コロナ禍で世界の 10 人に 1 人が飢餓に 食料危機の現場から

コロナ禍が食料危機に拍車をかけている。 国連によると昨年、世界のほぼ 10 人に 1 人にあたる 8 億 1 千万人が飢餓に苦しんだ。 政情不安や自然災害にワクチン接種の遅れも加わり、今年も改善の兆しはない。 西アフリカのガンビアで国連世界食糧計画 (WFP) の所長を務める津村康博さんに危機の現状を聞いた。

ガンビアの人口は約 230 万人。 主産業は農業と観光で、1 人当たりの総収入が年約 800 ドルに満たない貧困国だ。 コロナの累積感染者は約 1 万人だが、ウイルス検査が帰国者などごく一部に限られ、「実際の感染者はもっと多いはず」と津村さん。 ガンビアを含めアフリカの多くの国がロックダウンなど厳しい移動制限を講じた。 「水道やトイレがない世帯が多く、相当な不便を強いられた。」

庶民を苦しめるのが主食のコメをはじめ 5 割を輸入に頼る食料の高騰だ。 コロナ禍前に比べ 2 割も値上がりした。 不作や輸出制限に加え、感染拡大による人手不足、先進国での巣ごもり需要の拡大などで国際物流が混乱。 「家の敷地で野菜を育ててしのぐ家庭が増えた。(津村さん)」 多くの貧困国が WFP などと連携して学校給食による子供の栄養確保に取り組んできたが、その学校もコロナで軒並み閉鎖に。 ガンビアでは、日本からの支援もあり一部地域で 4 月に給食が再開し、教室に子供たちの笑顔が戻った。

津村さんによると、調理用の材料を学校に配る方式から、現金を渡して各学校が地元で調達する方式に改めたという。 「食べ慣れた食事だと生徒も喜ぶし、地域の農家の支援にもなる。」 食料高騰の背景には、近年顕著な異常気象がある。 内陸部で干ばつが深刻化し、沿岸部では洪水が頻発。 農業の疲弊でコロナ前から食料不足が恒常化していた。 多くの貧困国に共通する問題だ。

懸念されるのは政情不安だ。 アフリカでもコロナ対策や食料問題で批判にさらされる政権がある一方、感染防止に名を借りた行動制限で不満を封じる政権もある。 政治的に安定していた隣国セネガルでは反政府デモが相次ぎ、9 月には西アフリカのギニアで軍事クーデターが起きた。 ワクチン接種が大きく遅れているのも心配だ。 ガンビアを含め大半のアフリカ諸国で、接種を済ませたのは人口の 1 割以下にとどまる。 感染力が強い変異株に見舞われれば貧弱な医療態勢ではもたない。 「コロナ禍が浮き彫りにしたのはウイルスに国境はないこと。 地球上にいるだれもが『わがこと』と受け止めてほしい」と津村さんは支援を呼びかける。

政情不安、気候危機にコロナ禍が追い打ち

WFP など国連 5 機関が 7 月に発表した報告書によると、2020 年の飢餓人口はアジアが 4 億 1,800 万人と最大で、アフリカが 2 億 8,200 万人。 アフリカでは人口の 21% が栄養不足で、他の地域の 2 倍以上だったという。 世界の食料事情は、10 年代半ばを境に悪化へと転じた。 大きな要因が紛争などの政情不安。 そして洪水や干ばつ、害虫の大量発生など気候危機だ。 イエメン、南スーダンのように両方の要因が絡みあう国も少なくない。 深刻な干ばつに見舞われたマダガスカルや政情が混乱するアフガニスタンの状況は急速に悪化しつつある。

長引くコロナ禍が追い打ちをかけている。 失業や収入減で貧困が拡大。 物流の混乱に加え、国境封鎖や民間機の運航減が支援物資の輸送も妨げている。 国連機関は栄養価の高い作物の奨励や異常気象への備えの強化などに取り組んでいる。 温室効果ガスの原因になる「食品ロス」を減らすことなど、先進国にもできることはあるとしている。 (asahi = 10-18-21)


ワクチン予約サイト、プロが示す「最悪シナリオ」対処法

政府が東京と大阪に設置する新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターで、予約システムの不備が問題になっている。 IT セキュリティーに詳しい情報法制研究所の高木浩光理事は、このシステムがサイバー攻撃の標的にされ、多くの人が接種の予約をできない事態になる恐れもあると指摘する。 原因は何か、どうすればいいのか。 話を聞いた。

- - 大規模接種センターの予約システムでは、架空の接種券番号などを使っても予約がとれるようになっていることがわかりました。 どんな問題が起き得るでしょうか。

予約サイトでは、住んでいる自治体を選んだり、自治体ごとに割り当てられた 6 桁の番号を入力したりした上で、自治体から届いた接種券に書かれている 10 桁の番号と生年月日を入力します。 ただ、その生年月日が実際のものと合っているかはチェックされません。 初めてアクセスした時に、自己申告にもとづいてその生年月日が「登録」され、アカウントが作られて予約の手続きに入れるようになります。 2 回目以降にページに入ろうとすると、入力した生年月日が 1 回目で登録されたものと一致しているか、チェックされます。 それによって、本人からのアクセスかどうかを「確認」する仕組みになっているのです。

そのため、もし自分と同じ接種券番号を、ほかの誰かが別の生年月日と組み合わせて入力し、先にアカウントを作られてしまうと、後から作ろうとしても「接種券番号と生年月日が一致しない → 別人だ」とシステムに判断されて、入れなくなってしまいます。 他人に接種券番号を使われてしまった場合、どうしたらいいのでしょうか。 運営者に求められる対応と、サイバー防衛の「基本中の基本」とは。 システムの不備を伝えた報道に、意義はあったのでしょうか。

