「これまで人権ないがしろに」フリーランス、新法に期待 よぎる不安 東京都内のグラフィックデザイナーの女性 (54) は 6 年ほど前から、イベント用の広告やホームページの作成などをフリーランス(個人事業主)として企業から請け負ってきた。 「デザイン一式」、「前回と同じで」。 発注内容はいつもあいまいで、契約書もない。 2022 年、商業施設のイベント広告の作成を広告会社から委託されたことがあった。 チラシ 4 ページ分で、バナーとポスターを含めた報酬は 50 万円の約束。 だが、制作途中に 6 ページに増やすよう求められた。 報酬を増やしてと訴えたが、返事は「最初の予算で組んでいる。 それ以上の返答はできない。」だった。 フリーランスという働き方を守る法律が、11 月 1 日に施行されました。 発注業者である企業などから不当な取引を強いられることを防ぐと期待される一方、当事者の間には不安も残ります。 報酬「2 分の 1」でも泣き寝入り 当初の話では、同様の広告を年 4 回、受注できるはずだったが、年 2 回になった。 あてにしていた報酬が 2 分の 1 に減らされた計算だ。 補償もなかった。 どのやりとりも一方的で、意見を聞いてくれたとは思えなかった。 それでも、取引先の機嫌を損ねて取引を打ち切られたり、依頼が来なくなったりしたらと考えると、泣き寝入りするほかなかったという。 女性がそんな状況について「少しでも変わるかもしれない」と期待するのが、11 月 1 日に施行される「フリーランス法」だ。 同法では「買いたたき」や「不当な報酬の減額」、「一方的な注文内容の変更」などが禁止行為と位置付けられた。 女性のケースでも、チラシのページを増やしながら報酬額を据え置く行為などは「注文内容の変更」に該当しうる。 発注者は公正取引委員会から必要な措置をとるよう、勧告を受ける可能性があり、それに従わないと命令が出される。 どちらも社名が公表される。 「一人社長」の場合は 抑止は効くか 「これまでフリーランスの人権はないがしろにされてきた。 法律がその是正の一歩になれば。」 女性はそう話す一方、疑問もあるという。 3 年ほど前に受注したホームページのリニューアル業務で、報酬 40 万円の半分も支払われないまま、発注者と音信不通になったことがあった。 発注者は、従業員を持たず 1 人で会社を運営する、いわゆる「一人社長」だった。 法律の禁止行為のペナルティーは一般企業だけで、一人社長は対象とならない。 法律で一般企業に科される社名公表についても、女性は「名も知られていない会社の違反が公表されても、ニュースにもならず広く知られることもないと思う。 違反に対する抑止は効かないのではないか。」と心配する。 漫画家女性、連載途中で突きつけられた一方的な契約書 法律では、あらゆる発注者に対し、取引条件を書面などで明示するよう、義務づけられた。 どんな効果があるのか。 千葉県の 30 代女性は、フリーランスの漫画家として複数の月刊連載などを持つ。 会社員として務めた時期に経理補助の担当経験もあり、契約内容などはなるべく確認するようにしてきた。 ただ、漫画業界では契約書を交わさずに作業に入るのが一般的。 業務内容や原稿料は口頭とメールで確認したが、著作権使用料(印税)についての詳細は記載がなかった。 ネット上で出す漫画の電子印税について、あいまいなまま連載がスタートした。 電子印税は半年以上たっても入らなかった。 出版社側に問い合わせると、電子印税は高額な「経費」を差し引いた分のみ支払うと言われ、契約書へのサインを求められた。 一方的だと感じた。 「自分の仕事が軽視され、電子印税もほとんど入らないのは納得できない。」 女性は契約書にサインせず、連載は再開未定のまま休載せざるを得なくなったという。 法律では、当初交わす契約書やメールなどの文面で、印税についても詳細に記載しなければならなくなる。 違反すれば買いたたきなどと同様にペナルティーの対象だ。 介護事情、配慮どこまで … 女性は当時、手術で数カ月間入院した母親の介護など私的な事情が立て込んでいたが、出版社からは十分な配慮を得られなかったという。 法律では、こうした事情を抱えたフリーランスへの配慮を求める規定も設けられた。 女性は「どこまで権利として認められるかはわからないことも多い。 業界の働き方を考えるきっかけになれば。」と言う。(高島曜介) 働きやすい環境へ、発注側に義務と七つの禁止行為 1 人で仕事を受注して働くフリーランスを保護し、働きやすい環境を整備する「フリーランス法」が 1 日、施行された。 業務の発注側には取引条件を明示する義務などが課され、買いたたきなどの禁止行為も定められた。 政府の 2020 年の調査では、フリーランスは国内に推計 462 万人(うち副業が 248 万人)いるとされる。 フリーランスは労働基準法などの保護の対象外で、企業との交渉に弱く、不当な取引を強いられやすいことが問題となってきた。 フリーランス法はそうした問題を是正するためにできた。 発注側は業務内容や報酬額といった取引条件を文書やメールで明示し、報酬の支払期日などを守る義務を負う。 