東芝中間決算、営業益が 9 割減 HDD 市況悪化など影響

東芝は 11 日、2022 年 9 月中間決算(米国会計基準)を発表し、本業のもうけを示す営業利益は前年同期比 93.9% 減の 27 億円だった。 データセンターなどに使われるハードディスク駆動装置 (HDD) の市況が悪化したことなどが主な要因という。 売上高は、前年同期比 3.2% 増の 1 兆 5,952 億円だった。 最終的なもうけを示す純利益は、子会社を売却した利益などで同 68.3% 増の 1,006 億円となった。

営業利益の大幅減少は HDD 事業に絡み、クラウドなどを手がける顧客が景気減速を見越して投資を控えたことが影響した。 HDD の市況悪化については「一時的」とし、本格的な回復は来年度を見込んでいるという。 非上場化を含む経営再建策の公募を巡っては、国内投資ファンドの日本産業パートナーズ (JIP) が 2 兆 2 千億円規模での買収を今月、提案した。 ただ、11 日の会見で検討状況を問われた平田政善最高財務責任者は「新しく皆様にご紹介するような事象は起こっていない」として回答を避けた。 (杉山歩、asahi = 11-11-22)


日本の半導体関連株、米国勢をアウトパフォーム - 対中輸出の米規制で

バイデン米政権による半導体技術の中国輸出規制を受けて、日本の半導体関連株が米国勢をアウトパフォームしている。 MSCI ジャパン半導体・半導体製造装置指数は10月に 14% 上昇した。 ほぼこの 2 年間で最高の月間上昇率で、フィラデルフィア半導体株指数の 4 倍以上のパフォーマンスになる。 首位は半導体製造用フォトマスク検査装置を製造するレーザーテックで 45% の値上がりだった。

金利上昇や業界バリュエーションから年初に急落した半導体関連株は 10 月に入り世界的に上昇に転じているが、中国への輸出規制で米国勢には新たな懸念が生じている。 ブルームバーグ・インテリジェンス (BI) の若杉政寛アナリストは、相対的に日本勢への影響は限定的で株価は極めて好調だと述べた。 同時に主要な半導体企業の決算コメントに見られるように、中国半導体企業が投資をやめれば間接的な影響として米国勢以外への需要も減るかもしれないと予想した。 (我妻綾、Bloomberg = 11-1-22)

* アウトパフォーム (outperform) : 優れる


大注目、富士通が推進する「3D 未来工場」って何だ?

富士通の「3D 未来工場」が注目を集めている。 製造現場におけるデジタル変革 (DX) の進展に伴い、現実世界をデジタル空間上に再現する「デジタルツイン」の台頭が目覚ましい。 グループ工場でのデジタルツインの実践で 3 年超の経験を持つ富士通は、自社ノウハウのソリューション化に力を注ぐ。 生産ラインを 3 次元 (3D) 化してシミュレーションなどを行う 3D 未来工場が一つの目玉になる。

デジタルツインの先進モデルとも言える 3D 未来工場を富士通が推進する背景には、人手不足の解消や、失われる "匠" のノウハウ継承といった課題がある。 同社は人工知能 (AI) による検査の自動化や生産品質の最適化などに加え、生産ラインのレイアウト変更を事前シミュレーションすることで、個々の作業者の作業不均衡の解消に役立てている。

仮想現実 (VR) は組み立て作業者の研修にも活用される。 作業時の課題も見える化することにより、ノウハウ継承にも用いている。 設計から技能継承、工場最適化などの取り組みは通信機器製造の富士通テレコムネットワークス(栃木県小山市)に加え、顧客である自動車サプライヤーでも実績がある。 富士通はこうした製造現場の DX の一端を、21 日まで幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催されるデジタル技術の総合展示会「CEATEC (シーテック) 2022」で紹介している。 (NewSwitch = 10-21-22)


日立、米国に 104 億円かけ新工場 鉄道車両をワシントン地下鉄に

日立製作所は 18 日、米国につくる新しい鉄道車両工場の建設予定地を報道陣に公開した。 7 千万ドル(104 億円)を投じて建屋や試験線を設置し、2024 年初めの操業をめざす。 製造する車両は、米首都ワシントンを走る地下鉄に納入される計画だ。 新工場は米東海岸メリーランド州西部ヘイガーズタウンの約 17 万平方メートルの敷地に建設される。 工場は細長く、長さは約 370 メートル。 車両を走らせる試験線を 730 メートルにわたって敷く予定だ。 現地ではすでに高さ 11 メートルのコンクリート製の外壁が設置され、整地もほぼ済んでいた。

日立の鉄道部門を統括するアンドリュー・バー氏は、「車両の溶接にロボットを使うなど高度な自動化を通じて、効率的な製造工場にする」と話した。 新工場で 24 年から製造される車両は、米ワシントン首都圏交通局が運行する地下鉄の車両として納入される。 同地下鉄は 91 駅、総延長 190 キロの全米屈指の地下鉄ネットワークだ。 契約では日立側がまず 256 両を製造・納入する。 そのうえで、双方が合意すれば日立は最大 800 両まで納入できる契約だ。 日立が公表している受注総額 22 億ドル(約 3,300 億円)も、800 両を納入した場合の金額だ。

