東宝が最速の 1 千億円超え 年間興行収入、鬼滅の刃や国宝が牽引役

東宝は 9 日、今年 1 - 8 月に国内で配給した作品の興行収入が 1,129 億円となり、年間ベースで過去最高となったと発表した。 アニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」や実写の「国宝」が記録的なヒットとなったことが押し上げた。 東宝によると、8 カ月で興行収入が 1 千億円を超えたのは最速記録になる。 作品別では多い順に、「鬼滅の刃(7 月公開)」が 299. 8億円、「名探偵コナン 隻眼の残像(4 月公開)」が 146.6 億円、「国宝(6 月公開)」が 124.9 億円となっている。

業界では、興行収入 20 億円がおおよそのヒットの目安となっている。 今年 1 - 8 月は東宝の配給作品では、13 作品がこの基準を超えた。 現在も公開中の作品もあり、今後さらに伸びる見通しだ。 近年は大型のアニメ作品が興行収入をリードする傾向があったが、今年は実写の人気もめだつ。 特に「国宝」は邦画の実写としては 22 年ぶりに興行収入 100 億円を超えた。東宝関係者は「『国宝』のヒットが大きい。 『鬼滅の刃』がヒットすることは当初から織り込んでいたが、ここまで『国宝』がヒットするとは想定していなかった。」と話す。 (岩沢志気、asahi = 9-9-25)

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「鬼滅の刃」新作映画が史上最速で興収 100 億円
 公開 8 日間で突破

人気漫画が原作のアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃(やいば)』無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来」の興行収入が、25 日に 100 億円を突破した。 配給するアニプレックスが 28 日発表した。 公開した 18 日から 8 日間で興収 100 億円を超えたのは、日本の上映作品で史上最速という。 これまでの最速記録は、2020 年に公開された前作「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の 10 日間だった。

興行通信社によると、日本で興収 100 億円を突破したのはこれで 49 作品になった。 半数以上にあたる 28 作品は洋画だが、コロナ下の 20 年の「鬼滅」前作が歴代最高の 404.3 億円を記録して以降、人気漫画が原作の邦画アニメが躍進。 「劇場版 呪術廻戦 0」(21 年、138.0 億円)や「ONE PIECE FILM RED」(22 年、203.4 億円)、「THE FIRST SLAM DUNK」(22 年、164.8 億円)、「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」(23 年、138.8 億円)、「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」(24 年、116.4 億円)などが次々と 100 億円超えを記録しているという。 (平岡春人、asahi = 7-28-25)


ファッション甲子園 2025 優勝は青森県立弘前実業高校

第 24 回全国高等学校ファッションデザイン選手権大会「ファッション甲子園 2025」の最終審査会が 8 月 31 日、青森・弘前で開かれた。 優勝したのは、青森県立弘前実業高校。 引率教員の投票によるキラリ賞も受賞した。

ファッション甲子園はアパレル産業の発展と人材育成を目的に、全国の高校生を対象に行われるファッションコンテスト。 弘前商工会議所や青森県、弘前市による実行委員会が主催する。 今年は応募総数 1,908 点の中から、22 都道府県、31校、34 チームが最終審査に挑み、7 チームが受賞した。

優勝した弘前実業高校は、「木魂」をテーマに、青森の伝統工芸のブナコとねぷたの技法を生かした木のドレスを作った。 ステージが暗転すると、和紙が貼られたスカートがランプのように光をともし、会場に歓声が上がった。

準優勝の福知山淑徳高校(京都)の「Been comeshed (ビーンコメッシュド)」は、キラリ賞と特別賞「エルガール賞」の 3 冠。 ミツバチをあしらったニットドレスで優しいファンタジーを形にした。 3 位の兵庫県立兵庫工業高校の「とつきとおか」は、胎児を包み込む母の愛情を柔らかな原毛で表現。 ゲスト審査員の中島輝道賞も受賞した。 特別協力の海外ファッションブランド協会や審査員による賞も贈られた。

受賞作品は 9 月 17 - 23 日に、三越日本橋本店・本館 1 階中央ホールで展示される。 (繊研新聞 = 9-3-25)


話題の "ドーパミン ドレッシング" とは?
 ファッションは「どう見られるか」より「着てどう感じるか」の時代へ

パンデミックを経て生まれた "ドーパミン ドレッシング"。 カラフルな色や遊び心あるデザインで気分を高めるそのスタイルは、いまや素材やシルエットにまで広がり、心を整える装いへと進化している。 2025 年のランウェイは、高揚と静けさ、二つの感情を織り込みながら、新しい時代の装いを描き出している。 いま、知っておきたい - - "ドーパミン" の真意に迫る。

