川口のクルド人問題に河野太郎氏が「参戦」
 現地視察ブログに国会質問 … なぜいま発言しはじめたのか

埼玉県川口市に暮らすトルコの少数民族クルド人を巡り、河野太郎前デジタル相のブログが物議を醸している。 事実上、川口市のクルド人をまとめて偽装難民視しているためだ。 クルド人へのヘイトスピーチが深刻化する中で、閣僚を歴任し、自民党総裁選にも出馬した人物が、このような主張をするのは無責任で不適切ではないか。

関係省庁に「早期に厳格な対応が必要」

今月 12 日、河野氏は自身のブログに「川口市のクルド人」と題する長文を投稿した。 文章は「クルド人の集住が問題視されるようになった地域を視察に行きました」と始まる。 クルド人に関して「難民問題の専門家や一部のメディアが現地を調査・取材したところ、彼らの出身地においては地域紛争も政府による迫害も見られず、出稼ぎや移住を目的として日本に滞在していることが明らかにされました」と述べた。

日本はトルコ国民の短期滞在に対し、査証(ビザ)免除措置を導入している。 河野氏はこれを踏まえ、難民申請している川口市のクルド人の多くについて「免除措置により観光、あるいは親族訪問の目的で来日し、クルド人であることを理由に難民申請し、不認定となった後も仮放免中に働こうとする偽装難民だと指摘されている」とし、関係省庁に「早期に厳格な対応が必要」と求めた。

SNS 上では賛否両論

関連して、2005 - 2006 年、法務副大臣を務めた際に「不法就労が特に問題になっている地域を決めて摘発を積極的に行い、強制送還していった」と強調。 「同様のことを再び行う必要がある」と求めた。 交流サイト (SNS) 上ではブログを巡り、「参院選前のアピールか」などと冷ややかな見方の一方で「人権問題だと大声で騒ぐやからに屈しないように」などと後押しする書き込みもみられた。 ブログに対し、難民を支援する「全国難民弁護団連絡会議(全難連)」は河野氏に抗議の申し入れをした。

「『クルド系トルコ人』といった集団を包括的に難民該当性がないものとして(関係省庁に)働きかけるなどは、原則としてに不適切」と批判。 河野氏の主張は幅広さに欠ける調査や取材に基づき、根拠が弱いとし、ブログの削除を要求した。

一連の動きに「注目を集めたかったのでは」

ブログにとどまらず、河野氏は 28 日、衆院法務委員会でも「クルド人の難民認定申請が急増し、不法就労の問題も川口市で増えている。 査証免除の一時停止にならない理由は何か」と質問、トルコ国民へのビザ免除措置の停止を求めた。 宮路拓馬外務副大臣はトルコとの友好関係などを理由に「停止する状況にあるとは考えていない」と退けたが、河野氏は今後も追及していく意向を示した。 「こちら報道部」は全難連の申し入れへの見解などを河野氏の事務所にファクスで質問したが、期限の 28 日夕までに回答はなかった。

河野氏の投稿や質問の背景に何があるのか。 政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「焦りのようなものがあるのではないか」と示唆する。 25 日公表の共同通信の世論調査で「首相にふさわしい人」のトップは高市早苗氏の 21.5%。 自民党総裁選をともに争った河野氏は遠く及ばない。 「次点 (15.9%) の小泉進次郎氏も農相に抜てきされ、石破政権の救世主になろうとしている。 自身に注目を集めたかったんだろう」とみる。 「ただ、河野氏が法務副大臣をやっていた 20 年前とは世界情勢も変わり、クルド人の問題も複雑化している」とし、過去の経験を引き合いに出す姿勢にも疑問を示した。

「政治家の発言はネトウヨとは重みが」クルド人危惧

「到底許し難い発言だ。」 全難連代表の渡辺彰悟弁護士は河野氏のブログでの主張を強く非難した。 河野氏は「これまで難民認定されたクルド人は 1 人しかいません」とし「偽装難民」を主張するが、「本当は難民認定されるべきクルド人を日本政府は認定してこなかった。 2006 年には名古屋高裁が難民認定した原告に対しても、政府は認定せず、出入国在留管理庁の姿勢を浮き彫りにした。 トルコは日本政府の友好国で、クルド人を難民と認めないのはトルコへの政治的配慮としか思えない」と訴えた。

