西之島、なくなっちゃうかも? 噴火の方式に変化の兆し 活発な噴火を繰り返している東京・小笠原諸島の西之島。 ここに来て、噴き出す火山灰の組成が変化してきたことがわかった。 マグマがこれまでより深くから上がって来ているとみられ、今後、島中央の火口の山が崩壊したり、島全体が陥没する可能性があるという。 2013 年の活動再開以来、拡大が続いてきた西之島は、なくなってしまうのか。 西之島は東京都心の南約 1 千キロの太平洋上に浮かぶ火山島。 存在は古くから知られていたが、1973 年に有史以来初めて噴火した。 活動はいったん収まったものの、2013 年に約 40 年ぶりに活動を再開。 その後、規模を徐々に小さくしながら収束と噴火を繰り返していた。 ところが、昨年末に始まった今回の活動は、一転して激しくなった。 東京大地震研究所が気象衛星ひまわり 8 号のデータから推定したところ、溶岩の 1 日あたりの噴出量は 13 - 15 年と比べて平均 3 - 4 倍。 今年 6 月末のピーク時は 462 万立方メートルと 20 倍以上だった。 大量の溶岩で島の面積は拡大。 気象庁気象研究所が衛星画像から算出したところ、19 年 5 月の 2.89 平方キロメートルから今年 8 月 14 日には約 4.1 平方キロメートルとなり、1 年ちょっとで 4 割増しになった。 かつて数百メートル四方だった島は現在、直径が 2 キロを超えた。 噴火の方式も変わってきている。 6 月までは主に溶岩を噴出していたが、7 月末には火山灰を大量に出すようになり、島全体が厚さ数メートルある茶色い灰に覆われた。 噴火がいったん収まった時期に定着し始めた植物や海鳥の巣も埋もれてしまったとみられる。 気象庁が 7 月、船で採取した火山灰を地震研が分析したところ、火山灰に含まれる二酸化ケイ素(シリカ)の割合が 60% 前後から 55% ほどに下がり、マグネシウムやカルシウムなどの割合が増えて密度が高くなっていることがわかった。 地殻は深いほど高圧で密度が高く、火山灰のもとになるマグマも周囲の密度とつり合っている。 このことから、最近噴出している密度が高いマグマは、深いところから上がってきたものとみられる。 地震研の前野深(ふかし)准教授(火山地質学)は「13 年以降、活動は徐々に縮小しているように見えたが、地下では深部のマグマが少しずつ上がってきていたようだ」とみる。 海洋研究開発機構の田村芳彦上席研究員は、こうした活動の変化が、東京都心と西之島の間にある須美寿島(すみすじま)で 2 万年以上前にあった噴火の過程と似ているとみる。 須美寿島の噴火も初めは浅いマグマが噴き出していたが、徐々に深いところから上がってくるようになったからだ。 地下深くから高温高圧のマグマがどんどん上がってくると、火山の地下にあるマグマだまりは周りの地殻が溶かされて大きくなる。 マグマは圧力が急減し、沸騰するように爆発的な噴火を起こす。 激しい噴火でマグマだまりが空っぽになると、島そのものの重さに耐えきれずに火山が広範囲に陥没することがある。 こうして須美寿島周辺の海底には直径約 10 キロのカルデラができ、海上に一部の岩だけが残ったとされる。 00 年には三宅島で火口が陥没し、直径約 1.6 キロの小規模なカルデラができた例がある。 海洋機構の研究では、西之島がある領域は須美寿島や三宅島のあたりとは地殻の厚さが違うため、同じ過程をたどるかどうか不明だが、もしカルデラ噴火が起きれば、西之島は島全体が陥没して海中に沈む可能性があるという。 田村さんは「西之島がこのまま成長を続けるのか、それともカルデラ噴火を起こすのかはどちらとも言えない。 島が陥没すれば津波が発生する可能性もあり、防災・減災の観点から今後の活動を注視することが重要だ。」と話す。 (藤波優、asahi = 8-28-20) 最大級の噴火続く西之島を撮影 火山灰に覆われる地表 ![]() 東京・小笠原諸島の西之島が 2013 年の噴火再開以来、最大規模の噴火を続けている。 火口からは高さ約 3 千メートルに達する灰色の煙が噴き出し、上空の薄い雲を突き抜けて南方向にたなびいているのが 7 月 30 日、本社機「あすか」から観察できた。 これまではゴツゴツした黒い溶岩が広がっていたが、この日は一転、厚さ数メートルはありそうな褐色の火山灰に島全体が覆われていた。 