子どもの虐待相談件数、過去最多 21 万 9,170 件 32 年連続で増加

全国の児童相談所が 2022 年度に子どもの虐待について受けた相談は、21 万 9,170 件(速報値)で過去最多を更新した。 32 年連続の増加で、前年度より 1 万 1,510 件増えた。 こども家庭庁が 7 日、公表した。 虐待の内容別でみると、「心理的虐待」が最多の 12 万 9,484 件 (59.1%)、次いで「身体的虐待」が 5 万 1,679 件 (23.6%)、「ネグレクト(育児放棄)」が 3 万 5,556 件 (16.2%)、「性的虐待」が 2,451 件 (1.1%) だった。

相談経路は、「警察など」が 11 万 2,965 件 (51.5%) で最多。 次いで「近隣・知人」 2 万 4,174 件 (11.0%)、「家族・親戚」 1 万 8,436 件 8.4%)、「学校」 1 万 4,987 件 (6.8%) だった。 相談対応件数の増加の背景には、警察などからの通告が増えていることが挙げられる。 相談対応件数全体で前年度から増えた 1 万 1,510 件のうち、8 割超の 9,861 件が警察などからだった。 また、21 年度に虐待を受けて死亡したことがわかった子どもは全国で 74 人いた。 前年度から 3 人減った。 74 人のうち、心中以外で亡くなったのは 50 人だった。 年齢別でみると、0 歳が約半数で最多の 24 人で、このうち生後 1 カ月未満が最多の 6 人、うち 3 人は生後 24 時間未満で亡くなった。 (川野由起、asahi = 9-7-23)


10 兆円大学ファンド、東北大を第 1 号候補に選定 東大・京大見送り

文部科学省は 1 日、世界トップレベルの研究力をめざす「国際卓越研究大学」の初めての認定候補に東北大を選んだと発表した。 大学変革に向けた計画と戦略が明確で、その理念が全学に浸透していることが高く評価された。 東京大や京都大など他の 9 大学の選定は見送られた。 東北大は来年度中に正式認定された後、政府がつくった 10 兆円規模の大学ファンドから支援を受ける見通しだ。

10 兆円ファンド、東大京大なぜ「落選」? 「もうやめよう」の声も

この制度は、政府が巨額の資金を投じて国際競争力のある大学づくりを後押しし、低迷が続く日本の研究力を底上げしようというもの。 今年 3 月までに国立と私立の計 10 大学が応募。 国内外の大学や企業の関係者 10 人でつくる文科省の有識者会議が 4 月から審査してきた。 有識者会議は 10 大学の申請について、「意欲的な提案が出され、大学の現状を変革しようとする強い意志が示されたことを歓迎したい」と総括した。 審査のポイントは、▽ 国際的に卓越した成果を出せる研究力、▽ 3% の成長につながる意欲的な事業・財務戦略、▽ 自律と責任のあるガバナンス体制の三つ。 大学変革へのビジョンとコミットメントが十分かどうかを見極めるため 5 カ月間で 12 回の会合を重ねた。 書類審査や面接のほか、一部の大学の現地視察をした。

東大と京大に審査でついた注文は

その結果、有識者会議は全員一致で東北大を初の認定候補に選んだ。 質のいい論文数や外国人の研究者・学生の比率など六つの目標について、具体的な計画と戦略が明確に示されていることを評価。 有識者会議は「改革の理念が組織に浸透している」とした。 ただ、人文・社会科学系を含む研究力向上への道筋や、世界から優秀な研究者・学生を集める戦略、産学協同による収益の拡大策など、不十分な点もあると指摘。 有識者会議と連絡を取り合いながら、計画を磨き上げるよう求めた。

東北大が有識者会議の注文に応えられれば、2024 年度中に国際卓越研究大学の第 1 号として正式に認定される。 大学ファンドから東北大への支援は、過去 5 年間の外部資金の調達額をもとに金額が決まる。 支援は最大 25 年間にわたり、初年度は 100 億円前後になりそうだという。

一方、審査が最終段階だった 7 月、東北大とともに現地視察の対象となった東京大と京都大は選定が見送られた。 「組織変革に向けた工程の具体化と学内調整の加速が求められる(東京大)」、「国際標準の研究組織に適切に移行するために、責任と権限の所在の明確化が必要(京都大)」などの注文がついた。 複数の大学が選ばれるとの見通しもあったが、今回は 1 大学にとどまった。 文科省は、国立大学法人法の改正など学内組織の変革に欠かせない規制緩和を早急に進めて、24 年度中に2回目の公募をしたい考えだ。「選外となった 9 大学の再挑戦や新たな大学の応募も可能で、今後、段階的に選定して最終的に数大学を認定する」という。

ただ、この制度については、「大学間の格差を広げる」との懸念がある。 また、3% の事業成長をめざして大学が利益を追求すると、基礎研究より応用研究ばかりに偏るとの批判も根強い。 大学の自主性や独立性を、いかに担保するのかも課題だ。 (村山知博、asahi = 9-1-23)


