11 月の企業物価、0.3% 上昇 伸び幅は 11 カ月連続で縮小

日本銀行が 12 日に公表した 11 月の国内企業物価指数(2020 年平均 = 100、速報値)は 119.5 で、前年同月より 0.3% 上がった。 2 年 9 カ月連続の上昇となったものの、上げ幅は 11 カ月連続で縮んだ。 輸入物価の下落や政府の補助金の影響で、企業物価上昇率は 0% 目前まで下がってきた。 企業物価指数は企業間で取引されるモノの価格水準を示す。 家庭が購入するモノやサービス価格の動きを示す消費者物価指数の先行指標とされ、今後、消費者物価も伸びが鈍っていく可能性がある。

日銀が公表する 515 品目のうち、8 割弱の 405 品目が前年同月より上昇した。 飲食料品は原材料や包装資材の価格転嫁が続き、前年同月比 4.0% 上昇したほか、自動車など輸送用機器も 2.2% 上がった。 政府の価格高騰対策の影響もあり、電力・都市ガス・水道が 24.5% 下落と大幅に下がった。 一方、国際的な資源価格の下落で、これまで企業物価の高騰の主因だった輸入物価指数は、米ドルなどの契約通貨ベースで前年同月比 9.7% 下がり、8 カ月連続の下落だった。 円換算でも 6.1% 下がった。 (土居新平、asahi = 12-12-23)


上場企業中間決算、円安で 3 年連続最高益へ 賃上げ交渉へ波及するか

上場企業の 2023 年 9 月中間決算の発表が 10 日、ピークを迎えた。 SMBC 日興証券の集計によると、最終的なもうけを示す純利益は 3 期続けて過去最高となる見通し。 円安、コロナ禍からの回復、値上げが利益を押し上げた。 好業績が来春の賃上げ交渉にどう結びつくかが、今後の日本経済の焦点になる。 10 日は 3 月期決算企業の 2 割の約 430 社が中間決算を発表した。 東証株価指数 (TOPIX) 採用銘柄で前日までの公表分 996 社(全体の 7 割)を SMBC 日興証券が集計したところ、売上高は前年比 7% 増の 249.5 兆円、純利益は同 7% 増の 18.9 兆円だった。

好業績の一因が円安。 4 月に 1 ドル = 130 円台だったが今は 150 円前後。 東証の 33 業種別では自動車など「輸送用機器」が生産台数の回復と円安の恩恵を受け、利益が大きく伸びた。 新型コロナの感染症法上の扱いが 5 月に 5 類となり、訪日客も急増。 日本人も含めた観光関連などサービス消費が回復した。 鉄道など「陸運」、航空会社など「空運」も好調だった。 原料高で昨年苦しんだ食品会社など「食料品」は、価格転嫁が進んで業績が改善した。 電力会社など「電気・ガス」も値上げで前年の赤字から黒字へ転じた。

集計した SMBC 日興の安田光氏は「円安の影響で、利益予想の上方修正が相次ぐ。 年間でも最高益に届くペース。」とみる。 24 年 3 月期の純利益は約 10% 増える見込み。 一方、不安要因もある。 海外では中国経済が低迷。 国内ではサービス業などで人手不足が深刻だ。 物価上昇も加味した実質賃金は 9 月まで 18 カ月間、前年割れが続く。 野村証券の小高貴久氏は「収入増に見合わぬ物価上昇で、消費者の値上げ疲れ(買い控え)が一部みられる。 財布のひもが今後固くなるリスクはある。 賃上げが進まないと食品関連企業などは増益を続けるのが難しくなる。」と話す。(編集委員・中川透、asahi = 11-10-23)

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昨年度法人所得 85 兆円、2 年連続で過去最高 旅館・飲食業など増加

国税庁は 1 日、2022 年度に決算期を迎えた法人が申告した所得金額が、前年度比 7.0% 増の 85 兆 106 億円だったと発表した。 2 年連続で過去最高を更新した。 黒字申告 1 件あたりの所得金額も 7,518 万円で、過去 10 年で最高だった。 業種別の申告所得金額は、料理・旅館・飲食店業が 27.3% 増の 8,499 億円で、コロナ禍前の18 年度(8,012 億円)を上回った。 ほかに伸び率が高かったのは、卸売業(19.3% 増、8 兆 4,627 億円)や運送業(16.8% 増、6 兆 3,336 億円)など。 全体の約 3 割を占める製造業も 3.2% 増の 25 兆 4,996 億円と堅調だった。 (花野雄太、asahi = 11-1-23)


「人手不足」倒産 4 - 9 月は過去最多の 82 件 要因別は、「求人難」と「人件費高騰」が急増

2023 年度上半期(4 - 9 月)「人手不足」関連倒産の状況

2023 年度上半期(4 - 9月)の人手不足に起因する「人手不足」関連倒産は、過去最多の 82 件(前年同期比 164.5% 増)で、前年同期の 2.6 倍に急増した。 要因別では、「人件費高騰」が 30 件(前年同期 5 件)と前年同期の 6.0 倍、「求人難」が 34 件(同 13 件)で同 2.6 倍と大幅に増加した。 求人と退職防止など、人材確保のための賃上げが経営体力がぜい弱な企業の資金繰りを圧迫し、倒産に追い込まれる企業が増えていることがわかった。