フリーランス新法の対象となる取引 委託期間が 1 カ月以上の取引では、「買いたたき」、「不当な報酬の減額や発注内容の変更」、「無償でのやり直し」など七つの禁止行為も規定。 公正取引委員会が違反行為の是正勧告や命令を出す際には、事業者名や違反内容などを公表するという。 委託期間が 6 カ月以上の場合、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるように配慮することも求められる。 一方、公取委が 5 - 6 月にウェブ上で実施した同法をめぐる実態調査では、「(同法の)内容を知らない」と回答した委託業者は 54.5%、フリーランスは 76.3% だった。 認知度の向上も課題となっている。 (高島曜介、asahi = 11-1-24) 最低賃金 1,500 円に向け「政労使会議」開催へ 実現には曲折も 石破茂政権は、政府・労働組合・経済界の代表が集まる「政労使会議」を近く開き、最低賃金を引き上げるための具体策を練る方針を固めた。 来月にもまとめる総合経済対策に盛る。 石破首相は 1 時間あたりの最低賃金を 2020 年代に全国平均で 1,500 円にしたい考え。 だが、現状から 4 割超の引き上げとなり、曲折も予想される。 政府は 30 日、労働組合の中央組織・連合の芳野友子会長や日本商工会議所の小林健会頭らがメンバーで、経済政策を議論する「新しい資本主義実現会議(議長・石破首相)」を開き、経済対策に入れる重点施策を決めた。 最低賃金の引き上げについて、「早急に、政労使の意見交換を開催し、議論を開始」と明記した。 ただ、引き上げ額や時期の目標は示さなかった。 経済界の一部から出ている反発に配慮したとみられる。 首相は会議の最後で「先の衆院選でも賃上げを求める強い声があった。 政権として最優先で取り組んでいく。」と明言した。 会議終了後、出席した日本商工会議所の小林健会頭は記者団に「(最低賃金の引き上げで)一番心配なのは、支払い能力がなくなって企業が退出してしまうこと。 とくに最低賃金でしか雇えない地方の企業」と語った。 経団連の十倉雅和会長は「あんまり乱暴なことをやると、路頭に迷う人とか、経営者も困る。 早く(大幅な引き上げが)可能な環境を整備していくということが大事」と述べた。 一方、首相は衆院選での与党の大敗を受け、議席を伸ばした野党の政策をとり入れる方針も示している。 最低賃金のアップは野党の多くも公約に掲げており、少数与党が取り組みやすい施策だ。 最低賃金の「2020 年代に 1,500 円」は、首相が自民党総裁選でも訴えた肝いりの施策だ。 今年は過去最大の 51 円の引き上げが実現して 1,055 円となったが、これを大きく超えるペースで上げていかないと、達成できない。 経済界には懸念や反発も広がっている。 自民党も衆院選の公約に「最低賃金の引き上げと加速」と記しながら、金額や時期は載せていなかった。 こうしたなかで、首相がどんな手法で大幅な引き上げにつなげるのかが、注目されていた。 政労使会議は、第 2 次安倍晋三政権が賃上げを促すために 13 年に始めた。 労使交渉への政府の「介入」には賛否両論があり、15 年を最後に開かれなくなったが、岸田文雄前政権が昨年に復活させた。 石破首相は、前政権のスローガンである「新しい資本主義」にもとづく経済政策を、引き継いで加速させる姿勢を鮮明にしてきた。 経済対策に盛りこむと決めた重点施策も、前政権が 6 月に改訂した「新しい資本主義実行計画」に盛りこまれていたものだ。 内閣官房によると、各省庁による所管業種の省力化投資プランの作成や、保育所業務のIT化支援など、早期に取り組むべきものを具体化したという。 (内藤尚志、木村裕明,、asahi = 10-30-24) 品川区が朝の学童創設へ 無償の朝食支援も 来年度予算案で検討 東京都品川区の森沢恭子区長は 26 日、親が働くなどして朝の居場所がない子どものために、区内の区立小学校、義務教育学校の全 37 校で朝の学童の創設を検討していることを明らかにした。 そのうちの数校で朝食を無料で提供するモデル事業も検討するという。 都内で開かれた「朝日地球会議 2024」で、「ウェルビーイング(心身の健康や幸福)な社会の実現に向けて」と題した講演で明らかにした。 「来年度から朝の居場所作りと無償の朝食支援にチャレンジしたい」とした。 森沢区長は、子どもが小学校に進学すると、「保育園より登校時間が遅くなり、親の出勤に影響し仕事を続けにくくなる朝の小 1 の壁がある」と指摘。 親が出勤した後に、子どもが登校時間まで一人で過ごし、さらに朝食を食べない子どもも一定数いるとした。 森沢区長は、区内在住の大学生に対して、所得制限がない給付型の奨学金制度の創設も検討することを表明した。 対象は 100 人規模で、授業料の一部を給付する仕組みを考えているという。 いずれも来年度予算案の編成で盛り込む方針だ。 区では、区立小中学校の学校給食費無償化のほか、今年度から学用品の無償化などを独自に実施している。 森沢区長は取材に「親の経済状況や生まれた環境によらず、地域社会が支えていくことは重要だ。 