渡辺氏は入管が 2004 年、クルド人の来日が出稼ぎ目的だと確認するためとして、トルコに職員を派遣した調査にも言及し「難民申請者の情報をトルコ政府に伝え、逆に迫害の危険を高めた」とでたらめぶりを指摘。 「河野氏は日本の入管行政のこうした歴史的経緯をみないまま、誤った評価をしている」と断じた。 「政治家の発言は SNS でデマをばらまくネトウヨとは重みが違う。」 川口市の 40 代のクルド人男性は危惧する。 「デマにお墨付きを与え、またヘイトが増えるのではないか。人気取りなのか知らないが、クルド人を批判する政治家が増えており、こんな状況が続けばクルド人が殺される事件が起きてもおかしくない。」

入管庁が「不法滞在者ゼロプラン」公表

排外的な空気は社会に漂っている。 さいたま市で 25 日に投開票された市長選で、クルド人批判を続ける河合悠祐戸田市議の応援を受け、「外国人問題」の解決を訴えた新人が 5 候補中 3 番目の得票を集めた。また入管庁は23日、「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている」として出入国管理を厳格化する「不法滞在者ゼロプラン」を公表した。

国際基督教大の橋本直子准教授(国際難民法)は X (旧ツイッター)で河野氏の主張の間違いや問題点を指摘した。 その真意を問うと「河野氏の主張もゼロプランも、非正規滞在の外国人が刑法犯を繰り返しているから、一掃すれば日本の安全が取り戻せるかのように読める点で共通する。 河野氏の場合はその筆頭がクルド人ということになるだろうが、いずれも実態を必ずしも反映せず、誤った印象を与えかねない」と危ぶんだ。

河野氏はクルド人を不法滞在で難民申請を繰り返す「偽装難民」であるかのように書いている。 だが、入管庁の発表によると、24 年に難民申請した人の 94% は在留資格のある人で、非正規滞在者はわずか 6% の 748 人。 このうち、クルド人を含むトルコ国籍者は 196 人だ。 「わずか 196 人なのに、なぜことさらに取り上げ、問題視するのか。」

「政治家は公正な難民認定制度作成に力を」,/p>

「日本では在留資格別の刑法犯の検挙件数は公表されていないが、海外では非正規滞在者ほど罪を犯さないというデータがある」とも述べた。 明治学院大の阿部浩己教授(国際難民法)も「有力政治家の発言として無責任で、由々しき問題だ」と批判する。 「日本が加入し、難民を保護する難民条約の視点がすっぽり抜けている。 『日本の難民認定の判断が適正ではない』という指摘が続いているにもかかわらず、河野氏は認定の実績をうのみにしている。 トルコでのクルド人の人権状況については、多くの団体や英国など各国政府が、詳細に報告しているが精査した様子もない。」

阿部氏は「日本は入管が難民の審査を担うため、難民の保護よりも取り締まりに引っ張られやすい」とした上で警鐘を鳴らす。 「難民認定は本来、各国のように政治からの圧力を避けるため独立した機関で担うべきだが、今回の河野氏の発言が現場に影響を与えないとは言い切れないのではないか。 政治家は公正な難民認定制度をつくることに力を注いでほしい。」

デスクメモ

記事に登場する川口市の 40 代クルド人男性はブログへの掲載まで、河野氏の視察を知らなかった。 周りに聞き取りされた同胞もいないという。 河野氏の視察はどれだけ深みがあったのか。 多角的な視点を欠く根拠に基づき、特定の人種や集団について規定するとしたら非常に危うい。 (木原育子、森本智之、東京新聞 = 5-29-25)


クルド人 100 人が殺到、殺人未遂容疑で 4 人逮捕の異常事態
 「差別するのか」、「爆破してやる」 14 歳少年の脅迫事件も … 川口

近年、埼玉県南部の川口市、蕨市では、在留するクルド人による迷惑行為が問題となっている。 頻発する事件や事故に対し、市民は怒りと恐怖を募らせ、市役所には苦情の電話が殺到。 市議会もクルド人対策に本腰を入れて取り組もうとはしているが、まだまだ解決の糸口は見えない。 「多文化共生」の厳しさについて、実際の事件例とともに考えていこう。 * 本稿は、三好範英『移民リスク(新潮新書)』の一部を抜粋・編集したものです。

「クルド人は帰れ」苦情が噴出 "肩身の狭い思い" をするのは誰?

