グレタ・トゥーンベリ氏が鋭い指摘 「気候変動への見解ない」と答え続けるバレット氏に

トランプ大統領に最高裁判事に指名されたバレット氏、公聴会で気候変動についての回答を避け続けています。 アメリカの上院公聴会で、連邦最高裁判事候補のエイミー・コーニー・バレット氏は気候変動について聞かれて「確固たる見解はない」と答えた。 これに対して、環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏は 10 月 15 日、 次のようにツイートし、バレット氏を批判した。

「公平に言えば、私も "気候変動への見解" は持っていません。 引力や、地球が丸いということや、光合成や進化論に対して "見解" を持っていないのと同じように …。 しかしその存在を知って理解することは、21 世紀の生活をずっと生きやすくしてくれます。」

13 日の公聴会で「気候変動についての確固たる見解はない」述べた際には「自分は科学者ではないので」と説明した。 オバマ前大統領は以前、「この言葉は気候変動を否定する政治家が使う言い訳だ」と批判している。 さらに 14 日の公聴会で民主党副大統領候補のカマラ・ハリス上院議員に「気候変動が起きていて、脅威をもたらしていると思うか」と聞かれた際には、「気候変動についての自分の立場は、最高裁判事の職に関係がない」と答えた。

そして「あなたは私に、新型コロナウイルスは感染するか、タバコはガンを引き起こすかといった、議論を引き起こさないような質問をして、議論を呼ぶ問題について私から答えを引き出そうとしますが、私は答えません。 私は公共政策について、特に政治的に論争の的になっているような場合は見解を表明しません。 司法的な役割と相入れないからです。」と回答した。

気候変動は、多くの科学者たちが対策を訴えている問題

気候変動は単なる公共政策ではなく、地球や人間の将来に大きな影響を及ぼす重要な問題で、科学者たちは一刻も早い対策を訴えている。 地球の表面の温度を計測している NASA の科学者たちは、温度が記録的に高かった年は過去 20 年間に集中していると、NASA の子ども向けサイトで説明。

気候変動は実際に起きており、自動車や発電所による温室効果ガス排出や、その他の人的要因が主要な原因だと述べている。 さらに、1,300 人の世界中の科学者からなる国連の組織「気候変動に関する政府間パネル」は、「過去 50 年の人間活動が温暖化の要因となっている可能性が 95% 以上」と警告している。 (Jeremy Blum、Jennifer Bendery、Satoko Yasuda、Huffpost = 10-16-20)


温暖化懐疑論者が自宅山火事で一変 米で高まる危機意識

昨年 7 月、米上院民主党が開いた気候危機特別委員会に、共和党のベテランコンサルタント、フランク・ルンツ氏が出席し、告白した。 「2001 年に、私は間違っていた。」 当時はブッシュ(子)政権で、党の弱点とされた温暖化問題を政治争点化。 温暖化の科学的合意はできつつあったが、ルンツ氏はメモで「不確実性を第一の問題として突き続けろ」と説き、今でもトランプ氏をはじめ多くの共和党議員のスタンスになっている。 米国の保守層には、政府や科学などの権威への不信が元々あり、個人の行動の変革をせまる温暖化への懐疑論を受け入れやすい土壌があった。

しかし、ルンツ氏は、ロサンゼルスの自宅が山火事に遭い、九死に一生を得て、「温暖化はリアルだ」と考えを変えた。 「私が 18 年前に書いたものを使ってほしくない。 今では正確ではないからだ。」 ハーバード大による米国の若者 18 - 29 歳を対象の 3 月の調査では、トランプ政権の温暖化対策への取り組みに反対する人が全体で 73% と圧倒した。 若い世代は党派を超えて温暖化の脅威を感じ対策に前向きだ。 共和党の世論調査会社パブリックオピニオン・ストラテジーズは「気候変動は若い世代の最も重要な問題の一つだ」と分析する。

18 年の中間選挙で民主党から最年少で当選したオカシオコルテス下院議員らは、再生可能エネルギー関連産業での雇用創出など「グリーン・ニューディール」を提案した。 バイデン氏も、新型コロナ危機からの経済回復策「ビルド・バック・ベター(より良く建て直す)」の柱に、温暖化対策を盛り込んだ。 グリーン・ニューディールを下敷きに、2 兆ドルを投資して再エネ拡大やインフラの脱炭素化を進め、50 年までに実質排出ゼロを目指すことを掲げる。 バイデン氏は「トランプ氏は気候変動を『でっち上げ』だと考えるが、私は『雇用』(のチャンス)だと考える」と語る。

