「転職決まればお祝い金」は違反行為、実態調査へ 医療・保育の分野

介護・医療・保育分野の人材紹介業者が、働き手に「お祝い金」などを出して転職を促す違反行為が広がっているとして、厚生労働省は実態調査に乗り出す。 人手不足の業界につけこんで紹介手数料を稼ぐ悪質な業者を取り締まる狙いだ。 これらの分野ではハローワークで働き手を十分集められず、人材紹介を活用する場合も少なくない。 紹介手数料は一般的に年収の 3 割前後が相場ともいわれる。

関係者によると、業者がある施設に紹介して数カ月の働き手に「職場に満足していないなら転職してはどうか。 成功したらお祝い金を数万円出す」などと持ちかけ、別の施設を紹介するケースがあったとされる。 お祝い金を出して転職を促すことは、すべての業種において、2021 年 4 月に職業安定法に基づく指針で禁止された。 だが厚労省が 21 年度に人材紹介業の約 4,300 事業所に定期的な調査を行ったところ、お祝い金に関する違反が 8 件見つかった。 罰則がないため、「今も横行しており、職員がすぐに仕事を辞めてしまうことも多い(全国老人福祉施設協議会の田中雅英副会長)」という。

お祝い金は内閣府の規制改革推進会議でも問題視されてきた。 事務局は「違反業者の事業許可を取り消すなど厳しい対応が必要だ」と指摘する。 これを受けて厚労省は年度内に紹介業者と施設側の両方から実態を聞き取り、24 年度に規制強化を検討することにした。 施設にとっては、お祝い金にひかれて働き手が急に辞めてしまい、職員数が配置基準を下回るなどすると、急いで代わりの人を雇わなければならず、人材紹介に頼らざるを得ない場合もある。

一方、これらの分野ではサービス価格を国や自治体が決めるため、施設側は紹介手数料の支払いがかさんでも価格に転嫁できず、そのぶん利益が減る。 すると賃上げやサービスの質を高めることが難しくなり、離職率が高止まりして採用も難しいまま、という悪循環に陥る懸念がある。

同省は、人材紹介業者が定める手数料の上限や、紹介後 6 カ月以内に離職した人の数などをホームページに載せている。 今後はさらに、介護など三つの分野については、地域ごとの手数料の相場や離職率の平均を集計して掲載することも検討する。 施設側が紹介業者を選ぶときの参考にしてもらう狙いだ。 高齢化などを受けて、特にこの 3 分野では人手不足が深刻で、短期間での離職も多いとされる。 22 年度の有効求人倍率(パートタイムを含む常用)は全職種計の 1.19 倍に対し、介護職は 3.65 倍、保健師・助産師・看護師は 2.14 倍にのぼる。 (北川慧一、asahi = 6-29-23)


AGC、2030 年まで賃上げ方針 来春大卒の初任給も引き上げ

AGC が、2030 年まで原則として賃金アップを続ける方針であることがわかった。 労働組合と毎年、基本給の水準を底上げするベースアップ(ベア)や賃金改善などを交渉する。 優秀な人材を確保して働き続けてもらうため、待遇を改善していく。 14 年ぶりにベアに踏み切った 22 年(賃金改善など含めて 6.09% の賃上げ率)に続き、今年も 7 月からベアなどで 6.36% の賃上げをする。 また、24 年春入社の総合職の初任給も引き上げる方針で、大卒では 23 年比 4.2% 増の 27 万 1,932 円になる予定だ。 AGC は 18 年に「旭硝子」から社名を変更して以降、テレビ CM などを通じて知名度の向上に取り組んできた。 (宮崎健、asahi = 6-28-23)


富田林市、市立幼稚園を 13 園から 4 園にする素案 説明会では反対も

大阪府富田林市は、市内の市立幼稚園と保育所の個別施設再配置計画の素案をまとめた。 現在 13 園(3 園は休園中)ある市立幼稚園を、集団保育の適正規模などの観点から 2025 年度末でいちど廃止し、26 年度から 4 園に再編する。 市は 6 月市議会に素案に基づく条例改正案を提出した。 提出前に開かれた市民説明会では「子どもへのメリットがない」、「地域とのつながりが失われる」、「パブリックコメント募集や説明会が終わった直後に議会提出するのは拙速すぎる」などの反対意見も出ていた。

市の就学前児童数は少子化で、12 年の 5,179 人から 22 年には 4,188 人にまで減った。 市立幼稚園の園児数は、21 年度から 3 年保育や給食などを実施したことでここ数年は微増したが、22 年は 286 人にとどまる。 ほぼ半分のクラスは園児数 10 人未満の小規模になっているという。 市の計画素案では、集団保育を考えると 1 クラス 20 人程度が適当として、市を東西南北の四つのブロックに分けて各地区に 1 園ずつ再配置する。 建物は既存の園舎を使う。 各学年 2 クラスの大規模園 2 園、同 1 クラスの小規模園 2 園を設ける。 3 歳児クラスは担任 2 人、4、5 歳児クラスは担任 1 人が受け持つ。 通園距離が長くなるため通園バスを走らせ、保護者が車で送迎するのも可能にする。

