地銀再編 福井銀、福邦銀を子会社化へ 資本提携を発表
福井県を基盤とする福井銀行(福井市)と福邦銀行(同)は 14 日、資本業務提携で合意したと発表した。 地銀の経営環境が厳しさを増すなか、効率化を進めて生き残りを図るねらい。 両行の発表によると、福井銀行が 50 億円を出し、福邦銀行の第三者割当増資を引き受ける。 引き受け後の出資比率は現時点では未定だが、子会社化を念頭に進める。 株式の引き受けは 2021 年度中に成立する見通し。 福井銀行と福邦銀行の名称は、それぞれ維持するという。
両行ともに 17 年 3 月期以降、4 年連続で減益となっており、経営は厳しい。 昨年 9 月には資本提携も視野に包括的な連携に向けた協議に入ったと発表していた。 今回の提携で、事務の共同化や店舗集約などをさらに進める考えだ。 政府・日銀は地銀の経営統合などを支える異例の措置を打ち出している。 両行の提携発表は、今後の地銀再編の動きにも影響を与えそうだ。 (筒井竜平、栗林史子)
地銀再編に関心を寄せる菅義偉首相が就任後、再編に向けた動きが具体化するのは初めて。 ほかの地銀の多くも長引く低金利や人口減で稼ぐ力が弱り、コロナ禍による融資先の業績悪化もあって経営環境が厳しい。 今後の再編の加速につながる可能性もある。 菅首相は就任直前、「(地域金融機関は)数が多すぎる」と指摘し、再編に意欲を見せてきた。 金融庁は、収益減に苦しむ地銀に抜本的なビジネスモデルの見直しを求めてきたが、政府は菅首相就任後、経営統合を後押しする大胆な政策を相次いで打ち出した。
政府は昨年 11 月、地銀の統合で地域での融資シェアが高くなっても独占禁止法の適用除外とする特例法を施行。 これにより同じ県内に拠点がある地銀同士の合併をしやすくした。 さらに、合併や統合に踏み切る地銀などに 30 億円を上限とした交付金制度を今夏にも始める方針。 日銀も 3 月をめどに、経営統合を決めたり、経営効率化に取り組んだりするなど条件を満たした地銀などに資金を提供する制度を始める。 対象の地銀などが日銀に預ける当座預金額の 0.1% を最大 3 年間利子として追加で支払う。 福井銀、福邦銀がこれらを利用できるかどうかは今後検討するという。
同じ県内にある銀行が再編する事例は相次ぐ。 新潟県では、第四北越フィナンシャルグループ傘下の第四銀と北越銀が今月 1 日に合併して第四北越銀(新潟市)に。 5 月には三重県の三十三フィナンシャルグループ傘下の三重銀(四日市市)と第三銀(松阪市)も合併し、三十三銀が発足する予定だ。 ただ福井銀と福邦銀の資本提携は両行の看板が残り、地銀の数は変わらない。 金融庁幹部は「地域によって選択肢は異なる。 必ずしも合併にこだわらない。」と話す。 合併は将来的に経費の削減などを期待できる半面、取引が集約されて零細企業を中心に融資が打ち切られる懸念もある。
金融庁は、両行がシステムの共通化などで経営の効率性を高める一方、顧客層の規模などですみ分け、幅広く地域金融の受け皿となることを期待している。 業界では引き続き、地銀再編の動向が注目されている。 青森銀とみちのく銀(いずれも青森市)も経営統合案が浮上。 静岡銀(静岡市)と山梨中央銀(甲府市)は昨年 10 月、包括業務提携を発表するなど、県をまたいだ連携も広がる。 全国地方銀行協会の大矢恭好会長(横浜銀行頭取)は今月 13 日の会見で、「銀行に限らず、いろんな業界で『今まで通りじゃないよね』という考え方で物事を判断したり、進めたりすることが起こると思う」と述べた。 (鈴木友里子、柴田秀並、asahi = 1-14-21)
福井銀行 : 1899 年設立の第一地銀。 店舗数は約 100 店。 2020 年 3 月末時点の単体での預金残高は 2 兆 4,975 億円。 福井県内でのメインバンクのシェアは約 48% でトップ。
福邦銀行 : 1943 年設立の第二地銀。 店舗数は約 40 店。 2020 年 9 月末時点の単体での預金残高は 4,387 億円。 県内シェアは約 9% で 4 位。
都会にいては分からない、地方銀行のオンラインバンキングに嘆息した話
メインで使っていた iPhone XR から iPhone 12 mini に機種変したのがもう 1 カ月も前のことになるのだが、今頃になってオンラインバンキングができなくなっていることに気が付いた。 その口座は宮崎の地方銀行のもので、そこからは子供の学費と PTA 会費が引き落とされるだけなので、月に 1 回しかアクセスしないのだ。 スマートフォンのパスワードアプリに表示されるワンタイムパスワードを毎回入力する必要があるシステムなのだが、そのパスワードアプリにログインできないので、口座にもログインできないというわけなのだった。
