コンビニを支える "偽装留学生" のカラクリ

デタラメな留学ビザで出稼ぎに来る

都市圏のコンビニでは店員の多くが外国人だ。 彼らは「留学生」として来日している。 だが来日の目的はあくまで「出稼ぎ」で、「留学」は建前にすぎない。 なぜそんなことが可能なのか。 ジャーナリストの出井康博氏が外国人労働の歪んだ実態を報告する - -。

なぜ「単純労働」なのに来日できるのか

東京などの都市圏では、コンビニや飲食チェーンの店頭で働く外国人を普通に見かけるようになった。 人手不足を外国人の労働力でしのいでいるのだ。 彼らの大半は「留学生」のアルバイトである。 政府は、外国人が「単純労働」を目的に入国することを認めていない。 ところが現実には 2 つの抜け道がある。 ひとつが「技能実習生」、もうひとつが「留学生」だ。

厚生労働省によれば、外国人労働者の数は 2017 年 10 月末時点で過去最高の 127 万 8,670 人に達し、前年から約 18% 増加した。 国籍別ではベトナム人が 40% 増え、約 24 万人を数えるまでになった。 在留資格は「留学」が 24% 増の約 25 万 9,000 人と、「実習」の約 25 万 7,000 人をも上回る。 つまり、日本で働く外国人の約 4 割が、本来の意味での労働者とは違う「留学生」と「実習生」なのである。

「人手不足や景気の回復を背景に、留学生のアルバイトや技能実習生の活用が進んでいる。」

厚労省はそう説明するが、留学生はアルバイトではなく勉強が目的のはずだ。 実習生にしろ、政府は「人手不足解消の手段ではない」と一貫して主張している。 にもかかわらず、「人手不足」との因果関係を認めるのはおかしい。

「実習生」の実態は短期の出稼ぎ労働者

日本人の嫌がる肉体労働では、人手不足が深刻化する一方だ。 しかし政府は、外国人が「単純労働」を目的に入国することを認めていない。 そこで抜け道として「外国人技能実習制度」が存在する。 途上国への「技能移転」や「人材育成」という趣旨のもと、実際には単純労働者を受け入れている。

ただし、実習生の受け入れは、繊維・衣服や機械・金属などの製造現場、農業や漁業、建設関係など 80 弱の職種に限定される。 昨年 11 月に制度拡充で加わった「介護」を含め、いずれも人手不足が深刻な職種ばかりだ。 実習生は最長 3 年(制度改正によって今後は 5 年)まで働けるが、大した技能など身につかない。 名前は「実習生」でも、実態は短期の出稼ぎ労働者に他ならない。 コンビニ業界も実習生の受け入れを求めている。 ただし、「人材育成」という建前に沿っていなければ、受け入れは認められない。 「人手不足対策」という本音は口にできないわけだ。

日本人と同じ仕事をしても給与では大きな差がつく

業界を代表してインタビュー(2017 年 12 月 25 日付『朝日新聞』朝刊)に答えたローソンの竹増貞信社長も、実習生の受け入れは「人手不足対策ではない」と強調したうえで、こう述べている。

「レジ係に限らず、コンビニには商品の発注や店舗の清掃など小売業のノウハウが満載だ。」
「コンビニ業務を身につけて自国に帰れば、その国の小売業で活躍できる。」

苦しさがにじみ出たコメントである。

実習制度には、建前を守るための細かな規則がやたらとある。 たとえば、実習生は母国で就いていた仕事を日本で「実習」し、帰国後は復職するというものだ。 コンビニでの実習を希望する外国人であれば、母国での小売業の経験が必要となる。

だが、実習生の送り出しで中心を占めるベトナムやネパールなどアジア新興国では、日本のように小売業は普及しておらず、実習の有資格者も少ない。 結果、コンビニでの実習希望者の多くが、ブローカーに「手数料」を払い、ビザ取得に必要な「前職証明」を偽造することになる。 実習制度で認められた他の職種でも、当たり前のように行われていることだ。 実習生が帰国後に「その国の小売業で活躍できる」という竹増氏のコメントも、制度の現状を見れば現実離れしている。 たとえそうだとわかっていても、本音は言えないのである。

日本での出稼ぎを望む途上国の若者にとっても、実習制度はあまりに制約が多い。 最長 3 年までしか働けず、職場を変わることも許されない。 しかも給与は手取りで月 10 万円程度だ。 制度上は「日本人と同等以上」となっているが、実際には最低賃金が適用される。 そこから寮費などを引かれると、日本人と同じ仕事をしても給与では大きな差がつく。

