騒音・CO2 排出・排熱 … データセンターに揺れる街 住民側と摩擦も

生成 AI (人工知能)やクラウドサービスの普及とともに、大量の情報を処理するデータセンター (DC) の建設が各地で相次ぐが、地元と摩擦が起きているケースもある。 現場の動きを追った。

「市役所の倍以上の高さの建物がたつなんて。」

東京都の多摩エリアにある日野市日野台。 閑静な住宅地に「建設を強行するな!」、「建設反対!」と記したのぼり旗がはためく。 住民の北川順子さん (93) は「住宅地のすぐそばに、市役所の倍以上の高さの建物がたつなんてことは許されるのかしら」と憤る。 建設が計画されているのは DC だ。 日野自動車の工場跡地を 2023 年に取得した三井不動産が、用地の西側部分約 11 万 4 千平方メートルに幅 300 メートルにわたってデータセンター 3 棟を建てる。 26 年 11 月に着工、31 年 2 月の完成を予定する。

計画が明らかになると、地元に動揺が広がった。 高さは最高 72 メートル(当初の 80 メートルから変更)に及び、市内ではずば抜けて高い建物になる。 さらには、稼働に伴う電力消費量や二酸化炭素 (CO2) 排出量、サーバーの冷却で出る排熱量の大きさも住民の警戒を呼ぶ。 市は 50 年までに CO2 の実質排出ゼロを目指しているが、DC の稼働で実現が難しくなる可能性が指摘されている。 三井不動産はこれまでに住民への説明会を 7 回開いた。 電力消費量など具体的なデータの開示を求められたが、着工直前の 26 年まで確定しないとして公表しないままだ。

日野市は住民の要請に応じ、市まちづくり条例に基づき双方の意見を調整する会合を 5 月に開いたが、完全に合意に達した項目はない。 9 月には合意形成への建設的な協議を求める指導書を市が三井不動産に送ったのに対し、同社は「現段階の回答は差し控えさせていただく」としている。 地元住民らでつくる「巨大データセンターから住民の暮らしと環境を守る市民の会」共同代表の山崎康夫さん (68) は「絶対に反対というわけでもない。 データを公開してもらって問題ないと納得できるような道筋をつけてほしい。」と望む。

日野市の隣にある東京都昭島市でも、JR 昭島駅北側から玉川上水までの一帯にあるゴルフ場跡地約 52 万 5 千平方メートルに DC の建設計画が進む。 物流不動産開発大手「日本 GLP」が、想定される消費電力量で日本最大級となる DC 8 棟(高さ約 35 メートル)と大型物流センター 3 棟(高さ約 40 - 55 メートル)を建てる予定だ。

消費電力量で日本最大級の建設計画も

22 年 2 月に計画が公表されると、同年 5 月に住民らは計画の見直しを求める「昭島巨大物流センターを考える会」を設立。 DC の年間の電力消費量が市全体の 6 倍、CO2 排出量は 4 倍、排熱量は 3.5 倍にのぼるとの試算を専門家に示してもらった。 メンバーの浅田健志さん (55) は「DC の CO2 排出は、市が 30 年度までの削減目標を掲げる地球温暖化対策実行計画を根底から覆し、市民の削減努力を無にするものだ」と指摘する。 敷地内に生息するホタルやオオタカなどをはじめとした生態系にも悪影響を及ぼしかねないとして、日本 GLP や昭島市、市議会に計画の中止や縮小を呼びかけた。

だが、同社は 25 年 7 月初めに着工に踏み切った。 29 年完成を目指して工事が進められている。 同会のメンバーは DC 完成後を見据えて調査チームをつくり、周辺環境の変化を調べるための気温測定を始めた。 50 カ所余りの地点で記録している。 「何となく暑くなった気がするという主観では根拠として乏しい。 将来的に、市民の側が科学的に確かなデータを持つことが重要だと考えた。」と事務局の菊田祐子さんは説明する。 近所の中学 1 年の田嶋一樹さん (13) は夏休みの課題研究の一環で測定に参加した。 「計画を知り、地域のために自分たちで行動することも大切だと思った」と振り返る。

