日本郵便、バイクなど二輪でも不適切な点呼 全国の郵便局の 6 割で 日本郵便は 22 日、配達用バイクなど二輪の点呼の実施状況について、全国の郵便局を対象とした社内調査の結果を発表した。 対象となる全国 3,188 局のうち約 6 割の 1,834 局で不適切な点呼が確認された。 同社によると、件数では、点呼が必要な 61.5 万件のうち 2 割強にあたる 15 万 1 千件が不適切だった。 同社はトラックなどの四輪のほか、全国でバイクなどの二輪を約 8 万 3 千台保有している。 貨物自動車運送事業法に基づくトラックと異なり、排気量が 125CC 以下のバイクは同法の対象外で、二輪に関しては運送許可の取り消しなどの処分は科されない。 日本郵便を巡っては、各地の郵便局で、運転手の健康状態などを調べる法定の点呼が適切に実施されていないことが判明し、同社は全国調査の結果を 4 月に公表した。 対象となる全国 3,188 郵便局のうち、75% にあたる 2,391 局で不適切な点呼を確認した。 国交省は 6 月、同社の一般貨物自動車運送事業の許可を取り消す処分を出した。 同社は約 2,500 台のトラックが使えなくなり、トラックを使用していた便の約 58% を子会社や同業他社に委託、残りを自社の軽貨物で代用している。 同社はこれまでの説明で、二輪の点呼の執行状況についても社内調査の結果を公表するとしていた。 (増山祐史、asahi = 8-22-25) 日本郵便の運送許可取り消し 総務省も最も重い「監督上の命令」処分 運転手への不適切な点呼の横行が発覚した日本郵便に対し、国土交通省関東運輸局(横浜市)は 25 日、貨物自動車運送事業法に基づき、一般貨物自動車運送事業の許可を取り消す処分を出した。 同社は 5 年間は許可を再取得できず、集配の拠点間の輸送などを担う約 2500 台のトラックやバンが使えなくなる。 総務省も同日、日本郵便株式会社法に基づく処分で最も重い「監督上の命令」を出した。 国交省では関東運輸局の藤田礼子局長が 25 日、日本郵便の千田哲也社長に行政処分の通知を手渡した。 千田社長は「多くの皆さまに多大なるご心配、ご不安をおかけしたことをおわびします。 再発防止策に、経営陣が先頭に立って取り組んでいきたい。」と話した。 運行管理者 211 人の資格取り消し 国交省によると、関東運輸局管内では、点呼記録簿の「不実記載」などの違反が 26 郵便局であった。 違反点数は計 197 で、許可取り消し基準となる 81 を大幅に超えた。 不実記載は全国では 73 局で確認され、国交省は点呼の責任者である同社の運行管理者 211 人の資格を取り消した。 日本郵便は軽バンなど約 3 万 2 千台も保有するが、軽貨物は届け出制で、今回の処分の対象外だ。 軽バンの点呼についても国交省は立ち入り監査を続けており、結果がまとまり次第、「車両使用停止」の処分が同社に科されるとみられる。 国交省は 25 日、監査による処分に先立ち、現在も走行している軽バンなどの安全対策の徹底を求め、軽貨物事業に関し貨物自動車運送事業法に基づく安全確保命令も出した。 7 月中に改善策を出すことを求め、定期的に実施状況を報告させる。 日本郵便は、一般貨物約 2,500 台のうち約 24% 分の輸送を子会社に委託したうえで、そのうち 9 割以上を郵政グループ外に再委託する。 このほか約 34% 分をヤマト運輸や佐川急便、西濃運輸など同業他社に委託する方向で調整している。 残りの 42% は自社の軽貨物で代用する方針だ。 子会社にも報告求める 日本郵便が、引き続き一般貨物を扱う子会社に委託することで、事実上の「処分逃れ」とならないよう、国交省は子会社の「日本郵便輸送」に対しても、点呼を適切に行うなどの防止策を講じて定期的に実施状況を報告するよう求めた。 郵政事業を監督する総務省が日本郵便に出した「監督上の命令」の処分は、日本郵便株式会社法に基づく。 2019 年のかんぽ生命の不正販売の際に続き、2 度目となる。 郵便・物流事業に影響がないよう、ユニバーサルサービスの確実な提供を求め、サービスの状況などを当面の間、報告させる。 日本郵便は処分を受け、「今回の行政処分等を厳粛に受け止め、運送事業者として、確実な点呼の実施をはじめ、運行の安全及び運転者・お客さまの安全を確保する体制構築を徹底し、信頼回復に全力で取り組んでまいります」とするコメントを出した。 (増山祐史、東谷晃平、asahi = 6-25-25) 日本郵便社長、3 カ月 40% の減給 許可取り消し処分受け入れ謝罪 運転手への不適切な点呼の横行が判明した日本郵便は 17 日、国土交通省から示された一般貨物自動車運送事業の許可取り消し処分について、弁明せずに受け入れると発表した。 千田哲也社長は東京都内で記者会見を開き、「郵便、ゆうパックご利用の皆様に多大なるご心配とご不安をおかけし、心よりおわび申し上げます」と謝罪した。 同社によると、千田社長と美並義人副社長は、月額報酬 40% を 3 カ月間減額の処分とする。 千田社長、安全統括管理者の浅見加奈子常務は 6 月内の株主総会を経て退任する。 トラックなどの一般貨物車を扱う 95 郵便局で不適切な点呼があり、各局長ら管理者も懲戒処分とする。 取り消し処分で、集配の拠点間の輸送や都市部の大規模局での荷物収集を担う約 2,500 台のトラックやバンが 5 年間、使えなくなる。 同社はこのうち約 58% 分の輸送を子会社の日本郵便輸送のほか、ヤマト運輸や佐川急便、西濃運輸などに委託する方向で調整している。 残りの 42% は自社の軽貨物で代用するという。 委託による配送コストの増加が見込まれるが、千田社長は「ゆうパックの値上げは今の時点で一切考えていない。 配送についても代替措置として影響がでないことを実現したい」と話した。 ヤマト運輸に対しては協業を巡るトラブルで 120 億円の損害賠償請求訴訟を起こしているが、千田社長は「裁判は裁判でしっかりとした主張をしていくが、お客様へサービスを確保していく上でご協力して頂けるのであればしっかりとお願いしていかないといけない」と話した。 点呼問題をめぐり、同社は 4 月に全国調査結果を公表。 点呼が必要とされる 57 万 8 千件のうち、記録簿に事実と異なる記載をした「不実記載」は約 10 万 2 千件だった。 今後、軽トラの処分も 日本郵便は軽トラック約 3 万 2 千台も保有する。 軽貨物は許可制ではなく届け出制のため、今回の許可取り消し処分の対象外だが、軽トラの点呼についても国交省は現在、監査を続けている。 不実記載は初違反の場合、貨物自動車運送事業法で 1 件につき車両使用停止日数が 60 日と処分が重く、同法に基づく処分で軽トラにも一定の影響が出るとみられる。 同社は軽トラの処分が出た場合、さらに委託を増やす方向で検討している。 同社はバイクなど二輪も約 8 万 3 千台保有する。 二輪の点呼の状況についても社内調査を続け、7 月に公表する方針という。 2022 年以降に点呼未実施などの内部通報を受けながら事実認定せず、対策を取っていなかったことが朝日新聞の報道で発覚した点について、千田社長は「順法精神の中で内部通報をして頂いた社員に申し訳ない」と謝罪した。 (増山祐史、asahi = 6-17-25) ◇ ◇ ◇ 不適切点呼、3 年前に内部通報 「違反ない」対策取らず 日本郵便 運転手への不適切な点呼の横行が発覚した日本郵便が、2022 年以降に点呼の未実施などの内部通報を受けながら事実認定せず、対策を取っていなかったことがわかった。 全国的な問題発覚直後の今年 3 月、一転して内部通報の内容を認めたが、国土交通省の監査を受け、トラックなど運送事業の許可を取り消されることになった。 日本郵便は取材に 3 年前の対応の不備を認め、「もう少し踏み込んだ対応をしていれば、全国的な点呼不備の状況をより早期に把握し、是正策を講じることができた可能性がある」としている。 同社などによると、大阪府内の郵便局について 22 年 4 月、運転手の健康状態などを調べる点呼の実施が不適切だとする社員からの通報が、親会社の日本郵政の外部専門チームに届いた。 通報では違反の具体的な日時や、点呼記録の写しなどが添えられていた。 同チームは 23 年 3 月、違反に該当する事実は認められなかったと通報者に回答した。 この通報者は 23 年 11 月、日本郵便本社の内部通報窓口にも通報。 同社は 24 年 11 月、「事実を裏付ける証拠はなかった」と回答した。 問題発覚後、一転して認める 通報者は同社に不服申し立てを実施。 同社は今年 3 月になって点呼記録の不記載などがあったことを認め、通報者に連絡した。 データや書類の確認、関係社員のヒアリングで確認したという。 