令和の百姓一揆、都心をトラクターでデモ 米高騰の裏で訴えたい惨状

米価の歴史的な高騰が続く中、東京都心で 30 日、米農家や酪農家らによる「令和の百姓一揆」が計画されている。 約 2 千人が集まり、六本木や表参道を 30 台のトラクターでデモ行進し、米価格の上昇で潤うどころか、高齢化で離農が相次ぎ、生産がおぼつかない農家の惨状を訴える。 実行委員会代表の菅野芳秀さん (75) は山形県長井市で 1 千羽の鶏を飼育しながら、5 ヘクタールの水田を耕す循環型農業を行う。 「今、洪水のように農家が離農している。 農村がなくなろうとしている。 農家の労働は時給 10 円、これでは農家はやっていけない。」と訴える。

農林水産省によると、主に農業を生活の生業とする農家は 1960 年には約 1,175 万人に上ったが、2000 年は約 240 万人、2020 年は約 136 万人に減った。 平均年齢は 67.8 歳で、49 歳以下は全体の 1 割にとどまる。

クラファンで 1,500 万円

菅野さんは「農業の衰退は多くの国民の知らない所で進んでいる。 これはほとんどの国民が関わる食糧の問題、命の問題ではないだろうか」と話す。 一揆への協力を求めるため、実行委は欧州の各地で広がる生活苦を訴える農家たちのデモの様子も取り込んだ動画も作成した。 賛同者からクラウドファンディングですでに約 1,500 万円が集まった。

実行委には 400 人以上が名を連ね、うち 4 分の 1 が農家や生産者だ。 その一人、自然農法で米や野菜を育てる静岡県浜松市の藤松泰通さん (44) は 8 年ほど前に耕作放棄地となった地元の田んぼを借りて農業を始めた。 ただ、周囲では高齢化によって耕作放棄地が増え、農業の将来にあきらめを感じることもある。 「収入も安定しないから若い農家は増えない。 高齢化で生産者は減るばかりだ。」と話す。

昨夏、南海トラフ地震への注意を呼びかける臨時情報などをきっかけに、スーパーの店頭からコメが消えた。 農水省は当初、「秋に新米が出回れば、米価も下がる」としていたが、当てが外れ、備蓄米を一時放出する事態にもなった。

食糧危機、「いつ起きても」

藤松さんは「国は食糧安全保障というが、このまま生産者が減っていけば、食糧危機がいつ起きてもおかしくない」と危惧する。 農水省によるとスーパーの米 5 キロの平均価格は 4 千円を超え、1 年前の約 2 倍だ。 生産者からは想定を超えた米価格の高騰による米離れを心配する声もある。 藤松さんは「生産にかかるコストも上がり、農家の手取りがすごく増えるわけではないが、価格高騰で農家を責める人もいる」と憤る。

30 日のトラクターデモは港区の青山公園を出発し、原宿などを通り、渋谷区の代々木公園までの約 5.5 キロを走る。 同じ日には少なくとも沖縄、岐阜、京都、熊本、静岡、富山、奈良、福岡、山口の 9 府県でも農家らによる一揆が企画されている。 (座小田英史、山田暢史、asahi = 3-26-25)


在宅だと人は怠けるのか? 週 5 日出社を命じたアマゾンの「裏事情」

働く場所は家か、会社か - -。 米 IT 大手アマゾンが、コロナ禍で定着した社員の在宅勤務をやめ、週 5 日のフル出社を義務づけた。 在宅勤務に適しているとされ、その旗振り役でもあったIT企業で出社を求められたことに、反発する働き手もいる。働く場所をめぐる攻防は、人が職場に集まる意味を問い直している。 シアトル中心部にあるアマゾン本社の前には朝と夕、従業員を乗せたバスがひっきりなしに止まっていた。 コロナ下では在宅勤務を勧めたアマゾンだが、2023 年から週 3 日以上の出社としていた。 今年 1 月には在宅勤務を原則禁じ、毎日出社するよう求めた。

「私たちはオフィスに集まる利点が非常に大きいと確信した。」 アンディ・ジャシー最高経営責任者 (CEO) は社員へのメッセージでこう説明した。 「お互いに教え合い、学び合うことがスムーズになる。 協力やブレーンストーミング、発想が効果的にできる。 そして、チームの結びつきが強くなる。」 パメラ・ヘイターさん (45) はかつて、1 時間以上かけてシアトルの本社まで車で通勤し、月 600 ドル(約 9 万円)のガソリン代や駐車料金を負担していた。 渋滞で帰宅した時には疲れ果てていた。 社員研修を担当し、全米各地から社員が本社に飛行機でやって来ることが当たり前だった当時、家で仕事なんてできるわけがないと思っていた。

ところが、コロナで在宅勤務を経験して「別人に変わった」という。 2 人の娘と一緒に食事を取り、通勤のストレスからも解放された。 同僚には小さな子を持つ親や病気の家族を介護する人もいた。 「それぞれのライフスタイルに合わせやすく、多くの人にとって有益だった」と語る。 出社勤務にはもう戻れなかった。 アマゾンから週 3 日出勤の方針が示された時、ヘイターさんは「リモート擁護」という名の SNS チャンネルを立ち上げ、3 万 3 千人以上の社員が参加。 出社強制に反対する嘆願書をつくり、抗議のための一斉退社も強行した。

