環境活動家グレタさん ドイツで一時拘束 大規模な抗議活動参加

ロシアへのエネルギー依存から脱却するため石炭火力発電を一時的に拡大しているドイツでは、気候変動対策に逆行するとして環境保護グループなどからの批判が強まっています。 こうした中、ドイツ西部で行われた大規模な抗議活動にはスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが参加しましたが、警察に一時拘束される事態となりました。

ドイツ西部にある炭鉱の拡張工事の現場ではドイツ政府の対応への抗議活動が続けられています。 今月 14 日には、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんも加わり、数千人規模のデモ行進が行われ、警察との衝突にも発展しました。 現地では、17 日も座り込みなどの抗議が行われていましたが、地元の警察は抗議活動の参加者が炭鉱の危険な場所に近づくことを防ぐ必要があるとして排除に乗り出し、グレタさんも警察に拘束されました。

グレタさんは 3 人の警察官に抱えられ、連れ出されていきましたが、その日のうちに解放されたということです。 ロシアからの天然ガスを重要なエネルギー源として長年輸入してきたドイツはウクライナへの軍事侵攻を受けてロシアへの依存から脱却するため石炭火力発電を一時的に拡大していますが、気候変動対策に逆行するとして環境保護グループなどからの批判が強まっています。 (NHK = 1-18-23)


街の中心部に野生環境を、各地で進む「都市の再野生化」

未来都市のイメージというと、天にも届く高層ビルや空飛ぶ車、持続可能性の問題を解決するハイテク技術を思い描きがちだ。 だが、これとは違うイメージがある。 そこでは都市が建設される前の野生環境が復活し、長らく失われていた森や動物も勢ぞろいしている。 こうした未来は「都市の再野生化運動」という形をとって、世界の大都市で実現に向けて動き始めている。

こうした最近の流れの先駆者に、植物学者の宮脇昭氏がいる。 同氏は日本の植生を研究していた 1970 年代、重大な発見をした。 ずいぶん前に耕作地から姿を消した古代原生林の生態系が、寺や墓地など放置された場所で存続し、繁栄していることに気づいたのだ。 宮脇氏は国内の小規模な場所で、その土地ゆかりの土壌や植物を使った日本の自然林再生事業を立ち上げた。 多くの場合、結果は目を見張るものだった。 あっという間に密集した多様な生態系が発達したのだ。

以来、この「ミヤワキメソッド」は世界的ムーブメントとなり、宮脇氏の理論を指針にした小さな森が米国、欧州、アジアで繁茂している。 ベイルートからボルドーに至る都市環境でも定着し、都市の中心に手つかずの自然を呼び戻す運動を牽引している。

自己発達生態系

ミヤワキメソッドによる大型プロジェクトのひとつが、オランダの NPO 団体「環境教育研究所 (IVN)」の取り組みだ。 この団体のタイニー・フォレスト計画は、道路脇やオフィス街、学校などの都市部で、テニスコートほどの広さの区画を 250 カ所以上展開している。 「まずは区画の選定から始まって、その場所の土壌の種類、水量レベル、潜在自然植生を調べる」と、IVN の植樹責任者ダーン・ブライフロト氏は言う。 「そのために過去を振り返って、かつてどんな植物が生育していたか探っている。」

いったん草木を植樹すると、人間の介入は最小限にとどめられる。 時間が経つにつれ生態系は発展し、ひとりでに息を吹き返す。 11 カ所の森を対象にした調査では、600 種以上の動物と 300 種近い植物が見つかった。 ブライフロト氏の話では「勝手に森の中に姿を見せた」のだそうだ。 こうした森は二酸化炭素吸収源としても機能する。 先の調査によると、年間の平均二酸化炭素吸収量は 127.5 キログラムで、1 台の車が 300 マイル(約 480 キロメートル)走行した時の二酸化炭素排出量に相当する。 森の成熟に伴って、吸収量も倍増する。 森には冷却効果もある。 研究の結果、近隣の道路と比べると、土壌の温度は最大で 20 度低いことが判明した。

気候変動への耐性

再野生化という概念は、人里離れた地方で盛んだった。 再野生化は広い意味では、その土地の自然生態系や自然作用を回復することを指す。 イエローストーン国立公園ではオオカミが呼び戻され、カルパチア山脈では古代原生林が再生された。 同じ理論が都市部にも応用できるというのが環境活動家の考えだ。 都市の再野生化は「森林整備の介入を極力ゼロにして、長期的に都市の生態系をより複雑化することを目指す手法だ」と語るのは、ロンドン動物学会 (ZSL) の上級研究員ナタリー・ペトレリ氏だ。 ペトレリ氏は、先ごろ発表された、都市の再野生化に関する報告書の筆頭著者でもある。

