理研、定説覆す「暗黒の細胞死」発見 細胞置き換わりの新現象

生き物の臓器などは、機能や形態を維持するのに、老化したり傷付いたりした細胞の置き換わりが欠かせない。 この際の細胞が死ぬ現象の新たなパターンを、ショウジョウバエを使った研究で明らかにしたと、理化学研究所などのチームが 26 日、米科学誌プロス・バイオロジー電子版で発表した。 定説を覆す新たな細胞死で、この現象が起きる部分が真っ黒いことから「エレボーシス(暗黒の細胞死)」と命名された。

動物の体内では、特に腸や皮膚といった新陳代謝が盛んなところでは、多くの細胞が置き換わる。 腸では「アポトーシス(細胞の自殺)」という現象が起きていると考えられている。 しかし、研究チームは腸でアポトーシスを起こしている証拠が少ないことから、この定説を疑問視していた。

そこでショウジョウバエを使い、腸を含めた体内でアポトーシスを止める操作をした。 もし、腸でアポトーシスが起きているのであれば、この操作によって細胞の置き換わりが止まるはずだが、止まらずに健全性が保たれることを突き止めた。 別の細胞死が起きていることを示しており、詳細に調べてみると、腸内の一部に、たんぱく質の分解機能を持つ酵素が発現している細胞を見つけた。

この細胞を観察すると、通常とは異なり潰れたような形をしていた。 細胞内の小器官が失われ、死にゆく過程であることが分かった。 細胞を光らせて細かく観察しようとしても困難で、その部分だけ真っ黒に見えることから、古代ギリシャ語で暗黒を指す「エレボス」からエレボーシスと名付けた。 この細胞の周りには、腸の新しい細胞になる幹細胞が集まり、置き換わることが観察されたという。

細胞死はアポトーシスに加え、細胞が壊死する現象「ネクローシス」と、細胞の自食作用という現象「オートファジー」の三つに大別されている。 今回発見した現象は、いずれとも異なるメカニズムであることが明らかになったという。 今のところ、詳細なメカニズムや関わる遺伝子などは不明だ。 研究チームのチームリーダーを務めるユ・サガン氏は「アポトーシスでは組織に穴があく可能性があるため、腸では別の仕組みがあるのかもしれない。 ヒトでも確認されれば、細胞死という現象の枠組みが大きく変わる可能性がある。」と話した。 (渡辺諒、mainichi = 4-26-22)


インフル → 肺炎球菌、同時に感染するしくみ解明 菌の「足場」が出現

ウイルスと細菌はどちらも重病を引き起こす難敵だが、厄介なことに、同時に感染しやすいことが知られている。 なぜ同時感染するのか。大阪大学などの研究チームは、インフルエンザウイルスに感染すると、細菌も感染しやすくする「足場」のような物質が細胞の入り口に現れていることを実験で突きとめた。 インフルは例年国内で 1 千万人が感染し、多い年には高齢者を中心に 1 万人が重症の肺炎などで亡くなる。 ただ実際には、肺炎球菌などの細菌にも感染して肺炎が重くなっていることが多い。

世界で数千万人が亡くなった 1918 年からのインフル流行(スペイン風邪)では死者の 95%、2009 年の新型インフルの流行でも重症者の 25 - 50% が細菌性の肺炎も起こしていたとの研究がある。 詳しい仕組みが不明だったため、阪大の住友倫子講師(細菌学)らはインフルウイルスや肺炎球菌を人間由来の細胞やマウスに感染させた。 その結果、まずウイルスがのどや鼻など上気道の細胞に感染することで、細胞の表面に肺炎球菌が感染しやすくなる足場となるたんぱく質が多く出現することがわかった。

普段は細胞の奥まった場所に存在する「GP96」と呼ばれる物質で、本来はウイルス防御のために細胞表面に移動する働きが、逆に細菌の感染に利用されてしまうようだ。 さらに、上気道より奥の、気管や肺の細胞表面にも GP96 がたくさん現れて、肺炎球菌が肺に侵入していく足がかりとなる様子が確認された。 一方、インフルと細菌両方に感染させたマウスに GP96 の細胞内での移動を抑える物質を投与したところ、細菌の肺への侵入や、肺の炎症を抑える効果が確認できた。 同時感染による肺炎を防ぐ薬や、治療法にできる可能性があるという。 成果が米国微生物学会の科学誌に掲載された (https://doi.org/10.1128/mBio.03269-20)。

ウイルスと細菌の同時感染は新型コロナの患者でも報告されている。 住友さんたちはインフルと同じような仕組みがないか解明に挑む方針だ。 (竹野内崇宏、asahi = 3-18-22)


強い副作用なし がん治療の新たな選択肢「腫瘍溶解性ウイルス療法」

過去 40 年、日本人の死因 1 位を占める「がん」。 がん治療法は長年にわたって手術、抗がん剤、放射線の「3 大療法」が標準とされてきたが、それが大きな変革の時を迎えている。 新たな治療法の登場により、これまで 3 大療法では命が救えなかった症例に光が差している。 そのひとつが「ウイルス」による治療法だ。