そのアプリは筆者が埼玉に住んでいた頃にも信用金庫で使われていたもので、ローカル銀行に多く採用されているシステムなのだろう。 スマートフォン内にトークンをインストールするもののようで、バックアップから書き戻してもトークンは戻らない、というかおそらくスマートフォンのシリアルナンバーとひも付けしてあるから書き戻しても機能しないのだろう。 で、トラブルシューティングを見たところ、トークンの移行は新旧両方のスマートフォンで作業する必要があるということだった。 旧機種はとっくに下取りに出しているので、今頃そんなこと言われてもあとの祭りである。
まあ銀行に電話すりゃなんとかなるだろう、ということで口座がある支店に電話をかけたところ、支店では分からないと。 本店のオンラインバンキングセンター的なところから連絡させるので、ということでいったん電話を切った。 10 分ほどして折り返し電話があったのだが、センターの人ではなく先ほどの支店の人だった。 すでに旧端末がないとセンターでもどうにもならないので、いったんオンラインバンキングを無効化する手続きが必要だという。
まあそんなことだろうな、とは予想していたが、手続きは銀行印を持って来店するか、郵送で書類を送るのでそれに記入して返送の 2 通りがあるという。 結局本人がそこに行けばどうにかなるというシステムみたいなので、支店に行くことにした。 その支店は、今のマンションに引っ越す前のアパート暮らしだった時、近くにあった支店で、車で 20 分ぐらいかかるところにある。 支店の規模としてはかなり小さく、支店というよりは出張所クラスである。
対応した女性は電話をくれた人ではなかったが、話は通っているようですぐに書類記入を案内された。 で、オンラインバンク停止用の書類に住所氏名を記入して銀行印を押し、免許証で本人確認をする。ただこっちはマスクをしたままなので、証明書写真と照合して本人確認するわけではない。 結局、形式的なものなのだ。 ところが銀行に引っ越し先の住所変更をしてなかったので、先に住所変更をすることになった。 また書類に住所氏名を書くわけだが、住所の一部を書き間違えてしまった。 新住所は、マンション名まで含めてメチャメチャ長いので、時々書き間違うのである。
間違えたところに訂正印を押すわけだが、その訂正印も銀行印だという。 銀行印は認印よりデカいので、それを押してしまうと訂正して正しく書き直したところも印影でゴチャゴチャして見えなくなってしまうのだが、構わないらしい。 見えなくなるよりも、訂正印が押してあることの方が重要なのだ。 これも本当に、形式的なものなのである。 とにかく人に手間を取らせました、というのが、作業の確実性を担保する仕組みになってしまっている。
いやそれにしても、機種変をするときにバックアップからは書き戻せず、ユーザーの手動による引っ越し手続きが毎回必要なシステムというのは、これから大変になるだろう。 総務省の掛け声で携帯料金が下がり、スマートフォンの単価も下がっていくだけでなく、旧端末を下取りして毎年の買い換えを前提とした料金プランまで提示される世の中である。 毎年機種変するときに、他にもたくさん移行手続きが発生する中、毎日使うものでもないオンラインバンキングの移行手続きも忘れずにやれる人は少ないんじゃないかと思う。 従って、このようなオンラインバンキングの無効化手続きは、これから山のように発生するはずである。
支店で対応してくれた女性は本当にめんどくさそうだったが、それはそうだろう。 こんな手続きしても、手数料は発生しないのである。 そんでその用紙をオンラインセンターに FAX する。 センターは定期的に FAX を確認し、その紙を見ながら解除作業を行う。 支店は解除用紙を「小寺信良様」と書いたファイルに綴り、保管しておくことになる。 銀行印まで押したものは「原本」であり、簡単には捨てられないからである。 銀行の各所で、タダ働き業務が大量に増えることになる。
次は旧機種がある時にきちんとトークンの乗り換え作業しましょう、という話になるのだろうが、多分次の機種変の時も忘れると思う。 そしてまた、オンラインバンクのリセットのためにハンコと免許証を持って、銀行にタダ働きさせに行くのだ。 これ、毎回手続きを忘れるユーザーがアホなのか、そういうシステムをいつまでも使っている銀行がアホなのか、という話になるのではないだろうか。 ユーザーのアホさは治療や改善が期待できないので、システム側を直すしかない。