年度上半期の産業別では、最多が飲食業(8 件)を含むサービス業他の 25 件(前年同期比 127.2% 増)。 次いで、建設業(同 171.4% 増)と運輸業(同 533.3% 増)が各 19 件の順。 サービス業他や建設業、運輸業などは、コロナ禍前から慢性的な人手不足が続くなか、コロナ禍で一段と深刻さが増している。 さらに、業績回復の遅れも重なり倒産に至るケースが際立つ。 2023 年 10 月から全国的に最低賃金の引き上げが実施される。 全国平均で過去最高の 43 円の引き上げとなり、首都圏や愛知、大阪では最低賃金が 1,000 円を超える。

ただ、すでに時給 1,000 円を超えても人手不足の解消めどが立たない企業もあり、人件費上昇の影響はさらに広がりをみせる。 人材確保の前提として賃上げが必須になるが、物価上昇による収益負担に加え、賃上げのコストアップの影響は深刻で、企業倒産や休廃業などを加速させる懸念が高まっている。 (TSR = 10-5-23)

* 本調査は、2023 年度(4 - 9 月)の全国企業倒産(負債 1,000 万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


地方の基準地価、31 年ぶりプラス 人集まる「4 市」、再開発も次々

国土交通省は 19 日、土地取引の目安となる 7 月 1 日時点の基準地価を発表した。 住宅地、商業地、工業地など全用途平均で地方圏が 0.3% 上昇し、31 年ぶりにプラスとなった。 大都市中心だった地価上昇の流れが地方に広がっている。 三大都市圏を含めた全国平均も 2 年連続で上昇した。 地方圏の地価上昇を引っ張っているのが、札幌、仙台、広島、福岡の「地方 4 市」だ。 コロナ禍でも全用途で 4 - 6% 台の上昇率を保っていたが、今年は 8.1% 上がった。 雇用や教育など生活環境がよく、周辺から人が集まっており、再開発計画も相次ぐ。

加えて、4 市以外の地方圏で 30 年にわたって続いた地価下落に歯止めがかかり、横ばいとなったのが大きい。 県庁所在地が地方圏にある 38 道県をみると、27 県が県全体としては下落したが、県庁所在地に限ると 20 県が上昇か横ばいとなった。 地方の中心部での「街なか居住」の動きも広がる。 訪日外国人(インバウンド)の回復で、観光地の上昇が地方にも広がる。 これまでは東京・浅草や京都・祇園で上昇が目立ったが、今年は岐阜県高山市の中心部がプラスに転じた。 政府が力を入れる半導体工場の誘致で、予定地の北海道千歳市や熊本県菊陽町周辺の高騰が続く。 住宅地、商業地とも上昇率トップ 10 の地点の約半数が半導体関連だ。

ただ、地方圏の大半は人口が減り、地価下落に歯止めがかからない。 下落した地点数の割合は 52% あり、上昇の 30% を大きく上回る。 全国平均は上昇率が拡大。 住宅地 0.7% (昨年 0.1%)、商業地 1.5% (同 0.5%)となった。 三大都市圏は全用途で 2.7% 上昇(同 1.4%)した。 東京圏は 11 年、名古屋圏は 3 年、大阪圏は 2 年連続で上がった。 都心のマンションは好調な売れ行きが続くほか、住宅価格が高騰した都心から近郊に移る動きもあり、地価上昇の範囲が広がっている。 全国の最高価格は 18 年連続で東京・銀座 2 丁目の明治屋銀座ビルで 1 平方メートルあたり 4,010 万円だった。 訪日客が増える期待から 4 年ぶりに上昇した。 再開発が進む大阪駅北側の商業地も地価が上がっている。(長橋亮文、平林大輔、asahi = 9-19-23)


企業物価 8 月は 3.2% 上昇 伸びは鈍化、輸入物価の下落を反映

日本銀行が 13 日に発表した 8 月の国内企業物価指数(2020 年平均 = 100、速報値)は前年同月より 3.2% 上がり、2 年 6 カ月連続の上昇となった。 ただ、上げ幅は前月より 0.2 ポイント縮まり、過去最高となるプラス 10.6% をつけた昨年 12 月以来、8 カ月連続で縮小した。 すでに下落に転じている輸入物価を反映し、企業物価の上昇は落ち着きをみせ始めている。 この指数は、企業間で取引されるモノの価格水準を示す。 8 月は 119.6 で、前月から 0.3% 上昇した。 公表している 515 品目のうち、8 割超にあたる 431 品目で前年同月より上昇した。 項目別では、原材料価格の転嫁が続く飲食料品が 5.9% 上昇。 国際価格高騰の影響などからパルプ・紙・紙製品、プラスチック製品も上がった。