色が気分を変える - パンデミックが生んだ "幸福を纏う" 習慣

「ドーパミン ドレッシング」という言葉が SNS で広く注目を集め始めたのは、2020 年代前半。 原色のハッピーカラーやプレイフルなテキスタイルが、鬱屈とした社会の空気を切り裂くように鮮やかに登場した。 カラフルな色や遊び心あるデザインを身にまとうことで、脳内の「幸福ホルモン」ドーパミンが分泌され、気分が上向く - そんな心理的効果を期待するムーブメントだ。 背景には、コロナ禍による外出制限や閉塞感、そして高まるストレスがある。 リモートワークや自宅生活のなかでも、服装で日々の喜びを見出そうとする動きと共振し、この潮流は瞬く間に広がっていった。

(画像は左右にスライドしてください。)

やがてファッション業界もその空気を取り込み、ランウェイや広告キャンペーンは鮮やかな色彩であふれ出す。 ビビッドなピンクやフレッシュなグリーン、エネルギーを帯びたオレンジが「ポストコロナの着こなし」として受け入れられ、レッドカーペットでも派手色のドレスやスーツが主役に躍り出た。 それは単なる色彩トレンドではなく、自己解放やポジティブさの象徴として機能したのだ。 だが、ドーパミンドレッシングは "色" だけで語りきれるものではない。

2020 年代半ば、クワイエット・ラグジュアリーの台頭を経た 2025 年のファッションは、"もっと静かに感情と向き合う" 方向へも歩み始めている。 2025 - 26 年秋冬のランウェイを覗けば、ミュウミュウはシンプルなルックにビビッドな差し色を効かせ、サンローランは色彩とダイナミックなシルエットを融合。 艶やかなサテンや透け感のあるシースルーなど、素材の質感を前面に押し出した。 一方、ザ・ロウ、プラダ、ジル サンダー、ディオール、ジバンシィといったブランドは、抑えた色調のなかに緊張感と静けさを同居させた。

いまや「ドーパミン ファッション」には二つの側面がある。 派手色やアシッドカラー、異素材ミックスで感情を爆発的に高める「ドーパミン チャージ」と、ベージュやグレー、ネイビーといった穏やかな色で心を整える「ドーパミン ファスティング」だ。 そしてこの二つは色彩だけでなく、素材・シルエット・ディテール・着こなしの文脈にも広がっている。

装いが描くのは、感情の振れ幅

「ドーパミン チャージ」では、スパンコールやラメ、メタリック、フェザーなど光や動きで感覚を刺激する素材、大胆なオーバーサイズや構築的シルエット、遊び心ある刺繍やアップリケが典型例。 祝祭や旅を想起させるストーリー性のある服も、感情を押し上げる。 一方「ドーパミン ファスティング」は、カシミヤや極細ウール、シルクなど触れるだけで安心感をもたらす素材、装飾を削ぎ落とした直線的なラインや身体に沿うフォルム、視覚的ノイズを減らした静かなディテールが基調となる。 動きやすく制約のないデザインや、余白を感じさせるレイヤードもその静けさを際立たせる。

カラフルもニュートラルも、ファッション史の中で繰り返し現れてきた。 しかし今の時代が異なるのは、"心理的ウェルビーイング" を軸に服を選ぶ価値観が根づきつつある点だ。 これは Z 世代のライフスタイルやメンタルヘルス意識とも密接に結びつく。 SNS 断ちやマインドフルネス、セルフケアといった習慣が広がるなか、ファッションは「気分の調整装置」として再定義されつつある。 感情や気分に合わせて服を選ぶだけでなく、服によって感情や気分を能動的に生み出す。 COVID 以降、「弱さ」と向き合うことは恥ではなく、健やかに生きるための大切な行為として受け止められている。 ニューロ ダイバーシティへの配慮を示すブランドも増えている。

ニューロ ダイバーシティとは?

いまの潮流の中心にあるのは、「着てどう見られるか」ではなく「着てどう感じるか」という軸だ。 パンデミック期に培われた "色で気分を変える" という手法は、いまでは素材選びやシルエットの工夫として日常に溶け込み、スタイルの幅を広げている。 ファッションは単なる外見の演出ではなく、“感情の翻訳装置”として機能し始めている。 ドーパミンを意識したスタイルは、服を「自分を整えるための技術」として再び捉え直しているのだ。 (Ko Ueoka、Saori Yoshida、Vogue = 8-24-25)


