イーレックス、海外発電事業に参入 カンボジアで水力

新電力のイーレックスは海外で再生可能エネルギー事業に参入する。 まずカンボジアで出力 8 万キロワットの中型水力発電所を新設する。 約 25 億円を投じてプロジェクトの 34% の持ち分を取得し、運営主体となる。 国内の電力需要が伸び悩むなか、海外事業を通じた成長を目指す。 水力発電所の開発に伴い発生する木材を、バイオマス発電の燃料に活用する狙いもある。

シンガポールで水力発電所のエンジニアリング事業を手掛ける企業などと共同で手掛ける。 年内にも着工して 2023 年の運転開始を目指す。 発電した電力はすべて国営電力会社のカンボジア電力公社に売却する。 イーレックスはバイオマス発電の大手だ。 再エネ利用の拡大政策を受けてバイオマス発電所も新設計画が相次ぎ、燃料となる木材は不足する傾向にある。 今回の水力発電所はカンボジアの山間部に建設予定のため、開発時に一定の木材が得られる。 国内用に輸入するほか、現地にバイオマス発電所を建てることも検討している。 事業の対象は経済成長で電力需要が伸びるカンボジア以外のアジア各国にも広げる計画だ。 (nikkei = 10-22-19)


世界最悪の渋滞、挑む日本式 意外なところにハードルが

世界最悪とも言われるタイ・バンコクの交通渋滞。 あまりの深刻さにタイ政府は、長年続く、警察官の手作業に頼った信号システムの改革に乗り出した。 選ばれたのは、日本で使われている技術だ。 「今日も 3 - 4 時間は渋滞の中。 待っている間に売り上げが逃げていくと思うと悔しいよ。」 バンコク中心部で 7 年間タクシー運転手をしているウェーラ・セーコーさん (60) は目の前に延々と連なるテールランプを見つめた。 朝夕の渋滞はひどくなる一方。 とくに金曜の夕方は普段 15 分程度で着くところに 1 時間以上かかることもざらだ。

オランダの交通情報サービス会社「トムトム」によると、バンコクは 1 日平均では世界ワースト 8 位の渋滞都市。 夕方のピーク時間帯では世界最悪だ。 米配車大手ウーバーは 2017 年、バンコクの人が 1 日平均 72 分渋滞の中にいるとの数値を発表。 約 50 兆円の国内総生産 (GDP) の 2 - 5% の損失が渋滞で生じていると試算した。 タイ政府によると、バンコクの交通網で抱えられる車両はバイクなどを含め 160 万台。 実際には乗用車だけで 500 万台以上が登録され、毎日 600 台ずつ増えている。 主要道路から外れると細い一方通行が多く、車は滞りがちだ。

タイでは一度伸び悩んだ新車販売台数が近年回復しつつあり、政府としては車両数の規制など経済に悪影響を及ぼしかねない政策には後ろ向きだ。 バンコク市内の鉄道整備も進めるが、「渋滞を抑えるにはとても追いつかない。(政府交通担当幹部)」

「経験と勘」からの脱却

そこで改革の対象になったのが信号だ。 500 を数えるバンコクの交差点には警察官が常駐し、朝夕などは手動で信号を切りかえている。 警察官は目視や無線で渋滞状況を把握。 「経験と勘(タイ警察幹部)」に頼ってきた。 日本の専門家は疑問を呈する。 赤羽弘和・千葉工大教授は「広範囲を把握した自動制御の方が渋滞解消には効果的です。」 警察官 1 人が把握する情報は限られる。 また、青信号の時間を 50 秒から 55 秒に変えただけで交通処理能力が 10% 上がり、渋滞で失われる時間が半減するというデータもあり、細かい調整が必要。 周辺の交通情報を元に機械に任せた方がいいという。