出社反対の社員らが訴えたのは、在宅によるワーク・ライフ・バランスの改善や不要なオフィスの見直しによるコスト削減、多様な人材を確保できるメリットだった。 在宅勤務ができなくなると、特に女性の離職率が高まるという調査結果があった。 しかし、会社側は聞き入れず、ヘイターさんは解雇された。 「後悔はしていない。 働き方を選ぶのは、生き方を選ぶこと。 その権利を取り戻したかった。」 在宅勤務の魅力に目覚めた働き手は多く、出社を強制すると離職したり、人材を集めにくくなったりする。 スタンフォード大のニコラス・ブルーム教授(経済学)は、それこそがアマゾンの狙いだったとみる。

何のためのオフィスか

巣ごもり需要が膨らんで従業員を増やしたが、解雇となればコストがかかる。 「出社の義務化で 5 - 10% の従業員が自発的にやめることを期待した。 これは安上がりなレイオフ(一時解雇)だ。」 出社するようになったアマゾン社員の一人は「会社でも結局、ビデオ会議が多い」と打ち明ける。 優秀な部下の離職を防ぐため、人事部には出社していると伝えていても、実際には在宅勤務を一部で認める中間管理職も出てきているという。

電気自動車 (EV) 大手テスラのイーロン・マスク CEO は、22 年から週に 40 時間以上はオフィスで働くよう命じた。 「オフィスに来ないのは働くフリだ」と断じ、「工場で働いている人がいるのに、オフィスに来ないのは『(PC の)ラップトップ階級』の特権だ。 モラルとして間違っている。」とも語る。 企業だけではない。 トランプ米大統領も、出勤しない連邦政府職員を解雇する考えだ。 米マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査(24 年 10 月)では、米国の労働者の 68% が最低で週 4 日間の出勤を命じられた。 23 年 8 月に比べ 34 ポイントも増えた。

オープン AI のアルトマン CEO も「テック業界の最大の過ちは完全リモートを導入したことだった」と発言。 グーグル共同創業者のセルゲイ・ブリン氏は AI 開発競争に勝つためには「少なくとも毎週平日はオフィスに出勤するべきだ」とし、さらに「週 60 時間が生産性の最適な時間」とする見解を社内で共有した。 ただ、アマゾンやテスラのように毎日の出社を求めるのはまだ少数派だ。 グーグルやメタ、マイクロソフト、アップルなど米 IT 大手の多くは完全リモートはやめたが、週 3 日以上の出社と在宅を組み合わせている。

出社? 在宅? 米企業の方針は

アマゾンが毎日出社としたのは「週 3 日の出社だと、せっかく来てもチームのメンバーに会えないことがあった(幹部)」からという。 自由な席に座っていたフリーアドレス制を廃止し、固定席に戻してもいる。 チームの結束や企業文化を強くするのはオフィスでの会話だという考えからだ。 オフィスの起源は産業革命期の英国とされる。 労働者が工場に集まったことで労務管理が必要となり、マネジャーたちの働く場所も工場に併設されるようになった。 当時、人が集まることは効率化そのものだった。 デジタル技術が進み、人が集まる必要性が薄れたいま、それでも同じ場所で働く意味とは何か。

パーソナルファシリティマネジメント(東京都港区)が 20 〜 50 代のオフィス勤務者を対象にした 23 年の調査では、出社のメリットで最も多かったのが「確認や相談がすぐに行える(29.2%)」だった。 特に社内の人間関係をまだ築けていない若手や新入社員は、オンラインでは質問や相談はしにくい。

アマゾンのジャシー CEO は「画期的な発明は、ミーティング後に残って議論を続けたり、同僚と戻る途中で話し合ったりすることで生まれた」と、オフィスに集う利点を指摘する。 顔を合わせての会話によって異なる視点やアイデアが交わることで、信頼関係が醸成され、新たな発想もうまれやすくなる。 テック企業にとって、創造性やイノベーションは根幹だ。 とりわけ、廊下やエレベーター前、カフェでのちょっとした立ち話といった偶発的な会話はセレンディピティー(幸運な偶然)を生み、創造性や問題解決につながるとされる。

ただ、フル出社が常に望ましいかというと、そうでもなさそうだ。 スタンフォード大のブルーム教授によると、完全リモートではコミュニケーションが難しく、モチベーション維持の問題もあり、社員の生産性は 10% ほど落ちた。 だが、在宅と出勤を組み合わせるハイブリッド勤務では、毎日出社した場合と変わらなかったという。 ブルーム氏は「週 3 日程度の出社で深いコミュニケーションは十分にとれる」と話す。 いまハイブリッド勤務としている企業の多くは、今後も続けていくとみる。

在宅とサボり監視ツール

経営者たちが出社を求めるのは、家だと人は怠けるという考えが根底にある。 パソコンのキーボードやマウスが一定時間内に入力がないと警告を出したり、数分ごとに撮影してパソコンの前にいる社員を確認したり - -。 こうした「サボり監視ツール」を導入する企業もある。 これに対し従業員側はマウスを自動的に動かす装置で作業中を装うなど、企業と従業員との間でいたちごっこが繰り広げられる。 形では出社しつつも、オフィスでまともに仕事をしない「コーヒー・バッジング」という言葉も流行した。 社員が社員証(バッジ)をかざして出社の記録を残し、コーヒーを飲んで帰る、という意味だ。 ただ企業側は滞在時間をチェックし、評価にも影響することを通告している。 (シアトル・奈良部健、asahi = 3-23-25)


