サムスン SDI の元常務で現在は名古屋大学客員教授の佐藤登氏は「全固体電池は次から次に課題が出てくる。 EV で実用化するとしても 30 年以降になるだろう。」と慎重に見通す。

従来の電池開発がおろそかになった弊害も出てきた。 経済産業省は 22 年 3 月に実施した官民協議会で、これまでの「全固体電池に集中投資」する政策について異例の反省の弁を述べた。 中韓の企業が従来の電池の技術や競争力で日本を逆転したことで「全固体電池の実用化に至る前に、日本企業は疲弊し、市場から撤退する可能性」があると言及。 液系電池の生産基盤強化への大規模投資に対し支援を行う方針を打ち出した。

LFP など旧来の技術を使った液系電池の進歩は近年著しく、全固体電池との開発競争は激しい。 どの電池が主導権を握るかはまだ見通せない。 国や企業は様々な電池の技術動向をにらみながら開発を進めることが必要になりそうだ。 (nikkei = 1-30-23)


「全固体ナトリウム電池」実現へ、電極形成法を開発 九州大学が実現

九州大学の賈淑帆研究員と林克郎教授らは、全固体ナトリウム電池の電極形成法を開発した。 電極と電解質の接触状態が改善し、過電圧を低く抑えられた。 塗布で形成でき実用化しやすい。 ナトリウムを使うことで資源リスクを抑えられ、安全性の高い電池の実現につながる。 酸化物系セラミックスの全固体電池を開発する。 ナトリウムとジルコニウムなどを含む NZSP セラミックス電解質とナトリウムとチタンなどを含むNTP電極活物質を組み合わせる。NZSPとNTPは結晶構造が同じで化学組成も似ているため親和性がある。

ただ焼結すると性能が落ちる。 そこで NTP 組成のガラス粉末を塗布して低温で焼結する方法を開発した。 加熱温度は 850 度 C。 電極と電解質が緻密に接触する。 半電池を作ると 2.2 ボルトで充放電でき、過電圧は 0.03 ボルトと低かった。 マイナス 20 度 C の環境での容量低下はリチウムイオン電池 (LiB) よりも少なかった。 時計の駆動もできる。 酸化物系全固体電池は熱的、化学的、機械的に丈夫で安全性が高い。 ナトリウムで実現することで、リチウムの資源制約から解放される。 (NewSwitch = 1-10-23)


全固体電池の耐久性問題解消、原子レベルで体積不変の正極材が開発された!

横浜国立大学の小沼樹大学院生と藪内直明教授らは、原子レベルで体積変化しない全固体電池の正極材料を開発した。 リチウムイオンが電極物質に脱挿入されても結晶格子の体積が変わらないため劣化を抑えられる。 硫化物系電解質と全固体電池を構成し耐久性を検証すると、400 回の充放電では劣化は見られなかった。 全固体電池の耐久性問題の解消につながる。

岩塩型の結晶構造を持つリチウム過剰バナジウム系材料を開発した。 放電時にリチウムイオンが挿入されるとバナジウムは 3 価、充電時にリチウムイオンが抜けるとバナジウムは 5 価のイオンになる。 リチウムイオンが抜けた分をバナジウムイオンが移動して膨らみ、結晶全体としての体積を一定に保つ。 電池は電極の体積が変化して電解質と電極の間に隙間ができ性能が劣化する。 体積変化がなければ劣化を防げる。

実際にリチウム合金を負極に硫化物系電解質と全固体電池を組むと容量は 1 グラム当たり 300mA 時、400 回の充放電では容量は変わらなかった。 全固体電池の普及に向け正極材料は大きな進展になる。 バナジウムの供給は中国とロシア、南アフリカに偏るものの、用途が特殊鋼に限られていた。 (NewSwitch = 12-14-22)


全固体電池市場、2040 年に 3 兆 8,605 億円規模へ
富士経済が世界市場規模を予測

硫化物系の全固体電池が市場をけん引

富士経済は 2022 年 11 月、世界の全固体電池市場を調査し、2040 年までの予測結果を発表した。 市場規模は 2022 年見込みの 60 億円に対し、2040 年には 3 兆 8,605 億円規模になると予測した。 特に、硫化物系の全固体電池が市場をけん引するとみている。 今回の調査は、高分子系や酸化物系、硫化物系など「全固体電池」 5 品目の他、ナトリウムイオン二次電池やカリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池といった「ポストリチウムイオン二次電池」 5 品目および、金属空気二次電池や全樹脂電池などの「新型二次電池」 9 品目を対象にした。 調査期間は 2022 年 5 - 11 月である。