市内の認可保育施設には 22 年に市立・私立で計 2005 人が通っている。 市立保育所は北部・南東部の各ブロックに二つずつ、金剛・金剛東の各ブロックに一つずつの計 6 施設あるが、各ブロック一つずつの計 4 施設にし、私立の認可保育施設 2 園の開設を目指す。 廃止された幼稚園、保育所の施設は学童クラブなどの子育て支援での活用を検討する。 市の担当者は「地域の思い入れのある園をなくすのは苦渋の選択。 障害がある子どもへの対応や病児保育などに力を入れ、質の向上を図る。」と理解を求めた。 (前田智、asahi = 6-17-23)


女子大に「建築」学部が次々開設 共立・日本女子、人気分野を前面に

東京の女子大学で「建築」を冠した学部の設置が相次いでいる。 共立女子大(千代田区)がこの春、建築・デザイン学部を開設したのに続き、来春には日本女子大(文京区)も建築デザイン学部を設置する構想を発表している。 なぜ女子大で「建築」学部なのか。 「建築・デザイン学部ができると新聞で知って、少し迷っていた他大学ではなく共立女子大を受験しました。 幼いころからインテリアが好きなので。」 できたばかりの共立女子大の建築・デザイン学部に入学したある 1 年生はこう話した。 学生たちは 1 年時から、図面の描き方や模型制作を学ぶ。

同学部は家政学部の建築・デザイン学科から移行する形で誕生。 建築を学ぶコースとグラフィックデザインなどを学ぶコースがある。 建築コースで学ぶある 3 年生は、「独立した建築・デザイン学部の 1 年生がうらやましい」と話した。 大学における建築教育は、長く主に工学部や美術系の大学が担ってきた。 女子大では、衣食住に関わる家政学部の中で建築系の教育がなされる傾向があった。 しかし、2011 年の工学院大を皮切りに建築学部をつくる大学が続き、女子大では兵庫県の武庫川女子大が 20 年に建築学部を開設した。 共立女子大や日本女子大はこれに続く動きといえる。

なぜ女子大が「建築」を冠した学部をつくるのか。 建築家でもある共立女子大建築・デザイン学部の堀啓二・学部長は、「家政学部時代から、生活を学科の教育の中心に据えてきた。 環境が重視され、建築を末永く使うことが求められる時代に、住み心地の良さや美しさを考えてきた特徴を生かして学部化した」と話す。 さらに、「閉学する大学があるなど、女子大は大変な時代。 社会のニーズに沿って改革することが必要。」と明かす。 共学校を含め建築を学ぶコースは、一般に女性からの人気が高いといわれている。 共立女子大も新学部になり、作品制作スペースを拡充、新たなデジタル機材も導入した。 入試の倍率は、22 年度の約 2 - 3 倍から 23 年度は約 6 - 8 倍に跳ね上がったという。

日本女子大も、家政学部の住居学科を独立させて、来春に建築デザイン学部を開設する予定だ。 やはり建築家の篠原聡子学長は、「住むことから考えるスタンスや、生活への繊細なアプローチを変えるつもりはないが、住居というフレームに閉じ込めずに、建築という大きなくくりのなかで、自分たちが培ってきたものを再定義する意味があります」と話す。 建築のノーベル賞とされるプリツカー建築賞を受けた妹島和世さんや、篠原学長、貝島桃代さんら一線で活躍する建築家が輩出してきた日本女子大の住居学科は、これまでも他大学の建築学科と同じようにみられてきた。 「実態に名前をそろえる感じですね。 人材を育ててきたという伝統は引き継ぐ責任があります。」

もともと住居学科の人気は高く、「人気のある分野を前面に出してゆくという戦略はあります。 これまでも高い評価をいただいてきましたが、外に向けて発信しなければ。」とも明かす。 学部化することによってどんな人材を育てるのか。 篠原学長は「基本的には最終形の建築をつくる人たちです。 できるだけ海外の大学とも共働し、グローバルな視点を育てたい。 今後の日本女子大のイメージを作るような、広い知識と専門性を持ってどんどん世界に出て、新しい価値を生む人を育てたい」と話す。

共立女子大、日本女子大とも、これまでの卒業生も建設・建築系の仕事につく人が多いというが、共立女子大の堀学部長は、「建築はつくらなくても、いいものが分かり、語れる人も育てたい。 そういう人が増えて建物を発注すれば、社会は良くなる」とも語る。 「文系の人も学べるように、数学を選択しなくても受験できるんです。」

大学全入時代に女子大はどうあるべきか。 篠原学長は「社会に出る直前の一定期間、ジェンダーを気にせず学べる点は、リーダーを育てる意味でも大きいと思う。 それに今の高校生は、その大学で何を学べるか、どんな環境があるかをクールに見つめている。 私たちが建築デザイン学部をスタートさせるのもその環境づくりです。 女子大だから人が集まらないというのは理由にならない。」と言い切る。 「建築」を冠した新しい学部は、その試金石の一つなのだろう。 (編集委員・大西若人、asahi = 6-7-23)