タイ政府や警察は今年、日本の国際協力機構 (JICA) と組み、面的交通管制 (ATC) システムの導入に向けて動き出した。 交差点にセンサーを置いて渋滞を把握し、自動で信号の時間を調整する。 日本では広く導入されている。 15 - 16 年に JICA の協力で試行した地域で 10 - 15% の渋滞が解消したことが追い風になった。 今回はバンコクの 14 カ所でこのシステムを採り入れる。 JICA の委託で事業を率いる交通コンサルタントの松岡誠也さんは「これまで『車をあと 1 台通してから変えよう』などと人の判断だったところが効率的になる」と期待する。 バンコク都政府の交通担当者も「先進的な日本の技術で、悪くなる一方の渋滞問題解決に光を見いだしたい」と話す。

4,000 人の「居場所」

だが一気に自動化を進めるのは簡単ではなさそうだ。 バンコクの交差点に常駐する警察官は 4 千人超。 多くが長年勤め、自動化すれば「居場所」を奪われかねない人々だ。 バンコクで最も混雑するとされるアソークの交差点に常駐するウィチャイ・トンチャローンさん (58) は交差点勤務が 25 年になる。 左手にスマホを一回り小さくしたほどの操作機。 八つのボタンを巧みに操り、4 方向の直進や右左折の信号を切り替える。 「時間帯別の交通量は完全に頭に入っている。 だいたい 40 秒で変えるのがいいんだ。」と自信満々。 「自動制御は我々の経験を超えるものにはならない。」

警察当局は「自動制御を阻むつもりはない」としながら、「バンコクは日本とは交通事情が違う。 全てを自動にするのは現実的ではない。」 JICA の担当者も「今回は自動化が可能になるシステムの一部導入」と慎重だ。 バンコク都政府の交通担当者は「この国で交通を仕切る警察の機嫌を損ねるわけにはいかない」と打ち明ける。 赤羽教授は、交通の効率化は「信号制御、交差点の角度、車線構成、交通規制など様々な組み合わせが重要だ」として、全体的な調査や改革の必要性を指摘する。 JICA の事業が終わる 22 年までに、バンコクの交通はどこまで変わるだろうか。 (バンコク = 染田屋竜太、asahi = 9-7-19)


関電、ラオスの水力発電所 送電開始

「第 2 のクロヨン」として自主開発

関西電力が「第 2 の黒四(クロヨン)」として自主開発したラオスの大型水力発電所「ナムニアップ 1 発電所」が 6 日、送電を開始した。 難工事の末に完成した富山県の黒部ダムに匹敵する規模だ。 需要が多い隣国タイなどに売電する。 総事業費は数百億円で、日本の電力会社が海外でこの規模の水力発電を自主開発したのは初めて。 今回の経験を生かし、東南アジアなどで案件を増やしていく考えだ。

発電所は首都ビエンチャンから北東約 150 キロメートルの山間部、メコン川支流にある。 ダムの高さは 167 メートルで日本一の黒部ダム(186 メートル)よりやや低いが、貯水量は 22 億立方メートルで黒部ダムの 11 倍。 年間発生電力量も 16 億キロワット時と黒部ダムの水を使う黒部川第 4 発電所(10 億キロワット時)を上回る。 27 年間売電した後、ラオスに施設を譲渡する。

1998 年に国際協力機構 (JICA) が事業可能性調査を始め、関電は途中に参画した。 2006 年に独占開発権を得て、ラオスとタイの政府系企業との合弁会社に 45% 出資する筆頭株主だ。 関電が海外で関与する稼働中の水力発電は 4 件となった。 国内では電力小売り自由化などで競争が厳しく、海外事業を拡大する方針だ。 黒四の経験で国内の他電力に先んじる水力開発を重視しており、今後ミャンマーでも水力を検討している。 (nikkei = 9-6-19)


「倍返し」がアフリカを救う 日本が主導、救世主ネリカ

アフリカの人口が急速に増え続けている。 約 13 億人の現在の人口は 30 年後には倍増する見通しだ。 だが、人口増に食糧生産は追いついていない。 食糧増産は喫緊の課題で、その切り札に期待されているのが、コメだ。 特に問題が深刻なサブサハラ(サハラ砂漠以南)の国々のコメ生産を 2030 年までに倍増させようと日本が後押ししている。