物価の伸びが縮小している要因は、エネルギー価格の下落だ。 政府の高騰対策の影響で電力・都市ガス・水道は 10.9% 下がった。 国際的な原油価格が落ち着いていたことで、輸入物価全体も下落。 米ドルなどの契約通貨ベースで前年比 15.9%、円換算では同 11.8% 下がり、5 カ月連続で下落した。 ただ、足元で原油価格は上昇傾向にあり、今後、傾向が変わる可能性がある。 (土居新平、asahi = 9-13-23)

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5 月の企業物価 5.1% 上昇 5 カ月連続で伸び鈍化 輸入物価は下落

日本銀行が 12 日に発表した 5 月の国内企業物価指数(2020 年平均 = 100、速報値)は、前年同月より 5.1% 上昇し、2 年 3 カ月続けての上昇となった。 ただ、上昇幅は 5 カ月連続で縮小し、伸び幅は 21 年 6 月以来の小ささだった。 企業物価の伸びは頭打ちになった可能性が高まっている。

この指数は企業間で取引されるモノの価格水準を示し、5 月は 119.1 で、前月比はマイナス 0.7% だった。 物価を押し上げてきた輸入物価は円換算、米ドルなどの契約通貨ベースのいずれも 2 カ月連続で前年同月を下回り、下落幅も拡大。 契約通貨ベースではマイナス 9.6% で、20 年 10 月以来の大きな下げ幅となった。 石油・石炭・天然ガスの国際価格が下がった影響が大きいという。 日銀が公表する 515 品目のうち、433 品目で前年同月よりも上がった。 電力・都市ガス・水道が 13.1% 上昇と物価を押し上げたが、日銀によると、政府の電気・ガス料金の高騰対策で上昇幅は縮まった。 飲食料品は 7.9% 増で、原材料費や物流費の上昇を転嫁する動きが出たという。 (土居新平、asahi = 6-12-23)


住宅ローンの固定金利引き上げ メガバンク 3 行、変動金利は据え置き

メガバンク 3 行は 31 日、固定型の住宅ローン金利を 9 月から引き上げると発表した。 10 年固定では 0.10 - 0.20% 幅上げる。 日本銀行による金融緩和策の修正で、長期金利(10 年物国債の利回り)が上昇したため。 専門家は今後も上昇傾向が続くとみている。 変動型の住宅ローン金利は、長期ではなく短期の金利が指標となるため、各行とも据え置いた。 引き上げの対象は新規で借り入れる固定型の金利。 10 年固定の基準金利では、三井住友銀行が 0.20% 幅引き上げて年 3.74% (最優遇金利は 1.09%)、みずほ銀行は 0.15% 幅引き上げて 3.45% (同 1.35%)、三菱 UFJ 銀行は 0.10% 幅引き上げて 3.66% (同 0.88%)とする。

日銀は 7 月末の金融政策決定会合で、大規模緩和策の柱としてきた「長短金利操作」を修正。 低く抑え込んでいる長期金利の上限を実質的に年 0.5% 程度から 1.0% に引き上げた。 決定前、0.4% 台だった長期金利はその後、2014 年 6 月以来約 9 年ぶりとなる 0.6% 台まで上昇。 31 日夕時点では 0.640% となっている。 メガバンク各行は、こうした金利の上昇分を住宅ローン金利に反映させたとしている。 それでも、長期金利の水準からすると、住宅ローン金利は上昇余地があるとの見方がある。 住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を運営する MFS の塩澤崇取締役は「メガの固定型金利は、長期金利が今よりも低かった頃の今春の水準をまだ超えていない。今後も上昇傾向は続くだろう」とみる。

一方、住宅購入者の多くが選んでいる変動型は、激しい金利競争がまだ続きそうだ。 au じぶん銀行は 21 日、ケーブルテレビ JCOM のテレビやネットに加入すると、金利を最大 0.05% 幅引き下げるサービスを年内に開始すると発表した。 8 月の変動金利に適用すると最優遇金利で 0.148%で、過去最低水準となる。 同行の松田明人・住宅ローン本部長は「金利競争は厳しいが、無店舗という『持たざる強み』で経費を削減しつつ、コストが引っ張られない収益構造を構築している」と説明する。大手行より審査を厳しくし、貸し倒れるリスクの少ない人に限ることで低金利を実現している面もあるという。 MFS の塩澤氏は「マイナス金利政策はまだ撤廃されず、変動型は、少なくとも数年は低金利競争が続くだろう」とみている。 (多鹿ちなみ、久保田侑暉、asahi = 8-31-23)

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日銀、金融緩和策を修正 長期金利の 0.5% 超えを一定程度容認

日本銀行は 28 日、金融政策決定会合を開き、緩和策の柱の一つである「イールドカーブ・コントロール (YCC)」を修正すると決めた。 低く抑え込んでいる長期金利について、変動幅の上限のメドを 0.5% 程度としつつも、1.0% 程度までの動きは容認する。 運用を柔軟化し、日銀が国債を大量に買うことで生じている債券市場のゆがみを改善する狙いがあるとみられる。 4 月に就任した植田和男総裁のもとで 3 回目となる今会合で、大規模な金融緩和策の修正に踏み切るかどうかが最大の焦点だった。 YCC の運用は修正したが、マイナス金利政策や、上場投資信託 (ETF) などの資産買い入れの方針は維持した。