発達障害の女性、職場で「配慮」求めたら 休職と突然の雇い止め通告

発達障害は「わがまま」? 働く場の合理的配慮

仕事がうまくいかないのは、発達障害のせいだったんだ - -。 40 代の女性がそのことに気づいたのは、38 歳のときだった。 暴力をふるう元夫から逃れ、シングルマザーとして一般企業で働いてきた。 これまで、職場における「暗黙の了解」がわからないことが何度もあった。 たとえば部内の飲み会は、「任意」参加とあっても強制参加であること。 根回しがとっくに終わっている会議なのに、手をあげて発言し、嫌がられたこともあった。 おかげで、「場の空気が読めないやつ」、「生意気なやつ」と思われてきた。

子どもが発達障害と診断されたのをきっかけに、女性も検査を受け、ADHD (注意欠如・多動症)と ASD(自閉スペクトラム症)だとわかった。 5 年前、障害者雇用の枠で、東京都内の IT 企業に契約社員として採用された。 会社には入社前に、二次障害のうつ病の治療を受けていることに加え、障害の特性を書面で伝えた。 「有休をもらった後は必ずお菓子を配るなど、会社やコミュニティー独特の習慣に気づかないことがあります。」 「あらかじめ守るべきマナーやルールについて、上司や先輩に伺うようにしています。」

成果をあげるためにも、自分の特性を理解してもらいたいと思っていた。 だが新人研修の最終日、配属された部署のチームリーダーである年下の女性上司から、面と向かって言われた言葉に凍り付いた。 女性の面倒を見ることは「私の役割じゃない」といった言葉をかけられたことを覚えている。 あとでわかったが、配属された部署は、即戦力の社員が来ると期待していたらしい。 上司は「障害者と仕事をしたことがない」と、戸惑っていたようだ。 そのせいか、上司とはうまくコミュニケーションが取れなかった。 女性はそう振り返る。

持ち帰り残業や休日労働の日々

女性の役割は、ホームページの制作やウェブデザインを担当する事務補助だった。 だが任される仕事は、女性にとっては種類・量ともに多かった。 締め切り直前に割り振られることもあり、持ち帰り残業や休日労働でこなすしかなかった。 女性は改めて障害の特性と、働く上で配慮してほしいことを会社に書面で伝えた。 「『それ』、『あれ』など、あいまいな指示を誤解して受け取ることが多いため、具体的にメールなどで指示してほしい。」

「集中してしまうと他のことが見えなくなり、独り言が出てしまう。」
「ものごとを白か黒と極端に認識するため、グレーな表現を受け入れることに時間がかかる。」
「気が散りやすい、興味のないものには注意を持続するのが困難。」

2016 年に施行された改正障害者雇用促進法は、障害者が必要な配慮を伝えた場合、企業は可能な範囲内で対応する「合理的配慮」をするよう義務づけている。 だが具体的に伝えても、働きやすい環境が十分に整ったとは思えなかった。 対応してくれる同僚も少なくなかったが、女性はいつしか心身ともに追い詰められていった。  仕事の内容に戸惑ったこともあり、人事部門に面談を依頼した。 すると面談を予約していることが上司に伝わり、「情報が筒抜けなんだ」と落ち込んだこともあった。

オンラインでミーティングに参加していると、予定を把握していなかった上司から怒られ、イヤホンを取られたこともあったという。 上司はこうした言動を否定しているが、女性の心には深く突き刺さった。 次第に女性は疲弊していった。 どうしてこんなひどい目に遭わなくてはならないのだろう。

入社 4 カ月、体こわばりパニック状態に

入社から 4 カ月後には手の震えやまぶたの強いけいれんなどが止まらなくなり、パニック状態になった。 涙が勝手に出て、トイレで吐いた。 女性は、自治体の障害者就労支援センターのサポートを経て入社していた。入社から1年後、女性の様子を見るために会社を訪れたセンターの支援員に訴えた。

「頑張ったが、上司との関係が改善できず、とてもつらい。 助けてほしい。」

女性が必死の思いで伝えると、支援員からは「もう少し頑張ってみましょうよ」と励まされた。 さらに我慢を重ねなくてはならないのか。 涙があふれ、パニック状態から過呼吸になった。 その後、仕事をしていても思考力や判断力が落ち、うつ病が悪化した。 産業医の判断で、休職することになった。 3 カ月ほど休職した 20 年 3 月、体調も回復してきたため、復職に向け産業医に相談した。 すると産業医は、通勤の訓練を提案してきた。 当時は新型コロナが感染拡大し始めたころだった。 女性には基礎疾患がある。 感染リスクにおびえながらも「早く仕事に戻りたい」と求めに従った。

でも、なかなか復職は認められなかった。 女性は外部の労働組合に相談し、4 月から会社との団体交渉が始まった。 「現時点で十分に復職可能と考えられる」という主治医の診断書も示した。 団体交渉直後の 5 月、会社からは退職合意案を示された。 主治医は再度、「うつ病の再燃については、障害の特性ではなく、職場の対人ストレスに原因があると考えられる」という診断書を出した。

「ハラスメントの確証がない」会社側の調査

女性は 9 月、上司のハラスメントについて調査するよう会社に求めた。 会社側は 10 月上旬、上司を含め計 13 人にヒアリングした結果「ハラスメントの確証がない、もしくは決定的ではないとの結論に至った」と回答した。 その数日後、会社側は突然、メールで復職するよう伝え、人事部門で転職活動をしたり社内の他部門のポジションに応募したりするように促した。 そしてそのメールから 5 日後、「11 月 30 日をもって雇用期間満了とし、その後の契約更新を行わない」とする雇い止めの通知書が、女性のもとに届いた。