固体電解質を用いた全固体電池は、液体の電解液を用いた従来のリチウムイオン二次電池と比べ、「温度変化に強い」、「安全性が高い」、「急速充電が可能」など多くの特長があり、電気自動車 (EV) の電源として注目されている。 「ESS (電力貯蔵システム)」や「ドローン」、「空飛ぶクルマ」といった飛行体などへの搭載にも期待している。 固体電解質として現在は、「高分子系」と「酸化物系」の材料が多く用いられ、わずかではあるが「硫化物系」も利用されている。 高分子系を用いた全固体電池は主に、カーシェアリングや路線バスなどの商用 EV 向けに搭載されているという。

酸化物系を用いた全固体電池は、小型サイズが中心で IoT (モノのインターネット)機器などへの搭載が進む。 一方、大型サイズについては、固体電解質をベースに電解液やゲルポリマーを添加した疑似固体の実用化が進んでいるという。 疑似固体を用いた電池は、中国製 EV への搭載が始まる見通しで、2025 年に向けて市場拡大が見込まれている。 この結果、酸化物系を用いた全固体電池の市場規模は、2022 年見込みの 39 億円に対し、2040 年は 1 兆 2,411 億円と予測した。

これに対し硫化物系の全固体電池は、xEV 向けとして期待されている。 トヨタ自動車が 2020 年代前半に HV へ搭載を予定。 2030 年までには EV への搭載も進み、2040 年に向けて市場の拡大が期待されている。 現状では市場規模も極めて小さいが、2040 年には 2 兆 3,762 億円規模が見込まれている。 (全固体電池の世界市場予測 出所 : 富士経済、馬本隆綱、EE Times = 11-25-22)


全固体電池の課題解決!?、加圧部品が要らない "柔固体" 電池がスゴい
住化・京大・鳥取大が開発に成功

柔軟性のある高分子固体電解質電池

住友化学は、京都大学や鳥取大学と共同で、電池作動のための加圧部品が不要で、柔軟性のある高分子固体電解質電池の開発に成功した。 1kg 当たり 230W/時の容量で、安定作動を確認。 電池の動作に必要な部品点数を抑えられ、大幅なコスト削減につなげられることが期待される。 新たな固体電解質を 3 者で開発した。 加圧することなく電極との界面を接合し、イオンの流れを円滑にすることで実現した。 研究を進め、2024 年めどに 1kg 当たり 500W/時の容量達成を目指す。

先行研究の全固体電池は、リチウムイオン二次電池の電解液を固体にしたものが主流。 硫化物系無機化合物を基本としているため硬い。 このため電池セルを加圧させ、固体電解質と電極との界面を接合させて電池を作動させている。 この方法では加圧に必要な部品の重量が増え、コストがかさむなどの課題があった。 (NewSwitch = 11-9-22)


充電中の全固体電池、リチウムイオンの動き捕捉に理研などが成功した意義

理化学研究所の小林峰特別嘱託研究員(研究当時)と日本原子力研究開発機構などの国際共同研究グループは、充電中の全固体電池内のリチウムイオンの動きを捉えることに成功した。 動きの解析から、固体電解質中のリチウムイオンの移動メカニズムおよび移動領域を解明した。 熱中性子ビームを入射し、それにより起こる核反応を利用してリチウムイオンの深さ分布を得る。 従来手法を最適化し、時間分解能 1 分、厚み 30 マイクロメートル(マイクロは 100 万分の 1)の試料まで分析可能にした。 充放電時間の短縮など、全固体電池の開発加速につながる。

正極にリチウム-6、濃度を 95.4% に濃縮したコバルト酸リチウム、固体電解質にリン酸リチウム、負極にはタンタルを用い、薄膜全固体電池を作製。 これに軽元素分析法の一種である中性子深さプロファイリング手法を応用し、入射エネルギー 0.025 電子ボルトの熱中性子を入射して、熱中性子誘起核反応により放出されるα粒子と三重水素粒子のエネルギースペクトルを測定した。 このスペクトルはリチウムイオンの表面からの深さ分布に対応しており、これによりイオンの動きを捉えた。