BABYMETAL、ビルボード全米総合アルバムチャートで 9 位に

今年結成 15 周年を迎えたメタルダンスユニット「BABYMETAL (ベビーメタル)」の新作アルバム「METAL FORTH」が、米ビルボードの全米総合アルバムチャート(23 日付)で 9 位を記録した。

米ビルボードが 17 日に公式サイトで明らかにした。 BABYMETAL が所属するレコード会社ユニバーサルミュージックは、「メンバー全員が日本人のグループとしては史上初となる TOP10 入り」としている。

BABYMETAL は 2010 年に結成。 日本語詞を主体とした楽曲と、歌詞の世界を表現したダンスパフォーマンスで世界的な人気を獲得している。 現在のメンバーは SU-METAL (スゥメタル) と MOAMETAL (モアメタル)、MOMOMETAL (モモメタル) の 3 人。

これまでの全米総合アルバムチャートでの自己最高記録は、3 作目のアルバム「METAL GALAXY (19 年)」で記録した 13 位だった。 今作は 4 作目。 今年 8 月 8 日にリリースされ、ドイツのバンド Electric Callboy とのコラボ曲「RATATATA」や、ギタリストのトム・モレロが参加した「メタり!!」など全 10 曲が収録されている。 (丸山ひかり、asahi = 8-19-25)

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風が通り抜ける涼やかさも叶えて

「ラルフ ローレン」のスリーピースは、あえて袖を通さずに
気負わないかっこよさを表現

「ラルフ ローレン コレクション」のジャケットを肩掛けで力が抜けた大人の余裕を伝えて。 スリーピースで知的な風格をたたえながら、薄手の梳毛ウール生地が美しいドレープを描き、優雅な印象を高めてくれます。 (Precious.jp = 8-8-25)


YOSHIKI さんが着物ショー審査員に 実家は元呉服店「楽しみ」

絹織物のまち・滋賀県長浜市で 10 月 13 日にある着物ショー「長浜 kimono AWARDS (きものアワード)」で、ロックバンド「X JAPAN」の YOSHIKI さんがゲスト審査員を務める。 米誌タイムが選んだ今年の「世界で最も影響力のある 100 人」の一人で、着物文化の発展に期待が高まる。 長浜は江戸時代から絹織物の産地として知られる。 最高級の白生地「浜ちりめん」が京都や大阪に出荷されてきた歴史がある。 きものアワードは昨年から始まり、今年の会場は琵琶湖岸の長浜城跡にある豊(ほう)公園。 服飾を学ぶ 12 校の 30 チームがデザインした着物や帯などを着物ショーとして競う。

実家が元呉服店、自身のブランドも

運営委員会によると、YOSHIKI さんの実家は元呉服店。 着物を世界に紹介したいと、自身の着物ブランド「YOSHIKIMONO」を持つ。 長浜市と接点のある企業の元役員の仲介で、今回のゲスト審査員が実現したという。 運営委員会の和田洋典会長は「多くの人に長浜へ着物姿で来てもらい、伝統の文化・産業を知ってほしい。 影響力のすごい YOSHIKI さんが学生の力に共感して、発信していただければ。」と期待する。 観覧定員は 2 千人で、着物での参加が条件。 申し込みは 8 月 1 - 20 日、専用フォームで。 詳しくは ホームページ

YOSHIKI さん「若者のデザイン楽しみ」

YOSHIKI さんのコメント : 家が呉服屋だったので、着物には感謝しています。 縮緬は長浜と丹後などにしか(主要産地は)残っていないので、関心を持っていました。 そんな中、縮緬の残る長浜市の市長から声をかけられたので、引き受けました。 長浜で若い人のデザインが出てくるので、楽しみにしています。 (小西良昭、asahi = 7-30-25)


高校制服に複数の選択肢広がる ジェンダー意識の変化が背景か

今日の制服はスラックスを選ぶか、スカートを選ぶか - -。 近年、制服に複数の選択肢を設ける高校が広がっている。 大阪府教委によると、制服がある府立高校 142 校のうち 125 校が昨年度時点で 2 種類以上の制服を導入。 ジェンダーに対する意識の変化が背景にあるのではないか、と府教委の担当者は見る。

「小さいリボンは大人っぽく見える。」 「でも、やっぱり大きいリボンのほうがかわいい。」

去年 7 月上旬。 大阪府立泉陽高校(堺市堺区)の教室に生徒、保護者、教師など 15 人ほどが集まっていた。 全員の視線の先には 2 体のマネキン。 いずれも上半身は水色のシャツに紺色のブレザー。 下半身は 1 体が灰色のプリーツスカート、もう 1 体がスラックス。 この 2 着の制服は、2025 年度から導入された。 この日は、新制服に合うリボンとネクタイを選ぶために、制服メーカーが持ち込んだ 20 種類以上のサンプルをマネキンに当てながら、有志による話し合いが行われた。