他に増加が目立つのが、ネパール、パキスタン、ミャンマー

そのため実習生よりも留学生として来日する外国人が増えている。 「週 28 時間以内」という留学生の就労制限は、仕事をかけ持ちすれば簡単に破れてしまう。 ブローカーも「日本に留学すれば月 20 万 - 30 万円は簡単に稼げる」と宣伝する。 実習生とは違い、仕事は自由に選べ、職場も変わることができる。 うまくいけば日本で就職し、長期間にわたって働けるかもしれない。 そのため留学を装い、出稼ぎ目的で入国してくる外国人が急増している。

留学生の数は 17 年 6 月時点で 29 万 1,164 人を数え、12 年末から約 11 万人も増加した。 ベトナム人は 7 倍以上の約 7 万人を数える。 他に増加が目立つのが、ネパール、パキスタン、ミャンマーといった国の出身者だ。 12 年以降に増えた留学生のうち、4 カ国の出身者だけで 8 割以上を占める。 これらの国の留学生は、ごく一部の例外を除いて出稼ぎが目的だ。 彼らは留学ビザの発給対象にはならないはずの存在でもある。 留学ビザは、日本でのアルバイトなしで留学生活を送れる「経費支弁能力」のある外国人に限って発給される。 留学希望者はビザ取得の際、銀行預金の残高や親の年収を示す証明書を提出しなければならないのだ。

出稼ぎ目的の "偽装留学生" を黙認

しかしベトナムなどでは、よほどの富裕層でなければ経費支弁能力はない。 そこで銀行や行政機関に賄賂を渡し、ビザ取得に必要な金額が記された書類をつくる。 数字はデタラメだが、銀行などが "正式に" 発行した書類なので、「偽造」とも呼べない。 そうしたカラクリをわかって、日本側も留学生として認めている。 それを許しているのが、政府が 2020 年の達成を目指す「留学生 30 万人計画」だ。 計画達成のため、出稼ぎ目的の "偽装留学生" までも受け入れられる。 そして彼らが入国した後は、人手不足の職種で低賃金の労働力として利用する。

コンビニや飲食チェーンでも "偽装留学生" が数多く働いている。 ただし、コンビニなどで働ける留学生は、ある程度の日本語能力を身につけた「エリート」だ。 さらに "偽装留学生" 頼みが著しい職場は、実は私たちが普通に生活していれば目につかない場所にある。

どれも日本人が嫌がる夜勤の肉体労働ばかり

近年急増を続ける留学生の多くは、勉強よりも出稼ぎが目的の "偽装留学生" である。 彼らは日本語学校への「留学」を名目に来日した後、授業そっちのけで出稼ぎに励む。 留学生のアルバイトとして法律で認められる「週 28 時間以内」に違反してのことだ。 留学生が働く現場は、コンビニや飲食チェーンの店頭のように目立つ場所だけではない。 むしろ私たちが普段気づかないところで、"偽装留学生" は多く働いている。 コンビニやスーパーで売られる弁当などの製造工場、宅配便の仕分け、ホテルやビルの掃除 …。 どれも日本人が嫌がる夜勤の肉体労働ばかりだ。

こうした仕事では、もはや留学生の労働力なしでは成り立たない職場も多い。 つまり、私たちが当たり前のように享受している生活は、"偽装留学生" という存在に支えられているわけだ。 だが、彼らの境遇を知ってなお、現状を放置すべきだと言えるだろうか。

「日本に行って働けば簡単に返せる」と来日するが …

約 7 万人を数えるベトナム出身者を始め、ネパール、ミャンマー、スリランカなどアジアの新興国から急増している留学生のほとんどには、共通の悩みがある。 それは留学費用を借金して来日していることだ。 その額は初年度の学費や寮費、留学斡旋会社への手数料などで 150 万 - 200 万円にも上る。 4 カ国で最も経済発展しているベトナムでも、庶民の月収は日本円で 1 - 2 万円程度だ。 借金の額は年収の 10 倍にも上る。 「日本に行って働けば簡単に返せる」と考え、大きな借金を抱えるのだ。

日本では未曾有の人手不足が起きている。 日本語に不自由な外国人でも、選ばなければ仕事は見つかる。 とはいえ、時給は最低賃金レベルだ。 「週 28 時間以内」という就労制限を守って働けば、時給 1,000 円の仕事で月収は 11 万円少々にしかならない。 生活はしていけるが、母国からの仕送りなど望めない "偽装留学生" は、翌年分の学費も貯める必要がある。 加えて借金の返済もあり、「出稼ぎ」という目的は果たせない。

そこで彼らは「週 28 時間以内」を超えて働く。 アルバイトをかけ持ちすれば、法律は簡単に破れてしまうのだ。 雇う企業側も、留学生が他にもアルバイトをしているかどうかなど問いはしない。