直前の今年 1 月、兵庫県の郵便局で数年間に及ぶ点呼未実施が報道で発覚。 日本郵便は全国調査を行って 4 月、対象の 75% の郵便局で点呼が不適切だったと公表した。この間の 24 - 25 年には、点呼未実施での飲酒運転事案などが発生していた。 通報者「認めなかった理由知りたい」 通報者に一転して通報内容を認めたのは、朝日新聞が 3 月、不適切点呼問題を報じ、日本郵便が記者会見で認めた直後になった。 通報者は取材に「報じられて騒ぎになるまで内部通報の内容を認めなかった理由を知りたい」と話す。 この通報者は昨年 1 月、国交省の公益通報窓口や近畿運輸局にも通報したが、同運輸局は調査しなかった。同運輸局は今月の取材に「客観的な証拠物件が不足していると判断した」とした。 日本郵便を含む日本郵政グループは「社員の声は財産」とし、内部通報制度に取り組む姿勢をアピールしてきた。 今回の通報への対応について同社は「昨年 11 月までの調査は範囲を限定したため認定できなかったが、今年 3 月は深掘り調査したため結果に差が出た」としている。 (編集委員・沢伸也、高島曜介、増山祐史、asahi = 6-17-25) ◇ ◇ ◇ 郵便局の車、使用停止処分を検討 「前例のない規模」で物流に影響か 日本郵便は 23 日、点呼の実施状況に関する全国の調査結果を国土交通省に報告し、発表した。 郵便局など集配業務を行う事業者の 75% で点呼の実施が不適切だった。 貨物事業を所管する国交省は今後、処分を検討する。 物流機能に影響は出ないのか。 貨物自動車運送事業法などは、乗務前後の点呼を事業者に義務づけている。 トラックや軽トラックの運転者に対して怠っていた場合、事業所ごとに「車両停止」という行政処分が科されることになる。 停止される車の台数や期間は、違反の内容や事業者の規模を考慮して国交省が決める。 停止日数は違反の重さによって変わる。 「点呼が必要な回数 100 回のうち何回怠っていたか」という計算で、19 回以下の場合は初違反は警告にとどまり、再違反なら 10 日間となる。 20 回以上の場合、初違反なら回数分、再違反なら回数の倍の日数が車両停止となるなど、厳重な処分となる。 「車両停止」処分では、事業所の全ての車が使えなくなるわけではない。 国交省は事業者への通達で、使用停止となる台数の計算方式を定めている。 停止となる日数が長くなれば台数も増える。 事業所の所有台数が多ければ、使えなくなる台数も増える。 例えば停止日数が 60 日間の場合、所有台数が 10 台の小規模事業者なら 1 台が 60 日間使えなくなり、所有が 30 台の大規模事業者なら対象は 3 台になる。 3 台全てが 60 日間使えないわけではなく、60 日を 3 台で分担できる。 配分は国交省が決める。 処分が科されれば、事業者は対象となる車両の車検を国に返還しなければならず、物流機能への影響は避けられない。 一方で、使用停止となる車の数は、事業所が所有する車の「最大半分まで」と通達で決められており、完全に滞ることはないとみられる。 全国の国交省運輸支局は調査結果を精査し、行政処分に該当するとみられる郵便局に今後、特別監査を行う方針だ。 監査の結果、局ごとに車両停止の処分などを科す。 国交省幹部は「前例のない大規模な処分になる可能性が高い」と話す。 (増山祐史、asahi = 4-23-25) 日本郵便のトナミ買収「舞台裏」 創業家には民営化反対の綿貫民輔氏 日本郵便は 16 日午後、物流大手トナミホールディングス (HD) とともに都内で記者会見を開き、同社を買収する経緯や狙いについて説明した。 トナミ HD の創業家には、20 年前の郵政改革で民営化に反対した元衆議院議長の綿貫民輔氏 (97) もいる。 その孫でトナミ HD 執行役員を務める綿貫雄介氏 (33) も会見に臨んだ。 日本郵便はトナミ HD 経営陣と創業家代表の雄介氏の 3 者で新会社「JWT」を設立し、2 月 27 日 - 4 月 10 日に TOB (株式公開買い付け)を実施。 1 株 1 万 0,200 円でトナミ HD 株の 87% を約 807 億円で取得し、トナミ HD は 4 月 17 日 付で日本郵便の連結子会社となる。 残る株式も 6 月までに買いきり、トナミ HD はJWT に吸収させる。 最終的な買収総額は約 926 億円。 トナミ HD の経営陣は続投し、社名は「JP トナミグループ」とする。