「アリ」たちの反乱 引っ越し大手、過重労働の現場
「アリさんマーク」で知られる運送会社「引越社(名古屋市)」が元従業員からの集団訴訟に揺れている。 昨年 7 月に始まった集団提訴は、今年 2 月時点で 30 人を超す規模に発展。 業務中の事故で払わされる高額な自己負担金や、未払い残業代の返還要求は激しさを増す。 引っ越しシーズンを迎える中、業界全体に飛び火しようとする過重労働の現場を追う。
■ 和解決裂
「和解交渉はいったん打ち切りましょう。」 1 月 19 日、東京・新宿にある都庁第 1 本庁舎 38 階の一室。 調停員が、引越社と元従業員の和解交渉の決裂を確認した。 社外の労働組合に加盟する約 40 人の引越社の元従業員が提示した和解金額は「最低でも億単位」。 それに対し引越社の経営陣が最後に提示した額は 5,000 万円だった。 昨年 7 月に元従業員 12 人が名古屋地方裁判所に給与返還などを求める集団提訴したのを皮切りに、2 月 22 日時点で原告は名古屋地裁で 15 人、東京地裁で 18 人、大阪地裁は 1 人と合計で 34 人にまでふくれあがっている。
元従業員が求めているのは、引っ越し業務中の事故で払わされた高額な自己負担金や、未払い残業代の返還だ。 訴状によると、事故時の高額な自己負担の強制は、労働基準法第 24 条で定められる給与の「全額支払いの原則」に抵触するとし、弁護団は失われた給与の返還や慰謝料を引越社に求めている。 名古屋で元従業員の集団提訴の代理人を務める吉川哲治弁護士は「判決まで持ち込む場合、最低でも数年はかかるだろう」と予想する。
■ 「自己負担額」は投票で決まる
実際に何が起こっていたのか。 引越社の内部資料「役員会議報告」からは、元従業員の負担の実態が見えてくる。 一部を抜粋してみよう。
▼ 赤信号見落としにより、直進車両に衝突。 被害車両がマンション壁に激突した。 総被害額 462 万円 【審議結果】 免責額 210 万円、▼ 高速道路を運転中、脇見運転にて前車に追突する。 被害総額 407 万円 【審議結果】 免責額 178 万円、▼ 時計を見ていて赤信号で停車中のバイクに追突。 総被害額 232 万円 【審議結果】 免責額 104 万円
「審議結果」の後に書かれているのが、従業員の負担額だ。 役員会議に出席する十数人が、おのおの妥当と思う額を投票し、その平均値を「審議結果」として従業員に請求する。 資料からは、事故による被害総額の 3 - 7 割程度の負担を課す事例が多かったことがうかがえる。 取材に応じた引越社の井ノ口晃平副社長は、「世間の風当たりも強いので、昨年 3 月からは自己負担の上限を総額の 3 割に抑えた」と説明する。
意外だが、引越社をはじめ、物流業者の多くは事故時の車両破損をカバーする保険に入っていない。 多数で乗り回す引っ越し会社のトラックは事故が多く、「保険料が高額で、払っていたら赤字になってしまう。(引越社幹部)」 業界団体の全日本トラック協会(東京・新宿)引越部会の鈴木一末部会長は、「引越社の一連の問題が事実だとすれば、問題なのは従業員に強いている額の大きさだ」と話す。
引越社には、従業員から費用を確実に徴収する仕組みもある。 「社内貯金」と「友の会」だ。 「加入は任意」(同社)だが、実際には「入会しないと本部に呼び出され、それでも入会しないと『反抗的』と認定され、人事で不利益な扱いをされる」と元従業員は実態を語る。 事故を起こした社員が手持ちの現金で弁済できないときは、まず、月々の給料から天引きされる「社内貯金」が使われる。 それでも足りない場合は、従業員 1 人当たり月千 - 数千円ほど給料からプールされている「友の会」と呼ばれる社内基金から借りる。
■ 「なんの光明もない」
引越社の大がかりな裁判沙汰の背景には、引っ越し業界の価格破壊と競争の激化がある。
引っ越し最大手のサカイ引越センターの 14 年度の引っ越し平均単価は 9 万円台後半。 1990 年代のピークの 12 万円台から約 2 割下がっている。 比較的単価が高い第 2 位のアートコーポレーション(大阪府大東市)でも、同じ時期に約 18 万円から 13 万円へ下落した。 原因はインターネットの見積もりサイトの登場だ。 アートの寺田政登専務取締役は「自動で 10 社近くから金額を比較できる。 金額だけで選ぶお客さんが増えている。」と嘆く。 電話の時代は見積もりは多くても 3 社程度。 会話ができればサービスや品質の売り込みもできた。