市民の側で科学的なデータ把握めざす

DC 建設に反発する住民が広く連携する動きもある。 東京、千葉、埼玉の 3 都県 8 地域の住民や有識者らが 9 月、「都市型データセンターあり方検討会」を設立。 定期的に会合を開いて問題意識を共有する。 業界団体や行政などへの聞き取りを通じて、様々な問題を未然に防ぐための共同提言を来春をめどにまとめる予定だ。 座長に就いた寺西俊一・一橋大学名誉教授(環境経済学)は「住民の生活や環境を守るため、法規制を含めて検討し要望したい」と語る。

大量の情報を処理する DC の需要は右肩上がりだ。 総務省の情報通信白書によると、国内の市場規模は 2023 年の 2 兆 7,361 億円から、28 年には 5 兆 0,812 億円に達すると見込まれている。 データの通信距離が長くなるほど遅延が大きいことや、トラブルが生じた際の利便性などから、巨大な DC は都市部周辺に建設されるケースが多い。

国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「この数年間でAIの技術が進化し、新たなDCには電力消費が多いGPU(画像処理装置)を使ったサーバーを多数置くようになった。消費電力が大きければ、その分排熱も出るが、日本にはその規制がない。自治体から基準を示すべきだ」と指摘する。

右肩上がりの DC 需要

住民に身近な DC をめぐり具体的な対策を始めた自治体もある。 東京都江東区は 4 月から、大規模な DC の建設に特化した対応方針の運用を始めた。 事業者に対し、空調の室外機の位置の明示や、建築計画に関する標識のより早い時期での設置を求める。 さらに、排熱や騒音、CO2 の排出などの説明を要求する指導要綱を 12 月中に定め、対策を強化する。 区建築調整課の藤原慶課長は「住民に聞き取りをすると、騒音や排熱などを心配する声があった。 住民の不安に寄り添いたい。」と話す。

「新たな誘致は原則行わない」

米グーグルや NTT データなど多くの DC を積極誘致し、「DC 銀座」とも呼ばれる千葉県印西市は 8 月、市内の鉄道 3 駅周辺では新設を制限する方針を打ち出した。 駅前の一等地に DC の建設計画が持ち上がり、まちづくりの方針を転換した形だ。 市都市計画課の担当者は「今の法規制にない影響を懸念する住民の声が大きく、駅前や住宅地に隣接しないところに立地してもらいたいということになった」と語る。 京都府南部にある精華町は緑豊かな丘陵部に企業の研究施設が集まる。 適地となる強固な地盤にあり、大規模 DC の建設が相次ぐ。 だが、昨年 9 月に「今後、新たな誘致は原則行わない」と宣言した。

町企画調整課の担当者は「DC はただのハコモノで、雇用をあまり生まず、人との交流も図られにくい。 税収の寄与度は高いが、まちづくりの観点から景観上の問題もあり、何でもかんでも引き受けるのはやめて、個別に対応することにした。」と話す。 その背景に、DC が非常用発電を稼働させた際、当初は想定していなかった騒音やにおいが出る環境問題が生じ、住民から不安の声が寄せられたこともあるという。

国は 29 年以降に新設される DC を対象に、省エネルギーの義務を課す制度を導入する方向で検討している。 資源エネルギー庁の担当者は「相次ぐ DC 立地にあたり、今後の電力に支障が出ないよう供給確保を進めるため」と説明する。 事業者も省エネに動いている。 ソフトバンクは北海道苫小牧市で 26 年度に完成する DC の全電力を、太陽光発電や水力発電などの再生エネ由来の「グリーンエネルギー」でまかなう予定だ。 広報担当者は「東京と大阪に DC が集中する現在のあり方を見直し、電力の地産地消を進めるための一環」と話す。

省エネへ、国も企業も

27 年秋に稼働予定の DC の東京都多摩市での建設を進める KDDI は、サーバーなどの冷却に空調ではなく水などで冷やす「水冷方式」に対応した設備を導入し、電力使用効率を高めるという。 業界団体の日本データセンター協会は今年度中に事業者対象のガイドラインを策定する方針だ。 住民への説明責任や地元との合意形成の重要性などを盛り込む予定だという。 事務局担当者は「そもそも DC が担う役割の説明も十分に行き渡っていないように思う。 理解を得られるような取り組みをしたい。」と話す。