ただ、テレワークの普及もあり、今後の鉄道需要は読みにくい。 800両全てを発注するのか問われた交通局のランディー・クラーク最高経営責任者 (CEO) は、「今日のところは明確な答えはない。 多くの要素が絡む。」と述べるにとどめた。 (ヘイガーズタウン = 榊原謙、asahi = 10-19-22)


三菱重工、電力 4 社と「次世代原発」共同開発へ 政府は新増設を検討

三菱重工業は 29 日、関西電力、九州電力、四国電力、北海道電力の大手 4 電力会社と共同で、次世代原発を開発すると発表した。 2030 年代の実用化をめざすという。 岸田政権が原発推進にかじを切ったことを受けて、開発の動きを本格化させる。 新しい原発は、従来の加圧水型軽水炉 (PWR) を改良したもので、岸田政権が新増設・建て替え(リプレース)を検討している「次世代革新炉」の一つだ。 三菱重工はこれまでも PWR の原発を持つ関電など 4 社と安全性向上に向けた新技術の検討を進めてきた。

三菱重工によると、開発する原発は、東京電力福島第一原発事故のように炉心溶融が起きた場合に、溶け落ちた核燃料を受け止め、閉じ込めて冷やす「コアキャッチャー」という設備をつけ、既存の原発より安全性が高いとしている。 三菱重工は新しい原発を「SRZ-1200」と名付けた。 S は「Supreme Safety(超安全)」、「Sustainability(持続可能性)」、R は「Resilient(しなやかで強靱な)」、Z は「Zero Carbon(二酸化炭素排出ゼロ)」を示し、安全性や脱炭素の利点を強調している。 建設にかかるコストなどは明らかにしていない。

原発事故後、政府は新増設やリプレースは「想定していない」としてきた。 実際に建設されれば、日本の原子力政策の大きな転換になる。 (長崎潤一郎、asahi = 9-29-22)


「ドローン」 1 機漏らさず迎撃、防衛省が技術研究急ぐ

防衛省は多数の飛行ロボット(ドローン)によるスウォーム攻撃への迎撃効率向上に関する研究を 2023 年度に始める。 高出力レーザーやマイクロ波など、それぞれの技術の特性に応じて役割を最適配分し、ドローンを 1 機漏らさず撃ち落とせる射撃管制システムの開発を目指す。 尖閣諸島周辺や航空自衛隊主要基地などでは中国軍によるスウォーム攻撃が想定されるため、対応を急ぐ。

23 年度予算の概算要求で、金額を明示しない事項要求として盛り込んだ。 スウォーム攻撃はドローンを数十機から数百機単位で飛行制御し、目標に向かわせる技術。 数百機のうち 9 割以上を撃ち落とせても残る数機がレーザーサイトを破壊したり、滑走路に墜落しただけでも短時間は使用不能になる。 民間インフラに攻撃を行う事態も想定される。 中国軍は 18 年に、200 機を超えるドローンの同時飛行を実現した。

ドローン防御用レーザーで 100 キロワットの高出力型は川崎重工業、10 キロワットの車載タイプは三菱重工業が開発を進めている。 マイクロ波は NEC が関連研究を手がけていた。 マイクロ波は広範囲のドローンを補足できる代わり、敵方が周波数を変更するなど、対抗手段を取ることが予想される。 高出力レーザーはこの心配はないが装置が大型になるため展開や機動能力に難がある。 撃ち漏らしたドローンが施設に被害を与える事態も想定される。 これらの特性を踏まえ、来襲時にどの配分や組み合わせで迎撃する方法が効率が高いか、管制方法を研究する。 (NewSwitch = 9-18-22)


半導体、多くの分野で不足続く - 業界全体ではリードタイム短縮

半導体のリードタイム(発注から納品までにかかる時間)は縮小しているが、多くの分野で不足が続いていることが最新調査で分かった。 サスケハナ・ファイナンシャル・グループの調査によると、7 月のリードタイム平均は 26.9 週と、6 月の 27 週(改定値)から短くなった。 リードタイムの縮小は 3 カ月連続。 総合的な指標は改善したが、自動車や産業機械メーカーなどが利用する電源管理とマイクロコントローラ− (MCU) 向けの供給は逼迫したままだ。 電源管理チップのリードタイムは 32 週と、前月の 31.3 週から伸びた。 一部の製品価格も上昇が続いている。

サスケハナのアナリスト、クリス・ローランド氏は 11 日の調査リポートで「業界全体で見ると、在庫と過剰発注の問題がまだ落ち着いていない」と指摘した。 調査によれば、パソコン (PC) やスマートフォン向けなど一部の半導体分野で需要が減少したが、業界全体の不足解消にはまだつながっていない。 全体のリードタイムはなお「健全な」市場でみられるような水準の 2 倍余りという。 (Ian King、Bloomberg = 8-12-22)


最高時速 150km、水素燃料電池で駆動するスゴい「無人航空機」の性能

テラ・ラボ(愛知県春日井市、松浦孝英社長)は、水素燃料電池 (FC) で飛ぶ垂直離着陸タイプの無人航空機「テラドルフィン 4300 eVTOLタイプ」を開発した。 FC は国産で飛行時間は 2 時間、航続距離は 200 キロメートル、最高時速は 150 キロメートル程度。 垂直離着陸で滑走路が要らないため、洪水の被災地調査をはじめ消防や官公庁などの需要を狙う。 地上から垂直離陸する飛行試験は 2021 年末に福島県南相馬市で終えており、23 年までに水素FCの飛行実験を目指す。