この動きを解析した結果、この固体電解質中でリチウムイオンは「空孔移動機構」と呼ばれる動き方をすることが分かった。 リチウムイオンが空孔を埋めるように移動し、この空孔が順に移動して固体電解質内でリチウムイオンが移動する。 また、リチウムイオンは固体電解質の全領域を一様には移動せず、約 16.2% の限られた領域だけを移動していた。 (NewSwitch = 11-2-22)


JAXA・日立造船が「全固体電池」で世界初、宇宙での充放電に成功した

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) と日立造船は国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」に設置した全固体リチウムイオン電池の実証実験を実施し、宇宙での充放電に世界で初めて成功した。マイナス40―120度Cの広い温度範囲で使用でき、設備の小型化や省力化につながる。月面設置の観測機器や探査機のほか、温度差の激しい環境下で使用する産業装置への搭載を見込む。

実験に使用したのは大きさ 65 ミリ x 52 ミリ x 2.7 ミリメートル、重さ 25 グラム、1 時間当たりの放電容量が 140 ミリアンペアの全固体リチウムイオン電池。実証装置を「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置した実験設備に取り付け、実験した。 今後は充放電の特性と電池の劣化に関するデータを取得し、実用化に近づける。 (NewSwitch = 8-16-22)


緩衝層導入で化学反応層形成を抑制 固体リチウム電池

東京工業大学と東京大学の研究グループは 2022 年 7 月、全固体リチウム電池において硫化物固体電解質と電極材料の界面に化学反応層が形成されると、極めて高い界面抵抗が生じることを解明したと発表した。 この界面に緩衝層を導入すれば、界面抵抗は 2,800 分の 1 に低減され、電池は安定動作することを実証した。 全固体リチウム電池は、高い安全性と高速充電が可能なことから、電気自動車や大型蓄電池への応用が期待されている。 しかし、硫化物固体電解質と電極材料の間に高い界面抵抗が生じ、大きな電流を流すことが極めて難しいなど、課題もあったという。

界面抵抗の起源としては、「空間電荷層」や「化学反応層」といったメカニズムが考えられている。 しかし、粉体型の全固体電池では構造が複雑であり、要因を解明するための定量的な研究は難しかったという。 そこで研究グループは、界面抵抗が増大するメカニズムを解明し、界面抵抗を低減する手法を見いだすことにした。

実験では、硫化物固体電解質に Li3PS4 薄膜、電極に LiCoO2 (001) エピタキシャル薄膜を用いて、薄膜型全固体電池を作製したが、正常な動作はしなかった。 ところが、Li3PS4 と LiCoO2 の界面に、緩衝層として厚み約 10nm の Li3PO4 固体電解質を導入した。 そうすると電池が動作した。 緩衝層を導入したことで、Li3PS4 と LiCoO2 の界面抵抗は、導入前に比べ 2,800 分の 1 に低減することが分かった。

研究グループは、透過型電子顕微鏡による界面構造の観察や、エネルギー分散型 X 線分光法と電子エネルギー損失分光法を用い、界面周辺の構成元素や電子状態の分析などを行った。 Li3PS4 と LiCoO2 の界面においては、硫黄が LiCoO2 電極に拡散する。 さらに、LiCoO2 表面近傍で構造が変化し、化学反応層が形成されることが分かった。 構造変化によって、界面近傍では LiCoO2 電極のコバルトが還元していることも判明した。

一方、Li3PO4 緩衝層を導入した界面では、硫黄の拡散やコバルトの酸化状態が変化するようなことは確認できず、LiCoO2 (001) 表面が原子レベルで堅持されていることが分かった。 これらの結果により、界面における高抵抗のメカニズムは、固体電解質と電極の界面で発生する化学反応層に起因することが分かった。 ここに緩衝層を導入すれば、化学反応層の形成を抑えることが可能なことも示した。

今回の研究成果は、東京工業大学物質理工学院の西尾和記特任准教授と今関大輔大学院生(研究当時)、東京大学大学院理学系研究科の一杉太郎教授(東京工業大学物質理工学院応用化学系特任教授を兼務)らによるものである。 (馬本隆綱、EE Times Japan = 7-27-22)