実は筆者のメインバンクは三井住友銀行なのだが、ここのオンラインバンキングは複数端末からのログインを前提で作られているので、機種変したからといって入れなくなるような作りにはなってない。 そもそも紙の通帳もなくとっくに電子化が完了しているので、銀行印もない。 宮崎には支店がないのだが、これまで宮崎に 2 年いて、銀行業務で困ったことはない。 地方には都市銀行の支店がほとんどないので、地方には地方銀行が必要ではあるのだが、都市銀行のオンライン化具合と比べると、結構道のりは遠いように見える。 このご時世、来店を積極的に促して営業する時代でもない。 訪問営業などはもっと無理だ。 地方銀行にとって、この業務システムの遅れは致命傷になるのではないか、と考えさせられる出来事であった。 (小寺信良、ITmedia = 12-24-20)
関西みらい FG、上場廃止へ りそなが完全子会社化方針
りそなホールディングス (HD) は、株式の 51% を持つ関西みらいフィナンシャルグループ (FG) を完全子会社化する方針を固めた。 公開買い付け (TOB) などで全株式を取得する意向で、約 20% を持つ三井住友 FG も応じる見込み。 関西みらい FG は上場廃止となる。 2020 年 9 月中間決算とあわせ、10 日に発表する見通し。 親会社と子会社がともに株式市場に上場している「親子上場」を解消し、意思決定のスピードを速めることをめざす。 また「三井住友系」のイメージをなくし、地盤とする近畿での存在感を高めるねらいがあるとみられる。
関西みらい FG は、三井住友系の「関西アーバン銀行」、「みなと銀行」の 2 行と、りそな HD 子会社の「近畿大阪銀行」の近畿地銀 3 行を束ねる持ち株会社として、17 年に発足。 18 年には東京証券取引所に上場し、親子上場の状態が続いてきた。 昨年 4 月には傘下の関西アーバンと近畿大阪が合併して関西みらい銀行が発足。 長引く低金利で地銀の経営環境が厳しいなか、業務を集約してコスト削減を進めている。 (筒井竜平、asahi = 11-9-20)
◇ ◇ ◇
地銀再編、「SBI」と「りそな」の二極体制で進む
残った椅子はわずか、乗り遅れた地銀を待つ運命は「信金化」か
菅義偉総理が「地銀再編」に意欲的な発言をしてきたことで、地域金融機関の再編は待ったなしの状況になった。 再編の台風の目とされるのが、SBI ホールディングス(以下 = SBIH)だ。 さらに、その向こうを張って対抗心を燃やしているのが、りそなホールディングス(以下 = りそな H)だという。
「地銀再編」に突っ走る SBI、かねてより本命視されてきたりそな
地域金融機関の再編劇はすでに幕が開いている。 今年 1 月には、山口フィナンシャルグループと愛媛銀行が業務提携に踏み切り、さらに、めぶきフィナンシャルグループ傘下の常陽銀行(茨城)は東京スター銀行と提携した。 また、九州フィナンシャルグループ傘下の肥後銀行(熊本)、鹿児島銀行の 2 行も、大分銀行、宮崎銀行を加えた 4 行と、国連が提唱する持続可能な開発目標 (SDGs) の推進で連携を発表。 さらに、10 月 1 日には長崎県を地盤とする十八銀行と親和銀行が合併して、十八親和銀行が誕生。 他にも、地方金融機関同士の合従連衡は水面下でいくつも進行している。
そして、SBIH はすでに島根銀行(島根)、福島銀行(福島)、筑邦銀行(福岡)、清水銀行(静岡)と資本提携、地銀再編の「核」となりつつある。 さらに SBIH は、横浜銀行・東日本銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループや山口フィナンシャルグループ、新生銀行、日本政策投資銀行からも出資を受け「地方創生パートナーズ」を設立、仲間づくりのウイングをさらに広げている。 そこに、昨年 9 月の島根銀行との資本提携を皮切りに、この 10 月 22 日には東和銀行との資本提携を発表、果敢に地銀再編に攻勢をかけ始めたのが SBIH というわけだ。
昨年 11 月、りそな H の東和浩社長(当時)は、「ダイヤモンド Online」のインタビューで SBIH との競合を問われると、こんなふうに答え、SBIH との方向性の違いを強調している。
さらに、信託事業を例に挙げて、ライバル非難とも取れるような発言をしたのである。
<これは IT だけで解決する問題ではありません。 認知症にどう備えるかについては、人が顧客に合ったアドバイスをすることが必要です。>
やはり SBIH への対抗意識は相当なようなのだ。
スーパーリージョナルバンク構想を仕掛けたあの大物
では、りそな H が掲げる「スーパーリージョナルバンク構想」とはどのようなものなのか。 そもそも、このスーパーリージョナルバンク構想には叩き台があった。 2014 年に自民党がまとめた「日本再生ビジョン」だ。 この報告書では、「日本再生のための金融抜本改革」の主要な課題として「地域金融機関の強化」を掲げており、<企業・産業再生に資する金融機関機能・態勢、経営体力の強化(「日本版スーパー・リージョナルバンク(仮称)」の創出など>の見出しを付け、地方金融機関の経営強化が日本再生の大きなカギとなると位置づけている。
