人民元の基準値、最高値更新 米中首脳会談を意識?

【北京 = 吉岡桂子】 中国人民銀行(中央銀行)は 30 日、人民元の取引の目安として毎朝発表している基準値を、1 ドル = 6.229 元に設定した。 11 月 12 日の 6.239 元をわずかに上回り、2005 年 7 月の為替制度改革以降の最高値を更新した。

秋の一連の国際金融会議を終えて値下がり気味だった人民元が、来年 1 月 19 日の米中首脳会談を控えて再び、上昇に転じている。 中国政府が金融危機で凍結していた人民元の変動を今年 6 月下旬に 2 年ぶりに再開して以降、ドルに対して約 3% 値上がりした。 人民元は G20 や米中首脳会談が近づくと上昇する傾向にある。

6 月もトロントでの米中首脳会談と G20 の数日前から上がり始めた。 ソウルでの G20 と米中首脳会談を控えた 11 月も値上がりが目立ち、G20 最終日の 12 日、基準値は最高値を更新していた。 今回も、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が国賓待遇で訪米する日程が公表された前日の 12 月 21 日から、8 営業日続けて上昇中だ。 巨額の対中貿易赤字を抱える米国は、中国に一段の人民元切り上げを求めている。 (asahi = 12-30-10)


人民元の将来像は - 余永定・元中国人民銀行通貨政策委員

中国が人民元を市場の実勢より安く据え置いて貿易黒字を稼いでいることに、世界から批判が集まる。 中国は人民元の将来像をどう描いているのか。 中国人民銀行(中央銀行)で通貨政策委員を務めた余永定・中国社会科学院世界経済政治研究所教授に話をきいた。

- - 人民元の対ドル相場は今年、3% しか上昇していません。 2005 年 7 月の改革以降でみても、18% の値上がりです。

「私自身は人民元をもっと切り上げる必要があると考えている。 その幅は経済情勢にもよるので、具体的な数値目標は言い難いが、年 2 - 3% のような低い数字ではないことは確かだ。 中国は切り上げる速度をもっと上げたほうが良い。」

「中国人民銀行は人民元を安く抑えるために、人民元を売ってドルを買う市場介入を続けている。 その結果、外貨準備は増えるいっぽうで、その多くは米国の国債だ。 中国から米国へ資金を貸し付けているようなものだ。 米国が金融緩和をして米ドルが値下がりしたら、中国の外貨準備の価値も目減りしてしまった。」

「中国政府は市場介入の手をもっと緩めるべきだ。 そうすれば人民元は値上がりするだろうが、急激な変化でなければ中国企業も対応できる。 貿易黒字は人民元の切り上げだけでは減らないが、一定の効果はある。」

- - 中国政府は今年 6 月、金融危機から 2 年ほど据え置いていた人民元相場の柔軟性を高める方針を打ち出しました。

「中国政府も人民元の為替相場を市場の動向に基づいてもっと柔軟に動かすべきだし、貿易黒字はため込めばよいものではないとも分かっている。 それが自国のためだし、国際経済のためにもなる、と。 だから、改革は必ず進める。 時間の問題だ。 自主的に、じわじわと、制御可能な範囲でやる、と言っている。 外部からの圧力をうけると、中国政府はやるべきことをやりにくくなる。 主導的に政策を調整しようとしているときに米国が表立って圧力をかけると、逆にやりにくいのだ。」

- - 米国の中間選挙が終わり、オバマ大統領の民主党は敗れました。 人民元の切り上げを求める米国からの圧力に変化は?