新会社への出資比率は日本郵便が 750 億円、経営陣でつくる合同会社と雄介氏が 1 千万円ずつを出資。 買収費用の不足分は銀行融資でまかなう。 かつて郵政民営化に反対した創業家を持つトナミ HD と日本郵便の経営幹部が今回の M &A に向けて顔を合わせたのは、8 カ月前の暑い夏のことだった。 積極的な M & A 戦略で事業拡大 「日本郵便と組むのはどうか。」 そんな打診がトナミ HD の経営陣のもとに寄せられたのは、昨年 6 月 7 日のこと。 相手は経営戦略の相談にのっていたみずほ証券の担当者だった。 トナミ HD の役員のひとりは「そんな手があるのかと思わされた」と振り返る。 公表資料などによると、トナミHDの経営陣は一昨年秋から、他社との合併や資本提携、非上場化などの選択肢について検討していた。 人手不足が深刻化し、燃料費も人件費も高騰する環境のなかで、上場していると株主の利益に気を使い、思い切った投資をしにくい。 そんな懸念が出ていた。 富山県高岡市に本社を置くトナミ HD は、1943 年に「砺波運輸」として発足。 関東・中部を中心に長距離輸送を手がけてきた。 84 年から東証一部(現東証プライム)に上場し、2008 年に持ち株会社体制に移行。 M & A や事業再編を積極的に仕掛け、事業を拡大させた。 24 年 3 月期の売り上げは1,420 億円にのぼる。 最初の提案株価は 8,900 円 そんなトナミ HD と日本郵便は昨年 6 月以降、みずほ証券の仲介で事務レベルの話し合いを始めた。 8 月 8 日にはトナミ HD 社長らが東京・大手町の日本郵便本社を訪ね、美並義人副社長 (64) らと面談。 その後、成長戦略や資本政策に関する意見交換を 10 月 3 日まで重ねた。 10 月上旬には、株主と経営陣との一体的な経営体制のもとで、外部の経営資源を活用して事業を改革すべきだと考えるようになり、日本郵便と組むのが最適だと判断したという。 トナミ HD や日本郵便などがそれぞれアドバイザーを選任し、10 月 29 日から週 1 回の定例会議をスタートさせた。 取引の手法や日程を詰め、日本郵便側は 12 月 9 日に正式な意向表明を提案。 トナミ HD が協議に応じる意向を示し、12 月中旬からのデューデリジェンス(適正評価)と並行し、本格的な協議が進められた。 日本郵便側は今年 1 月 31 日時点で 1 株あたり 8,900 円の取得額を提案したが、トナミ側は受け入れず、2 月 10 日に 9,300 円、14 日に 9,700 円と価格はつり上がった。 ようやく 1 万 0,200 円で決着したのは TOB を発表する前日の 2 月 25 日だった。 同日のトナミ HD 株の終値は 5,970 円だった。 4 月 16 日の会見で、日本郵便の千田哲也社長 (64) は M & A の狙いについて「協業でより強い物流インフラを構築し、付加価値を創出できる」とし、幹線輸送の共同化や効率化、人材の相互補完を図ると説明した。 会見に同席した美並副社長は「日本郵便は企業間物流がまだ弱く、強化したい。 (トナミと)パートナーとしてやるのが有意義な結果をうむと判断した。」と語った。 民営化に反対した創業家 トナミ HD の創業者は民輔氏の父で元衆院議員の綿貫佐民氏。 民輔氏も若い頃に社長を務めた。 00 年に衆院議長となり、05 年の郵政改革で民営化に反対して国民新党を結成し、自民党から除名処分を受けたこともある。 民輔氏の長男の勝介氏もトナミ HD 社長を務めたが、在任中の 22 年 12 月に 63 歳で急逝。 後を継いだのが当時専務の高田和夫社長 (69) だ。 高田氏は今回の買収に賛同した理由について、「日本郵便が(トナミの)企業価値の最大化に寄与するベストパートナーだと認識した」と述べた。 一方、民輔氏の孫で中核のトナミ運輸の取締役も務める雄介氏は、大学を出てメガバンクで働いたのち、数年前に入社したという。 雄介氏は会見で、郵政民営化について「個別の見解は申し上げないほうがいい」と語った。 今回の M & A についてはトナミ HD 株を持つ親族間で情報共有し、「みなさん、賛成している。 反対意見はなかった。」としつつ、民輔氏本人の反応については「個別のリアクションは回答を差し控えたい」としている。 (藤田知也、asahi = 4-16-25) |