最悪のシナリオでは、サイバー攻撃によって大量にアカウントの「先取り」が行われ、自分の接種券番号で入れず、予約を取れない人が続出するという事態が考えられます。 そこまでいかなくても、接種券番号を間違えて入力した人に先に取られてしまい、入れないということも少なからず起きるでしょう。 また、本人が 1 回目で自分の生年月日の入力を間違えた場合、2 回目以降はその間違えた生年月日でないと入れなくなります。

- - 正しい組み合わせの接種券番号と生年月日が入力されたときにだけ、アカウントを作れるシステムになっていればよかったのでしょうか。

そうでもありません。 いまの接種対象者は高齢者ですから、対象者の年齢の幅が 30 歳あるとして、生年月日は 30 x 365 でだいたい 1 万通り。 ひとつの接種券番号について 1 万通りの生年月日を試せば当たってしまうわけです。

生年月日でのログイン方式「もっての外」

5 回間違ったらロックする、といった仕組みにしたとしても、接種券番号の方を変えながら攻撃されるとロックできず、数千個に 1 個程度の番号で、当たってしまいます。つまり、この方法では結局、完全には防げないわけです。 ネット上のログイン機能を設計するときの常識として、生年月日でのログイン方式は「もっての外」なのです。

- - マイナンバーを使えば対策になりますか。

マイナンバーでは解決しません。 12 桁しかありませんので、いまの接種券番号が 10 桁なのとほとんど変わらず、同じ原理で当てられてしまいます。

- - どうすべきだったのでしょうか。

そもそも接種券番号が 10 桁しかない、しかも各自治体が住民に連続番号を割り振っているとも聞きますが、それは DX (デジタル変革)に対応できていない、20 世紀のアナログな発想です。 接種券番号と生年月日で登録する方式でいくなら、接種券番号をランダムな 23 桁ほどの数字にすることで完全に解決できます。 そうすれば、数字の組み合わせは膨大になります。そのなかに本物の番号がごくまれに入っているようにして、システム側で本物の番号かチェックするわけです。

これなら悪意を持った人がランダムに接種券番号を入力しても、本物の番号と一致する確率は無視できるほどに小さくなります。 こういう仕組みは、ネットで使えるギフト券のギフト券番号でも使われています。

現状踏まえた運用でカバー

- - 予約システムを作り直すべきでしょうか。

接種券番号を 23 桁にするというのは、接種券の発行からやり直しなので、今からではできないでしょう。 そのほかに、架空の自治体番号ですら通ってしまうといった不具合も指摘されていました。 その不具合を改修すれば、入力ミスは多少防げるでしょうから、直すのも良いと思いますが、架空の予約をされてしまう問題は解決しません。 接種券番号と生年月日の正しい組み合わせのデータを自治体から集めて、予約システムでチェックするように改修すれば、架空予約される頻度を下げられますが、改修までに数カ月はかかるでしょう。

- - ではどうすれば。

「他人に接種券番号を使われてしまって、入れない場合がある。 そういう時は連絡してください。」ということを、国民に周知するほかありません。 また、正しく予約した人が攻撃者に不正にキャンセルされてしまう可能性もあるということを、接種会場の係員が知っていなければいけない。 万が一、係員がわかっていないようだったら、予約した本人が「勝手にキャンセルされたんじゃないか」と交渉しないといけない。 そのためには、そういうシステムだということを、皆さんに知ってもらわないといけないわけです。

予約システムを管理する側では、攻撃者によって作られた架空の予約がおおむねどれだけあるのかを把握して、明らかな架空予約は削除したうえで、架空とみられる分だけ、予約の枠を増やす必要があります。 ともかくワクチン接種を速やかに進めることが社会の利益なのだから、接種会場で受け付けする人は、キャンセル扱いになっている人が来ても、本人からの申し立てがあればそれを信用して通せばいいと思います。接種券番号を間違えて登録した人が来たときも、同様です。

架空予約を運用でカバーできるなら、いっそのこと、予約システムで接種券番号を使うのをやめてしまい、氏名を登録してもらうだけの予約方式にして、接種会場の受付では、接種券の氏名と照合する、というやり方もあり得ますね。これなら、予約枠の転売を防ぎつつ、最初に述べた「先取り」の被害を防げます。

それから、外国からのサイバー攻撃で架空の予約を大量に入れられてしまう事態が起きるかもしれませんが、その際には上記のように粛々と対処して、「何の影響もありませんよ」という態度を示すことが肝心です。 そうした妨害型のサイバー攻撃は、相手国の威信をおとしめることが目的ですから、「知らん顔しておく」ことがサイバー防衛の基本中の基本のはずです。

取材手段は合法、事実の周知を

- - 防衛省は、記者が架空の接種券番号や市区町村コードを入力しても予約できたと指摘する報道をした朝日新聞出版のニュースサイト「アエラドット」や毎日新聞に抗議しました。

報道の目的が何だったのかは知りませんが、システムの脆弱性を調べる手順としては、合法なステップを踏んでいると思います。 今回の場合、このような挙動をするシステムだということを、利用者となる国民や接種の現場の係員まで広く知らせておくことが必要ですから、その事実を周知したことの意義は大きいでしょう。 今回の報道がなかったとしても、アカウント「先取り」の被害が出始めれば、いずれ報道されることになったでしょう。 それが外国からのサイバー攻撃だったとしたら、今回より増して私たちの国は恥をかかされることになったでしょう。