「米国の失業率が高いままであれば、圧力は減らない。 米国経済が好転するかどうかが根本的な問題だ。 かつては日本がスケープゴートだったが、今は中国だ。 日本人なら中国の置かれている立場をよく分かるだろう。 これは米国内の政治だ。 米国の財務省も議会から大変な政治的な圧力を受けている。 私は中国政府と米国財務省は意思疎通ができていると信じている。」

「ただ、中国製品は米国製品を作る米国人の仕事を奪っているわけではない。 むしろ他の発展途上国と競合しており、彼らが中国に恨みを抱くなら分かるが、米国人が恨みを抱くのは筋違いだ。 米国は科学技術力を高め、米製品に競争力をつけるしかない。 それがないままでは、人民元に圧力をかけても米国の貿易赤字は変わらないだろう。」

- - 人民元の国際化は進んでいますか。

「アジアの国々を中心に、貿易の決済通貨として相手国の通貨や人民元を使うことを推進している。 為替相場の変動によるリスクを減らせる。」

「米ドルだけが大きな地位を占めるより、ユーロや円がもっと使われたほうが良い。 人民元には国境を越えて自由に流通できないようにまだ規制をかけているので、ユーロや円のような役割は果たせないが、徐々に規制を緩和しながら国際的に流通できるようにすれば、ドルに依存した国際通貨体制を改革する一助になる。」

「中国は世界第 2 の経済体になった。 中国の通貨の力量と経済の力量は極端にかけ離れている。 我々は人民元を世界各国に歓迎される通貨に育てたい。 世界の国々が人民元資産を持ちたいと思うようにしたい。 これは国としての信頼を含めて経済力だけではない裏打ちが必要で、非常に長い道のりになるだろう。 短期にできる話ではない。」

- - 人民元が米ドルの地位にとってかわる日は来るのでしょうか。

「中国の将来の発展がどうなるか分からない以上、我々はこの問題については判断できない。 しかし、米国の国力が世界で支配的な地位を占めていた時に生まれた国際通貨体制の改革は確かに重要だ。 米国はかつてのような活力を失い、中国など新興国が勃興し、欧州にはユーロ通貨圏も生まれた。 現在の国際経済の動向や各国の実力にあわせて多元化していくべきだ。」

「基軸通貨としての米ドルは、特殊な地位を持っている。 米国だけがお札を無制限に刷って自らが直面する困難を解決できる。 今回も米国内の景気を浮揚させるために追加の金融緩和政策を打ち出した。 米国内では有効な政策だろうが、他の国では米国からあふれ出す資金で資産価格の上昇やインフレ懸念が高まっている。 米国内の政策に左右されるドルが基軸通貨になっている弊害は明らかだ。」

「この弊害を減らすため、国際通貨基金 (IMF) で資金を融通する SDR (特別引き出し権)の活用を拡充するのも一案だ。 これまで IMF は各国の資金繰り支援にドルを使ってきたが、主要通貨の加重平均で価値が決まる『バスケット通貨』である SDR を活用すれば、ドルへの集中依存を減らせる。 人民元はまだ SDR には含まれていないが、今後は考えられる。 中国政府も検討している。」(聞き手・吉岡桂子 = 北京、asahi = 11-14-10)

〈余永定(ユイ・ヨンティン)〉 中国社会科学院世界経済政治研究所教授、元中国人民銀行通貨政策委員。 1948 年生まれ。


中国「人民元の上昇、世界に福? 災い?」切り上げに反論

【北京 = 吉岡桂子】 中国外務省の馬朝旭報道局長は 14 日の定例会見で、「人民元の値上がりは米国の貿易赤字も世界の不均衡も解決できない」と米国などからの人民元の切り上げを求める意見に反論した。 そのうえで「中国の世界の経済成長への貢献率は 2009 年、50% だった。 人民元の上昇を強く迫って中国経済に危機をもたらせば、それは世界にとって福か災いか」と問いかけ、人民元相場の安定の必要性を強調した。

中国人民銀行(中央銀行)が取引の目安として毎朝公表している人民元の基準値は 14 日、1 ドル = 6.6582 元だった。 2005 年 7 月の改革以来の最高値。 (asahi = 10-14-10)


G7、人民元の切り上げ促す姿勢で一致

【ワシントン = 尾形聡彦】 主要 7 カ国財務相・中央銀行総裁会議 (G7) が 8 日夜、当地で開かれた。 為替介入について野田佳彦財務相は日本の姿勢を各国に説明した。 また、中国の人民元切り上げを促す姿勢で各国は一致した。 世界的な「通貨安競争」をどう食い止めるかについては、G7 が団結して取り組むことを確認した。