本来は国がやっていくべきだが、まずは品川区から第一歩を踏み出していきたい」と話した。 (野田枝里子、asahi = 10-26-24) 過重労働、低賃金、人手不足の物流業界を救う DX 「勝負の土台を」 運輸会社の DX (デジタル変革)を支援しています。 物流業界は慢性的に長時間労働、低賃金、人手不足です。 働く人の負担を減らし、経営を効率化し、課題を解決したいと考えています。 人手不足は新しい問題ではありません。 労働時間が長く、賃金が安いところに人は集まりませんから。 ドライバーの賃金を上げるには運賃を上げる必要があります。 しかし、物流の需要に対して供給が少ないのに、価格が上がらない。 経済原理が働いていないのです。 背景には、サービスが差別化しにくく、中小零細企業が多い事情があります。 引き受け手が他にいるから値上げ交渉がしにくいわけです。 さらに、値上げ交渉の土台となるデータ管理ができていない問題があります。 トラックや荷主ごとの利益をタイムリーに把握しておらず、赤字の契約をやめる判断ができない。 データに基づく値上げ交渉もできません。 市場原理が働くためには これを救うのが DX です。 業務管理システムを導入して不採算路線を切り替えるなどし、利益が 20% 上がった会社もあります。 ただ、まだ全体のごく一部です。 国には DX 推進を求めます。 まず規格の標準化です。 現場で使うパレット(荷役台)や、荷物に付けるバーコードの位置、桁数はバラバラです。 日本には規格が三つもあり、業界全体の DX のためには統一が必要です。 運輸会社が国に提出する書類の統一も有効です。 運輸支局ごとにバラバラな形式をまとめて電子提出にすれば、企業の電子化意欲が上がります。 同時に、国の監査の効率も上がります。 値上げ交渉しやすい環境、監視の強化ができて初めて市場原理が働きます。 国には企業が勝負できる土台をつくってほしい。運賃を適正に引き上げられ、賃金が上がれば、人手不足は緩和し、長時間労働も改善できるでしょう。 (宮川純一、asahi = 10-25-24)
賃金カット、若手は転職 … ヘルパー消滅の危機感「報酬減の撤回を」 今春の介護報酬改定で基本報酬が引き下げられた訪問介護。 賃金カットを余儀なくされる事業者もいて、人材不足による在宅介護の崩壊への危機感は強まるばかりだ。 衆院選投開票日が迫るなか、各党の政策を見極めようとする動きも出ている。
19 日午後。 東京・新宿の繁華街で、ケアワーカーや障害当事者らが集会を開き、デモ行進した。 労働組合などが呼びかけた「ケアデモ」だ。 登録ヘルパーとして働く伊藤みどりさん (72) は「現役世代の人が家族に介護が必要になっても、ヘルパーがいなかったら仕事を辞めないといけない。 高齢者だけの問題じゃないんです。」と通行人に呼びかけた。 伊藤さんはホームヘルパーの不安定な労働環境は国の責任だとして国に損害賠償を求める裁判の原告の一人だ。 厚生労働省は、基本報酬は下がっても処遇改善のための加算は手厚くしたと説明してきた。 しかし現場からはマイナス改定後に賃金をカットされたという訴えも。
訪問介護事業や特別養護老人ホームなどを展開する熊本県の社会福祉法人の男性介護職員 (48) は、そう嘆く。 今夏の賞与減額の理由に法人側があげたのは、訪問介護など在宅介護部門の赤字だった。 「事業廃止も検討中」切実な声も 男性は 6 月まで訪問介護事業所のサービス提供責任者を務めていた。 数年前は 10 人以上いた登録ヘルパーの数は半減した。 相次ぐ退職者を補充できないためだ。 最近、同じ法人の若手介護職員が退職届を出した。 半導体関連の仕事に転職すると聞いた。 台湾の半導体メーカー TSMC (台湾積体電路製造)が県内に進出し、関連の求人は活況を呈している。
日本医療労働組合連合会(医労連)は 9 月、14 都府県の訪問介護事業所に基本報酬引き下げの影響を尋ねるアンケートを公表した(回答数 182)。 それによると、マイナス改定後に賞与など一時金の減額があった、との回答が 49 件 (27%) に達した。 自由回答には「事業廃止も検討中」などの切実な声が相次いだ。 医労連は訪問介護の基本報酬を緊急に引き上げるよう求める。 東京商工リサーチが 7 月に公表した調査結果では、1 - 6 月の介護事業者の倒産件数は 81 件で、介護保険制度の施行(2000 年)以降で最多に。 訪問介護が約半数を占める。 厚労省が訪問介護の廃止状況を調べた調査でも、24 年は前年同期比で 10% 程度、廃止事業所が増えていた。 同省は、来年度以降に取り組む訪問介護への「支援強化パッケージ」を明らかにした。 ホームヘルパーの魅力を広報したり、人材確保を支援したりする事業が柱だ。 だが、もともとの介護報酬の低さや移動・待機時間の賃金が十分に支払われないといった課題が改善されるものではなく、関係者からは落胆の声も聞こえてくる。 自治体、独自の支援も 独自の支援を打ち出す自治体も出てきた。 東京都世田谷区は 9 月、介護保険や障害者福祉の事業所・施設に対し、給付金を支給する補正予算(8 億 7,500 万円)を議会で可決。 