「ルールづくりが必要」

東北大学の明日香壽川(じゅせん)特任教授(環境政策)は「欧米ではすでに多くの DC が建設され、世界中で問題になっている。 地元住民の反対運動が起きている理由も地域によって異なるが、景観や騒音、CO2 の排出、水不足、排熱などが主な共通点だ。 誘致したアイルランドや米バージニア州はそのツケを払っている。 日本ではまだどういったものかという理解が行き渡っておらず、固定資産税が入ったり、雇用が増えたりといった可能性への淡い期待もあり、『とりあえず必要だからいいのではないか』という住民が多いとみられる」と指摘する。

その上で「今のままでは、メガソーラーと同じで、外資の企業が知らない間に作って、利益はすべて持って行ってしまうという同じようなパターンが繰り返される恐れがある。 各自治体が掲げるカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)の達成も破壊的な状況になり、原発が必要だという理論にも使われかねない。 たとえば、電力は再生エネルギーなどの省エネ型に限るなどといったルールづくりが必要だ。」と提案している。 (上田学、asahi = 12-11-25)


再商品化率は 9 割超え … リサイクル工場に並ぶ廃家電は「都市鉱山」

不要になった家電製品を解体・分別し、新たな資源にリサイクルする工場が三重県四日市市にある。 この 20 年で処理台数累計 1 千万台を達成し、再商品化率は 9 割を超える。 工場に出資したのは、明治期に鉱山業をおこした岩崎弥太郎を創業者にもつ三菱マテリアル(東京)。 なぜリサイクルなのか。 目を付けたのは廃家電から金属などを取り出す「都市鉱山」という。 四日市コンビナートの川尻地区。 「中部エコテクノロジー(藤澤龍太郎社長)」の工場の敷地の周囲に、専用コンテナに入った冷蔵庫やエアコンが整然と並ぶ。

三菱マテリアルやパナソニック(大阪)などが出資し、県内唯一の特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)に基づく再商品化拠点である中部エコテクノロジーの工場。 薄型テレビ、冷蔵庫、洗濯機や乾燥機、エアコンの家電 4 品目を扱う。 昨年度 1 年間で処理した数は、合計約 55 万台。 県内や愛知県、岐阜県(高山地域を除く)のほか、奈良、静岡、和歌山各県の一部から集められる。

三菱マテリアルがなぜ注力?

解体・分別の作業は、「基本的には手作業(藤澤社長)」。 コンプレッサーや基板、モーター、電源コードなどを解体前の処理も人の手で進める。 冷蔵庫の前処理で気を遣うのは、地球のオゾン層に影響がある「フロンガス」の回収だ。 冷媒のほか、発泡断熱材にフロンガスが使われている冷蔵庫もある。 この断熱材フロンの回収もしている。 エアコンの室外機も、まずフロンガスを回収する作業から。 手作業で解体した基板やコンプレッサー、モーターなどの有価物をピックアップするロボットや室内機の前処理用のプレス切断装置は、省力化をめざし三菱マテリアルが開発し、工場に設置されている。

全自動洗濯機は、洗濯槽の上部に入っているバランサーの塩水を抜く作業が必要だ。ドラム式の前処理も、ガラス扉の取り外しなど、1台ずつ手作業で進められ、全自動洗濯機の何倍も手間がかかる。 薄型テレビは、背面を開け、ネジを外して基板を外す。自動でネジを外す装置も開発されている。 前処理が済むと、廃家電の本体は破砕機で細かく砕いた後、磁力選別機で鉄、風力選別機でウレタン、非鉄選別機で銅やアルミの非鉄金属と樹脂を分け、その後、樹脂は浮沈選別機で更に分別される。

鉄、銅、アルミニウムなどの金属やポリプロピレン (PP)、ポリスチレン (PS) などの樹脂の有価物を取り出した再商品化率は 90%、廃樹脂の固形燃料化を含む再資源化率は 98% にのぼる。 ごみ埋め立て処分量に換算すると、年間約 2.5 万トンの削減に貢献。 四日市市民の約 30 万人が排出するごみ埋め立て量の約 3.5 年分にあたる環境への効果があるという。

リサイクル技術も家電製品の変化に応じて

中部エコテクノロジーが操業を始めたのは 2005 年 4 月。 家電 4 品目の構造は、この間に変化してきた。 当初テレビはブラウン管テレビのみだったが、近年は薄型テレビがほとんどだ。 洗濯機もドラム式が登場してきたし、冷蔵庫もノンフロン冷蔵庫が出ている。 「リサイクルの技術も家電製品の変化に応じて常に新たな対応が求められている。 一方、人口減に伴い、廃家電も減少していくと予想されており、廃家電で培ったノウハウを生かして、ほかのリサイクルにも挑戦したい」と藤澤社長は話す。