会議後、野田財務相は記者団に「日本の為替介入は一定水準を目指したものではないと明確に説明した」と述べた。 また、「為替相場の過度で無秩序な変動は世界経済に悪影響を与えるという原則を改めて確認したのが成果だ」と語った。 野田財務相は「新興黒字国が柔軟な為替相場に向けて改革するというトロント・サミットでの合意事項を改めて確認した」と説明。 各国が事実上、中国・人民元の切り上げを促す姿勢で一致した。

主要国の間では、人民元の切り上げが進まないことで、輸出競争力を保ちたい他の新興国も、通貨を安く誘導する介入を繰り返す悪循環に陥っているとの見方が強い。 G7 の議長役を務めるカナダのフレアティ財務相は 8 日、G7 を前に「中国の為替の柔軟化はほんの少ししか進んでいない」と不満を表明した。

ガイトナー米財務長官は、人民元を念頭に多国間の枠組みで為替問題を解決すべきだと提唱。 G7 ではこうした課題が話し合われたとみられる。 世界的な通貨安競争への対応や多国間の枠組みについては、G7 で団結していく姿勢を確認したが、具体策は明らかにしなかった。

一方、野田財務相は G7 前に、8 日のニューヨーク市場で 1 ドル = 81 円台をつけ、15 年ぶりの円高水準になったことについて、記者団に「より一層重大な関心を持ってマーケットの動向を注視し、必要なときには介入を含めて断固たる措置をとるという姿勢に変わりはない」と述べた。 野田財務相は 9 日、ガイトナー財務長官と会談する。 (asahi = 10-9-10)


人民元問題、米中対立ひとまず回避 なお、火種くすぶる

20 カ国・地域首脳会議(G20 サミット)の開幕に先立って 26 日あったオバマ米大統領と胡錦濤(フー・チンタオ)・中国国家主席の会談では、人民元問題をめぐる激しい応酬はなかった模様だ。 中国が 21 日に人民元相場の弾力化を始め、正面からの対立はひとまず避けられた。 しかし対立の火種はくすぶったままだ。

「中国の決定を歓迎する。」 26 日記者会見したホワイトハウス国家安全保障会議のベーダー・アジア上級部長によると、オバマ大統領は胡主席に対し、人民元相場の弾力化を評価する姿勢を示したという。 さらに大統領は「我々にはそれぞれ(昨年 9 月の) G20 サミットで約束した義務がある」とも語りかけた。 「義務」とは、米国は借金してまで消費する体質を改善して貯蓄の向上に努め、中国は内需拡大を進めるというものだ。

世界の不均衡是正に向け、米中が世界を引っ張るという決意の呼びかけにも映る。 ガイトナー米財務長官は今年 4 月、中国を「為替操作国」と認定するかどうかが焦点だった外国為替報告書の提出を延期。 今回のサミットまでの 3 カ月間を「猶予期間」とし、中国側の自発的な行動を待った。

実際に中国がサミット直前の 19 日に人民元の弾力化を発表したことに、米国側は自信を深めた。 米政府高官は朝日新聞の取材に「ガイトナー長官が意図した通りになった。 長官にとっての勝利だ。」と語る。 ただ「あうん」の呼吸で中国の行動を引き出す戦略が奏功しただけに、米政府はいまも中国への配慮をにじませる。

「より迅速で、幅の大きい人民元切り上げを、大統領は中国側に求めたのか。」 26 日の会見でそう尋ねられると、ベーダー上級部長らは「大統領は『履行が重要だ』と述べた」と繰り返した。 対照的に米議会には、中国への不信感が根強い。 「2005 年から 08 年にかけてのように十分な切り上げを行わなければ、米国の行動は依然として必要だ(レビン下院議員)」との声が出る。 強硬派のシューマー上院議員は対中制裁法案の準備を続ける構えだ。