市場も縮小している。 業界関係者によると引っ越し市場は 1980 年代後半の 7,000 億 - 1 兆円をピークに下降し、現在は約 4,000 億 - 5,000 億円。 実際、総務省のデータでも、昨年、都道府県間や市町村間を移動した人の数は 504 万人で、ピークだった 73 年の約 850 万人から 4 割下落した。 新規住宅着工戸数も昨年は 90 万戸で、73 年の 190 万戸から半減している。 引っ越し業界は、70 年代の黎明期から 80 年代のピークを経て、かつてない苦境に立たされており「なんの光明も見いだせない状況だ。(日本通運の高木貴志部長)」
■ 引越社の凋落と 2 強時代
そんな中で、業界首位のサカイとアートがシェアを伸ばす。 サカイの 14 年度売上高は 687 億円(前年比 6% 増)、営業利益は 62 億円(同 5% 増)。 アートも 15 年 9 月期で売上高 628 億円(4% 増)、経常利益は 43 億円と前年から微増させた。 一方、引越社の 14 年度は赤字。 15 年度の売上高は 260 億円を切り、14 年度の約 270 億円から微減となる見通しだ。 「拠点開発の遅れが明暗を分けた。」 引越社の幹部は敗因を分析する。 引越社の 16 年 2 月時点の支店数は 74 カ所。 一方、サカイ、アートはそれぞれ 173、130 カ所と、両社に倍もしくはそれ以上の差を許している。
拠点の数は重要だ。 東京から北海道に引っ越しをする際、荷物を北海道で降ろした後に、北海道で荷物を積めば、トラックを有効に活用できる。 それができないと「片道運送」になり、価格競争に耐えられなくなる。 引越社の井ノ口副社長は「サービスの質を落とせば支店などいくらでも出せる。 ただ、それは創業者の意思、我々の理念に反することだ。 それが足かせになって出店が遅れた。」と、支店開発の遅れをサービス水準維持のためと説明する。
実際、引越社はサービス水準の維持に腐心している。 引越社は従業員の研修や教育に使う「研修センター」を全国に 16 年 2 月時点で 13 カ所持つ。 これはサカイの 5 カ所、アートの 3 カ所に比べても突出して多いし「研修センターを持たない地域には支店は出さない(井ノ口副社長)」としている。
ただ、前述の「役員会議報告」からは、別の事情も見えてくる。
▼ 暴力事件審議。 車載資材を備えるように助手に指示し、何度も確認した時に OK と回答していたにもかかわらず、数が合っていなかったことに腹を立て、暴力、▼ 派遣スタッフがブルゾンを脱ぎ捨てたため、強い口調で注意したところ口論となり、派遣スタッフを投げ飛ばしてしまった、▼ お客様宅にダン配 = 段ボール配達 = に伺った際に接吻等の行為をし、トラブルになる
元従業員は、「競争が激しく、単価が下落し、人も集まらない中、売り上げを確保するため、1 人の社員がこれまで以上に多くの現場をこなすようになっていった」と振り返る。 研修を強化してサービスを維持するために、支店を絞らざるをえない状況が浮き彫りになっている。 無理な働き方は事故につながり、高額な賠償を要求され、借金をし、それを返すために働く。 同社の労働環境が「アリ地獄」と呼ばれるゆえんだ。
■ 「母親役」の退社
引越社の空雅英(そら・まさよし)社長は生え抜きで 10 年に就任した。 ただ、実権を握るのは創業者の角田朝男副会長だ。 会長職は空席。 角田氏は、「業界でまだトップじゃないから、会長は名のらない」と周辺に話している。
引越社の前身である角田運送は、角田氏が 20 代前半の 1971 年、夫婦で愛知県名古屋市に設立した。 アートの創業夫婦による起業物語がドラマになったように、角田夫妻も「当時はマンションの一室に電話をひき、トラック一台でビジネスを始めた。(同社幹部)」 名古屋での基盤を固め、91 年に関西に進出。 安値攻勢で、シェアを伸ばし、2000 年には関東 1 号店を開業。 05 年までに売上高を 275 億円にまで押し上げた。 ただ、これがピークだった。
