「日清キャノーラ油」また値上げ 昨年 4 月から 6 回目 日清オイリオ

日清オイリオグループは 11 日、「日清キャノーラ油」など家庭向け食用油について、小売店などに売る価格を 10 - 20% 引き上げると発表した。 飲食店や食品メーカー向けの油も 15 - 30% 値上げする。 ともに 7 月 1 日納品分から。値上げは昨年 4 月以降、6 回目になる。 菜種を輸出するウクライナの混乱や、インドネシアによるパーム油の輸出制限などが相場を押し上げた。円安も影響し、「コスト環境は過去にない厳しい状況が続くと見込まれる(広報)」という。 J-オイルミルズも 7 月 1 日納品分から、食用油の価格を引き上げると発表している。 (山下裕志、asahi = 5-11-22)


食品値上げ、店頭価格に浸透 9 割 物流費や原材料高騰で

食品の値上げが店頭価格に浸透し始めた。 メーカーが昨秋以降に値上げを打ち出したパンや冷凍食品など 14 品目のうち 9 割の店頭価格が 2 月までに上昇した。 前回値上げ表明が相次いだ 2019 年は 6 割弱だった。 物流費などの上昇に小麦など原材料価格の高騰が重なり、メーカーの強気な姿勢が目立つ。 食品の値上げは 4 月以降も続く。 賃金の上昇が小幅にとどまる中、ガソリン価格なども上がっており消費の重荷になる可能性がある。 全国のスーパー約 470 店の販売データを集める日経 POS (販売時点情報管理)情報をもとに昨年 11 月と今年 2 月の平均店頭価格を調査した。

食品の主要 60 品目の中で昨秋以降にメーカーが値上げを表明したのは 14 品目ある。 そのうち 12 品目の店頭価格が上昇した。 前回の値上げ局面の 19 年は 7 品目のうち 4 品目の上昇(値上げ表明前と半年後の価格の比較)にとどまっており、店頭価格への転嫁が早いペースで進んでいる。 食パンと菓子パンは 6 - 7% それぞれ上昇した。 冷凍食品と乾燥パスタはともに 3% 上がった。 菓子パンは最大手の山崎製パンが 1 月に、冷凍食品もニチレイフーズが 21 年 11 月に値上げした。 価格転嫁が想定通りに進んでいる商品も目立つ。 山崎パンは食パンを平均 9% 引き上げると表明し、2 月の店頭価格も 9% 上がった。

これまでメーカーが値上げを表明しても小売り側が拒み、店頭価格に反映される商品は限られていた。 今回の値上げが浸透しているのはかねての物流費や人件費の上昇に加え、原材料の高騰が重なってメーカーが強い姿勢で要請しているからだ。 メーカーは店頭での値引きや特売の原資となる販売奨励金も減らしており、小売りも利益を確保するため店頭価格に転嫁せざるを得ない状況だ。 国連食糧農業機関 (FAO) によると、2 月の世界の食料価格指数(14 - 16 年 = 100)は 140.7 と前月比 5.3 ポイント上昇し、11 年ぶりに過去最高を更新した。 日銀がまとめた 2 月の企業物価指数も前年同月比 9.3% 上昇した。 上昇率は石油危機の影響があった 1980 年 12 月 (10.4%) 以来およそ 41 年ぶりの高水準となった。

2 月にしょうゆなどを値上げしたキッコーマンの中野祥三郎社長は「大豆の価格が大きく上昇し価格を改定しなければ事業として続けられないようなレベルだ」と指摘する。 大手スーパーも「メーカーが次々に値上げする中で自社で吸収するのは限界がきた」と語る。 食料品の相次ぐ値上げは物価全体を押し上げている。 2 月の消費者物価指数(CPI、20 年 = 100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が 100.5 と前年同月比 0.6% 上昇した。 そのうち食料品が 0.35 ポイント押し上げた。