同校の制服は長年、女子生徒がセーラー服、男子生徒が詰め襟だった。 特にセーラー服は襟に白い線が入った淡い水色のカバーをつけるのが伝統で、同校のシンボルにもなっている。 ブレザータイプの制服は新たに導入されたが、セーラー服も詰め襟も選択肢の一つとして残ったため、生徒は複数ある制服の中から着用したいものを選べることになった。

栗山悟校長によると、制服の見直しを考えたきっかけの一つが学校説明会だった。 訪れた中学生や保護者から「女子の制服でスラックスは選べるか」という質問が増え、性別で制服を分けることに対する社会の価値観の変化を感じたという。 防寒性など機能面も踏まえ、新制服の導入を決めたが、在校生と卒業生から「伝統を大切にしたい」という意見が上がり、既存の制服を残しながら新たな選択肢を作ることにした。 制服は今年の 4 月から導入され、「泉陽高校の新たなシンボルとなったら」と栗山校長は期待する。

近年、ジェンダーの観点から、従来の制服に加え、新たな制服を導入する学校が増えつつある。 その中には、セーラー服が長い歴史を持つ、いわばセーラー服の「名門校」もある。 1923 年頃にセーラー服を制服に採用し、100 年以上の歴史を持つ大阪府立清水谷高校がその一つだ。 2 年前、性別問わずスラックスとスカートが選べるブレザータイプの制服を導入した。

伝統と多様性はどのように共存しているのか。 同校によると、従来のセーラー服や詰め襟を着る生徒と新しいブレザータイプを着る生徒の比率は半々。 「最初は統一性がなくなるかもしれないと心配したが、導入してみると違和感はなく、学校の日常になっている」と同校の日笠賢校長(取材当時)は、去年 8 月こう振り返った。

生徒たちも好意的に受け止めている。 同校 3 年生の上原彩明さんはブレザーの制服を選び、気候に合わせて夏はスカート、冬はスラックスを着用しているという。 「どちらも選べるから、清水谷高校に入りたいと思った。」 別の 2 年の女子生徒もブレザーの制服を選んだ。 普段から私服はズボンが好きで、制服もスラックスを着用している。 「たくさん選択肢があって、自分らしくいられると感じる」と評価した。

新しい制服は、学校側の性別に対する意識にも影響している。 同校で新制服の導入以降、教員から、男女別で色を分けた座席表などこれまで当たり前に感じていたものに違和感を覚えると意見があったという。 分類は何のためにあるのか。 本当に必要なのか。 話し合うため、教員らが討論する場も設けられた。 「正解はないと思うが、最善の対応をするのが大事。 制服から得る多様性への気付きを、日々の教育に生かしたい。」と日笠校長。

「制服は社会を映す鏡。」 そう話すのは「セーラー服の社会史 大阪府立清水谷高等女学校を中心に(青弓社)」の著者の井上晃さん。 井上さんによると、日本の制服は時代と共に変遷してきた。 女子生徒の制服の主流は明治時代の和服と袴から、1920 年代に入るとセーラー服に変わった。 当時、洋服が普及したことに加え、ミッションスクールがセーラー服を採用したことで評判となり、多くの学校が制服を変えた。

だが、1940 年代になると、泥沼化していた戦争が影を落とすようになる。 各校が定めていた制服は廃止され、ヘチマ襟と胸下のベルトが特徴な全国統一の制服が制定された。 戦争が終わると、セーラー服は復活するが、ネクタイの結び方などの着こなし方はその時々のブームによって変化した。 (丘文奈、asahi = 7-27-25)


信長も切り取った蘭奢待の香りの秘密、明らかに 正倉院事務所が発表

奈良の正倉院に伝わり、歴史上の多くの権力者が手にしようとしてきた究極の香木、蘭奢待(らんじゃたい)。 宮内庁正倉院事務所(奈良市)は 8 日、その組織構造や成分を分析し、香りの秘密を明らかにしたと発表した。 蘭奢待は長さ 1.56 メートル、重さ 11.6 キロの巨大な香木。 正式名称は「黄熟香(おうじゅくこう)」だが、香道が盛んになった室町時代ごろから、正倉院を管理していた「東大寺」の名を文字に隠した雅号の「蘭奢待」の名で有名になった。 足利義政や織田信長、明治天皇が一部を切り取ったという付箋(ふせん)がつけられている。

