傷に塗る遺伝子治療薬、承認へ 皮膚もろい難病「表皮水疱症」が対象

軽い刺激で皮膚に水ぶくれができたり傷になったりする難病「表皮水疱症」の遺伝子治療薬について、厚生労働省の専門家部会は 7 日、国内での製造販売承認を了承した。 繰り返し使うことが想定され、販売が先行する米国では単価が高いため、患者あたりの薬剤費は高額になることも予想される。 治療薬は米クリスタル・バイオテック社が開発した「バイジュベック・ゲル」。 病気の原因になっている遺伝子のはたらきを補う遺伝子治療薬のなかでも、世界で初めて患部に塗るタイプとなっている。

米国では 2023 年に承認された。 1 製品あたり約 2 万 4 千ドル(約 350 万円)。 使用量は患者の患部の大きさで異なるが、1 人の患者あたり年間約 63 万ドル(約 9 千万円)ほどともされる。 日本での販売価格は今後、別の審議会であらためて検討される。 対象疾患は、皮膚がはがれやすくなる難病「表皮水疱症」のうち、「栄養障害型」とよばれるタイプ。 このタイプは、皮膚の最外層の「表皮」とその下の「真皮」をつなげている複数のたんぱく質のなかでも、「7 型コラーゲン」の機能不全で起こる。 厚生労働省によると、国内に約 250 - 500 人ほどの患者がいるとされる。

バイジュベックは、週に 1 回、表皮がはがれて傷になった部分に塗ることで、正常に機能する「7 型コラーゲン」がつくられ、はがれにくい皮膚ができるとされる。 米国で患者 31 人が参加した臨床試験(治験)では、偽薬だと 6 カ月後に 21.6% の傷が治ったのに対して、バイジュベックを塗った傷だと 67.4% が治った。 日本での臨床試験には患者 5 人が参加。うち 4 人が試験を終えた。 バイジュベックを塗ると、6 カ月後までに 100% の傷がふさがった。 日本での製造販売にあたっては、開始後、3 年半の間に約 200 人の患者に使用した成績を調べ、長期の安全性や有効性を検証するという。(野口憲太、asahi = 7-7-25)


ES 細胞から卵子のもとになる細胞作りに成功 不妊の解明に 京都大

様々な細胞になれる能力を持つ ES 細胞(胚性幹細胞)から卵子になる直前の状態の細胞をつくることに、京都大学の研究チームがマウスで成功した。 卵子がどのような過程でつくられていくのかの解明につながるという。 ヒトでも作れるように目指し、不妊の原因の解明につなげたいとしている。 これまで卵子のもとになる「卵母細胞」をつくるには、卵巣にある体細胞を一緒に培養することが必要だった。

研究チームはこれまで、体細胞なしに精子や卵子になる大元の細胞から卵母細胞の初期段階までつくるのには成功していたが、今回、生理活性物質を与えるタイミングなどを工夫し、発生率が数 % だったものをほぼ確実につくる方法を開発した。 さらに、卵母細胞を卵子に成熟させるために必要な体細胞から分泌される物質の特定をすすめた。その結果、細胞間や細胞内で情報を伝えるたんぱく質や、ビタミンEなどの抗酸化物質を加えることで、卵子になる直前の状態まで再現することにも成功した。 研究チームは、卵子の作製を目指すとともに、ヒトでも同じことができるか研究を進めている。

チームの京都大学ヒト生物学高等研究拠点の斎藤通紀拠点長(発生生物学)は「今回の研究をさらにすすめてヒトの卵子ができる過程の詳細がわかれば、不妊の原因の解明につながる」と話す。 研究成果は 6 月 30 日発行の科学誌「ディベロップメンタル・セル」に掲載された。 (坪谷英紀、asahi = 7-1-25)


米国で HIV 予防薬承認 年 2 回投与、高い有効性 感染者減に期待

米食品医薬品局 (FDA) は 18 日、米製薬大手ギリアド・サイエンシズが開発した HIV (ヒト免疫不全ウイルス)の感染予防薬を承認した。 高い有効性に加え、年 2 回の投与で済むため、毎日服用が必要な既存薬より使いやすい。 世界で年間 100 万人以上いる新規感染者を減らしうる画期的な薬として期待されていた。  新たに承認されたのは「レナカパビル(販売名 イェズトゥゴ)」。 ウイルスの増殖を阻害することで、感染を予防できるとされる。 初回に注射と経口で薬を投与した後、6 カ月ごとに注射する。