報告書に列挙されている一連の介入例には、野生動物にゴルフ場の土地改良や鉄道インフラ周辺の開発を任せることに始まって、私有地の植生の増加や、公園管理をやめて自然の経過に任せることなど多岐にわたる。 「積極的な植え替えや、狙いを絞った種の再生も該当するかもしれない。(ペトレリ氏)」 ペトレリ氏によれば、都市の生態系回復により考えられるメリットには、気候変動に対する耐性強化や環境汚染の減少、失われた生物多様性の回復、住民の健康促進などがあるという。 ペトレリ氏の話では、都市の再野生化は「比較的新しい」運動で、思い切ってこうした方向に舵を切った都市は一握りだという。

シンガポールでは野生の生態系を育む「スーパーツリー」や緑の回廊が建設された。 ドイツでは 3 つの街で、野生生物の生息地を自生させるための区画を設ける計画が進められている。 英国のノッティンガムでは、さらに大胆な再生事業案が出された。 当初の案では、繁華街にある荒廃したショッピングモールが、林や天然牧草地に囲まれた都会のオアシスに生まれ変わる予定だった。 地元議会は現在、著名な設計者トーマス・ヘザーウィック氏と協力して、街を広大な「緑の中心地」に再開発し、モールにも緑を生い茂らせる修正案を推し進めている。

「グリーン高級地区開発」は避ける

ロンドンでも野心的な試みがいくつも進められ、市長直属の「ロンドン再野生化タスクフォース」が仲介となって、互いに補完し合う数十の独立したプロジェクトを支援している。 地元当局や活動家の尽力で数世紀ぶりにビーバーがロンドンに呼び戻された他、新たに林地が開発され、チョウの生息地が設けられた。 次の段階としては、管理された草地を野生の牧草地に転換してミツバチやチョウや野生の花々のために数キロにわたる緑の幹線道路を作り、放牧した家畜の群れを呼び戻してロンドン郊外の生態系を形成することなどが考えられる。 だが、こうした未来はトップダウンとボトムアップ、両方向から行われる。

「広い空間を必要とする大がかりなプロジェクトと同時に、一般市民の玄関口でできるような小規模な取り組みをロンドン全域で推し進めたい。」 こう語るのは、ロンドン市のシャーリー・ロドリゲス環境担当副市長だ。 こうした取り組みには、地元近隣の野生環境レベルを記録して、最優先に保護すべき生物種を特定することも含まれる。

このような計画は道楽ではない。 ロドリゲス氏は、国際都市が大なり小なりこうした計画を進めるのは当然の流れだと言う。 「再野生化により生態系が回復し、地域内の多種多様な生物種の種類や数が増えることは分かっている。 それだけでなく、よりグリーンで健全な街を作り、気候変動の影響に対する回復力を向上させるという広い役割も担っている。 その上、ロンドン市民の心身の健康も改善される。」

ZSL は都市の野生化計画がたびたび直面する問題を挙げている。 大規模な計画には公的資金が必要だが、厳しい時代には予算も不足する。 野生の土地を何もせず放っておけば、外来種が侵入して生態系に支障をきたす危険もある。 プロジェクトを継続させるには地元住民の同意も欠かせない。 対象地域から住民を追い出す「グリーン高級地区開発」も避けなければならない。 再野生化に挑戦するには、殺虫剤や人工芝といった有害な慣習にも対処しなくてはならない。 「より厳格な法規制を敷いて、都市の自然回復の努力を妨げるような行動の拡散を防止する必要がある。」とペトレリ氏も言う。

だが、こうした活動は勢いを増しつつある。 ブライフロト氏はタイニー・フォレスト計画と並行して実施する補助計画として、学校での緑化活動や公共スペースでの食物栽培、持続可能な水管理の実験などを挙げている。 すでにタイニー・フォレストはキュラソー島からパキスタンまで 10 カ国にネットワークを広げており、現在は地元の学校と密に協力しながら、次の世代の意識向上に力を入れている。 「生態系の回復に挑戦する、より大きな運動、再野生化による再生活動の一員になった気分だ。(ブライフロト氏)」 (CNN = 1-3-23)

〈編者注〉 野生環境ムーヴメントが日本から始まったのは、日本人の誇りでもあります。 都立の公園は、もともと大名屋敷のお庭であった所が殆どです。 当然、植生された松の木が多かったはずですが、今は、弱い松の木は自然淘汰されつつあり、もう捜さないと見つけられません。

そう、東京の公園の森や林は、手を加えないで時間をかけて武蔵野の原風景に戻りつつあるのです。 きっと、次の世代は、どの公園でもごく自然な武蔵野の森や林が見られることになります。 一方で、国が管理する皇居東御苑や新宿御苑、それに明治神宮の森(全国から集められた樹木で形成された)は創り上げられたままのあり様を残そうとしています。


洋上風力「新たな時代の幕開け」 秋田で国内初の大規模商業運転

秋田洋上風力発電 (AOW) が能代港の沖につくった洋上風力発電所が 22 日、運転を始めた。 売電を目的とした大規模な洋上風力の運転開始は国内で初めて。一つの節目を迎えた関係者は喜ぶ。 今後の産業発展を期待する声も聞かれた。 能代港湾区域に設置された全 20 基の風車がこの日午前 0 時から、稼働した。 設置工事は 9 月までに終わり、試運転や、商業運転開始に必要な法定検査を進めていた。