「角田氏の性格は攻撃型。 成績がトップならボーナス 10、最下位は 0 と、信賞必罰が激しかった。(現役幹部)」 一方、妻の淑子社長(当時)はそんな夫をいさめる母親役で、従業員の信望も厚かったという。 だが、夫婦の二人三脚も 2010 年に終わった。 淑子社長は退社し、角田との婚姻関係も解消されたからだ。 現役時代の淑子社長を知るある元従業員は「副支店長になるための試験準備を手取り足取り教えてくれた。 役員なのに、こんな末端にまで教えてくれるなんて、感動しました。」と振り返る。
引っ越し業は、「主婦産業」とも呼ばれる。 トラック運転や家具などの荷物を運ぶため、男性向けの職場と思われがちだが、引越業者を選定するのは、家庭の女性が大半。 「淑子社長の温厚な性格は、女性のきめ細やかな視点をサービスに取り入れるのに不可欠だった。(元従業員)」
■ 日給 1 万円のはずが
「うちだけじゃないんですね、ひどいのは。」 大手の引っ越し専業会社の都内の支店でアルバイトをする高校生はこう漏らす。 「僕なんか、日給が最初に聞いていた額より少ないのですよ。 休憩時間もないことがたびたびあります。」 高校生が契約時に提示された条件は、1 日 9 時間、そのうち休憩 1 時間で日給 1 万円というものだった。 だが、実際の支給額は 7,991 円で、1 時間の休憩時間がない日がほとんどだ。 支店長に問い合わせても「それは本社マターだから」といって、まじめに取り組む気すらないという。
「新生活を応援します。」 引っ越しシーズンを迎え、各社のキャンペーンが花盛りだ。 だがその裏には、過当な値引き競争と人材不足という構造的な矛盾が蓄積している。 新たな出発のイメージの下で、酷使されるのは若い世代だ。 「今後バイトを探す時に、ブラック企業でないところを見つけるコツはなんでしょうか。」 男子アルバイトは数日内に同社を辞め、新しいバイトを探す。 (飯島圭太郎、nikkei = 2-29-16)
スマホ契約詐欺、福井県内で横行 外国人実習生が帰国直前購入
外国人実習生が在留期限の直前にスマートフォンを分割払いで購入し、料金を支払わずに帰国する詐欺行為が福井県内で横行している。 請求書は実習生寮などに届くものの、契約相手は既に国外におり料金の回収は困難。 スマホは転売されているとみられ、一部は詐欺グループの手に渡っている可能性もある。
中国人実習生を受け入れている福井県越前市内の織物会社によると、6 月末に帰国した 2 人の中国人女性宛てに 7 月上旬、携帯電話会社から請求書が 4 枚届いた。 担当者が不審に思い内容を確認したところ、スマホを 2 台ずつ、帰国 1 週間前に契約していたことが分かった。 約 10 万円の端末代金はいずれも 2 年間の分割払いになっており、2 人は頭金なしでスマホ 4 台を不正に入手していた。
8 月に届いた 2 回目の請求書には、7 月分の通話料が上乗せされているものもあった。 2 人は帰国済みのため、国内の何者かの手に渡って使われた可能性がある。 織物会社側に支払う責任はないが、社長は「犯罪に関わったようで気分が悪い」と困惑している。 料金不払いでスマホの通信は止められた。 2 人に連絡は取れていないという。 2 人が契約した携帯会社本社(東京)の話では、外国人実習生は住民票と健康保険証を示せば携帯電話を購入でき、在留期限は問題にされない。 国際研修協力機構 (JTCO) によると、実習生は健康保険の加入が義務付けられ、住民票は日本人同様の手続きで得られる。
外国人が絡んだ転売目的のスマホ不正契約は、福井県内でも頻発している。 外国人受け入れ機関 17 団体でつくる「県外国人技能実習生受入れ団体連絡協議会(福井市)」には、昨年末ごろから事業所の相談が数多く寄せられている。 本道和也事務局長は「プライバシーに関わるので、契約状況を管理するのは難しい。 高値で転売できることからスマホの最新機種を狙うようだ。 不正契約は犯罪だと注意しているが収まらない。」と頭を悩ませる。
捜査関係者は一般論として「携帯電話が犯罪者に横流しされ、振り込め詐欺などに使われるケースは少なくない」と指摘する。 ただ、出国した元実習生を捜して立件に持ち込むのは困難とみられる。 (福井新聞 = 8-30-14)
偽名でスマホ詐取容疑 広島県警、中国籍の男逮捕