4 月以降も値上げが相次ぐ。 ケチャップが 7 年ぶりに、飲料や即席麺も 3 年ぶりに値上げされる。 ロシアのウクライナ侵攻で小麦などの価格が一段と上昇しているうえ、足元で進む急激な円安も物価上昇に拍車をかける。 相次ぐ値上げで消費者の節約志向は強まりつつある。 価格に敏感な消費者の一部は小売店の割安なプライベートブランド (PB) 商品に流れている。 イオンや西友は PB の価格据え置きを表明し、一部の商品は販売が伸びている。 (nikkei = 4-1-22)


スタバ値上げへ ラテやフラペチーノなどほぼ全商品、4 月 13 日から

スターバックスコーヒージャパンは 22 日、ほぼすべての商品を値上げすると発表した。 その幅はコーヒーやラテ、フラペチーノなどの定番商品の 7 割では 10 - 55 円ほど、コーヒー豆では 90 - 300 円ほどだ。 値上げは約 1,700 ある国内全店で 4 月 13 日から実施する。 物流費や原材料価格が高騰しているためという。 定番のドリップコーヒー(トールサイズ)の税抜き価格は 330 円から 355 円に、スターバックスラテ(同)は 380 円から 414 円に、それぞれ値上げする。 植物性ミルクを使った 3 商品のみ、各サイズで 12 - 16 円値下げする。 ソイラテとアーモンドミルクラテ、オーツミルクラテだ。 同社の広報は「値下げによって選択肢を提供したい」としている。 (asahi = 3-22-22)


輸入小麦価格、17.3% 引き上げへ 過去 2 番目の高値

政府は 4 月から、輸入した小麦を製粉業者などに売る時の価格を今より平均 17.3% 引き上げる。 対象の 5 銘柄の平均価格は 1 トンあたり 7 万 2,530 円で、過去 2 番目の高値となる。 農林水産省が 9 日発表した。 小麦粉やパン、麺類などの食品のいっそうの値上げと、家計の負担増につながりそうだ。 日本は小麦の需要の 8 - 9 割を輸入に頼る。 外国産は、政府が計画的に輸入し、製粉業者などに売り渡すしくみになっている。 その「政府売り渡し価格」は、直近 6 カ月間の買い付け価格などをもとに半年ごとに見直される。

今回改定したのは 2022 年度上半期(4 - 9 月)の分で、19% 上げた 21 年度下半期に続いて大幅に引き上げる。 今の相場連動制になった 07 年度以降では、08 年度下半期の 1 トンあたり 7 万 6,030 円に次ぐ高水準だ。 この時は新興国の食料需要とバイオ燃料用の穀物需要がともに増え、小麦が世界的に高騰した。 今回は、輸入の大半を占める米国産やカナダ産の不作で、国際価格の上昇傾向が続いたほか、豪州産も品質の低下の影響で日本向けの高品質小麦が値上がりした。 今年に入ってからは、主な産地であるロシアの輸出規制や、ウクライナ情勢の緊迫化も相場を押し上げた。 また、円安も買い付け価格の上昇につながった。

国内では昨年 10 月からの前回改定で売り渡し価格が上がった後、家庭用小麦粉や、小麦を使うパンなどの値上げが相次いだ。 製粉業者は、売り渡し価格の改定から 3 カ月ほどたってから小麦粉の販売価格に反映することが多い。 今年も夏ごろから小麦関連食品の値上げが続く可能性がある。 売り渡し価格が食品の小売価格に与える影響は、原料の小麦代の割合が高いものほど大きくなりやすい。 農水省は今回の引き上げの影響について、家庭用薄力粉で 4.4% 増(1 キロあたり 12.1 円)、食パンでは 1.5% 増(1 斤あたり 2.6 円)と試算している。 (五郎丸健一、asahi = 3-9-22)


ウクライナ情勢、日本の食卓に影 「カニの取り合い始まっている」

ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、日本の食卓への影響を危ぶむ声が上がっている。 鮮魚店では海の幸が値上がりし、穀物の価格高騰や原油高は家計を圧迫しかねない。 遠い国で起きた戦争が、身近な暮らしにも影を落とす。