フルタイム労働者の平均月給 33 万円で過去最高を更新

フルタイムで働く労働者の平均月給が 2024 年は 33 万 400 円となり、前の年に続き過去最高となりました。 厚生労働省の調査によりますと、2024 年のフルタイムで働く労働者の月給の平均は、前の年から 3.8% 増え 33 万 400 円でした。 前の年に続き、調査を開始した 1976 年以降、過去最高となりました。

男女別では男性が 36 万 3,100 円、女性が 27 万 5,300 円で、男女間の格差は 8 万 7,800 円と最も縮まりました。 雇用形態別では正社員が 34 万 8,600 円に対し、それ以外の人は 23 万 3,100 円でした。 「課長級の役職者の女性割合が、大きくなったことが格差が縮まった要因として考えられる。 引き続き女性の活躍推進に向けた施策の充実を図る。(厚生労働省)」 (ANN = 3-17-25)


給食無償化は 5 月に制度設計 自公維、社会保険料引き下げも協議へ

自民、公明、日本維新の会の 3 党の政調会長は 5 日、国会内で会談し、2026 年度からの小学校の給食費無償化や、私立高校向けに加算される就学支援金制度の拡充などをめぐり、5 月中旬に具体的な制度設計をまとめる方針を確認した。 政府が今夏に策定予定の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」への施策の盛り込みを目指す。

維新は 2 月に自公と高校授業料の無償化で合意し、今月 4 日の 25 年度当初予算案の衆院採決で賛成に回ったが、給食無償化など 26 年度以降の対応については調整を先送りしていた。 3 党の政調会長は、維新が求めている社会保険料の引き下げ策も 5 月中旬までに一部合意を図ることを申し合わせた。

ガソリンの旧暫定税率をめぐっては、維新は 26 年度からの廃止を主張し、自公維に立憲民主、国民民主両党を加えた 5 党協議を提唱したが、自公側は持ち帰った。 立国側は 25 年度からの廃止を求めており、国民民主の古川元久代表代行は 5 日の記者会見で「考え方が違う。 提案に乗るつもりはない。」と述べた。 立憲幹部も「自公がすぐに廃止する気がないなか、維新が協議体をと言ってもどれだけ意味があるか」としており、5 党協議の設置のメドは立っていない。 (宮脇稜平、伊沢健司、asahi = 3-5-25)


来春卒業向けの就活「解禁」 内定率はすでに 4 割 採用早期化が加速

2026 年春に卒業予定の大学 3 年生らを対象にした会社説明会が 1 日、政府が要請する就職活動ルール上で解禁された。 人手不足による人材獲得競争の激化で実際の選考は早期化しており、内定率は既に4 割ほどに上っている。

就職情報会社マイナビはこの日、幕張メッセ(千葉市)で合同会社説明会を開き、約 160 社がブースを構えた。 参加した私大 3 年の女子学生 (21) は「オンライン説明会ではわからない社員の雰囲気を知ったり、一度に多くの企業の話を聞いたりするために来た。 休日数や転勤がないかなど、働きやすい環境を重視して企業を見たい」と話した。 マイナビの企業調査では、29.4% が前年より採用者を増やすと回答。 採用環境の見通しは 78.1% が「厳しくなる」と答えており、売り手市場が強まっている。

採用活動の早期化に懸念も

深刻な人手不足を背景に、人材をいち早く確保するため、採用活動を早める企業は多い。 政府の就活ルールは 3 月 1 日を会社説明会、6 月 1 日を採用選考の解禁とするが、強制力はない。 実際は既に多くの企業が選考を始めており、就職情報会社キャリタスによると、2 月 1 日時点の内定率は 39.9% と、前年同期 (33.8%) を上回った。 23 年度からはインターンシップ(就業体験)のルールが大きく変わり、参加日数など一定の条件を満たせば、インターンでの評価を採用選考に利用できるようにもなった。

マイナビキャリアリサーチラボの井出翔子・主任研究員は、採用活動の早期化について「学生のキャリア観が醸成されないまま就活をすることになり、ミスマッチから早期離職につながる懸念もある。 キャリア形成を支援する機会の提供が必要だ。」と話す。 (片田貴也、asahi = 3-1-25)


高校無償化とは? 公立は授業料相当額・私立は一定額を支給、新年度から所得制限撤廃

高校無償化とは。

高校生のいる世帯に対し、公立の場合は授業料相当額、私立の場合は一定額を支給して授業料負担を軽減する制度で、授業料全額が支給でまかなえれば実質的に無償化となる。 民主党政権だった 2010 年に就学支援金制度が創設され、高校のほか、高等専門学校(高専)の 1 - 3 年や職業能力育成のための専修学校高等課程、特別支援学校高等部など、高校相当の学校も対象となっている。

現行法では、高校生のいる年収 910 万円未満の世帯に、公立私立問わず年 11 万 8,800 円が助成され、私立に通う低所得世帯には支援金が上乗せされている。 東京都や大阪府などでは、独自に支援金をさらに上乗せしている。