東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授が開発した治療薬「腫瘍溶解性ウイルス」が昨年 6 月に承認され、同 11 月、第一三共から発売された。 現在は東京大学医科学研究所附属病院(東京都港区)のみで使用されているが、同社は今後、他の医療機関でも実施できるよう供給先を拡大する考えだという。 毎日新聞医療プレミア編集長で『がん治療の現在』の著書がある永山悦子氏が説明する。

「新型コロナ禍もあり、ウイルスは "厄介者" との印象がありますが、腫瘍溶解性ウイルスは細胞で増殖する特徴を活かした薬で、正常細胞では増殖せず、がん細胞に感染した時だけ爆発的に増える特徴がある。 感染したがん細胞はソフトクリームが溶けていくように変形して破壊されるため、『溶解』と呼ばれます。」 正常細胞では増殖しないこのウイルスは、従来のがん治療のような「強い副作用」や「後遺症」がない点が大きなメリットとされる。

その効果はどれほどのものなのか。 『親子で考える「がん」予習ノート』の著者で国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎医師はいう。 「この治療法は、今のがん治療ではほぼ治らないとされる脳腫瘍の悪性神経膠腫、中でも代表的な膠芽種に効果を発揮します。 治験で膠芽種の患者さんに投与したところ、1 年後の生存率が 92.3% と、標準治療の 15% に比べて 6 倍以上の延命効果が認められたといいます。 免疫療法と同じく、画期的な治療法と言えます。」

頭部を切開して脳腫瘍にウイルスを直接注射することでがん細胞を破壊する同薬だが、他の固形がんへの応用に向けて研究開発が進められている。 「名古屋大の研究グループが発見したウイルス療法薬は、膵臓がん患者の 6 人のうち 4 人に効果が見られたというデータが出ています。 その他の研究機関や製薬会社もウイルス療法の実用化を目指しています。(永山氏)」

がんの闘病経験があるジャーナリスト・鳥越俊太郎氏が言う。 「この治療法はすべての患者にとっての希望だ。 がんの闘病は一筋縄ではいかない。 副作用がないこの治療法のメカニズムは革命的と言っていい。 脳腫瘍への適応から研究が進んだが、今後、様々ながんに応用できることを祈っています。」 こうした最新の知見に、患者自身はどう向き合うべきなのか。 「主治医がすべてを把握しているかはわかりません。 まずは患者さん自身が公的な情報を参考に知り、『都道府県がん診療連携拠点病院』などでセカンドオピニオンを受けるのがいいでしょう。(一石医師)」

もちろん、従来の 3 大治療が否定されるわけではない。 「新しく確立された免疫療法だけですべてのがんが治るわけではありません。 様々な選択肢を組み合わせることができるのも、がん治療が広がる意義と言えます。(永山氏)」 (News Post/Seven = 3-12-22)


剪定した枝葉からエキス抽出し創薬研究 植物園の 3 千種以上を生かす

高知県立牧野植物園(高知市)は、園内の 3 千種類以上の植物から、剪定(せんてい)のために切った枝や葉を創薬研究に生かす取り組みを始める。 成分分析から製品化までを研究する熊本大大学院グローバル天然物科学研究センター(熊本市)と昨年 12 月に連携協定を締結。 植物の有効利用を目指す。 園によると、園内で剪定で切った枝葉は堆肥(たいひ)以外に使い道がなかった。 センターとの連携で、状態のよい枝葉を切った後 2、3 日の間にセンターに届ければ、エキスが抽出され、製品化の可能性を探ることができるという。

園はこれまで調査に出向いたミャンマーなど、国内では手に入りにくい海外原産の約 2 千種類の植物を園内で「エキス化」し、約 20 の大学や企業に試料として提供してきた。 新たな治療薬候補の発見などの成果はあるが、製品化までは至っていない。 今回の連携では、高知県内の気候に適した園内の植栽植物が対象。 創薬のほか、機能性食品や化粧品の素材など幅広い製品化を見据え、県内で栽培地を確保できるようにする。 植栽植物のエキス化は、一度の作業に 1 週間はかかり、これまで手つかずだった。 今後、センターの協力で収集が進む利点もある。

一方、センターは 2019 年に、世界中の植物や海洋天然物などに由来した新薬を開発し、社会に還元することを目指して設立された。 有効成分の抽出や評価、創薬候補の絞り込み、製品化などに関する七つの研究部門を持つ。 連携はセンター側から働きかけ、植物園との協定締結は初めてという。 「全国でも有数の植栽植物を有する牧野植物園と連携できるのは大きい」とセンターの担当者は話す。

枝葉の提供は今月から始める予定。 県内での栽培の適性や食用に使われた実績の有無などを目安に、植物を園側が選択するという。 川原信夫園長は「園内の植栽植物の抽出エキスやその含有成分を活用した製品化の道筋がつけば、産地化も期待できる。 観賞だけでなく資源として地域の植物を紹介する植物園の役割を示す先鞭例となれば」と話している。 (今林弘、asahi = 1-15-22)