YCC は 2016 年 9 月、黒田東彦(はるひこ)前総裁のもとで導入された。 国債を買い入れ、住宅ローンや企業融資など様々な金利の指標となる長期金利(10 年物国債の利回り)を低く抑えることで、企業の設備投資や住宅の購入を後押しすることを狙った。 だが、市場で決まるべき長期金利を操作目標にする YCC は、本来の金利水準が分からなくなるなどし、市場機能を低下させているとの批判が強まっていた。 昨年には YCC の修正観測が高まったことなどから、金利が何度も日銀が設定する上限を突破。 日銀は昨年 12 月、上限を「0.25% 程度」から「0.5% 程度」に引き上げた。

今春以降は欧米など世界経済の先行き不透明感もあり、金利の上昇圧力は低下。 足元では上限の 0.5% を下回る水準で推移していた。 日銀がこのタイミングで上限超えを容認する方針を打ち出したのは、市場が比較的落ち着いている今なら、金利が急上昇するリスクが小さいと判断した可能性がある。 植田氏は 6 月の前回会合後の記者会見で「YCC を続ける効果がどれくらいで、副作用がどれくらいか、これを比較しつつどうするかを決める」と述べ、修正に含みを持たせていた。

日銀が YCC の上限超えの容認を決めたことで、長期金利が上昇して固定型の住宅ローン金利が上がったり、企業が資金調達する際の負担が増えたりする可能性がある。 また日銀はこの日、3 カ月に 1 度見直す経済・物価情勢の展望(展望リポート)を公表した。 消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率の見通しを、23 年度は 2.5% (4 月時点で 1.8%)に引き上げ、24 年度は 1.9% (同 2.0%)、25 年度は 1.6% (同 1.6%)とした。 植田氏は 28 日午後に記者会見し、政策修正を決めた理由などを説明する見通しだ。 (土居新平、asahi = 7-28-23)


金融政策「難しくなりかねない」 植田総裁がジャクソンホールで見解

日本銀行の植田和男総裁が、米中対立などの地政学リスクによって日銀の金融政策のかじ取りが難しくなりかねないとの認識を示したことが 26 日、わかった。 リスクを避けるため、日本企業が生産拠点を中国から他国に移しており、それが世界や日本経済にマイナスに働く恐れがあるという。 米西部ワイオミング州の景勝地で開かれている国際会議「ジャクソンホール会議」の討論会で語った。 討論会は非公開だったが、参加者が明らかにした。

中国については、米国主導のサプライチェーン(供給網)の脱中国が進んでいる。 コロナ禍では、部品などの供給が滞り、他国から調達する動きが拡大。 「ゼロコロナ」など、企業には逆風となる政策も打ち出された。 植田氏は、こうした地政学リスクの高まりをうけ、日本企業も生産拠点を東南アジアや北米に移したり、日本に戻したりする動きが出ていると指摘したという。 日本企業が生産拠点などを日本に戻すと、国内の投資は増える。 しかし、投じるコストと得られる利益を勘案した「経済合理性」に基づかない生産拠点の再編は、世界経済の効率性を損なう可能性がある。

植田氏は、こうしたプラスとマイナス両面の影響を勘案すると、日本経済にはマイナスの影響の方が大きい可能性があるとの認識を示したという。 経済の不確実性が増すことで、日銀の金融政策運営も難しくなるとの筋立てだ。 植田氏は、日本経済の現状は、個人消費や企業の設備投資が底堅く、米国景気の堅調さも好材料だとした。 一方、中国の景気減速には懸念を表したという。 金融政策については、「2%」の物価目標を安定的、持続的に達成できていないことから、現状の政策を維持するとの考えを述べたという。 (ジャクソンホール = 榊原謙、asahi = 8-27-23)


7 月の消費者物価指数、前年より 3.1% 上がる 23 カ月連続の上昇

7 月の消費者物価指数(2020 年 = 100)は、値動きの大きい生鮮食品をのぞいた総合指数が 105.4 で、前年同月より 3.1% 上がった。 燃料費の下落に伴い電気代が値下がりし、上昇率は 2 カ月ぶりに縮んだ。 ただ食品や家事用品など生活必需品の高騰は続き、政府の補助金の縮減でガソリン代も半年ぶりに上昇に転じた。 総務省が 18 日発表した。 品目別でみると、電気代は前月より 2.8% 下がった。 大手電力 7 社が 6 月に家庭向けの規制料金を値上げしたが、足元の燃料費が安くなり、7 月の料金は抑えられた。 政府の補助金の効果もあり、前年同月と比べると 18.6% 下がった。