私立大の 53.3%、定員割れ 初の 5 割超え 定員充足率も過去最低

私立大の半数超が今春、入学者数が定員より少ない「定員割れ」だったことがわかった。 30 日、日本私立学校振興・共済事業団が発表した。 5 割を超えるのは初めて。 定員割れの大学は 320 校で、前年度から 37 校増えた。 全国 600 校から回答を得た。 私立大全体に占める定員割れの大学は、小規模大を中心に 53.3%。 うち、入学者数が定員の 8 割未満だった大学は 155 校 (25.8%) だった。 今春の私立大の入学者数は 50 万 599 人で、前年度から 1,595 人減った。 一方、入学定員は前年度比 4,696 人増の 50 万 2,635 人。 私立大全体の入学定員に対する今年度の入学者数の割合(定員充足率)は 99.59%。 100% を下回ったのは 21 年度に続いて 2 回目で、過去最低となった。

私大の収入、8 割は学生納入金

定員割れの大学の割合は 1990 年代後半、急激に 18 歳人口が減少した影響などもあり、著しく上昇した。 2017 - 20 年度には、文部科学省が、入学者数が定員を一定程度超過した大学の補助金を減らすなどの規制をかけ、合格者数を厳格化したことを受けて改善。 しかし、少子化や家計悪化による受験校数の絞り込みなどの影響で、再び上昇している。 文科省は今年、国公私立大学の 40 年度の入学者数は、22年度と比べて 13 万人減るという試算を公表した。 大学進学率が上昇したり留学生が増えたりしても、入学者数は、現在の総入学定員の約 8 割にとどまるという。

私立大の収入の約 8 割は、授業料などの学生納付金が占める。 そのため、定員割れは大学の経営に大きな影響を与える。 私立大の急な破綻を防ごうと、文科省も取り組みを進めている。 来年度予算の概算要求には、私立大が連携や統合をする相手を見つけやすくする「マッチング」のためのシステムを開発するための経費を盛り込む。

規制緩和が影響か

兵庫県にある私立大は今春の定員充足率が約 76% だった。 学長は、「社会のニーズをとらえた教育を提供していれば、これまでは学生はある程度集まった。 だが、そうした常識が通用しなくなってきた。」と話す。 この大学は、一般選抜で十分な志願者を集めるのは難しいと判断。 年内に合否が出る総合型選抜と学校推薦型選抜で、入学者の 8 割を確保することを目指しているという。

今回定員割れの私大が増えた背景を、河合塾教育研究開発本部の近藤治主席研究員は、文科省が定員管理の規制を緩和した影響が大きいと指摘する。 首都圏や関西などの大手私大が大幅に合格者を増やし、大手の不合格者を受け入れる立場の大学への入学者が、大きく減ったとみる。 最近の受験生は大学を選ぶ際、知名度を重視する傾向が強まっているとし、「知名度が低い大学は、これまで以上に他大学との差別化が必要だ」と述べた。 (山本知佳、編集委員・増谷文生、asahi = 8-30-23)


所得格差が拡大 2021 年の「ジニ係数」 過去最高と同水準に

世帯ごとの所得格差が拡大していることが厚生労働省の 2021 年の調査でわかった。 格差の大きさを示す「ジニ係数」が、税や社会保障による再分配前の当初所得で 0.5700 となり、前回 17 年の調査 (0.5594) から上昇。 過去最高だった 14 年の調査 (0.5704) に次ぐ水準となった。 同省が 22 日公表の「所得再分配調査」で明らかにした。 ジニ係数は、0 - 1 の間で、格差が大きいほど数値が高くなり「1」に近づく。 全員が同じ所得だと「0」になり、全所得を 1 人が独占していると「1」になる。 所得は 20 年のデータを使って算出した。 公的年金の給付などを含む再分配後の所得ではジニ係数が 0.3813 となり、これも 17 年の 0.3721 から微増した。

「貧困の高齢化」、注視が必要

同省の担当者は「一般的に高齢化が進むと年金を含まない当初所得が減り、ジニ係数が悪化する」と説明。 ただ、格差の状況は、当初所得では 14 年調査以降、再分配後の所得では 99 年調査以降、いずれも「横ばいで推移している」としている。 ジニ係数が足元で上昇した点についても、「調査の抽出世帯数は約 3,300 世帯と限られており、数値は 0.01 単位ではぶれが生じる」と話す。

一方、一橋大経済研究所の小塩隆士教授は「大きな数値の変化はないが、いずれの指標も方向としては格差が拡大していることを示したと言える」と指摘。 他の研究などとあわせると、「所得や雇用環境がよくない非正規で働く人たちがコロナ禍でより大きな影響を受けたことを反映している可能性がある」とみる。 今後も「就職氷河期世代が高齢層の仲間入りをすると、年金をもらえる人ともらえない人の区別がはっきりしてくる。 これから格差が小さくなっていくとは期待できず、『貧困の高齢化』について注視が必要だ。」と話す。 (中村靖三郎、asahi = 8-22-23)


社員の奨学金を肩代わり、900 社超 狙いは人材確保 教員採用でも

人材確保を目的に、社員の奨学金返還を企業などが肩代わりする動きが広がっている。 日本学生支援機構 (JASSO) の「奨学金返還支援(代理返還)制度」を利用する企業は 7 月末時点で 972 社。 今夏に千社を超えるとみられる。(上野創、山本知佳、高浜行人)