ブタの心臓を 57 歳男性に移植「今のところ順調」 米で世界初の試み

米メリーランド大学医学部は 10 日、ブタの心臓を人に移植する手術を実施したと発表した。 術後 3 日たつが、移植を受けた患者の経過は今のところ順調だという。 提供された心臓は、拒絶反応を起こさないよう遺伝子改変されたブタから取り出しており、世界で初めての試みという。 同医学部によると、移植を受けたのはメリーランド州に住むデビッド・ベネットさん (57)。 命の危険がある不整脈があり、体外式膜型人工肺 (ECMO) を使う状況だったが、臓器提供を受けられなかった。 ベネットさんは手術前日、「死ぬか、この移植を受けるかだった。 私は生きたい。」などと話したという。

ベネットさんは移植手術に同意する前に、この手術は実験的でリスクと利益は分かっていない点があることを十分に説明されたという。 今後、数週間かけて、今回の臓器移植によって生命を維持するだけの効果があるかを検証していく。 米食品医薬品局 (FDA) は昨年末、この手術について、緊急許可を出した。 実験的な医療製品に対して出る許可で、今回の場合は遺伝子改変されたブタの心臓が対象。 深刻な命の危機に直面していて、その医療製品が利用可能な唯一の方法である場合にのみ適用される。

計 10 個の遺伝子を改変

手術を担当したバートレイ・グリフィス医師は「慎重に手続きを進めているが、今回の世界で初めての手術は将来、患者たちに重要で新たな選択肢を提供することになると楽観的にみている」としている。 米国では約 11 万人が臓器移植を待っている。 だが毎年、6 千人以上が待機中に亡くなっており、移植を待つ人に対し、臓器の提供が足りない状況が続いている。 昨年秋、米ニューヨーク大学は、遺伝子改変したブタの腎臓を一時的に人の体につなげ、腎臓が正常に機能することを確認し、異種移植医療につながる成果を出していた。

今回の移植に使用した遺伝子改変ブタは、米バージニア州の再生医療企業「Revivicor」が提供した。 同大学はこの企業が開発した遺伝子改変ブタの心臓を動物実験で検証する研究費として、1 億 5,700 万ドル(約 180 億円)を受け取ったという。 同社は、人の体に移植したときに急性の免疫拒絶を防いだり、ブタの組織が過度な成長をするのを防ぐために、ブタの四つの遺伝子を働かないようにした。 また、人の免疫がブタの臓器を受け入れられるように、人の六つの遺伝子をブタに導入するなど、計10個の遺伝子改変をしたという。

手術の日の朝、移植チームは研究室でブタの心臓を取り出し、臓器を保存する機械で保管した。 移植手術の際には、拒絶反応を抑えるための新薬も使ったという。(ワシントン = 合田禄、asahi = 1-11-22)


国内初の飲む中絶薬、英製薬会社が承認申請 早ければ 1 年以内に承認

人工妊娠中絶するための飲み薬について、英国の製薬会社ラインファーマが 22 日、厚生労働省に製造販売の承認申請をしたと発表した。 承認されれば、国内初の人工妊娠中絶薬となる。 世界保健機関 (WHO) は、ガイドラインの中で飲み薬を「安全で効果的な中絶法」のひとつとして推奨。 80 以上の国・地域で承認されている。 国内の治験には、妊娠 9 週までの 18 - 45 歳の中絶を希望する女性 120 人が参加した。 妊娠を続けるために必要な黄体ホルモンのはたらきを抑える薬「ミフェプリストン」を 1 錠服用。 2 日後に子宮を収縮させるはたらきがある薬「ミソプロストール」 4 錠を飲んだ後、経過を観察した。

その結果、112 人 (93.3%) が、24 時間以内に胎児を包んだ胎のうが体の外に出て、中絶に至った。 71 人 (59.2%) は治験中に有害事象(あらゆる好ましくないできごと)が起き、このうち 45 人 (37.5%) は薬と因果関係がある副作用とされた。 いずれも回復し、9 割以上が軽度か中等度だった。 下腹部痛 (30.0%) や嘔吐 (20.8%) が多かった。 今後、医薬品医療機器総合機構 (PMDA) が審査し、早ければ 1 年以内に承認される。 (神宮司実玲、asahi = 12-22-21)


後発薬不足、倉庫火災が拍車 大阪で 4 日延焼、発送ルート見直しも

価格の安いジェネリック医薬品(後発薬)が品薄になっている問題に、大阪市で起きた大規模火災が拍車をかけている。 複数の製薬会社が薬を保管していた大規模倉庫が、今月初めまで 4 日間延焼。各社の被害は大きく、発送ルートの見直しも迫られている。 「残念ながら最悪の事態を想定すると、大きな影響を受ける可能性が非常に高い」、「このままでは安定供給に支障をきたす。」 今月 6 - 9 日、複数の製薬会社がそんな「お知らせ」を相次いで公表した。

厚生労働省も 6 日、各都道府県などへ事務連絡を発出。 一部医薬品の供給が今後不安定になると予想されるとして、医療機関などに「過剰な購入は厳に控え、当面の必要量に見合う量のみの購入をお願いしたい」と周知するよう求めた。 いずれも原因は大阪市此花区の人工島・舞洲の倉庫で起きた大規模火災だ。 11 月 29 日朝から 12 月 3 日昼前まで燃え続け、6 階建ての建物延べ約 5 万 6 千平方メートルのうち 7 割弱が焼けた。