この報告書のとりまとめの中心だったのは、当時、自民党の政調会長代理だった塩崎恭久元官房長官で、金融政策にかかわる部分の役所側の調整にあたったのが当時金融庁の検査局長だった森信親・元金融庁長官だった。 この時の自民党案を具現化しようとしていたのが、りそな H だった。 地銀再編の機運がにわかに高まってきたのは、菅首相がその必要性を強調するようになったからに他ならないが、その背景には、自民党総裁選への出馬会見前に、SBI の北尾氏から菅氏へ「地銀再編」発言の依頼があったとも言われている。 そして実は、もともとスーパーリージョナルバンク構想に関わってきた森氏も、全く同じ依頼を菅氏に対してしていたというのだ。
その森氏が、最近周囲に漏らしている地銀再編のキーワードは「早期警戒制度」なのだという。 これは金融庁が 2002 年に導入した、主に地域金融機関に対して健全性の維持・向上に向けた経営改善を促す仕組みである。 よく知られる「早期是正措置」は、金融機関の自己資本比率が最低水準を下回ると発動される仕組みだが、早期警戒制度は、自己資本比率に関係なく、収益力や貸出先の信用度、保有する有価証券が抱えるリスクなどをチェックし、基準を満たしていない場合には金融庁から経営改善を指示されるというもの。 さらに昨年、この制度の監督指針が改正され、将来の収益性と健全性に比重が置かれるようになった。 金融庁は地域金融機関が「持続可能なビジネスモデル」を確立できるかを重視し始めたのだ。
再編の相手探しに奔走しはじめた地銀
早期警戒制度の対象になることは、単独での存続を否定されたのに等しい。 金融庁は公にしていないものの、実は 2019 年事業年度(19 年 7 月 - 20 年 6 月)に早期警戒制度には地銀、第二地銀計 10 行が対象になっている。 これらの金融機関は、すでに尻に火が付いた状況に追い込まれていると言える。 この夏、早期警戒制度の対象になっていると囁かれている関東地方に本店を置くある第二地銀の取締役会で、こんなやり取りが交わされたという。 まず、取締役会で口火を切ったのは頭取だった。
「お疲れ様でした。感触はいかがでしたか?」
その頭取は、大手地銀との極秘裏の業務提携交渉を任せていた役員に労いの言葉を掛けたが、当の役員は表情を曇らせながら返答した。
「先方も、決して経営に余裕があるとは考えていませんでしたが、けんもほろろでした。 提携条件を提示する前に業務提携の話は拒否されてしまいました。」
これを聞いた頭取は、厳しい口調でこう語った。
「困りましたね。 以前、りそな H の傘下に入ることを取締役会で決議しましたが、そちらも上手くいかなかった。 このままでは、金融庁へ持続可能なビジネスモデルを提示できませんね。」
この銀行がりそな H の傘下入りを検討した理由は、埼玉りそな銀行のようにグループ内で一定の独立性を認められる可能性が高いからだ。 重苦しい雰囲気が漂う中、先の取締役が周囲を気遣うように口を開いた。
「以前もご報告しましたが、SBIH からの出資受け入れを再度検討されてはいかがでしょうか。 他の役員のみなさんの懸念は承知していますが …。」
このように経営体力の弱い地方銀行にとって、現在は「どこと組むか」が最も大きな経営のテーマになりつつある。 だがこの第二地銀の役員や行員の間では、「できれば SBIH でなくりそな H」という思いが強いという。 というのも、北尾社長のリーダーシップが強い SBIH からの出資をうけいれれば、いずれ SBI が自分たち役員や行員たちをリストラするのではないかという懸念が拭えないからだ。
実は同じ「地銀再編」と言っても、りそな H と SBIH が見据える戦略は全く違う。 信託併営のりそな H の戦略は、富裕層を対象にした信託事業を主力とする営業展開を考えている。 それに対して SBIH は傘下に収めた銀行の顧客に対し、SBI の投信商品を販売することを主に考えている。 目指す方向は違うが、いずれかのグループに加わることができれば、ひとまず経営の健全性は向上する。 だが、SBIH にしてもりそな H にしても、「来る者は拒まず」では決してない。 SBI の北尾氏は単独出資先について、「10 行で終わりにしたい」とし、りそな H の幹部も「すべての銀行がスーパーリージョナルバンク構想の仲間になれるわけではない」としている。 残された席には限りがあるのだ。
では、有力地銀と手を組めず、りそな H に入れず、SBIH の出資も受けられない銀行はどうなるのか。
地銀が信用金庫に業態転換する時代が来る?
