障害者の賃上げ「脱福祉」で 全国初の植物工場、経済的自立に挑む

一般企業で働くのが難しい障害者に職業訓練の場を提供してきた宮城県の社会福祉法人が今月、全国初となる「脱福祉」型の就労施設を開いた。 月に 1 万円程度だった障害者の収入を、月 8 万 - 12 万円に引き上げられると見込む。 低い工賃で働く障害者の待遇改善を脱福祉で実現する第一歩として注目を集めている。

脱福祉型の植物工場を新設したのは社会福祉法人「チャレンジドらいふ(仙台市)」。 宮城県美里町で福祉サービスとして運営してきた「就労継続支援 B 型事業所」の一つ「ボーノボーノ大崎東」を廃止し、ホウレンソウを養液栽培する植物工場を同じ場所に建てた。 植物工場のノウハウを持つ三菱ケミカルの子会社「三菱ケミカルアクア・ソリューションズ」が設備や技術を提供する。

三菱ケミカルが販路を確保、コンビニのサラダ向けに出荷

新設した工場はホウレンソウを年に 17 回収穫することができ、年 54 トンの収量を見込む。 大手コンビニチェーンが販売するサラダ向けなどに出荷し、年間売上高 4 千万円をめざす。 三菱ケミカルの子会社が販路の確保でも協力する。 ホウレンソウは比較的育てやすくて単価が高く、年間を通して需要がある。 安定的な販路を確保して通年で出荷することで、障害者の待遇改善につなげる。 工場の機械化や自動化をあえて一部にとどめて手作業を残し、障害者がやりがいを持てる仕事を生み出した。

植物工場で働くのは、B 型事業所に通所していた障害者のうち 11 人と、支援スタッフをしてきた健常者 4 人。 障害者は「福祉サービスの利用者」から「雇用契約を結ぶ従業員」に変わり、最低賃金が適用される。 これまでは近隣から通所する精神障害者や知的障害者約 20 人がビニールハウスでの野菜の栽培、育てた野菜の販売や、企業から受託した軽作業などをしてきた。 1 人あたりの工賃は月に約 1 万 3 千円だった。

福祉サービス → 雇用契約 最低賃金を保障

B 型事業所は障害者総合支援法に基づく福祉サービスのひとつ。 全国に約 1 万 6 千カ所あり、約 30 万人の障害者が通う。 一般企業での就労が難しい人が対象で、雇用契約は結ばない。 利用者は軽作業をして工賃を受け取り、最低賃金は適用されない。 B 型事業所を廃止して一般事業所に転換し、福祉サービスの利用者を一般就労に切り替えるのは全国で初めてという。 宮城県の最低賃金は 923 円。 給料は月に 8 万 - 12 万円になる見込みだ。 従業員になった高島快斗さん (24) は、収入の大幅アップに「びっくりしました。 うれしいです。」と話す。

公費に頼らない一般事業所になることで、どんな変化が待ち受けるのか。 これまでは作った物が売れても売れなくても、障害者が通所してくれれば国や自治体からの助成で職員の人件費は賄えた。 今後はホウレンソウが売れなければ人件費は払えなくなる。 「これからは利用者も支援者も一緒に、自分たちの給料を稼ぐことになる。 工賃は給料に変わり、障害者もそこから税金を払う。 大きなチャレンジになる。」 チャレンジドらいふの白石圭太郎理事長は 15 日の落成式で、障害者の経済的自立をめざすために安定を捨て、「脱福祉」に挑む覚悟を口にした。 障害者の雇用拡大も検討している。