国の報酬改定の不足分を補うという趣旨だ。 マイナス改定だった訪問介護事業者が最も手厚く、1 業所あたりの給付は 88 万円。 早ければ年内にも給付する方向で調整しているという。 この支援に関連し、世田谷区の保坂展人区長は国の政策を批判。 SNS に「『訪問介護』の報酬引き下げは、許せない誤判断」、「『訪問介護』が国による無理解によって、報酬削減された結果、事業所の閉鎖・倒産が相次いでいる」などと投稿した。 各党はどう対応 今月 27 日の衆院選投開票日が迫るなか、介護関係者らが参加する「ケア社会をつくる会」など 3 団体は、介護保険に関する公開質問を実施し、回答を公開した。 このうち、訪問介護の基本報酬減額について「次期改定期を待たずに撤回を求めることに賛成か」を問うた質問に対しては、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党の野党 4 党が「はい」と答えた(日本維新の会はアンケートに無回答、国民民主党は個々の質問への回答なし)。 一方で与党の自民党は、訪問介護の処遇改善加算の加算率は他のサービスと比べて高いことなどに言及し、「いいえ」を選んだ。 公明党は賛否を明記せず、処遇改善加算の効果検証をふまえた対応を政府に求める、とした。 アンケート結果や各党の自由記述は、認定 NPO 法人ウィメンズアクションネットワークのウェブサイト で読むことができる。 (編集委員・清川卓史、asahi = 10-19-24) 生産年齢人口当たりでは G7 首位 日本の GDP 伸び率、米教授調査 【ブリュッセル】 日本の成長率は、働き手の減少を考慮すれば驚くほど良好 -。 米有力大学の研究者らがこんな調査結果を明らかにした。 日本経済は長く停滞が続くが、実質国内総生産 (GDP) を人口当たりではなく、働き手の中心となる世代に焦点を当てて分析すれば「日本はうまく対処してきた」と評価。 成長には少子化対策が最も重要だと助言した。 米ペンシルベニア大のヘスース・フェルナンデス・ビジャベルデ教授ら 3 人が発表した。 先進国で高齢化が進み、経済成長率を人口 1 人当たりの指標で比べるのは「誤解を招きやすくなっている」と主張、15 - 64 歳とされる生産年齢人口に焦点を当てて分析した。 世界金融危機があった 2008 年から 19 年までを対象にすると、生産年齢人口 1 人当たりの年平均の成長率は日本が 1.49% で、米国 (1.34%) などを上回り、G7首位となった。 日本はモノやサービスの付加価値を生み出す力が弱く、労働生産性はかねて低いと指摘されるが、成長率で比較すると、付加価値の向上で健闘している可能性を示している。 (kyodo = 10-11-24) 4 - 9 月の倒産、10 年ぶり 5 千件超 中堅・中小、物価高に人手不足 物価高や人手不足のあおりを受け、中堅・中小企業の倒産が増えている。 東京商工リサーチが 8 日に発表した 2024 年度上半期(4 - 9 月)の企業倒産件数は前年同期から 17.83% 増え、5,095 件となった。 半期として 5 千件を超えるのは 10 年ぶりだ。 「金融・保険業」を除く 9 産業で前年同期を上回った。 産業別では「サービス業他(1,693 件)」が最多で、「建設業(964 件)」が続いた。 いずれも人件費や資材価格の高騰が響いた。 また、帝国データバンクによると「物価高」に関連した倒産は 472 件で、半期として過去最多を更新した。 物価高によるコスト増を価格に転嫁できずに経営不振に陥ったケースなどが含まれるとみられる。 コロナ禍で実施された、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」利用後の倒産は 360 件で、上半期として過去最多を更新した。 日本銀行が 7 月に追加利上げを実施したことで、今後は企業が運転資金を借り換えるタイミングなどで、利払い負担が増していく可能性が高い。 東京商工リサーチは「これまで低金利で成り立っていたビジネスモデルからの脱却は避けて通れない」としている。 (柴田秀並、asahi = 10-8-23) 佳子さまがガールズメッセに出席「誰もが幅広い選択肢持てる社会に」 秋篠宮家の次女佳子さまは 6 日、東京都内で開かれた、ガールスカウトの活動について知るイベント「ガールズメッセ 2024」に出席した。 女性への暴力をなくすための啓発など、コミュニティーに変化をもたらす活動をしたグループに贈られる賞の表彰式を前に、「誰もが安心して暮らせる社会になることを、誰もがより幅広い選択肢を持てる社会になることを心から願います」とあいさつした。 表彰式では、性被害をなくすだめの子ども向けの教育絵本の製作をしたグループや、激しい迫害にさらされているミャンマーの少数派イスラム教徒のロヒンギャ難民の女性を支援するプロジェクトを行ったグループなどが表彰され、それぞれの活動報告があった。 佳子さまは、表彰された中高生や大学生との懇談で、活動で印象に残っていることや今後の目標聞き、「すごく重要なことをされましたね」と感想を述べていた。 (河崎優子、asahi = 10-6-24) 経済同友会「3 年以内に最低賃金 1,500 円に」新内閣の目標より早く 石破茂首相が最低賃金を 2020 年代に全国平均 1,500 円に引き上げる目標を掲げたことを受け、経済界でも最低賃金をめぐる議論が活発になってきた。 経済同友会が 4 日、3 年以内に全国加重平均で 1,500 円に引き上げるよう石破氏に要望。 一方、中小企業の意見を束ねる日本商工会議所は、最低賃金の大幅引き上げには慎重な検討が必要との姿勢を示した。 経団連、日本商工会議所、経済同友会の首脳が 4 日、官邸を訪れ、石破氏にそれぞれ政策要望を提出した。 経済同友会はその中で、石破内閣の目標を上回る最低賃金の大幅な引き上げを求めた。 経済同友会は新政権への要望で「CPI (消費者物価指数)以上に賃金は上がる」というノルム(社会通念)の定着が必要だと指摘。 賃金が恒常的に上がる仕組みの確立に向け、最低賃金の大幅な引き上げを求めた。 新浪剛史代表幹事は首相との面会後、「日本の最低賃金は世界的に低く、いろんな知恵を集めて上げる努力をしないといけない。 目標を持たないと先々の投資もできない。 目標設定をした上で方法論を考えていく。」と要望の狙いを話した。 最低賃金は大幅な引き上げ基調が続くが、同友会の要望を実現するには今年度の改定額(全国平均 1,055 円)から今後 3 年で 4 割以上増やす必要があり、容易ではない。 一方、経団連の十倉雅和会長は会談後、「最低賃金に張り付いて仕事をしている人たちや経営者のことも考えないといけない。 早く引き上げができるような環境整備も必要だ」と話した。 経団連は、中小企業の意見を踏まえ、賃金の支払い能力を高める支援策とセットで最低賃金を引き上げることが肝要との立場で、適正な価格転嫁の拡大を重視する。 日商の小林健会頭は 3 日の記者会見で「地方の産業インフラを担う企業には最低賃金しか支払えないところが結構ある」と指摘。 支払い能力以上の最低賃金が決まるとインフラが崩れる恐れがあり、「石破内閣の経済政策の目玉である地方創生にとって由々しき問題になる。 最低賃金の大幅な引き上げは両刃の剣になりかねない」として、大幅引き上げには支払い能力の慎重な精査が必要と訴えた。 (木村裕明、asahi = 10-4-24) ◇ ◇ ◇ 安い最低賃金に徳島知事「若者出ていく」 ワースト 2 位から急上昇 徳島地方最低賃金審議会(会長 = 段野聡子・徳島大学教授)は 29 日、県内の最低賃金(時給)を現在より 84 円引き上げ、980 円とするよう徳島労働局長に答申した。 引き上げ幅は、厚生労働相の諮問を受けた中央最低賃金審議会の目安である 50 円を大幅に上回り、最低賃金が時給表示に一本化された 2002 年度以降、全都道府県で過去最大となった。 最低賃金、徳島が過去最大の 84 円引き上げ 全国平均 1,055 円に 最低賃金は、労働者とその使用者に適用されるため、時給 980 円未満で働いている県内の約 2 万 8,700 人に影響する見通し。 異議申し出の手続きを経て、11 月 1 日に発効する。 県内の最低賃金は 21 年度に 824 円、22 年度に 855 円、23 年度に 896 円と上昇してきていた。 今回、徳島の審議会は 7 月 5 日に始まり、国の審議会が同月 25 日に示した目安額 50 円を軸に審議を本格化させた。 一方、徳島の現行額は全国ワースト 2 位のため、後藤田正純知事は審議会の初会合で異例の意見陳述をし、「徳島の経済状況を反映していない。 賃金が安いというイメージが固定化すれば若者らが県外に出ていく。」と懸念を示すなど、算出方法の見直しと大幅な引き上げを再三求めていた。 算出方法見直し、過去最大の上げ幅に これを踏まえ、審議会は県経済の現状を、▽ 労働者の生計費、▽ 労働者の賃金、▽ 賃金の支払い能力の主に 3 点から検討し、全都道府県の「中位より上」に徳島は位置するとみたうえで、昨年の全国の最低賃金額の中位(930 円程度)に、目安額 50 円を加えた 980 円に落ち着けた。 委員長を除く 14 人の審議会メンバーの多数決で、賛成 10 人、反対 4 人(労使とも 2 人ずつ反対)で決定した。 答申予定を今月 9 日、21 日の 2 度にわたり延期して審議した段野会長は閉会後、取材に対し、「『目安ありき』ではない、新しい算出方法となった。 一方で中小零細が多い県内企業の支払い能力に多大な影響を与える。 (県などの)支援がいる。」と述べた。 徳島労働局の竹中郁子局長は「5 回にわたる審議を経て、それぞれの立場からの厳しい意見も出された。 知事らの要請も踏まえ、その結果が過去にない大幅アップとなった。」と述べた。 (能登智彦、相江智也、asahi = 8-30-24) ◇ ◇ ◇ 最低賃金、50 円増で全国平均 1,054 円に 過去最高の引き上げ 厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は 24 日、最低賃金(時給)を全国加重平均で 50 円 (5.0%) 引き上げて 1,054 円とする目安をまとめた。 