倉庫を管理する日立物流西日本は、被害を受けた企業や製品の数を明らかにしていない。 ただ、この倉庫は 2006 年の開設時に「関西メディカル物流センター」として開設された経緯があり、今も多くの製薬会社が利用している。 後発薬中堅の大原薬品工業(滋賀県甲賀市)は、自社が販売する後発薬の約 65% をこの倉庫に保管していた。 月間出荷数量の 3 - 4 割を月初の3営業日に出荷するため、月末は在庫量が多く、影響が大きかった。 同じくこの倉庫を使っていた後発薬中堅の日本ジェネリック(東京都)は火災直後に東日本の倉庫からの出荷に切り替えたが、全ての注文に追いつかず、一部で出荷見送りを余儀なくされている。

後発薬をめぐっては、今年に入り大手の日医工(富山市)や小林化工(福井県あわら市)で不祥事などによる出荷停止が相次いだ。 厚労省が 8 日公表した 9 月時点の調査によると、全医薬品のうち品目数ベースで 20% にあたる 3,143 品で欠品か出荷停止、 在庫はあるのに注文を断る「出荷調整」が起きていた。 それらの品目の 9 割以上を後発薬が占めた。 そこへ今回の火災が追い打ちをかけたことで、品薄は「悪化こそすれ良くなる状況ではない(薬剤師業界関係者)」との声が漏れる。 後発薬を選べる場合の使用割合は約 8 割にのぼるだけに、厚労省も危機感を強めている。

小林化工から生産設備を譲り受けると3 日に発表した後発薬大手サワイグループホールディングス(大阪市)の沢井光郎会長は、会見で「今まさに、足元は供給不足で本当に火事が起きている。 一日も早く稼働し薬品が患者さんに届くことが極めて重要」と述べた。 (野口陽、asahi = 12-13-21)

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ジェネリック医薬品中心に 3,100 品目が品薄 メーカーの不祥事響く

価格の安いジェネリック医薬品(後発薬)を中心に、約 3,100 品目が品薄になっていることが、厚生労働省への取材で分かった。 複数の後発薬メーカーが法令違反で出荷停止になったことが主な原因だ。 他メーカーが供給を出し惜しみする「出荷調整」も起き、薬局などで必要な医薬品の入手が難しくなっている。 同省は 10 日、業界団体に通知を出して対策に乗り出したが、品薄は長期化しそうだ。 現在、国内で公的医療保険の対象となる医薬品は約 1 万 4千品目で、全体の 2 割超の薬で供給に影響が出ていることになる。

きっかけは後発薬メーカーの小林化工(福井県あわら市)が、水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤を混入させた問題だ。 健康被害が相次ぎ、今年 2 月に 116 日の業務停止処分を受けた。 その後、後発薬大手の日医工(富山市)が 3 月、長生堂製薬(徳島市)が 10 月に業務停止処分を受けるなど不祥事が続いた。 厚労省によると、3 社の計 641 品目が出荷停止か供給遅延となり供給不足が発生。 同じ成分の後発薬をつくる他社に注文が殺到したことで、得意先や顧客への供給不足を恐れ、十分な在庫があるのに注文を断る「出荷調整」を引き起こし、品薄状態がさらに拡大したという。

後発薬が選べる際の使用割合は、昨年 9 月時点で 78.3% にのぼる。 政府は医療費を抑えるため、2023 年度末に全国で 8 割以上にする目標を掲げており、ほぼ達しつつある。 品薄状態を重くみた厚労省は 10 月、出荷停止の影響を調査。昨年 9 月と比べ、今年 9 月の供給量は、出荷停止の品目やその代替品と同じ成分・規格の約 4,800 品目のうち 14% で減っていたことが分かった。 これを受け同省は今月 10 日、前年比で 20% 以上減少した高血圧や気管支ぜんそくなどの薬の一部について、医薬品業界団体の「日本製薬団体連合会」宛てに増産を呼びかける通知を出した。

同時に、供給量が 5% 以上増えているのに品薄となった薬に関し、「出荷調整」が横行しているとみて年末をめどにやめるよう要請した。 日本医師会ら医療機関の関係団体などにも「必要最低限の発注としていただきたい」と依頼する通知を出した。 厚労省によると、増産には限界があり、停止品目の出荷再開が不可欠だが、全品目の再開には約 2 年かかる見通しという。 (西村圭史、市野塊、asahi = 12-12-21)


着床前検査、日産婦が不妊治療で実施を容認 対象限定し来年 4 月から

体外受精させた受精卵のすべての染色体を調べ、異常のないものを子宮に戻すことで不妊治療の成功につなげる「着床前検査」について、日本産科婦人科学会(日産婦)は 11 日の理事会で、実施を容認すると決めた。 流産を 2 回以上経験しているなど三つのケースに限って認める。 対象はほかに、体外受精で 2 回以上妊娠できなかった場合と、夫婦いずれかに染色体の形の異常がある場合。 日産婦の認定を受けた医療機関が実施する。 日産婦は、臨床研究の結果を踏まえ、「流産を減らせる効果が期待できる」と判断した。