- - 報道する前に政府の側に伝えて、改修のための時間を与えるべきだったという意見もあります。

情報漏洩が発生する事案の場合には、そういうステップを踏むべきですが、今回はそうではありません。 特に今回は、システム改修では解決しないことが明らかです。 ワクチン接種を止めるわけにいかない中で、このようなトラブルが起きるシステムだということを広く知らせ、それを承知の上で続けることのほうが重要です。 報道の方々には、「こういったシステムだから、勝手にキャンセルされていることがあるかもしれないけども、ちゃんと受け付けてもらえるから、落ち着いて行動しましょう」と呼びかけてもらいたいと思います。(小宮山亮磨、asahi = 5-22-21)

高木浩光(たかぎ・ひろみつ) 1967 年生まれ。 名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了。 同大学助手、旧通産省工業技術院を経て、産業技術総合研究所サイバーフィジカルセキュリティ研究センター主任研究員。 2016 年から一般財団法人情報法制研究所理事を兼務。

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「正しく入力したのに…」 大規模接種の予約、続く混乱

政府が東京と大阪に設置する新型コロナウイルスワクチンの「自衛隊大規模接種センター」のインターネット予約をめぐり、「システムに正しく入力しても予約ができない」といった住民からの問い合わせが都内の自治体に相次いでいる。 防衛省はシステムに不備があったとし、21 日中に改修する方針を示した。 続く混乱に、自治体からは「国はしっかりとしたシステムを作ってほしい」と批判の声が上がっている。

「予約システムに接種券の番号を正しく入力しているが、予約ができない。 区の番号がおかしいのではないか。」 東京都板橋区では、大規模接種センターの予約受け付けが始まった 17 日以降、区民からの苦情や問い合わせが数十件寄せられた。 区の担当者によると、防衛省側に照会したところ「システム上の問題」と説明されたといい「区としてはどうしようもない」と、頭をかかえる。 区民からの問い合わせには、「板橋区が送った番号は間違いないのでご安心ください。 システムのことは、国に聞いてもらえますか」と説明しているという。

大規模接種センター東京会場の接種対象は、東京、千葉、神奈川、埼玉の 1 都 3 県の在住者。 予約の集中を避けるため、17 日から東京 23 区の 65 歳以上の高齢者から先行してインターネット予約が始まっている。 朝日新聞が東京23区に取材したところ、品川区や江東区など少なくとも五つの区で、「接種券の番号を正しく入力したのに予約できない」という問い合わせが寄せられていた。 約 10 件の相談があったという品川区の担当者は「区は正しく接種券を発送している。 国のシステムの詳細はわかりかねる」と困惑する。 区民には国の相談窓口を案内するしかできないという。 台東区でも計 25 件の相談があった。

5 件ほどの問い合わせがあったという新宿区では、防衛省に問い合わせたが、電話がつながらないという。 区の担当者は、ワクチン接種のスピードを上げるため、国の大規模接種そのものには意味があると考えている。 だが「結果的に不完全なシステムで区民を混乱させている。 あまりにお粗末だ。」と嘆いた。

大規模接種センターの予約システムを巡る混乱について、兵庫県芦屋市の CIO (最高情報統括責任者)補佐官で、自治体の情報システムに詳しい立命館大の上原哲太郎教授は「自治体が主体で接種するなか、国の大規模接種センターの設置が決まった。 今回の問題の根本原因は、全体でワークフローを整理しないまま、予約システムを用意したということにある」と指摘している。 (川口敦子、武田啓亮、御船紗子)

防衛省が問い合わせ窓口

予約をめぐるトラブルは国会でも取り上げられ、防衛省はシステム上の問題点があるとして、21 日中に改修する方針を示した。 防衛省によると、東京会場の予約画面では、市区町村から送付される接種券に載っている券番号(10 桁)と市区町村コード(6 桁)に加え、生年月日を入力する。 次の画面に移った後、生年月日の誤りに気づいて元の画面に戻って修正しようとすると、受け付けない状態になっていたという。

厚生労働省によると、券番号は 10 桁の数字で、同一の自治体内の住民の番号が重複しないよう、市区町村が決める。 そのため、別の自治体の住民同士の番号が重なる恐れはあり、これが今回の予約できないトラブルにつながっているのでは、という声が SNS などで上がっていた。 だが、政府の大規模接種センターを設置する防衛省によると、市区町村コードと券番号を足した16 桁を個人認証の ID として認識するため、そうした重複は起こらないという。

ただ、生年月日がパスワードの役割を果たしているため、ID にひも付いた形で生年月日が一度入力されてしまうと、別の生年月日を受け付けなくなる。 利用者から、生年月日を誤ると改めて入力することができなくなるというトラブルの報告が複数寄せられているという。 防衛省は予約方法の問い合わせなどに応じる電話窓口(東京会場 = 0570・056・730、大阪会場 = 0570・080・770)を 21 日午前 7 時に開設。 今回の生年月日をめぐる問題で予約を取れなかった人は、この電話窓口で対応する。

大阪会場の予約は別のシステムを使っている。 同省の担当者は 21 日の衆院厚生労働委員会で「予約を取ろうとされた方々には大変ご迷惑をおかけした」と陳謝した。 (成沢解語、松山尚幹、下司佳代子)

900 人参加し予行演習

防衛省は 21 日、新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターの東京会場となる大手町合同庁舎 3 号館(東京都千代田区)で、予行演習を行った。 エキストラを含む医官ら 900 人が参加。受け付けから接種までの一連の流れを確認した。 接種は 24 日に始まる。