自民、公明両党と日本維新の会の合意内容が実現すると、制度はどう変わるのか。

25 年度は、11 万 8,800 円の支給に対する所得制限が撤廃され、326 万人の高校生(23 年度現在)全員が対象となる。 26 年度からは、私立高生向けの上乗せについても所得制限が撤廃され、私立高授業料の全国平均額にあたる最大 45 万 7,000 円を助成することになる。 上乗せ支給の対象者は、高校生全体の約 4 割となる約 130 万人に上る見通しだ。

追加で必要となる財源は。

25 年度は 1,000 億円程度が必要で、政府・与党は基金など一時的な財源を活用する方針だ。 26 年度以降は年 4,000 億円程度が必要となる。

課題は。

私立高向けの支援が拡充されることで、公立高離れの加速や、私立高の授業料の便乗値上げを懸念する声がある。 子育て世帯の負担軽減に効果がある一方、高所得世帯も支援対象とすることへの疑問や、どこまで教育の質の向上につながるかが不透明だといった指摘もある。 (yomiuri = 2-25-25)


高額療養費制度の見直し 受診控えの実態調査 首相「方法を検討」

医療費の患者負担に月ごとの限度を設けた「高額療養費制度」の見直しをめぐり、石破茂首相は 21 日、制度変更による受診控えの実態調査について、「調査をする場合、どういう方法がよいか検討する」と述べた。 衆院予算委員会で、立憲民主党・長妻昭氏の質問に答えた。

高額療養費制度の見直しでは、政府は 2025 年 8 月から 27 年 8 月にかけて、3 段階で限度額を引き上げることを想定していた。 だが、がん患者らからの不安の声を受け、長期の治療を受ける人向けの「多数回該当」は、据え置く方針を表明している。 長妻氏はこうした見直しによって、どのような人に影響が及ぶのか、受診控えの実態を調べるよう求めた。 一方、受診控えによる医療費の削減額に関して、福岡資麿厚生労働相は、経験則にあてはめて機械的に計算した場合、「段階的な見直しが終了した時点で約 1,950 億円」と答弁した。

患者団体は、長期治療者向けの多数回該当を据え置く方針に一定の評価をしているが、制度全体の見直しの実施を「凍結」するよう求めている。 石破氏はこの日、立憲の酒井菜摘氏の質問に対し、据え置き方針への修正といった対応について、「政府全体、最終的に私の判断に基づくものだ」と答えた。 (asahi = 2-21-25)

◇ ◇ ◇

高額療養費の見直し 長期治療者向けの負担増を見送りへ 厚労相表明

医療費の患者負担に月ごとの限度を設けた「高額療養費制度」の見直しをめぐり、福岡資麿厚生労働相は 14 日、長期間の治療が必要な人の負担増を見送る考えを表明した。 限度額の引き上げ案に対しては、がん患者らから不安の声が上がり、国会でも厳しい議論が続いてきた。 福岡氏はこの日、がん患者らと面会し負担増の見送りを伝えた。

制度には、月ごとの限度額に加え、長期の治療を受ける人向けの「多数回該当」という仕組みがある。 直近 12 カ月以内に 3 回以上、限度額に達した場合に、4 回目から限度額が引き下げられる。 2025 年 8 月から 27 年 8 月にかけて、3 段階での引き上げを想定していたが、これを見送る。 (足立菜摘、asahi = 2-14-24)


「待っていても駄目」 学生とのつながりづくりに動く、愛知の中小企業

「売り手市場」といわれる新卒学生の採用は、知名度に劣る中小企業には大きな課題だ。 就職活動に取り組む学生とのつながりをどうつくるか。 新たな取り組みに乗り出す経営者たちもいる。

スーツを脱いで、カフェへ

名古屋市の中心部にそびえるテレビ塔。 そのすぐ近くにあるカフェで 1 月 15 日の午後、大学生を対象にした就活イベントが開かれていた。 ブースを構えたのは、愛知県内の中小企業 12 社。 「業界研究会」と銘打ち、1 年生でも参加できる。 「大学で『早めに動いた方がいいぞ』と言われたので。」 伊藤功宗さん (19) は、愛知東邦大学の 1 年生。 各社の社長や若手社員らに、仕事の内容などを積極的に尋ねていた。 一緒に 5 社のブースをまわった同級生の上松楽さん (19) は「まだ『将来、何をしようか』という状態で(友達に)付いてきた。 会社によって働き方も様々で、これからも説明会に参加したい。」

主催した愛知中小企業家同友会がカフェでイベントを開くのは、昨年 11 月に続き 2 回目。 大学や貸会議室での「堅苦しい」合同説明会と違い、学校の帰りやアルバイトに行くまでの時間つぶしとして、気軽に参加してもらう狙いだ。 ドリンクは飲み放題。 4 社以上の話を聞くとクオカードがもらえる。 服装も自由で、リクルートスーツは原則禁止だ。 同会の共同求人委員長を務める鶴田修一理事は、「どんな仕事があるのかを知ってもらい、できれば各社のインターンにつなげたい。 なにせ、知名度が低い中小企業にとっては、会社の存在を知ってもらうことが大事。」と話す。

接点づくりが一番の難関

各社のブースには、自社の製品や仕事に使う機器などが置かれ、実際に触ってみることもできる。 機械用のプラスチック製品などをつくるサン樹脂(同県北名古屋市)の磯村太郎社長は、「樹脂といっても(学生には)分からない。 興味がありそうなら次は会社に来て、実際にものづくりを体験してもらう。」 仕事を知ってもらうことで、入社後の離職も防げるという。