公約集で温暖化に触れていないトランプ氏だが、海面上昇とハリケーン被害が直撃するフロリダ州を中心に、温暖化対策を重視する共和党議員が出ている。 (ワシントン = 香取啓介)

向き合わないトランプ氏「すぐに涼しくなる」

車の両側には高さ 15 メートルを超える炎が立ち上り、ほおを照らした。 山間の集落は建物が崩れ落ち、乗り捨てられた車が残っていた。 「たくさんの爆弾が爆発したようだ。 何度も経験しているが、恐ろしい戦場のようだった。」 米カリフォルニア州ブット郡に住む映画制作者のナンシー・ハミルトンさん (58) は 9 月上旬に地域を襲った山火事を語る。 郡内で少なくとも 15 人が亡くなり、今も延焼を続けている。 ハミルトンさん宅には、家を失い避難してきた友人たち 12 人が身を寄せる。 一帯は 2 年前にも 85 人が亡くなった当時最悪の山火事に襲われた。 ハミルトンさんは再現映画を撮影し、8 月末にネットで公開したばかりだった。

米大統領選の争点にもなっている温暖化問題。 トランプ氏が大統領になって以降、米の温暖化への取り組みはどう変わったのか。 一方、次の大統領選でバイデン氏が勝利した場合、日本の取り組みに影響が生じるとの指摘もあります。 記事の後半で読み解きます。

「雨は少なくなり、森は乾き、火事は増え続ける。 また起きる前に、対策が必要だ。 気候変動はまさに起きている。」

西海岸で過去最大規模の山火事が続く中、16 日にはメキシコ湾から南部にハリケーン「サリー」が上陸した。 「壊滅的で命の危険がある洪水がフロリダの一部やアラバマ州南部西海岸で起きます。」 国立ハリケーンセンターは警告した。

頻発する壊滅的な気候変動に見舞われる世界では、金融システムを支えることはできない - -。 9 日、米商品先物取引委員会 (CFTC) は、金融市場に与える温暖化の影響をまとめた政府機関として初めての包括的な報告書を発表した。 トランプ政権下で任命された 5 人の委員の全会一致で作成が決まったものだ。 世界最悪となっている米国の新型コロナウイルスの感染拡大と気候変動を並べ、「リスクへの対策が遅れればコストは破壊的になることを科学ははっきり示している」と警告した。

過去最も多く温室効果ガスを排出し、現在でも中国に次いで 2 番目の排出国である米国。 2016 年の大統領選で、温暖化に懐疑的で国際ルール「パリ協定」からの離脱を掲げたトランプ氏が当選した。 トランプ氏は環境規制の撤廃・緩和を進め、温暖化についても今月、「気候はすぐに涼しくなる。 科学がわかっているとは思えない。」と述べ、向き合おうとしない。

米国の気候学者らのプロジェクト「気候インパクト・ラブ」の予測では、今世紀中の温暖化の進展で経済被害を受ける地域は、南部や中西部が圧倒的で最大 3 割も収入が下がるという。 トランプ氏の地盤である共和党支持州と重なる。 ブルッキングス研究所は「温暖化の現実に直面するにつれ、政党の態度は素早く変わる可能性はある」と分析する。 エール大の調査では、気候変動が「起きている」と思う米国民が増えている。 バイデン氏は「科学を尊重し、気候変動の被害がすでに起きていると理解している大統領が必要だ」と訴える。 バイデン氏は、当選すれば就任 1 日目にパリ協定に復帰すると語っている。

連邦と自治体、分かれる温暖化対策

「米国は(化石燃料という)とてつもない富を持っている。 (温暖化対策という)夢のために富を失うことはしない。」 昨年 8 月、仏ビアリッツの主要 7 カ国 (G7) 首脳会議後の会見で温暖化対策について問われたトランプ氏はこう語った。 米国はシェールガスブームのおかげで、エネルギーの純輸出国になりつつある。 環境規制は米国の経済成長を妨げ、中国などとの国際競争で不利になる - -。 トランプ氏は米国を大国に押し上げた力の源泉を手放したくないとの思いがある。 今年 8 月に発表した 2 期目の公約集でも「エネルギー自立のために規制緩和を続ける」とうたった。