実際に中国が人民元をどの程度切り上げるのか。 米国側が注視する状態は続く。 「我々が為替制度改革を続けると発表したことは、国際社会や国際組織から歓迎されている。」 26 日午後、トロントで記者会見した中国人民銀行の張濤・国際局長はこう語った。 21 日に始まった人民元相場の弾力化により、人民元の対ドル相場は 1 週間で 0.53% 元高ドル安に振れた。 胡主席がサミットで各国の強い批判にさらされる事態は、直前に踏み切ったこの弾力化で避けられそうだ。

ただ、今後も中国が人民元相場を上昇させ続けるのか、その本気度は分からない。 26 日に人民銀の張局長らとともに記者会見した中国商務省の兪建華・国際経済貿易関係局長は、人民元相場の弾力化について「輸出企業へのプレッシャーはある」と明言。 これを聞いた張局長は「補足したい」とマイクを引き取り、「産業のレベルアップにつながる」などと弾力化の意義を強調した。

それでも兪局長はその後、「ユーロ安などを考えれば今年の貿易はそれほど楽観できない」と発言。 さらに会見後、記者団に「輸出の困難はやはり大きい」と言い残して会場を立ち去った。 欧州の財政不安など、世界経済の先行きへの懸念が残るなか、物価安定に責任を持つ人民銀と、輸出企業を守る立場の商務省の姿勢の違いを見せつけた。

25 日までの人民元相場の動きで、市場では「相場の水準は人民銀が為替介入で管理している(上海の邦銀為替担当者)」との見方が改めて強まった。 21 日の相場急上昇や翌 22 日の下落の影に、人民銀による介入の動きがちらついたためだ。 世界経済の情勢次第で、人民元相場の上昇ペースは抑えられる可能性がある。 (カナダ、トロント = 尾形聡彦、琴寄辰男、asahi = 6-27-10)


人民元、対ドル基準値 0.43% 上げ 05 年以降最高値

【北京 = 琴寄辰男】 中国の中央銀行である中国人民銀行は 22 日午前、人民元対ドル相場の基準値を、前日の基準値より 0.43% 元高ドル安の 1 ドル = 6.7980 元に設定した。 人民元相場の弾力化の初日となった前日の銀行間取引の終値 1 ドル = 6.7976 元とほぼ同水準。

前日の取引で 2005 年 7 月の為替制度改革以降の最高値を更新する水準まで元高ドル安を容認したのに続き、取引の目安として毎朝発表する基準値でも、人民元相場の段階的な上昇を認める姿勢を明確にした。

基準値としては、05 年 7 月の為替制度改革以降の最高値となり、前日の基準値からの上昇率としても改革後で最も高くなった。 人民銀は今後、人民元相場の動きを、「基準値の上下 0.5%」と定められた 1 日の取引での許容変動幅の範囲内で市場に委ねたうえで、翌日の基準値設定でも前日の相場上昇を追認していく方針とみられる。

市場では「今後は、相場をある程度市場の動きに任せ、基準値設定も合わせていくのだろう(上海の邦銀為替担当者)」とみている。 銀行間取引は、午前 10 時(日本時間午前 11 時)時点で1ドル = 6.8080 元前後と元安ドル高に振れている。

人民銀が人民元相場の弾力化を高める意向を示す声明を出した後、最初の取引日となった 21 日は、対ドル相場の基準値を先週末と同じ 1 ドル = 6.8275 元に設定。 だが、その後の銀行間取引で対ドル相場は大きく元高ドル安が進んだ。 ただ、人民銀の意向を反映するとされる基準値が先週末から据え置かれたため、市場では、人民元切り上げに対する人民銀の姿勢をはかりかねた取引参加者から戸惑いの声が出ていた。 (asahi = 6-22-10)


中国人民銀行が人民元を据え置き 対ドル相場基準値

【北京 = 琴寄辰男】 中国の中央銀行である中国人民銀行は 21 日午前、人民元の対ドル相場の基準値を、先週末 18 日から横ばいの 1 ドル = 6.8275 元に設定した。