年 8 千億円の公費投じ、工賃は 400 億円の現実

脱福祉型就労の枠組みは日本財団が考案した。 工場の建設費などは日本財団が全額(2 億 6,860 万円)を助成。 障害者の就労機会の拡大を目指す連携協定を日本財団と結ぶ宮城県が初年度の運転資金として 1千万円を補助する。 日本財団によると、全国の B 型事業所には、職員の人件費などの運営費として国や自治体が年約 8 千億円の公費を投じる一方、通所する障害者の工賃の総額は年約 400 億円。 1 人あたり月平均約 1 万 6,500 円に過ぎない。 工賃は徐々に上がっているが、経済的に自立できる収入の確保にはほど遠い。 新たな枠組みは、障害者の経済的自立とともに社会保障費の抑制をめざす取り組みでもある。

日本財団の竹村利道・公益事業部シニアオフィサーは「企業と連携して福祉を脱却し、障害者が当たり前に働けるスキームを確立できた。 保護だけを与えられてきた障害者にようやく機会が与えられる。 全国に広げていきたい。」と話す。 (木村裕明、asahi = 3-20-24)


大卒内定率 91.6% 2 月 1 日付、過去 3 番目に高い水準

今春卒業予定の大学生の就職内定率は、2 月 1 日時点で 91.6% だった。 厚生労働省と文部科学省が 15 日発表した。 前年同期を 0.7 ポイント上回り、3 年連続で改善した。 2 月 1 日時点の調査を始めた 1999 年度以降、3 番目に高い水準という。 国公立 24 大学、私立 38 大学の 4,770 人を抽出して調べた。 国公立は前年同期より 0.3 ポイント低い 93.9%、 私立は同 1.0 ポイント高い 90.8% だった。 文理別では、文系が同 1.3 ポイント高い 91.8%、理系が同 2.1 ポイント低い 90.7% だった。 文科省の担当者は今回の結果に、「人手不足による求人の増加や企業の採用意欲の高まりがあるとみられる」と話した。 (山本知佳、asahi = 3-15-24)


ジェネリック「金額シェア 65% 以上」目標 厚労省、医療費抑制狙い

処方薬における後発医薬品(ジェネリック)を普及させるため、厚生労働省は「2029 年度末までに金額シェア(占有率)を 65% 以上とする」との新たな目標を設ける方針を決めた。 先発薬よりも安い後発薬への置き換えを進めることで、医療費の抑制を図る。 14 日に開かれた社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で、新目標案が示され、了承された。 21 年の「骨太の方針」では、後発薬の数量シェアを 23 年度末までに「全ての都道府県で 80% 以上」とする目標を設定。 23 年 9 月時点の調査の速報値では、全国の後発薬の使用割合は数量ベースで 80.2% に達した。 一方、金額ベースでは 56.7% にとどまっていた。

「バイオシミラー」の使用促進も

今後は、数量シェアの目標は維持しつつ、金額シェアの拡大を図る。 またバイオ医薬品の後発品「バイオシミラー」など、これまで取り組みが進んでこなかった分野での使用促進もめざす。 保険適用の診療や薬の処方でかかる医療費は約 45 兆円(21 年度)で、高齢化や医療の高度化などに伴って増え続けている。 このため厚労省は、07 年から、同じ有効成分で価格が安い後発薬への置き換えに力を入れてきた。

一方で、後発薬をめぐってはメーカーによる法令違反などで供給不安が続いている。 今年 1 月時点で 4,629 品目について、供給停止や限定出荷などの出荷制限がかかっている。 武見敬三厚労相は 15 日の閣議後会見で「新目標は、後発薬の安定供給の状況に応じ、柔軟に対応する」と述べ、供給不安の解消に向けた取り組みと合わせて進める考えを示した。 (吉備彩日、asahi = 3-15-24)


男女の賃金格差、大手 80 社の状況は 「見える化」進め改善めざす

女性の賃金は、男性に比べてどの程度なのか。 その格差の「見える化」を政府が企業に義務づけたことで、昨年から各社の情報開示が始まっている。 格差を明らかにすることで、自社が抱える課題を見つめ直し、改善に向けて模索する動きが広がっている。