転売する目的でスマートフォンを契約したとして広島県警の合同捜査本部は 4 日、中国籍の福山市曙町 3 丁目、無職崔海軍容疑者 (30) を詐欺の疑いで逮捕した。 崔容疑者が帰国直前の中国人実習生に名義を借りて契約を結び、スマホを売却して現金を得ていたとみている。
捜査本部の調べでは、崔容疑者は埼玉県上尾市の中国籍の無職女 (35) = 同容疑などで処分保留 = ら数人と共謀。 3 月 8 日、福山市内の携帯電話販売店で無職女ら 2 人の名義でスマホの購入を分割払いで申し込み、スマホ計 3 台(計約 34 万 4 千円)をだまし取った疑い。 容疑を否認しているという。
同本部によると、名義人の 2 人は、いずれも技能実習生として三原市の縫製工場など県内の受け入れ先で働いていたが、実習期間が終わる直前の 3 月ごろに失踪。 その後、購入契約を結んでいた。 料金の請求書は受け入れ先に送付され、未払いになっていたという。
▽ 現金還元競争を逆手
福山市在住の中国籍の男が転売目的でスマートフォンを詐取したとされる事件。 広島県内では、帰国を控えた中国人の技能実習生らによる同様の事件が相次いでいる。 新規顧客に現金を還元する「キャッシュバック」など携帯電話各社のサービス競争が逆手に取られた。
県警によると、4 日に逮捕された崔海軍容疑者は 3 月 8 日、福山市の携帯電話販売店を訪れ、実習生の女らの名義でスマホ 3 台を乗り換え、分割払いで購入する契約を結んだ。 女の本人確認の書類として、在留期限が書かれていない健康保険証と住民票を提示。 このため、在留期限が 5 月に迫っていたことは発覚しなかった。 女は実習の受け入れ先からすでに失踪。 容疑者は分割払いを踏み倒す形でスマホを手に入れたという。
スマホの顧客獲得をめぐっては、他社から乗り換えた客に現金を還元するキャッシュバックを展開するなど、各社の競争は激化してきた。 スマホを買い取る業者も出る中、帰国前の実習生が転売目的でスマホの購入契約を結ぶ事件が相次ぐ。 (中国新聞 = 7-5-14)
スマホ詐欺、狙い撃ちされた「乗り換えキャッシュバック」競争
中国人実習生らに広がった「スマホただで持ち帰れる」
携帯キャリアの乗り換えキャッシュバック競争と分割払いの仕組みが詐欺師に狙われた。 分割払いの契約と解約を繰り返すことでスマホを無料で入手、それらを転売するとともにキャッシュバックを受け、現金を詐取していた。
昨年 12 月ごろから、広島県廿日市(はつかいち)市にある中国人技能実習生の寮に、携帯電話会社から大量の請求書が届き始めた。 だが、実習生らはいずれも帰国して行方は知れず、支払いは結果的に踏み倒された。 実は、実習生の間で帰国直前にスマートフォンを分割払いで契約すれば、支払いをせず持ち帰れるという話がひそかに広まっていた。 「ただでもらえるのに、何で持って帰らないのか」と伝わっていたという。 携帯電話販売店の過当競争を逆手に取った詐欺事件だった。
スマホを無料で入手
今年 2 月、広島県警外事課や広島中央署などは携帯電話を販売店からだまし取ったとして、有印私文書偽造・同行使、詐欺の疑いで中国籍の夫婦と、夫婦の知人で福井市の大学生の男の 3 人を逮捕した。 県警によると、3 人は共謀し、横浜市の販売店から携帯電話 2 台(計約 18 万 5,000 円)をだまし取った疑い。 県警はその後も、複数の販売店から携帯電話をだまし取ったとして詐欺容疑などで 3 人を再逮捕している。
彼らはスマホの販売店を渡り歩き、妻の知り合いの中国人実習生らの名義を使い、分割払いの契約と解約を繰り返すことでスマホを無料で入手。 それらを転売するとともに、販売店から契約乗り換え時のサービスであるキャッシュバック(現金還元)を受け、現金を詐取していた。
販売店からの請求書は名義人の実習生らに届くが、銀行口座に残金はなく、在留期間が決まっている実習生らは請求書が大量に届く頃にはすでに帰国しており、結局、携帯会社が損害を被ることになる。 夫は千葉県銚子市、妻は広島県廿日市市に住み、連絡を取り合って犯行を繰り返していた。
販売店を "はしご"
詳しい手口はこうだ。 廿日市市の食品製造会社に技能実習生として勤務する妻がスマホ購入の分割払いの契約を代行。 同僚の中国人女性らに住民票や健康保険証、残高 100 円程度の銀行口座のキャッシュカードを用意させ、夫や大学生がそれらを持って横浜市の大型量販店に出向き、同僚の名義でスマホを契約した。