人民銀は 19 日夜、人民元相場の上昇に向け、相場の弾力性を高める意向を示す声明を発表。 基準値設定では人民元上昇を促す行動はとらず、大幅切り上げに慎重な姿勢を示したが、その後の銀行間取引は、正午(日本時間午後 1 時)時点で、基準値より約 0.23% 元高ドル安の 1 ドル = 6.8120 元前後まで上昇した。

同じ基準値だった 18 日の取引では、最高値でも基準値を約 0.02% 上回るにとどまっていた。 市場では「銀行間取引で人民銀が元高誘導に動いた」との見方が出ている。

人民銀の 19 日の声明は、金融危機の深刻化で 2008 年夏から始めた対ドル相場固定を約 2 年ぶりに解除する意向を示すものだった。 しかし、人民元の上昇再開時期やペースに言及しなかった。 このため、声明発表後の最初の取引日となる 21 日に、人民銀がどのような水準に基準値を設定するかやその後の銀行間取引の動向が注目されていた。

中国政府は、声明の発表で、26 日からの G20 首脳会議(サミット)を前に高まっていた米国からの人民元切り上げ要求をかわす一方、上昇のペースについては、欧州の財政不安が深刻化する世界経済の動向などを考慮する姿勢を続けるとみられる。

基準値は、人民銀がその日の取引の目安として毎朝発表している。 1 日の取引での変動は、対ドル相場では、基準値の上下 0.5% の範囲に制限されている。 基準値は取引に参加する銀行への聞き取りなどを参考に決めるとしているが過程は不明で、人民銀が事実上決定し、相場を人民銀が望む水準に誘導しているとみられている。

人民銀は 05 年 7 月の為替制度改革で人民元の対ドル相場を約 2% 切り上げるとともに、事実上の対ドル固定相場制をやめた。 その後、人民元相場は緩やかに上昇し、07、08 年の年間上昇率は 6.9% に達した。 だが、金融危機が世界で深刻化し始めた 08 年夏から、人民銀は自国の輸出企業を支える狙いで「元売りドル買い介入」を強め、人民元の対ドル相場を 1ドル = 6.83 元前後で動かないようにしていた。 (asahi = 6-21-10)


中国、人民元の上昇容認へ 対ドル相場固定を解除の意向

【北京 = 琴寄辰男】中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は 19 日、「人民元為替レートの弾力性を強める」とする声明を発表した。 人民元相場のドルへの固定を解除し、再び人民元を上昇させていく意思を示すものだ。 カナダで 26 日に開かれる G20 首脳会議を目前に、為替制度の改革への積極性を示した。

週明けの 21 日以降、為替介入によって 2008 年夏から続けてきた 1 ドル = 6.83 元前後での相場固定を解除。 対ドル相場の緩やかな上昇を再び容認していくものとみられる。 為替制度そのものは変更しないので、人民元の対ドル相場の上昇ペースは今後も人民銀が握る。 最大でも毎朝、人民銀が公表する基準値の 0.5% に制限される。

人民銀は声明で「世界経済は着実に回復し、中国経済の回復傾向の基礎もしっかりとしたものになっており、経済運営は平穏に向かっている。 人民元為替レートの形成メカニズムの改革をさらに進める必要がある。」と強調した。 中国政府は今回の声明を機に、08 年の金融危機で先送りしていた国内の産業構造の転換に本腰を入れる方針とみられる。 輸出依存型の経済から徐々に脱却し、産業の高度化を図り、内需主導型への転換を進めていくとみられる。

中国では人民元相場を固定するために続けてきた「元売りドル買い介入」で、中国国内に人民元がだぶつき、インフレ圧力や不動産バブルが発生。 物価上昇を抑えて景気回復を息の長いものにするため、人民元の上昇再開は避けられないものになっていた。

ただ、ギリシャの財政危機をきっかけとする欧州での財政不安、ユーロ安進行で世界経済の先行きには不透明感が出ていることから、為替制度改革に前向きな姿勢を強調しつつも、人民元の対ドル相場を一度に数 % 切り上げる方法は避け、人民元相場の上昇ペースについては、世界経済の先行きや輸出の動向を見極めながら決める、との判断に至ったものとみられる。