「この制度をきっかけに、就職先として少しでもわが社に関心をもってくれたら。」 貸与型奨学金の代理返還制度を利用する広島市の建設会社「宮田建設」の担当者はそう話す。 月の返還額の 50% を上限に、計 200 万円まで社員の奨学金を肩代わりする。 対象は新卒の新入社員だ。 土木工事や住宅リフォームを手がける同社は社員約 70 人。 毎年 5 人ほどの新規採用を見込む。 しかし、「建設業界は 3K (きつい・きたない・危険)のイメージがあるのか、採用計画通りにいかず、新入社員が 1、2 人の年もあった」と担当者は打ち明ける。

代理返還を始めた後、同社はパンフレットの福利厚生欄に記載してアピールしてきた。 これまでに、制度を利用した社員は 1 人だけだが、反応は良い。 パンフレットを見た大学や専門学校の進路担当者から「これ、いいですね」とよく言われるという。

大分市の建設会社「平和建設」も今春から、大卒者の採用増を目指し、返還総額の 50% を上限に計 250 万円まで支援する。 担当者は「社員の経済的・心理的負担を軽減し、安心して働ける環境を整えたい。」 利用実績はまだないが、「求職者が少しでもこちらを向いてくれれば、との思いだ」と話す。

社員や企業にメリットも

JASSO は 2021 年 4 月、奨学金の貸与を受けた本人に代わり、企業が奨学金の全額もしくは一部を JASSO に直接送金できる形で「奨学金返還支援(代理返還)制度」を始めた。 活用する企業は当初の 65 社から増え続け、今年 7 月時点で 972 社。 利用人数も 21 年度の 813 人が 22 年度は 1,708 人、今年度は 7 月末時点で 2,057 人と増えている。 JASSO のホームページによると、建設業や医療関連など、制度を利用する企業は多岐にわたる。 JASSO の担当者は「想定以上のニーズがあった」と語る。 増加の背景には、「貸与型奨学金の返還に追われて苦しい」といった声がある中、採用時の PR になることに加え、直接返還が可能になったことで社員にもメリットが生じる点もある。

制度開始前、社員の奨学金返還を支援したい企業の多くは、社員の給料に奨学金返還分を上乗せして支給していた。 上乗せ分は所得税の課税対象となるため、社員が払う税額は上がる。 企業がJASSOへ直接送金すれば所得税の対象外となり、さらに原則として標準報酬月額の算定のもととなる報酬に含まれないので、社会保険料が安くなるメリットもある。 JASSO も企業から確実に返還を受けられ、延滞リスクや延滞者への回収コストが下がる。 企業側は肩代わりした分を損金として算入できる。 企業が JASSO に送金する際は現在、ゆうちょ銀行やコンビニなどから用紙で払い込む必要がある。 利用企業の増加に対応するため、JASSO は来年度から口座振替を導入し、利便性を高めるとしている。(上野創、山本知佳)

教員採用試験で 9 年ぶりに志願者増

教員不足に悩む教育委員会や、若者の流出に悩む自治体も、独自の支援策を展開し、人材確保をはかっている。(高浜行人、上野創)

岐阜県教育委員会は、来春採用の公立小中学校の教諭向けに、日本学生支援機構 (JASSO) で借りた奨学金の返還額に応じ、最大 144 万円を支給する制度を新設した。 対象は県内の高校を卒業し、教員採用試験に初めて合格した人で、定員 40 人。 採用から 7 年間、月の返還額を約 1 万 7 千円を上限に補助する。 7 年間勤務することが条件で、その前に退職した場合は支給済み分を返還させる。

県教委によると、5 月 1 日時点での不足教員数は小学校 21 人(昨年同時期 13 人)、中学校 6 人(同 3 人)。長時間労働問題などで教職が敬遠される中、新卒採用者の確保を狙う。 また、岐阜県は隣の愛知県に比べて諸手当の額が低く、志願者が流れる要因になっていたといい、待遇面を改善して教師になる人を増やしたい考えだ。 効果はさっそく出ているとみられる。 来春採用者の試験では、小学校の志願者数が 541 人(前年度 520 人)と 9 年ぶりに増えた。 小中学校の志願者計 1,068 人のうち、この制度の利用希望者は約 200 人に上る。 試験の成績順に対象を決める予定だ。 担当者は「志願者が増えたのは新制度の成果でもあるのでは。 教員の質と量の両方の改善につなげていきたい。」と話す。

山梨県教委も 2021 年度から、教員採用試験に合格し、公立小学校の教諭として勤務する人を対象に、JASSO の貸与型奨学金の返還を一部支援する制度を設けている。 採用試験を受ける年度の前年度に申請してもらい、勤務開始の 1 年後から 10 年かけて補助金として支援する。上限は大学などを卒業する前の2年間に貸与を受けた額などとしている。募集は20人だが、応募は半分以下。担当者は「もっと知ってもらえるように工夫したい」と話す。