一方、ガソリン代は前年同月より 1.1% 上がった。 ガソリンに対する補助額は徐々に引き下げられており、店頭価格のアップにつながった。 生鮮食品をのぞく食料は 9.2% 上がり、4 カ月連続で 9% 台を記録。 タマゴが 36.2% 上昇と高値が続き、アイスクリームや炭酸飲料など夏に消費が増える品物も 10% を超す上げ幅だった。 食品以外の生活必需品も高騰が続く。 トイレットペーパーは 14.8% 上昇。 携帯大手が 7 月に料金プランを改めた影響で携帯電話の通信料も 10.2% アップした。 観光客の増加で、宿泊料も 15.1% 上がった。 その結果、生鮮食品をのぞいた総合指数は 23 カ月連続で上昇した。 (米谷陽一、asahi = 8-18-23)

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6 月の消費者物価指数、3.3% 上昇 … 電気料金の値上げ響く

総務省が 21 日発表した 6 月の全国消費者物価指数(2020 年 = 100)によると、値動きの大きい生鮮食品を除く総合は 105.0 と、前年同月より 3.3% 上昇した。 物価上昇は 22 か月連続で、電力大手 7 社が 6 月使用分から家庭向け電気料金を値上げしたことが響いた。 食料価格も高水準で推移した。 上昇率は 5 月 (3.2%) より 0.1 ポイント上がり、2 か月ぶりに前月を上回った。 総務省は、政府の電気代と都市ガス代への補助金がなければ、上昇率は 4.3% だったと分析している。

品目別では、生鮮食品を除く食料が 5 月から横ばいの 9,2% で、1975 年 10 月 (9.9%) 以来、47 年 8 か月ぶりの高い水準が続いている。 原材料費や物流費、人件費などの上昇による値上げが相次いだ。 また、家事用消耗品 (12.6%) も上昇が目立った。 電気代や都市ガス代などエネルギーはマイナス 6.6% で、下落率は 5 月(マイナス 8.2%)から縮小した。 政府の補助金や燃料価格の下落で押し下げられた一方、電気料金値上げの影響があった。 生活の実感により近い生鮮食品を含む「総合指数」も 3.3% だった。 (yomiuri = 7-21-23)

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物価上昇率「2% を下回らない可能性」 日銀 6 月会合で意見相次ぐ

日本銀行は 26 日、今月の金融政策決定会合の「主な意見」を公表した。 物価上昇率について、現状の見通しよりも「上ぶれる可能性がある」との指摘が委員から相次いだ。 日銀は、物価の上昇率は今年度半ばにかけ徐々に縮小するとしてきたが、見通しが大きく変われば、政策修正につながる可能性がある。 4 月に就任した植田和男総裁のもとで 2 度目となる会合を 6 月 15、16 日に開いた。 日銀は長期金利を低く抑える「イールドカーブ・コントロール (YCC)」を含む金融緩和を続けると決めた。

この会合で議論の一つになったのが、高騰が続く物価の見通しだ。 消費者物価指数(生鮮食品を除く)の前年同月比の上昇率は 4 月まで、13 カ月連続で日銀が目標とする 2% を上回っている。 ただ、日銀は原油価格の上昇など一時的な要因が大きいとし、今後、プラス幅を徐々に縮小し、今年度は 1.8% に落ち着くとみている。 会合では、ある委員が、企業の価格設定の姿勢に変化があるとして「想定より上ぶれる可能性がある」と指摘。 「2% を下回らない可能性が高い」との声も出た。 著しい物価上昇の抑え込みに苦労する欧米の中央銀行を念頭に、「わが国も物価上昇の持続性を過小評価している可能性も否定できない」との意見もあった。

植田氏はこの会合後の記者会見で、「(物価の伸びの)下がり方が思っていたよりもやや遅い」と指摘。 そのうえで、「(物価の)見通しが大きく変わるということであれば、政策の変更にはつながってくる」と語り、物価高騰が想定以上に長引けば、金融緩和策を修正する理由になりうるとの見方を示した。 日銀は次回 7 月の会合で 3 カ月に 1 度の物価の見通しを公表する。 見通しの上方修正とともに、政策変更があるのではないかとの見方が市場にくすぶる。 また、「主な意見」によると、ある委員は緩和を続けるべきだとした上で、YCC について、政策の修正の際に市場に与える影響などを勘案すると「コストが大きい」と指摘。 「早い段階で、その扱いの見直しを検討すべきだ」と訴えていた。 (土居新平、asahi = 6-26-23)


金融庁、ビッグモーターと損保大手に報告徴求命令へ 保険金不正で

中古車販売大手のビッグモーター(東京都港区)による自動車保険の保険金水増し請求問題で、金融庁は同社や損害保険ジャパンなど損保大手に報告徴求命令を出す方針を固めた。 保険の取り扱いに問題がなかったかなどを調べるため、保険業法に基づいて事実関係の説明や関連資料の提出を求める。 報告徴求命令の対象となるのは、ビッグモーターと、同社と保険代理店契約を結ぶ損保ジャパンのほか、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険などの大手各社。

ビッグモーターは、顧客に自動車保険を販売する保険代理店でもある。 損害保険金の水増しのために故意に車を傷つけるなどした問題が指摘されており、金融庁から監督を委任されている関東財務局は 28 日、同社役員を呼んで聞き取りを行った。 金融庁の担当者は「第三者委員会の報告書によれば、同社の内部監査やガバナンスは崩壊している。代理店業務がきちんと行われていたかについてヒアリングする」と説明した。

