郵便局の車、使用停止処分を検討 「前例のない規模」で物流に影響か

日本郵便は 23 日、点呼の実施状況に関する全国の調査結果を国土交通省に報告し、発表した。 郵便局など集配業務を行う事業者の 75% で点呼の実施が不適切だった。 貨物事業を所管する国交省は今後、処分を検討する。 物流機能に影響は出ないのか。 貨物自動車運送事業法などは、乗務前後の点呼を事業者に義務づけている。 トラックや軽トラックの運転者に対して怠っていた場合、事業所ごとに「車両停止」という行政処分が科されることになる。 停止される車の台数や期間は、違反の内容や事業者の規模を考慮して国交省が決める。

停止日数は違反の重さによって変わる。 「点呼が必要な回数 100 回のうち何回怠っていたか」という計算で、19 回以下の場合は初違反は警告にとどまり、再違反なら 10 日間となる。 20 回以上の場合、初違反なら回数分、再違反なら回数の倍の日数が車両停止となるなど、厳重な処分となる。 「車両停止」処分では、事業所の全ての車が使えなくなるわけではない。 国交省は事業者への通達で、使用停止となる台数の計算方式を定めている。 停止となる日数が長くなれば台数も増える。 事業所の所有台数が多ければ、使えなくなる台数も増える。

例えば停止日数が 60 日間の場合、所有台数が 10 台の小規模事業者なら 1 台が 60 日間使えなくなり、所有が 30 台の大規模事業者なら対象は 3 台になる。 3 台全てが 60 日間使えないわけではなく、60 日を 3 台で分担できる。 配分は国交省が決める。 処分が科されれば、事業者は対象となる車両の車検を国に返還しなければならず、物流機能への影響は避けられない。 一方で、使用停止となる車の数は、事業所が所有する車の「最大半分まで」と通達で決められており、完全に滞ることはないとみられる。

全国の国交省運輸支局は調査結果を精査し、行政処分に該当するとみられる郵便局に今後、特別監査を行う方針だ。 監査の結果、局ごとに車両停止の処分などを科す。 国交省幹部は「前例のない大規模な処分になる可能性が高い」と話す。 (増山祐史、asahi = 4-23-25)


日本郵便のトナミ買収「舞台裏」 創業家には民営化反対の綿貫民輔氏

日本郵便は 16 日午後、物流大手トナミホールディングス (HD) とともに都内で記者会見を開き、同社を買収する経緯や狙いについて説明した。 トナミ HD の創業家には、20 年前の郵政改革で民営化に反対した元衆議院議長の綿貫民輔氏 (97) もいる。 その孫でトナミ HD 執行役員を務める綿貫雄介氏 (33) も会見に臨んだ。 日本郵便はトナミ HD 経営陣と創業家代表の雄介氏の 3 者で新会社「JWT」を設立し、2 月 27 日 - 4 月 10 日に TOB (株式公開買い付け)を実施。 1 株 1 万 0,200 円でトナミ HD 株の 87% を約 807 億円で取得し、トナミ HD は 4 月 17 日 付で日本郵便の連結子会社となる。

残る株式も 6 月までに買いきり、トナミ HD はJWT に吸収させる。 最終的な買収総額は約 926 億円。 トナミ HD の経営陣は続投し、社名は「JP トナミグループ」とする。新会社への出資比率は日本郵便が 750 億円、経営陣でつくる合同会社と雄介氏が 1 千万円ずつを出資。 買収費用の不足分は銀行融資でまかなう。 かつて郵政民営化に反対した創業家を持つトナミ HD と日本郵便の経営幹部が今回の M &A に向けて顔を合わせたのは、8 カ月前の暑い夏のことだった。