教員の奨学金返済支援をめぐっては、旧日本育英会(現日本学生支援機構)が奨学金事業を実施していた時代に、教員に就いた人を対象とした同様の返済免除制度があったが、1997年度末までの大学新入生を最後に廃止されている。 自民党は今年5月、「教師として一定期間以上勤務した場合に、奨学金の返還を免除・軽減する仕組みの構築に向けて取り組む必要がある」と政府に求める提言をまとめた。 文部科学省は来年度予算案の概算要求に、教員の奨学金返還を減免するための必要経費を盛り込む方針だ。 対象者や減免のための条件は検討中で、8月中に制度の大枠を固める。

36 都道府県、615市区町村でも

若者の流出に悩む自治体でも、自治体内に住んだり、働いたりすることを条件に、奨学金の全額または一部の返還を肩代わりするところがある。 内閣官房の昨年 6 月の調査では、36 都府県、615 市区町村が JASSO や自治体の奨学金の返還支援をしていた。 「就職先を指定の企業や業種に限定」、「自営業や非正規雇用でも対象」など、要件や支援内容はさまざまだが、定められた期間の居住または就業を条件とし、I ターンや U ターンを狙うところが多い。 国は、一定の要件を満たす取り組みの返還支援分について、特別交付税の対象として後押しする。

岩手県は、大学などの学生や県外で働く 35 歳未満の既卒者らを対象に、県内に定住し、県が認定する企業に正規雇用で 8 年間働く見込みであることを条件として、返還総額の半分(上限 250 万円)を支援する。 就業 1 年目から毎月の返還額と同額を助成する。 山形県は、県外で就業経験がある人が県内で 5 年以上、居住・就業することを条件に、最大 60 万円の奨学金返還を支援する「U ターン促進枠」などを設けている。 対象は、県内の高校出身で県外の大学などを卒業した人、または県内の大学などを卒業した 35 歳以下の人としている。 東京都も、正規雇用の技術者として中小企業などに勤務した人向けの返還支援を制度化している。 (asahi = 8-17-23)


EC 事業者「送料無料表示が原因ですか?」 2024 年問題ヒアリング

トラック運転手の残業規制で物流が滞るおそれがある「2024 年問題」の対応政策の一環で、送料無料表示の見直しを検討している消費者庁は 10 日、EC 事業者側と意見交換した。 楽天グループなどが参加する新経済連盟は「物流事業者の抱える問題の原因が送料無料表示だという主張には合理的根拠がない」として、物流環境に関する消費者への周知啓発など別の施策をとるよう提案した。 同連盟は、送料無料か有料かの表示内容にかかわらず、通販事業者は配送業者に運賃を支払っており、その金額は上昇しているとし、商品価格の見直しなどの企業努力で、送料無料サービスを維持しているとした。

また、送料無料表示が原因で物流事業者が適正な運賃・料金を収受していないことを裏付ける合理的根拠はないことや、消費者が物流を軽んじていることを示す根拠がなく、軽んじている原因が送料無料表示であると示す根拠もないと主張。 輸送コストへの消費者の意識を変えるのであれば、直接的に周知啓発する方が効果が期待できるとした。

この日は、ヤフー、メルカリなどが参加するセーファーインターネット協会とも意見交換した。 同協会は、送料無料表示の見直しが、消費者向け送料への運賃の適正な転嫁・反映につながる根拠を示すよう求め、「政策効果が立証できないなら安易に見直しをするべきではない」と主張した。 消費者庁は 6 月から意見交換を始め、初回のトラック運送の業界団体「全日本トラック協会」は、送料無料表示をなくすよう求めた。 (大村美香、asahi = 8-10-23)


国家公務員の月給約 4 千円アップを勧告 29 年ぶりの引き上げ幅に

人事院は 7 日、2023 年度の国家公務員の給与について、行政職で月給を前年比 0.96% 増の 3,869 円、ボーナスは年間 4.40 カ月だった前年より 0.1 カ月分引き上げるよう国会と内閣に勧告した。 月給の引き上げ幅は 29 年ぶりの高水準。 人手不足や物価高を背景に企業で進む賃上げが公務員にも波及している。 7 日午後、岸田文雄首相は官邸で川本裕子人事院総裁から勧告を受け取り、「勧告をしっかり受け止めさせていただき、政府内において議論をさせていただきたい」と述べた。

1994 年の 3,975 円に次ぐ水準となった今回の月給の引き上げ幅は、過去 5 年間の平均約 360 円の 10 倍以上となった。 ボーナスも 2 年連続の引き上げとなった。 勧告通り実施されると、行政職の平均月給は 40 万 7,884 円、ボーナスを含む平均年収は前年比 10 万 5 千円 (1.6%) 増の 673 万 1 千円となる。 勧告には、月に 10 日を超えてテレワークをする職員に月 3 千円を支給する「在宅勤務等手当」の新設や、これまでは介護や育児を抱える職員が対象だったフレックスタイム制を 2025 年度から一般の職員に拡大することも盛り込まれた。