機体はガソリンエンジンを搭載した「テラドルフィン 4300」をベースとしつつ、エンジンは胴体後部のものと垂直離着陸用の 4 個の計 5 個を、すべて水素 FC 駆動とした。 水素 FC の場合、リチウムイオン電池に比べ大幅に飛行時間を延ばせるほか、発生する騒音もガソリンエンジンよりはるかに小さい。

沿岸警備などに用いた場合、相手に発見されにくい長所もある。 機体寸法は全長 2,900 ミリ x 全幅 4,300 ミリ x 全高 975 ミリメートルで機体重量 29 キログラム、搭載量 10 キログラム。 短距離通信には周波数 2.4GHz 帯(ギガは 10 億)と 5.7GHz 帯、中距離通信には超短波 (VHF) 帯、長距離通信には衛星通信電波をそれぞれ用いる。 (NewSwitch = 6-25-22)


今夏はエアコン品薄? はや入荷遅れも メーカーは「予断許さぬ」

夏本番を前に、家庭用エアコンの品薄が心配されている。 中国・上海の都市封鎖(ロックダウン)によって部品調達が滞り、生産ペースが乱れたためだ。 夏の商戦本番に向けて、早めの買い替えや修理を呼びかける家電店も出ている。 家電量販店のジョーシン日本橋店(大阪市浪速区)。 エアコン売り場には、「上海ロックダウンのため家電製品の生産が大幅減!」、「お買い替えはお急ぎください!」と書かれたポスターが掲げられている。

エアコン売り場には、およそ 30 機種が並ぶが、そのうち 2 機種が 6 日時点で「入荷未定」だった。 売り場の担当者は「今年は入荷が不安定な製品が特に多い」と話す。 まもなく夏の商戦本番を迎える。 在庫は今のところ確保できており、すぐに品切れの心配はないものの、「例年よりも早めに商品の選択肢が減っていくかもしれない(売り場担当者)」という。

身近な「街の電器店」にも影響は及んでいる。 商店街の一角に店を構える「互光電機商会(同)」は、5 月末までにメーカーからエアコンを約 30 台仕入れた。 例年は注文から 2 - 3 日で入荷するが、今年は 20 日ほどかかった機種もあった。 「値段も上がってくるし、お客さんを待たせてしまう」として、この夏はエアコンの予約注文をすでに締め切った。

メーカー側は生産を途切れさせないよう躍起だ。 日本電機工業会によると、今年 1 - 4 月の家庭用エアコンの出荷数量は前年比 4.8% 減の約 277 万台。 コロナ禍で販売が好調だった前年同期からの反動減に加え、「数字にどれだけ表れているかは不明だが、ロックダウンが一部メーカーの出荷に影響しているのは確実だろう(担当者)」という。 もともと温度調整などを制御するための半導体が不足していたところに、上海のロックダウンでほかの部品不足も重なった格好だ。

エアコンの国内シェアがトップクラスのダイキン工業は、納品に大きな遅れは出ていないとするが「何とかやっている。 決して余裕があるわけではない。(広報)」 パナソニックでは、入手しづらい部品は代替品を工面するなどして生産停止を食い止めているという。 空調事業子会社の沢田宜明副社長は「予断を許さない状況だ。 引き続き代替部品の検討などをやっていく。」と危機感をあらわにする。

国内向けのエアコンを主に上海の工場で作っているシャープは、ロックダウンのために 5 月上旬まで約 1 カ月間にわたり工場が操業停止した。 受注分は在庫などで賄えているが、「この夏は納期待ちになる機種がやや多くなるのでは。(広報)」 他社が品薄になった場合、あふれた注文が流れてきて「同じく品薄になる可能性がある(三菱電機)」との見方もある。

エアコンメーカーなどでつくる「日本冷凍空調工業会」は、エアコンを使い始める 6 - 7 月は修理や買い替えの問い合わせが急増するため、早めの試運転で故障の有無を調べてほしいと呼びかけている。 試運転は、エアコンを冷房モードにして、室温を 16 - 18 度に設定。 30 分ほど運転させて動作音や送風のにおいに異常があったり、水漏れが生じたりした場合は、販売店やメーカーに問い合わせてほしいという。 (中村建太、栗林史子、asahi = 6-8-22)


パナソニック、電池事業の売上高 1 兆円規模へ

パナソニックホールディングスは 1 日、電池事業子会社「パナソニックエナジー」の 2024 年度の売上高を 9,700 億円(21 年度 7,644 億円)、営業利益 870 億円(同 642 億円)とする計画を発表した。 同日の投資家向け説明会で明らかにした。 米電気自動車 (EV) 大手テスラ向けに北米での新工場建設も検討しており、成長領域と位置付ける車載電池事業を拡大する。 (jiji = 6-2-22)


電力を固体にして貯蔵する - - 安価な大規模溶融塩電池を開発

米国 Pacific Northwest 国立研究所 (PNNL) の研究チームが、貯蔵電力容量の 90% 以上を最大 12 週間保持できる、アルミニウム-ニッケル溶融塩電池を開発した。 用いた電解質溶融塩は、約 180℃ に加熱されるとイオン伝導性を生じ充放電が可能になるが、室温に冷却すると固体化して導電性を失って自然放電が抑制され、充電状態が長期間保持される。