長引く物価高を受け、過去最高の上げ幅となった。 25 日の審議会で正式に決定する。 最低賃金は、労使の代表、公益代表の有識者の 3 者による中央審議会が毎年、都道府県を A - C の 3 ランクに分けて引き上げ額の目安を提示する。 今回は 2021 年度以来 3 年ぶりに全ランクの目安がそろい、いずれも 5 0円となった。 最低賃金、目安通りに上がると … 最終的な金額は今後、目安を参考にして都道府県ごとの地方審議会が決める。 新たな最低賃金は 10 月 1 日以降に順次適用される。 目安通りの引き上げなら、最も高い東京都が 1,163 円、最も低い岩手県が 943 円となり、全都道府県で 900 円を超える。 1 千円以上は 8 都府県から 16 都道府県に倍増する。 昨年度は地方審議会が目安に上乗せする例が相次いでおり、今年度も全国平均はさらに高くなる可能性がある。 労使の主張は 労働者側は今回、低所得層への物価高の影響や、今春闘での正社員の賃上げ率(定期昇給を含む)が連合集計で平均 5.10% と歴史的高水準になった点を強調し、昨年度の 43 円 (4.5%) を上回る引き上げを求めた。 一方、使用者側は、中小零細企業の昨年からの賃上げ率が 2.3% だった点などを踏まえ、大幅増には反対した。 議論を引き取った公益代表は、頻繁に購入する食料品などの消費者物価指数の高止まりなどを重視。 過去最高の 50 円 (5.0%) を提示し、議論をまとめた。 (楢崎貴司、宮川純一、asahi = 7-24-24) 経団連、選択的夫婦別姓の早期実現へシンポ 前向きな石破氏に期待 選択的夫婦別姓制度の導入を政府に求めている経団連が 1 日、制度の早期実現を求めるシンポジウムを都内で開催した。 導入に前向きな石破茂氏が新首相に就任するタイミングの開催となり、長年放置されてきた課題の解決に新政権が乗り出すことに期待する声が登壇者から相次いだ。 経団連は、改姓の負担が女性に偏り、ビジネスの現場で旧姓使用の弊害が出ているなどとして、選択的夫婦別姓制度の導入を 6 月に政府に提言していた。 自民党総裁選では制度導入の是非が争点になった。 反対派の候補は、親と子で姓が分かれることなどを問題視し、「旧姓の通称使用を広げればいい」と主張した。 経団連のダイバーシティ推進委員長を務める魚谷雅彦氏(資生堂会長)はシンポジウムで、「旧姓の通称使用には乗り越えられない課題があり、本質的な課題解決になっていない」と強調。 石破氏が「(夫婦別姓を)やらない理由が分からない」と述べたことに触れ、「前向きな姿勢をお持ちだ」と評価し、「早期に国会で議論され、成立することを私たちは期待している」と力を込めた。 自民党の推進派議員約 100 人でつくる「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の事務局長を務める井出庸生衆院議員は「この夏から党内議論を再開したが、自民党の中には大変な議論がある。 しかし、自民党は国民政党。 これからの自民党のための議論をするという視点に立ち、制度の実現を早期にたぐり寄せていきたい。 みなさんと手を携えて頑張っていきたい」と応じた。 魚谷氏とともにダイバーシティ推進委員長を務める次原悦子氏(サニーサイドアップグループ社長)は「たなざらしにされてきた問題をイデオロギーの問題にせず、本当に変えていきたい。 問題が注目を集める今がチャンス。」と話した。 制度導入の是非は 27 日に予定される総選挙の争点になる可能性もあり、経済界の関心は高い。 経団連の十倉雅和会長は石破内閣の発足を受けて出したコメントで、「選択的夫婦別姓の導入をはじめとする多様性を尊重する社会づくりが求められる」と要望した。 (木村裕明、asahi = 10-1-24) 郵便局窓口「昼休み」導入、11 月に計 1,389 局へ拡大 全体の 7% 日本郵便は 9 月 30 日、一部の郵便局で行ってきた「昼休み」の導入対象を一気に広げると発表した。 来客数の縮小にあわせ、より少ない人員で窓口を切り盛りしやすくする狙い。 小規模局を中心に 11 月に 1,373 局を順次追加し、計 1,389 局が対象となる。 昼休みは午前 11 時 - 午後 2 時半の間に 1 時間、窓口を閉める。 局長と局員の 2 人だけの局などで休憩を取りやすくし、職場環境の改善やコストの削減につなげる。 簡易局をのぞく郵便局の 7% 程度にあたる。 今後、さらに対象局を広げる方向だ。 郵便局では郵便や貯金の取扱数などの縮小に歯止めがかからず、2021 年 7 月から過疎地や離島の 53 局で、昼休みの導入や閉店時間の前倒しを始めた。 53 局のうち昼休みを採り入れていた 16 局はそのまま続ける。 昼休みは 23 年春にも拡大が検討されたが、社内の調整がつかずに先送りされていた。 (藤田知也、asahi = 9-30-24) 「70 歳定年」、「定年廃止」の現実味 専門家が語る新しいキャリア 将来の人口減を見越した国の旗振りで、70 歳定年や定年廃止が現実味をおびてきました。 