コロンビア大法科大学院によると、トランプ政権の下で、温暖化対策の規制の撤廃や緩和は約 160 に上る。 発電所からの温室効果ガスの排出規制「クリーンパワー・プラン」を撤廃。 自動車の排ガス規制緩和や環境影響評価(アセス)から温暖化への影響を外すなどしてきた。 しかし全てが思惑通りに進んでいるわけではない。 7 月、トランプ政権下で進められてきた巨大パイプライン事業が相次いで中止・中断に追い込まれた。 度重なる訴訟で建設が遅れたり、追加のアセスを求められたりしたためだ。

「撤廃や規制緩和の多くが、合理的な分析や証拠に基づいて行われたものではなく、法的に根拠が弱い。 政権交代がなくてもいずれ訴訟で覆され、レガシーにはならない。」 同大で規制緩和を追っているヒラリー・アイダン研究員は話す。 連邦レベルの対策が骨抜きにされる中、自治体や企業が米国の温暖化対策を加速させ、支えてきた。 トランプ氏のパリ協定離脱宣言に反発した「We Are Still In (私たちはまだパリ協定にとどまっている)」という運動には、4 千近いの自治体や企業などが参加している。

しかしバイデン氏は、連邦政府が率先せず、世界最悪の感染拡大を起こしているトランプ政権の新型コロナウイルス対策を引き合いに「温暖化対策でも、国家戦略がないことで、つぎはぎだらけの解決策で終わっている。 現政権が悪化させた。」と批判する。

専門家、バイデン氏勝利なら日本の削減目標引き上げも

電力中央研究所の上野貴弘・上席研究員の話 : トランプ氏が再選した場合、米国のパリ協定離脱が長期化し、協定の求心力に悪影響が出る恐れがある。 特に気候変動対策のための途上国への資金援助は、2024 年までに新目標について交渉・合意することになっている。 資金拠出国の米国が抜けると交渉が難航し、途上国の温室効果ガス削減目標の引き上げが難しくなる可能性がある。

一方、バイデン氏は他国へ削減目標の強化を求めるとしている。 日本の現在の削減目標は 30 年度に 13 年度比で 26% 減。 引き上げを要求された場合、どうするか考えておく必要がある。 また新型コロナウイルス禍からの復興のあり方も焦点だ。 バイデン氏が勝利した場合、削減目標のほか環境に配慮した経済の回復にどう予算を充てていくかも、欧米との競争の観点で日本にとっては大事な話になる。 (asahi = 9-26-20)

パリ協定 : 2015 年 12 月の国連気候変動枠組み条約締約国会議 (COP21) で採択された地球温暖化対策の国際ルール。 16 年 11 月発効。 温暖化による危機的な影響を防ぐため、産業革命前からの気温上昇を 2 度よりかなり低く、できれば 1.5 度に抑えることが目標。 そのために今世紀後半に世界全体で温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることをうたう。 各国は温室効果ガス削減目標などの対策を練り、5 年ごとに点検・見直しする。 各国は今年中に目標の更新と、長期目標の提出を求められている。


EU、温室効果ガス削減目標を強化「30 年に 55% 減」

欧州連合 (EU) は 16 日、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの排出を、2030 年に 1990 年比で少なくとも 55% 減にする新たな目標を打ち出した。 従来目標は 40% 減だった。 50 年までの達成を目ざす「排出実質ゼロ」を確実にし、国際的枠組みであるパリ協定の実現に向けて、世界をリードする役割を担うという。

EU の行政トップ、フォンデアライエン欧州委員長が、施政方針演説で表明した。 経済成長と温暖化対策は両立し、新たな雇用の創出にもつながると訴えた。 再生可能エネルギーの導入を加速することで、輸入に頼る石油や天然ガスなど、EU 域外への依存度を下げる効果が見込めるとも説明した。 目標実現のため、来夏までにエネルギー関連の法制を見直す。 二酸化炭素の排出量取引の強化や、税制改正も進めるとしている。 (ブリュッセル = 青田秀樹、asahi = 9-17-20)

◇ ◇ ◇

EU が水素社会へのシフトを宣言 2030 年までに 1,000 万トンの再生可能水素生産を目指す

● 10 年後にはリニューアブル水素をメインのエネルギーにすると宣言 日本車へ追い風となるか?