この薬は二つの臨床試験で高い有効性が示された。 アフリカの約 2 千人を対象にした一つ目の試験では、新たな HIV 感染者はゼロ。 南米や米国などで実施された二つ目の試験では、約 2 千人のうち新規感染者は 2 人のみ。 投与しなかった場合に想定される HIV 感染率と比較すると、感染リスクを 96% 減少させることができたという。

科学誌サイエンスが選ぶ昨年の「最も重要な成果」にも

HIV の構造や機能の理解から生まれた薬であることも評価され、米科学誌「サイエンス」が選ぶ、2024 年の科学分野の最も重要な成果「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれていた。 ギリアド社のダニエル・オデイ会長兼最高経営責任者 (CEO) は承認を受け、この薬が「HIV 流行の終息に大きく貢献する非常に現実的な機会を提供する」とのコメントを発表した。 AP 通信によると、米国での販売価格は年約 2 万 8 千ドル(約 410 万円)という。

国連合同エイズ計画 (UNAIDS) によると、世界での 2023 年の新規感染者は約 130 万人で、約 3,070 万人が抗 HIV 治療を受けた。HIV が原因でエイズを発症し、関連疾患で死亡した人は 63 万人だった。 厚生労働省によると、2023 年の日本での HIV 新規感染者は 669 人。 (サンフランシスコ・市野塊、asahi = 6-19-25)


10 年後の糖尿病リスク、健診データだけで予測 試して分かった対策

やせている糖尿病患者が少なくない日本人向けに、10 年以内の糖尿病発症リスクを精度高く予測できるモデルを、京都府立医大などの研究チームが開発した。 40 歳以上が対象で、健康診断で得られる簡単なデータをウェブサイトに入力するだけで計算できる。 利用者が自らのリスクを早期に把握し予防策をとるのに役立つと期待される。 開発したのは同大の内分泌・代謝内科学の岡田博史助教と宗川ちひろ研究員、生物統計学の堀口剛助教と内藤あかり助教らのチーム。

糖尿病は、膵臓の細胞からのインスリン分泌が著しく低下する「1 型」と、食生活や運動不足といった生活習慣が大きく影響する「2 型」に大きく分けられ、日本では「2 型」が約 95% を占める。 世界的にも患者が増え、大人の 10 人に 1 人が罹患しているとされ、日本は世界で 9 番目に患者が多い。 治療薬が進歩し血糖値を管理しやすくなった一方で、診断が遅れて透析や失明、心血管病といった合併症になる人も多く、発症予防が課題だ。 日本糖尿病学会などは、新たな呼称案を英語名に基づく「ダイアベティス(Diabetes)」とすると公表している。

世界各国で 2 型糖尿病の発症を予測するモデルが開発されているが、肥満タイプの患者が多い欧米とちがって、日本ではやせていても発症する人が少なくなく、欧米モデルをそのまま日本人に適用しにくい。 日本人向けの予測モデルもいくつかあるが、何年後までの発症をみるか観察時間が短かったり、研究対象の人数が少なかったりしていた。 また、健診では一般的でない指標の「食後血糖値」などが使われ、精度や実用性に課題があったという。

研究チームは今回、2008 年に健診を受けた大手電機メーカーの 40 歳以上の従業員 7 万 2,124 人(当初からの糖尿病患者らを除く)を 10 年にわたり追跡した結果、5,133 人が糖尿病を発症していた。 このデータをもとに、年齢、性別、BMI (肥満度)、収縮期血圧、中性脂肪、HDL、ALT、空腹時血糖、体重増加、喫煙状況の 10 項目で精度高く、2 型糖尿病の発症リスクを計算できる予測モデルをつくった。 これを岐阜県内に住む 1 万 2,885 人の別グループにあてはめても精度がよく、高い信頼性が確認された。

宗川さんは「(予測モデルを使えば、)糖尿病リスクを自身で簡単に知ることができる。 例えば、自治体の健康プログラムに適用し、リスクが高い人を早期に特定して保健指導などで生活習慣を見直してもらうほか、高リスクでなくても健康意識の向上につなげてもらい、糖尿病の発症を低下することに貢献したい」と話している。 糖尿病リスク予測のサイトは こちら。 研究成果の論文は こちら

発症確率「22.49%」 どう受け止めれば?