男性の賃金を 100 とすると、女性は 70.9 - -。 ファッションビルを運営する丸井グループの人事担当者は、はじき出したその数字にショックを受けたという。 女性社員の育成に、10 年以上力を入れてきた。 「これだけ取り組んできたのに、けっこう差がある。」 公表の義務化に伴い、初めて算出した。 この格差は何に起因するのか、それぞれの要因がどれくらい影響しているのか分析もした。

まずは、管理職や管理職候補層に占める女性割合の少なさだ。 社員約 4,400 人はほぼ男女半々だが、6 段階ある等級のうち上位三つは男性が 8 割を占め、女性は下位の等級に多かった。 この要素で格差のほぼ半分を説明できた。 さらに、賃金が下がる短時間勤務の利用者の 99% が女性であることも影響していた。 家族手当、時間外勤務手当を男性がより多く受け取っていることも要因だった。

格差を計算したことで、改めて課題がわかった。 まずは女性管理職を増やす取り組みを強化する必要がある。 そして家事や育児を女性ばかりが担うことにならないよう社員の性別役割分業意識を問い直す研修にも引き続き力をいれる。 「まだまだ足りない。 加速しなければ。」と担当者は言う。 長年の取り組みの結果が表れるのも、賃金格差という指標の特徴だ。

女性の賃金が、男性の 88.6 と比較的高水準だった花王。 その背景について「賃金格差を縮小しようと特別なことをしてきたわけではない」という。 1978 年から大卒女性の採用を始めた。 男女雇用機会均等法の施行より 8 年早い。 この世代が妊娠・出産を迎えた 90 年代から育休を整え両立支援を始めた。 近年は、男女のキャリアの差が開く育児期に着目。家事労働の分担を配偶者に促すため、出産前や育休復帰前などに夫婦で参加してもらう研修も開いている。 厚生労働省の調査(2022 年)をもとに男女の賃金格差を産業別・年代別に見ると、20 代後半から 50 代後半の女性の年収は、すべての産業で男性を下回った。 (岡林佐和、中山美里、益田暢子、asahi = 3-7-24)


資生堂、早期退職 1,500 人募集 勤続 20 年以上で 45 歳以上が対象

資生堂は 29 日、国内事業を展開する資生堂ジャパンで約 1,500 人の早期退職を募集すると発表した。 収益力を高めるため、成長性の高いブランドや商品に経営資源を集中する事業構造改革に合わせておこなう。 社員数 1 万 3,300 人のうち、45 歳以上で勤続 20 年以上の社員が対象。 4 月 17 日 - 5 月 8 日に募集し、退職日は 9 月末。 退職時の年齢に応じた特別加算金を上乗せする。 関連費用は約 190 億円を見込む。 (岡林佐和、asahi = 2-29-24)


「在宅介護の終わりのはじまり」人手不足に拍車も 介護基本報酬減額

「物価高に負けない賃上げに必要な報酬の改定率を決定した。」 岸田文雄首相がこう強調する新年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに反発が広がっている。 現場からは「在宅介護は崩壊する」との声も。

「基本報酬引き下げは暴挙」

認定 NPO 法人「ウィメンズアクションネットワーク(上野千鶴子理事長)」、NPO 法人「高齢社会をよくする女性の会(樋口恵子理事長)」など 5 団体は 2 月初め、引き下げに抗議し、撤回を求める緊急声明を公表した。 2,400 を超す個人・団体から賛同を得た、としている。 呼びかけ団体となった「ケア社会をつくる会」世話人の小島美里さんは公表時の記者会見で、「在宅介護の終わりのはじまり」と強い危機感を表明した。

訪問介護員(ホームヘルパー)は介護が必要な高齢者宅で、調理など生活援助や身体介護を行う。介護福祉士や、所定の研修を修了した人らが務める。 ヘルパーの人材不足はとりわけ深刻で「絶滅危惧種」とも言われる。 有効求人倍率は 15.53 倍(2022 年度)。 若い世代が入らず、60 代以上が約 4 割を占める。 介護労働安定センターの介護労働実態調査(22 年度)によると、施設などの介護職員より年収が約 17 万円少ない。 東京商工リサーチによると、23 年の訪問介護事業者の倒産件数は 67 件で、調査開始以降の最多件数を大きく更新した。 「訪問介護崩壊」の懸念が高まるなかでの減額改定。 事業者や介護家族などからは、抗議の声が相次いでいる。