出力変動が大きい再生可能な自然エネルギーを電力系統(グリッド)に組入れる際に、季節的または時間的に出力安定化をはかる上で重要な手法になると期待される。 研究成果が、2022 年 3 月 23 日に『Cell Reports Physical Science』誌にオンライン公開されている。

地球温暖化対策として、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が進められている。 しかし天候や日照、季節の変化による出力変動が大きいという問題があり、商用電力グリッドを安定的に接続させることは難しい。 解決策の 1 つとして、発電した電力エネルギーを一旦貯蔵して平準化できるような、大規模蓄電池技術の開発が進められている。

これまでに、鉛電池やナトリウム硫黄電池、ニッケル水素電池など、多種多様な畜電池が開発されてきたが、共通する課題として、貯蔵期間中に自然放電を起こすことが知られている。 自動車を長期間放置すると「バッテリーが上がる」という現象だ。 研究チームは、自然放電を極力防止できる蓄電池の開発にチャレンジし、溶融塩電解質による "凍結融解現象" に着目した。

室温で非導電性である固体無機塩を電解質とすることで、電力貯蔵時には正極と負極が絶縁状態となり、自然放電を抑制できる。 電解質を加熱して溶融塩にすると、イオン伝導性を生じ、電池として活性化して電力を取り出すことができる。 この溶融塩電池は、第二次世界大戦下でドイツにおいて V2 ロケット用に開発された技術だ。

PNNL の研究チームは、資源的に豊富なアルミニウム陽極とニッケル陰極を用いるとともに、硫黄を電解質に添加してエネルギー密度の増大を図った。 プロトタイプを試作した結果、初期貯蔵電力容量の 92% を最大 12 週間保持できるとともに、理論的エネルギー密度は鉛蓄電池やフロー電池よりも高い 260Wh/kg を得ることを確認した。 また、陽極と陰極の間に設置されるセパレータには、高価で破損しやすいセラミックセパレータの代わりに、シンプルなガラス繊維を用いて低コスト化と堅牢性を確保した。

電力貯蔵に関する材料コストは、1kWh あたり約 23 ドルと非常に低い。 研究チームは、さらに安価な鉄を使うことで、約 6 ドルまで下げられるとし、現在のリチウムイオン電池の材料コストの 15 分の 1 にできると期待している。 (MEITEC = 5-20-22)


半導体工場、各国が誘致合戦 政府「産業政策の失敗」認め復活めざす

世界で半導体工場の建設ラッシュが起きている。 各国が誘致を競うなか、日本政府は税金も投入しかつて隆盛を誇った産業の復活をめざす。 半導体不足は深刻で「偽造品」が国内で出回るといった問題もある。 岩手・花巻空港から車で 20 分ほど南に進むと巨大な建物が見えてくる。 半導体大手キオクシアホールディングスの北上工場だ。 第 1 製造棟の建屋面積は約 4 万平方メートルあり 2020 年に稼働した。

巨大なエレベーターで工場の 2 階にあがると、ホコリなどを防ぐクリーンルームがあった。 ガラス越しに見える内部に柱はほとんどない。 自動化で従業員の姿は少なく、24 時間稼働している。 天井にレールが敷かれ自動制御された搬送車が走る。 半導体の材料となる直径 300 ミリのシリコンウェハーが搬送車から製造装置に移され、加工される。 こうした工場には多額の費用がかかる。 クリーンルームには厳しい基準がある。 1 台あたり数十億円のものもある製造装置もそろえなくてはならない。 業界関係者は大規模工場をつくるには「最低でも 5 千億円はかかる」と話す。

キオクシア、サムスン対抗へ新工場

キオクシアが手がける NAND (ナンド)型フラッシュメモリーはスマホなどに使われ、大容量化や高速化が求められる。 記憶素子を積み重ねる 3 次元化がカギとなる。 キオクシアは 07 年に世界で初めて 3 次元メモリー技術を発表。 いまは 96 層、112 層を中心につくる。 建設中の第 2 製造棟では最先端で高性能の 162 層もつくる予定だ。

フラッシュメモリーは価格競争が激しい。 キオクシアはこの分野で世界シェア 19% で 2 位。 北上、四日市の工場に共同投資する米ウエスタンデジタルは 15% で 3 位だ。 両社を合わせたシェアは 1 位のサムスン電子(韓国)に近づく。 キオクシアは協力して生産能力を引き上げ、サムスンなどに対抗したい考えだ。 世界でも様々な種類の半導体の生産を増やす動きがめだつ。 米インテルは今年 1 月、オハイオ州に最先端の工場を新設すると発表した。 当初の投資額は 200 億ドル(約 2.6 兆円)で、今後 10 年間で最大 1 千億ドルまで増やす。

韓国のサムスン電子もテキサス州での工場建設を表明した。 台湾積体電路製造 (TSMC) は米アリゾナ州に建てる。 幅が狭いほど性能が高まる回路線幅は、最先端の 5 ナノメートル(ナノは 10 億分の 1)を予定する。 米政府も後押しする。 半導体分野に 520 億ドル(約 6.7 兆円)を投じ、製造能力を高め研究開発も促す。 中国や欧州も数兆円規模の支援をする。 半導体はあらゆる製品に使われており、各国は工場を囲い込もうとしている。