身長 180 センチ、体重 80 キロ超の記者 (52) も試してみた。 今年 3 月に受けた健診データを入力したところ、10 年後の糖尿病発症確率が「22.49%」と出た。 この数字をどう受け止めればいいのか。 研究チームの岡田博史さんからは「リスクが高いですね。 日本人はやせ形の糖尿病患者も多いが、(記者はそうではなく)体重と血糖値が問題。 脂肪肝など余剰の脂肪の影響でインスリンが効きにくくなり血糖値が高くなっている可能性がある。」と指摘された。 数年前に比べ、これでもやせたのだが、減量が引き続き必要そうだ。

岡田さんによると、今回の研究では平均的な 40 - 50 歳の人の 10 年後の糖尿病発症確率が 5% 弱だったといい、「10% を超えるようなら自身の生活を見直してください。 一方、人それぞれで体の状態が違うので、数字が低いからといって安心材料とせず、かかりつけ医としっかり相談を。」  まずは毎年、健診を受けることが大切だという。 (桜井林太郎、asahi = 6-16-25)


カフェの店主はお医者さん コーヒー注ぎ、悩みに寄り添う「保健室」

田んぼが広がる三重県伊賀市の幹線道路沿いに、「保健室」の名を冠したカフェがある。 経営する女性の本業は、医者。 病気になってから病院にかかるだけでなく、日頃から身体(からだ)や心の悩みを話す場になれば。 オープンしてから 1 年余り。 そんな思いは、様々な「仕掛け」とともに徐々に浸透しつつある。 伊賀、名張両市をつなぐ国道 368 号沿いにある伊賀市上之庄。 付近に飲食店は少ない。 元クリーニング店だったことを示すシールが残るガラス扉を開く。 カウンターから、山崎直美さん (37) がお薦めの「玄米コーヒー」をいれてくれた。 店名は「暮らしの保健室い〜な」。 「い〜な」は伊賀市と名張市の頭文字だ。

「毎日病院」より充実の生活

夫の親族が所有する家を修繕し、昨年 3 月末にオープンした。 山崎さんは名張市のクリニックに週 3 日勤務しながら、木曜日を中心に月 8 回ほど開く。 店には山崎さんのほか、看護師や理学療法士、管理栄養士らが詰めることもある。 この 1 年余りをふり返り、「毎日病院で働いていた時より、生活が充実している」と手応えを語る。 「薬を飲み続けていいかどうか」、「家族が認知症ではないか」、「介護で悩んでいるけど、誰に相談したらいいのか」、「足が痛いが、手術をした方がいいか」。 来店者との会話は、本人だけではなく、介護者が身内の悩みを語る場面も多いという。

「近所の人同士の会話だと、解決に至らない。 すごく悪くなってから病院に行く人もいる。」と山崎さん。 「医者が専門的になり、その人を全体的に見ることが難しくなった」こともあり、普段の暮らしを見ることで、変調に気づけるポイントがある、という。 山崎さんは岡山市の出身。 カトリック系の小学校に通い、人のためになる仕事をめざすように。 母親から資格のある職を勧められ、医学の道を志した。 順天堂大で学び、泌尿器科の専門医になった。 大阪と紀南地域の診療所を行き来していたが、数年前に結婚して伊賀市に移住した。

移住してふと思った。 「私自身が納得する形で亡くなることができる土地なのか。」 在宅診療に携わることが多かったが、その「前段階」として関わり合いの場づくりを考えた。

人を呼び込む仕掛けも

以前の職場だった松阪市のクリニックで、「暮らしの保健室」をいなべ市で開設する理学療法士と出会ったことも大きかった。 伊賀市社会福祉協議会と協定を結び、「出張保健室」と称して自分から集いの場に出向くこともある。 カフェのメニューは 300 - 400 円の飲み物が中心だが、そのひとつがコメ農家の義父がつくる伊賀米を焙煎したノンカフェインの「玄米コーヒー」。 コーヒー好きが高じて、学生時代にコーヒーチェーン店でバイトをしたこともあり、「カフェは楽しい。」 伊賀米のライスジェラートもある。

いろいろな世代の人を呼び込みたいと願う。 そのための仕掛けとして、昨年 7 月から、それぞれの人がリンゴ箱ひとつのスペースにお薦めの本を持ち寄るシェア型図書室を開設。 今年 4 月から、「身体に優しいマルシェ」を始めた。 医師や薬剤師、看護師らが薬膳カフェやピザ、アロマ、野菜などを提供し、健康チェックもする。 地元の要望にこたえ、月に 1 度、名張市の店から購入した天然酵母のパンの販売も始めた。

昨年 7 月、長男を出産した。 「体力はある。 そもそも楽しくなかったらしません。」 会社員の夫の協力も得ながら続ける。 「子育てや子ども向け、防災のイベントなどで多世代交流ができれば。」 暮らしの保健室の開催日はインスタグラム(@kurashi_ina2023)で確認できる。 (小西孝司、asahi = 6-15-24)