2023 年 1 月 27 日、川口市役所の担当者に、クルド人問題について話を聞いた。 市民の苦情が多くなったのは、2 年ほど前からだという。 「ケバブ屋の前でクルド人の解体業者のトラックが長時間止まって、運転手が店の中でケバブを食べている。 夜、公園にクルド人が集まっていると、日本人にすれば、ガタイがいい兄ちゃんがたむろっているだけで怖い。 税金を納めている私たちがなぜ肩身の狭い思いをしなければならないのか、という感情が強くなっているのをひしひしと感じる。」

「夜に若いクルド人が集まって騒いでいると、川口市はもともと職人の町だから『何とかしろ。 クルド人は帰れ。 市は何をやっている。』ときつい電話が来る。 警察にはもっと苦情が寄せられていると思う。 クルド人が運転する暴走車が危険だというので、さいたま市に引っ越した会社社長もいる。」

同年 3 月 2 日、川口市の市会議員にも話を聞いた。 「狭い道を暴走族のような車で走る。 前川の商店街で車の事故があり、運転者はサーッと逃げた。 警察が来て、当事者と思われるクルド人に話を聞くと 20 人位集まってきた。 何かというと集団で行動するところが怖い。」 「クルド人のやっているバーが窓を開けるので騒音がひどい。 子供は小学校は行くのだが、中学校から行かなくなって(無免許で)車を運転するようになる。 東北道で車がひっくり返ったが、運転していたのは地元では札付きのワルのクルド人中学生だった。」

「解体現場で仮放免者(編集部注 : 収容令書又は退去強制令書により収容されていたが、請求又は職権により一時的にその収容を停止し、身体の拘束を解かれた外国人)が働いているから、価格がダンピングされている。 クルド人の間でも経営している者と、使われている者との間で格差ができている。 クルド人同士の小競り合いは 1 カ月に 1 回はあって、近所の人が心配して連絡をくれる。 警察にもっと介入してほしい。」

JR 蕨駅前など、暗くなってから 1 人歩きしないように女性は気を付けてもらわないと。 女性に対する性犯罪未遂みたいなことが頻繁にある。 親切を装って雨の日にカサに一緒に入らない? とか言いながら、一見、優しくみえる。」

"外国人取り締まり強化" を 川口市議会が正式決議した理由

自民党川口市議団は、2023 年 6 月の川口市議会に「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」を提出、29 日に賛成 35、反対 7 で採択された。 名指しはしていないが、クルド人による迷惑行為を念頭に置いていることは明らかで、「警察官の増員、一部外国人の犯罪の取り締まり強化」を、衆参両院議長、総理大臣、国家公安委員会委員長、埼玉県知事、埼玉県警本部長あてに求めている。 共産党、川口新風会(立憲民主党、れいわ新選組)は会派としては反対したが、れいわ新選組の所属議員 1 人は賛成した。

意見書は「一部の外国人は生活圏内である資材置き場周辺や住宅密集地域などで暴走行為、煽り運転を繰り返し、人身、物損事故を多く発生させ、被害者が保険で対応するという声がある」、「現在、地域住民の生活は恐怖のレベルに達しており、(中略)その他多くの善良な外国人に対しても差別と偏見を助長することになって」いると訴えている。

なぜ、この時期に決議が採択されたのか、ある市会議員は説明する。 「ほかの市会議員も、無保険で運転するクルド人の車に事故を起こされたなど、市民からたくさんの相談を受けていた。 そろそろ皆、きれいごとだけではやっていられない、という感じになっていた。」

クルド人 100 人が殺到 機動隊も出動する騒ぎに

状況の悪化は看過できないとの意識が高まっていたところに、偶然ではあるが、地域を揺るがす事件が起こった。 意見書採択から 5 日後の 7 月 4 日、川口市中央部の西新井宿にある「川口市立医療センター」前に、クルド人 100 人ほどが集まって、機動隊も出動する騒ぎとなり、救急搬送の受け入れが 5 時間半停止したのである。 同日夜、トルコ国籍の男性が複数のトルコ国籍の男から刃物で切り付けられた。 被害者が搬送された医療センターに双方の親族や仲間が押し掛け、救急外来の扉を開けようとしたり、大声を上げたりした。

現場は翌日午前 1 時ころまで混乱し、4 人が殺人未遂で、警察官、機動隊員への公務執行妨害容疑で 2 人が現行犯で逮捕された(2023 年 7 月 30 日付産経新聞電子版)。 同センターには埼玉県南部を担当する 3 次救急医療施設「救命救急センター」が併設されており、重篤な患者を 24 時間受け入れている。 対象になる患者が受け入れ停止の時間にいなかったのは幸いだったが、地域の安全に深刻な影響を与えた事件だった。