損保ジャパン、東京海上、三井住友の 3 社はビッグモーターに社員を出向させていた。 損保ジャパンは最多となる 37 人をビッグモーターに出向させており、昨夏の時点で、出向者を通じて「工場長から不正の指示があった」との情報を得ていた。 金融庁は、損保側が不正をどのように認識していたかについても、調査を進める方針だ。 今後、ビッグモーターや損保大手に対する立ち入り検査も視野に入れているという。 悪質性があると判断した場合は、業務改善命令や業務停止命令などの行政処分のほか、保険代理店登録の取り消しもあり得る。 鈴木俊一財務・金融担当相は 28 日の閣議後会見で「ヒアリングの結果も踏まえ、保険契約者保護に欠ける問題が認められた場合には、法令に基づいて厳正に対応する」と話した。 (栗林史子、asahi = 7-28-23)


税収増でも PB 黒字化は 26 年度 目標の 25 年度は 1.3 兆円の赤字

財政健全化の指標となる国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス = PB)について、内閣府は 25 日、最新の試算を公表した。 政府が PB の黒字化をめざす 2025 年度の収支は、高い経済成長が実現した場合でも 1.3 兆円の赤字となった。 足元の税収は増えているものの、前回 1 月の想定よりは成長率が低めに推移するとし、黒字化は 26 年度になるとの見立てを据え置いた。 PB は、社会保障や公共事業、教育や防衛関連などの政策経費を新たな借金なしで賄えるかどうかを示す指標。 内閣府が年 2 回、最新のデータに基づいて試算しており、この日の経済財政諮問会議で示された。

GDP (国内総生産)が増えると税収も増えるため、政策経費が大きく増えなければ PB は改善する。 今回は 25 年度の実質 GDP 成長率を 1.3% とし、前回想定の 2.0% から引き下げた。 民間予測の 25 - 29 年度の平均 (0.8%) より高いものの、堅めに見積もったという。 中長期的には 2% 程度の成長率を実現すると見込むが、政府が 20 日に公表した今年度の成長率は 1.3%、来年度は 1.2% と想定する。 今回の試算では、25 年度も同水準の成長になると見込む。

22 年度の国の一般会計の税収は約 71 兆円と過去最高となり、前年度より約 4 兆円増えた。 物価高の影響などで消費税が伸び、所得税も増えた。 今後も一定程度の税収増が見込めると予測するが、それでも 25 年度までは歳出が税収などを上回りそうだという。 一方、今回の試算には、事業費ベースで年 3.5 兆円規模を見込む「異次元の少子化対策」は含まれていない。 財源が決まっていないためで、来年 1 月に新たな試算を示す方針だ。

26 年度の PB は 2.3 兆円の黒字を見込む。 ただ、これは 1.6% の経済成長を達成した場合だ。 人口が減ってゆくなかでも成長率が伸びるとしたのは、1 人あたりの実質 GDP 成長率を 2.1%、賃金上昇率を 3.0% とする前提を置いたためだ。 だが、過去 10 年ほどの経済成長の実績に基づく「現状維持」のシナリオだと 26 年度の PB は 0.2 兆円の赤字となり、その後も赤字基調が続く。 国と地方の借金残高の GDP に対する割合は、22 年度の 213.5% をピークに、24 年度は 206.9% に下がる見通し。 高い経済成長が実現すれば、その後も順調に下がってゆくが、現状維持なら横ばいだ。 (米谷陽一、asahi = 7-25-23)


大企業製造業の景況感は 7 期ぶり改善、自動車が回復 - 日銀短観

→ 価格転嫁進展やコスト高一服、大企業非製造業は 5 期連続改善
→ 脱コロナで宿泊・飲食は過去最高、インフレ期待上昇が足踏み

日本銀行が 3 日発表した 6 月の企業短期経済観測調査(短観)は、大企業・製造業の景況感を示す業況判断指数 (DI) が価格転嫁の進展や自動車生産の回復などを受けて 7 四半期ぶりに改善した。 大企業・非製造業も 5 期連続の改善となった。 景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた業況判断 DI は、大企業・製造業でプラス 5 と前回の 3 月調査のプラス 1 から改善した。 日銀によると、企業からは価格転嫁の進展や原材料コスト高の一服、自動車生産の回復などが指摘されている。 半導体不足の影響が緩和して生産が持ち直している自動車は、前回のマイナス 9 からプラス 5 に改善した。

大企業・非製造業の業況判断 DI はプラス 23 と、前回のプラス 20 からさらに改善した。 新型コロナウイルス感染症の影響の緩和やインバウンド(訪日外国人)需要の回復を受けて、宿泊・飲食サービスが 0 からプラス 36 に上昇した。 2004 年 3 月の調査開始以来の最高水準で、改善幅も最大だった。 6 月短観では大企業・製造業の景況感悪化にも歯止めがかかり、日本経済が「緩やかに回復していく」という日銀の見通しを支える結果となった。 植田和男総裁は物価の先行きへの慎重な見方を踏まえて大規模緩和を維持する考えを示しているが、市場では 7 月の金融政策決定会合で物価見通しの上方修正に合わせて政策修正に踏み切るとの思惑がくすぶっている。