AOW の岡垣啓司社長は同日午前、能代港で報道陣の取材に答えた。 コロナ禍に直面しながらの工事だったと振り返り、「ほぼ計画通り本日、商業運転を開始でき、非常にうれしい。 日本における(洋上風力の)新たな時代の幕開けだ。」と喜んだ。 また、再生可能エネルギーを主力電源化する上で政府が洋上風力をその切り札と位置づけている点を指摘。 「再エネの主力電源化は必ず達成しないといけない。 ここで成功例を示すことが拡大の大きな弾みになる」と意気込んだ。 「長期にわたって地元で産業、人材育成を進め、地域が活性化していく可能性を秘めている」とも語った。

AOW が同じく秋田港湾に建てた 13 基の風車の稼働は来月の見込みという。 2 カ所の発電能力は計 14 万キロワットで、つくった電気は全量を 20 年間、東北電力ネットワークに売る。 佐竹敬久知事は運転開始を受け、県庁で報道陣に「地元にこういうエネルギーがあるということをいかに売り込み、企業誘致や産業発展につなげていくかが大事だ」と述べた。

AOW がこれまでに投じた事業費計約 1 千億円のうち、県内企業の受注額は約 1 割。 秋田、能代両港湾とは別に、三菱商事を中心とする企業連合が県沖 2 海域で洋上風力を建設する計画があり、佐竹知事は「(県内受注の割合を) 30% に仕向けていくことが重要だ」とした。 (佐藤仁彦、井上怜、松村北斗、asahi = 12-23-22)


中間貯蔵施設の除染土壌再利用、3 カ所では足りない

東京電力福島第 1 原発事故に伴う中間貯蔵施設の除染土壌の再生利用で、環境省は初めて県外での実証事業を始める計画だ。 関東の同省関連施設 3 カ所で実施する。 住民説明会などで地元の理解を得られれば、順次、具体的な作業に入る。 再生利用が進まなければ、2045 年までの期限が決まっている県外最終処分もおぼつかない。 双葉、大熊の両町が受け入れている中間貯蔵施設では、搬入された除染土壌の分別作業が続く。 環境省は最終処分量を減らすため、放射性セシウム濃度が 1 キロ当たり 8 千ベクレル以下を公共施設などに利用する方針を示している。 県内では現在、飯舘村長泥地区で、農地造成の実証事業などに取り組んでいる。

初めてとなる県外再生利用は、埼玉県所沢市の環境調査研修所、東京都の新宿御苑、茨城県つくば市の国立環境研究所で計画されている。 各施設の芝生広場や花壇、駐車場などの小規模スペースに埋設し、別の土で覆う。 花壇では埋め立て面積を変えて植栽への影響を確認するという。 環境省はこれまで、県外向けの理解活動として各地で対話フォーラムを催してきた。 新型コロナウイルスの感染拡大で参加者を絞ったこともあり、効果は限定的と言わざるを得ない。 それに比べて、実証事業は本格的な再生利用に直結する。 事業展開に当たって環境省は各地で住民説明会を開催する方向だが、丁寧に説明を尽くしてほしい。

今回の事業について、西村明宏環境相は「(再生利用の)国民理解にもつなげたい」という趣旨の発言をしている。 やや不安なのは、いずれの場所も一般が立ち入れないことだ。 国民理解に結びつけるには、正確で幅広い層に伝わるような情報発信の工夫が必要となるだろう。 (福島民友 = 12-15-22)


次世代太陽電池「ペロブスカイト」共同開発に東京都、小池知事の期待

東京都は積水化学工業と次世代太陽電池の共同開発に着手する。 積水化学が 2025 年の事業化を目指すフィルム型ペロブスカイト太陽電池を都内の下水道施設の反応槽ふたの上部に来春までに設置し、発電効率や耐久性を検証する。

ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つこの電池は薄く軽量かつ曲がるため、設置場所が広がるのが特徴。 主原料であるヨウ素は産出量の 3 割を日本が占めているため、資源の安定調達につながる利点もある。 さまざまなインフラ施設を持つ都は、設置場所を提供することで技術検証や製造技術の確立を積極的に後押しする。 小池百合子知事は「再生可能エネルギーの導入拡大につながる新しい技術」と期待を寄せる。 (NewSwitch = 12-6-22)


マングローブ再植林で気候変動に対抗 エジプト

マングローブ林があるエジプトの紅海沿岸を魚が泳いでいる。 ここハマタでは生物多様性の回復と沿岸の保全、気候変動対策の一環としてマングローブの再植林が行われている。 数十年間に及ぶ環境破壊でマングローブ林は姿を消し、残ったのは計 5 平方キロの面積しかない。 マングローブ再植林を率いる農業組合の役員サイード・ハリファさんは「生態系全体の問題です」と語る。 「マングローブを植えれば、海洋生物や甲殻類、鳥なども集まってきます。」