夫らは同僚本人が契約したとみせかけるため、同僚を装った中国人女性を同行させ、1 人の名義で 3、4 台を契約。 その後、量販店内の別の販売店ブースに行き、先の契約を解約して新たな契約を結び、新しい端末を入手するとともにキャッシュバックを受けていた。 端末はいずれも頭金なしの分割払い契約のため無料で入手。 このうち 1 台を同僚実習生に渡し、他は中国語のチャット(会話)サービス「QQ」などを使い国内で転売していた。 これまでに契約した端末は 89 台(829 万円分)。 転売価格は 3 - 5 万円だったという。
端末を分割購入すれば、解約後も端末を所持できるが、分割払いの端末代は請求され続ける。 しかし請求書の山が届くころには実習生はすでに帰国しており、寮には「2 万 4,710 円」、「1 万 1,926 円」など月別請求書約 180 通が残されていた。 無料で端末を手に入れた実習生らは帰国後、中国国内で回線契約を結び端末を使用するか、転売している可能性があるという。
背景に乱売、安売り競争
携帯の販売店を渡り歩き、転売とキャッシュバックで多額の現金をひねり出す詐欺事件。 こうした犯罪が起きる背景について、携帯電話事情に詳しい青森公立大学の木暮祐一准教授(モバイル社会論)は「携帯電話の販売と通信回線が同一なことによる販売店の乱売、安売り競争がある」と指摘する。
平成 25 年 9 月に NTT ドコモが iPhone の販売を開始後、各社の競争が熱を帯びて乱売状態となり、会社間乗り換えによる 1 台数万円のキャッシュバックがこれに拍車をかけた。 このため契約の際の審査も甘くなったと指摘され、中国人実習生らには「スマホがただで持って帰れる」と伝わっていたという。
24 年以降、中長期滞在の外国人には身分証明書代わりの在留カードが発行されており、カードには在留期限も書かれている。 しかし、販売の際にそうしたチェックが行き届いていたとは言い難いようだ。 技能実習生を預かる監理団体の理事長は「在留カードで確認さえすれば、在留期限が分かる。 何で帰国直前の人に 2 年間の契約を結ぶのか。 ある意味、犯罪を誘発しているのと同じだ。」と販売店への不信感をあらわにする。
中国人実習生の罪は?
中国人技能実習生のスマホ持ち帰りは広島県内の他地域でも判明しており、実習生を受け入れているある水産加工会社の男性社長は「うちの社と県東部の会社にいた 5、6 人が帰国したら、彼らあてに 40 台約 240 万円分のスマホの請求書が来た。 慌てて中国の受け入れ団体に本人らを探させ、払わせた。 しかし、実習生が見つかるケースはまれ。」と振り返る。
社長は「彼らがスマホを大量に持ち帰っているのは監理団体では知られた話。 うちの子には『犯罪だからするな』と注意していたし、携帯電話の販売店にも、電話で注意していたのに販売店は動かなかった。」と憤る。 「あの子たちは持ち帰るのを悪いと思っちゃいない。 『中国じゃ絶対、そんな売り方しない。 日本人は何て優しいんだ』と話していた。」とも。 捜査関係者は「厳密には、中国にスマホを持ち帰った技能実習生も罪に問えるかもしれないが、現実的には、向こうに帰られると手が出ない」と話す。
販売店の責任は?
一方、販売店はこうした犯罪にどう向き合うのか。 同県内にある携帯電話販売店では昨年 11、12 月ごろ、複数の中国人実習生がスマホを契約する姿が目立った。 店員は「そのころは在留期限の確認は、会社から言われていなかった」と明かす。 半年前からは、在留カードなどで在留期限を確認するようになり、期限が 1 年未満の人は一括全納販売にしたという。 だが、今も「乗り換え 0 円」の広告が、この店にも隣接の店にも貼り出され、競争の激しさを物語っている。
携帯電話 3 社は取材に対し、いずれも「外国人の未払い数が増加しているかどうかは明かせない。 本人確認は以前から厳格にしている。」としている。 しかし、実習生による同様の「スマホ詐欺」は岐阜や愛知でも発生。 在留カードの偽造も大阪や東京で起きている。 捜査関係者は「同種事案はどこでも起こりうる。」と警戒している。 (松前陽子、sankei = 6-30-14)
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