「所属部門における業務を遂行することができない」、「業務遂行能力(健康状態を含む)に大きな懸念がある」などと記されていた。 女性は納得いかず、弁護士を通じて「上司によるハラスメントや合理的配慮の不足によりうつ病が悪化し、休職を余儀なくされたが、主治医は職場復帰は可能という診断を出している」、「業務遂行能力に問題はない」と、雇い止めの撤回を求めた。 女性の訴えに対し、会社側は「ハラスメント等の事実は確認できていない」、「契約を更新しても、再度体調が悪化する可能性が高い」、「協調性の問題から周囲の従業員への負荷が高くなる」などと文書で回答し、通知通り、契約を更新しなかった。

不誠実な会社の対応に、もう我慢できなかった。 ずっとこの会社で働きたいから、一つ一つ解決策を探ろうと思ってきたのに - -。 21 年 7 月、会社を相手取り、労働者としての地位確認と、障害者雇用促進法の「合理的配慮」の提供義務違反にあたるとして損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。 記者会見を開くと、SNS を通じて「わがまま」、「わきまえろ」、「愛される障害者にならないと、助けてもらえないよ」 - - といった心ない声が届いた。

でも、障害者が働くための合理的配慮は、同情や哀れみ、個人の思いやりにより動くべきものではない。 変わるべきは、多数派のために作られた社会のシステムの方だと、女性は思っている。 「生まれてきてすみません …。 そんな態度を取って生きることがなくてもいい社会にしたい。 自分の子どもが大人になったときに、そんな社会のなかで過ごしてほしくない。」 そんな思いで、会社と闘っている。

会社側は取材に対し、「係争中につき、コメントは控えさせていただきます」と回答した。 (熊井洋美、asahi = 6-6-23)


定員割れ私立大 → 公立化 「退場すべき大学を税金で延命」批判も

公立大が今春、100 校に達した。 多くの公立大が立地する地方では、都市部以上に少子化が進む。 安い学費などで受験生を引きつけているが、先行きは安泰ではない。 近年目立つのが、私立大の公立化だ。 日本私立学校振興・共済事業団によると、入学者数が定員より少ない「定員割れ」の私大は 2022 年度、過去最多の 284 校で全体の 47.5% を占めた。 一方、文部科学省は 40 年の大学進学者数を現在より 13 万人少ない 51 万人になると推計する。

公立大同士で学生の奪い合いも

公立大には、国から学部系統別の学生数などに応じて、自治体経由で税金が投入される。 自治体が 22 年度に 99 の公立大に配った運営費交付金の総額は約 2,200 億円。 私立大の公立化については「退場すべき大学を、税金で延命させているのではないか」といった批判もある。 この問題に詳しい龍谷大の佐藤龍子教授(高等教育政策)は「公立化して志願者が増えると、勘違いして身を切る努力を怠る大学もある」と指摘する。 地方に公立大が増える意義は認めつつ、「国が多額の税金を投じる以上、公立化後の計画は、数年でなく10年単位で必要だ。 地元だけでなく、高等教育や財政の専門家も加えて議論し、透明性や公平性を担保すべきだ。」と話す。

また、恵泉女学園大(東京)など都市近郊の私大で募集停止が相次ぐことを受け、「公平性を考えると、公立化を認める基準が必要ではないか。 地方活性化を理由に認めるのであれば、周辺に他に大学がない場合に限るといったルールも検討した方がよい。」とする。 公立大にとって、自治体の財政悪化も不安の種だ。 自治体は、国からの地方交付税交付金を、そのまま大学に渡すわけではない。財政事情が苦しければ、大学向けを「減額」して他に振り分ける可能性もある。

一方で、多くの公立大は自力で収入を増やすのに苦労している。 授業料が安く、少人数教育が特徴のため、学生納付金の収入は大きくない。 看護や福祉が中心の大学などでは、外部資金獲得も難しい。 地域と時代のニーズに応えようとした結果、公立大同士で学生を奪い合うケースも出ている。 北海道名寄市の名寄市立大は、100 校目となった旭川市立大を複雑な思いで見ている。 同大は名寄市立大の約 60 キロ南にある。 看護や福祉などの学科が競合する。

名寄市立大は 2006 年度に市立短大が改組して誕生。 教員が道内外の高校に出向いて PR するなどして学生を集めてきた。 過疎高齢化が進む北海道北部を中心に多くの看護師らを輩出している。 同市の人口は 2 万 5 千人で、周辺地域も過疎化が進む。 野村陽子学長は「受験生が減るかもしれない。 地域貢献を続けつつ、どんな影響が出るのか注視したい。」と話した。 山口県の 3 公立大は、今年度と来年度に相次いで情報系の学部・学科を設置。 しかし、関門海峡の対岸には、開設済みの北九州市立大がある。