全固体電池を量産するマクセル、社長が語る戦略

マクセルは、京都事業所(京都府大山崎町)に全固体電池の生産ラインを導入し、2023 年度の中ごろから後半に量産を始める。 投資額は約 20 億円。 まず工場自動化 (FA) 機器向けに生産を始め、将来は医療分野での展開を見込む。 全固体電池の売上高は 23 年度に 10 億円以上、30 年度までに 300 億円規模を目指す。 同社は全固体電池を重要な新規事業の一つと位置付けて育成に力を注ぎ、強固な事業ポートフォリオの構築にもつなげる。

全固体電池量産のため、京都事業所内の空き地に生産ラインを設置する方針。 部材不足などの外部環境の影響を考慮し、23 年度の中盤以降のライン稼働および製品の販売を計画する。 FA 機器をはじめとする産業用途向けで発売した後、ウエアラブル端末や先進運転支援システム (ADAS)、医療機器といった多方面に全固体電池を展開していきたい考え。

これまで基板への表面実装に対応した硫化物系全固体電池や、硫化物系コイン型全固体電池を開発してきた。 既にサンプル出荷をしており、京都事業所で量産する方針だ。 マクセルの全固体電池は小型で、安全性や耐熱性、寿命や出力といった特性を追求している。 幅広い温度で動作し、硫化物系コイン型全固体電池は、マイナス 60 度 - プラス 125 度 C での温度環境で使用できる。

中村啓次社長は、全固体電池の戦略について「今ある電池の困りごとを解決できるような分野から使っていただき、将来的には全固体電池でなければならない用途に展開したい」と述べる。 将来、全固体電池を経営の柱としたい考え。 全固体電池のほかヘッドアップディスプレー (HUD) などを含む新規事業への注力により、事業ポートフォリオの新陳代謝も図る。 (NewSwitch = 7-14-22)


日本特殊陶業、全固体電池を 25 年実用化 宇宙で性能検証

日本特殊陶業は次世代電池の全固体電池を 2025 年にも実用化する計画だ。 航空・宇宙や自動車、ヘルスケアなどでの活用を想定し、22 年末ごろには宇宙空間での性能検証も予定する。 同社は自動車のエンジン関連が主力だが、電気自動車 (EV) シフトを受けて事業構造の転換を急いでいる。 これまでに培ったセラミック技術を応用し、新たな収益源の確立を目指す。

全固体電池は電流を発生させるために必要な電解液を固体電解質に置き換えたものだ。 リチウムイオン電池と比べて発火リスクが低く、低温や高温の環境下でも性能を発揮できる。 電池設計の自由度が高く、電池パックを軽量かつコンパクトにできる。 次世代電池の最有力候補とされ、開発競争が熱を帯びている。

全固体電池は「硫化物系」と「酸化物系」に大きく分かれる。 硫化物系は大容量・高出力、酸化物系は安全性が高い。 日特が開発するのは酸化物系で、セラミックスをシート状に積層する技術を応用している。 リチウムイオンの通りやすさを示すイオン伝導率は、このタイプの電池の中では最高水準に上る。 イオンが動きやすくなると、電池の出力を高められる。

試作品として製造したのは寸法 30 - 110 ミリメートル角で、容量は 0.5 - 10 ワット時。 体積エネルギー密度は 1 リットル当たり 300 ワット時を達成した。 一般的なリチウムイオン電池の動作温度範囲がセ氏 -20 - +60 度程度であるのに対し、-30 - +105 度までの広い温度域で使用できる。 ただ現状では容量が小さく、コストは高いため、さらなる改良を進めている。

人工衛星やロケットのほか、EV、医療機器、家庭用蓄電池などでの採用を狙う。 メーカーなどにサンプル品を提供している。 鈴木啓司上席執行役員は「全固体電池のニーズは今後高まっていく。 早期に市場参入することで、導入先を開拓していきたい。」と意気込む。 宇宙分野では、宇宙スタートアップ ispace (アイスペース、東京・中央)の月面探査プログラム「HAKUTO-R」に参画する予定だ。 22 年末ごろに打ち上げる月面着陸機に全固体電池を載せ、宇宙空間で温度変化や振動への耐性を試験する。