月給の引き上げは、人材確保の観点から初任給や 20 歳代半ばに重点を置いて配分する。 初任給(本府省勤務)は、大卒の総合職で 1 万 1 千円(前年比約 6%)増の 24 万 9,640 円、高卒の一般職で 1 万 2 千円(同約 8%)増の 20 万 7,120 円となる。 初任給の引き上げ幅が 1 万円を超えるのは 33 年ぶりで、2 年連続で過去最高を更新した。 人事院の担当者は「初任給はメガバンク並みになった」と話す。 首相は「物価高に負けない賃上げに取り組む」と主張し、賃上げを政権の最重要課題に掲げている。 労働組合の中央組織・連合の集計によると、今年の春闘での正社員の賃上げ率は平均 3.58% で 30 年ぶりの高水準だった。 国家公務員の給与にも、企業の高水準の賃上げが反映される。

ただ、賃金は物価の伸びには追いつかない状態が続く。 物価を考慮した働き手 1 人あたりの「実質賃金」は 5 月までに 14 カ月連続で減少。 今回勧告された国家公務員の月給の引き上げ分は、定期昇給分を加味しても物価上昇分には追いつかない水準だ。 勧告は、民間と国家公務員の給与水準を合わせる目的で、例年 8 月に実施している。 基準となる民間の約 1 万 1,900 事業所を調査し、年齢や勤務地などを考慮して算出した今年 4 月の民間と国家公務員の月給水準の差額が、人事院が勧告する引き上げ額となる。 (千葉卓朗、asahi = 8-7-23)

国家公務員の月給引き上げ幅は過去 5 年間を大きく上回る
勧告年月給の引上率ボーナスの年間支給月数ボーナスの前年比増減
2018年0.16%4.45カ月0.05
19年0.09%4.50カ月0.05
20年勧告なし4.45カ月▼0.05
21年勧告なし4.30カ月▼0.15
22年0.23%4.40カ月0.10
23年0.96%4.50カ月0.10


テレワーク実施 15.5%、コロナ禍後で最低 オフィス回帰浮き彫り

日本生産性本部が 7 日発表した調査で、働く人のテレワークの実施率が 15.5% とコロナ禍以降で最低になった。 半年前の前回調査の 16.8% から低下し、最も高かった初回調査(2020 年 5 月)の 31.5% と比べると半分以下の水準になった。 特に大企業の低下が目立ち、前回調査から 10 ポイント以上急落した。 調査は今回が 13 回目。 国内で企業などに雇用されている 20 歳以上の 1,100 人を対象に、7 月 10 - 11 日にインターネットで行った。

どんな働き方をしているかを複数回答で尋ねた項目で、自宅やカフェなどでのテレワークを活用していると答えた人は従業員 1,001 人以上の大企業で 22.7%。 101 - 1 千人の企業では 15.5%、それ以下の企業では 12.8% となり、働く場所がオフィスに回帰している現状が浮き彫りになった。 大企業の数字は半年前の前回調査 (34%) から 11.3 ポイント急落し、全体の実施率を押し下げた。 日本生産性本部によると、政府が今年 5 月に新型コロナの感染症法上の位置づけを「5 類」に移行したことを受け、コロナへの一時的な対応としてテレワークを採り入れていた企業で出社を求める動きが活発になっているという。

週 5 日のすべてをテレワークする人の割合も 14.1% と半年前の調査からほぼ半減し、テレワークを活用する人の中でも出勤日数は増える傾向にある。 テレワークで働く際の課題については「仕事の成果を評価されるか不安」、「オフィス勤務者との評価の公平性」といった人事評価に関する課題が多くあげられた。

一方、テレワークで働く人の満足度は高く、自宅での勤務に「満足している」、「どちらかと言えば満足している」と答えた人は 9 割近くにのぼった。 今後もテレワークを行いたいかを尋ねたところ、「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」と答えた人も 86.4% を占めた。 日本生産性本部の長田亮主任研究員は「一時的な対応としてのテレワークではなく、今後は多様な働き方の選択肢の一つとして、テレワークが広がることが望ましい」と指摘する。 (岡林佐和、asahi = 8-7-23)


介護職 7 千人賃上げへ 大手 SOMPO ケア、経験浅い社員の処遇改善

SOMPO ホールディングス傘下の介護事業大手、SOMPO ケアは、介護現場で働く正社員約 7 千人の給与を 10 月に引き上げることを決めた。 鷲見隆充・社長 COO (最高執行責任者)が朝日新聞のインタビューで明らかにした。 介護福祉士の資格を持つ社員約 4,500 人とケアマネジャー約 900 人の年収を約 6 万円、資格のない社員約 1,600 人の年収も約 12 万円、それぞれ引き上げる。 全正社員約 1 万 2 千人の半数強が賃上げの対象になる。

同社は 2019 年 10 月、介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、在宅サービスなどの介護現場で「ケアコンダクター」と呼ばれるリーダー層の職員の年収を約 30 万円、介護福祉士の資格を持つ社員らの年収を約 20 万円引き上げる賃上げを実施。 昨年 4 月には、上席ホーム長やホーム長など管理職の年収を約 55 万円、ケアコンダクターの年収を約 50 万円、それぞれ引き上げた。