日本勢の半導体シェア 10% に低下

国際半導体製造装置材料協会 (SEMI) が昨年 6 月に公表した資料によると、21 - 22 年に 29 の新工場が着工する。 日本政府はどう向き合うのか。 日本勢は 1980 年代には半導体の世界シェアの 50% 前後を握っていた。 いまは 10% ほどに落ち込む。 経済産業省は「産業政策の失敗」とし、国策として復活を描く。 税金で基金をつくり、工場建設に最大 2 分の 1 の補助金を出す。

いろんな製品に組み込まれる汎用品だけでなく専用品も重要だ。 政府は約 6 千億円の基金とは別に約 470 億円の予算を用意して、家電や自動車に使われるマイコンや、パワー半導体などを支援する。 製造設備の増設などへの補助を今年 3 月までに 30 件、約 465 億円分採択した。 東芝や三菱電機の工場などが含まれるが、政府は個別の補助額などは公表していない。

岸田文雄首相は今月 13 日、次世代半導体に関する有識者との会合に出席。 「過去の半導体産業政策の失敗、経験も踏まえて、新しい資本主義の実行計画に様々なご指摘を盛り込みたい」などと述べた。 政府は米国との連携も強める。 日米などで半導体の供給網を構築する基本原則で合意した。 萩生田光一経産相は「米国とも手を握りながら、お互いの得意分野をしっかり伸ばしていく努力をしていきたい」と語った。

「偽装品」が国内流通

政府の介入には懸念もある。 東京大大学院の鈴木一人教授(国際政治経済学)は、TSMC の工場誘致は日本にとってプラスだとしつつ、技術革新などの観点で効果があるのか疑問だという。 「工場に代表されるものづくりよりも、研究開発や回路のデザインなど付加価値を高めていく視点が必要だ」と話す。 コロナ禍からの経済回復で半導体の需要は高まるが、供給はすぐには増やせない。 新たに工場をつくるにしても稼働までに時間がかかる。 不足が長引くなか、中古を新品と偽ったり、メーカー名や型番を書きかえたりした「偽造半導体」が国内で出回っている。 電子機器などに組み込まれると、故障を起こしかねない。

電子機器の受託製造をしている古賀電子(神奈川県平塚市)には、顧客が海外の業者から購入したという半導体が持ち込まれることがある。 外見は正規品とそっくりだったが、X 線で調べると内部の配線の形や大きさが微妙に違っていたものがあったという。 古賀徹也常務取締役によると、正規代理店を通さずに調達し、偽造半導体をつかまされる例が増えているという。

電機大手 OKI の子会社の沖エンジニアリング(東京)は昨年 6 月、半導体の真偽を判定するサービスを始めた。 月 80 - 100 件ほど依頼があり、4 分の 1 ほどが偽造かその疑いがあるという。 高森圭事業部長は「めだつのはメーカー名や型番を書きかえるケース。 外見は本物そっくりのため、消されたロゴの痕跡や配線などを正規品と比べないと見抜けない。」という。

こうした偽造品は海外でつくられ、国内に持ち込まれているようだ。 半導体に詳しい神戸大の永田真教授は「車や医療機器に使われれば事故につながる可能性がある。 情報を盗むような悪意あるものが流入するかも知れない。 国が流通する半導体を調べるなど、本格的に対策を議論するべきだ。」と指摘する。 (伊沢健司、今泉奏、小堀龍之、asahi = 5-16-22)

国内の主な半導体関連投資

  • キオクシアホールディングス
    フラッシュメモリーを生産する工場増設。 三重県四日市市(2022 年秋)と岩手県北上市(23年)。 それぞれ 1 兆円規模の見込みで協業する米ウエスタンデジタルと共同負担。
  • 台湾積体電路製造 (TSMC)
    電機大手のソニーグループと自動車部品大手のデンソーと協業し工場建設。 熊本県菊陽町。 24 年末。 約 1 兆円で政府が約 4 千億円を出す方針。
  • SUMCO
    半導体の基板材料のシリコンウェハーの工場建設。 佐賀県伊万里市。 23 年後半。 約 2 千億円。
  • JX 金属
    半導体の配線材料などの工場建設。 茨城県ひたちなか市。 25 年度。 2 千億円規模。
  • 東芝
    電力制御を担うパワー半導体の工場増設。 石川県能美市。 24 年度。 1 千億円規模。
  • 三菱電機
    電力制御を担うパワー半導体の生産能力拡大。 広島県福山市。 21 年 11 月から稼働中。 約 200 億円。

オンキヨー、自己破産を申請 負債総額は約 31 億円 「誠に申し訳なく心からおわび」

オンキヨーホームエンターテイメントは 5 月 13 日、大阪地方裁判所に破産手続きを申し立て、開始が決定したと発表した。 負債総額は約 31 億円。 同社は 2021 年に上場廃止した他、2022 年 2 月に子会社 2 社が事業を停止するなど不振が続いていた。 「取引先、株主、関係者には多大な迷惑を掛け、誠に申し訳なく心からおわびする。(同社)」