日特は自動車エンジン点火プラグや排ガス検知センサーが主力で、内燃機関事業が連結売上高の約 8 割(22 年 3 月期)を占める。 脱炭素で EV へのシフトが進むなか、「代替となる新事業の確立を目指しており、電池事業は有力候補の一つ(鈴木上席執行役員)」とみる。 40 年には内燃機関事業の比率を現在の 8 割から 4 割に下げ、非内燃機関事業の比率を 2 割から 6 割に上げる計画だ。 (清水涼平、nikkei = 7-2-22)


固体電池開発「太藍新能源」が資金調達
液体電池と同等のコストで安全性などの向上に成功

固体電池を開発する「太藍新能源 (Talent New Energy)」がシリーズ A++ で数億元(数十億 - 百数十億円)を調達した。 出資を主導したのは中金資本 (CICC Capital)、招商局創投 (Chins Merchants Venture) で、清華大学系の清研資本 (Tsari Capital) なども出資に参加した。 太藍新能源の資金調達は過去 3 カ月で 2 回目。 今年 3 月には不動産開発大手・碧桂園 (Counry Garden) 傘下の碧桂園創新投資 (Country Garden Venture Capital) の単独出資によるシリーズ A+ を実施している。

今回調達した資金は主に生産ラインの建設や製品開発、人材育成に充てる。 また、技術リソースの集約を加速し、北京に研究室や R & D センターを新設して半固体リチウムイオン電池の量産化や商用化を進めていくとしている。

太藍新能源は 2018 年に設立され、次世代の固体リチウムイオン電池やその材料技術の開発・産業化に特化したスタートアップだ。 李彦 CEO によると、同社の中心をなす技術要員は日本や欧米などの世界トップクラスの開発プラットフォームで固体電池の関連技術や関連材料の開発・研究に長年携わってきており、固体電池の産業化に向けた開発ですでに重要な成果を得ている。

エネルギー密度の引き上げは電池業界がずっと抱えてきた難題だ。 現行の液体リチウムイオン電池は航続距離や安全性、耐用年数などでボトルネックに直面しており、電池メーカーは材料や構造を刷新することで現状打開を図っている。 これまでのリチウムイオン電池が採用してきた電解液と比べ、固体電解質は熱暴走をなくし、エネルギー密度を上げられるなどの利点を持つ。 固体電池の技術路線は採用する固体電解質の種類によって酸化物系、硫化物系、ポリマー系の 3 種類に分けられ、形態では固体・液体のハイブリッド、半固体、全固体の 3 種類に分けられる。

太藍新能源は 2018 年の設立当初から酸化物系を採用し、半固体電池から徐々に全固体電池へと移行する計画を立てていた。 「固体電池を産業化させるための技術体系については、我々は 2 年かけておおかたの検証を終えた。 昨年 7 月には初製品の半固体三元系リチウムイオン電池のテストを完了し、速やかに資金調達を実施して製造拠点の建設に充てている」と李 CEO は述べている。

同氏の説明によると、同社初の半固体電池は安全性、エネルギー密度、放電レート、サイクル寿命などがそれぞれ現行の液体電池より向上している一方で、生産コストはこれまでと同等の水準に抑えており、量産化できればさらにコストが下がる可能性もあるという。 安全性については、固体電解質を採用することでこれまで液体電池が抱えてきた発火や爆発などのリスクをなくせる。 エネルギー密度については 350Wh/kg に達しており、現行の中国製駆動用電池から 30% も向上している。 放電レートについては、急速充放電が 10 分間連続で可能となっている。 動作温度については、-20degC から 60degC までの範囲で使用できる。

材料コストについては、セパレーターを取り除く技術を開発したことで電解液の使用量を大きく減らし、約 20% の削減に成功した。 セルそのものの安全性が向上したことで、電池パックにかかる安全制御のコストも大幅に下がり、コスト全体でみると 30% 以上も減らせたという。 李 CEO によると、生産能力 0.2GWh を有する同社初の半固体駆動用電池の生産ラインが今年 10 月から稼働する予定で、主に新エネルギー車や電動自転車、インテリジェントロボット向けの製品を製造していく。