年間約 5 万ドル(約 710 万円)の助成金が政府から支給される取り組みは、5 年前に始まった。 栽培している数万本の苗木を、紅海とシナイ半島沿岸の重点地域 6 か所、約 2.1 平方キロ相当に再植林する。 マングローブは気候変動との闘いで大きな力を発揮する。 国連環境計画 (UNHP) によると、回復力が強い上、二酸化炭素の吸収量は陸上の森林の 5 倍に上る。 またマングローブ林は水質汚染を改善する他、海面上昇や異常気象に対して自然の障壁となり、壊滅的な暴風雨から沿岸部を守る。 UNEP の試算によると、マングローブ林の保護にかかるコストは、同じ長さの防波堤建設費の 1,000 分の 1 で済む。

これだけの価値があるにもかかわらず、世界全体で 3 分の 1 を超えるマングローブが消失したという研究結果もあり、インド洋沿岸では最大 80% が失われた地域もある。 エジプト・タンタ大学の植物学者カマル・シャルタウト教授は同国の場合、大規模な観光事業とリゾート開発が汚染を引き起こしたと指摘。 ボートでの回遊や石油掘削もマングローブに大きな被害を与えるとしている。 こうした問題点を改善しない限り、マングローブ林再生の取り組みは「無駄になる」と同氏は警告した。 (AFP = 12-3-22)


洋上風力発電の工事本格化 2024 年 1 月運転開始へ 長崎・五島

長崎県五島市沖で、洋上風力発電の工事が本格化している。 海に浮かべる浮体式で、風車を含めた高さが 180 メートル近い浮体を組み立て、設置海域へ曳航する作業が続く。 事業を担うのは戸田建設など 6 社でつくる「五島フローティングウィンドファーム合同会社」。 2024 年 1 月の商業運転開始を目指し、出力 2,100 キロワットの風車 8 基を順次設置する。 五島市沖は 19 年、公募で選んだ事業者に最長 30 年間の占有を認める再エネ海域利用法の促進区域に指定された。

近隣の離島には雇用創出や電力の地産地消などへの期待が大きい一方、周辺はタカ科のハチクマや海鳥のカツオドリなどが飛ぶ。 風車の海面上の高さは 100 メートル超で、直径 80 メートルの羽根が回転する。 地元の自然愛好家は「建設後も環境調査をきちんと実施してほしい」と話す。 (迫和義、asahi = 11-26-22)


COP27 成果文書を採択へ「損失と損害」基金創設で合意できるか

エジプトで開かれている気候変動対策の国連の会議、「COP27」は、成果文書を採択する全体会合がさきほど始まりました。 気候変動によって引き起こされた被害への基金の創設で合意できるか、交渉は最も重大な局面を迎えています。 今月 6 日から開かれた「COP27」は当初、18 日に閉幕する予定でしたが、会期を延長しさらに夜を徹して交渉が続けられてきました。

最大の争点は気候変動によって引き起こされた被害、「損失と損害」への資金支援で、基金の創設を求める途上国側とさらなる経済的な負担を懸念して慎重な姿勢の先進国側との間で意見の隔たりが残っていました。 議長国エジプトは現地時間の 20 日未明、これまでの交渉を反映した成果文書の案を提示しました。 それによりますと、今回の COP で気候変動の影響に特にぜい弱な途上国などを対象に基金を創設することを決め、その具体的な内容は来年の COP28 で検討するとしています。

先進国側が途上国側の強い訴えを受けて譲歩した形です。 成果文書を採択する全体会合はさきほど始まりましたが、一部の内容を精査する時間が欲しいという要請を受けていったん、休会となりました。 気候変動による被害への基金は、干ばつや洪水など深刻な異常気象の被害を受けてきた途上国側が長年求めてきたものです。 基金で合意できれば、国連の枠組みでは初めてとなり交渉は最も重大な局面を迎えています。

西村環境相 終結見届けることなく帰国へ

気候変動対策の国連の会議「COP27」に参加した西村環境大臣は、会議の途中、日本時間の 20 日未明に記者団の取材に応じ「このような国際情勢の中 であっても、すべての締約国が一丸となって気候問題に取り組んでいくという決意を改めて示すことができたのではないかと思う」と述べました。

最大の争点となっている気候変動による被害、「損失と損害」への資金支援については「日本は資金だけではなく、足元のぜい弱な国をしっかり支援していくためには技術支援が大事だと主張してきたが、途上国からはやはり資金をという話があった」としたうえで「さまざまな交渉の結果を聞いている中では合意に近づきつつあると思う」と話していました。 そして西村大臣は会期の延長により終結を見届けることなく、国会対応のため帰国の途につきました。 (NHK = 11-20-22)