また、受精卵の段階で遺伝情報を調べ、重い遺伝病にならない受精卵を選ぶ「着床前診断」についても、条件をつけて成人後に発症する病気も認めることを決めた。 日産婦はいずれについても、来年 1 月に対象や施設要件を定めている見解を改定し、4 月から新たな見解で運用を始める見通しを示した。 (神宮司実玲、asahi = 12-11-21)

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着床前検査で「流産率低下」 産科婦人科学会が発表、課題指摘の声も

日本産科婦人科学会(日産婦)は 23 日、体外受精で得られた受精卵(胚)のすべての染色体の数を調べ、問題のないものを子宮に戻す「着床前検査」の有効性を調べる臨床研究の中間報告を発表した。 通常の体外受精に比べて流産率が下がったという。 受精卵は染色体が 1 本多かったり少なかったりすると、子宮に着床しにくくなったり、着床しても流産したりする可能性が高くなる。 こうしたことは年齢が上がるほど、起きやすくなるとされる。

欧米では広がり 有効性ははっきりせず

このため、染色体の数に問題のない受精卵を選べば、理論上は妊娠、出産しやすくなると期待され、欧米では着床前検査が広がっている。 だが、有効性ははっきりしていない。 国内では日産婦が 2020 年から、効果を検証する臨床研究をはじめた。 @ 流産を 2 回以上経験、A 体外受精に 2 回以上連続して失敗、B 夫婦いずれかに染色体の構造異常がある、の三つのケースのいずれかに該当するカップルを対象に、年末までの予定で、全国 109 カ所の医療機関で実施されている。

7 月までに参加した 4,348 人について解析したところ、36.6% の人は染色体の数に異常がないなど、子宮に戻すことができる胚を得られた。 このうち、66.6% の人はこの胚で妊娠できたが、うち 9.9% の人は流産した。 年齢による大きな差はみられなかった。 日産婦の 2019 年の集計によると、通常の体外受精で胚を子宮に戻した人の妊娠率は 33% で、流産率は 25%。 日産婦は、「妊娠に至るのが難しい胚を戻して流産を繰り返すことによる精神的・身体的負担を減らす効果が期待できる」と評価した。

ただし、今回の結果では 6 割以上の人が、適切な胚を得られず子宮に戻せなかった。 日産婦は、検査を受けることで出産率が上がるかどうかまでは現時点ではわからないとしており、今後も研究を続ける。

受精卵にダメージ ダウン症など排除にも懸念

この検査には期待の一方で、課題もある。 検査の過程で、受精卵から将来胎盤になる部分の細胞を取り出すため、受精卵がダメージを受け、着床できなくなるおそれは否定できない。 子どもへの長期的な影響もまだ十分にわかっていない。 すべての染色体を調べるため、21 番目の染色体が 1 本多いダウン症などの人の排除につながりかねないとの声もある。 日産婦は現在、流産を防いだり妊娠を継続したりするために網羅的に染色体を調べる着床前検査を指針で認めていない。 夫婦どちらかの染色体の形に変化があり、流産を繰り返す場合などに限り認められている。 日産婦は来月再びシンポジウムを開き、検査の進め方について議論する。 (神宮司実玲、asahi = 9-23-21)


ウイルス排除に成功 "エイズ完治につながる発見" 国の研究所

エイズのワクチンの開発に取り組んでいる国の研究所は、開発中のワクチンをサルに接種した結果、エイズを引き起こすウイルスの排除に成功したと発表しました。 研究所は、エイズの完治につながる発見だとしています。 エイズは免疫力が低下してさまざまな合併症を引き起こす病気で、エイズを発症させる HIV に感染したと国内で報告された人は、これまでに 2 万人を超えています。

国の研究機関、医薬基盤・健康・栄養研究所は、開発中のワクチンをカニクイザルというサルに接種したうえで、人工的に作った HIV の一種を体内に入れて経過を確認しました。 その結果、7 匹のうち 4 匹がいったんは感染したものの、その後、ウイルスが検出されない状態になったということです。 研究所は、ワクチンによって免疫の働きが増加したことで、ウイルスがサルの体内から排除されたと見ていて、5 年後をめどにヒトへの臨床試験を開始したいとしています。 医薬基盤・健康・栄養研究所の霊長類医科学研究センター保富康宏センター長は「これまで困難だったエイズの完治につながる発見で、治療薬やワクチンの開発が進展することが期待される」としています。 (NHK = 11-28-21)


アルツハイマー新薬、治験データ提出開始 米イーライリリー

米製薬大手イーライリリーは 26 日、開発中のアルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」の早期承認に向け、米食品医薬品局 (FDA) に臨床試験(治験)データの提出を始めたと発表した。 効率的な審査のためデータは今後も随時提出し、FDA が順次審査する。 同社は 26 日の決算会見で、来年後半に審査結果が出るとの見通しを示した。 世界の認知症患者は約 5 千万人おり、その 7 割がアルツハイマー型とされる。 高齢化で今後も患者は増えると見込まれ、治療薬のニーズは高い。