セメントなどのプラント機器を扱う昭和鋼機(名古屋市)のブースでは、人事担当の芝田康太さんが、中小企業で働くことの楽しさを伝えていた。 毎年 2 - 3 人を採用しているが、短期で離職する社員はほとんどいない。 「入社後はできるだけその社員に『合う』仕事をしてもらう。 合う仕事がなければ、合う仕事を社長がつくってしまうこともある。」

経営者と社員の距離が近い、中小企業ならではの魅力をどう伝えるか。 辻孝太郎社長は「まず、最初の接点を持つところが一番難しい。」 人材獲得競争ではライバルにもなる各社。 だが、イベントでは、お互いのブースを紹介し合う様子もみられた。 ある社長は、「話を聞いて、別の会社の方が合うと思えば、惜しみなく紹介します。」

働く楽しさを選択肢に

民間調査会社の帝国データバンクの昨年 10 月の全国調査では、正社員の不足を感じている企業は 51.7% だった。 愛知・岐阜・三重 3 県でも人手不足を主因にした倒産が 24 年には 22 件と、前年から倍増した。 産業界全体で人手不足が深刻化しているが、とりわけ中小企業の危機感は強い。 最近は、初任給を 30 万円以上に引き上げるといった大企業の動きが相次いで報じられている。 中小企業の経営者からは「給料の面ではどうやっても太刀打ちできない」との声も漏れる。

経営者との距離が近く、様々な仕事に挑戦できる。 意思決定が速く、若いうちからその決定に参画できる。 転勤が少なく、ずっと地元で働くことができる - -。 中小企業で働くよさや楽しさをどう伝えるか。 「待っているだけでは駄目だ」と、愛知中小企業家同友会の鶴田理事。 同会では、県内 15 の大学に会員の経営者を派遣。 今年度は 70 人が、90 コマを担当した。

愛知東邦大学でキャリア支援センター長を務める手嶋慎介教授は、イベントへの参加を学生たちに促している。 「『売り手市場』といっても、学生によって意識に差がある。 中小企業という選択肢があることを知ることは、学生にとっても大事だ。」と話す。 (大平要、asahi = 2-2-25)

愛知中小企業家同友会は 3 月 12・13 日、ウインクあいち(名古屋市)で合同企業説明会を開く。 26 年卒の大学・短大・専門学校生が対象。問い合わせは共同求人委員会(052・971・2671)へ。


24 年の労働力人口、過去最多 7 千万人に迫る、高齢者と女性が増加

総務省が 31 日発表した労働力調査によると、15 歳以上の働く意欲がある労働力人口は 2024 年に 6,957 万人で比較可能な 1953 年以降過去最多だった。 前年比 32 万人増え、2 年連続で最多を更新した。 働く高齢者や女性、外国人の増加が大きく、30 年に 7 千万人を超えるという民間予測もある。 労働力人口は、働いている就業者数と仕事を探している失業者数の合計で、働く意欲がある人全体を示す。

6,565 万人だった 12 年以降、増加傾向で推移し、19 年以降は6900万人を上回る水準になっている。24年6月(原数値)に7003万人と初めて7千万人を超えた。24年の就業者数も6781万人で過去最多だった。 少子化で生産年齢人口(15 - 64 歳)は減少している一方、労働力人口は働く意欲がある高齢者や女性が押し上げる。 24 年では、65 歳以上は 946 万人と 00 年から 1.9 倍に。 人口あたりの労働力人口比率は 26.1% と、4 人に 1 人以上が働く意欲がある計算だ。 (asahi = 1-31-25)


立憲、維新、国民民主が連携 介護従事者の処遇改善法案を提出

立憲民主、日本維新の会、国民民主の野党 3 党は 30 日、介護や障害福祉の現場で働く人たちの処遇改善法案を衆院に共同提出した。 衆院での与党過半数割れの状況を生かし、2025 年度当初予算案の審議などを通じて政府・与党に成立を迫る構えだ。 介護や障害福祉の従事者の賃金が低い傾向にあることを踏まえ、法案は賃金の改善を図る介護・障害福祉事業者に対し、助成金を支給するよう都道府県知事に求める。従業員 1 人当たりの賃金をまずは月 1 万円上げることを想定。財源は国が負担し、年約 4,230 億円を見込む。

立憲の井坂信彦・衆院厚生労働委員会筆頭理事は記者団に「政局的にも非常に重要な法案。自民党が賛成しなくても野党の団結で過半数をとり、衆院を通していきたい」と強調。 維新の池下卓副幹事長は「維新はこれまで与党でも野党でもない『ゆ党』と揶揄されてきたが、結党以来、是々非々。与党が過半数割れし、野党が一丸となれば実現できる政策は多くなっている。 必要なものは積極的に他党と協力しながら進めていく」との認識を示した。 国民民主の浅野哲・同委理事も「少数与党の状況を踏まえ、国民の皆さまのためにも協力し実現すべきだと判断した」と語った。

立憲、国民民主両党は 29 日にも、訪問介護事業者の支援法案を共同提出したばかり。 また、3 党は昨年 12 月、災害被災者生活再建支援金の拡充法案や、学校給食無償化の法案も共同提出している。立憲幹部は「共同での法案提出を今後も続け、野党がまとまって与党を揺さぶることで予算の修正や議員立法の成立を実現したい」と話す。 (松井望美、asahi = 1-30-25)