3 日昼すぎ、東京・築地の鮮魚店「斉藤水産」で仕入れを担当する男性従業員 (40) が危機感を募らせていた。 「すでにカニの取り合いが始まっている。」 国産のカニの仕入れ値は 2 週間前に比べて 2 割ほど上昇。 情勢悪化の影響で市場に出回るロシア産のカニが減り始め、他の産地に需要が集中しているためだと男性はみる。 この日は仕入れ値が上がる前より毛ガニを 100 グラムあたり 200 円ほど高く売った。 店にはロシア産のサケなども並び、「今後さらに仕入れに影響するかも」と心配する。

水産白書(2020 年度)によると、主な水産物の輸入相手でロシアが占める割合は、カニ 61.8%、サケ・マス類 9.5%、エビ 3.8% と日本との結びつきは深い。 欧米や日本がロシアへの経済制裁を強めるなか、海産物の取引への影響が懸念される。 近くの老舗海鮮店「つきじかんの」取締役の飯島浩之さん (57) が懸念するのは「ウニ」だ。 店で仕入れるウニの半分は、北方四島周辺でとれる「ロシア産」。 品質が良く、店では「上ウニ」として売る。 ロシアからの供給がなくなった場合、「上ウニ」を出せなくなったり、国産やカナダ産の値段が上がったりする可能性があるという。

かつて築地を埋めた外国人観光客は 2 年間で激減し、売り上げはコロナ禍前の 4 割ほどに。 原油高などの影響で食材や梱包用のプラスチックも値上がりし、全体の仕入れ費用は 1 年前に比べ約 3 割上がった。 銀行融資で家賃や賃金を補う状態が続いている。 飯島さんは「二重、三重と苦難がふってくるようだ」としつつ、「ロシアのやっていることはひどいが、経済制裁によって国内で商売をする人が生きていけなくなれば本末転倒。 現場に目を向け、制裁をするなら現場への補償などを検討してほしい。」と注文した。

「遠い国の出来事じゃない」

影響は海産物だけではない。 農林水産省の食料安全保障月報(2 月)によると、小麦の最大の輸出国はロシアで、EU を除くとウクライナは 3 位。 世界の輸出量の約 3 割を両国が占める。 輸入小麦は政府が買い取り製粉業者に売り渡す。 その「売り渡し価格」は、4 月と 10 月に年 2 回改定。 昨年 10 月にも値上がりしており、パンやパスタなどの価格が値上がりしている。

ウクライナ侵攻後、米シカゴ商品取引所の先物市場では小麦の価格が急騰した。 農水省は「我が国はロシアからもウクライナからも食用小麦の輸入をしていない」と直接的な影響を否定するが、製粉会社の関係者は「昨今の状況から 4 月の売り渡し価格の引き上げは避けられない」と話す。 「遠い国の出来事じゃない。 暮らしに直結する話です。」 東京都品川区の「こみねベーカリー」社長の小嶺忠さん (51) は言う。 地元に 2 店舗を構え、保育園に給食を提供する「町のパン屋」さん。 「食卓のそばにパンを置いてほしい」とあんパンは 1 個 110 円、ツイストドーナツは 70 円と商品はどれもお手頃だ。

だが、昨年からパンの主原料は軒並み値上がりが続く。 1 袋(25 キロ) 3,500 円だった小麦粉は 500 円値上がりし、砂糖もバターも 1 割ほど上昇。 それでも、経営努力で跳ね上がる原料費を吸収してきた。 春先に 20 - 30 円の値上げを検討する。 その矢先にウクライナ侵攻が追い打ちをかけた。 「小麦粉だけでなく原油高でバターも砂糖もさらに値上がりするかもしれない。 先が見通せない。」と小嶺さんは気をもむ。