ウクライナの環境破壊、回復は「世代超えた仕事」 EU 欧州委員

欧州連合 (EU) の閣僚に相当するシンケビチュウス欧州委員(環境・海洋・漁業担当)が 11 日、東京都内で毎日新聞のインタビューに応じ、ロシアの軍事侵攻によるウクライナ国内の環境破壊の回復を図る取り組みは「世代を超えた仕事になる」との見方を示した。 EU はロシア軍の環境破壊行為の責任を問うためウクライナ当局と協力しているとし、これまでに「環境犯罪」が疑われる事案は 2,000 件を超えると明らかにした。

ウクライナ政府は、ロシアの侵攻開始から国内の環境被害は 360 億ユーロ(約 5 兆 1,500 億円)に上ると推計している。 シンケビチュウス氏は、侵攻後にウクライナを訪問した際に首都キーウ(キエフ)近郊などで現場を視察したといい、「非常に貴重な原生林が破壊され、ざんごうが掘られている」と指摘。 さらに「最悪」な事例の一つとして、ロシア軍がこれらの森林を含む広い範囲に地雷を埋め込んでいることを挙げ、「すべてを除去するには世代を超えた仕事になるだろう」と述べた。 またシンケビチュウス氏は、ロシアの軍事侵攻が短期的には EU の気候変動対策に「マイナスの影響」を与えうると認めた。

侵攻の余波で天然ガスの価格が高騰する中「脱石炭」を主導してきた EU では、ドイツなど一部の加盟国で石炭火力発電所の再活用を検討する。 こうした動きについてシンケビチュウス氏は、冬場のエネルギー逼迫などに備えて「最後の手段」として一時的に確保していると説明。 「エネルギー自立」を強化する観点から、EU 内では再生可能エネルギーの導入がむしろ加速していると強調した。 中長期的なマイナス影響は「ない」との見方を示し、2030 年までに1990 年比で温室効果ガスを 55% 削減する EU の共通目標の達成は可能だとした。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、EU はロシア産化石燃料への依存を大幅に低下させ、27 年までに脱却を目指す方針にかじを切った。 一方、日本はロシア極東の石油・天然ガス開発事業の権益を維持する方針を示している。 シンケビチュウス氏は日本のエネルギー政策について直接の言及を避けたが、「欧州の経験から言えるのは、化石燃料を(政治的な)脅しや重圧をかけるための道具に使うロシアへの依存は非常に危険だ」と指摘した。 (八田浩輔、mainichi = 11-12-22)


神宮外苑の樹木はヒートアイランド抑制に効果 国際環境 NGO が保存求める「若い木では効果がない」

東京・明治神宮外苑地区の再開発計画で、国際環境 NGO グリーンピース・ジャパン(東京都新宿区)は 2 日、既存の樹木に周辺の温度を下げる効果があり、ヒートアイランド現象の影響などを抑えるため、できる限り残すよう求める提言を都に出した。 再開発を行う三井不動産などの事業者は、現在植えられている樹木 1,904 本のうち 556 本を伐採する方針。 都庁で会見したグリーンピース・ジャパンの気候変動・エネルギー担当鈴木かずえさん (58) は「ヒートアイランド現象の影響や気温上昇を緩和するため、既存の植物を保存する必要がある」と訴えた。

NGO が 9 月に行った神宮外苑 4 地点の赤外線サーモグラフィー測定で、樹木による日陰の部分は日なたより表面温度が最大約 18 度低かったという。 事業者は再開発にあたり、植樹などで樹木の本数を約 2,000 本に増やすとしている。 会見に参加した都立大の三上岳彦名誉教授(気候学)は「若い木では日射を遮る効果や蒸散効果がない。 同じ本数にするから大丈夫というのは詭弁きべんだ。」と指摘した。 再開発計画を巡っては、シンボルのイチョウ並木への影響などが専門家から指摘され、見直しを求めるネット署名活動も行われている。 (三宅千智、東京新聞 = 11-3-22)


脱炭素支援の官民ファンド発足 「眠っている資金、呼び覚ます」

脱炭素につながる事業を支援する官民ファンド「株式会社脱炭素化支援機構」が 28 日、発足した。 地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出削減を加速させるため、官民が連携して資金を供給。 環境や社会問題に配慮する企業への投資「ESG 投資」を呼び込む狙いもある。 西村明宏環境相は 28 日の創立総会で「今後 10 年間で 150 兆円の脱炭素投資を実現するさきがけとなるべく、前例にとらわれず、積極果敢に資金を供給してほしい」と述べた。

設立時の出資金総額は 204 億円。国が財政投融資から 102 億円、民間はメガバンク 3 行など金融機関や電力会社など、82 社が 102 億円を出資した。 財投からの増資を含め、今年度は「約 300 億円の出資が可能。(環境省)」 温室効果ガスの排出が実質ゼロになるまで活動を続ける。

支援の対象は太陽光や風力など再生可能エネルギー発電事業のほか、省エネ性能の高い住宅「ZEH (ゼロエネルギーハウス)」の建設、プラスチックのリサイクル、工場の電化など脱炭素に貢献する分野。 前身の一般社団法人「グリーンファイナンス推進機構」は出資の財源が国のエネルギー特別会計だったため、対象が二酸化炭素削減につながるエネルギー関連事業に限られ、約 8 年間での出資は 37 件、184 億円にとどまっていた。