演習では、接種を受ける人が会場の外に設営したプレハブ内に移動し、予診票の記載漏れがないかチェックを受けた。 その後、会場内に進み、人数調整のために 1 階の部屋で待機した後、看護官が予診票を確認する部屋、医官が予診する部屋、看護官が接種する部屋へと次々流れた。 会場の所々にはスタッフが立ち、行き先が分からない人を案内したが、人の流れが滞る場面もあった。 水口靖規センター長は「まだ慣れていない人もいる。 しっかり詰めてやっていきたい。」と話した。(成沢解語)

自衛隊大規模接種センターで余ったワクチンについて、中山泰秀防衛副大臣は 21 日、会場で接種を担当する民間の看護師らを対象に接種する方針を明らかにした。「何よりも余らせない形でしっかりと計画をもってやっていきたい」と述べた。 また、31 日からの接種分については、1 日あたり東京会場は 1 万回、大阪会場は 5 千回の枠を設けると説明。 このために防衛医科大学校の研修医らも投入する方針も明らかにした。 (asahi = 5-22-21)


〈編者注〉 下記記事には、情報が不正確な部分もあるようです。 上記、22 日付け記事を併せ参照してください。

大規模接種の予約、なぜ混乱 カギは接種券番号の下 1 桁

政府が東京と大阪に設置する新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターの予約が 17 日、始まった。 だがその予約システムは、架空の接種券番号や生年月日などを入力しても予約できてしまうことがわかり、防衛省はシステムの改修を急ぐとしている。 なぜこのような問題が起きたのか。兵庫県芦屋市の CIO (最高情報統括責任者)補佐官で、自治体の情報システムに詳しい立命館大の上原哲太郎教授に聞いた。

- - なぜ架空の情報を入れても予約が取れたり、自治体との二重予約が防げなかったりするシステムが使われるのでしょうか。

まずシステムの仕様からお話しします。 自治体が主体で接種する予定のなか、大規模接種センターが作られることが決まって、国も接種することになった。 今回の問題の根本原因は、全体でワークフローを整理せずに、予約システムを用意したということにあると思います。 東京と大阪では別のシステムが使われていて、今回東京で使っているシステムは、私が CIO 補佐官を務める芦屋市のほか、いくつかの自治体でも採用されているものと同じ会社のシステムです。

1 日あたり最大 1 万人の予約を受け付けられるほどのシステムを一から作る余裕は無く、いくつかの企業があらかじめ作ったものの中から、今回のシステムが選ばれたのでしょう。 システム自体はごく最低限の作りです。

本来は、対象となる接種券番号をあらかじめデータベースに登録しておき、入力された番号がデータベース上にあるかどうかを登録時に確認する。 ただ、誰にどの接種券番号を割り振ったかという情報は各自治体が持っているので、その情報を全部集めるのは時間的に間に合いません。 そこで防衛省は、予約は予約で受け付けて、接種した時点で接種券番号を自治体に渡し、後から確認してもらうという仕組みにしたわけです。 つまり、防衛省は接種した番号を渡し、自治体が後でゆっくりとデータベースと照合して「消し込み」作業をすればいいだろうと。我々情報屋さんからしたら、よくある話なんですよ。

「生かされていない」過去の気づき

一般に、入力時にデータベースと照合できるようにするとシステムが重くなるので、ものすごく殺到が予想されるときには避けた方がいい。 ただ、それには前提条件があって、登録されたデータが「腐って」いてはだめ。 後処理が大変なことになります。

大規模接種センターの予約では「正しい接種券番号などを入力したのに予約できない」というトラブルも発覚しています。 今後自治体で混乱が生じる恐れはないのでしょうか?

- - データが「腐っている」とは。

データベースとその場で照合できるときには使わないのですが、後で照合する場合には、入り口で入力間違えをはじくために、接種券番号に「チェック・デジット」を入れておくのが常識とされています。 だけど、今回は入っていなかった。 チェック・デジットとは、例えばクレジットカードの番号の下 1 桁の数字のことで、下 1 桁以外の数字を足したり割ったりして算出します。番号の入力時に、コンピューターが下 1 桁の数字を手がかりに検算して、実在しない番号の組み合わせや、入力ミスをはじくことができるというわけです。 この程度の計算ならシステムに負荷をかけることなく即座にできます。

- - なぜ今回は入れなかったのでしょうか。

もともと、今回のワクチン接種は自治体内のみで行い、国と連携することは見越していなかった。 そのため、接種券番号もその想定で自治体ごとのルールによって割り振られています。 厚生労働省から各自治体に、今回のワクチン接種の準備をお願いする手引書があるのですが、かなりバタバタな中で作られていて、しかもしょっちゅうバージョンアップする。 サイトを見に行くたびに、少しずつ変わっているほどです。 そんな大忙しの中で、接種券番号の桁数だけが先に決まってしまった。

その結果、接種券番号は「算用数字 10 桁」、「市区町村において(同じ番号が存在しない)一意となる管理番号とすること」ということ以外に規定はなく、自治体の判断に委ねられました。 なかにはチェック・デジットを入れた自治体もあるかもしれませんが、多くの自治体では入っていません。

もともと自治体は、乳幼児期の集団予防接種などのために、住民の予防接種の記録を管理する予防接種台帳を持っています。 これはあくまでも想像ですが、厚労省の担当者は、自治体が今回のワクチン接種で住民に接種券番号を割り振るときに、予防接種台帳の番号をそのまま使えば二重の管理にならずにすむと考えて、あえてチェック・デジットを入れることを推奨しなかったのかもしれません。