この事件は傷害事件だけをとりあげても、刃物を恐らく常時携行しているという点で問題だが、とりわけ、多数が集まって一触即発の事態になるという展開の異様さは、クルド人に対するイメージ悪化の大きな節目となった。 在日外国人でも、例えば中国人、ベトナム人の場合、対立するグループが SNS で呼びかけて 100 人ほどが集合し、諍いになるといった事態はあまり考えられないだろう。

14 歳クルド人少年の暴走が招いた "異常な連鎖"

続いて、クルド人問題の特異性を印象づけたのが、少年による次のような事件だった。 トルコ国籍の男子中学生(14 歳)は 7 月 12 日、川口市内の商業施設で、大音量で音楽を流し、タバコを吸うなどの迷惑行為を繰り返し、60 歳代の男性警備員から出入り禁止を告げられた。 それに憤慨し「外国人を差別するのか」、「爆破してやる」と警備員を脅迫し、いったん立ち去った後に戻ってきて、出入り口付近で火をつけた煙幕花火を投げつけて業務を妨害した(2023 年 8 月 3 日付埼玉新聞電子版)。

埼玉県警川口署は、この少年を脅迫と威力業務妨害容疑で逮捕した。 地元関係者によると、この少年はクルド人で、少年鑑別所に送られたが少年院送りは免れた。 ただ保護観察はついている、という。 真偽のほどは確認していないが、そういううわさが流れるほど、地元ではよく知られた存在なのである。 一連の事件をきっかけに、川口市役所にはクルド人を批判する電話が殺到した。 9 月 29 日、市役所を訪ね、この問題の矢面に立っている職員に話を聞くとこんな状況だった。

「職員 3 人で対応しているが、7 月 4 日以降、抗議の電話はこれまで全部で 300 本くらい。 今日もさっきまで電話を取っていた。 1 回でだいたい 1 時間以上、2 時間半話したこともあった。 多くが県外の人で市民は 2 割弱。 SNS の情報にあおられている。 大阪のおっちゃんが『日本人が誰もいなくなるぞ、殺されるぞ』とか。 またヤクザと思しき人から『殺しに行くから団体名教えろ、100 人位相手にしてやる』という物騒な電話もあった。」

クルド人支援から送還へ … 川口市長が示した "共生の限界"

川口市の奥ノ木信夫市長は、市内の外国人問題に関して、これまで 2 回、法相に事態の改善を求める要望書を手渡している。 1 回目、2020 年 12 月 23 日の上川陽子法相あて要望書は 2 項目からなり、市内に住む仮放免クルド人が就労を認められず困窮しているとして、就労を可能とする制度の創設と、健康保険などの行政サービスを仮放免者に提供することの可否について国の判断を求めた。 2 回目は 2023 年 9 月 1 日で、不法行為を行う外国人に対し強制送還など厳格に対処することなどを求める 3 項目からなる要望を斎藤健法相に行った。

川口市内のクルド人の犯罪、迷惑行為への批判が強くなってきたことを受けて、180 度姿勢を転換したように見えるが、2 回目の要望書の第 2、第 3 項では、「仮放免者が、市中において最低限の生活維持ができるよう『監理措置』制度(編集部注 : 監理人による監理の下、逃亡等を防止しつつ、相当期間にわたり、社会内での生活を許容しながら、収容しないで退去強制手続を進める措置)と同様に、就労を可能とする制度を構築」することと、「生活維持が困難な仮放免者、および監理措置に付される者について、『入国管理』制度の一環として、健康保険やその他の行政サービスについて、国からの援助措置を含め、国の責任において適否を判断」することを求めている。

2 回目の要望は、基本的に 1 回目の要望に「厳格な対処」を求める第 1 項を加えただけだった。 しかも、要望書の原案ではこの第 1 項は第 3 項だった。 現状でそうした陳情を行えば世論の強い反発を招く、と関係者が市長に進言した結果、1 週間前に順番を入れ替えたという。 川口市の仮放免者だけを特別扱いすることはできないし、もし全国的に仮放免者の就労を認めろという趣旨ならば、難民申請を繰り返すなどの手段で不法残留する外国人の増加の誘因になる。

2010 年に正規在留者が難民申請した場合、申請 6 カ月後の就労を一律に認めたことが、申請者の急増につながった前例もある。 奥ノ木市長の多文化共生への甘い見通しも事態を悪化させている一因ではないか。 (三好範英、Diamond on Line、5-25-25)