中国依存の LNG 船タンク、国産化へ統一規格化など調査 国交省 |国土交通省が、液化天然ガス (LNG) で航行する LNG 燃料船の燃料タンクの国産化へ向けた調査に乗り出す。 LNG 燃料船は脱炭素で注目が集まるが、タンク部分は中国製に依存しており、国内での安定供給を目指すのが狙い。 タンク製造を造船分野の新規事業に育てることも視野に入れる。 国交省によると、LNG 燃料船は、二酸化炭素 (CO2) 排出量を重油の 4 分の 3 程度に抑制でき、脱炭素の流れの中で需要が増加している。 国内では 2015 年から導入する企業が出始め、これまでに 5 隻が建造された。 商船三井は 30 年までに 90 隻程度に増やす計画を立てている。 一方で、重要部品である燃料タンクは、造船業で大きなシェア(市場占有率)を持つ中国製が大半だという。日本での生産実績は乏しく、人材や設備が整っていない。需要が増加すれば中国から調達するのが難しくなる事態も予想される。 国交省は造船会社への聞き取り調査などで国産化の課題を洗い出しており、来年度から、コスト削減を目的に、燃料タンクの統一規格化が可能かどうか調べる。将来的には日本がタンク製造の受注国になることも見据えているという。 (yomiuri = 10-28-21) "中国依存" は大いなるリスク 日本の経営者が経済安全保障を重視しなければならない理由 岸田文雄内閣が発足し、「経済安全保障」を担当する閣僚ポストが新設された。 米中対立など国際秩序の変化への対応を目的としている。 「日本企業は製造業や地方の中小企業であっても、自分たちの行動が経済安全保障に影響を与えるかもしれないと頭に入れておいた方がいい。」 そう警鐘をならすのは、経済ジャーナリストの井上久男氏だ。 6 月に上梓した『中国の「見えない侵略!」 サイバースパイが日本を破壊する 経済安全保障で企業・国民を守れ(ビジネス社)』で、日本企業にはまだまだ浸透しきれていない経済安全保障の重要性を説いている。 井上氏が日本企業の経営者に対し、特に注意しなければならないと訴えるのは、中国との関係だ。 前編では井上氏に、米中対立の現状や、中国による非軍事領域での軍事活動について聞いた。 後編では日本の経営者に求められる経済安全保障への対応を聞く。 中国への過度な依存はリスク 米中の対立は新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、一層激しさを増している。 経済をめぐる対立に加え、香港や台湾、南シナ海をめぐる問題も深刻だ。 だが、中国が手を伸ばしているのはそれだけではない。 さまざまな国に「武器を使わない戦争」や、「見えない侵略」を仕掛け、問題が顕在化しているのだ。 井上氏はその一例として中国による「債務の罠」を挙げる。 「債務の罠は中国が発展途上国に対して仕掛けている手法です。 分かりやすい例がスリランカです 。中国はスリランカのインフラ建設のために、返済を前提とした経済援助をしていました。 ところが、スリランカが返済できなくなったため、ハンバントタ港に 17 年から 99 年間の租借権がつけられました。 スリランカはインド洋に浮かぶ島国で、中国にとっては地政学的に重要な国です。 地理的な要衝になる国や資源国は、今後も債務の罠を仕掛けられていくのではないでしょうか。」 本書では、中国マネーによって政治家が買収され、港湾が奪われたオーストラリアの例が紹介されている。 問題は、こうした国々が親中から反中に転じたときの中国の対応だ。 「オーストラリアのモリソン首相が親中から反中に切り替えると、中国はそれまで大量に輸入していたオーストラリアのワインや牛肉などの輸入を止めました。 経済的なツールを使って相手国の主要産業を痛めつけるエコノミック・ステイトクラフトの手法です。 中国はこれまでも、民主化運動をしていた劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞すると、賞の授与主体であるノルウェーからのサーモンの輸入を禁止したほか、台湾との関係が悪化すると台湾からパイナップルの輸入も止めています。 14 億人もの人口を抱える市場力の魅力に駆られて主要産業が中国への輸出に過度に依存していると、政治的な関係が悪化した場合に打撃を受けることになります。 これは人ごとではありません。 日本もコロナ前は中国人観光客がかなり訪れていました。 それ自体は悪いことではありませんが、依存しすぎると梯子を外されたときに観光産業は大打撃を受けます。 中国一国に依存するのでなく、米国、オーストラリア、インドなど、複数の国から観光客を呼び込むことが大事です。 このように経済安全保障が身近な問題だと知ってもらうことも本書の目的の一つです。」 経営者が注意すべき海外からの投資 井上氏は本書で、経済安全保障の視点から企業の経営者に警鐘を鳴らす。 1989 年にベルリンの壁が崩壊して以降、世界の市場が 1 つになって、いかにマーケットを効率的に取り込むかでグローバル企業の優劣が決まっていた。 しかし、それから 30 年経って状況は変わった。 「米国と中国という大国が対立するようになって、世界の市場は 1 つという考え方が通じなくなりました。 世界にマーケットを取りに行くこと自体は否定できませんが、企業はサプライチェーンの中で部品や素材などを特定の 1 国に依存するのではなく、うまくデカップリング(切り離す)することが必要です。」 さらにグローバルに展開している企業の場合、海外からの投資にも注意が必要だと井上氏は指摘する。 「海外から投資の話が来た場合、その会社の業務内容や実態を調べた方がいいでしょう。 製造業や地方の中小企業であっても、自分たちの技術や部品が投資をしてきた企業の国で防衛技術に使われる可能性もあるからです。 『うちの会社の技術なんてそんなたいしたものではない』と思っていても、そういう技術が組み合わさって 1 つの装備品(武器)ができるかもしれません。 自分たちの行動が経済安全保障に影響を与える可能性を、頭の片隅に入れておくべきです。」 