配偶者控除の年収制限、1,220 万円まで緩和措置 政府・与党が調整 政府・与党が配偶者控除の見直しで、税収減を避けるために設ける夫の所得制限について、年収が「1,120 万円」を超えると徐々に控除の額を減らし、「1,220 万円」で控除をなくす方向で調整していることが 25 日、分かった。 高所得者の世帯の手取りが急減しないよう配慮する。 配偶者控除は、パート主婦らの年収が 103 万円以下であれば、夫の所得から 38 万円を減らし、税負担を軽減することができる仕組み。 政府・与党は妻の年収要件を 103 万円以下から「150 万円以下」に引き上げる方向で最終調整している。 その場合、パート妻がいる世帯を中心に 300 万世帯強に控除の対象が広がるため、その分の税収が落ち込むのを防ぐには、高所得の世帯を控除の対象から外す所得制限が必要になる。 政府・与党は、徐々に控除額が減っていく形の所得制限を検討している。 具体的には、夫の年収が 1,120 万円以下までは 38 万円の控除を受けられるが、1,120 万円超からは段階的に控除額が減っていって、1,220 万円になるとゼロになる仕組みだ。 一定の年収を境にすべての控除を一気に適用外にすると急に世帯の手取額が減ってしまうため、激変緩和するための措置だが、与党内には制度の複雑化を懸念し、年収 1,120 万円を超える世帯をすべて対象から外すべきとの意見もある。 自民、公明両党は 25 日午後に与党税制協議会を開催し、配偶者控除見直しについて調整を進める。 12 月 8 日に平成 29 年度税制改正大綱をまとめる方向だ。 (sankei = 11-25-16) 配偶者控除「103 万円の壁」が崩れる巨大衝撃
「配偶者控除」見直しの議論が大詰めを迎えている。 自由民主党税制調査会では今、パート主婦が年間の収入「103 万円」を超えても働きやすくなるよう、配偶者控除を適用される条件について、現状の 103 万円から引き上げる議論が続いている。 人口減による人手不足感が高まる中、また、共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回る中、税のみならず、社会全体が変化を求められていることを反映した動きだ。 配偶者控除とは、配偶者(たとえば妻)の収入が 103 万円以下の場合、世帯主(たとえば夫)の給与所得から 38 万円を引き、世帯主の納税額を少なくするという仕組みである。 そもそもが、夫が妻を養っていることに配慮するとともに、妻の内助の功に報いるためにできたもの。 ただ、妻がパートで働く場合、世帯全体の手取り額が減るのを防ごうと、自らの収入を 103 万円以下に抑えようとしてしまう。 これが税における「103 万円の壁」とされ、女性の社会進出を阻む原因とされてきた。 なぜ 103 万円以下に抑えようとするか 改めて配偶者控除の抱える問題点を確認すると、@ 就労の壁、A 公平性、B 高所得者優遇が挙げられる。 ここでは、労働力不足で最大の問題とされている、配偶者自身が感じる就労の壁について説明したい。 パート主婦にとって働く意欲の障害となっている理由は、「世帯主の手取り減少」、「配偶者への課税」、「配偶者手当の停止」の 3 つだ。 配偶者の収入が 103 万円を超えると、世帯主の手取り額が減少するばかりでなく、配偶者本人にも課税が始まることになる。 後述するが、現在およそ 7 割の企業で導入されている配偶者手当でも、配偶者の収入が 103 万円を超えると、支給要件を欠いてしまうことが多いのである。 具体的に 103 万円を超えるとどうなるか。 一例を挙げてみたい。 配偶者の収入が、A : 90 万円から 95 万円に増えるケースと、B : 100 万円から 105 万円に増えるケースを想定する。 現状では B のように 103 万円の壁を超えると、配偶者控除の縮小による税負担増、配偶者自身への所得税・住民税への課税開始、企業からの配偶者手当(月 2 万円と仮定)の支給停止で、手取り額は約 20 万円減ってしまうのだ。 まさに "働き損" である。 働けるのに働かない選択をすることは、国としても大きな無駄であり、今回の議論でも一番の問題とされている。 本稿の執筆時点では、配偶者控除の収入の条件を、現行の「103 万円」から「150 万円」まで引き上げる案が有力だ。 その代わり、高所得者まで適用されるのを避けるため、世帯主の年収制限という条件を付けるという。 これによって実際に改正された際、世帯の手取り額がどう変化するか、パート主婦と専業主婦のケースを比較してみよう。 働く女性は減税、高所得世帯は増税 まず妻がパート主婦のケース。 これは夫の年収が 500 万円なら、妻のパート収入が 103 万円を超えると、影響が出てくる。 