新技術を採用する電池の生産ラインをゼロから立ち上げるのはもちろん簡単ではない。 太藍新能源の生産ラインは 80% 以上の工程が液体電池の成熟した製造技術を基にしていると李 CEO は説明した。 同社の半固体電池は、次世代電池の新技術としての材料体系や中核の製造技術に関する課題をほとんどクリアした。 しかし産業化に向けては、製品の一貫性や生産効率を徐々に改善し向上させていくという課題にいまだ取り組んでいる。

電解液と異なり、固体電解質は不燃性や機械的強度を備えているため、電池の安全性を高められる。 だが、構造設計や注入工程のソリューションが未熟なら、エネルギー密度や放電レート、サイクル寿命など重要な性能に対して明らかに負の影響が及ぶほか、生産効率や製品の一貫性に新たな課題をもたらすこととなり、製造コストも跳ね上がる。 半固体電池の検証を終えたことで、太藍新能源は年末か来年初めには生産能力 1 GWh の生産ラインの建設に着手するという。 さらに来年には10GWh の生産ライン建設も計画している。

「ミドルレンジからハイエンドの駆動用電池市場で、我々は市場シェアの一部は獲得できるだろう。 この点では自信がある。」と李 CEO は述べた。 太藍新能源は現在主に自動車の駆動用電池を生産しており、その他にドローン、3C (コンピューター、通信機器、消費者向け電化製品)、蓄電などの市場に向けた固体電池も開発中だという。 (36Kr Japan = 6-21-22)


ライフルで射抜かれても発火せず 「絶対安全な電池」に広がる市場

鈍く光る電池の裏側には、銃弾が飛び出したギザギザの傷口が残っていた。 川崎市にある工場入り口には、ライフル銃で射抜くテストでも発火せず作動し続けたリチウムイオン電池 (LIB) が展示されている。 2013 年に航空機に採用された LIB で発火事故が相次いだ。 その中で、世界トップクラスの科学誌ネイチャーが注目したのが日本のメーカー、エリーパワーの電池だった。

同誌主催の講演会に、エリーパワーの幹部が登壇。 安全性が高い電池を探していた米軍関係者からも問い合わせがあった。 同社の LIB は、正極にリン酸鉄リチウムという材料を使うなど工夫したため、鉄のクギを刺しても発火しない。 創業者の吉田博一会長は「電池は絶対安全でなくてはいけない」と話す。

1 万種以上から選ぶ「究極」の素材 次の電池めぐり、激化する開発

通常の LIB は、「電解液」という液体を材料に使う。 電解液には有機溶媒という可燃性の液体が使われ、火がつく引火点は約 40 度と低い。 液体のため、液漏れする可能性もある。 様々な安全対策が施されているものの、どうしても発火事故のおそれがつきまとう。 飛行機に乗る際、LIB を使用した予備電源用モバイルバッテリーを荷物として預けることができないのも、発火事故のおそれがあるためだ。

LIB の事故情報を集計している製品評価技術基盤機構 (NITE) によれば、国内では 17 - 21 年に少なくとも 1,272 件の事故が確認された。 死亡事故が 3 件、やけどなど重軽傷の被害が 81 件起きている。 電池を制するものが、未来をリードする - - 暮らしに欠かせない携帯機器の性能を伸ばし、脱炭素社会の実現に貢献し、産業競争力のカギを握る。 リチウムイオン電池が実用化されてから 30 年余り。 いま、「次世代の電池」をめぐる研究・開発競争が激化している。

対策を取る動きは広がっている。 電機大手 OKI 傘下の沖エンジニアリング(東京)は昨年、LIB の事故解析サービスを始めた。 高森圭事業部長は、「事故が起きれば製品リコールにつながる可能性もあり、相談が増えています」と電池の事故調査を始めた背景について説明する。 燃えた原因は何か。 高温など過酷な条件か、強い衝撃か、長時間使い続けたのか。 調査の依頼者に聞き取り調査もしたうえで、まるで探偵が推理するように事故原因を探っていく。

当初想定の 3 倍にあたる相談が寄せられているほか、事故を起こした製品の調査だけでなく、倉庫で保管している電池が事故を起こす可能性がないか調べて欲しい、という依頼も増えてきた。 今年 9 月には、新たに LIB に充放電を繰り返すなどストレスを与え、性能を評価する新しい事業も始める計画だ。