3 度目の処遇改善となる今回は、主に幹部社員を対象にした過去 2 回の賃上げと違い、入社 1 - 2 年目の社員など介護の経験が浅い一般社員の処遇改善に踏み切る。 3 度の処遇改善で、ほぼ全ての正社員が一度は賃上げの対象になる。 国家資格の介護福祉士を取得すれば賃金は上がるが、資格試験を受けるには 3 年以上の実務経験が必要だ。 介護業界では入社 1 - 2 年目の離職が多いため、まだ資格を持たない社員の処遇も引き上げることで離職を防ぎ、キャリアアップをめざす意欲を引き出すことを狙う。

賃上げの機運が高まるなか、介護業界では深刻な人手不足が続く。 同社は異業種から介護事業に参入し、居室数は業界トップクラス。 社員全体の賃金を引き上げ、業界上位の処遇で報いることで、人材採用の競争力を高める狙いもある。 今回の賃上げに必要な原資は年約 6 億円。 3 度の賃上げで投じる原資は累計で年 40 億円の規模になる。 これとは別に、会社の発足から 7 月で 5 周年になるのを記念して、パートを含む全社員に一時金 5 千円も支給した。

厚生労働省が公表した介護従事者の昨年 12 月時点の平均給与(賞与を含む)は月額 31 万 8,230 円で、全産業平均を 4 万 2 千円以上下回る。 介護報酬(介護保険サービスの公定価格)による処遇改善では不十分と考える同社は、経営努力による職員の処遇改善に積極的。 介護のデータやテクノロジーを活用した昨年度の実証事業の成果を踏まえ、介護施設の人員配置基準の緩和を検討するよう政府に提案もしている。 来年度までに全国 280 施設に業務効率化の取り組みを広げる計画で、その成果はすべて社員の処遇改善に還元する方針だ。 鷲見社長は「次の処遇改善も考えている」と明言。 人員配置基準の緩和によって、賃上げしやすい環境整備が進むことに期待感も示した。 (木村裕明、asahi = 7-31-23)


最低賃金、全国平均 1,002 円に 過去最大の上げ幅、物価高を重視

厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は 28 日、最低賃金(時給)を全国加重平均で 41 円 (4.3%) 引き上げて 1,002 円とする目安をまとめた。 過去最大の引き上げ額となり、政府目標でもあった 1 千円を超えた。 歴史的な物価高で家計が厳しくなっていることを重視した。

目安は 47 都道府県を経済情勢に応じて分けた A - C のランクごとに示し、今回は 41 - 39 円だった。 これを参考に各都道府県が実際の引き上げ額を決め、秋に改定する。 現在は最も高い東京都が 1,072 円、最も低い東北、四国、九州、沖縄の 10 県が 853 円だ。 全国加重平均の最低賃金は現在 961 円。 コロナ禍の影響を強く受けた 2020 年を除き、近年は 3% 程度の引き上げが続いてきた。 昨年は過去最大の 31 円 (3.3%) 引き上げたが、今年はそれを更新した。 (三浦惇平、asahi = 7-28-23)

◇ ◇ ◇

最低賃金、全国どこでも900円以上に 労働者側が主張

最低賃金(時給)の今年の引き上げ額の目安を決める厚生労働省の審議会の小委員会が 20 日にあった。 会合後、労働者側の委員は報道陣に対し、全都道府県で 900 円以上となるよう引き上げるべきだと主張したことを明らかにした。 議論は早ければ次回 26 日の会合で決着する可能性がある。 小委員会では労使の代表と学識者が議論し、経済情勢に応じて都道府県を分けた A - C のランクごとに引き上げ額の目安を決める。

最低賃金は現在、全国加重平均で 961 円。 最も高い東京都は 1,072 円だ。 一方、最も低い東北、四国、九州、沖縄の計 10 県は 853 円。 連合の仁平章・総合政策推進局長によると、これらの県が入る C ランクを、少なくとも 47 円引き上げるように求めたという。 仁平氏は A、B ランクについては具体的な引き上げ額は示していないとした上で、「(引き上げ額について)地域間で格差をつけるだけの(根拠となる)データはない」と主張。 「(連合がめざす)『誰でも 1 千円』のステップとして、まずは 800 円台の県をなくすべきだ」と話した。 (三浦惇平、asahi = 7-20-23)


そごう・西武の労組がスト権確立 いつでもストライキ可能な状態に

流通大手セブン & アイ・ホールディングス HD) による傘下の百貨店「そごう・西武」売却をめぐり、そごう・西武の労働組合が 25 日、ストライキ権を確立したと明らかにした。 組合の執行部はいつでもストライキを実施できることになった。 そごう・西武の社員約 4 千人でつくる組合は22日までにスト権確立の是非を問う投票をおこない、投票総数は 3,833 票、賛成率は 93.9% と過半数が賛成した。 会社側に売却をめぐる情報公開と雇用の維持を強く求める構えだ。 実際にストをするかは執行部が今後、会社側の対応を踏まえ判断する。

そごう・西武の全株式を持つセブン & アイは 22 年 11 月、米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却する契約を結んだ。 フォートレスは家電量販大手のヨドバシ HD と組んでおり、そごう・西武の店舗にヨドバシが出店する計画。 だが旗艦店の西武池袋本店(東京都豊島区)へのヨドバシ出店で地権者などとの協議が難航している。 (編集委員・沢路毅彦、asahi = 7-25-23)