オンキヨーホームエンターテイメントは継続する経常損失によって取引先への債務の支払いが遅延していた。 19 年にはホーム AV 事業の売却、21 年 3 月には米国ファンドからの増資を受けることで債務超過を図ったものの、いずれも頓挫。 21 年 3 月期(20 年 4 月 - 21 年 3 月)に 2 期連続の債務超過となり上場廃止した。 その後は債務超過の解消に向け、再度ホーム AV 事業の売却を米 VOXX International と協議。 21 年 6 月の売却が決定し、債務超過を解消できる見込みだった。 しかし、コロナ禍の影響で手続きが遅延。 実際の売却は 9 月まで延期になった。

この遅延により、3 カ月間分の固定費などで 20 億円以上の債務が発生。 完済が見込めなかったことから、オンキヨーマーケティングとオンキヨーサウンドなど一部を除く子会社や事業を売却することで解決を図った。 しかし半導体不足の影響で、残る 2 社も事業継続が困難になり、22 年 2 月に事業活動を停止。 資金繰りが悪化し、債務の完済ができなくなったことから、オンキヨーホームエンターテイメントも破産手続きを開始するに至ったという。 (ITmedia = 5-13-22)


ダイキン、売上高が初の 3 兆円超え 厚い在庫で半導体不足を克服

ダイキン工業が 10 日に発表した 2022 年 3 月期決算は、売上高が前年比 24.7% 増の 3 兆 1,091 億円と初めて 3 兆円を超えた。 海外の省エネ需要などを取り込み、主力の空調事業が好調だった。 営業利益は同 32.6% 増の 3,163 億円、純利益は 39.3% 増の 2,177 億円といずれも過去最高だった。 23 年 3 月期も売上高 3 兆 3,800 億円、純利益 2,280 億円と過去最高の更新を見込む。

売上高を地域別でみると、米州は米国中心に住宅向けが好調で同 32% 増の 8,898 億円。 欧州は省エネ性能の高い製品への需要が高まり同 32% 増の 5,187 億円。 国内は前年の反動や昨夏の天候不順もあり同 6% 増の 5,239 億円だった。

製造業では半導体不足による供給減が続いているが、ダイキンは在庫を多めに確保。 さらに世界中で部品を融通したり、代替品を開発したりすることで、安定的な供給を果たした。 十河政則社長は「半導体不足にも 120% で構えた。 在庫を持ったことが、今期の決算につながった理由の一つだ。」という。 「ライバルが供給対応できなかったので『敵失』で売り上げを伸ばした面もある。 今年は彼らも弾切れを起こさない構えで来るだろう。 開発力も強化しなくてはいけない。」とも話した。 (栗林史子、asahi = 5-10-22)


「日本はいずれ消滅」 イーロン・マスク氏が衝撃投稿

衝撃の投稿でした。

「日本はいずれ存在しなくなるだろう。(イーロン・マスク氏のツイッターから)」

先日、ツイッター社の買収を発表して話題となった、アメリカ・テスラ社の最高経営責任者イーロン・マスク氏。 そのツイッターに「日本が消滅する」とする、衝撃的な投稿をしました。 一体、どういうことなのでしょうか? 実は、この投稿は、去年 10 月時点の日本の総人口が前の年より、過去最大の 64 万人減少し、およそ 1 億 2,550 万人となったというニュースに反応したものでした。

「当たり前のことだけど、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう。 これは、世界にとって大きな損失になる。(イーロン・マスク氏のツイッターから)」

マスク氏が注目しているのは、日本の人口減少だけではありません。 アメリカの大学の予測では、世界の人口は 2064 年の 97 億人をピークに減少に転じるとされています。 マスク氏は、人口減少を「文明にとっての最大のリスク」だとして警鐘を鳴らし、その対策も提示しています。 その一つが、人口減少による労働力不足を補う、ヒト型ロボット「オプティマス」です。 テスラ社の「今年の最重要事業」と位置付け、プロトタイプが、今年にも利用可能になる見通しだということです。 (テレ朝 = 5-9-22)


水素化反応 30 倍以上に加速、東大が成功した意義

東京大学の宮村浩之助教と小林修教授は、金属ナノ粒子などの固体触媒と溶液に溶けるルイス酸触媒を組み合わせることで、水素化反応を 30 倍以上加速させることに成功した。 固体表面と溶液中の触媒の協調効果で反応が加速する。 1 気圧で 40 度 - 50 度 C という温和な条件で芳香族化合物を水素化できた。 従来は高温高圧が必要な反応であり、化学品合成の環境負荷を減らせる。

ロジウム白金合金のナノ粒子とスカンジウムトリフラートなどのルイス酸を触媒として用いる。 まず液相中で芳香族化合物がルイス酸触媒と複合体を作り、これがナノ粒子表面で活性化されて水素と反応する。 オルトキシレンの水素化反応ではロジウム白金合金ナノ粒子のみの場合に比べて、ルイス酸触媒を加えると反応速度が 30 倍以上向上した。

複雑な分子構造の芳香族化合物の水素化にも成功。 従来は高温や 50 気圧などの高圧条件が必要だった。 精密有機合成に加えて、水素キャリアの水素化、脱水素化プロセスにも提案する。 化合物を水素化する反応条件を温和にできると装置の負荷を抑えられる。 (NewSwitch = 5-4-22)