正倉院事務所は昨年、強力な光から X 線を発生させる兵庫県佐用町の大型放射光施設・スプリング 8 で、生物組織などの微細な構造を分析するマイクロ CT を使い、蘭奢待の脱落した微細な破片を分析した。

伐採された年代判明、香りも再現

その結果、木質に多くのすき間があり、そこに香りの元になる樹脂が蓄積されている構造が判明。 東南アジアで産出されるジンチョウゲ科の「沈香(じんこう)」と呼ばれる香木であることが確認された。 香り成分は、香料の研究・製造を手がける高砂香料工業(東京)が、繊細な匂いの感覚を持つ調香師の評価も交えて分析。 「ラブダナム」という植物樹脂由来の香料に近い香りを中心に、バニラやカラメルのような甘い香り、針葉樹のようなスパイシーな香りが複雑に合わさった香りの全容がわかった。 同社は蘭奢待の香りを人工的に再現することにも成功した。

東京大学総合研究博物館では破片を放射性炭素で年代測定し、香木が伐採された年代を 8 世紀後半 - 9 世紀末年と判定した。 蘭奢待が最初に文献に現れるのは鎌倉時代初め、1193 年の正倉院宝物の点検記録。 これまでは 752 年の大仏開眼法要の際、海外の珍しい物品が集められた中の一つと推定されてきたが、平安時代以降に持ち込まれた可能性が高まった。

正倉院事務所の飯田剛彦所長は「香木の香りは時間と共に薄れていくことは避けられない。 そうした『失われゆくもの』についてもきちんと調べて記録を残すことが我々の責務だ」と話す。 再現された蘭奢待の香りは、大阪歴史博物館(大阪市中央区)で開催中の特別展「正倉院 THE SHOW (8 月 24 日まで、9 月から東京に巡回)」で体験できる。 また、蘭奢待は 10 月 25 日 - 11 月 10 日、奈良国立博物館(奈良市)で開かれる「第 77 回正倉院展」で展示される予定。 (今井邦彦、asahi = 7-8-25)


正倉院の宝物をファッションに 漆胡瓶の文様をひもとく

私のインスピレーションを探すアートを巡る旅や、素敵な発見を見つけた出来事をこれまでにご紹介してきました。 その中でもかつて「感性が刺激される、とっておきの奈良旅」として古都・奈良への旅について執筆したことがありました。 早いものであれから 4 年、そんな奈良にまつわる素敵なご縁がつながり、特別な展覧会に参加させていただくことになったのです。

奈良・東大寺の旧境内にたたずむ「正倉院」。 1,300 年近く地上でおよそ 9,000 件もの宝物を守り伝え、日本そしてアジアの美意識を体現する "奇跡の宝庫" といわれており、聖武天皇と光明皇后の想いが託された宝物として世界的にも類を見ない美の技術を静かに強く現代に伝え続けています。 この度、その正倉院の魅力をこれまでとは異なる新しいアプローチで楽しむことができる特別展「正倉院 THE SHOW −感じる いま、ここにある奇跡−」が、宮内庁正倉院事務所全面監修のもと、大阪・東京でスタートします。

会場の世界観は最新のデジタル技術を駆使した手法で、宝物の細部や質感をよりリアルに紹介する空間になっており、宝物の背景にあるさまざまなストーリーをひもときます。また展示では、現代のアーティストたちが正倉院にインスピレーションを受けて制作した作品群も登場するのですが、本展覧会に私もコラボレーションアーティストとして作品を発表させていただくことになりました。

正倉院に所蔵されるおよそ 9,000 件の宝物の中から私がモチーフに選んだのは、はるかなるシルクロードの美意識と、精緻な工芸技術が結晶した水瓶(すいびょう)「漆胡瓶(しっこへい)」です。

職人技術の粋を集めた古代の水瓶は、時を超えた美意識とおおらかな大陸の流れを感じさせ、独特なその存在感に私は魅せられました。 鳥の頭をかたどった蓋(ふた)をもつペルシャ風の水瓶は、東アジア独特の漆芸が用いられ、銀の薄板で草花や鳥獣の文様が巧妙に表されている『国家珍宝帳』所載の品です。 伝統の技法を尊び、過去と現代との対話から何かしらの表現を残したいという想いを胸に、まとうアートピースの象徴として正倉院宝物をファッションへと昇華させた作品を制作しました。

構想からおよそ 1 年かけ取り組んだ本作品は、プロジェクトチームにコムデギャルソンのメゾンドレス制作に携わられていた安部陽光さんをお迎えしスタートしました。 一流のキャリアを持つ安部さんとの出会いは、ある美術館に展示されていた彼の素晴らしい作品をきっかけにお声がけをさせていただき、今回制作をご一緒することがかないました。 私たちは 1,300 年という物語の証しをなるべくそのままに繋いでゆこうという考えを元に、宝物の 3D デジタルデータを元にフォルムを人尺(にんじゃく)へと割り出すことから始めました。