「仕事の価値を認めてもらえない 30 年間」

NPO 法人「サポートハウス年輪」理事長の安岡厚子さんは、ヘルパー不足が原因で昨年春、訪問介護事業所の休止を余儀なくされた。 「(介護職員の)地位向上に国が本気で取り組んでいればこんなことにはならなかった」、「この仕事の価値を認めてもらえない 30 年間だった」と苦渋の思いを語り、引き下げは「言語道断」だとする。 「京都ヘルパー連絡会」の櫻庭葉子さんは、「私たちヘルパーは不要なのか」、「国は小規模事業所をつぶしたいのか」とメッセージに現場の怒りを込める。

公益社団法人「認知症の人と家族の会」前代表理事の鈴木森夫さんは、介護を担う家族の介護離職防止のために訪問介護は不可欠なサービスとしたうえで、「(引き下げは)介護のある暮らしを崩壊させる」と訴える。 「全国ホームヘルパー協議会(田尻亨会長)」と「日本ホームヘルパー協会(境野みね子会長)」の 2 団体も 2 月初め、基本報酬引き下げについての抗議文を厚生労働省に提出した。 物価高騰などで閉鎖・倒産に追い込まれる事業者が増えている現状を踏まえ、報酬引き下げは「私たちの誇りを傷つけ、更なる人材不足を招くことは明らかで、このような改定は断じて許されるものではありません」と強く批判した。(編集委員・清川卓史)

識者「基本報酬減額、誤ったメッセージに」

川口啓子・大阪健康福祉短大特任教授(医療福祉政策)の話 : ヘルパーの介護を受け、最期を自宅で迎えたいと考える人は多く、国も在宅介護を進めようとしている。 だが報酬は不十分で、介護業界の中でも特に人手不足が深刻だ。 事務手続きが煩雑で負担が大きい「手当」にあたる処遇改善加算ではなく、「基本給」の基本報酬を増額するべきだった。 担い手は高齢化が進み、利用者や家族からのハラスメントも後を絶たない。 事業者は人材紹介会社に多額の紹介料を払って人材を確保していて、事業所も疲弊している。経営の基盤となる基本報酬の減額が誤ったメッセージとなり、人手不足に拍車が掛かる懸念がある。 (聞き手・関根慎一、asahi = 2-25-24)


2023 年の月給 31.8 万円で過去最高 伸び率は 29 年ぶりの高さ

厚生労働省は 24 日、2023 年の賃金構造基本統計調査(速報)を発表し、フルタイムで働く労働者の所定内給与(月額)は 31 万 8 千円で過去最高だった。 前年と比べて 2.1% 増となり、伸び率は 1994 年の 2.6% 増以来、29 年ぶりの高さとなった。

年代別には、34 歳以下の若年層と 60 歳以上の伸び率が大きく、19 歳までが 3.1% 増の 19 万円、70 歳以上が 7.3% 増の 25 万 5 千円だった。 一方、大卒の 50 代前半では 0.2% 減の 47 万 3 千円となるなど、給与水準が高い層は伸び悩んだ。 厚労省の担当者は「人手不足を背景に、企業は若い人の賃金の伸び率を重視し、高齢者雇用を進めている状況が表れているのではないか。」と話している。

調査は 10 人以上の労働者を雇う事業所が、6 月分として支払った所定内給与を集計したもの。 残業代や休日手当などは含まれない。 例年 3 月ごろに発表してきたが、春闘での賃上げ交渉に生かすため、今年から雇用形態別や性別などを除いた速報値を発表することにしたという。 (宮川純一、asahi = 1-24-24)