香川県の製麺業者や販売店など 63 社が加盟する「本場さぬきうどん協同組合」の理事長、大峯茂樹さん (73) も頭を悩ませる。 「うどんはこの 10 年ほど値上げしてこなかった。 消費者の理解もあり先日ようやく値上げしたのに …。」 昨年暮れ以降、多くの事業者が、うどん 1 杯あたり 30 円 - 40 円の値上げをしたばかりだ。 うどんの原料は、国産と豪州産の小麦が主だが、ウクライナ侵攻でこの先も小麦価格の高騰が続けば、影響は避けられないとみる。 この 2 年、新型コロナウイルスのせいで売り上げの柱だった家族連れ客も減少した。 「コロナ禍、後継者不足、そして原料費の高騰。 三重苦です。」と嘆く。

「コメ以外今後値上がり」 専門家予測

暮らし全般への影響は、避けられない見通しだ。 第一生命経済研究所の永浜利広・首席エコノミストは「生活必需的な化石燃料や穀物を大量に輸出するロシアとウクライナが戦争状態に入ったことで世界的に影響が広がっている。 ロシアへの経済制裁の反動も大きい。」と語る。 小麦の価格上昇は、カップ麺やパスタといった幅広い食品価格に影響する。 食肉も例外でない。 飼料としてのトウモロコシの価格が上がっているからだ。 原油高に加え、アルミニウムやレアメタルなど金属価格も上がり、自動車、建築資材の値上がりも懸念材料だ。

株式市場や金融市場にも影響が出ており、永浜さんは「春闘にも影響することで、来年度以降の賃金も影響が出かねない」とみる。 コメ以外の食料は今後も値上がりすると考えた方がいい、と永浜さん。 「政府は消費者の負担が軽くなる施策を打つべきだ。 賃金が上がらぬまま物価高が続けば、日本は再び長期停滞に陥る。 政府の財政政策と日銀の金融政策の連携が求められる。」 (山口啓太、斉藤佑介、asahi = 3-6-22)


カゴメ、ケチャップ 7 年ぶり値上げ 海外産トマトの高騰で

カゴメは 24 日、原料にトマトを使ったケチャップやピューレ、ソースなどの商品計 125 品目の出荷価格を 4 月 1 日から 3 - 9% 引き上げると発表した。 主力商品のケチャップの値上げは家庭用、業務用とも 7 年ぶり。北米を中心とする海外産トマトの仕入れ値が上がったほか、輸送費も高くなっているためだという。 家庭用のソースは 6 年ぶりの値上げになる。 いずれの商品も希望小売価格は非公表としている。 トマトジュースや野菜飲料などは値上げしない。 (根本晃、asahi = 1-24-22)


「エリエール」など家庭用紙製品、15% 以上値上げ 大王製紙

大王製紙は 11 日、「エリエール」ブランドのティッシュペーパーなど家庭用の全ての紙製品を、今春から 15% 以上値上げすると発表した。 原料費や輸送費が高騰しているためだという。 家庭用品の値上げは 2019 年 6 月以来で、約 3 年ぶりになる。 対象となるのは、ティッシュやトイレットペーパー、台所用のキッチンタオルなどで、3 月 22 日以降の出荷分から値上げする。 同社は「自助努力だけではコスト増を吸収できない状況。 安定供給体制を確保するには多大なコストを要することから、価格改定を実施させて頂く。」と説明している。 (asahi = 1-11-22)



全国の市街地、7 割超で地価上昇 リーマン以来 6 年ぶり

国土交通省は 26 日、全国の主な市街地の地価動向を発表した。 10 月 1 日時点で調査した 150 地点のうち、71.3% にあたる 107 地点が 7 月 1 日の前回調査時よりも上昇。 上昇地点が全体の 7 割を超えるのはリーマン・ショック前の 08 年 1 月以来約 6 年ぶりだ。 東京、大阪、名古屋の大都市圏以外の地方でも 59.4% の地点で上昇した。

東京圏は 70.8%、大阪圏は 71.8% の地点が前回よりも上昇。 大阪圏で 7 割を超えるのは 08 年の調査開始以来初めて。 名古屋圏は 7 月の調査に続き、全調査地点で上昇。 3 大都市圏で地価が下落したのは、液状化でイメージが悪化した千葉県内 3 カ所と東京・八王子の計 4 地点だけだった。 (asahi = 11-26-13)