パート収入が 110 万円に増えると 1.4 万円、収入 130 万円だと 5.4 万円、収入 140 万円だと最大 7 万円分、手取り額も増加するというメリットだ。 次に配偶者が専業主婦のケース。 これは夫の年収が制限に引っかかるかどうかがカギを握ってくる。 年収制限を超えなければ今と変わらないが、超えると配偶者控除そのものも適用されなくなるため、手取り額が減少するというデメリットだ。 年収制限の金額は流動的だが、たとえば夫の年収が 1,500 万円とすれば、年間 12 万円程度の負担増になる。 いわば今回の制度改正は、高所得の世帯主を持つ収入ゼロの専業主婦や、収入を 103 万円以下に抑えるパート主婦に対して増税する反面、収入が 103 万円以上でより働きたいとする女性を減税するという構図だ。 では、配偶者控除の適用を拡大すれば、本当に女性の就労拡大に結びつくのだろうか。 忘れてならないのは、配偶者控除だけでなく、企業が支給する配偶者手当や、健康保険や厚生年金など社会保険料の控除が、今後どう変化するかである。 ひとつめの配偶者手当については、従来通りに支給要件を配偶者控除と同じように拡大すれば、企業の負担は増える可能性がある。 そもそも配偶者手当については、同一賃金・同一労働の原則から外れるものであり、正規 - 非正規間の格差の要因にもなりやすい。 経団連が所属企業に見直しを要請する方針であること、公務員の配偶者手当についても見直しが議題にのぼっていることなど、状況は変わっている。 企業は配偶者手当を縮小・廃止し、浮いた原資を子ども手当などに充てる方策が想定される。 もうひとつの社会保険だが、現状では、パート収入が 130 万円を超えると(中小企業が対象)、配偶者は約 18 万円の社会保険料を負担しなければならない。 社会保険における「130 万円の壁」だ。 これも税と同様に、妻が収入を 130 万円以下に抑えようとする原因になっていた。 今年 10 月からは大企業に限って適用が拡大され、社会保険料を納めなくてもよい扶養条件が 130 万円以下から 106 万円以下へと引き下げられている。 これから配偶者控除の見直しを受け、社会保険制度も改正される可能性があるだろう。 「103 万円の壁」という配偶者控除見直しによる就労増は、一定程度の効果はあるものの、限定される。 ただ、働かない方が得をする制度が続くのは望ましくなく、税制や社会保険制度の改革は重要だ。 同時に保育所増設や職業訓練の実施のような、女性が働ける環境整備も必要である。 結局、誰もが無理なく参加できるような形にすることが、安定・継続的に、働く女性の就労をより後押しすることにつながっていくに違いない。 (柵山順子 : :第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト、東洋経済 = 11-23-16) 所得税改革、財務省の誤算 「就労の壁」引き上げ模索へ 財務省が掲げる所得税の配偶者控除見直しが、早くも軌道修正されそうだ。 政府の働き方改革に沿った「夫婦控除」への衣替えをめざしたが、中間所得層への負担増となりかねず、与党内から選挙への影響を心配する声も出てきた。 まずは配偶者控除の「壁」を引き上げる妥協策を探ることになる。 所得税改革は、財務省などが 2013 年から議論してきた。 政府税制調査会は昨年 11 月の論点整理で「税負担の累進性を高めることで、低所得層の負担軽減を図る」と明記した。 高所得者への税金を重くし、低所得者は軽くする「再分配機能」を高める狙いだ。 若い層を中心に非正規社員の比率が高まり、所得の少ない世帯が増加。 消費低迷の一因になったとの問題意識がある。 配偶者控除の見直しも、出発点は同じだ。 専業主婦世帯は高所得でも税負担が軽くなるが、パート世帯などは夫婦のうち収入の多い方が配偶者控除を受けられるよう、一方が年収を 103 万円以下に抑えるために仕事量を減らしているという見方だ。 「就労の壁」とも言われ、健康保険料や国民年金保険料の負担が生じる年収 130 万円の壁などもある。 安倍晋三首相が 6 月に「働き方改革」を打ち出すと、配偶者控除の見直し機運が高まった。 働き方にかかわらず対象になる「夫婦控除」に衣替えすれば、年収調整の必要性が薄れて家計の収入増につながり、政府にとっては納税者を増やせる。 財務省は、これを機に所得税を抜本改革する準備を始めた。 さらに再分配機能を高めるため、「所得控除」から「税額控除」への転換も掲げた。 配偶者控除の場合、いまは課税ベースとなる所得を計算するときに一律 38 万円を差し引く。 所得税率が高い高所得者ほど、恩恵が大きくなる。 これを、最終的に支払う所得税額から一定額を差し引く税額控除にすると、所得にかかわらず同じ額の負担が軽くなる。 ■ 選挙控え負担増懸念 ところが、税額控除は、専業主婦世帯や高所得世帯で増税のケースが出る。 