キーエンス、純利益 3,033 億円で過去最高 工場自動化が追い風

制御機器大手のキーエンス(大阪市)が 27 日発表した 2022 年 3 月期決算は、売上高が前年比 40.3% 増の 7,551 億円だった。 本業のもうけを示す営業利益は同 51.1% 増の 4,180 億円、最終的なもうけを示す純利益は同 53.8% 増の 3,033 億円。 いずれも過去最高で、3 期ぶりの増収増益となった。 コロナ禍で低調だった国内外の設備投資が回復。 工場の自動化が追い風となってセンサー機器などの需要が高まった。 物流や小売り向け製品なども売れた。 同社の新製品の 7 割は独自性の高いものが占めるとしており、高値が維持できているという。

半導体が不足するなかでも部品の在庫を増やし、受注からすぐの出荷に取り組む。 中田有社長は「先手先手で行動しているのは(業績好調の)大きな要素だ」と述べた。 23 年 3 月期の業績予想は公表していないが、中田社長は「付加価値の高い商品の企画開発に注力し、海外での販売体制の強化に取り組んでいきたい」とした。 円安の影響については、海外売上比率が 6 割近いことなどからトータルではプラスになるとみている。

キーエンスは時価総額が約 12 兆円で、国内ではトヨタ自動車、ソニーグループ、NTT に次ぐ規模だ。 社員の給与の高さでも知られ、有価証券報告書によると、昨年 3 月時点の年間平均給与は約 1,750 万円だった。 (中村建太、asahi = 4-27-22)


テレビなどの出荷額が不調 巣ごもり需要の反動続く

電子情報技術産業協会 (JEITA) が 20 日発表したテレビなどの黒物家電を主とした民生用電子機器の 3 月の国内出荷額は前年同月比 3.5% 減の 1,255 億円で 9 カ月連続のマイナスとなった。 テレビなどを含む映像機器は同 10.1% 減の 527 億円。 巣ごもり消費の拡大で好調だった前年の反動を受けた。 出荷台数は薄型テレビ全体で同 9.2% 減の 49 万 2,000 台。 9 カ月連続のマイナスとなったが高水準で買い替え需要は継続している。 サイズ別では高価格帯モデルの 50 型以上が同 15.2% 減の 17 万 6,000 台だった。

カー AVC 機器の出荷額は同 1.7% 増の 661 億円で、8 カ月ぶりプラスに転じた。 JEITA は「(現在半導体不足の影響などを受ける)自動車産業が、4 月以降フル生産に回復すれば、カー AVC 機器の出荷高増も期待できる」とした。 21 年度合計の民生用電子機器の出荷高は前年比 5,5% 減の 1 兆 2,887 億円だった。 (NewSwitch = 4-22-22)


三菱電機「電力制御用パワー半導体」量産、福山工場の全容

三菱電機は福山工場(広島県福山市)で電力制御用パワー半導体の量産を始めた。 2020 年にシャープから買い取った工場の建屋を活用し、21 年 11 月に 8 インチウエハー対応ラインの試験稼働を始めていた。 自動車の電動化や工場の自動化、再生可能エネルギー設備向けなどパワー半導体需要は拡大している。 福山工場は 24 年度に 12 インチラインの稼働も予定。 三菱電機全体のウエハー製造(前工程)能力を 25 年度に 20 年度比約 2 倍に増やす計画だ。

福山工場での量産は 4 月に入ってから始めた。 工場は延べ床面積が約 4 万 6,500 平方メートルの 3 階建て。 パワー半導体製造の前工程であるウエハープロセス工程を担う。 三菱電機のパワー半導体前工程は従来、熊本県合志市の拠点が中心で、福山工場が新たに加わった。 福山工場は 24 年度にウエハーサイズが大きく生産効率の高い 12 インチウエハー対応ラインも稼働する計画。 新工場の総投資額は約 200 億円を見込んでいる。 三菱電機はパワー半導体事業で、21 - 25 年度の現中期経営計画期間に、前中計実績比 300 億円増となる約 1,300 億円の設備投資を計画している。 組み立て・検査など後工程にも投資して拡大する需要に備える考え。 (NewSwitch = 4-14-22)

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三菱電機が「パワー半導体」早期増産、液晶工場を転用

三菱電機は 2022 年 6 月めどに生産を終了する熊本県の液晶モジュール工場をパワー半導体などの製造に転用する。 主要国の脱炭素シフトを受けて自動車の電動化や白物家電のインバーター化が進展し、省エネルギーデバイスの需要も急拡大している。 既存設備を有効活用して短期間での生産能力増強を図り、大規模投資を続けるライバルの欧米勢に対抗する。 三菱電機は子会社のメルコ・ディスプレイ・テクノロジー(MDTI、熊本県菊池市)で車載・産業用の中小型薄膜トランジスタ (TFT) 液晶モジュールを製造してきた。 ただ、中国メーカーなどの台頭で価格競争が激化した結果、20 年に液晶事業からの撤退を決断した。