宮内庁正倉院事務所では、宝物の正確な情報を後世に残すため、最新のテクノロジーを用いて 360 度から宝物のスキャンを行い、高精細な 3D デジタルデータを取得する取り組みが行われています。 その貴重なデータをご提供いただき、展示モデルとして理想のプロポーションである株式会社七彩のマネキンと宝物のフォルムを融合させ、3D プリンターの縮小模型でシルエットを構築しイメージの共有をしてゆきました。 私もこれまで多くの衣装を制作してきましたが、このようなプロセスははじめての試みで、チーム独自の工程を経て完成を目指しました。

私がこのプロジェクトでとても楽しみにしていたことは、宝物がどのようにしてつくられてきたのか - -。 その想いを知ることでした。 胸が高鳴るとても興味深い資料を元に、漆胡瓶の文様をひもとくと … その世界観は職人の鋭敏な観察眼から導かれた自然と生命への賛歌でした。 多様な植物は葉脈まで生き生きと繊細に刻まれており、鹿や鳥など動物たちの愛くるしい豊かな表情はどこか人間味に溢れていました。 心震える発見のひとつが小さな昆虫や蝶までもが雄と雌の "つがい" であったこと。 私はこの物語に聖武天皇そして光明皇后との愛の絆を想起したのです。 文様から感じる慈しみの物語を星座絵のように愉(たの)しんでいただきたいです。

文様の再現では 400 種以上にも及ぶパーツを手作業でトレースし、ひとつとして同じものはありません。紡がれた月日を具現化するためにどうすれば良いかと試行錯誤し、真鍮(しんちゅう)をエイジングさせる表現に至りました。そこからさらにイメージに近づけるため、金属を薬材で化学反応させたり、熱を加えたりするなど細やかな手仕事を続けました。 こうすることでモチーフはまるで息をするように時間の経過とともに微妙に変化をしていくのも作品の見どころのひとつです。

守り残された記憶をなぞり現代へと甦(よみがえ)らせるこの手仕事は、過去の職人との創作を通じた会話のようであり、制作者として至福の瞬間でした。 1,300 年の物語をまとう、永遠のアートピースとして「時」、「美」、「愛」、「文化の記憶」のフラグメンツ(断片)の結晶を感じていただけたら、こんなに嬉(うれ)しいことはありません。 大阪展がスタートし今年 9 月には東京へも巡回をします。 ゆくゆくは全国へ、そして海外の美術館でも展示できたらと期待も膨らんでいます。 新しい形で私たちの中に生きていく本作品が、正倉院宝物の魅力と手仕事の価値を届けるきっかけになればと願っています。 (篠原ともえ、asahi = 6-27-25)


万博でパレスチナ刺繍 x 和帯のファッションショー 「生きる気力に」

幾何学模様の赤い刺繍があしらわれた黒いドレスや、花の模様が刺繍された麻のワンピース - -。 大阪・関西万博で 1 日、パレスチナのナショナルデーに合わせてファッションショーが開かれた。 司会をした女性が会場外にもあふれるほど集まった観客に訴えた。 「パレスチナのことを話し続けましょう。 沈黙はやめましょう。」 ショーで披露されたドレス 9 着は駐日パレスチナ常駐総代表部のワリード・シアム代表の亡き母のコレクションだ。 イスラエルの建国に伴い、大量の難民が発生した 1948 年以前に作られたものだという。

ショーではパレスチナの伝統衣装だけでなく、和服を身にまとった女性も登場。 帯には、パレスチナの女性たちが手縫いをした伝統的な柄の刺?がほどこされている。

きっかけは現地で見た占領と日常

ショーの司会を務めた山本真希さんは約 10 年前、パレスチナの刺?を帯に入れる活動を始めた。 刺繍はすべて現地の女性たちによる手作業だ。 山本さんが初めてパレスチナを訪れたのは 2013 年。 元々知り合いだったシアム代表の紹介で、現地をめぐるツアーに参加した。 ツアーで、ヨルダン川西岸にある村に行った。 イスラエルの占領や入植に対するデモが行われていた。村の若者たちが石を投げると、イスラエル軍は、戦車から催涙弾を撃って応酬した。 山本さんも催涙弾のガスを吸った。 たまらず近くにとめていたバスに逃げ込んだ。ニュースでしか見たことがなかった占領の現実を目の当たりにした。