個性派首長から改革の標的に

23 日まで公立大学協会長を務めていた同市立大の松尾太加志・前学長は「公立大であっても、努力を怠れば学生が集まらなくなり、淘汰される可能性がある。ニーズを見据えながら大学ごとに役割を分担したり、社会人向けの授業に力を入れるなど特色を出したりして、教育内容を充実させていく必要がある」と話す。 公立大は東京や大阪、横浜、名古屋など大都市にも多くある。 そうした大学では、個性派首長からしばしば改革の標的にされてきた。

昨年誕生した大阪公立大は、大阪市立大と大阪府立大が統合してできた。 11 年の府知事・大阪市長のダブル選で、大阪維新の会が「二重行政」の象徴として、両大学の統合を公約に掲げ、議論が本格化した。 同規模の大学で、いずれも 100 年以上の歴史があるため、学内の抵抗は強かったが、結局統合された。 知事の意向が名称に反映されてきたのが、東京都立大だ。 05 年に旧都立大など都立 4 大学・短大を統合して誕生した大学について、当時の石原慎太郎知事は「首都大学東京」と命名。 だが、知名度不足などを理由に、現在の小池百合子知事が変更の必要性を指摘し、20 年に東京都立大の名称が復活した。 (編集委員・増谷文生、asahi = 5-29-23)

公立大学をめぐる年表

  • 1949 年 新制大学として最初の公立大が誕生。 東京都立大や大阪市立大、横浜市立大などが開学
  • 1971 年 全額自治体負担だった運営費に対し、国が地方交付税交付金での支出を始める
  • 1992 年 「看護婦等の人材確保の促進に関する法律」が成立
  • 1995 年 公立大が 50 大学に
  • 2009 年 高知工科大が初めて私立大から公立大に転換
  • 2019 年 公立大学協会が認証評価機関「大学教育質保証・評価センター」を設立
  • 2022 年 大阪市立大と大阪府立大が統合して大阪公立大が誕生
  • 2023 年 旭川大が旭川市立大になり 100 大学に

巨額赤字のシャープが早期退職制度導入 「人員削減が目的ではない」

シャープが 55 歳以上の一部管理職約 700 人を対象に早期退職制度を導入したことがわかった。 同社は 2023 年 3 月期決算で 6 年ぶりに純損益が赤字となったが、「人員削減が目的ではなく、ベテラン社員の次のキャリアを支援するための福利厚生(広報)」としている。

制度は 4 月下旬に導入された。 早期退職の募集は毎年期間を定め、今回は 5 月の大型連休明けから 6 月半ばごろまで希望者を募っているという。 希望者には最大で給与 6 カ月分が退職金に加算される。 削減数の目標などは設定していない。 シャープは過去、液晶事業の失敗による経営危機で希望退職を一時募集したことがあったが、早期退職を制度化するのは初めて。 (中村建太、asahi = 5-27-23)


児童手当、第 3 子以降増額方針 財源は医療保険料上乗せと歳出カット

「異次元の少子化対策」の児童手当について、政府は第 3 子以降への加算を増額する方針を固めた。現在の月 1 万 5 千円から 3 万円に倍増するなど検討中の複数案から絞り、6 月にまとめる「骨太の方針」に盛り込む。 来年度から約 3 年間で優先的に取り組む対策に必要な財源は年 3 兆円規模を想定。 医療保険などの社会保険料への上乗せと社会保障の伸びを抑える歳出削減の二つを軸に確保する考え。 近くこうした内容を与党幹部に示し、本格的な調整に入る。

児童手当の拡充は、岸田政権の対策の目玉。 現在の支給額は、0 - 3 歳未満は月 1 万 5 千円で、それ以降は中学生まで月 1 万円。 ただ 3 歳 - 小学生は、第 3 子以降に月 1 万 5 千円に加算されていて、この金額を増やす。 第 3 子以降を対象とする背景には、この約 20 年間で子どもが 3 人以上の多子世帯が減少した状況や、子どもが 3 人以上になると経済的負担感が増すことなどがある。 与党から第 2 子への支給額を増やす案も出されたが、当面見送られる方向だ。

所得制限の撤廃も

児童手当はこのほか、所得制限の撤廃や 18 歳までの支給延長も実施する方向で、集中取り組み期間での導入を目指す。 一方、これらの対策の財源確保は 2 段階で進める。 まず、当面 2024 年度から 3 年間の「集中取り組み期間」で優先的に取り組む対策に必要な財源については、社会保険料への上乗せ徴収と社会保障の伸びを抑える歳出カットで賄う。 支援の拡充と財源確保は数年かけて徐々に行い、その間一時的に不足する財源は「つなぎ国債」で調達する案が有力だ。 その後、施策の効果を検証しながら、「将来的な予算倍増」に向けて別途、財源を探す。

岸田文雄首相は 4 月に「徹底した歳出改革は大前提」と述べ、新たな負担を求める前に歳出を見直す考えを示していた。 だが、優先的に取り組む対策は 3 兆円程度かかる見通しで、歳出削減だけでは賄うことができないとみられている。 首相が消費増税を封印する中、「社会全体で広く負担」する方策として社会保険料の上乗せ案が浮上した。 具体的には、働き手から 75 歳以上の後期高齢者まで、幅広い世代が保険料を納める医療保険を活用する方向。 従来の保険料に加え、少子化対策として個人と企業に新たな拠出金を求める。