積極的な M & A 戦略で事業拡大

「日本郵便と組むのはどうか。」 そんな打診がトナミ HD の経営陣のもとに寄せられたのは、昨年 6 月 7 日のこと。 相手は経営戦略の相談にのっていたみずほ証券の担当者だった。 トナミ HD の役員のひとりは「そんな手があるのかと思わされた」と振り返る。 公表資料などによると、トナミHDの経営陣は一昨年秋から、他社との合併や資本提携、非上場化などの選択肢について検討していた。 人手不足が深刻化し、燃料費も人件費も高騰する環境のなかで、上場していると株主の利益に気を使い、思い切った投資をしにくい。 そんな懸念が出ていた。

富山県高岡市に本社を置くトナミ HD は、1943 年に「砺波運輸」として発足。 関東・中部を中心に長距離輸送を手がけてきた。 84 年から東証一部(現東証プライム)に上場し、2008 年に持ち株会社体制に移行。 M & A や事業再編を積極的に仕掛け、事業を拡大させた。 24 年 3 月期の売り上げは1,420 億円にのぼる。

最初の提案株価は 8,900 円

そんなトナミ HD と日本郵便は昨年 6 月以降、みずほ証券の仲介で事務レベルの話し合いを始めた。 8 月 8 日にはトナミ HD 社長らが東京・大手町の日本郵便本社を訪ね、美並義人副社長 (64) らと面談。 その後、成長戦略や資本政策に関する意見交換を 10 月 3 日まで重ねた。 10 月上旬には、株主と経営陣との一体的な経営体制のもとで、外部の経営資源を活用して事業を改革すべきだと考えるようになり、日本郵便と組むのが最適だと判断したという。

トナミ HD や日本郵便などがそれぞれアドバイザーを選任し、10 月 29 日から週 1 回の定例会議をスタートさせた。 取引の手法や日程を詰め、日本郵便側は 12 月 9 日に正式な意向表明を提案。 トナミ HD が協議に応じる意向を示し、12 月中旬からのデューデリジェンス(適正評価)と並行し、本格的な協議が進められた。

日本郵便側は今年 1 月 31 日時点で 1 株あたり 8,900 円の取得額を提案したが、トナミ側は受け入れず、2 月 10 日に 9,300 円、14 日に 9,700 円と価格はつり上がった。 ようやく 1 万 0,200 円で決着したのは TOB を発表する前日の 2 月 25 日だった。 同日のトナミ HD 株の終値は 5,970 円だった。

4 月 16 日の会見で、日本郵便の千田哲也社長 (64) は M & A の狙いについて「協業でより強い物流インフラを構築し、付加価値を創出できる」とし、幹線輸送の共同化や効率化、人材の相互補完を図ると説明した。 会見に同席した美並副社長は「日本郵便は企業間物流がまだ弱く、強化したい。  (トナミと)パートナーとしてやるのが有意義な結果をうむと判断した。」と語った。

民営化に反対した創業家

トナミ HD の創業者は民輔氏の父で元衆院議員の綿貫佐民氏。 民輔氏も若い頃に社長を務めた。 00 年に衆院議長となり、05 年の郵政改革で民営化に反対して国民新党を結成し、自民党から除名処分を受けたこともある。 民輔氏の長男の勝介氏もトナミ HD 社長を務めたが、在任中の 22 年 12 月に 63 歳で急逝。 後を継いだのが当時専務の高田和夫社長 (69) だ。 高田氏は今回の買収に賛同した理由について、「日本郵便が(トナミの)企業価値の最大化に寄与するベストパートナーだと認識した」と述べた。

一方、民輔氏の孫で中核のトナミ運輸の取締役も務める雄介氏は、大学を出てメガバンクで働いたのち、数年前に入社したという。 雄介氏は会見で、郵政民営化について「個別の見解は申し上げないほうがいい」と語った。 今回の M & A についてはトナミ HD 株を持つ親族間で情報共有し、「みなさん、賛成している。 反対意見はなかった。」としつつ、民輔氏本人の反応については「個別のリアクションは回答を差し控えたい」としている。 (藤田知也、asahi = 4-16-25)