一方で、のどかな農村やそこで暮らす人々、豊かな食べ物など、現地に根付く文化や日常にも触れた。 伝統工芸の刺?製品を販売している場所にも立ち寄った。 地域によって特徴的な柄があったり、身近な動植物をモチーフにしたり。 紡がれてきた文化の美しさに心ひかれた。 「紛争のことばかりではなく、現地にも日常や文化があって、こんなきれいな刺?があることも知ってほしくなった。」 日常的に着物を着ていた山本さんは、刺繍をあしらった帯を作ることを思いついた。

ガザやヨルダン川西岸にある難民キャンプや農村の女性たちに制作を依頼し、月に 1 度ほど主に東京で開く展示会で販売をしている。 刺?帯の売り上げが女性たちの収入源になり、自立の手助けにもなっている。 「難民キャンプのような厳しい中で、女性たちが一針一針縫って美しいものを作り上げている。 それを日本でお披露目できたときはこの上ない喜びになる。」と山本さんは話す。

かわいそう、だけでなくリスペクトを

だが、23 年 10 月にイスラエル軍とイスラム組織ハマスの衝突が起き、刺繍帯作りにも大きな影響が出ている。 ガザでは物資の搬入出が制限され、女性たちの命に危険も迫る中、新たな帯の注文はできていない。 また、ヨルダン川西岸でも、イスラエル軍による移動の制限が強化され、女性たちが作業場にたどり着けなかったり、材料となる布や糸を調達できなかったりしているという。

万博でのショーの終盤、幾何学模様の刺?が入った二つのクッションカバーが掲げられた。 イスラエルからの攻撃が続く中、ガザの女性が作ったものだ。 作業に集中し、心を保つために、女性たちは避難先でも刺?を続けているという。 「刺繍はただのファッションではなく、人々のアイデンティティー。 生きる気力になる。」と山本さんは観客に語りかけた。 今回の軍事衝突以降、これまで以上にパレスチナへの関心が高まっていると感じている。 「でも、かわいそう、と思うだけではなく、長く育まれてきた文化をリスペクトすることが、パレスチナの人たちにとって励ましになる」と山本さんは信じている。 (甲斐江里子、asahi = 6-1-25)


腕に咲くタトゥーの花、実は化粧品 タブーに挑む 6 年越しの新規事業

"Tatoo is not Taboo"(タトゥーはタブーじゃない)。 新たな商品にそんな思いを込めた。 ヘアカラー大手「ホーユー(名古屋市)」の 2 人の社員が開発したのは、肌を染めて 1 週間ほどで消える「タトゥー。」 海外に比べて入れ墨への忌避感が根強い日本社会で、「日本でも肌を彩ることで文化に貢献したい」という。 昨夏から試験販売中の「LUCENA(ルセナ)」の特徴は、豊富なカラーバリエーションとデザインだ。

英語で「染める」を意味するティント方式のタトゥーは、約 70 ある型紙となるデザインシートから選んで好きな部位に貼り、上からインクを塗る。 数分間待ってから拭き取り、水で流せば完成。 1 週間ほど持つといい、インクを混ぜて自分好みの色とデザインを楽しめる。 記者も自分の腕で試してみた。 選んだデザインは 2 輪の花。 ピンク、紫、緑のインクを使い分けてもらった。 所要時間 10 分ほどで、かわいらしい花が腕に咲いた。

まだタトゥーがタブーな日本

開発を提案したのは、海外経験が豊富な経営企画室の藤井淳さん (38)。 きっかけは学生時代、留学先でのアメリカ人の友人との出会いだった。 その友人は、自らの特殊な血液型のことを腕に彫っていた。 メディカルタトゥーといい、事故などで意識を失った際、「間違った血液を輸血されないようにするため」と教えてもらった。 「おしゃれとしてだけでなく、(タトゥーには)もっと広い可能性があるんじゃないか。」 学生時代に抱いたこの思いは、入社後に赴任したベトナムやミャンマーなどで、タトゥーで肌を彩る文化に触れ、一層強くなったという。

6 年ほど前に一度ティント式タトゥーを提案したが、理解を得られず廃案に。 それでも胸の内で企画を温め続け、2023 年に社内の新規事業プログラムの立ち上げを機に再提案。 藤井さんと、同期で元研究員の山口真吾さん (38) の 2 人だけで開発を続け、事業化検討段階まで進んでいる。 日本ではいぜん、タトゥーに対し、タブー(禁忌)として扱う圧力が強い。 最近では、老舗飲食店で働くタトゥーの入った女性店員が SNS で話題に。 「スミがきざまれた店員がいる飲食店には行かない」などの誹謗中傷の投稿が相次ぎ、議論が起きた。