税収の総額が変わらないように制度設計する方針だからだ。 さらに夫婦控除を導入する場合、税収を減らさないように控除の対象者を絞る考えだった。 これに政治家から懸念が出た。 公明党幹部は「来夏は東京都議選。 負担増の話は難しい。」と話す。 菅義偉官房長官も慎重とされる。 永田町では年明けの衆院解散・総選挙の見方まで出て、慎重論が広がる。 「一度にやろうとしてもできない。 103 万円の壁の解消が先。」 9 月下旬、財務省の大臣室で麻生太郎財務相は佐藤慎一事務次官に所得税改革の進め方の再考を指示した。 政府は、ひとまず来年度税制改正では、基礎控除額を増やすなどして所得税の「壁」を 103 万円から引き上げる案を中心に検討を進めそうだ。 増税世帯への負担を増やしすぎない配慮もする。 その分、改革は小粒になる。 税額控除で再分配機能を高める抜本改革は、もっと遠のく。 政府税調の委員の 1 人は「再分配を高める貴重なチャンスだった。 働き方改革だけで進めてしまうと、議論が広がらない。」と話す。 (奈良部健、久木良太、asahi = 10-5-16) パートに「106 万円の壁」 厚生年金の加入対象拡大で 年収約 106 万円(月収 8 万 8 千円)以上などの条件を満たすパートたちが、10 月 1 日から新たに厚生年金の加入対象になる。 対象は 25 万人程度の見込み。 老後の生活安定につながる一方、保険料負担を避けるため勤務時間を減らす人も出そうだ。 人手不足に悩むスーパーなどでは影響を懸念する声も上がる。 厚生年金の対象拡大は、パートと正社員との格差を狭める狙いがある。 老後には厚生年金が上乗せされ、国民健康保険よりも給付が手厚い正社員向けの健康保険にも加入できる。 ただ、悩ましい選択を迫られそうなのは、勤め人の夫がいるパートの主婦らだ。 夫の扶養に入って社会保険料を払っていない主婦らは約 10 万人。 こうした人が厚生年金や健康保険の加入者になれば、自ら保険料を払わなければならない。 東京都内の人材会社でパートで働く主婦 (45) は 10 月から週 21 時間だった勤務時間を 1 時間半減らし、収入を抑えることにした。 「老後の安心を考えると厚生年金に入りたい。 でも今は 2 人の子供に手がかかり、手取りを維持できるほど勤務時間を増やせない。」 今回の加入対象となる条件のうち、年収約 106 万円の一線は、パートの働き方に影響を与えそうだ。 社会保険料を払っても手取りが減らない年収はいくらか。 ファイナンシャルプランナーの荻野嘉彦氏によると、年収 105 万円のパート主婦が収入を増やしたい場合、年収 124 万円以上にすれば手取りが増えるという。 この主婦の夫が年収 500 万円の会社員なら夫の所得税や住民税が増えるので、世帯の手取りが増える主婦の年収は 131 万円以上になる。 妻の年収が 103 万円以下なら夫の所得税に配偶者控除があるが、政府税制調査会はこの控除を見直す議論に着手。 「103 万円の壁」を取り除いて妻が働く時間を調整しなくていい仕組みにする考えだが、皮肉にも働く時間を減らす動きが出ている。 ファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏は「手取り額を減らしたくないからといって安易に労働時間を減らさない方がいい」と指摘。 病気やけがの時の保障や年金額の増加などメリットは大きいからだという。 ■ 人手不足拍車も 「10 月以降、勤務時間を短くするパートさんが増える傾向がある。」 大手スーパー幹部は明かす。 流通・外食などパート従業員を多く抱える業界では、保険料負担によって手取りを減らしたくないパートの主婦らの「働き控え」が、人手不足に拍車をかけるおそれが出ている。 大手スーパーのイトーヨーカ堂では、パート約 3 万 4 千人のうち半数が社会保険に加入していない。 10 月以降、勤務を週に数時間単位で減らす人もいるため、人手が足りなくなる職場も出る見通し。 時間帯ごとの人員配置を見直すことで乗り切る方針という。 中堅スーパーのいなげやでは、パートとアルバイト計約 1 万人のうち約 2 千人が制度変更で新たに社会保険の対象になる。 いまのところ、うち半数超が働く時間を減らす予定という。 東京商工リサーチが 8 月に実施した企業へのアンケートでは、制度変更で予想される影響として「人員確保が難しくなる」ことを挙げた企業が 13.7% あった。 求人情報会社アイデムの岸川宏・人と仕事研究所長によると、外食などの飲食業や清掃業でも「働き控え」の動きが出ているという。 ただ、制度変更の影響を受けるパート主婦らは 10 万人ほどで、「全体として見れば影響は限定的だ」との見方も示す。 (井上充昌、贄川俊、大宮司聡、asahi = 10-1-16) |