3 大都市圏の商業地、5 年ぶり上昇 基準地価、底打ちか

国土交通省は 19 日、7 月 1 日時点の都道府県地価調査(基準地価)を発表した。 東京(首都圏)、大阪、名古屋の 3 大都市圏と宮城県の商業地が、リーマン・ショックがあった 2008 年以来、5 年ぶりに上昇に転じた。 山梨県の住宅地を除き、全ての都道府県で住宅地・商業地ともに下落幅が前年より小さくなるか、上昇に転じるかしており、景気の回復基調に合わせた地価の「底打ち」が鮮明になってきた。

3 大都市圏の商業地は 0.6% 上昇(12 年は 0.8% 下落)した。 東京・大手町や大阪・中之島など高層ビルの建て替えが相次ぐ都心部に加え、「東京スカイツリー」の完成で観光客が急増した浅草など周辺部の上昇も目立つ。 ただ、リーマン・ショック前の 08 年に比べるとまだ 2 割ほど安い。 名古屋圏は住宅地も 0.7% 上昇(同 0.2% 下落)した。 トヨタ自動車の業績が好調なことで、グループを含めた従業員の給料が増え、豊田市やその周辺で住宅を買おうとする人が増えている。 (asahi = 9-19-13)


地価、3 分の 2 の地区で上昇 地方圏でも半数近く

【稲田清英】 国土交通省は 27 日、全国の主な都市部の 7 月 1 日時点の地価動向を発表した。 調査対象の 150 地区のうち、約 3 分の 2 にあたる 88 地区で 4 月 1 日時点より地価が上がった。 上昇が 8 割を超えた 2008 年 1 月 1 日時点以来、5 年半ぶりの高い割合で、これまで動きが鈍かった地方圏でも上昇が半数近くに増え、下落を上回った。

3 大都市圏は、いずれも上昇地区が 4 月 1 日時点より増え、名古屋圏では 14 地区すべてで上昇した。 下落地区は大阪圏でもゼロで、東京圏も 4 カ所だけだった。 地方圏では、上昇が 15 地区と下落の 6 地区を上回った。 上昇の割合はリーマン・ショック前の 08 年 4 月 1 日時点 (65%) 以来の高さとなる。 ただ福岡や札幌、広島など規模の大きい中心都市が主で広がりはまだ限られている。 (asahi = 8-27-13)


浅草「まるで昭和 30 年代」 ツリー効果で路線価上昇

【村上潤治、金子元希】 都市部を中心に地価上昇の兆しが見えてきた 2013 年分の路線価。 上昇率の上位には大阪の再開発地区が並んだが、東日本では東京・浅草(東京都台東区)の雷門通りが 9.0% とトップに。 首都圏の地価はこのまま上がっていくのか。

平日の午後、雷門のちょうちんの前は写真を撮る観光客が引きも切らない。 「この 1 年で外国人の観光客が急激に増えた。 浅草が一番にぎやかだった昭和 30 年代初めに戻ったようだよ。」 浅草寺参道の仲見世で土産物店を営む冨士滋美さん (64) は、外国人客に応対しながらほほ笑んだ。 昨年、浅草を訪れた観光客は、外国人 403 万人を含め 2,075 万人。 昨年開業した東京スカイツリーの徒歩圏にあり、老舗の飲食店主は「スカイツリーに上ってきたよ、という客が多い」という。

雷門から 500 メートル以内には、この 1 年間で 4 件の不動産業者が新たに出店した。 1 月に開業した丸勝不動産には、「浅草は今が商機、勝負したい」と店舗を探す飲食業者が後を絶たないという。 北口和・副代表 (41) は「繁華街の 1 階店舗に全く空きがない」と頭を悩ます。 最近、売り出された雷門そばのビルは 2 億 5 千万円で、昨年から 5 千万円は上がった。 「街のにぎわいが、不動産価格を押し上げている。」