試験販売中のルセナのコンセプトは「Tatoo is not Taboo」。 肌を彩ることへの消費者の忌避感をほぐしつつ、安全に楽しめることを意識した。

肌に優しい、「化粧品」としてのタトゥーを

近年ファッションの一環として、タトゥーシールやボディーペイントによる数日 - 数週間で消える「フェイクタトゥー」は増えている。 一方、消費者庁によると、国内ではその安全性や品質性について明確な基準は定められていない。 肌にかゆみが出るなどの事故も起き、19 年に同庁は注意喚起した。 ヘアカラー分野で長年の開発実績を持つホーユーは、肌へのアレルギーの研究も進め、安全性の担保に力を入れてきた。 藤井さんと山口さんはその強みを開発に生かし、同社は今回のティント式タトゥーを自治体への届け出が必要で安全性の基準が定められた「化粧品」として製造・販売している。

山口さんは「開発や製造はすべて 2 人でやっているので、作れる量や営業に行ける場所にも限界があります」と語る。 それでも、イベントやライブ会場に出展すると多くの若者が体験に訪れており、そのニーズを感じている。 「髪色の自由化も進み、自己表現の方法は増えている。 日本でも肌を彩る文化が広まれば。」 藤井さんはそんな期待を寄せる。 インスタグラムで施術写真を見られるほか、商品は 公式サイト から購入できる。 シート 1 枚とインク 2 本のトライアルセット(税込み 3,980 円)など。 (川西めいこ、asahi = 5-18-25)


韓国スター、ラウール … 会場の VIP も華やかなファッションウィーク

2 月から 3 月にかけて開催された 2025 年秋冬コレクションのパリ・ファッションウィーク (PFW) とミラノ・ファッションウィーク (MFW) には、人気アイドルや歌手、俳優などスターや著名人が来場した。

(画像は左右にスライドしてください。)

仏有力ブランドのイザベル・マランは、人気の K-POP グループ、ATEEZ のソンファを招待客ではなくモデルとして起用。 テーラードスーツと華やかなインナーでランウェーを歩いた。 日本でも展開されベーシックなイメージが強いが、本国ではカジュアルからイブニングまで幅広い品揃えで店舗数も多い。

ミュウミュウの会場では、TWICE のモモを筆頭に若い女性スターの姿が目立った。 女性服の新作発表では、男性アイドルを会場に招いて女性の消費者に訴えようとするケースが目立つなか、「女性によって女性の」目を引こうという戦略か。 モモはオニツカタイガーのビジュアル広告でも起用され、MFW の会場も訪れるなどファッション界が最も注目する日本人の一人だ。

シャネルは韓国ドラマ「梨泰院クラス」の主演俳優パク・ソジュンのほか、南アフリカ出身の人気歌手タイラを招待。 米国の巨大フェス「コーチェラ」にも出演するなどスターダムを駆け上がる新進歌手は、タイトなピンクのセットアップ着用で会場に現れた。

日本でも知名度の高いマルニのショーに現れたのは Snow Man のラウール。 会場入りした際の動画は「朝日新聞ファッション取材班」のインスタグラム(@asahi_fashion)でも 510 万回以上閲覧され、約 10 万の「いいね」がついた(4 月 28 日現在)。

また、リアルファーやエキゾチックレザーの使用禁止を業界全体に呼びかけているステラ・マッカートニーのショーには、仏大統領の妻ブリジット・マクロンの姿があった。 新作群ではリアルな素材を皮肉るように、コンピューター画像を拡大してピクセルの凹凸がハッキリ分かるようにしたヘビ柄プリントの装いが印象的だった。 ブリジット・マクロンの来場で、マッカートニーの主張が後押しされるかもしれない。

PFW や MFW の公式ショーでは、入場チケットが販売される訳ではなく全て招待制だ。 どの顧客やメディアを招くかという選択は全てブランド側が判断しており、戦略の一部でもある。 メディアの取材を受ける VIP たちはショーを開催するブランドの服を着用し、その様子が SNS などで拡散されることが定番化している。 会場外にもファンが押しかける VIP の起用は多くのブランドにおいて極めて重大な仕事になった。

ショーを報道するメディアに対しては、事前に質問案や取材者の顔写真の提出を求めるなど、規制が厳しくなっている。 コロナ禍前のショー会場では、SNS のインフルエンサーの姿を多く見かけたが、ここ最近は減っている。 入れ替わるように、コロナ禍後から、韓国やタイといったアジア圏などからの人気アイドルや俳優たちの姿が目立つようになった。 (編集委員・後藤洋平、asahi = 5-3-25)