FDA は 6 月、米バイオジェンと日本のエーザイが開発した「アデュカヌマブ」を承認した。 脳内にたまるアルツハイマー病の原因とされる物質「アミロイドβ」を標的とし、認知機能の低下を長期間抑えることを狙った新しいタイプの薬だ。 ドナネマブも同様にアミロイドβを標的とした、早期のアルツハイマー病患者向けの薬だ。 イーライリリーは二つの薬の有効性を比べる試験も行うという。

ただ、FDA はアデュカヌマブの承認に際し、「有効性について不確実性が残る」などと指摘し、追加治験で有効性を検証する条件を付けた。 まだ使っていない病院が多く、米バイオジェンは今月 20 日、7 - 9 月期の売上高が 30 万ドル(約 3,400 万円)と普及が遅れていることを明らかにした。 そのため、ドナネマブなど後続薬の有効性に注目が集まっている。 (ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 10-27-21)

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アルツハイマー病新薬広がる波紋 米下院も調査へ

アルツハイマー病の治療薬として米国で条件付きで承認された「アデュカヌマブ」をめぐり、波紋が広がっている。 米食品医薬品局 (FDA) の独立委員会のメンバー 3 人が抗議のため辞任し、米下院も調査する方針だ。 日本では審査中だが、専門家は時間をかけて判断すべきだと指摘する。 アデュカヌマブは認知機能の低下を長期間抑える世界初の薬として、6 月 7 日に承認された。 追加治験による検証が条件となっており、十分な効果がなければ取り消される可能性もある。 治験の終了は 2029 年を見込んでいる。

昨年 11 月に FDA の独立委員会が議論した際は、有効性が証明されていないとして委員のほぼ全員が承認に反対した。 そのメンバー 3 人が「FDA の委員会の意見の扱い方に失望した」などとして辞めている。 米バイオジェンの広報担当者は辞任について「お伝えできることはない」としている。

アルツハイマー病 : 代表的な認知症で、患者全体の約 7 割を占める。 脳に「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質がたまることなどで神経細胞が破壊され、認知機能が低下するとされる。 症状はもの忘れから始まり、中等度になると、自分のいる場所などがわからなくなる。 さらに重度になると家族ら親しい人の顔もわからなくなり、最終的には寝たきりになる。 根本的な治療法は見つかっていない。 病名は約 100 年前に病気を報告したドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーに由来する。

米国では使われ始めている。 開発したエーザイと米バイオジェンは価格の目安として年 5 万 6 千ドル(約 620 万円)と示した。 米下院監督・政府改革委員会は「高額な価格と有効性に疑問があるにもかかわらず承認に至ったプロセスに深刻な懸念を抱いている」として、調査を表明した。 FDA は承認に際し「申請されたデータは非常に複雑で有効性について不確実性が残っている」と認める。 一方で、「治療は急を要する。 600 万人以上の米国人が病気にかかっており高齢化に伴い患者が増えると予想される。」とした。

製薬業界に詳しいクレディ・スイス証券の酒井文義氏は「FDA は患者数が増えるなか、新薬が開発されないことに危機感があったのではないか。 社会性の高い病気に対して追加治験を義務づけるというのは聞いたことがない。 足かせをはめないと、みんなが納得しないということだろう。」と話す。

今回の FDA の承認について 30 年近くアルツハイマー病の研究をしてきた柳沢勝彦・国立長寿医療研究センター名誉研究所長は「新しいタイプの治療薬の開発へ一歩を踏み出せたとも言え喜ばしい」と評価する。 その上で、「今後の検証試験によって患者に効くのか、安全か、両方が確認されるまで過剰な期待は禁物だ」と話す。 試験の規模や期間、対象者の選び方などを公開し、第三者の専門家も交えて議論すべきだと指摘。 「日本での承認は試験の結果が出てからでもいい。 時間をかけて慎重に判断してほしい。」と語る。(江口英佑、編集委員・辻外記子)

開発進む新薬、低い成功確率

アデュカヌマブに続く新薬にも期待が高まる。 開発の最終段階を迎えているものもある。 エーザイは、米バイオジェンと別の新薬候補「レカネマブ」を共同開発していて、最終段階の治験を進めている。 アデュカヌマブと同様に、病気の原因とされる脳内のたんぱく質「アミロイドβ」を減らし、進行を抑えることをめざす。 6 月 23 日には FDA が「画期的治療薬」に指定し、審査の迅速化が公表された。

米製薬大手イーライリリーの「ドナネマブ」も最終段階の治験を実施中だ。 アミロイドβを標的にしていて、6 月 24 日に画期的治療薬に選ばれた。 スイス製薬大手ロシュの「ガンテネルマブ」も最終段階の治験を進める。 日本の富士フイルムの「T-817MA」はアミロイドβとは別のたんぱく質が標的で、中期段階の治験を行う。 アデュカヌマブや治験の最終段階にある主な治療薬候補は、発症前から軽度の患者を対象にする。 エーザイは、病気の進行で傷ついた神経細胞の回復をめざす「E2511」の初期段階の治験も始めた。 内藤晴夫・最高経営責任者 (CEO) は取材に「根本治療をめざして複数の薬をそろえたい」と意気込む。