実は、今回の接種券の仕様や業務フローは、2019 年から成人男性を対象に実施されている風疹の予防接種とまったく同じなんです。 住んでいる自治体に縛られず、接種券があれば全国どこでも受けられたので、まねできると思ったのでしょう。 接種券番号も 10 桁と同じです。

接種券を配って、各医療機関で予約を取るという全く同じ流れでやろうとしていた。 でもあれは平時だからできたわけです。 今回のような緊急性があるときは難しい。 今回の大規模接種では走りながら改善していこうと思っていたのかもしれませんが、風疹の予防接種時にあった気づきやフィードバックが、まったく生かされていないのは残念です。 少なくとも今回は、簡単な 6 桁の数字程度でいいので、接種券にウェブ予約用のパスワードを付けていれば、「誰でも予約できる」といったトラブルは回避できました。

- - 架空の情報でも予約が取れるほかに、想定される問題はありますか。

お話しした通り、接種券番号は自治体ごとのルールで割り振っています。 そのため、違う自治体に住んでいる A さんと B さんが同じ接種券番号ということが有り得るわけです。 しかし、そのことを考慮したシステムなっていなかった恐れがあります。

そのため、国の大規模接種をうけようと A さんが B さんより先に予約を入れてしまうと、B さんはすでに予約済みと見なされて予約できないというトラブルが起きていたようです。 入り口の時点ではじかれてしまうわけです。 予約をできなかった B さんが、やみくもに自分の接種券番号と少し違う番号を入れて予約を取るような行動をとれば、その番号は実は別の C さんの番号で、今度は C さんの予約が取れなくなる … という事態になるのではと懸念しています。

- - どのように改修したら、その問題を避けることができますか。

本人情報と突合するための内部の ID に、接種券番号と市町村コードのほかに生年月日も加えれば、自治体をまたいだ番号の重複は避けられます。 生年月日はパスワード的に使っているので、市町村コードと接種券番号だけで良いようにも思うのですが、それだと単なる打ち間違いで ID が重なる危険が高いので、生年月日を含めるべきだと思います。 生年月日が ID とパスワードの両方に入りますが、そこは気にせずやるべきです。

自治体での混乱、再び?

- - 後々不備のある番号ははじかれるとしても、自治体の事務作業が煩雑になりそうです。

大規模接種のワクチンはモデルナのもので、一方自治体はファイザーのもの。 1 回目はモデルナで 2 回目はファイザーといったように交ぜて打たないよう、厚労省は呼びかけています。 防衛省は、大規模接種が 1 回目の接種であることを対象の条件にしています。 だから自治体は今後、モデルナのワクチンを打った人を自治体接種の対象リストから外さなければいけません。

そもそも、大規模接種の予約者の中から、その人が対象の基準を満たしているかどうか自治体が消し込みをするときに、例えば 6 月 1 日時点で自治体の予約を取っている人を外すとしても、「自治体の接種の予約があまりにも先だから、キャンセルして大規模接種の方を受けよう」と考えて 6 月 1 日以降にキャンセルした場合は、あらためて大規模接種の予約が取れるように、自治体の方で個別の対応をする必要があります。

さらに、1 回目に大規模接種を受けた人が、自治体の接種を受けることがないよう個別にフォローする必要もあります。 自治体にとっては、複雑過ぎて七転八倒する作業だと思います。 自治体は人が足りないのにさらに疲弊していく、ということが起きるわけです。 今回、マイナンバーカードを本人確認に利用して、予約や事務を行えば、自治体の接種台帳への反映も自動的にできたかもしれない。 でも普及率が 3 割程度では、残念ながらマイナンバーカードをベースにしたシステムは、作れないわけです。

- - 自治体の混乱といえば昨年も、国民に一律 10 万円を配った「特別定額給付金」のオンライン申請で起きました。

「段取り八分」という言葉があります。 何事も準備に8割の手間をかけなさいという意味で、情報システムの例外の処理には手間がかかるんですよ。 ロジの負担を軽くするためには細かな配慮が必要なのに、給付金の時も今回も、それが足りていないのだと思います。 問題の根本はシンプルで、コンピューターのことがわかっている人が世の中に少なすぎるということ。 今回のような大規模な予約システムなんて一晩で作れません。

日本は、まず役所に IT 屋さんがほぼいない。 そうすると、役所の担当者が自分で判断できないので、業者を呼んでヒアリングするところから始まる。 次は公平性が必要ということで、入札という話になる。 入札ということになると、もっと安いシステムが入る。 その善し悪しの判断ができる人がいない。 随意契約にすれば、「なんでその企業なんだ」という話にもなり、本当にその予算が妥当なのか判断できる人がいない。

- - こんなに防衛省のシステムが脆弱で大丈夫なのか、という声も聞かれます。

今回はワクチン接種予約だけのシステムで、防衛省のシステムとは全く無関係。 機密情報は一切インターネットから遮断されているでしょうし、そこを心配する必要はありません。 日本で公務員の医師を一番抱えているのは自衛隊だというのは確かなので、ここの人を動員するのは当然だと思うし、自衛隊を活用すること自体は悪いことではないと思います。

ただ、「大規模接種センター」という、まとまってやるぞ、というシンボリックなことをやるよりは、医官をそれぞれの自治体に派遣して、それぞれの接種センターで打ち手を確保する、というやり方の方が良かったような気がします。 そうすれば、ここまでのシステムの混乱も招くことは無かったのではないでしょうか。 (牛尾梓、asahi = 5-21-21)