銅鉱石から銅を製錬する鉱山開発を創業の原点にもつ三菱マテリアルは、なぜ家電リサイクルに力をいれるのか。 同社広報担当者は、「家電には貴重な金属も使われていて、まさに『都市鉱山』。 鉱石から金属を作り出すだけではなく、リサイクルによって資源を再利用することが重要と考えている」と話す。 同社の家電リサイクル事業は、全国 6 社 7 工場に展開しているという。 (鈴木裕、asahi = 12-7-25)


家庭ごみからプラスチック原料 JFE グループが小型炉の実験運転

JFE エンジニアリングは、家庭ごみなどの廃棄物をガス化する小型炉の実証設備を JFE スチール東日本製鉄所(千葉市)の敷地内に建設し、今月から実証運転をはじめた。 JFE エンジが世界で唯一保有する技術といい、製造した合成ガスはプラスチックや SAF (持続可能な航空燃料)の原料になる。 小型炉では、家庭から出るごみや産業廃棄物などに酸素を吹き込み、廃棄物自身の熱で反応を進ませ、水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスを製造する。

ケミカルリサイクルで CO2 排出を抑制

この技術は、回収したペットボトルを物理的に加工して再び原料にする「マテリアルリサイクル」とは違い、廃棄物を化学的に分解し、分子レベルで原料の状態に戻す「ケミカルリサイクル」とよばれる手法の一つ。 燃やして熱エネルギーにする「サーマルリサイクル」に比べると、エネルギー消費や二酸化炭素 (CO2) の排出量を大幅に抑えられる利点がある。

CO2今回の実証運転では、安定して合成ガスを製造し、経済的に自立可能なケミカルリサイクル技術の確立をめざす。 JFE エンジの鮎川将取締役は「廃棄物の概念を再定義することで、製造業界のグリーンイノベーションを新たなステージへ押し上げる技術になると確信している」と話す。

千葉市から廃棄物受け入れ

実証運転では 2026 年 6 月まで。 廃棄物は千葉市を中心に受け入れる。 1 日に処理できる廃棄物の量は 20 トン。 29 年度には 1 日 150 トンを処理する大規模実証を予定している。 国内では、自治体の焼却場の老朽化や最終処分場の行き詰まりが課題となる一方、リサイクル需要は高まりつつある。 JFE エンジは化学メーカーとの協議も進めており、30 年度中の社会実装をめざしている。 (中野渉、asahi = 12-6-25)


ワシントン条約、ウナギ取引規制案否決 いま日本の漁業に必要なのは

ワシントン条約締約国会議でニホンウナギなどの取引を規制する付属書掲載の提案が 4 日、正式に否決された。 同条約による規制は免れた形だが、ウナギをめぐる現状や日本の水産資源管理には課題が多いと識者は指摘する。 水産庁によると、国内で供給されたウナギのうち、約 7 割は輸入で、うち 9 割以上を中国が占める。 日本政府はニホンウナギの資源管理は徹底され、量も十分確保されているとして、規制案に反対してきた。

「禁輸」なのになぜか日本市場に欧州のウナギ

しかし、ウナギをめぐっては、長年不透明な取引や、資源管理の不十分さが指摘されている。 養殖に使われるシラスウナギは、実際の採捕量と、報告されている採捕量に差があり、出どころがわからないものがかなりの割合に上る事態が続いてきた。 輸入についても、シラスウナギ漁が行われていない香港からも多くのシラスウナギが輸入されており、出どころが不透明な取引の恐れが指摘されている。 実質的に「禁輸」となっているヨーロッパウナギも日本市場に出回っていることもわかっている。

元水産庁次長の宮原正典氏(現・よろず水産相談室代表)は「水産庁を中心に、国が主体となって資源管理をしなければいけない」と話す。 日本、中国、台湾、韓国の養鰻(ようまん)管理団体が資源管理について協議する枠組みはあるが、実効性が乏しいという。 特に、ほとんどの輸入を頼る中国との政府レベルでの話し合いが重要とする。