先行きについては、引き続き海外経済の減速に対する警戒感があるものの、大企業・製造業ではプラス 9 に改善が見込まれている。 一方、大企業・非製造業はプラス 20 に悪化する見込みで、原材料価格などのコスト高の継続が懸念されている。

大企業製造業の景況感は 7 期ぶり改善 | 非製造業は 5 期連続改善

大和総研の久後翔太郎シニアエコノミストは、6 月短観について「自動車の挽回生産で大きく押し上げられている。 海外経済悪化よりも挽回生産の好影響の方が上回った。」と説明。 製造業は底打ちの動きが見られる一方、非製造業は少し頭打ち感が強まってきているとした上で、「経済活動正常化の恩恵が引き続きある一方で、物価高による購買力低下への警戒感も少し見られる」との見方を示した。

三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、短観は日本経済の好循環達成の可能性が高まっていることを示したが、「中小企業もついてこれるかどうかはまだ不確実だ」と指摘。 イールドカーブコントロール(長短金利操作)の修正は「単に経済や物価というよりも、円やその他の要因に依存する」とした上で、「この時点で日銀が円安圧力を抑えたいかどうかだ」とみる。

松野博一官房長官は 3 日の記者会見で、短観について「緩やかに回復している景気の状況を反映したもの」との認識を示した。 その上で、「今後とも企業を取り巻く状況については、海外経済や物価の動向を含めてしっかりと注視していく」と述べた。

価格判断は下落方向

23 年度の設備投資計画は、大企業の製造業が前年度比 19.3% 増、非製造業は 10.1% 増。 いずれも 3 月調査から上方修正され、過去平均を上回る計画となった。  販売価格判断 DI (上昇 - 下落)と仕入価格判断 DI (同)は、資源価格など原材料価格の上昇が一服する中で、大企業では製造業と非製造業ともに下落方向への動きとなった。 非製造業の販売価格判断が下落方向の動きとなるのは 12 期ぶり。 企業のインフレ期待の上昇は足踏み。 企業が想定する消費者物価 (CPI) の前年比上昇率を示す物価全般見通しは、1 年後が 2.6%、3 年後が 2.2% となり、それぞれ前回の 2.8%、2.3% から鈍化した。 5 年後は 2.1% と変わらず。 販売価格の見通しは、1 年後、3 年後、5 年後の全てでプラス幅が縮小した。

ブルームバーグ・エコノミクスの見方

「6 月短観は、良好な企業の業況感が、設備投資や生産活動の活発化を通じて第 2 四半期の成長を後押しすることを示唆している。 良好な企業マインドの背景として、サプライチェーンの改善やコロナ後のリオープンによるペントアップ需要の力強さが挙げられるだろう。 植田総裁は、需要主導の安定した物価上昇の実現に向けて見え始めた『良い芽』が結実しているか、判断するのにはまだ時間がかかると説明するだろう。」

詳細 (日銀の説明)

  • 大企業・製造業では、多くの業種で価格転嫁の進展や原材料コスト高の一服が改善理由に。 自動車では生産回復の指摘。 一方、生産用機械、電気機械からは海外経済の需要低迷を指摘する声
  • 大企業・非製造業では、卸売り、運輸・郵便、対個人サービス、宿泊・飲食サービスなどで感染症の影響緩和との指摘
  • 価格判断 DI、大企業・製造業は販売価格・仕入価格判断ともに 2 期連続で下落方向への動き。 大企業・非製造業は販売価格判断が 12 期ぶりに下落方向。 仕入価格判断は 2 期連続で下落方向
  • 雇用人員判断 DI、過剰方向への動きとなった区分もあるが、水準として大幅な人手不足の状況は変わらず。 新卒採用計画はかなり強気の見通しで、人手不足を反映したとみられる (伊藤純夫、Bloomberg = 7-3-23)

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日本の 5 月サービス業 PMI は過去最高、受注残「記録的拡大」

[東京] au じぶん銀行が 23 日発表した 5 月のサービス業 PMI は前月改定値の 55.4 から 56.3 となり、6 カ月連続で上昇した。 水準は 2007 年 9 月の調査開始以来過去最高で、新規事業、輸出高、受注残高は「記録的な拡大」が認められたという。 製造業は 50.8 となり、前月の 49.5 から上昇。 前月比では 3 カ月連続の上昇となった。 サービス業の成長の要因に関して、回答企業は新型コロナ関連の混乱が収束しつつあるほか、国内外での旅行事業の回復を指摘した。