グロービス経営大学院経営研究科長の君島朋子さんに展望を聞きました。 ☆ 「50 代の壁」役職定年なくす企業続々 世代交代よりも大事なことは 経済協力開発機構 (OECD) が発表した「対日経済審査報告書 2024」によると、加盟する 38 カ国のうち、年金開始年齢より早く企業が定年制を設けることを容認している国は日本と韓国だけです。 米国や英国など欧州連合 (EU) の多くの国では年齢差別に当たるとして定年制を禁止しています。 一方、厚生労働省によると、日本企業の 96% は定年制を定めており、66% の企業は定年退職の年齢を 60 歳(2023 年)と年金受給前にしている。 少子高齢化による人手不足が喫緊の課題である日本に対し、OECD は定年制廃止、高齢者の雇用促進を提言しています。 明治安田生命や YKK のように外で新たな人材を雇うより内部のシニアを有効活用したいと考える企業が増える半面、定年後も働きたいという人は多いので、需要と供給が合致しています。 シニア市場は今後、拡大すると思います。 定年で雇用調整してきた日本企業 これから日本企業がよりグローバルに人材活用を進めるに従い、定年制は海外の法に抵触するケースもあるので、廃止論も出てくるでしょう。 日本では長年、定年で雇用調整する年功序列型の人事を多くの企業がやってきたので、慎重な議論が必要になると思います。 一方で、シニアは経済状況、健康面、仕事の能力、意欲などが個々で異なります。 人々の人材活用を促すために、勤務日数や時間を選べるといった選択肢を用意するなど、工夫をしないといい人材は集まらないでしょう。 シニアに限らず、転職市場では現場の豊富な経験や専門性を時代の変化にあわせて生かせる人材に期待する声が高まっています。 働き手は現役のうちから自分のキャリアの強みは何かを意識し、そのスキルが陳腐化しないよう絶えず、学び続け、アップデートすることが大事になってきます。 (聞き手 :=編集委員・森下香枝、asahi = 9-27-24) 「世襲議員がお気楽に言うな」 規制見直し論に立憲 4 候補が猛反論 自民党総裁選の立候補予定者による解雇規制をめぐる発言に、立憲民主党代表選(23 日投開票)に立候補した 4 人が反発している。 解雇規制の緩和につながる恐れがあり、労働者の不当解雇を助長しかねないとみるためだ。 次期衆院選での政権交代を掲げる 4 氏は、自民への対抗心を鮮明にしている。 12 日の自民総裁選の告示を前に「労働市場改革」を訴えたのは、河野太郎デジタル相と小泉進次郎元環境相。 河野氏は 5 日、継続的な賃上げに向けた解雇時の金銭補償ルールの必要性を主張した。 小泉氏は 6 日、「日本の経済社会にダイナミズムを取り戻す」と解雇規制の見直しを改革の本丸に掲げた。 こうした案に、立憲代表選の 4 候補が一斉に反論した。 「昭和の化石みたいな政策だ。 首を切られる人が増え、日本の経済と社会はますますダメになる。」 8 日の福岡市内で行われた記者会見で、枝野幸男前代表 (60) が一蹴すれば、泉健太代表 (50) も「自民は経営者目線でしかない。 人を大事にしないことが明確になった。」 吉田晴美衆院議員 (52) は「欧米のまね」と非難した。 連合が問題視 労組に根強い警戒感 背景には、立憲の支援組織である連合の姿勢がある。 解雇規制をめぐっては、労働契約法で「客観的に合理的な理由」などがない解雇は無効と定められているが、具体的な内容までは明文規定がない。 経営上の理由で人員を削減する「整理解雇」については、削減の必要性や解雇を避ける努力をしたかなどの 4 要件が判例で示されている。 民間企業の労働組合などを傘下にもつ連合が問題視してきたのが、解雇時の金銭補償ルールの整備だ。 労組がリストラを助長すると問題視している仕組みで、河野氏の主張は、労働行政を担う厚生労働省内で本格的に議論されたことはないという。 一方、小泉氏は、整理解雇 4 要件のうち、解雇を避ける努力をしたかという要件の見直しを提案。 従来は希望退職の募集や余剰人員の配置転換が求められてきたが、学び直し(リスキリング)や再就職支援を大企業に義務づける法改正をめざすとした。 小泉氏の手法も、雇用の流動化につながる恐れがあり、労組には根強い警戒感がある。 立憲 4 候補のうち、労働市場の流動化は必要だとしたのは野田佳彦元首相 (67)。 ただ、方法論には異を唱え、「人手不足の産業が待遇改善したら、行きたくなる。あるいは、新しい魅力がある産業が出てきて、勤めたくなる。 自然体の労働市場の流動化があるべき姿だ。」と主張した。 さらに、河野氏と小泉氏という世襲議員による相次ぐ発信に、野田氏はこう語気を強めた。 「自分が(選挙で)落ちる心配も、解雇される心配もない。 そういう人たちがお気楽にものを言うな。」 (松井望美、北川慧一、asahi = 9-9-24) 実質賃金、プラス定着はいつ? 「8 月分以降はジグザグ」との見方 物価の上昇分を差し引いた働き手 1 人あたりの 7 月の「実質賃金」は、前年同月より 0.4% 増え、2 カ月連続でプラスとなった。 主な要因はボーナス(賞与)の大幅増で、プラスの定着はまだ見通せていない。 