主な脅威に漁獲 日本を名指し

そもそも、水産庁はニホンウナギについて「絶滅の恐れはない」などと再三説明しているが、絶滅危惧種だ。  日本近海にすむニホンウナギは国際自然保護連合 (IUCN) で 2 番目にリスクが高い「危機 (EN)」になっている。 IUCN は生息地の劣化などの悪影響も指摘しつつ、主な脅威として特にシラスウナギの漁獲を挙げ「日本で好んで消費される種であることもあり、持続可能でない漁獲の脅威が続いている」と名指ししている。 日本でも、国のレッドリストで上から 2 番目で「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」とされる絶滅危惧IB 類に選定されている。

「クロコ」と呼ばれる少し成長した個体を含んでいたとはいえ、1960 年ごろはシラスウナギの採捕量は年 200 トンを超えていた。 それがここ 30 年ほどはずっと 30 トンを下回っている。

いまの漁業は「自分の足食うような状況」

そうした中、「やや良好」な漁期は採捕量が増える。 宮原さんはこうした動きに対し、「ウナギの生き残る量を確認しながら採捕をしなければいけない。 今年良かったから『ウナギはいるんだ、とっていい』といったいい加減なことをしてはいけない」と苦言を呈す。 ウナギに限った話ではない。 水産資源をめぐっては今年、漁獲可能量 (TAC) を超えたとして、スルメイカの小型船による漁の停止を水産庁が命じた。 しかし、スルメイカは南から北に回遊するため、特に操業する前に禁漁になった北の漁業者を中心に不満が高まり、漁期中の増枠などが図られた。

宮原さんは、スルメイカは日本国内での割り当てという制度上の問題だとしたうえで、結果として価値が低い、小さな個体を多くとることになることは資源管理上も、漁業者全体の経済的な安定の面でも問題だとする。

「今こそやらなければ」

国内でもこれまで、「とりすぎ」対策が進んでこなかったわけではない。 2018 年の漁業法改正では、漁獲可能量の設定など、資源を守ろうとする内容が入った。 しかし、資源の状況が気候変動などの影響もあって想定よりさらに悪化したことや、反発する漁業者もおり、仕組みが十分に効力を発揮できていない。 毎年のように不漁が伝えられ、業界は先細りを続けている。 「資源管理の取り組みは今こそやらなければいけない。 水産業にとっても、自分の足を食うような状況を脱しなければ」と宮原さんは訴える。 (杉浦奈実、asahi = 12-5-25)


脱化石燃料、「合意」の次の一歩踏み出せず 背景に各国の準備不足も

COP30 の焦点の一つだった「化石燃料からの脱却」では、2 年前の COP28 で合意しながらも、次の一歩は出ないまま終わった。 成果文書からは脱化石燃料に関する表現は省かれ、80 カ国以上が支持した工程表をつくる動きも実らなかった。

COP30 が閉幕、脱化石燃料の工程表策定は合意できず 決裂避ける

脱化石燃料の工程表は、正式な議題ではなかったものの COP28 で合意した「脱却」を具体化して「実行」に移すための手段として出た案だった。 英国やドイツ、フランス、コロンビアなど 80 カ国以上が支持し、その後の拡大によっては、成果文書に入ることが期待された。 英国などが想定した工程表は、脱化石燃料に向けた課題や好事例の共有、資金などを含めた検討を進めようとするものだ。 英国のミリバンド・エネルギー安全保障・ネットゼロ担当相は「化石燃料の生産国と消費国の双方が克服すべき課題を理解し、連携して脱却を進めるために工程表が極めて重要になる」と説明していた。

しかし、約 200 カ国・地域が参加する中で支持は半数にも満たず、成果文書に入るほどの広がりにはならなかった。 交渉では欧州連合 (EU) やコロンビアなどが脱化石燃料に関する表現を強めることを求めたが、産油国などは脱化石燃料に関する表現を入れることに強く反対した。

脱化石燃料の道筋、国内で具体化進まず

日本も工程表策定の声明を支持しなかった。理由は、天然ガスや石炭に水素やアンモニアを混焼して温室効果ガス排出量を減らす技術などを使い、火力を全廃するわけではないためだという。 50 年に温室効果ガス排出実質ゼロを掲げながらも、石炭火力廃止の目標年限は明確ではない。 エネルギー基本計画では 40 年度時点で火力発電を 3 - 4 割残す。 同様に、脱化石燃料の道筋を具体化できていない国は少なくない。 国内での脱化石燃料の計画などの支えがあれば、工程表への支持はさらに広がった可能性があった。