7 月 8 日、EU (欧州連合)が、『A Hydrogen Strategy for a climate neutral Europe』という宣言を発表しました。 意訳すると「欧州が気候変動に対応するための戦略として水素を重視する」といったところでしょうか。 自動車業界的には、CAFE 規制(企業平均燃費)が厳しくなるなかで、その対策としてゼロエミッションとカウントされる BEV (電気自動車)の投入が目立つ 2020 年ですが、EU はその先に水素社会を見据えているというわけです。

水素を利用するといえば「燃料電池」で、自動車業界ではトヨタやホンダといった国産メーカーがリードしているのは周知の事実。 トヨタの燃料電池車「MIRAI」は、完全に生まれ変わる 2 代目モデルを 2019 年の東京モーターショーでお披露目したくらいです。 そのほか GM やダイムラーも燃料電池車の技術開発に熱心で、メルセデス・ベンツは日本でも燃料電池車をリース販売しているのも知られています。

さて、EU の宣言した水素戦略は自動車業界だけに限ったものではありません。 産業・輸送・電力など広い範囲でクリーンな水素の利用を推し進めようという内容になっています。 クリーンな水素とは何か? それは、太陽光や風力といった再生可能エネルギーによって得られた電力で水を分解して得られる水素のことです。 気候変動に対して CO2 削減は待ったなし。 EU は CO2 フリーのエネルギーとして『リニューアブル水素』を選択したというわけです。

今回の宣言では 2020 年から 2030 年以降までを 3 つのステップにわけ、水素社会への移行を提示しています。 まず 2020 - 2024 年までに 6 ギガワットの電力を使い 100 万トンのリニューアブル水素を生み出す計画としています。 続いて、2025 - 2030 年には 40 ギガワットで 1,000 万トンの水素を生産することを目指します。 そうして 2030 年以降は、主たるエネルギーを水素として CO2 フリーの社会を築くというのが目標です。

100 万トンの水素といわれても、その規模感はピンと来ないかもしれません。 現行の燃料電池車 MIRAI の水素タンクを満タンにするには 5kg の水素が必要で、おおよそ 500km の走行が可能です。 欧州のリニューアブル水素への移行は、自動車セクターだけでなく社会全体ですので、クルマだけに例えるのは適切ではありませんが、仮に 100 万トンの水素があると MIRAI を 2 億回満タンにすることができます。

つまり 1,000 億 km の走行をカバーできるだけのエネルギー量になるという計算です。 一台あたりの年間走行距離を 1 万 km とすると 1,000 万台の自動車を動かすことができるだけの水素を、2024 年までに再生可能エネルギーだけで供給できるようになるといえます。 さらに 2030 年までの目標を達成すると、1 億台の自動車を運用できるだけの水素を供給するという計算になります。 前述のようにモビリティ以外のすべてを水素でカバーしよういう計画ですから自動車の規模に換算するのは不適切ではありますが、どれだけ大きな目標であるかは理解できるのではないでしょうか。

それにしても、こうして欧州が水素社会へ移行するというのはトヨタやホンダへ追い風になると思えますが、そうは問屋が卸さないでしょう。 EU の狙いはクリーンエネルギーにおけるリーダーシップを取ることにあるはずです。 簡単に日本企業を応援するような政策は取らないでしょうし、むしろ何らかの形で排除するような規制を働かせると考えるべきです。 とはいえ、欧州の水素社会シフトというのは日本政府が進めてきた水素政策と方向としては合致するもので、クリーンエネルギーとして水素の研究開発が加速することは日本にとってもプラスになるといえます。

水素社会については批判も大きく、そのネガを指摘する声も多々ありますが、CO2 フリーを目指して EU が本格的に水素社会にシフトと宣言した今、水素社会を否定するという選択はあり得ない状況になりました。 内燃機関で走るクルマの寿命は、さらに短くなったといえるかもしれません。 (山本晋也、clicccar 10th = 8-17-20)