戸別所得補償、予算内に収まりそう 米価下落に歯止め

農林水産省が 26 日に発表した 2010 年産米の昨年 12 月の平均卸売価格は、前月比で 1% 高い 60 キロあたり 1 万 2,711 円だった。 同 9 月以来の米価下落に歯止めがかかったことで、10 年産米に対する戸別所得補償予算の不足は回避される公算が大きくなった。

戸別所得補償の今年度予算額は約 5,600 億円。 米価下落分の補償額は 1 月までの平均価格で算出することになっており、下落が続けば予算が不足する懸念が出ていた。 農水省が 11 月、米余りが当初予測より小さくなりそうだと発表したことが値上がりの一因となった。 同省は年末に過剰米の買い上げも発表しており、その効果もこれから出てくる可能性がある。 (asahi = 1-27-11)


猛暑避け超遅植え → 全て 1 等米ゲット 香川に「七夕米」

今年は猛暑の影響で、最も品質の良いコメとされる「1 等米」の比率が全国的に落ち込んだが、暑さ対策として田植えを 2 カ月も遅らせた香川県の一部の農家のコメは、全量が 1 等米に格付けされた。 田植えの時期にちなんで「七夕米」と命名。 コメ栽培に向かない土地が多く、1 等米比率は毎年全国最低レベルの同県だが、思い切った「超遅植え」が実った。

香川県東かがわ市の 4 軒の農家で作る農事組合法人「SWAN」。 周辺の田植えは通常 5 月上旬だが、最近の夏の気温データを分析し、試験栽培を 2 年間重ねて 7 月上旬まで一気に繰り下げた。 農林水産省によると、最近は暑さ対策で田植えを数週間ずらす例はあるが、2 カ月遅らせるのは極めて珍しいという。

3 ヘクタールでコシヒカリの苗を栽培し、約 12 トンを収穫。 品質検査で全量が 1 等米と認められた。 11 月からデパートや高速道路のサービスエリアなどで「七夕米」として販売。 高松三越(高松市)では 1 袋 2 キロ入りが、最高級の新潟・魚沼産とほぼ同じ 1,480 円(税込み)で店頭に並ぶ。

コメ売り場責任者の喜田比彦(つねひこ)さん (49) は「モチモチ感と甘みに驚いた。 香川はコメどころでもないが、有名産地にひけをとらない。」と太鼓判を押す。 仕入れた 48 袋は完売したため、追加発注した。

農水省などによると、稲が穂を出してから収穫までの気温が高いと、でんぷんが行き渡らず白濁する実(白未熟粒)が増える傾向がある。 味にはほとんど影響はないが、等級が下がると販売価格も安くなる。 記録的な夏の暑さが続いた今年の 1 等米比率(11 月末現在)は、全国平均で 62.4% (前年同期比 23.3 ポイント減)。 比較可能な 1999 年以降では、台風の影響が大きかった同年の 63% を下回って最低だった。

なかでも香川県は雨が少なく、コメ栽培に適さない土地が多いため、2008 年から 2 年連続で全都道府県で東京都に次ぐ低さとなった。 今年も 11 月末現在の1等米比率は 2.4% (同 15.6 ポイント減)で、前年と同じ順位だ。

SWAN では、穂を出す時期を暑さのピークからずらそうと田植えを遅らせたが、稲が伸びる時期が真夏にあたると穂の数が少なくなる心配もあったという。 このため、県東讃農業改良普及センターなどの支援を得て、出穂を促す成分を豊富に含む特別な肥料を作ってもらったという。

上々の人気に、SWAN 代表理事の砂川哲也さん (53) は「これまでは 2 等米ばかりで悔しい思いだった。 一粒一粒に弾力がある 1 等米ができて良かった。 猛暑の影響は各地で深刻化するかもしれず、超遅植えは有効な手だてではないか。」と力を込める。 (佐藤常敬、asahi = 12-31-10)


米価、3 カ月連続で最安値更新 11 月 前年比 15% 安

農林水産省が発表した 2010 年産米の 11 月の卸売価格は全銘柄平均で前年同月比 15% 安の 1 万 2,630 円だった。 比較可能な 06 年産以降の最安値を記録した今年 10 月より 1% 安く、最安値の更新は 9 月以降 3 カ月連続となった。 農水省は過剰米 31 万トンを来春までに買い上げる方針を明らかにしており、その効果も含めて米価は下げ止まるとみている。 (asahi = 12-29-10)


政府、過剰米買い上げ 31 万トン 戸別補償費の抑制狙う

農林水産省は、安値となっている 2010 年産米を 31 万トン、来春までに順次買い上げる方針。 備蓄を理由に挙げるが、真の狙いは米価急落を止めて農協や野党の批判をかわし、下落分も補償する戸別所得補償の費用が予算を超えて膨らむのを防ぐことにある。  買い上げ費用はまず、全国のコメ農家の 7 割(生産量ベース)が豊作時の買い上げのために積み立てた基金から出す。

税制優遇があり、作況が「やや不良」の 10 年産には本来使えないが、制度を変更。 200 億円程度を投じて 13 万トンを買い、家畜のえさなどに使う。 残る 18 万トンは凶作や有事に備える名目で国費で買い上げる。 費用は 200 億 - 300 億円。 現在 95 万トンの備蓄を 5 万トン増やすほか、備蓄米のうち古い 05 年産の 13 万トンを 10 年産に差し替える。

10 年産米の卸売価格(60 キロ、10 月)は前年同月比 15% 安の 1 万 2,781 円。 さらに下がると戸別所得補償の費用が足りなくなる可能性がある。 ただ戸別補償は本来、農家所得を直接補償しつつ米価は需給に委ねる政策。 米価維持策との併用は、補償費負担とは別に「人為的に高めた米価」も消費者に強いる。 安くなった国産米も外国産より依然高く輸出にも不利に働く。