褐色の大地は乾き、固まった表面には無数の割れ目が入っている。 油断をすると足を踏み外し、すっぽりと中に入り込んでしまう。 地面を一歩一歩確認して進まないと前に進めない。 エチオピア北部アムハラ州フォガラ平原を訪ねたのは乾期の 4 月。 ここでコメの生産が伸びているという。 農閑期とはいえ、にわかには信じがたい荒涼たる光景が広がる中を進み、農家を訪ねた。

この地域の農民の一人マルさん (45) が言う。 5 月から 9 月までの雨期の間、雨は大地から裂け目を消し、畑に変える - - と。 水を引く用水や田んぼは作らない。 栽培するのは陸稲。 種まきから 100 日程度で収穫でき、0.75 ヘクタールの土地からは約 3 トンのコメが収穫できるのだという。 マルさんが栽培するのは、ネリカ (NERICA、New Rice for Africa = アフリカのための新しいコメ)。 アフリカで生産が伸びているコメの略称だ。 日本が技術支援などを主導しアフリカ各地で普及が進む。

マルさんによると、ネリカの陸稲品種は、これまでコメ作りに向かないとされてきた土地でも栽培できるのが強み。 規模の拡大が可能になったという。 精米した後の歩留まりも良い。 ネリカと低地で栽培する水稲を合わせコメで 1 年に 3 万エチオピア・ブル(約 15 万円)ほどの収入がある。 子ども 6 人のうち 2 人は大学に進学。 マルさんは「コメはどの作物より高く売れる。 おかげで子どもたちの学費がまかなえる。」と話す。

マルさんをはじめ、周辺農家の家は、竹や小枝を組み合わせた簡素な作りだ。 電気やガス、水道もない。 炊事には乾燥させた牛ふんを使う。 日本の国際協力機構 (JICA) が支援しているフォガラ国立イネ研究研修センターの担当者によると、コメは換金作物として農民の生活改善につながるという。 エチオピアはこれまで何度も飢餓に襲われた。 エチオピア人の多くにとって、主食はインジェラと呼ばれ、形状がクレープに似た薄焼きのパン。 イネ科のテフの種子が原料だ。 グルテンフリーの「スーパーフード」の一つとして世界的に注目を浴びているが、単位面積あたりの収量が少ない。

コメ増産に伴い、消費が増えており、コメ粉を混ぜたインジェラも出回っているという。 国際協力機構 (JICA) 担当者は、ネリカ増産が食糧の安全保障につながると力を込めた。

ミスターと呼ばれて

「ミスターネリカ」と呼ばれる日本人がいる。 坪井達史さん (69) だ。 国際協力機構 (JICA) の農業専門家として 2004 年から東アフリカ・ウガンダを拠点に栽培の指導にあたる。 「3 粒を見た時の興奮はまだ覚えていますね。」 西アフリカ・シエラレオネ出身の研究者モンティ・ジョーンズ博士から 1992 年にもみを見せられた。 アフリカとアジアの稲の交配に初めて成功し、できたばかりのものだった。

ネリカは高温と乾燥に耐えるアフリカ種と、収量に優れるアジア種の「いいところどり」を狙って研究開発が進められた。 99 年にネリカの陸稲 7 品種が公開され、その後作付けが広がる。 食糧不足に苦しむアフリカにとって「農業革命をもたらす奇跡のコメ」と期待する声が上がった。 坪井さんは 75 年に青年海外協力隊に参加、81 年からは JICA の専門家としてアジア、中東、アフリカで活動を続けてきた。 日本政府がネリカへの本格的支援を表明した 2003 年、普及プロジェクトに参加、翌年ウガンダに赴いた。 同国は降水量も多く農業も盛ん。 ここで栽培技術を蓄積すれば、アフリカ各国への普及につながるとの期待もあった。