金融庁の金融委員会のワーキンググループの委員にもなっている民間の専門家の中には、持続可能なビジネスモデルを示せない地域金融機関に対して、「逆普銀転換」を提案する意見も出ている。 一般的に「普銀転換」とは、主に無尽を起源とした相互銀行が 1990 年代初頭に、普通銀行に業態転換して今の第二地銀になったことを意味する。 相互銀行以外でも、1991 年に八千代信用金庫が八千代銀行(現・きらぼし銀行)に普銀転換した例がある。
これに対して、「逆普銀転換」とは、持続可能なビジネスモデルを示せない地域金融機関の営業規模を縮小して、信用金庫にするという考えだ。 地域金融機関が信用金庫に逆転換すれば、営業範囲は狭められるが、信用金庫は「非営利法人」なので、高い利益水準を求める必要はなくなるし、株主からの配当圧力に晒されることもなくなる。 ただ、この「逆普銀転換」は上場廃止が前提になるほか、銀行法と信用金庫法など法律の壁もあり容易ではないだろう。 それでも、地方銀行と信用金庫とが合併するという手法ならば、地銀が合併後に信用金庫として営業することも可能だ。
ただ、地域密着の金融機関にしても、現在は飽和状態にある。 こちらに残された席も多くはない。 地域金融機関は再編ではなく、淘汰の時代に突入したのかもしれない。 ((刑部 久、JB Press = 10-24-20)
地銀・地方紙・地場百貨店、「地方エリート没落」の不安と絶望
各地の産業を支えてきた地方銀行、世論形成を担う地方紙、そして中心市街地の "顔役" だった地場百貨店 - -。 地元経済を牛耳ったエスタブリッシュメントたちの足場は、新型コロナウイルス危機が起こる以前からすでに危うかった。 特集『地方エリートの没落 地銀・地方紙・百貨店』では、彼らを襲う不安と窮状を、9 月 21 日(月)から 27 日(日)までの全 13 回でお届けする。
#1 9 月 21 日(月)配信 地銀再編は「スガノミクス案件」に! 頭取に迫る史上最強の統合圧力
ヘビに睨まれたカエル - -。 9 月 16 日に誕生した菅義偉新首相が、地銀再編の必要性に言及した。 青森県の地銀 2 行の統合観測が政権発足前に流れ、他行も浮足立つ。 地方の "殿様" として君臨してきた地銀の頭取たちに、決断の時が迫っている。
#2 9 月 21 日(月)配信 地銀「経営危険度」ランキング、6 指標でスガノミクス再編の標的を占う
「スガノミクス」の改革ターゲットとして再編待ったなしの地銀はどこなのか。 金融庁が問題視する収益性低迷、コロナ禍に伴う企業倒産地獄がもたらす財務健全性の悪化、さらにかつて金融庁が試算した都道府県別の「存続可能地銀数」という三つの観点から、地銀 103 行を独自にランキングした。
#3 9 月 22 日(火)配信 地銀「雇用力減少」ランキング、年収と従業員数を基に独自解析
地銀が地方で絶大な人気を誇る就職先であり、安定職種だったのも今は昔の話だ。 経営統合や採用抑制を経て行員数は減少。 全国地銀の「地域雇用力」は著しく低下した。 地方経済を左右し得るエリートたちのメッキは、もう剥がれかかっている。
#4 9 月 23 日(水)配信 共同通信「人員数 2 割減」リストラの真相、次の焦点は高過ぎる給料か
共同通信が大リストラに着手した。 自然減で人員の 2 割減を目指すという。 同社は地方紙などの加盟社が支払う「社費」を収入源とするため、販売部数減とコロナ禍に見舞われる地方紙の窮状を受けたものだが、現場からは「いずれ賃金もカットされる」との不安の声が漏れる。
#5 9 月 23 日(水)配信 地方紙トンデモ列伝、取材先との癒着や前時代的な社風も
その土地に深く根を下ろす地方紙は、紙面からは読み取れない裏の顔を持つことも。 地方行政との癒着により闇に葬られる不祥事や、会長が君臨し「北朝鮮」と呼ばれる社風 …。 ジャーナリズムとは懸け離れた、地方紙の "トンデモな行間" を読む。
#6 9 月 24 日(木)配信 地方紙「販売部数減少率」ランキング、26% 減のワースト 1 位は九州の雄
九州を代表するブロック紙である「西日本新聞」は、過去 5 年で販売部数を 26% 超も減らした。 全国主要紙の中でワースト 1 位の激減ぶりを受け、福岡県以外の地域は撤退戦に突入。 ブロック紙の地位が危うくなっている。 片や北の雄、「北海道新聞」も部数が急降下し、社内の不安は高まるばかりだ。 販売部数減少率ランキングで、新聞業界の深刻な状況を浮き彫りにする。
#7 9 月 24 日(木)配信 35 新聞社「経営体力」ランキング、金満からジリ貧まで 4 パターンの序列浮き彫り
年間売上高を上回る現預金を抱える "金満" 企業である「静岡新聞」をはじめ、地方紙の多くは潤沢な資産を抱えている。 とはいえ販売部数減には歯止めがかからず、キャッシュが乏しい一部の地方紙は存続も危ぶまれる。 決算書が入手できた新聞社 35 社の経営体力を丸裸にする。
#8 9 月 25 日(金)配信 地方紙が苦しむ 3 つの呪い、ロートル幹部・働き方改革・デジタル化の壁
地方紙の構造改革を阻んでいるのが、全国紙以上に深刻な読者の高齢化や時代の変化にそっぽを向くロートル幹部たちの多さだ。 それは「メガ地方紙」の「中日新聞」や信州の名門紙である「信濃毎日新聞」も例外ではない。 地方紙を緩慢なる死に追いやる三つの呪いとは?