副業する働き手 305 万人、非正規で大幅増 希望者も伸びる

副業をしている人(本業が農林業などを除く)は全国に 305 万人いて、5 年前から 60 万人増えたことが、総務省が 21 日に発表した就業構造基本調査で明らかになった。 特に非正規社員で大幅に増え、正社員でも副業を希望する人は大きく伸びた。 調査は 5 年に 1 度で、昨年 10 月に全国の約 54 万世帯(15 歳以上の世帯員約 108 万人)を調べた。 副業をしている人は全体の 4.8% で、2017 年の前回調査から 0.9 ポイント増えた。 雇用形態別では、正社員が前回より 0.6 ポイント増の 2.5%、非正規社員は 1.3 ポイント増の 7.2% だった。

副業の内容は「卸売業、小売業」が 42 万人と最も多く、「医療、福祉」が 40 万人で続いた。 副業は、収入の確保や多様なキャリアの形成といった目的があるとされ、企業の間で社員の副業を認める動きも広がりつつある。 今は副業をしていないが希望している人も 493 万人いて、前回から 93 万人増えた。 全体に占める割合は 7.8% で、1.3 ポイント増えた。 雇用形態別では非正規社員は 8.4% で前回から横ばいだった一方、正社員は 7.7% で 2.4 ポイント増えた。 「正社員は労働時間が長かったり、働き方が固定されていたりするため、副業を望んでも実現できないケースがあるとみられる。(総務省の担当者)」

今回の調査では、フリーランスで働く人の数も、国が特に重要と位置づける「基幹統計」で初めて調べた。 フリーランスの定義は「店舗を持たず、従業員も雇っていない自営業主か 1 人社長」とした。 本業がフリーランスの人は 209 万人で、全体の 3.1% だった。 そのほか、副業としてフリーランスで働く人が 48 万人いた。 産業分野別に、本業がフリーランスの人が占める割合を見ると、最も高いのが「学術研究、専門・技術サービス業」で 13.5%。 「建設業」と「不動産業、物品賃貸業」がそれぞれ 10.7% で続いた。 (三浦惇平、asahi = 7-21-23)


働き方改革で当直医半分に … 医師の健康と患者の命、両立はできるのか

来年 4 月から始まる「医師の働き方改革」によって、地域の医療に影響が出てきた。 大学病院から派遣されていた地域の医師が引きあげられている。 長時間労働が常態化した医療現場で、医師の労働時間を大幅に減らすのは簡単ではない。 医師の健康を守ることと、患者の命を守ることは両立できるのか。(枝松佑樹)

地域医療は、大学病院からの派遣医師に支えられている面が大きい。 医師の足りない病院から要請され、大学病院は、より多くの患者を診ることで標準的な診療技能を身につけられることなどから応じてきた。 国立大学病院長会議によると、全国の 42 国立大学病院は 2022 年度、のべ 9,628 カ所の医療機関に勤務医を常勤や非常勤で派遣した。 1 大学病院あたり平均 229 カ所で、最多が東京大の 785 カ所、最少が徳島大の 98 カ所だった。 東京大や九州大など都市部の大学病院は、県境を越えて遠方にも派遣していた。

ただ、来年 4 月以降、時間外労働は大学病院だけでなく、派遣先の分も加えて年 960 時間に規制される。 高度な医療を担う大学病院は、自らの機能を維持するため、医師の数を増やして 1 人当たりの労働時間を減らそうとする。 時間外労働の削減と要員確保の両面から、医師派遣の中止や削減につながっている。 大学病院は、診療だけでなく研究や教育の機能もあわせ持つため、長時間労働になりがちだ。 特に産科や外科、救急科など、もともと人手が足りない診療科ほど影響が出やすい。

産婦人科医持つ大学病院の 5 割「派遣制限する可能性」

22 年発表の日本医師会の調査によると、医師派遣をしている産婦人科をもつ 63 大学病院のうち、約 5 割が派遣を「制限する可能性がある」と回答し、「制限する可能性はない」と答えたのは約 1 割にとどまった。 派遣医師の引きあげではなく、診療機能を落とす選択をした大学病院もある。 首都圏のある大学病院は、時間外労働を減らすため当直に入る医師を半分にした。 その結果、救急車の受け入れ要請に応えられた割合が 8 割から 5 割に落ちたという。

国立大学病院長の一人は「今の職員数で時間外の上限を守るのは不可能だ」と本音を漏らす。 この病院長によると、今は生活との両立を重視する医学生が増え、地方ほど職場として選ばれにくくなった。 大学病院は慢性的に経営難にあり、物価高が追い打ちをかけ、職員を増やす余裕がないという。 別の国立大学病院長は、いまも自身が関連病院に派遣されて診療にあたっていると明かし、「今年後半からさらに派遣中止が増えるだろう」と予想する。 同会議の横手幸太郎会長(千葉大病院長)は、7 月 3 日の記者会見で「大学病院が余裕を持って医師を派遣できる循環を続けられるよう、国には人件費などの支援をお願いしたい」と述べた。