同国では以前からコメは作られていたが、稲作をよく知る専門家や農民は少なく、陸稲に至ってはほとんど知られていなかった。 ましてネリカは新品種。 栽培方法を教えるため、各地に出かけ、実地研修を繰り返し行った。 これまでに指導した農業普及員や農民は 2 万人近くに上る。 ウガンダ国外からも学びにやって来た。

人づてに拡散

研修を受けた農民には「倍返し」を条件にもみ 1 キロを渡す。 農民が自分の畑にまけば約 50 キロ収穫できる。 そのうち 2 キロを返してもらう仕組みだ。 ただし、その 2 キロは坪井さんへではなく、近所の農家に渡してもらう。 そうすれば栽培技術とともにネリカの作付けが、人づてに広げられるとの考えからだ。 稲作が専門ではない青年海外協力隊員にも指導し、任地でネリカの普及にあたってもらっている。

8 千ヘクタールほどで始まったウガンダでのネリカの普及プロジェクトは、現在その 9 倍ほどの 7 万ヘクタール超まで作付面積が広がったと推定される。 稲作全体の 3 分の 1 以上を占めるとみられる。 倍返しで広がった分は正確に把握するすべがない。 かつてこの国のレストランでコメを出すところは少なかった。 今はキャッサバ(イモ)、ポショ(トウモロコシの練りもの)、マトケ(調理用バナナ)などの伝統的主食とともに、コメを出すレストランも多くなった。 坪井さんが消費の広がりを実感する時だ。

同時に、さまざまな主食が並ぶ食文化を育んだこの国の農業の多様性は大切にされるべきだと考える。 ネリカは乾燥に強いとはいえ、雨が一定程度降らないと育たない。 厳しい干ばつで収量がほとんどなかった年も経験した。 その時、ネリカのほかにトウモロコシやキャッサバ、マトケなどを栽培していた農家は干ばつの大きな被害を免れたという。 一つの作物がダメでも他の作物で補う。 代々受け継がれてきた知恵がこの国にはある。

「ネリカには優れた点がたくさんある。 でも、農民が理解してくれないと広がらない。 息の長い活動がこれからも必要だ。」 坪井さんはそう話す。 現地に長く駐在していた坪井さんは現在、郷里の大分県に戻り、今もアフリカ各国にたびたび出張し、指導にあたる。

コメ収量の 1 割占める

ネリカが初めて公開されてから今年で 20 年になる。 今では陸稲 18、水稲 60 の品種が発表されている。 国際農林業協働協会(東京)の技術参与で農学博士の池田良一さんによると、コメの生産データには各国でばらつきがあり、推定値にとどまるが、アフリカ全体のネリカの生産量は 13 年時点で 295 万トンで、コメ全体の 10.3% を占めたとみられる。 作付面積だとコメ全体の 12.9% になる。

「奇跡のコメ」と称賛されたネリカの潜在力は高い。 だが、池田さんは「持てる力を十分に発揮しているとは言い難い」と言う。 1 ヘクタールあたりの平均収量は 2.1 トンで、アフリカの稲全体の平均 2.64 トンを下回った。 4 - 6 トンの収量が可能とされるネリカだが、不適地での作付けや管理方法のまずさからネリカの多収性を十分に生かすことができなかったとみられる。 池田さんは、ネリカの能力を発揮させるため「農民の経験と適切な技術支援の積み重ねがさらに必要だ」と指摘する。

日本が主導するサブサハラの国々を対象とした「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD、23 カ国)」は、08 年から 18 年までに生産量を 1,400 万トンから 2,800 万トンに倍増させる目標を達成。 19 年から 30 年までの次の段階では、対象国を 32 カ国に増やし 5,600 万トンへとさらに倍増させる目標を掲げる。 現状では CARD 23 カ国のコメの生産量と消費量の差は約 1 千万トンあり、自給率も 60% 程度で推移する。 サブサハラの人口は 10 億人超。 ユニセフなどの調査によると、サブサハラでは栄養不足にさらされている人が 18 年は人口全体の 22.8% で世界平均の 2 倍を超え、ここ数年改善の兆しは見えていない。 (小森保良、asahi = 8-16-19)