だが、開発が難しいことに変わりはない。 バイオジェンは、治療薬候補「ゴスラネマブ」が中期段階の治験で効果が証明できなかったとして、開発を中止すると 6 月に発表した。 米国研究製薬工業協会によると 17 年までの 20 年間に 146 の認知症の新薬候補が開発中止になるなど、成功確率は低い。 それでも、成功すれば製薬会社にとって大きな利益が見込める。 アデュカヌマブの承認後、バイオジェンとエーザイの株価は一時的に約 6 割値上がりした。 株式市場では、後続薬候補が承認される可能性が高まったとして、米イーライリリーとスイスのロシュも 1 割から 2 割ほど上昇した。 (ニューヨーク = 真海喬生、asahi = 7-5-21)

前 報 (6-24-21)


眼鏡にサヨナラ 近視に ICL、レーシックとの違いは「削らない」

日本人の 4 割ほどは近視と言われる。 スマホの普及に加え、コロナ禍でオンライン授業などが増え、子どもの視力低下も気がかりだ。 眼鏡やコンタクトが手放せない人が増える中、最近注目されているのが「ICL」と呼ばれる眼内コンタクトレンズを使って近視を治す方法だ。 いったいどんな治療法なのか。

「すごくはっきり見えるようになりました。」 8 月に ICL 治療を受けた東京都内の助産師の女性 (27) は、術後の変化をこう喜ぶ。 強い近視と乱視のため、中学生のころからソフトコンタクトレンズをつけてきた。 仕事柄、長時間つけることも多く、疲れると頭痛に悩まされてきた。 今は夜勤の仮眠中にお産で呼ばれても、コンタクトレンズをつけることなく駆けつけることができるという。

ICL、レーシック、IOL の違いは?

手術で視力を矯正する方法には、2000 年ごろから広がった「レーシック」がある。 角膜の表面を「ふた」状に切ってめくり、内側をレーザーで削る方法だ。 確立した技術だが、角膜内の神経を切断するため、9 割近くでドライアイが起こる。 ふたをめぐるトラブルも数 % で起こり、角膜表面に微妙なひずみが生じて、見え方の質に影響することもある。

一方の ICL は角膜を削らず、角膜の下の虹彩(こうさい)と水晶体の間に、やわらかい合成樹脂製のコンタクトレンズを挿入する。 白内障手術で用いる眼内レンズ (IOL) と違い、水晶体は残したままレンズを挿入するので「有水晶体眼内レンズ」と呼ばれる。 手術は片目 10 分ほどで、日帰りで受けられる。 日本では、2010 年に初めて厚生労働省に認可された。 ただ当初は、角膜の内側を満たす水の流れを妨げてしまうため、白内障を進めるリスクが 5% ほどあった。

だが、目に見えない小さな「穴」を開けた改良版のレンズが 14 年に認可されたことで、白内障のリスクが 0.5% ほどに減った。 そのため、ここ数年で急速に広がった。 気になる手術費用はどれぐらいなのか。 レーシックも ICL も、公的医療保険の対象ではないので、レーシックは両目で 30 万 - 40 万円ほど、ICL は両目で 60 万 - 80 万円ほどが相場だという。

広がる対象、中等度近視も OK に

ICL の最大の特徴は、不都合があればレンズを交換したり、抜いたりできる点だ。 山王病院アイセンター(眼科)の清水公也センター長は、「見え方の質がよく、合併症も少ない。 それに、可逆性があるという点が ICL の特徴です。」と話す。

国内での手術成績も蓄積され、手術の対象は拡大しつつある。 当初はおもに近視の度数が強度(-6D 以上)の人が対象だったが、日本眼科学会は 19 年、屈折矯正手術のガイドラインを改定し、「慎重に」としつつも中等度 (-3D) からを治療の対象とした。 非常に強い近視 (-18D) まで治療できる。 治療を受けられるのは 18 歳以上だ。 清水さんによると、眼鏡やコンタクトレンズと違い、日々の手入れや着け外しがいらないため、長時間の装着が必要な医療関係者や客室乗務員、消防士やスポーツ選手、子育て中の母親たちなど、幅広い層から需要があるという。

「近視の戻り」も少ない

長期的な成績も、わかってきた。 近視の手術では、年月がたって再び近視が進んでしまう「近視の戻り」が課題の一つだった。 北里大学のグループは、レーシックを受けた 68 眼を 12 年間追跡した。 17 年の報告によると、強度近視(-6D 以上)だったグループは、術後 4 年で -1D 以上の再近視化が進んだ。 一般的な視力に置き換えると、1.2 から 0.5 くらいに落ちてしまうイメージだという。 一方で 16 年の報告によると、中等度 - 強度の近視の 32 眼に、穴のあるタイプの ICL を挿入して 5 年間追跡したところ、近視の戻りは -0.17D にとどまっていた。

今の学会のガイドラインでは、軽 - 中等度の近視はレーシック、ICL は原則強度以上とすみわけられている。 北里大学の神谷和孝教授は「レーシックも確立した技術であることは間違いない」と前置きをした上で「ただ、見え方の質や合併症、長期成績を考えると、今後は軽・中等度の近視にも ICL の選択肢が広がっていくかもしれない」と話す。