首都圏では、神奈川県の JR 川崎駅東口前も路線価が 5.7% 上昇した。 06 年に西口に大型商業施設が開業し、駅周辺の集客力が増した。 宅地としての需要もあり、売買の相場は昨秋より 1 割近く上がった。 こうした活況は、首都圏の地価を押し上げるのか。 今回の路線価は 1 月 1 日時点の評価で、安倍政権が発足してからわずか 6 日後。 アベノミクスの影響は反映されていない。

日本不動産研究所は 4 月、投資ファンドや開発業者など約 150 社にアンケートを行った。 9 割近くが「積極的に新規投資をする」と答えるなど、同研究所は「投資意欲はリーマン・ショック前の水準に近づいている」と分析する。 アベノミクスによる経済成長を見込んで、都心のオフィスビルに数百億円 - 1 千億円規模の投資をすると表明した外資系不動産ファンドも相次いでいる。 外資系ファンドの代表は「不動産市場の回復ぶりを考慮した」と期待を語る。

ただ、同研究所の山本博英・研究部長は「都市部でも、地価が上昇しているのは極めてスポット的。 投資家の動きも地価全体を押し上げるまでの力強さはなく、実体経済の回復を見ないと先は見えない」と話している。

再開発や南海トラフ地震で明暗

近畿 6 府県では都市部と太平洋沿岸部の明暗が、くっきりと分かれた。 国税庁が 1 日に公表した 2013 年の路線価。 再開発や「アベノミクス」を追い風にした大阪市中心部とは対照的に、南海トラフ巨大地震の被害想定地域では、津波への警戒感が色濃くにじむ結果となった。 「津波への警戒感で土地が売れない。」 紀伊半島最南端の和歌山県串本町で不動産業を手がける男性は、力なく語る。

国や県の想定では、最悪クラスの南海トラフ巨大地震が起きると、串本町には十数メートル規模の津波が押し寄せる。 浸水被害も、沿岸部の役場周辺を中心に深さ 5 - 10 メートルに達するとみられている。 国による津波の想定発表後に示された JR 串本駅前の 12 年の路線価は、11 年と比べて 9% 下落。 その後、死傷者や経済的な被害想定も発表され、今年はさらに昨年から 10% 減の 1 平方メートルあたり 4 万 5 千円まで落ち込んだ。

下落に追い打ちをかけているのが、沿岸部に広がる市街地からの高台移転だ。 昨年までに町立病院や消防署などが海から西へ約 1 キロ離れた高台の「サンゴ台」に移った。 東日本大震災が起きる前、町の土地開発公社がサンゴ台で分譲する宅地は年間で 1 区画程度しか売れていなかったが、震災後は 2 年間で 23 区画が売れたという。 将来的に役場も移転する構想がある。

町の商工会長を務める須賀(すか)節夫さん (65) は沿岸部の市街地で自転車・バイク販売店を営む。 周囲のにぎわいが薄れていく懸念はあるが、「740 人余りの商工会員の多くは高齢者。 長年商売してきた沿岸部からは離れにくい」と険しい表情で話す。 最大 16 メートルの津波が来るとされる高知市。 中心部は前年比 8.2% 減だった昨年ほど下がらなかったが、今年も 4.4% 減となった。

市街地では空き地が駐車場になるケースが目立ち、企業の高台移転も進む。 のり製造販売会社「かね岩海苔(高知市)」は新工場の建設予定地を標高 6 メートルから 26 メートルの場所に変更し、食品卸「旭食品」は本社を高知市から高知県南国市の内陸部へ移した。 人口減少、長引く地方の不景気、そして津波。 不安要素が積み重なる状況に、高知市内の不動産会社社長 (58) は「街の活気はなくなっていくが、止めようがない」と言う。