中国は 05 年 7 月の為替制度改革で、人民元対ドル相場を約 2% 切り上げ、その後も緩やかな上昇を容認していた。 だが、金融危機の深刻化から自国の輸出産業を守るため、08 年夏から相場を事実上固定した。 自国通貨が安いと、輸出品を割安な価格で他国に売り込める。

しかし、中国製品を大量に輸入する米国にとっては、人為的な為替の固定は、自国産業の収益を悪化させ、貿易赤字の拡大にもつながる。 米議会は「人民元の対ドル相場が不当に安く抑えられているせいで、米国企業の競争力がそがれ、米国内での失業増を招いている」と、中国に対して人民元切り上げを求めていた。 今回の声明には、6 月下旬にカナダ・トロントで開かれる G20 サミットを前に、米国の要求をかわす狙いもあるとみられる。 (asahi = 6-19-10)


人民元切り上げ、春先に中国が示唆 米に「圧力やめて」

【ワシントン = 尾形聡彦】 中国の通貨「人民元」の切り上げを声高に求めていた米国政府に対し、3 月中旬 - 4 月中旬に中国政府から「圧力をかければ、我々は動けない」との要請があったことがわかった。 米国側は「圧力」をかけなければ、中国側が切り上げに動く意思を示唆したものと受け止め、切り上げを強く求める姿勢を改めた。 中国側は「我々にも有権者がいる」と一党支配の社会主義国として異例の表現も使い、米国側に配慮を求めたという。

米政府高官ら複数の関係者が朝日新聞に明らかにした。 米国側によると、中国側から「圧力をかけるのをやめて欲しい(ドント・プレス・アス)。 米国が圧力をかけ続ければ、我々は動くことができない。 我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる。」と伝えられたという。

米中間では、3 月中旬から 4 月中旬にかけて、北京でのガイトナー財務長官・王岐山(ワン・チーシャン)副首相会談や、ワシントンでのオバマ大統領と胡錦濤(フー・チンタオ)・国家主席の会談などがあり、こうした場で中国側の意思が伝えられた模様だ。

米政府は、オバマ大統領が「国家輸出戦略」を打ち出しており、輸出拡大に有利になるよう、人民元高・米ドル安の状況をつくりだしたいところ。 3 月上旬には、大統領自身が「中国がより市場志向の為替レートに移行していくことは、世界的な不均衡の是正に向けて不可欠な貢献をもたらす」と述べ、切り上げの必要性に言及していた。

米議会はさらに強硬で、中国を 16 年ぶりに「為替操作国」に認定し、強く人民元切り上げを迫るよう米政府に求めた。 自らの輸出振興のために自国通貨を不当に安くしているという「操作国」に名指しすれば、米国からの圧力の象徴になるとみられていた。 しかし、中国側の要請に呼応するように、米政府は 4 月、為替操作国の認定作業を延期した。 以後も表立って人民元切り上げを強く求める行動を控えている。

米中両政府は 24、25 日の第 2 回米中戦略・経済対話を前に、ガイトナー財務長官が王副首相らと 23 日に北京で会食する。 対話では人民元切り上げが表明されることはない模様だが、ギリシャの財政危機を機に金融市場で混乱が起きていることもあり、米政府は 23 - 25 日の間、中国の姿勢に変わりがないかを確認するとみられる。 (asahi = 5-23-10)


人民元切り上げ、交渉本格化 米財務長官、中国入り

ガイトナー米財務長官と王岐山(ワン・チーシャン)中国副首相が 8 日、北京で会談した。 米政府高官は朝日新聞の取材に対し、中国の人民元切り上げ問題と米中間の貿易問題を協議したことを明らかにした。 12 日にワシントンで予定される米中首脳会談を控え、人民元問題を巡る交渉が加速してきた。

「外国為替、貿易、世界経済見通しについて議論した。」 米政府高官は 8 日夜、ガイトナー長官と王副首相の会談内容についてこう明かした。

同日夜には、米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)が、関係者の話として、中国が為替政策の変更と小幅の人民元切り上げを数日中に発表する可能性があると報道。 中国人民元の切り上げを巡る駆け引きが大詰めを迎える中での、米中両国の経済政策責任者同士の会談になった。 会談終了後に米財務省が発表したのは「米中経済関係などについて意見交換した」というそっけない内容だったが、実際は「人民元」が主要テーマだった。