時間外労働「年 1,860 時間に拡大」特例用意

地域医療の崩壊を招かないように、厚生労働省は「激変緩和策」を用意している。 一定の要件を満たした病院の医師は、時間外労働の上限を年 960 時間から年 1,860 時間に拡大する特例を認める。 厚労省の 2016 年の調査で、勤務医のうち時間外労働の長い方から 10% にあたる約 2 万人が年 1,904 時間超だったことを踏まえて設定した。 現実的に対応しやすい水準にして、医療現場の混乱を防ぐことを狙う。

要件は、▽ 地域医療のための救急対応や医師派遣、▽ 医師の技能研修 - - の大きく二つだ。 私立大を含む全国医学部長病院長会議によると、81 大学病院の勤務医の 3 分の 1 にあたる約 1 万 5 千人について特例が申請される見込みだという。 ただ、大半は 35 年度末までに解消しなければならない。 一方、派遣を受ける病院側に対しては、医師が当直で夜間や休日に病院内で待機しているだけなら例外的に労働時間に算入しない「宿日直」を、労働基準監督署に許可申請するよう促している。 派遣先での時間外労働を抑えることで、大学病院が医師を派遣しやすくなることを期待する。 厚労省は 19 年、当直中に多少の業務があっても認められるよう要件を緩和した。

厚労省は、65 歳以上の高齢者数がピークを迎え、逆に現役世代が急減する 40年に向けて、効率的な医療態勢づくりを急いでいる。 医師の働き方改革とともに、地域の医療機能の集約化、医師の偏在対策を、「三位一体」で取り組みたい考えだ。 ただ、病院の統廃合を伴うため、地元の病院がなくなることへの反発などから実現のハードルは高い。 厚労省幹部の一人は「患者が少ない病院で医師派遣の引きあげが増えれば、病院の統廃合の話も進むのではないか」とみている。

デジタル技術の導入を進めて負担を減らすしか

高橋泰・国際医療福祉大大学院教授(医療経営)の話 : 時間外労働が規制されることで大学病院自体も十分な態勢をつくれず、出産対応の中止や救急車のたらい回し、手術待機の長期化など、しわ寄せが起きることが予想される。

医師の働き方改革「ひとごとではない」 地域の病院守るための提案

大学病院からの派遣医師に頼っていた地域ほど影響は大きいが、多くの国民はこの事態を知らない。 夜中に子どもが発熱したら、「医師を休ませるためなら受診できなくても仕方ない」と納得できるだろうか。 影響を緩和するには、勤務医の処遇を改善して担い手を増やし、デジタル技術の導入を進めて負担を減らすしかない。 国民は社会問題と捉え、病院や自治体に改革を促すべきだ。 また、本当に必要な時しか救急車は呼ばないなど、一人ひとりが受診の仕方を見直す必要もある。 いま地域で医療機能の集約を進めないと、今後の医療の継続性は担保されないだろう。 (asahi = 7-15-23)


春闘賃上げ率3.58%、30年ぶり高水準 連合最終集計、物価高で

労働組合の中央組織・連合は 5 日、今年の春闘で正社員の賃上げ率は平均 3.58% だったとする最終集計を発表した。 物価高や人手不足を受けて前年より 1.51 ポイント増え、30 年ぶりの高水準となった。 ただ、物価の伸びには追いついていないうえ、来年以降も大幅な賃上げが続くかは見通せない。 傘下の 5,463 組合分を 3 日時点で集計した。 賃上げ率は、定期昇給と、基本給を底上げするベースアップ(ベア)などを含む。 組合員 300 人未満の中小組合に限っても 3.23% と、30 年ぶりの高水準だった。 パートや契約社員など非正規労働者の賃上げ率も時給ベースで 5.01% と、比較できる 2015 年以降で最も高かった。 (asahi = 7-5-23)


大手ボーナス、平均 95.6 万円 経団連中間集計「賃上げ勢い維持」

経団連は 29 日、大手企業の夏のボーナス妥結額の中間集計を発表した。 平均妥結額は 3.91% 増の 95 万 6,027 円だった。 8 月に予定する最終集計ではやや水準が下がるとみられ、過去最高の 95 万 3,905 円(2018 年)には届かない可能性があるものの、90 万円台を維持する高水準になりそうだという。 原則として従業員 500 人以上の企業を対象に、業界団体を通じて回答を得た 16 業種 121 社の状況をまとめた。 集計ずみの企業が異なるため単純比較はできないが、中間集計段階では、コロナ前の 19 年の 97 万 1,777 円、18 年の 96 万 7,386 円に次ぐ過去 3 番目の高水準だった。

コロナ禍からの経済活動の回復を受けて業績が良かった企業も多く、従業員に手厚く報いる姿勢がうかがえる。 ただ、資源・エネルギー高で業績が厳しいセメントや紙パルプなど、半数にあたる 8 業種では前年水準を下回った。 近年にない物価高のもとでの労使交渉で、ベースアップを含む月例賃金の引き上げを重視してボーナスを抑えた例もあったという。 経団連の新田秀司・労働政策本部長は「全体として賃上げのモメンタム(勢い)が維持されている」と説明した。 (青田秀樹、asahi = 6-29-23)