国の出資金は財投を財源とするため、こうした投資先の制約はなくなる。 最近は再エネは買い取り価格の切り下げが続き、民間の再エネへの投資意欲は一時に比べ停滞気味という。 「リスクが比較的高くても機構が出資すれば、民間も支援をしやすくなる。 眠っている ESG 投資の資金を呼び覚ましたい。(環境省幹部)」 約 200 社から出資の相談があるという。

社員約 40 人は前身からの移籍組が多い。 再エネ関連事業者からは「グリーンファイナンス機構は赤字を出すのを極端に嫌がっていた。 今度はリスクをとれるのか。」との疑念も出る。 ただ、投資に失敗し赤字が膨らむ官民ファンドもある。 国民の財産を原資に運用する官民ファンドだけに、リスクとのバランスも求められる。 (関根慎一、asahi = 10-28-22)


家庭の温室効果ガス減と節約、特に効果が大きいのは … 環境省が提案

断熱改修や太陽光発電の設置などで、家庭の二酸化炭素 (CO2) 排出を 3 分の 1 に減らせる - -。 環境省は 25 日、脱炭素につながる新しい生活モデルを示した。 2030 年度に国が目指す家庭部門で必要な削減量を達成可能という。 年 43 万円の光熱費の節約にもつながるというが、初期投資への支援がカギとなる。

国は全体で 30 年度に温室効果ガスを 13 年度比 46% 減らす目標を立てている。 家庭はさらに対策を求められており、66% 削減(1 億 3,800 万トン)が必要だ。 1 世帯あたりにすると、求められる CO2 の削減量は年約 2,400 キログラム。 環境省が提案する 14 の行動パターンで、特に効果が大きいのは住宅の断熱化で年約 1,100 キロ、太陽光発電(3.5kw) の設置で約 920 キロ、ヒートポンプ式給湯器の設置で約 520 キロだった。 クールビズ、ウォームビズでも約 40 キロの削減効果があるという。

これらの対策で毎月約 3.6 万円、年 43 万円の光熱費の節約効果もあるという。 「経済的な利点も感じつつ、一人一人の行動につなげてほしい(環境省)」という。 ただ、太陽光発電の設置には約 100 万円、ヒートポンプには約 27 万円の初期費用が必要となる。 すでに補助制度もあるが、西村明宏環境相はこの日、「『断熱リフォーム促進キャンペーン』を始める。 必要な支援を行っていく。」と話し、支援を手厚くしていく考えを示した。 (関根慎一、asahi = 10-26-22)


「究極の循環型社会」 下水汚泥の肥料利用拡大へ、初の官民検討会

政府は 17 日、下水処理の過程で出る汚泥を農業向けの肥料として活用するための官民検討会を開いた。 下水汚泥には人のし尿に由来するリンなど肥料の原料となる成分が豊富に含まれるが、肥料として使われているのは 1 割にとどまる。 検討会は、岸田文雄首相が 9 月に「(下水汚泥の)利用拡大により肥料の国産化・安定供給を図る」よう指示したことを受けて農林水産省と国土交通省が設けた。 検討会は農水省と下水道を管轄する国交省の幹部や学者、肥料メーカーの担当者らで構成され、年内をめどに利用拡大に向けた課題を整理する。

この日の初会合で、農水省の岩間浩審議官が「官民が一つのテーブルで議論する初めての取り組み。 大変よろこばしい。」とあいさつ。 国交省の松原誠下水道部長は「昔やれていたことを今のシステムのなかでどう実現していくのか。 究極の循環型社会の実現だ。」と述べた。 出席者からは「下水汚泥という名前のイメージが悪い」、「コストや安定供給の面で課題がある」などの意見が出たという。

国内の農業で広く使われている化学肥料は、原料のほぼ全てを海外に依存している。 中国やロシアなど一部の地域に偏在していることもあり、ウクライナ情勢などを受けて調達価格が高騰。 輸入できなくなるおそれも指摘されている。 政府は月内にまとめる総合経済対策に、下水汚泥の利用拡大に向けた事業者の支援策を盛り込む方針だ。 (初見翔、asahi = 10-17-22)


ウクライナ、軍事侵攻による環境被害を 360 億ユーロと推定

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、環境面にも深刻な被害をもたらしている。 ウクライナのルスラン・ストリレツ環境・天然資源相は 10 月 3 日、欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会が開催したオンラインでの意見交換会において、軍事侵攻によるウクライナ国内での環境被害について説明した。 ストリレツ環境相によれば、軍事侵攻の開始以来、ウクライナ国内の環境被害は総額 360 億ユーロに上る。 内訳は、土壌への被害が 114 億ユーロで、大気汚染による被害が 246 億ユーロだという。 また、これまでに 2,000 件を超える環境被害が確認されたとした。