減反(生産調整)にも影響する。 現行の戸別所得補償は減反に参加した農家にのみ支払う仕組みだが、米価維持策は参加しない農家にも利益をもたらす。 減反参加率を下げれば、さらなるコメ余りと国費投入という悪循環の可能性を高める。 (山本精作、asahi = 12-25-10)


1 等米比率、過去最低の 62.4% 11 月末時点

農林水産省は、新米の品質に関する 11 月末時点の検査結果を発表した。 最も品質が良い 1 等米の比率は 62.4%。 10 月末より 0.7 ポイント低く、11 月末の比率としては、比較可能な 1999 年以降では同年の 63.0% を下回り、過去最低。 猛暑が主因とみられる。 検査は来年も続くが、11 月末までに 8 割が終了した。 (asahi = 12-21-10)


米豊作対策基金、今年の不振に転用 価格下支えへ農水省

農林水産省は、米の豊作時に過剰米を買い上げるために農家が積み立てた基金を、作況が「やや不良」の今年も使えるよう制度変更する方針を固めた。 急落している米価を下支えするため。 「米価急落の一因」だとして戸別所得補償に反発が広がっており、これをかわす狙いがある。

この基金は「集荷円滑化対策基金」。 全国のコメ農家の 7 割(生産量ベース)が 2004、05 年度に農水省所管の米穀安定供給確保支援機構に積み立てたもので、残高は 321 億円。 農家から過剰米を買い上げて家畜のえさや米粉などに使うことで、主食用米の価格を支える。

現在は、平年を 100 とする作況指数が全国平均と対象の都道府県、市町村でいずれも「101」以上の場合だけ使えるが、今年の全国平均(10 月 15 日現在)は「やや不良」の 98。 制度変更で、これ以下でも基金を使えるようにする。 農家の基金への拠出金は、税制特例で確定申告時に損金算入できる優遇制度があり、財務省との調整に入る。

新米の卸売価格は 9 月現在で 1 俵(60 キロ)あたり 1 万 3,040 円。 前年同月より 2,129 円安く、過去最安値だ。 作況が「やや不良」でも、過剰作付けによって新米の生産量は消費量を 19 万トン上回る見通しで、古米も含めると過剰米は計 54 万トン。 基金の 321 億円をすべて使えば 20 数万トン程度の買い上げが可能とみられ、全国農業協同組合中央会が制度変更を求めていた。 (山本精作、asahi = 11-5-10)


新米価格が最安値 所得補償影響か、安値買い広がる

農林水産省は 28 日、今年産新米の 9 月の平均卸売価格を発表した。 1 俵(60 キロ)あたり 1 万 3,040 円で、前年同月より 2,129 円 (14%) 安く、過去最安値となった。 米価が下がっても国が農家の所得を補償する制度が今年度から始まったことを背景に、集荷業者による「安値買い」が広がっており、農水省は緊急調査を始める。

戸別所得補償は、減反に参加した農家に 10 アールあたり 1 万 5 千円を交付し、米価が下落すればその分も支払う。 米価急落で費用がふくらみ、新たな予算措置が必要になる可能性も出てきた。

毎年、新米の価格は 9 月分から公表している。 統計上比較できる 2006 年 9 月以降でみると、これまでの最安値は 07 年 12 月の 1 万 4,026 円。 今回はそれを 7% 下回った。 産地別では北海道や東北の下落が目立ち、北海道産「きらら 397」は前年同月比 21% 安、宮城産「ひとめぼれ」は同 17% 安だった。

米価下落は、消費者のコメ離れや過剰生産による需給の緩みが大きな理由だが、集荷業者が安値で買っている実態も各地で確認されている。 この日会見した篠原孝農水副大臣は「国が補償するから、その分、安く買ってもいいだろうということなら、不届き千万だ。 民間取引がどうなっているかを調べる。」と強調。 優越的地位を利用した取引なら独占禁止法に触れるとみる。

ただ、所得補償は「価格は市場に任せる」ことを前提にしており、制度がスタートする前から「所得補償の導入によって米価下落は進む(東京大学の生源寺眞一農学部長)」との指摘が出ていた。 米価下落は、日本のコメの値段が国際価格に近づくことを意味しているともいえるが、民主党の目玉政策であることから、これまで農水省は価格下落を招く可能性を否定してきた。

今後、財源問題も焦点になる。戸別所得補償の今年度の予算額は約 5,600 億円。 来年 1 月までの平均価格が 1 万 3 千円を下回ると、予算が足りなくなる恐れがある。 農水省は来年度から畑作農家などへの補償も始める方針で概算要求に約 1 兆円を盛り込んでいるが、「ねじれ国会」のもと、自民党など野党の協力を得られるかどうかは分からない。

自民党は現行の所得補償制度を批判し、政府の買い上げなどによる価格維持策を求めている。 だが、維持策に踏み切れば、安定した価格を見込んでコメを作れるので、過剰生産に拍車をかける可能性がある。 消費者の反発も招きかねず、民主党政権はいまのところ慎重な姿勢を崩していない。 (山本精作、asahi = 10-29-10)


1 等米、過去 12 年で最低の 64.4% 猛暑で打撃

この夏の猛暑によるコメの品質低下が深刻だ。 農林水産省が 20 日発表した 9 月末時点の全国(東京都を除く)の新米の検査結果によると、最も品質がよいとされる「1 等米」の比率は全国で 64.4% で、前年同時期の 83.0% を 18.6 ポイント下回った。 比較可能な 1999 年以降でもこれまで最低だった 2002 年の 65.8% を下回り、過去 12 年間で最低となった。