ただ、「脱却」というゴールには、COP28 ですでに世界が合意している。 工程表は成果文書に入らなかったものの、議長国ブラジルが作成するとしている。 次もその先の COP でも論点になる可能性がある。 ドイツのジェニファー・モーガン元気候変動特使は「必要とされる水準には程遠いものの、意味ある進展だ」としている。 (ベレン・市野塊、asahi = 11-23-25)

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脱化石燃料の加速へ機運上昇 82 カ国が工程表策定支持、日本はまだ

温室効果ガス排出の最大の要因である化石燃料から脱却しようという機運が、国連気候変動会議 (COP30) で高まっている。 2 年前に合意したものの、足踏みしていた動きを加速させようと 18 日、82 カ国が「脱化石燃料」の工程表作成を求める声明を出した。

「COP30 は、COP28 の成果をベースにして『化石燃料からの脱却』を前進させるチャンスだ。」

英国のミリバンド・エネルギー安全保障・ネットゼロ担当相は 18 日、工程表の策定を求める声明を支持した国の閣僚らと開いた記者会見でこう呼びかけた。 英国のほか、ドイツ、フランスといった欧州諸国や、コロンビア、モンゴル、ケニアなどが声明を支持した。 2023 年の COP28 では、30 年までに対策を加速して「化石燃料から脱却する」ことで合意。 化石燃料全体を減らす合意は初めてだった。 昨年の COP29 でさらなる前進が期待されたが、前年の合意の確認にとどまった。 今回の声明には、足踏みしていた動きを加速させる狙いがある。

国際共同研究団体「グローバル・カーボン・プロジェクト」によると、今年の化石燃料由来の二酸化炭素 (CO2) 排出量は、過去最高の 381 億トンになる見通し。 大気中の CO2 濃度は、産業革命前の水準より 52% 高くなる見込みだ。 「パリ協定」で目標としている、産業革命前からの世界の平均気温上昇を 1.5 度に抑えるには、あと 1,700 億トンしか排出できないという。

支持拡大どこまで? 現実には依存も

ただ、COP での合意には全会一致が必要だ。 支持を広げられるかどうかには不透明さが残る。 いまも先進国は化石燃料の探査を続け、途上国は雇用や財政面で化石燃料に大きく依存している。 日本も現時点では声明を支持していない。 石原宏高環境相は 18 日、COP30 の会場で報道陣の取材に「非効率な石炭火力はフェードアウトを進めるが、水素やアンモニアの混焼など『脱炭素の火力』に置き換える取り組みを推進する」と説明した。 声明は、混乱なく、別のエネルギーに移行する方法が必要だと指摘。 COP28 の合意をもとに、移行方法を各国間で検討することをめざしている。 (ベレン・福地慶太郎、asahi = 11-19-25)

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中国、CO2 ピークアウト・カーボンニュートラルに関する白書発表

【北京】 中国国務院新聞(報道)弁公室は 8 日、「二酸化炭素 (CO2) 排出量のピークアウトとカーボンニュートラルに向けた中国の行動」白書を発表し、中国がエネルギーのグリーン(環境配慮型)化・低炭素化転換で果たした成果を示した。 白書は、中国が基本的な国情と発展の段階に基づき、エネルギー安全保障を前提に再生可能エネルギーによる代替を力強く実施したと指摘。 新型エネルギーシステムと新型電力システムの建設を推進し、CO2 排出量の削減と実質ゼロを目指す「双炭(ダブルカーボン)」目標の実現を強力に支えたとした。

白書によると、中国は世界で規模が最大かつ進展速度が最速の新エネルギー発展を実現し、非化石エネルギー消費の割合を 20 年の 16.0% から 24 年の 19.8% に引き上げた。 風力発電と太陽光発電の設備容量(発電能力)は 25 年 8 月末に 16 億 9 千万キロワットを超えて 20 年の 3 倍以上となり、20 年以降に新設された電力設備容量の約 8 割を占めた。

化石エネルギーについては、クリーン化と高効率化の水準を持続的に高めたと指摘。 化石エネルギーの消費を合理的に抑制したほか、石炭のクリーンで高効率な利用と使用量の削減、他エネルギーへの代替を強力に進め、石油・天然ガスの開発・利用のグリーン化を持続的に推進したとした。 (中国・新華社 = 11-9-25)