#9 9 月 25 日(金)配信 新聞・通信社「今夏ボーナス額」 40 社超リスト、毎日 45 万円の低さが目立つ
販売部数減が止まらないのは地方紙も全国紙も同じ。 多くの新聞社では、地方紙を含めて社員が今なお高給を食むが、歴然とした業界内格差もまた存在する。 各社の経営体力を如実に示す、今夏支給されたボーナス額を一挙ご覧に入れよう。
#10 9 月 26 日(土)配信 全国 31 地場百貨店「売上高減少」ランキング、11 社は 2 期連続赤字にも
全国の地場百貨店が、地方都市の中心市街地の "顔役" だったのは、遠い過去の話だ。 地元財界の一角を占めるなど存在感を放ってきた地場百貨店は、消費の多様化の波に乗れずに存亡の危機にある。 コロナ禍以前から続く深刻な減収ぶりをランキングによって浮き彫りにした。
#11 9 月 26 日(土)配信 JR 九州が地元名門百貨店とデスマッチ! 「走る総合不動産」の猛威
九州では地場百貨店の地盤沈下が進む一方、「走る不動産会社」である JR 九州の商業施設「アミュプラザ」が大躍進中。 駅上の巨大商業施設で若年層の買い物客を吸い上げ、北九州では井筒屋を、鹿児島では山形屋を蹴散らして九州各地で猛威を振るっている。
#12 9 月 27 日(日)配信 名門百貨店「創業家」の栄枯盛衰ドラマ、神奈川・さいか屋は追放危機
江戸時代に開業するなど、由緒ある地場百貨店は今なお創業家が君臨していることも多い。 ただ、過去にはオーナーの独断専行で経営難となり、追放されたケースもある。 神奈川県のさいか屋は、今まさにオーナーが経営権を奪われつつある状態にあり、目が離せない。
#13 9 月 27 日(日)配信 三越伊勢丹「地方百貨店の再生モデル」が失敗した理由、松山三越・混乱の内幕
地方百貨店の再生モデルとして三越伊勢丹ホールディングスが力を入れる愛媛県・松山三越のリニューアル。 だがその内実は、有力ブランドに離反され、300 人の大規模リストラが突然公表されるなど混乱に満ちており、むしろ反面教師にしかならない。 その内幕を描く。
- 各詳細は、ダイヤモンドのサイトをご覧ください。 (岡田悟、田上貴大、宮原啓彰、山本興陽、ダイヤモンド = 9-21-20)
「地域を助け、地域で生きる」 コロナ禍の地銀の役割
新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛や営業縮小の影響で、中小企業が苦しんでいる。 地域のピンチに地銀はどんな役割を果たすのか。 名古屋市に本店を置く愛知銀行の伊藤行記頭取に尋ねた。
- 新型コロナウイルスの感染拡大でどんな動きが出ていますか。
「中小企業などから、資金繰りの相談が多く寄せられています。 3 月初めは観光業や宿泊業が中心でしたが、いまは製造業と建設業、卸売業の 3 業種で 6 割ほどを占めます。 5 月からは政府の経済対策で実質無利子・無担保の融資がはじまり、さらに相談が増えています。 13 日までの新型コロナ関連の融資件数は累計で約 1,650 件、融資額は約 650 億円になりました。」
- 東海 3 県では政府の緊急事態宣言が解除されました。
「すぐに、以前のように 3 密を避けなくなったり毎夜飲みに行ったりすることはないでしょう。 経済活動が正常に戻るにはかなりの時間がかかるし、なかにはもう元に戻らない習慣もあるかもしれません。 経済的な影響はこれからの方が大きいのかなと思います。」
「取引先企業には今回の新型コロナで浮かび上がったそれぞれの課題があります。 たとえば観光業や宿泊業なら、インバウンド(訪日外国人客)に頼り過ぎていたといったことです。 私たちはそういった課題を発見して、解決策を提案し、ビジネスモデル転換のお手伝いをしていきます。 近年、力を入れている課題解決型のソリューション営業をさらに強化していきます。」
- 銀行経営への影響は。
「資金繰り融資は増えていますが、投資信託などの営業活動は一時、できませんでした。 工場の増設などの前向きな融資もストップしています。 全体ではマイナス面のほうが多いです。 一方、ネットでは投資信託のほか、教育やマイカーローンの申し込みも伸びています。 これを機に、簡単な手続きはネットを主流にし、窓口は相談に特化する、という変化を加速させます。」