手術前に「丁寧な検査とカウンセリング」を

では、実際に手術を検討するときは、どんなことに注意したら良いのか。 山王病院の清水さんは「事前に丁寧に検査をすることが重要です」、神谷さんも「初診で即日手術をすることはありません」と口をそろえる。 検査では、視力や屈折率などの一般的な検査に加え、三次元画像解析などで目の大きさを詳しく調べる。 さらに、「どのような場面で目を使うか」といったカウンセリングを丁寧に行ってから、挿入するレンズを決定する。 「その人の仕事や生活に合ったレンズを選ぶことが大切です」と清水さんは話す。

正確な検査結果を得るために、検査前にはソフトなら 1 日、ハードなら 1 週間、コンタクトレンズを外して生活する必要がある。 手術後は、抗菌薬などの目薬を一定期間、さす。 術後 3 日程度は、洗髪や洗顔を避ける。

将来老眼になったら?

ごくまれに、度数が合わずにレンズを交換する人もいるが、レンズの劣化はほとんどおこらないといい、「20 年以上入れっぱなし」の人もいるという。 年をとって老眼が進んだら、老眼鏡やコンタクトレンズをつけて対応する。 ICL はメーカーの技術講習を受けた眼科専門医のみが手術できるしくみで、ライセンスを持つ医師は現在、全国に約 280 人いる。 治療を受けられる医療機関は、清水さんが世話人代表の「ICL 研究会」の HP などで確認できる。 (鈴木彩子、asahi = 10-3-21)


希少糖、糖尿病患者の血糖値上昇を抑制 香川大などの研究グループ

自然界にごく少量存在する「希少糖」を使った食事に、糖尿病患者の食後の血糖値上昇を抑制する効果があることが分かったと、香川大を中心とする研究グループが 9 月 16 日に発表した。 希少糖に含まれるアルロースには、健康な人が摂取すると糖尿病や肥満の予防効果などがあることが認められている。 糖尿病患者への効果を確かめるため、香川大は昨年 12 月、給食サービスを行う「ボスコフードサービス(香川県三豊市)」と共同研究を始めた。

糖尿病の入院患者 15 人に対し、通常の病院食と、1 食あたり 8.5 グラムの希少糖を加えた病院食をそれぞれ 2 日ずつ提供。 朝食に希少糖入りの病院食を食べた 2 時間後の血糖値は、平均で 1 デシリットルあたり 171 ミリグラムで、通常の病院食を食べた時より 10 ミリグラム低かった。 食後の血糖値上昇に対して必要となるインスリン量を軽減することができる可能性が示されたという。 今年度中に計 20 人の臨床試験を進め、研究結果をまとめるという。 香川大医学部の村尾孝児教授は「満足度が高く、治療にもなる『積極的な治療食』として、全国のスタンダードになれば」と期待する。 (湯川うらら、asahi = 10-3-21)


高血圧治療アプリ「治験で効果確認」 生活習慣の改善をアドバイス

自治医科大学とアプリ開発の「キュア・アップ(東京都中央区)」が、高血圧を治療するアプリの臨床試験(治験)で、血圧を下げる効果を確かめたと発表した。 スマートフォンなどで使い、毎日の血圧や食事の内容、運動の有無を入力。 減塩など、生活習慣を改善するための助言が受けられる。 同社は医療機器としてアプリの製造販売を承認するよう厚生労働省に申請した。

アプリとしては、同社が開発した禁煙治療用の製品が 20 年に初めて医療機器として承認され、保険適用を受けている。 同社のほかにも、デジタル技術を医療に応用する動きが進んでいる。 同社によると、治験は国内の複数の医療機関で実施。 20 - 64 歳の高血圧患者で、降圧薬を服用していない約 390 人を対象に、生活習慣の指導だけをするグループと、アプリを加えたグループを比較した。

12 週間後、アプリを使ったグループは 24 時間平均の収縮期血圧が 4.9mHg 改善したという。 生活指導だけのグループよりも 2.4mHg 下がっていた。 脳卒中や心不全など脳心血管病の発症リスクを 10.7% 低下させる効果があったと考えられるという。 毎朝自宅で測定する血圧は、アプリを使ったグループでは 10.6mHg 下がり、一方のグループよりも 4.3mHg 下がった。 アプリは医療機器で、医師が処方した「処方コード」を入力しなければ使えない。 アプリに集められた情報は担当医師も共有でき、限られた診察時間を有効に使うことも期待されている。

治験調整医師を務めた自治医科大の苅尾七臣教授(循環器内科)は 3 日の会見で、「アプリによる治療は非薬物治療の重要な選択肢になりうる」と述べた。 同社は 5 月に承認申請をしており、佐竹晃太社長は「2022 年度の承認をめざす」と話した。 治験結果は 8 月の欧州心臓病学会で発表され、論文は国際的な医学誌ヨーロピアン・ハート・ジャーナルに掲載された。 (姫野直行、asahi = 9-7-21)