一方、大阪市中心部の再開発エリアは軒並み上がった。 近鉄百貨店が 6 月に先行オープンした「あべのハルカス」。 高さ 300 メートルの超高層ビルが立地する阿倍野は買い物客らでにぎわい、最高路線価は前年比 35.1% 増(1 平方メートルあたり 154 万円)と全国で最大の上昇率になった。 「若い人が多い。 建て替え前とは大違いです。」 先月下旬、あべのハルカスに友人と来た大阪市平野区の主婦 (53) は驚いた。 近鉄によると、近鉄大阪阿部野橋駅の乗降客は、オープン 1 週間で 1 日平均 6.8% 増えたという(定期券利用者除く)。

上昇率が全国 2 位の前年比 17.4% 増(1 平方メートルあたり 384 万円)となった JR 大阪駅北側の「うめきた」周辺。 4 月に開業したグランフロント大阪のビル 4 棟には商業施設やオフィス、ホテルが入る。 「億ション」を含むマンション 525 戸は完売した。 企業も徐々に集まる。 参天製薬は 6 月に本社機能を東淀川区からグランフロント大阪に移した。 賃料が割高なためにオフィスは 4 月時点で 2 割強しか埋まってないが、開発事業者の三菱地所の担当者は「オープンして引き合いが増えた。 いい会社にこそ、選んでほしい。」と強気だ。

不動産仲介「三鬼商事」大阪支店の小畑大太(だいた)次長は「再開発効果にアベノミクスが加わり、昨年からの下げ止まり感が強まった」と分析。 そのうえで慎重な見方も示す。 「あくまで期待感。 安すぎた地価が戻りつつあるとみるべきで、これが本格的な明るさにつながるかは不透明だ。」(水沢健一、長田豊)

南海トラフ巨大地震〉 静岡県の駿河湾から九州東方沖に延びる深さ約 4 千メートルの海底のくぼみ「南海トラフ」を震源域とする巨大地震。 過去にマグニチュード (M) 8 級の地震が繰り返し起きたとみられ、国はトラフ一帯が連動する地震を想定している。 内閣府は昨年 8 月と今年 3 月に被害想定を発表。 最悪クラスで M9.1、20 メートル以上の津波が 8 都県(都は島しょ部)に押し寄せ、死者 32 万 3 千人、220 兆 3 千億円の経済被害が出るとしている。

トヨタの業績回復、追い風に

【磯部征紀、的場次伸】 名古屋市東部から愛知県西三河地方が住宅の建設ラッシュにわいている。 1 日に公表された愛知県の平均路線価を 5 年ぶりに上昇へと押し上げた形で、アベノミクス効果による自動車産業の業績回復が要因とみられる。 一方、想定される南海トラフ巨大地震の影響で、太平洋沿岸部は軒並み下落した。

名古屋市緑区の地下鉄桜通線徳重駅から約 500 メートル、第三銀行徳重支店前の路線価は前年に 4.0% 上昇し、今年も高価格を維持した。 ハウスメーカーが付近で今春、宅地 3 区画と最高 5,980 万円の一戸建て住宅 4 戸を売り出したところ、すでに宅地は完売、戸建ても 2 戸が売れ、好調だ。 販売価格は、宅地で 1 平方メートルあたりが約 20 万円。 地元不動産業者は「実勢価格が 1 平方メートルあたり 3 万 - 4 万円高い。 景気の回復で、高くても良い物件を買う志向が出ている。」と話す。

徳重地区の人口は、今春で約 4 万 1 千人。 2010 年春より約 2 千人増え、分譲住宅や大型マンションの建設ラッシュが続く。 徳重駅は 11 年 3 月、延伸して開業した。 駅の隣にはショッピングモールや緑区役所の支所、図書館や商業施設が入る共同ビルが並ぶ。 自動車関連企業が多い西三河地方に近く、名古屋環状 2 号線が付近を通るという交通の便の良さが人気を呼ぶ。