本社機に同乗した防災科学技術研究所の中田節也・火山研究推進センター長によると、7 月初めまでは溶岩が活発に流れていたが、「マグマの勢いが衰えて火口に地下水が入り、急に冷やされたマグマが粉々になって火山灰として激しく噴き出している」という。 海上保安庁などの調べでは、東京都心の南約 1 千キロにある西之島は 13 年、約 40 年ぶりに噴火。 もともとあった島をのみ込んで広がった。 18 年夏にいったん落ち着いたが、昨年末、1 年半ぶりに噴火を再開し、7 月 4 日には観測史上最大となる 8,300 メートルの噴煙を上げた。 この半年で、島の北側を中心に二回りほど大きくなっている。 (asahi = 7-31-20) 噴火で広がる西之島 マグマに特徴「粘りけ強い」 2013 年、40 年ぶりに噴火した小笠原諸島の西之島。 活発な火山活動が続き、島を広げていったのは記憶に新しいところです。 西之島は東京の南約 930 キロにある火山島です。 水深約 3 千メートルの海底からそびえ立ち、山体のほとんどは海面下にあります。 1973 年に有史で初めて噴火しますが、翌年、いったん噴火はおさまります。 2013 年に再び海底噴火が起きると、その後、大量の溶岩が噴き出し、74 年までにできていた島とつながって今の西之島となりました。 国土地理院によると 19 年時点の面積は 2.89 平方キロです。 ![]() 最近は噴火のニュースも少なく、落ち着いているようにも思えますが、活動は活発です。 海上保安庁の観測では、今年に入ってもたびたび噴火。 気象庁は、周辺の海を通る船舶向けに警報を出し、注意を呼びかけています。 さてこの西之島を、マグマの特徴から「大陸の始まりを再現しているのではないか?」と考える研究者がいます。 海洋研究開発機構の岩石学者、田村芳彦上席研究員らは、西之島の陸上や、近くの海域から岩石を採取し、鉱物組成や結晶の特徴を調べました。 すると、安山岩という岩石であることがわかりました。 太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込むこの領域では、プレート境界からの水と、地殻より深くにあるマントルが反応してマグマができます。上昇して地殻に「マグマだまり」ができ、何かのきっかけで噴火します。 陸の地殻をつくるのは通常、安山岩質マグマです。 一方、海洋地殻を形成するのは玄武岩質マグマ。 ですから「海は玄武岩、陸は安山岩。 それが常識と、学生時代には刷り込まれてきました。」 田村さんはそう言います。 ところが西之島は海なのに「安山岩」なのです。 同じ伊豆・小笠原諸島の北部にある伊豆大島や三宅島は、玄武岩質な岩石が多いのに、不思議です。 ちなみに玄武岩質マグマは粘りけが少ない特徴があり、爆発的な噴火ではなくゆっくり溶岩を流します。 安山岩質マグマは粘りけがあります。 研究でわかってきたのは、「海か陸か」ではなく、地殻の厚さの違いが関係している、ということでした。 同機構の別のチームが物理探査で地殻の厚さを調べると、伊豆大島や三宅島は 30 キロほどあったのに対し、西之島は 20 キロ前後。 この領域は過去、東にある父島や母島と分裂し、地殻が薄いとみられています。 マグマの組成は圧力や温度によって異なります。 地殻が厚いと、マグマができる位置がより深くて高圧なため、玄武岩質になる。 薄いと逆に浅く低圧なので安山岩質になる、というのです。 別の疑問も湧きます。海洋より地殻が厚い日本列島では、富士山のように玄武岩質マグマに由来する火山もありますが、浅間山や桜島、白山などの名だたる火山は安山岩質です。 しかし、各地で岩石を採り、薄く削って顕微鏡で観察してきた田村さんは「西之島とは鉱物の特徴が違う」と強調します。 列島の火山で見られる安山岩の鉱物と異なり、西之島のものは鉱物の輪郭が明瞭で、ほかの過程を経ない極めて原始的な安山岩だというのです。 こうした原始的な安山岩ができる過程は、約 40 億年前とされる地球の大陸形成を再現しているのでは - -? そんな仮説を打ち立てる田村さん。 プレートの沈み込み帯の海底火山などを対象に、今後もさらに調査を続けます。 1986 年に噴火した伊豆大島の三原山ではドロドロした溶岩がゆっくり流れました。その印象が強く、「海は玄武岩」と私も思っていました。 しかし地球の深部のメカニズムは単純ではありません。 岩石の分析や観察から、大陸形成の仮説を提唱し、また研究を重ねる。 大いなるロマンを感じました。 (小林舞子、asahi = 4-20-20) |