MDTI はクリーンルームや用役設備を有しており、今後の重点成長事業であるパワー半導体などの生産に活用する方針だ。 人員は約 430 人(20 年 3 月末時点)。 三菱電機はすでに熊本県合志市に主力のパワー半導体工場を持ち、事業上の連携がとりやすい環境にある。 現在、MDTI の新たな役割について半導体製造の前工程、後工程などの詳細を検討中。 組み立て担当の後工程の方が早期転用が可能であり、福岡県と兵庫県、島根県に工場を構える国内の後工程体制の見直しが中長期的に必要になりそう。

同業の富士電機もマレーシアのハードディスク駆動装置 (HDD) 用記録媒体工場をパワー半導体向けに転用する。 既設のクリーンルームを使って、23 年度に 8 インチウエハー対応の生産ラインを立ち上げる計画。 近年の半導体市場の活況の陰で製造装置や工場設備部材価格の高騰、納期遅延が深刻な問題となっている。 新工場建設より既存工場を有効活用する方が得策と判断するケースが今後も増えそうだ。 世界で最も数の多い国内半導体工場の争奪戦に発展する可能性がある。 (NewSwitch = 1-7-22)


レアメタル使わない「熱電発電」開発 安全で低コスト、省エネに期待

金属に生じた温度差を電気に変える「熱電発電」の研究が進む。 主流だったレアメタルを材料に使わず、鉄やアルミニウムなどありふれた金属でコストを下げる技術も登場。 未利用熱を有効に使うことで省エネにつながると期待されている。 物質・材料研究機構(茨城県つくば市、NIMS)や大手自動車部品メーカーのアイシン(愛知県刈谷市)などは、熱電発電モジュール(熱電発電素子)と呼ばれる半導体の一種を鉄とアルミニウム、シリコンのみで作った。

熱電発電素子は、物質内の温度差が電圧に変換される現象「ゼーベック効果」を利用する。 モジュールの片側を体温などで温め、片側を空気で冷やすことで、発電できる仕組みだ。 体温と室温の温度差で発電する素子が腕時計など一部で利用されている。 ただ、研究の主流はレアメタルのテルルやビスマスなどを使うため、コストがかかるうえ毒性もあり、実用化はあまり進んでいなかった。

NIMS などがレアメタル不使用で開発した素子が生み出せる電気は、温度差 5 度で 1 平方センチあたり約 100 マイクロワット。 試作した素子で LED を点灯させたり、無線でデータを送信したりすることに成功した。 テルルとビスマスを使う素子に比べ、性能は少し劣るものの、材料コストは 5 分の 1 にできるという。 レアメタルを使わない熱電発電素子は、電子部品メーカーの白山(金沢市)も石川県工業試験場などと研究を進めている。 簡単に手に入るマグネシウムとスズ、シリコンを材料にした製品を開発。 材料コストは、レアメタルを使った場合に比べて、4 分の 1 程度に下げられる見込みだ。

新年度から、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の補助事業で、工場で出る蒸気の廃熱を利用する実証試験を目指す。 普段は捨てられる 100 度の蒸気と、15 - 20 度の冷水の温度差で発電する。 白山経営管理本部の金原竜生さんは「熱電発電は面白い技術だが実用化が進んでいなかった。 コストが下がれば実用化が進む可能性がある。」と話す。 NEDO の資料によれば、国内の工場などで出る未利用エネルギーは年間 1 兆キロワット時にもなり、ほとんどが廃熱として捨てられている。 そこで国の省エネルギー技術戦略では、熱電変換素子を技術開発や普及を促すため重点的に取り組むべき分野として、「重要技術」のひとつに位置付けている。

ただ、レアメタルの素子を研究していた NIMS の高際良樹・独立研究者は「高性能な素子を開発して論文で発表しても、企業からなかなか共同研究の声がかからない」と悩んでいた。 そこで、高際さんは「安くて安全な材料を探せばよい」と発想を切り替えた。 性能の高い材料より、資源の豊富さと安全性に注目。 量子力学に基づいて物質内の電子の状態をコンピューターで計算して性質を調べる手法を採用し、鉄とアルミ、シリコンが材料に有望だと見抜いた。 その上で、こうした材料を用いた新しい素子の共同研究を企業側に持ちかけた。

レアメタルを使わない熱電発電技術は、当時は難しいと思われていた。 アイシンの小島宏康・熱機器設計室長も「最初は眉つばものだった」と明かす。 現在は加工法の改善などが進み、さらなるコスト削減で実用化が見えてきたという。 熱電発電素子の使い道として注目されるのが、「モノのインターネット (IoT)」と呼ばれる技術で無数のセンサーに使う電源だ。 センサーを人体や家電製品、自動車などあらゆる場所につけ、体温や行動履歴、位置情報などのビッグデータを集めて健康や安全に活用する。

ただ、膨大な数のセンサーに電池を入れたり、配線を引いたりすれば、交換や工事が大きな手間になる。 熱電発電は、こうした課題の解決手段としても期待されている。 アイシンの小島さんは「大電力を得るものではないが、配線や電池のいらないセンサーなどの電源に使えそうだ。脱炭素化の取り組みの中で注目される技術だ」と話している。 NIMS の高際さんによれば、熱電発電素子は米国や中国でも研究が盛んだ。 日本からは高際さんらのようにレアメタルを使わない材料のほか、硫化物系やマグネシウム・アンチモン系など様々な新しい材料が報告されており、競争が激しくなっている。 (小堀龍之、asahi = 3-30-22)