ただ、調査期間中、購買価格の急激なインフレは継続したとしている。 製造業は 22 年 10 月 (50.7) 以来の 50 超えで、活動状況の改善が示された。 生産量、新規受注が 13 カ月間で最大の増加率となった。 製造業が過去 3 年間悩んだサプライチェーン問題にも改善の兆しがみられたという。 この結果、5 月の複合 PMI も 2013 年 10 月以来の水準となり、調査開始以来 2 番目の高さを記録したという。 S & P グローバルのエコノミストは、景気の改善が継続し、成長速度も加速したと指摘している。 (Reuters = 5-23-23)


路線価 1.5% 増、2 年連続で上昇 専門家「コロナ禍脱しつつある」

国税庁は 3 日、2023 年 1 月 1 日時点の路線価を公表した。 全国平均は前年比 1.5% 増で、2 年連続で上昇した。 住宅・オフィス需要の高まりや観光客数の回復などを背景に、新型コロナの感染拡大前の水準に地価が戻りつつある。 全国平均は 20 年まで 5 年連続で上昇し、21 年はコロナ禍で 0.5% 下落。 22 年は 0.5% 上昇していた。 今年は上昇率が拡大した。

観光地、入国制限緩和で好調

都道府県別では、25 都道府県で上昇。 北海道(6.8% 増)は札幌市中心部のマンション価格が高騰し、割安感のあった隣接市などでも住宅需要が高まっている。 福岡(4.5% 増)は、投資用を含むマンション開発や、オフィス需要が福岡市内で活発化。 昨年 10 月に入国制限が緩和され、観光地を抱える沖縄(3.6% 増)や京都(1.3% 増)も上昇した。 20 県は下落したが、福井を除く 19 県で下落率は縮小した。

都道府県庁所在地の最高路線価を「コロナ前」の 20 年と比べると、札幌が 572 万円 → 668 万円(1 平方メートル当たり、以下同じ)、名古屋が 1,248 万円 → 1,280 万円に上昇するなど、47 地点中 30 地点で同額以上となった。 福島、宇都宮、岐阜、広島、松山、佐賀といった地方都市も目立ち、地価上昇は地方に波及している。 逆に 20 年を下回ったのは、東京や大阪のように非常に高額な地点のほか、青森(16 万円 → 15 万 5 千円)、甲府(27 万 5 千円 → 26 万円)、鳥取(10 万 5 千円 → 9 万 7 千円)、熊本(212 万円 → 204 万円)などだった。

都市未来総合研究所の平山重雄・常務研究理事は「コロナ禍の影響を脱しつつある状況だ。 5 月の 5 類移行後は人流がさらに増えており、地方主要都市と比べて地価の回復がやや遅れていた大都市繁華街などでも、今後は上昇率が高まるだろう。」と話している。

「倍の賃料でもいい」

「高い物件に事務所を構えることは、お客さんの信用につながる。」 勤務先の弁護士法人の日本進出を担当する中国人弁護士 (38) はそう話す。 狙いは、東京都港区でこの秋に開業する高さ日本一の「麻布台ヒルズ(約 330 メートル)」だ。 オフィス賃料は高水準とみられるが、「将来のビジネス機会になるのなら、倍の賃料でもいい」という。 コロナ禍でテレワークが浸透し、フロアを縮小する企業も多い。 だが東京駅近くでは超高層ビルの建設が相次ぎ、21 年 6 月に開業した「常盤橋タワー」や今年 3 月開業の「東京ミッドタウン八重洲」は満床だ。 好立地のオフィスの需要は根強く、地価上昇を支える。

完成すれば高さ日本一となる「トーチタワー(約 390 メートル、27 年度開業予定)」を手がける三菱地所の担当者は「スタートアップ企業のように、スピードや発想を重視する企業で『オフィス回帰』の動きがある。 働く場所が選べる時代だからこそ、楽しさや安心感、人との交流など、プラスアルファの価値を備えた空間を提供していく。」と話す。 大阪市、京都市の中心部では、路線価が前年比 5% 以上上昇したエリアがある。 調査した不動産鑑定士などによると、マンションやホテルの需要が大きい一方で用地が限られていて、価格を押し上げたという。

海外富裕層、数億円のタワマン取引

昨秋以降、韓国や台湾などからの訪日外国人客(インバウンド)が増えている京都は、国内外の資本による高級ホテルの建設ラッシュだ。 今年 9 月にタイが本拠の「デュシタニ京都」、24 年に「ヒルトン京都」、25 年にシンガポールが本拠の「カペラ京都」、26 年には「帝国ホテル京都」が開業する。 大阪市の中心部では、利便性の良い地下鉄御堂筋線沿線などでタワーマンションの建設が相次ぐ。 大手不動産会社の担当者によると、1 戸 2 億 - 3 億円超の高額物件を、企業オーナーや中国、台湾などの富裕層が投資目的やセカンドハウスとして購入するケースが目立つという。 (花野雄太、市田隆、asahi = 7-3-23)

路線価 : 主要道路に面した 1 平方メートルあたりの土地の評価額。 国土交通省が発表する 1 月 1 日時点の公示地価の 8 割を目安に、売買の事例や不動産鑑定士の意見を参考にして国税庁が算出する。 今年は約 32 万 2 千地点が対象。