2025 年度の年金額は 1.9% 増加 実質的価値は目減り 厚労省

公的年金の 2025 年度の支給額が 24 日に公表された。 前年度より 1.9% 増える。 増額は 3 年連続。 ただ、将来の給付水準を維持するために減額調整し、実質的な価値は目減りする。 年金額は毎年度、物価や賃金の動きに応じて改定される。 25 年度は、名目賃金上昇率 2.3% から、減額調整の仕組み「マクロ経済スライド」分の 0.4% を差し引く。 1.9% 増えるが、実質的には減額となる。

自営業や無職などの人が加入する国民年金は、月額 6 万 9,308 円(前年度比 1,308 円増)。 会社員や公務員が入る厚生年金は「平均的な収入で 40 年間働いた夫と専業主婦の妻の 2 人分」のモデル世帯で、国民年金を含めて月額 23 万 2,784 円(同 4,412 円増)となる。 厚労省は今回、加入期間による年金額の概算も公表した。

いずれも月額で、厚生年金に 20 年以上加入した男性は 17 万 3,457 円、女性は 13 万 2,117 円。 会社員の配偶者の「3 号被保険者」期間が 20 年以上ある女性の場合は、7 万 6,810 円となった。 働く高齢者の厚生年金の一部が減額となる「在職老齢年金」制度で、25 年度の減額基準額は、賃金と厚生年金部分を合わせて 51 万円に改定される。 (高絢実、asahi = 1-24-25)

ライフコースに応じた年金額(月額)

  1. 厚生年金期間が 20 年以上ある男性の場合
    24 年度 : 17 万 0,223 円 → 25 年度 : 17 万 3,457 円(前年度比 +3,234 円)
    内訳は基礎年金 : 6 万 8,671 円、厚生年金 : 10 万 4,786 円

  2. 国民年金(1 号被保険者)期間が 20 年以上ある男性の場合
    24 年度 : 6 万 1,188 円 → 25 年度 : 6 万 2,344 円(前年度比 +1,156 円)
    基礎年金 : 4 万 8,008 円、厚生年金 : 1 万 4,335 円

  3. 厚生年金期間が 20 年以上ある女性の場合
    24 年度 : 12 万9654円 → 25 年度 : 13 万 2,117 円(前年度比 +2,463 円)
    基礎年金 : 7 万 0,566 円、厚生年金 : 6 万 1,551 円

  4. 国民年金(1 号被保険者)期間が 20 年以上ある女性の場合
    24 年度 : 5 万 9,509 円 → 25 年度 : 6 万 0,636 円(前年度比 +1,127 円)
    基礎年金 : 5 万 2,151 円、厚生年金 : 8,485 円

  5. 国民年金(3 号被保険者)期間が 20 年以上ある女性の場合
    24 年度 : 7 万 5,379 円 → 25 年度 : 7 万 6,810 円(前年度比 +1,431 円)
    基礎年金 : 6 万 7,754 円、厚生年金 : 9,056 円


伊藤忠、平均年収 10% 増へ 賞与は成果によって「最大 4 倍」の格差

伊藤忠商事は 9 日、2025 年度の社員の平均年収を前年度比で約 10% 増やすと発表した。 賞与のうち個人の成果で額が決まる部分については、最も高い成果をあげた社員と、標準的な社員との差をこれまでの約 3 倍から約 4 倍に広げる。 社員の意欲を高め、優秀な人材の確保につなげる狙いだ。

伊藤忠には業績や職位に応じて社員へ自社株式を付与する制度があり、今月 1 日の法令改正で付与できる上限額が 200 万円未満に倍増されたことを踏まえ、25 年度から付与額を 2 倍に増やす。 また、それに伴い増える社員の税負担を補う分として、全社員の固定給(月例給)を 2 - 3% 増やす。 こうした年収の引き上げは、25 年 3 月期に見込む純利益 8,800 億円の達成が前提となる。

同社の 23 年度の平均年収は 1,754 万円(平均年齢 42.3 歳)。 年収引き上げ後は、たとえば課長クラスで評価が最も高いと約 3,500 万円になるという。 広報部は「他商社との年収差を縮めて社員のモチベーションを維持し、採用競争力をさらに高めたい」と説明する。 同じ総合商社の三菱商事は、23  年度の平均年収が 2,090 万円(平均年齢 42.7 歳)となっている。 (宮崎健、asahi = 1-9-25)


日本郵便、買いたたき疑いでも公取委から指導 対応改善表明の後に

日本郵便が、宅配便「ゆうパック」の委託先の配送業者から求められた、コスト上昇分を委託料に反映する価格転嫁に十分に応じなかったなどとして、公正取引委員会が昨年 6 月、下請法違反(買いたたき)の疑いで同社を行政指導していたことが関係者への取材でわかった。 日本郵便を巡っては、一部の郵便局が顧客の苦情の際などにゆうパックの委託業者から不当に高額な違約金を受け取り、公取委に昨年、同法違反(不当な経済上の利益の提供要請)を認定され、行政指導を受けたことが判明している。