一方の歳出改革は、毎年の社会保障の伸びを抑えた分を財源に回す。 今後、医療保険や介護保険において、利用者負担の増加を含む制度の見直しも視野に入る。 ただ、これらの方法で財源を確保しても、首相の掲げる「予算倍増」が求める金額には及ばない。 3 年間の集中期間に実施する対策以外の施策については、裏付けとなる財源のあてはない。 今後、税を含む新たな負担増の検討が避けられない状況だ。 (高橋健次郎、阿部彰芳、asahi =5-20-23)


理研、「10 年ルール」で 97 人雇い止め チームリーダーの研究者も

日本を代表する研究機関の理化学研究所(本部・埼玉県和光市)で今春、10 年を超える有期雇用を認めない「10 年ルール」の結果、雇い止めにあった研究者や技術職員が計 97 人にのぼることがわかった。 理研労働組合が 18 日、厚生労働省で会見を開いて明らかにした。 全国の大学や研究機関で計数千人が雇い止めになる可能性が指摘されていたが、機関ごとの実数が公表されたのは初めて。

2013 年 4 月に施行された改正労働契約法などにより、有期雇用が通算 10 年を超えた研究者は無期への転換を求められるようになった。 雇う側はこの求めを断れないため、人件費削減などを背景に、通算 10 年を超える直前に契約を打ち切られる研究者が多数出ることが懸念されていた。 理研の研究系の職員はもともと有期雇用が約 8 割を占める。 16 年には、13 年にさかのぼって雇用期間が通算 10 年を超える契約はしない、と就業規則を変更した。 昨年 9 月にこの上限の撤廃を発表したが、今年 3 月末で通算 10 年にあたる研究者らが 203 人いることがわかっていた。

労組が理研側に 3 月末以降の実態を聞き取ったところ、このうち 97 人が 4 月以降の雇用を結べず、理研を退職したことがわかったという。 大学の教授職に相当する、チームリーダーと呼ばれる研究者も複数いた。 一方、理研は一部の研究者については「理事長特例」などとして 4 月以降も計 106 人の雇用を継続した。 中には降格された上で、雇用継続となった研究者もいる。 このほか、リーダーの雇い止めで研究チームが廃止になることで、雇用契約が終わる研究者らも 177 人おり、別のチームなどに移籍できなかった 87 人が理研を去った。

こうした雇い止めは違法だとして、研究者らが理研に地位確認を求める訴訟も続いている。 原告の 1 人で、理事長特例で雇用が継続されたものの、チームリーダーから降格した男性研究者は会見で「国際的に日本の研究力が危惧されている。 研究職員の雇用だけにとどまらず日本の科学技術の問題だ。 多くが博士号を持った研究者に対して研究の評価、進捗の検討もなしに 10 年で機械的に乱暴に雇用終了を強行した。 許しがたい。」と訴えた。

同じく理事長特例で雇用が継続した研究者の男性は「非常に優秀で国際的に活躍している人たちが研究を継続できなかったことは残念でならない。 耐えがたい。」と声を震わせて語った。 文部科学省は昨年 9 月 1 日時点の調査で、今年 3 月末に契約期間が通算 10 年となる研究者が少なくとも 1 万 2,137 人おり、無期転換できる見込みの人が半数にも満たないと発表している。 大学や研究機関で実際に雇い止めにあった人数については今後、調査を行うとしている。 (竹野内崇宏、asahi = 5-18-23)


軽貨物宅配、4 割が 11 時間超労働 事故多発受け、国が初の実態調査

ネット通販の拡大で宅配荷物が急増するなか、軽貨物車で運送業を営む個人事業主について、国土交通省が初めて実態調査を行った。 新規参入が相次いで事故が多発しているためだ。 調査結果では、4 割の人が 1 日 11 時間以上働いており、事故の背景に長時間労働がある可能性などが明らかになった。 調査は 3 月から 1 カ月間程度、首都圏と近畿圏の個人事業主 1 万者にウェブ上で行われ、772 者が回答した。 結果は、国交省が 16 日に開いた「貨物軽自動車運送事業適正化協議会」で報告し、あわせて安全確保に向けた対策案も示した。

調査結果によると、1 日の平均労働時間は 8 時間以下が計 41% で、9 - 10 時間が 18% だった。 一方、11 - 12 時間が 21%、13 時間以上も計 21% あった。 1 日に配達する荷物は、通常期は 100 個未満が 53% で、200 個以上は 11%。 だが繁忙期では 200 個以上が 26% にのぼった。 安全確保のための、酒気帯びの確認を含む健康状態の把握などの「運行管理」は 25% が実施していないと回答。車 両の日常点検や 12 カ月ごとの定期点検も、約 3 割が実施していなかった。

配送を依頼する荷主から、法令違反を引き起こすような「違反原因行為」を受けた経験があるか聞いたところ、54% が「ある」と回答。 具体的な行為を選んでもらったところ(複数回答)、「相当量の荷物を依頼され、法で定める拘束時間を超えて配達しないと間に合わなかった」が 40% と最も多く、「最大積載量を超えた運送を強要された」も 18% あった。