日本語学校が「バブル状態」になる理由

"偽装留学生" の急増によって、日本語学校はバブル状態にある。 その数は過去 5 年で 200 校以上も増え、全国で 643 校にも達している。 日本語学校に在籍する外国人は、大学への留学生をも上回る。 東京都内の日本語学校には、定員 2,000 人以上というマンモス校がいくつもある。 "偽装留学生" を受け入れてきたおかげだ。 授業など形ばかりという学校も少なくない。 留学生は徹夜のアルバイトに明け暮れ、授業では眠りこける。 それでも学費を払ってくれる限り、学校側は黙認する。 留学生や授業の「質」よりも、営利のみを優先しているのだ。

日本語学校にとっては、留学生の失踪が最も怖い。 事実、外国人の不法残留者は増え続けている。 2017 年初め時点で 6 万 5,270 人を数え、3 年連続で増加中だ。 ベトナム人は前年から約 35% も急増し、5,137 人に達した。 留学生として入国後、不法残留になった外国人の数も約 11% 増の 3,807 人に上る。 学費の支払いを逃れ、不法就労に走っているのだ。

パスポートや在留カードを学生から取り上げる学校も

留学生が失踪すれば、日本語学校には学費は入らない。 また、新たに留学生を受け入れる際、法務省入国管理当局によるビザ審査が厳しくなる。 そうなれば留学生の数が増やせず、ビジネスが打撃を受ける。 事前に失踪を防ごうと、パスポートや在留カードを学生から取り上げているような学校も多い。

日本語学校に在籍できるのは 2 年までだ。 その後、"偽装留学生" は専門学校や大学に進学して出稼ぎを続ける。 少子化の影響で、半数近い大学が定員割れの状況にある。 専門学校に至ってはさらにひどい。 学力や日本語能力など問わず、学費さえ払えば入学できる学校はいくらでもある。 "偽装留学生" の受け入れで生き残りを図ろうとしているのだ。 一方、留学生は学費と引き換えに留学ビザを更新し、日本での出稼ぎを続ける資格を手にする。

こうした "偽装留学生" の実態について、新聞やテレビはほとんど報じない。 理由は簡単だ。 それは全国紙の配達現場で、留学生の違法就労が横行しているからである。

新聞紙上は「技能実習生」ばかりで「留学生」を無視

新聞配達は人手不足が最も深刻な職種の 1 つだ。 とりわけ都市部では配達を担う人が足りず、留学生頼みの状況が生まれている。 東京都内には、配達員全員がベトナム人留学生という販売所もあるほどだ。 全国紙には『産経新聞』を除いて朝刊と夕刊がある。 朝夕刊を配達し、さらに広告の折り込みなど作業をこなせば、仕事は「週 28 時間以内」では終わらない。

販売所における留学生の違法就労は、新聞各社もわかっている。 そんななか、新聞紙面で "偽装留学生" 問題を取り上げれば、自らの配達現場にも非難が及びかねない。 それを恐れ、知らんぷりを決め込んでいる。 一方、新聞各紙は外国人技能実習生については頻繁に報じる。 未払い残業やパスポートの取り上げといった実習生が被る「人権侵害」に関し、声高に批判する報道は多い。 しかし日本で今、最も虐げられた外国人労働者は実習生ではなく留学生だ。 そのことは、10 年以上にわたって外国人の働く現場を回ってきた筆者の取材経験から断言できる。

借金を返すまでは奴隷のように働くしかない

実習生にも借金を背負い来日する者は少なくない。 だが、"偽装留学生" の借金は実習生の比ではない。 しかもアルバイトで稼いだ金は、「留学ビザ」と引き換えに学費として吸い上げられる。 働く現場にしろ、実習生の受け入れすら認められていない夜勤の肉体労働が多い。 その典型がコンビニ弁当の製造工場などである。

"偽装留学生" は「留学」を出稼ぎに利用する。 多額の借金をするのも、彼ら自身による選択だ。 しかし来日後は、日本語学校や人手不足の企業などに都合よく利用される。 日本での生活が嫌になっても、借金を抱えて母国に帰れば家族ごと破産してしまう。 少なくとも借金を返し終わるまでは、この国で奴隷のように働き続けるしかない。

コンビニは 24 時間オープンしていてほしい。 弁当は少しでも安く買いたい。 宅配便は時間通りに届けてほしい - -。 それは日本人の多くが望んでいることだろう。 しかし、途上国の若者たちを食い物にしてまでも、私たちは「便利で安価な生活」を維持していくべきなのだろうか。 (出井康博、President = 2-5-18)