厚生労働省が 5 日、7 月分の毎月勤労統計調査(速報)として発表した。 労働者が実際に受け取った「名目賃金」にあたる現金給与総額は、3.6% 増の 40 万 3,490 円で、31 カ月連続のプラスとなった。 実質賃金の計算に使う 7 月の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は 3.2% 上がり、この物価上昇分を差し引いた実質賃金は 0.4% 増と、かろうじてプラスになった。 基本給、約 32 年ぶりの大きな伸び 現金給与総額のうち、基本給などの所定内給与は 2.7% 増の 26 万 5,093 円で、1992 年 11 月以来、約 32 年ぶりの大きな伸びだった。 さらに賞与を含む「特別に支払われた給与」が 6.2% 増の 11 万 8,807 円で、全体を押し上げた。 現金給与総額を就業形態別にみると、フルタイムの一般労働者は 3.6% 増の 52 万 9,266 円、パートタイム労働者は 3.9% 増の 11 万 4,729 円だった。 物価高騰の影響で、実質賃金は 5 月分まで過去最長の 26 カ月連続マイナスだったが、6 月分(1.1% 増)に続いてプラスを維持した。 林芳正官房長官はこの日の会見で、「賃上げの明るい動きも統計上、もうしっかりと表れてきている」と評価した。 8 月はマイナス、9 月はプラス? SMBC 日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「歴史的な春闘の影響が着実に出ている。 今後は労働組合のない企業も人手不足を背景に賃上げするとみられる上、10 月からは最低賃金も引き上がる」という。 ただ、プラスの定着は簡単ではなさそうだ。 宮前氏は「8 月分以降はプラスとマイナスをジグザグと行ったり来たりするのでは」と見通す。 特別に支払われた給与は、夏のボーナスや、春闘の賃上げが間に合わなかった調整分で、6、7 月分の金額が大きい。 所定内給与だけでは実質賃金は依然プラス転換していない上、物価水準も引き続き高く、「8 月分はマイナスに戻る可能性がある」と指摘する。 一方、9 月分からは政府が復活させる電気・ガス料金の補助金制度で物価が下がり、実質賃金はプラスになる可能性が高まる。 冬以降の補助金は未定で、宮前氏は「政策の影響を受ける不安定な状態になる」と話す。 (宮川純一、asahi = 9-5-24) ◇ ◇ ◇ 25 カ月減の実質賃金、いつプラスに? 基本給は 30 年ぶりの増加率 物価の影響を考慮した働き手 1 人あたりの 4 月の「実質賃金」は、前年同月より 0.7% 減り、過去最長を更新する 25 カ月連続のマイナスとなった。 歴史的な高水準となった今春闘の結果が反映され始めるなどした結果、基本給などは 2.3% 増えて約 30 年ぶりの高い伸び率になったが、物価の上昇には追いつかない状況が続いている。 4 月の実質賃金、25 カ月連続マイナス 過去最長を更新 厚生労働省が 5 日、毎月勤労統計調査の 4 月分(速報)として発表した。 労働者が実際に受け取った「名目賃金」にあたる現金給与総額は、2.1% 増の 29 万 6,884 円で、28 カ月連続のプラスだった。 このうち、基本給などの所定内給与は 2.3% 増の 26 万 4,503 円で、1994 年 10 月以来、約 30 年ぶりの伸び率となった。 現金給与総額を業界別でみると、4 月から残業時間の上限規制が適用された建設業が 5.7% 増と最大の上昇になった。 トラックなどの運転手が対象となった運輸・郵便業は 1.2% 増と小幅な上昇にとどまった。 所定内給与は 3.3% 増えた一方、特別に支払われた給与が 20.4% 減と、ボーナスなどが大きく圧縮された。 物価上昇、さまざまな要素 連合が 5 日に公表した今春闘の第 6 回集計では、定期昇給を含む正社員の賃上げ率は平均 5.08% と、33 年ぶりの高水準を記録。 厚労省は 4 月分の給与の伸びについて、今春闘の結果が反映され始めたほか、同じく高水準だった昨年の春闘が労働組合のない中小企業などに遅れて波及したとみている。 一方、実質賃金の計算に使う 4 月の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は 2.9% 上がり、差し引きした実質賃金は 0.7% 減った。 減少幅は 3 月の 2.1% 減(確定値)から改善したが、物価高の影響が続く。 実質賃金はいつプラス転換するのか 今春闘の結果は夏ごろにかけて本格的に反映される。 一方、輸入価格を引き上げる円安が長引いているほか、政府の補助金が 5 月使用分で終わる電気・ガス料金が 6 月分から値上がりするなど、物価上昇の要素は多い。 6 月に始まる物価高対策の定額減税も、実質賃金は税引き前の給与でみるため、数字には反映されない。 厚労省の担当者は「物価との兼ね合いもあり、実質賃金のプラス転換は容易ではなく、時期は見通せない」と話す。 (宮川純一、asahi = 6-5-24) |