また、東海道新幹線の三河安城駅前では、高層マンション 2 棟が建設中だ。 周辺の路線価は 1.1% 上昇した。 1 棟は地上 17 階建てで今秋に完成予定だが、107 戸のうち 100 戸が売れた。 近く売り出されるもう 1 棟の地上 19 階建て(総戸数 90 戸)のマンションも、問い合わせや見学が多い。 「刈谷や安城でオフィスを探している。」 地元の不動産会社に今春、住宅分譲会社からの問い合わせが相次いだ。 営業担当者は「リーマン・ショック後に撤退した企業が、トヨタ系企業の本社近くに戻り、事務所を出す動きが出始めた」と感じた。

路線価上昇の「原動力」になったのがトヨタ自動車。 連結営業利益は 13 年 3 月期で約 1 兆 3,208 億円で、震災などで落ち込んだ前期から 3.7 倍に伸ばした。 アベノミクスによる円安効果で、関連メーカーも業績を伸ばした。

一方、南海トラフ巨大地震で、最大 5 メートルの津波が予測される名古屋市港区。 庄内川西側の福田小学校付近の路線価は 2.4% 下がった。 スーパーや銀行などがある比較的便利な地域だが、地元の不動産業者は「津波への不安もあり、リーマン・ショック前の半値に近い坪 20 万円台でないと、なかなか買い手がつかない」と話す。 富士山とともに世界遺産に登録された静岡市清水区の三保松原でも、6.8% 下がった。 駿河湾に面し、江戸時代の安政の大地震で被害を受けた地域。 地元の不動産鑑定士は「下落の原因は津波のリスク」とみる。

九州新幹線効果で駅前上昇

【岡田将平】 1 日に公表された路線価では、福岡市の博多駅周辺の評価額が軒並み上がった。 博多駅前の最高値の上昇率も、九州新幹線の全線開業後初の路線価算定だった昨年より高くなった。 利便性が高まり、マンション建設が盛んになっていることなどが背景にあるという。 JR 博多駅の博多口から出てすぐの福岡市博多区博多駅前 3 丁目。 西日本シティ銀行本店や JR 九州本社に近い一角で、マンションのくい打ち作業が進められていた。/p>

以前は、カプセルホテルがあった場所。 建築主の市内の不動産業者によると、家族向けや単身者向けの部屋をそろえた高級賃貸マンションを建てる。 担当者は「アクセスが良いのがポイント。」 来年 12 月の完成をめざしている。 駅周辺ではマンション建設が相次ぐ。 駅から歩いて 10 分ほどの博多駅前 4 丁目では、ワンルームマンションが建設中だ。 そこから数分の博多駅南 1 丁目にも建設現場がある。 別の不動産業者は「駅ビルが新しくなり、九州新幹線も開業したことから、人気が高まっている」と話す。

路線価の評価にかかわった中村秀紀不動産鑑定士は「地価の上昇を牽引しているのは、ワンルームマンション用地の取引。 福岡市の人口は増えており、需要がある。」と語る。 投資用にワンルームマンションを買う客もいる。 首都圏在住者が資産のリスク分散のために、オーナーとなるケースも多いとみられている。 同じく評価にかかわった日本不動産研究所九州支社の山崎健二副支社長も「博多駅周辺の賃貸マンションの動きは非常に活発。 超低金利の今のうちに不動産を取得しておこうということでは。」とみる。

山崎さんはこうした動きに加え、博多郵便局などの再開発への期待感も反映されていると分析する。 「新幹線の開業効果は薄れつつあるが、発展要因はまだあると受け止められている」という。 博多駅前の上昇に対し、福岡市中央区の天神の最高路線価は横ばいにとどまった。 中村さんは「天神はかなりの水準に上がりきっている。 伸びしろがない。」と指摘する。

今回の路線価算定は、安倍政権が発足したばかりの今年 1 月 1 日時点のもの。 政権が打ち出すアベノミクスの影響は大きくはないが、山崎さんは「期待感は多少あっただろう。」 1 月以降は「大胆な金融緩和」の影響で、資金が不動産市場に流れているという。 ただ、オフィスビルの開発などは進んでいないといい、「投資市場が先走っている状態だ」と指摘した。 (asahi = 7-1-13)

都道府県庁所在都市の最高路線価