調査結果をふまえて国交省が示した対策案では、軽貨物運送事業は運行管理者の選任や事故の報告が義務づけられていない点などについて、見直しを検討するとした。 個人事業主らがインターネットを通じて安全に関する知識を学べるしくみの構築や、運行管理セミナーの開催なども検討する。 軽貨物運送への新規参入が増えている背景には、増加する荷物を大手宅配業者だけでは配達しきれなくなり、個人事業主に業務委託する動きが広がっていることがある。 国交省によると、軽貨物の運送業者は 2015 年度末の約 15 万 4 千から、20 年度末には約 17 万 7 千まで増え、大半が個人事業主とみられるという。

それに伴い、事故も増えている。 交通事故総合分析センターによると、事業用の軽貨物車の事故数は 21 年は 4,616 件と、16 年から約 26% 増加。 そのうち死亡・重傷事故は 21 年で 365 件と、16 年から約 83% 増えた。 一方、軽貨物車以外の事故は減少傾向だ。 こうした状況を受けて国交省は 1 月、アマゾンジャパンやヤマト運輸、佐川急便といった、配送を委託する側の企業らと「貨物軽自動車運送事業適正化協議会」を設立。 対策に関する意見交換などを進めてきた。 (片田貴也、asahi = 5-17-23)


パタゴニア日本支社、労組代表に雇い止め通告 雇用の無期転換の直前

世界的なアウトドア用品メーカー「パタゴニア」(米国)の日本支社が、支社の労働組合代表を務めるパート従業員の女性に対し、年内での雇い止めを通告したことがわかった。 労組はパートの雇用期間を「最大 5 年未満」に制限する会社側への抗議を目的に、代表の女性が中心となって結成された。 労組は「不当な雇い止めだ」として、団体交渉などを通じて撤回を求めていく方針だ。

働き手は「もの扱い」なの? パタゴニアのパート社員は声を上げた

雇い止めの通告を受けたのは、札幌市の店舗に勤めるパタゴニアユニオン代表、藤川瑞穂さん (51)。 2019 年 4 月にパートとして入社し、来春に 5 年を迎える予定だった。 労組によると、今年 4 月下旬、藤川さんは勤務先の店長と面談した際、「人事評価制度に基づくパフォーマンスが基準に満たない」として、半年ごとの雇用契約期間を更新しない、と告げられた。 現在の雇用契約が切れる 6 月末か、次回は更新したとしても 12 月末で退職するように迫られたという。

労働契約法では、非正規社員が同じ会社で通算 5 年を超えて働いた場合、本人が希望すれば雇用期間を無期に転換できる。 しかし、パタゴニア日本支社ではパートの雇用期間を 5 年未満に制限する「不更新条項」を設けている。 藤川さんはこの条項の撤廃を求めて労組結成を呼びかけ、昨年 7 月に組合員 4 人で労組が発足。 現在、組合員は 10 人を超えた。

労組は今年 2 月から、ネット上で「非正規スタッフの無期転換逃れ撤回を求めます」と署名を呼びかけ、これまでに 1 万 7 千人を超える賛同の署名が寄せられている。 藤川さんは会社側の通告について「雇用期間の『無期転換』は働き手の権利。 評価制度と結びつけて雇い止めの理由とするのは不当だ。」と批判する。 一方、会社側は「個別の従業員に関する事項は答えられない(広報担当者)」としている。

パタゴニアは環境問題に熱心に取り組む企業として世界的に有名だ。 環境負荷の少ない素材を衣服に使うなどの試みを進める一方、労働問題にも積極的な発信を続けている。 日本支社をめぐっては今年 3 月、労組宛ての郵便を組合員に渡すのを会社側が拒んでいるのは「不当労働行為だ」として、労組が北海道労働委員会に救済措置をとるよう申し立てた。 (編集委員・堀篭俊材、asahi = 5-8-23)


ヤマト、宅急便の配達を 1 日遅く 関東と中国・四国間などで 6 月から

ヤマト運輸は 17 日、関東と中国・四国などの一部地域の宅急便の配達を「翌日」から「翌々日」に変更すると発表した。 6 月 1 日から始める。 トラックドライバーの不足が深刻になる「2024 年問題」への対応や、各地の道路工事で配達が遅れているためだ。

新たに対象となるのは、関東に山梨・新潟を加えた 1 都 8 県と、山口県を除く中国・四国 8 県の間、和歌山県を除く関西 2 府 3 県と岩手県の間を運ぶ荷物。 これまで配達時間の指定は翌日の午後 2 時以降だったが、今後は翌々日の午前中以降となる。 昨年 10 月には、関東と山口県など中国地方の一部地域の間について「翌々日」に変更しており、今回このエリアを拡大する。

物流業界では、24 年 4 月からトラックドライバーの長時間労働が規制される。 それにともない、現状の輸送量を維持するにはドライバーの人手が足りなくなることから「物流の 2024 年問題」と呼ばれている。 ローソンが弁当などの配送頻度を減らすなど、各業界で対応する動きもある。 (松本真弥、asahi = 4-18-23)