ガイトナー長官はインドからの帰路に急きょ中国を訪問したが、これには中国側の事情もあると他国はみている。 ある国際機関幹部は「最近、中国政府関係者がワシントンに何人も来て、米国側に為替政策を変更するとのメッセージを盛んに送っていた」と明かす。 ガイトナー長官に対して中国側が人民元切り上げを巡る方針を非公式に伝える場になった可能性もありそうだ。

米国側は今回の会談を人民元問題を解決する大きな好機とみている節がある。 米財務省高官は、訪中決定直後の 7 日、今日は中国についての話をするつもりはないと言うばかりでだんまりを決め込んだ。 ただ、最後にこんな趣旨の話もした。 「でもある時点になれば、米国か、中国かが新たな話をするだろう。 いまは時期尚早だ。」

■ 「半歩ずつ譲り合い

ガイトナー長官が、中国に対話を求めてきたことに、中国政府関係者の多くは「両国は賢明にそれぞれ半歩ずつ譲った(張燕生・国家発展改革委員会対外経済研究所長)」など、歓迎の声を上げる。 15 日をめどに行う予定だった、中国を為替操作国と認定するかどうかの作業を先送りしたうえでの行動だったからだ。

中国当局が人民元レートを固定するために実施してきた「元売り」介入は、中国国内の資金をだぶつかせ、中国国内のインフレ圧力や不動産バブルを悪化させている。 しかも割安な人民元は、石油などエネルギーを海外から買ってくるのには不利で、輸入物価の上昇を通じてこれもインフレの原因になる。

こうした介入の「副作用」は、中国政府内でも重視せざるを得なくなっている模様だ。 国務院発展研究センター金融研究所の巴曙松・副所長は「1 日の取引での変動幅拡大や、以前のような緩やかな上昇への復帰はともに可能性がある」と話す。

ただ、「世界経済の主要な矛盾はまだ完全には消えていない(温家宝(ウェン・チア・パオ)首相)」状況で、中国の 3 月の貿易収支は約 6 年ぶりに赤字になる見通し。 広東省など沿海部に集積する輸出工場を支えてきた人民元抑制をやめるかどうかは、中国としては慎重に見極めたいところだ。 人民元が切り上がれば、輸出産業が大打撃を受けるからだ。

広東省などでは大規模な人手不足が起きて人件費も上昇傾向にある。 さらに人民元相場も急激に上昇すれば「中小企業が受け入れられる範囲を超えてしまう」と張所長は話す。

3 月に温首相自ら「人民元は過小評価されていない」と言い切って反論した中国としては、米国の圧力に屈する形での為替政策の変更は、国内で政府批判を招きかねない。 米中の対立が続けば、政策変更できないまま介入の「副作用」が深刻になる恐れがあり、人民元問題での協調は中国にとっても必要になっている。

妥協点、首脳対話で

中国にとって、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の今回の訪米は難しい決断だった。 米中関係は今年に入って、米国の台湾への武器売却決定やオバマ大統領のダライ・ラマ 14 世との会談といった問題が相次ぎ、中国は強硬な対米批判を展開してきた。 中国筋は、一時は胡主席ではなく、温首相の訪米も検討された、と明かす。 しかし、結局、核保安サミットの主催者である米国の強い求めに応じる形で、胡主席は訪米に踏み切った。

中国外務省の崔天凱次官は 7 日の記者会見で「米中間では経済や貿易、金融などの問題で時に立場が異なる。 しかし、両国はこうした重要な分野で共通の利益を持つ。 我々は話し合いを通じて、両国間の違いをうまく処理していけると信じる。」と訴えた。 人民元の切り上げ問題だけでなく、複雑な課題が山積する米中関係だからこそ、妥協点を模索し、首脳間の対話のパイプを閉じることは得策ではないとの論理だ。