なかでも新潟県は 19.7% で、昨年同期の 90.7% を 71.0 ポイントも下回り、全国の道府県で最大の落ち込み。 新潟県と北陸 3 県を管内とする北陸農政局全体では 44.7 ポイント減。 東海局管内は 30.7 ポイント減、近畿が 24.4 ポイント減、東北が 19.4 ポイント減だった。 北海道は 3.7 ポイント減にとどまった。

農水省によると、格付けが 2 等以下に落ち込んだ理由で最多だったのが米粒の一部が白濁する現象。 昼夜の温度差が少なく、でんぷん質が粒に行き届かなかったという。 地域差の背景には地形や降水量の違いがあるとみられ、農水省などで分析を急いでいる。 9 月末までに検査が終わったのは 10 月末に出る最終量の 4 割程度。 比率は今後変わる可能性もある。

現在の等級分けが始まった 79 年以降、各年の最終値で 1 等米の比率が最低だったのは 79 年と 81 年の 62%。 農水省によると、農家から農協 (JA) への出荷時の受取額は、2 等米は 1 等米より全国平均で 60 キロ当たり約 600 円少ない。 1 等米の割合低下は米作農家の収入減に直結するとみられ、生産現場からさらなる対策を求める声が強まりそうだ。 (大谷聡、asahi = 10-20-10)


新米、猛暑響き品質低下 余剰米・所得補償も値下げ要因

今夏の猛暑の影響とみられる新米の品質低下が、全国の主な産地の大半で起きていることが朝日新聞社の調べでわかった。 今年は、昨年からのコメ余りの影響でもともと価格は下がり気味。 さらに、農家への戸別所得補償制度が始まったことで、補償分を見込んだ業者らからの値下げ圧力も強まっている。 この「トリプルパンチ」で、農家からの売値が各地で下落。 自治体や JA は、独自に救済策を打ち始めた。

主産地 21 道県の JA 全農本部などに、9 月末 - 10 月中旬時点での新米の検査状況を聞いたところ、14 県(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、新潟、富山、滋賀、島根、岡山)で 1 等米比率が過去 5 年間の平均に比べて下がっていた。 新潟 (75% → 19%)、埼玉 (89% → 45%)、福島 (91% → 66%)、富山 (83% → 59%) で著しい。 地域によってばらつきがあるのは、穂が出る時期の違いや、平地か中山間地かといった地形も影響しているとみられる。

「魚沼産コシヒカリ」などのブランドを抱える新潟の 1 等米比率は、過去最低となる見通しだ。 落ち込み幅が他県と比べても突出していることから、県は原因を調査するとともに、品質低下によりコメの産出額は 67 億円減になるとの試算もまとめた。

埼玉では、昨年は 1 等が 97% だった主要品種の「彩(さい)のかがやき」に粒が割れるなどの被害が出て、8 日現在で 94% が主食用にならない「規格外」に。 佐賀では高温に強いとして開発され、昨年から本格栽培を始めた「さがびより」が害虫の影響で一部地域で小粒化するなど、気温の高い平地を中心に質の低下が目立つ。

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の中川博視農業気象災害研究チーム長は、全国的な品質低下について「穂が出始めてから 2 週間ほどの繊細な時期に平均気温が高かったので、粒の白濁などの品質低下を招いたのではないか」と指摘する。

質が低下する一方、昨年産米が余っていることが大きな要因となり、21 道県すべてで主要品種の前払い金(JA に販売委託した農家が受け取る概算金)が昨年より下落している。 コメの年間の市場流通量は約 640 万トンだが、JA が持つ昨年産の在庫は 35 万トン(9 月時点)。 大半を抱える東北 6 県では、宮城の「ひとめぼれ」が昨年の 60 キロあたり 1 万 2,300 円から 8,700 円に下がるなど、2,400 円から 3,600 円落ち込んだ。

これに追い打ちをかける格好になっているのが、戸別所得補償制度だ。 減反に参加した農家が補償を受けることから、各地で業者がその分を値切って買い取る動きが出ている。 制度では 10 アールあたり 1 万 5 千円の交付金のほか、近年の平均価格より下落した場合に一定額を補填(ほてん)する仕組みもあるが、それを加えても減収になる見込みの農家が続出している。

こうした事態を受け、秋田、埼玉、茨城では JA が無利子融資制度をつくったり、農家への前払い金に千円を上乗せしたりと独自の救済策を始めた。 新潟では県が低利融資に乗り出す。 また、JA グループは 19 日に与野党国会議員を招き東京都内で全国集会を開く。 来年度から毎年 20 万トンを政府が買い取り、5 年後に飼料用として販売する「棚上げ備蓄」の前倒し実施などを求めていく。 (箕田拓太、枝松佑樹、asahi = 10-18-10)

〈コメの等級〉 農産物検査法にもとづき民間の登録検査機関が地域ごとに玄米を検査して等級付けする。 水分量や形など一定の基準を満たし、十分に成熟した粒が 70% 以上なら「1 等」、60% 以上は「2 等」、45% 以上は「3 等」、基準を満たさない米は「規格外」となる。

農林水産省によると、暑さで白濁したり粒が細ったりして等級を下げることが多いが、味にはほとんど影響しないという。 等級が下がると価格も安くなり、3 等以下は加工米になるのが通例。 2 等は色彩選別機で白濁米や着色米を取り除いたうえで精米され、1 等と混ぜて売られることが多い。