◇ ◇ ◇

企業の 66% が「正社員不足」、大企業は 7 割超
「人手不足」 運送、飲食、サービスで深刻化

コロナ禍の行動制限が解除され、経済活動が本格化すると同時に、隠れていた人手不足が顕在化してきた。 2022 年 10 月から訪日外国人観光客の受け入れが緩和され、2023 年 4 月には中国人観光客の入国規制も緩和された。 閉塞感が漂った宿泊、小売、サービス等を中心に、コロナ禍で業績が悪化した業種では回復への期待が高まるが、企業の 66% が「正社員不足」を訴え、人手不足が強まっている。 長引く物価高で、賃上げ機運が高まる一方で、業種によっては採用難と従業員の定着率悪化が同時進行する事態も危惧される。

東京商工リサーチ (TSR) は 4 月 3 日 - 11 日、全国の企業を対象に「人手不足」に関するアンケート調査を実施した。 それによると、全体の 7 割弱(構成比 66.5%)の企業が「正社員不足」と回答した。 特に、従業員数の多い大企業では7割超(同 73.2%)に達した。 2023 年 2 月の全国の有効求人倍率(季節調整値)は 1.34 倍で、前月の 1.35 倍から 0.01 ポイント下回ったが、前年同月(1.21 倍)を 0.13 ポイント上回っている。 なかでも宿泊・飲食サービス、卸売・小売、教育・学習支援、医療・福祉は 2 月の新規求人が前年同月から 10 ポイント以上上回るなど、人手不足が深刻さを増している。

今春闘は、大手メーカーや外食、小売を中心に 1 万円以上の賃上げ企業が続出し、これまでの春闘と様相が異なっている。 需要回復が見込まれる業種では人材確保が加速し、今後は賃上げだけでなく、残業削減や勤務時間の見直しなど福利厚生や多様な働き方への対応も課題に浮上している。 このため企業間、業種間の "雇用格差" が、さらに拡大する事態も懸念される。

Q. 貴社の正社員の状況は以下のどれですか?(択一回答)〜大企業で 73% が「正社員不足」

大企業の方が人手不足が強く反映

全企業では、「非常に不足している」の 11.4% (510 社)、「やや不足している」の 55.0% (2,448 社)を合わせ、「正社員不足」と回答した企業は全体の 66.5% を占めた。 規模別では、大企業ほど顕著で、73.2% (418 社)が「正社員不足」と回答した。

一方、中小企業では「非常に不足している」 11.2% (434 社)、「やや不足している」 54.3% (2,106 社)を合わせて 65.5% で、7.7 ポイントの差があった。 中小企業は大企業に比べ、業種によっては業況、受注の回復に時間を要する一面もあり、人員の不足感を訴える企業は、大企業よりも少ない傾向にあった。

Q. 貴社の非正規社員の状況は以下のどれですか? (択一回答)〜非正規社員は半数以上の企業で「充足」

正社員に比べ非正規社員は充足感があると回答する企業が多かった

非正規社員の充足度合いを聞いた。 全企業では「充足している」が約 6 割 (57.5%) で、正社員と比べて不足感は薄い。 一方、不足感のある業種では上位に飲食店、宿泊、サービス、道路旅客運送など、コロナ禍の行動制限解除以降に採用意向が高まった業種に偏り、業種による非正規社員の不足感は二極化している。 今後、インバウンド需要が本格化すると、この傾向はさらに強まりそうだ。

業種によって充足感に二極化も

「正社員が不足」と回答した企業は、大企業で 7 割を超えた(構成比 73.2%)。 全体でも 66.5% と 6 割を超え、アフターコロナの動きと同時に、人手の不足感は企業規模に関係なく広がっている。 一方、業種による不足感は、濃淡がはっきりしてきた。 運送業では正社員の人手不足が深刻で、観光バスやタクシーなど道路旅客や貨物・物流業者のトラックドライバー、有資格者の充足を求める声が相次ぐ。 旅客業者は、中国人観光客の訪日が本格化する今春以降の需要増、物流関連は 2024 年問題を抱え、今後ますます正社員不足の解消が急がれる。

また、飲食、宿泊、娯楽、サービスは、正社員、非正規社員ともに、半数以上の企業が不足を訴えている。 昨春の行動制限解除後、客足の回復の一方で、徐々に採用難が悪化していると言える。 一方で、過剰感の強い業種では、印刷関連が正社員、非正規社員ともに上位に並ぶ。 編集プロダクションなどの映像・紙媒体の制作や広告、繊維・衣服卸売も正社員では過剰感が強い。 印刷をはじめとした紙媒体は、長期に渡り需要の減少が続いてきたうえ、コロナ禍以降、催事等の減少やポスティングの自粛も影響し、受注環境は悪化している。

アパレル関連は、コロナ禍により大きな打撃を受け、大手を中心にリストラも相次いだ。 ただ、人流の回復以降も、一部事業者を除き、受注面で精彩を欠く状況が続いている。 運送、飲食、宿泊など慢性的に人手不足である業種が限定されているのと同様、過剰感のある業種も固定化しつつある。 人手不足の長期化は、企業の成長機会や消費創出の場を失う恐れもある。 企業や業界単位ではなく、過剰感のある産業から需要や成長余地のある産業への雇用支援を図るなど、官民を挙げた実務的な対策も必要になっている。 (東京商工リサーチ = 4-17-23)

  • 本調査は、2023 年 4 月 3 日 - 11 日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答 4,445 社を集計、分析した。
  • 資本金 1 億円以上を大企業、1 億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。