さらには、核保安サミットのテーマである核不拡散などの軍事分野が、温首相ではなく、中央軍事委員会主席も兼ねる胡主席でなければ責任を持って担えない問題であったこともある。 急速な経済発展を背景に国際社会での存在感を高めようとする中国外交は、「多国間協議でも積極的な役割を担う(中国政府関係者)」との方針を掲げる。

訪米発表を受け、2 日に行われた胡主席とオバマ大統領との電話会談は異例ともいえる 1 時間の長さに及んだ。 内容は、両国関係やチベット問題、台湾問題に広がった。 12 日の首脳会談でも、人民元のほか、核軍縮、核不拡散、イランの核開発などの問題が幅広く話し合われる見通しだ。 (尾形聡彦、琴寄辰男、古谷浩一、asahi = 4-9-10)

〈人民元切り上げ問題〉 人民元をドルに交換する為替相場は、リーマン・ショックが起こる直前の 2008 年夏ごろから 1 ドル = 6.83 元前後で動いていない。 これが、中国当局が「元売りドル買い介入」し、人為的に人民元の上昇を止めている、とみられている理由だ。

米国としては、人民元を安く抑えられては、中国製品がどんどん入り、貿易収支の赤字が拡大してしまう。 中国向けの輸出を増やそうにも増やせず、国内の失業問題を輸出産業を活発にして解決する、といった方策は採れない。 米国が、人民元の上昇を強く求める理由はここにある。

ただ、人民元の上昇はすべての国にとって好ましいかどうかはわからない。 日本円を含めた周辺アジア通貨は一時的に上昇する可能性が大きい。 その場合、輸出産業に頼る度合いの大きい日本や韓国の経済に短期的に悪影響を与える恐れがある。


「人民元改革、4 月実施検討」 中国経済誌が報道

【北京 = 琴寄辰男】 中国の経済誌「財経」は 29 日発売の最新号で、「人民元の為替制度改革を 4 月に実施する案が、中国政府内で話し合われている」と報じた。 「米国の圧力による切り上げは受け入れられない」ものの、「国内のインフレ圧力や資産バブルを考慮すれば、相場自体の調整は必要」という見方が共通認識になりつつある、という。

同誌によると、政策決定権を持つ指導者層が最近、中国人民銀行(中央銀行)など関係部門の責任者を集めて人民元問題を検討したという。 物価安定を重視する人民銀、輸出企業を守る立場の商務省など政府内で意見の違いはまだあるが、「方向性について重要な共通認識が徐々にできている」と指摘。 新たな反対意見がなければ、為替政策を調整する政策文書の起草・調印はいつでも日程にのぼる可能性がある、としている。

改革の具体策については、多くの専門家の分析として、一度に 2 - 3% 切り上げるのではなく、「為替レートをより市場に基づいて弾力的に調節する意味を持つものになる」との見方を伝えた。 (asahi = 3-30-10)


人民元の対ドル相場、固定解除に慎重な姿勢 人民銀総裁

【北京 = 琴寄辰男】 中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は 6 日、全国人民代表大会(全人代)の記者会見で、「(金融)危機の影響はまだ深刻で、非常時の政策から平時の政策に戻すならとても慎重に時期を選ぶ必要がある。 これには人民元の為替政策も含まれる」と述べ、2008 年夏ごろから続く人民元対ドル相場の固定状態の解除に慎重な姿勢を示した。

中国当局は、金融危機による輸出落ち込みを和らげるため、為替介入によって人民元相場を 1 ドル = 6.83 元前後でほぼ固定させてきた。 周総裁は、非常時の政策は「いずれ出口が問題になる」としながらも、米国などからの人民元相場の切り上げ要求に「為替問題は政治問題化することがあるが、それは問題の解決にマイナスであり、我々は賛成しない」などと反論した。

金融政策については「成長維持とインフレ防止をはかりにかけなければならない」としたうえで「経済指標などに基づいて調整する必要がある」と指摘し、今後の利上げに含みを持たせた。 (asahi = 3-6-10)