価格転嫁「最低評価」だった日本郵便

価格転嫁については中小企業庁が 2023 年 2 月、物価高騰によるコスト上昇分が下請け業者の取引価格に適切に反映されているか、調査した結果を公表した。 様々な業種の下請け 15 万社が調査対象で、下請け 10 社以上から名前が挙がった発注元 150 社のうち、最低評価が日本郵便だった。 調査では、コスト上昇分をどの程度価格に反映できたかを下請け業者の回答をもとに点数化。  「コストが上昇しているにもかかわらず減額された」との回答はマイナス 3 点で、平均点が「0 点未満」となったのは日本郵便だけだった。

総務省は 23 年 3 月末、日本郵便の 23 年度の事業計画を認可する際に、委託先企業との価格転嫁について積極的に協議や相談に応じ、適正な条件で契約するよう要求した。

対応改善、表明したが …

日本郵便は 23 年 4 月、委託先との価格交渉について自主点検結果を公表。 配業務を委託している全国約 1 千の郵便局と 13 支社のうち、コスト増による委託料の引き上げ要請に協議せずに応じなかったり、委託料据え置きの理由を文書などで伝えなかったりした事例が 139 局と 2 支社で見つかった。 下請法などの認識が不十分だったとし、契約内容を見直す協議を積極的に持ちかけるなど、対応を改善すると表明した。

親会社の日本郵政の増田寛也社長は同月の記者会見で、「(中企庁の調査で)日本郵便の点数が低いというのは不名誉なこと」と話し、委託会社と協議の場を設ける必要性を訴えた。 だが関係者によると、その後も十分な価格転嫁がなされていないとの情報などを公取委が把握し、調査を進めた。 複数の下請け業者に関し、委託料の引き上げ要請があっても十分な協議をせずに応じない事例や、引き上げが不十分な状態が続いていた事例が確認された。

公取委は、下請法が禁じる「買いたたき」に当たる疑いがあると判断。 日本郵便に対して是正するよう指導したという。 指導は 24 年 6 月で、違約金についてのものと同時だった。 いずれの指導も公取委、日本郵便とも公表しておらず、取材で明らかになった。 日本郵便は取材に「行政指導の有無についてはお答えすることはできない」とし、「(委託業者と)積極的に協議を行い、コストの高騰を反映した委託料の見直しを行っていく」と文書で回答した。

中野洋昌国土交通相は 7 日の閣議後会見で、違約金について「あらかじめ合意をされた金額を超えて一方的に徴収するようなケースについて、下請法などの関係法令に抵触するのであれば、当然それは適切なものではない」と述べ、「公正取引委員会などの関係省庁とも連携をし、引き続き事実関係の把握に努める」と話した。 (編集委員・沢伸也、高島曜介、増山祐史、asahi = 1-8-25)

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国交相、一方的な違約金徴収「適切でない」 日本郵便の下請法違反で

宅配便「ゆうパック」の配達で日本郵便が委託業者から受け取っている違約金を巡り、同社が公正取引委員会に下請法違反を認定された問題で、中野洋昌国土交通相は 7 日の閣議後会見で、「あらかじめ合意をされた金額を超えて一方的に徴収するようなケースについて、下請法などの関係法令に抵触するのであれば、当然それは適切なものではない」と述べた。

物流業界では、労働時間の規制強化でドライバー不足が生じ、物流の停滞が懸念される「2024 年問題」が課題となり、国交省はドライバーの待遇改善などを進めている。 中野国交相は、ドライバー不足の対策は「喫緊の課題であり、官民一体となって待遇の改善に全力で取り組む必要がある」とし、違約金の問題について「公正取引委員会などの関係省庁とも連携をし、引き続き事実関係の把握に努める」と話した。

総務相「法令順守して行われるべき」

日本郵便は総務省が所管する。 村上誠一郎総務相は 7 日の閣議後会見で、日本郵便の違約金制度について「承知しており、関係法令を順守して行われるべきもの」とし、「適正な条件での契約に基づきサービスが安定的に提供されるよう求めていきたい」と話した。

違約金は日本郵便が 03 年から制度として導入。 「誤配達」、「たばこの臭いのクレーム」など項目ごとに目安の金額を内規で定め、委託業者から徴収している。 公取委は 23 - 24 年、関東地方にある郵便局と委託業者の契約を調査。 違約金額が不当に高額で、十分な説明なく複数の委託業者から徴収したとして下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)を認定し、24 年 6 月に同社を行政指導した。 (増山祐史、asahi = 1-7-25)


25 年度の賃上げ予定、中小は半数弱 日商調査、連合の 6% 目標遠く

日本商工会議所は、2025 年度の中小企業の賃上げに関する調査結果を発表した。 回答企業の 48.5% が所定内賃金の引き上げを予定する一方、「賃上げしない予定」が 25.3%、「現時点では未定」も 26.1% にのぼった。 消費者向け業種や小規模事業者で賃上げに慎重な姿勢が目立つ。 賃上げの波を中小企業に広げ、大企業との格差是正を進めることの難しさを示す結果となった。

日商は 25 年春闘が本格化する前に中小の経営者の賃上げに対する意識を把握しようと、先月 12 - 18 日に全国の会員企業を対象に調査を実施。 1,932 社から回答を得た。 日商が次年度の賃上げ予定を調査するのは初めて。 賃上げを実施予定の企業の割合を業種別にみると、建設業・卸売業・製造業は 55% 前後だった一方、小売業は 34.1%、サービス業は 45.1% だった。 企業間取引が主の業種より、「BtoC (一般消費者向け)」が主の業種の方が原材料費やエネルギー費、労務費の増加分の価格転嫁が難しく、賃上げ原資の確保に苦しんでいる状況を映す。