- 経済危機のなかで、地域金融機関の役割をどう考えますか。
「地銀は地域の金融インフラ。 地域の利益を追求したご褒美として、自行の利益がついてくるのだと思います。 メインバンクを務める企業のなかには『昔、苦しいときに愛知銀行に助けてもらって今があるから、メインは変えないよ』と言ってくださるところが多くあります。 これは先輩たちの遺産です。 将来、『コロナ危機のときに愛知銀行に助けてもらって今がある』と言ってもらえたらうれしい。 そういうことを繰り返し、地域のなかで生きていく。 それが地方銀行だと思います。」
- 他行との再編・統合は。
「現状ではまったく考えていません。 日銀のマイナス金利政策など取り巻く環境は厳しいですが、愛知県は全国有数の経済力がある地区。 単独で十分やっていけます。」
☆
5 月 14 日の 2020 年 3 月期決算会見の内容も取り込んで構成しました。 (竹山栄太郎、asahi = 5-25-20)
<愛知銀行> 名古屋市中区。 1910 年創業。 店舗は愛知 98 店、岐阜 3 店、三重 2 店、東京・大阪・静岡各 1 店の計 106 店。 従業員数 1,558 人。 2020 年 3 月期の実質業務純益(単体)は 60 億円。 マスコットキャラクターは子犬の「リトルラヴィン」。 「ハローキティ」のサンリオが手がけた。
<伊藤行記(いとう・ゆきのり)> 三重県四日市市出身。 名古屋大経済学部卒。 1980 年、中央相互銀行(現愛知銀行)入行。 証券外国部長、常務をへて昨年 6 月から頭取。 好きな言葉は「今を大切に生きる。」 大型連休中には遠方に住む子ども 3 人やその家族とオンライン飲み会を開いた。62 歳。
「要らない銀行」が浮き彫りに、地銀 104 行ランキング
収益低下で崖っぷちに立たされた地域銀行が生き残りのためのビジネスモデルを模索しています。 地銀は、自己変革が可能なのか。 それとも、衰退への道をひた走るのか。突然の新型コロナウイルスショックで苦境に陥った取引先企業も救わなければなりません。 変革に向けて苦闘する銀行の姿を追いました。
支援できるか、債権回収に走るのか 取引先企業だけでなく地銀も瀬戸際
「金融機関の本気度が試されている。 ここで支援できるのか。 それとも債権の保全・回収に走るのか - -。」 関東地方のある地銀の支店長は、コロナ危機で経営難に陥った企業に対し、どのように対応するのかで銀行としての存在価値が測られると強調した。
しかし、バンカーとして取引先企業に向き合おうとする姿勢と、実際に支援できるかどうは別問題だ。 不振企業を支援するとなれば、債権の貸し倒れリスクに備えて引当金を損失計上できるだけの「収益基盤」、それに加えて企業を成長軌道に戻す「再生力」の二つの要素を、当の銀行が持っていなければならない。 「コロナショックは地銀をふるいに掛ける試金石(銀行アナリスト)」なのである。
収益基盤でいえば、本業である「顧客向けサービス業務利益(貸出金から得られる利息収入と企業や個人から受け取る手数料収入 - 銀行全体の経費)が黒字を維持できているかどうかが重要ポイントとなる。 前出の銀行アナリストは「顧客サービス利益が赤字の銀行に、もはや取引先企業を支える貸し倒れ引当金を積む余裕はない」と分析する。 一方、再生力は、これまでにどれくらいの数の企業再生を手掛け、健全な姿に生まれ変わらせることができたのか。その経験と実力が試されることになる。
ダイヤモンド編集部の試算によると、顧客サービス利益が 19 年 9 月中間期に赤字だったのは、地銀 104 行のうち半数の 52 行を占める。 しかも、19 年 3 月期まで 5 期連続赤字となっている銀行も 26 行存在した。 本業で赤字となっているという点で、もはや顧客企業の存続をサポートするどころか、自らの存立が危ぶまれる状況だ。その対極に、顧客サービス利益を改善させている銀行もあり、地銀の中で二極化が進んでいる様子が浮かび上がる。
1 位静岡銀 上位に山口 FG 傘下の 3 行も