気候変動に与える影響は無視できない。 軍事侵攻により約 3,100 万トンの二酸化炭素 (CO2) が大気中に排出されたという。 ロイター通信(10 月 3 日)によれば、これはニュージーランドの年間排出量とほぼ同水準に当たる。 また、軍事侵攻によって破壊された国内のインフラ施設や建物の復興にあたり、約 7,900 万トンの CO2 が排出される可能性があるとした。

個別の天然資源をみると、現時点で 45 万ヘクタールの森林がロシア軍に占拠されているという。ウクライナ軍はすでに245万ヘクタールの森林を奪還したが、森林は火災などにより深刻なダメージを負っており、回復には数十年を要すると述べた。 水資源の損失額は 790 万ユーロに上り、497 の水資源関連施設が被害を受け、または破壊されたとした。 灌漑、排水などの施設の復旧には 77 億 1,000 万ユーロが必要となる見込みだ。

ロシア軍は、ウクライナ国内における 2,000 を超えるエネルギー資源、金属、鉱物の埋蔵箇所を占拠しており、額にして 12 兆 7,000 億ユーロに上るとした。 また、ストリレツ環境相は、2022 年 11 月 6 日から 18 日にかけてエジプトで開催される国連気候変動枠組み条約第 27 回締約国会議 (COP27) において、ウクライナが、軍事侵攻による環境被害の評価に関するグローバルプラットフォームの創設を提案する予定だと発言した。 (宮下恵輔・欧州ロシア CIS 課、JETRO = 10-7-22)


上海市、環境保護で大きな成果 新エネ車普及台数世界首位

【上海】 中国上海市生態環境局の程鵬(てい・ほう)局長は市が 27 日開いた記者会見で、上海市がこの 10 年で環境保護や持続可能発展の分野で収めた成果について説明した。 これによると、同市はここ 10 年で、利用効率の低い建設用地 66 万 8 千平方キロを削減し、エコ建設に利用している。

上海市の単位域内総生産 (GDP) 当たりの二酸化炭素 (CO2) 排出量とエネルギー消費量は 2010 年以降、いずれも 50% 以上減少した。 新エネルギー車 (NEV) の普及台数は 21 年末時点で 67 万 7 千台と世界の都市の首位になっている。 軌道交通の営業距離は引き続き世界一を維持し、新たなプロジェクトの計画も進んでいる。 グリーン(環境配慮型)建築の規模は 2 億 8,900 万平方メートルに達し、プレハブ建築の普及でも全国をリードしている。 (新華社/36Kr = 10-2-22)


日本版「排出量取引」が東証でスタート 脱炭素へ CO2 を売買

企業間で二酸化炭素 (CO2) の排出量を取引する「カーボン・クレジット市場」の実証事業が 22 日、東京証券取引所で始まった。 温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル(脱炭素)」の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入などで削減した分を売買する。 実証事業は経済産業省の委託で行われる。 電力や金融、製造など幅広い業界から 145 社・団体が参加。 再エネや省エネ機器の導入のほか、森林整備による吸収分を削減量として国が認証する「J-クレジット」を実際に売買する。 初日は CO2 1 トンあたり 1,600 - 1 万円で取引された。

参加企業の意見を聞きながらシステムを改善し、2023 年度に本格スタートする。 将来的には企業が設定する目標を上回って削減した分を新たにクレジットとして国が認証し、目標を達成できなかった企業が買う取引も始める予定だ。 排出量取引は CO2 の排出に価格を付ける「カーボンプライシング」と呼ばれる。 鉄鋼や化学などの業種は排出をゼロにするのは難しく、「実質ゼロ」の実現には企業間で排出量を調整する仕組みが不可欠だ。 CO2 に価格が付けば、CO2 を回収して地中に閉じ込めるなどの脱炭素ビジネスも広がりやすくなる。

記念式典で経産省の長峯誠政務官は「クレジットの取引を通じて炭素削減価値に価格が付けられ、脱炭素投資の予見性を高めることになる」と述べた。 欧州では、排出が多い産業を指定し、企業ごとに排出量の上限を定めて削減を義務づける排出量取引制度がある。 日本では、経産省は企業の自主的な取り組みに委ね、罰則もない。 欧州では環境規制が緩い国からの輸入品に事実上課税する「炭素国境調整措置」と呼ばれる仕組みも検討されている。 日本企業の対応が遅れれば国際競争力を失うおそれがあり、経産省は脱炭素化の取り組みを加速させたい考えだ。 (長崎潤一郎、asahi = 9-23-22)


お茶農家が嘆く異変「経験が役に立たない」 適地が 4 分の 1 減る国も

日本三大銘茶の宇治茶。 静岡茶などに比べると茶葉の蒸し時間が短く、煎茶は濁りのない澄んだ黄緑色が特徴だ。 その色に似合わず、飲むと奥行きのある渋みや香りがしっかりと広がる。 宇治茶の歴史は鎌倉時代、中国から持ち込まれた種子を高山寺の高僧が育てたのが始まりとされる。 その後、室町幕府に奨励され、産地として発展。 織田信長や豊臣秀吉、千利休にも愛され、天下の宇治茶として名をはせた。