会社の規模別にみると、従業員 101 人以上は 58.9%、10 - 100 人は 61.2% だったのに対し、9 人以下の企業では 31.7% にとどまった。 小規模事業者ほど賃上げ原資の確保が難しいことを示す結果で、日商の小林健会頭は「今年は小規模事業者の底上げをしなければいけない」と話す。

賃上げを予定する企業としない企業にそれぞれ複数回答で理由を聞いたところ、賃上げする理由は「人材確保・定着やモチベーション向上 (87.8%)」が最も多く、「物価上昇」、「最低賃金の引き上げ」と続く。 賃上げをしない理由は「今後の経営環境・経済状況が不透明 (65.9%)」が最多で、「業績改善がみられない」、「十分に価格転嫁できず収益が圧迫されている」と続いた。 賃上げを予定する企業のうち、業績改善を伴う賃上げを予定する企業は 32.8% にとどまり、業績は改善していないが人手確保などのために実施する「防衛的な賃上げ」を予定する企業が 67.2% にのぼった。

回答企業からは「さらなる賃上げの必要性は理解しているが、業績が改善する見込みもなく、慎重な検討が必要(セメント製造業)」、「原資不足で賃上げができない(紙・加工品製造業)」などの声が出ており、一部の企業には賃上げへの息切れ感もにじむ。 賃上げを予定する企業に賃上げ幅(賞与を加えた年収ベース)を聞いたところ、「5% 以上」が 11.2%、「4% 台」が 14.0%、「3% 台」が 23.1%、「2% 台」が 17.9%、「1% 台」が 10.8%、「1% 未満」は 0.7% だった。

連合は来春闘の賃上げ目標を「5% 以上」とし、中小企業は大手との格差是正分(1% 以上)を上乗せして「6% 以上」とする方針だ。 連合の目標と中小企業の賃上げ意欲との隔たりは大きく、小林会頭は連合の目標について「その心意気や良し。 だが、非常に高い目標だ。」と話す。 「現時点では未定」と答えた 4 分の 1 の企業の動向が、大手との格差是正の行方を左右しそうだ。 (木村裕明、asahi = 1-1-25)


止まらぬ物価高、絶えぬ列 大みそかの弁当配布に 355 人

物価高が続くなか、NPO 法人「TENOHASI (てのはし、東京都)」が 31 日、豊島区の東池袋中央公園で、仕事や住まいを失うなどした人たちに向け、大みそかの食事を無償で提供した。 午後 6 時からアジフライ弁当を配ると、355 人が並んだ。 「食料品の値上がりで、毎日の生活が本当に苦しい。 無料提供は 1 食でもありがたい。」 新宿区の男性 (72) は、30 年以上とび職をしてきたが、両ひざに人工関節を入れた数年前から働けなくなり、月 7 万円ほどの生活保護費で暮らす。 物価高の影響でこれまでの 3 分の 2 程度しかスーパーで食料品を買えなくなった。 「好きなみかんが、1 袋 600 円では買えない。 楽しみは週 1 回のお風呂だけ。」

年金だけでは暮らせず約 2 年前から生活保護を受ける荒川区の女性 (68) は、灯油の値上がりで、今年から石油ストーブを使うのをやめたという。 てのはしの清野賢司事務局長は「物価高が生活困窮者をさらに苦しめている。 食事提供に並ぶ人は昨年より増えており、いつ収まるのか見通せない。」と話す。 てのはしは同公園で、2 日午後 5 時から食料を、4 日午前 10 時半から衣類を配布する。 2 日は医療相談も行う。 (御船紗子、asahi = 12-31-24)


公益通報制度に刑事罰導入へ 対象は解雇と懲戒 改正法案提出方針

消費者庁の有識者検討会(座長 = 山本隆司・東京大学大学院教授)は 24 日、事業者が公益通報を理由に解雇や懲戒処分をした場合、刑事罰を科すことを求める報告書をまとめた。 これを踏まえ、政府は来年 1 月に召集される通常国会に公益通報者保護法の改正案を提出する方針。 現行の公益通報者保護法では、通報者に対して解雇や懲戒処分といった不利益な取り扱いをすることを禁じているが、罰則規定がなく、通報者保護の観点から不十分との声があがっていた。 刑事罰を導入することで、事業者による通報者への「報復」の抑止力とすることが狙いだ。 政府は今後、罰則の程度を詰める。

また、不利益な取り扱いを巡り、通報者が勤務先を相手取って民事裁判を起こした際、公益通報した日から 1 年以内の解雇と懲戒処分については、通報者ではなく事業者側に立証責任を負わせる(立証責任の転換)制度の導入を盛り込んだ。 現行では、「公益通報を理由に不利益な取り扱いが行われたこと」について、通報者が原則、立証することになっている。 検討会では、情報や証拠資料が事業者側に偏っていることなどから、通報者の負担軽減を考慮した。

このほか、現在は法律の運用を示した指針で禁止されている「通報者捜し」を、新たに法律で禁止することも提言。 検討会ではこれについても罰則を設けるべきだとの意見も出たが、「罰則に値する反社会性の高い行為とまでは言えない」といった意見もあり、罰則規定は見送られた。 (井上道夫、asahi = 12-24-24)