「顧客向けサービス業務利益」は金融庁が 16 年 9 月に発表した独自の業績分析だ。 15 年 3 月期決算の時点で 4 割の地銀が赤字となり、25 年 3 月期には 6 割超へと赤字数が膨らむと打ち出し、地銀業界を騒然とさせた。 本業の損益を表し、顧客に向きあった結果として、どれだけの収益を上げているかを示す目安となる。 そこで、前期の 19 年 3 月期決算と 20 年 3 月中間期決算における各地銀の顧客向けサービスの利益率を試算し、中間決算における利益率と前期からの改善率の二つを偏差値化して、二つの数字の平均値から順位を作った。
104 行全体を見ると、19 年 3 月期における赤字地銀は 46 行だったものが、20 年 3 月中間期には 52 行と半数まで拡大している。 さらに、71 行が利益率を減少させており、多くの地銀ではビジネスモデルがもはや実質的には破綻していることがうかがえる。 そうした中で、改善の道を歩んでいる銀行も少なくない。 ランキング 1 位の静岡銀行、2 位の横浜銀行(神奈川県)、3 位の福岡銀行と上位陣は地銀業界の雄が集う。 5 位の関西みらい銀行(大阪府)と 6 位のきらぼし銀行(東京都)は、いずれも近年合併して誕生した新しい銀行で、この本業の利益がどう推移するかが合併の効果を図るバロメーターになるだろう。
4 位の北九州銀行、10 位のもみじ銀行、11 位の山口銀行は、いずれも山口フィナンシャルグループ (YMFG) の傘下銀行だ。 通常 2 - 3 年の支店長の任期を 5 年に延ばすなどして地域密着の試みを強める一方、「あらゆる地域活性化のノウハウを持ち、そのメニューの一つとして金融があるという会社(吉村猛 YMFG 社長)」を目指すという取り組みが、結果として本業の収益に繋がっているとみられる。
また 52 位の島根銀行は、いまだに本業赤字ながら改善度は随一の 0.06 ポイントと、赤字幅の縮小が見て取れる。 同行は長らく赤字続きだったこともあり、19 年 9 月に大手インターネット金融の SBI ホールディングスと資本提携を結び、V 字回復に向け動き出した。 今後の動向が注目される。
長引く低金利環境に苦心 金利引き上げの手法とは
法人や個人に対する貸出金利と預金金利の差である「利ざや」でもうける銀行にとって、低金利環境は頭痛の種だ。 特に、新型コロナウイルスの影響で企業は業績悪化が必至だ。 日本銀行は金融緩和の強化策を打ち出しており、マイナス金利政策の深掘りの可能性すらある。 金利が上向く局面はほど遠い。 加えて、新型コロナウイルスの影響が深刻化する以前は、企業における資金需要は減少傾向にあると見られていた。 数少ない資金ニーズを複数の金融機関が取り合うことになり、金利の "値下げ競争" は過熱感を帯びていた。
この状況だからこそ、銀行は今、コンサルティングなどの題目を掲げ、事業承継の提案といった融資以外の付加価値の提供に力を入れている。 そうして銀行として信頼を勝ち得れば、高い金利での融資を受け入れてくれているからだ。 つまり、足元の低金利環境においても貸出金利を伸ばしている、あるいは下げ幅をとどめている地銀は、企業と向き合い、信頼を得ているといえる。 そこで、19 年 3 月期と 20 年 3 月中間期における貸出金利の改善度を偏差値化して、ランキングを作成した。 実際に貸出金利を改善あるいは据え置きできている地銀は、104 行中8行のみとなった。
ここで突出した数字を示したのは、0.05 ポイントという改善度を見せて同率 1 位となった東京スター銀行と佐賀共栄銀行だ。 特に佐賀共栄銀は、店舗数と行員数を削減してコストカットにまい進し、同時に金利を重視した営業体制に変えたことが、この結果を表しているようだ。 同率 3 位の豊和銀行は取引先企業の販路開拓支援に本腰を入れている。 この融資以外の付加価値を提示していることが、金利改善の背景にあるものだろう。
同率 5 位のきらぼし銀行は、健全な企業だけではなく経営不振の企業でもメインバンクになる取り組みを進め、「ダンピング競争には与しない(渡邊壽信頭取)」との方針が金利の維持に貢献しているとみられる。 経営環境が苦しいのはどこも同じだが、独自の試みを進めている銀行は、少しずつではあるが、結果に結び付いているといえる。 (布施太郎、田上貴大、重石岳史、中村正毅、ダイヤモンド = 4-3-20)
|