「燃えない LIB」に向けた研究も進む。 電池研究者の間では、新型の燃えない電解液に、いくつかの材料が挙げられている。 有力な候補のひとつが「イオン液体」という材料だ。 食塩(塩化ナトリウム)のように、プラスとマイナスの電気を帯びたイオンで出来た物質で、室温ではとろみのある液体だ。 「メリットは安全なこと。 揮発しない、引火しない、膨らまない、そして軽い。」 イオン液体の電解液を研究する関西大学の石川正司教授はそう解説する。 電解液が燃えず、常温で気化しないため、レトルトカレーのような薄いアルミ容器で包んで、薄型電池を作れるのが特徴だ。

関西大学発ベンチャー企業のアイ・エレクトロライトが開発したイオン液体電池は 18 年 2 月、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) のロケットの電源として使われた。 コストなど課題はあるが、将来的には安全性をいかして再生可能エネルギーの電力貯蔵用の大型電池をめざす。 石川教授は「人が密集している場所にも置けるし、重くて鉛蓄電池が置けない建物の屋上にも設置できる」と話す。

燃えない水を電解液に使う「水系 LIB」も注目されている。 横浜国立大学や住友電気工業などの研究チームは昨年 11 月、水を材料に使って安全性を高めた新型 LIB の開発に成功したと発表した。 水系 LIB が実用化できれば発火の心配がなく、長寿命も見込めるため、再生エネの電気をためる定置型の蓄電池や、近距離用の電気自動車などへの応用が見込めるという。

ただ、水そのものは燃えないものの、水には高い電圧をかけると、電気分解して可燃性の水素ガスが発生してしまう性質がある。 そのため水を電解液に使う電池は、有機溶媒を使う現在の LIB に比べると低い電圧でしか使えない。 研究チームが試作した電池は、性能を示す値のひとつ「重量エネルギー密度」は現在の LIB のおよそ半分で、同じ容量の電池を作ろうとすれば、本体サイズを大きくする必要がある。

研究チームはなるべく電池の性能を落とさずにすむ電極の材料を探した。 モリブデン系酸化物を負極に使うと実用化につながる性能を出せることを発見したが、モリブデンはレアメタル(希少金属)の一種のため、実用化にはコストが課題になる。 横浜国立大の藪内直明教授は「現在は次のステップとして、水系の電解液に組み合わせられる、モリブデン以外で高い性能を出せる電極の材料を探している」と話す。

電解液を使わない全固体電池など次世代電池が注目を浴びる中、それでも従来の液系 LIB の改善にも力が注がれるのは、この分野に、まだまだ伸びる余地があるからだ。 調査会社の富士経済(東京)によれば、LIB は電気自動車向けなどに市場拡大が続いている。 20 年に比べて、21 年は約 6 割増の 10 兆円、25 年には約 8 割増の 12 兆円を超す見通しで、大きな市場が将来的にも広がっている。 伝統と実績の LIB、可能性を秘めた次世代型。 未来の電池の座をめぐる戦いは今日も続いている。 (小堀龍之、鈴木智之、asahi = 6-14-22)


全固体電池のコスト削減、硫化物系固体電解質の量産技術を開発

豊橋技術科学大学の蒲生浩忠大学院生と松田厚範教授らは、硫化物系固体電解質の量産技術を開発した。 高極性溶媒分子で多硫化リチウムを安定して溶かす。すると 24 時間の反応が 2 分に短縮した。 全固体電池の電解質生産コストを大幅に下げる可能性がある。 アセトニトリルとテトラヒドロフランの混合溶媒に極性の高いエタノールを微量に加え、原料の硫黄を過剰に加える。 するとリチウムイオンがエタノール分子に包まれ、硫黄種のラジカルアニオンが安定化する。

このラジカルアニオンが五硫化二リンと反応して硫化物系電解質の前駆体が生成する。 溶液中で反応が進むため効率が高く、反応時間が 2 分に短縮した。 硫化物系固体電解質のイオン導電率は 1 センチメートル当たり 1.2 ミリジーメンス。 従来法は同 0.8 ミリジーメンスや 1.0 ミリジーメンスだった。 不溶性の中間体を経由して合成していたため反応が遅かった。 (NewSwitch = 5-23-22)