その栽培は京都南部の山城地域を中心に今も続く。 周囲に宇治川や木津川が流れ、水はけの良い肥えた土と年間 1,500ミリ ほどの降雨に恵まれる。 小高い傾斜のある地形は昼夜の温度差をもたらし、良質なお茶生産に欠かせない気候条件がそろう。 「宇治茶は生産規模こそ大きくはないが、安定した高品質な茶を提供することで長く信頼を得てきた。」 府茶業会議所の戸塚浩司事務局長は、先人らが紡いできた宇治茶の伝統をそう誇る。

だが、宇治茶栽培の現場は今、変わらぬ味を守るための変化の中にいる。 7 年前のことだった。 府内の茶園に気象観測機が置かれ始めた。 府や茶業関係者などでつくる「宇治茶ブランド拡大協議会」に、ベテラン農家から気候変動を懸念する声が寄せられたことがきっかけだ。 春、新芽が芽吹き始めると茶農家が 1 年で最も忙しい茶摘み(新茶)の季節になる。 茶葉を摘む時期も味や香りを左右する重要な要素だ。

スズメが隠れるくらい、茶園わきの柿の木の葉が伸びたら - -。 茶摘みのタイミングは、そんなベテラン農家の感覚や知恵で紡がれてきた。 けれど、その経験も「役に立たなくなってきた」ともらす農家も最近は少なくない。 加えて、この時期の最大の敵は晩霜だ。 収穫までに霜が降りると芽が凍結し枯れてしまう。 霜害を防ぐため農家は天気の変化などから降霜を予測し、シートをかぶせるなどして対応する。

川に囲まれる山城地域は、川霧がかかるため元々霜の少ない地域だった。 だが、これまで霜が降りることのなかった地域で降霜が確認されることが増えた。 温暖化の影響かは定かではないが、この地で 50 年茶栽培を続ける農家は「霜が降りたことのないような天気でも霜が降りる。 こんな気候変化、昔は予想していなかった。」と嘆く。 環境省が 2020 年 12 月に出した「気候変動影響評価報告書」でも、温暖化によって新茶の発育時期が早まり、降霜被害のリスクが高まる可能性があると指摘する。

そこで関係者らが取り組んだのが、経験のデータ化だ。 現在、宇治市や和束町などの 14 カ所の茶園に気象観測機を備え、外気温や降水量、日射量、土壌の水分量など、お茶の生育に影響する 12 項目を 10 分おきに測定・記録している。 データはインターネット上のサイトを通じて、リアルタイムで生産者が閲覧できる仕組みだ。 今後は、集めたビッグデータを活用し、気候変化の分析や降霜予測などに役立てたいという。

20 年からは気象庁の気象予報を使って、50 メートル四方で区切った地域ごとに降霜やお茶の生育具合、害虫の孵化を予測。 お茶の生産に役立つ情報として発信している。 戸塚さんは「天気だけじゃない。 気温が 1 度上がれば害虫も変わってくる。 安定した品質の宇治茶をしっかりと守り続け届けるためには今までのままではいけない。」 800 年続いてきた長い歴史の中、宇治茶の未来を決める大きな分岐点に今いる。

影響は海外の紅茶栽培でも

お茶は世界でも多くの国や人々に親しまれる飲料だ。 気候変動がお茶に与える影響は国外の栽培地でも深刻だ。 「このままではお茶の栽培が難しくなり、生活も大変なことになる。 昔は気候条件も良く、収穫も多かったのに。」 ケニアで茶園を営む男性はこう嘆く。 昨年 5 月、英キリスト教系慈善団体「クリスチャン・エイド」がまとめた茶栽培に関する報告書の中で、紹介された。

紅茶は、世界の多くの地域で作られている作物だ。 産地ごとに栽培環境が異なることで風味も様々になるが、一般的には降水量が多く、強い日差しと適度な冷涼さを兼ねた高地が適している。 世界最大の紅茶輸出国ケニアでも、標高 2 千メートルを超える山岳地帯で特に茶栽培が盛んだ。 だが、ケニアの紅茶生産に最適な条件の地域は、気候変動の影響により 50 年までに 4 分の 1 が減少するという。 降雨量が不安定になり、洪水や干ばつといった被害もここ数年で頻発している。 温暖化が進めば、新芽が成長する平均気温を超え、茶の生育自体も難しくなる。

紅茶生産量 1 位のインド、2 位の中国でも、気候変動の影響を報告する声がある。 インド北東部・世界最大の紅茶産地アッサム地方では、50 年までに大幅に産地が減少する可能性が指摘されている。 激しい降雨が土壌を浸食し、お茶の根の発育が損なわれているという。 中国の産地でも、過去 50 年間の気象パターンの変化が茶の成長や品質、茶葉の化学組成に影響を与えている、気候変動が収穫量を減らしている、などの報告がある。 (矢田文、asahi = 9-22-22)