IEA、世界の再エネは 35 年に 2.8 倍も パリ協定目標達成難しく

国際エネルギー機関 (IEA) は 12 日、世界の再生可能エネルギーの発電容量が 2035 年に 24 年比で最大 2.8 倍に増えるとの見通しを示した。 ただ、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前から 1.5 度に抑えるパリ協定の目標達成には不十分で、二酸化炭素 (CO2) 排出の急速な削減や大気中からの CO2 除去が必要だとしている。

IEA が各国の政策動向をもとにまとめた「世界エネルギー見通し」によると、世界の電力需要は 35 年にかけて約 40% 伸び、電源構成では太陽光発電を中心とした再エネが現在の 3 割強から最大で 55% に拡大する。 世界最大の再エネ市場を抱える中国が今後 10 年も世界の 45 - 60% の市場シェアを占めて成長を先導するという。 一方、気候変動対策に後ろ向きなトランプ米政権の誕生で、米国における 35 年時点の再エネ発電容量は、1 年前の前回見通しと比べて 30% 少なくなると予想。 35 年に世界の再エネ発電容量が 2.8 倍になったとしても、IEA が描く「1.5 度」目標が達成可能なシナリオの目標値の 7 割にとどまる。

IEA は各国が現時点で打ち出している政策を実行した場合でも、2100 年に世界の平均気温は産業革命前より 2.5 度上昇するとの見通しを示し、目標達成には「即時かつ急速な(CO2 の)排出量の削減と、今後数十年間、大気中から CO2 を大規模に除去する戦略を組み合わせる必要がある」とした。 報告書では世界での原子力エネルギーの復活も指摘し、小型モジュール炉を含む原発への投資の増加で、世界の原発の発電容量は 35 年までに少なくとも現在に比べ 3 分の 1 ほど増えるとした。

また、世界情勢が不安定さを増す中、エネルギー安全保障が各国政府にとって最優先課題になっていると強調。 バッテリーや半導体などに使われるエネルギー関連の重要鉱物20種のうち 19 種の精製工程は中国に集中し、市場シェアは平均で約 70% になるという。 IEA はこうした鉱物の半数以上が輸出規制の対象となっているとし、「重要鉱物の供給網をより多様化・強靱化させるには、協調的な政策努力が必要だ」と指摘した。 (ベルリン・寺西和男、asahi = 11-12-25)


大気汚染対策に「人工雨」 インド政府と名門大、実験の結果は …

インドの首都ニューデリーの深刻な大気汚染を解消しようと、インド政府が名門インド工科大学 (IIT) と手を組み、「人工雨」を降らせる実験に先月着手した。 大気中の汚染物質を薄めることが期待されたが、ほとんど雨は降らず、実験は失敗に終わった。 地元紙が報じた。 現地紙タイムズ・オブ・インディアなどによると、人工雨はヨウ化銀や塩化ナトリウムなどの混合物を飛行機から大気中に散布し、混合物の周囲に水滴を集めるしくみ。 水滴が十分な重さになると雨が降るという。

10 月 28 日の実験では、飛行機 2 機を使い、デリー上空から混合物を散布したが、目立った降雨は見られなかった。 大気中に十分な水分量がなかったことが原因とみられている。 ニューデリーの大気汚染は、野焼きや自動車の排ガス、10 月下旬のヒンドゥー教の新年を祝う爆竹の煙などが原因とされ、毎年この時期に悪化している。 世界保健機関 (WHO) は、有害な微小粒子状物質 PM2.5 の濃度が、24 時間平均で 15 マイクログラムを超えないよう定めているが、首都の一部地域では 7 日、その 10 倍以上に。 目や鼻、呼吸器の不調を訴える人も多い。

インド政府は 3 月、大気汚染対策に 30 億ルピー(約 52 億円)を投じると発表。 人工雨の実験には約 3 千万ルピー(約 5,200 万円)が使われた。 21 年には、フィルターを搭載して空気を浄化する高さ約 24 メートルの「スモッグタワー」を市内に 2 基設置。 巨大な空気清浄機として機能するはずだったが、当局担当者は 7 日、「いずれも壊れて動いていない」と話した。 大気汚染の影響はインドが誇る映画産業にも及んでいる。 地元紙デリータイムズは 7 日、デリーで予定されていた複数の映画の撮影が、大気汚染による煙霧のため来年に延期になったと報じた。 (ニューデリー・鈴木暁子、asahi = 11-8-25)