日本政府も経済安全保障に関する政策を進めている。 10 月 4 日に発足した岸田新内閣では、「経済安全保障」を担当する閣僚ポストを新設した。 さらに、来年の通常国会では経済安全保障の定義を定めたり、銀行法や電気通信事業法といった各業法でも対応を求めたりする「経済安全保障一括法」の提案を目指しているという。 井上氏は、公安調査庁が経済安全保障対策に力を入れていることを本書で明らかにし、長官にインタビューもしている。 「公安調査庁は大きく方針を変えました。 これまでは破壊活動防止法や、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づいて、オウム真理教や国際テロの対応などに注力していました。 それが、20 年 12 月に長官が経団連で講演し、先端技術の流出リスクなどについて語るという変化が起きたのです。 公安調査庁はヒューミントと呼ばれる人を媒介した諜報活動をしているので、海外の企業や投資会社についていろいろな人脈を通じて情報を持っています。 自分が取引している会社が本当に安全なのかと心配になった場合は、公安調査庁に相談に行くべきだと思います。」 DX を経営戦略の中心に据えるべき理由 経済安全保障を意識することと合わせて井上氏が企業に訴えているのは、DX を経営戦略の中心に置くことだ。 本書では中国からのサイバー攻撃について詳細を報告している。 サイバーセキュリティを怠ることのリスクについて、井上氏は次のように説明する。 「米国の防衛産業向けの部品を日本の企業が共同開発している場合、セキュリティが甘いと取引停止になる可能性があります。 通常、企業の業績が悪化する場合は、数年かけて徐々に財務が悪くなりますが、経済安全保障で問題があるといきなり取引が停止されて、企業が "突然死" するリスクがあるのです。 そうならないためには、企業のシステムに脆弱性はないか、情報漏洩はないかといったことについて、経営者が問題意識を持つことが必要です。 日本企業の多くはシステムを IT ベンダーに丸投げしています。 しかし、日本の IT ベンダーのレベルは高いとはいえません。 また、商売では顧客情報も扱います。 今の時代、データは資金繰りと同じくらい大事です。 システムやデータの管理を IT ベンダーに丸投げするのではなく、自社でプロ人材を採用する。 チーフデジタルオフィサーなどを置いて、DX を経営の中心に据える。 こうした取り組みはサイバー攻撃からデータを守る観点でも重要だと思います。」 日本の大企業では、IT 部門はどちらかというと軽視されているケースも少なくない。 しかし、今こそ優秀な人材を確保して DX に取り組むべきだと井上氏は提言する。 「DX の人材育成はすぐにはできず、中・長期的に取り組むことが必要です。 その際に役員が年をとった人ばかりでは無理な部分もあるでしょう。 今の若い人はデジタルに慣れている人も結構いますので、若い人の力を信じて入れ替えていく。デジタルが得意な若手を起用していくことが大事だと思います。」 経済安全保障で鍵を握る「個人情報」 井上氏によると、企業が中国をはじめ世界の国々を相手に取引をする際に、日本では見過ごされている点があるという。 それは個人情報の重要性に対する認識の甘さだ。 海外ではセキュリティクリアランス (SC)、日本語で適格審査と呼ばれる制度がある。 政府の重要情報を扱う場合には SC の資格が必要で、海外の民間企業では SC を持った社員が政府から重要情報を聞き出す役割を担っている。 政府側も SC を持った民間人にしか対応しない。 SC の制度は国家の機密情報を共有しあっている米国、カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランドのいわゆる「ファイブ・アイズ」の 5 カ国や、韓国にもある。 日本は個人情報保護を盾に SC 制度が導入できない状況にある。 そのことがかえって、海外への個人情報流出を招いている可能性があるという。 「あえて波紋を呼ぶようなことを指摘すると、日本は個人情報保護を掲げて守ることを意識しているわりに、漏洩などの問題が起きています。 もっと言えば、スパイ防止法がない国なので、中国などからは "やられ放題" です。 これからは日本でも、政府の重要情報を扱う人や企業で開発のトップ機密を扱う人は、SC の資格が必要ではないでしょうか。 異性関係や金銭関係でつけ込まれる点があると、その人が政治家や官僚であってもスパイにならないとは言い切れません。 また国際的な共同開発をする場合に、スパイではないことの証明ができなければ機密情報を出してもらえないことも今後想定されます。 しかし、日本で SC の制度を入れるというと、プライバシーが暴かれるとか、個人情報が悪用されるとか言って強い反対の声があがることが予想されます。 その背景には、政府が開示すべき情報を開示しなかったり、隠したりしていることで、国民が政府を信用していないことがあります。 それでも世界の情勢が変化する中では、公文書の管理や開示のルールをしっかり作ることと、SC のような制度を導入することを、両輪で考えていくことが今後は必要ではないでしょうか。」 中国による「見えない侵略」 安全保障は陸・海・空の装備力だけでなし得るものだと従来は考えられていた。 しかし、中国による「見えない侵略」は米国や日本、世界各国で進んでいると考えるのが自然だ。 政府も、企業も、個人も、経済安全保障の視点で備えることが急務だと井上氏は訴える。 「中国の考え方は戦わずして勝つ、いわゆる孫子の兵法です。 戦う前に相手国の軍事機密を全部握る。 相手国の技術力を使って、自国の軍事力を向上する。 2000 年前の孫子の兵法が今に生きているわけです。 もしかすると時すでに遅く、中国は日本から奪うものなどないと思っているかもしれません。 それでもどう備えていくのかを、今こそ考えるべきです。」 (田中圭太郎、ITmedia = 10-7-21) |