基準地価が 3 年ぶり下落 三大都市圏で急ブレーキ

国土交通省は 29 日、土地売買の目安になる 7 月 1 日時点の基準地価を発表した。 住宅地、商業地、工業地などを合わせた全用途の平均は前年より 0.6% 下がり、3 年ぶりに下落した。 昨年は 0.4% の上昇だった。 新型コロナウイルスの感染拡大で訪日客が激減したことなどが響き、都市部の商業地を中心に上昇基調が一転した。 商業地は、前年の 1.7% 上昇から 0.3% 下落に転じた。 下落は 5 年ぶり。 住宅地は、0.7% 下落で前年より下落幅が 0.6 ポイント拡大した。 新型コロナによって、訪日外国人客がほぼいなくなったほか、外出自粛や休業要請で国内の経済活動も停滞。 感染がいつ収まるのか分からない先行きの不透明感もあり、各地の地価が軒並み悪化した。

とくに、これまで地価の上昇を引っ張ってきた三大都市圏(東京、大阪、名古屋)での急ブレーキぶりが目立つ。 三大都市圏の下落した地点数の割合は全体の 44.6% で、前年より 25.4 ポイントも拡大。 牽引役だった商業地に限ると、名古屋は 8 年ぶりに下落に転じ、前年の 3.8% 上昇から 1.1% 下落になった。 東京、大阪は上昇を維持したが、上昇幅は東京が前年の 4.9% から 1.0%、大阪が 6.8% から 1.2% と、いずれも大幅に縮小した。 東京、大阪も 7 月 1 日までの半年間でみると、下落に転じている。

都市部では近年、東京五輪を控え、外国人客の増加を見込んだホテルや商業施設の開発が地価を押し上げていたため、新型コロナの影響が強く出たとみられる。 1 平方メートルあたり 4,100 万円と全国の最高価格だった東京・銀座 2 丁目の明治屋銀座ビル周辺は、外国人客の激減で売り上げが減り、地価も前年の 3.1% 上昇から 5.1% 下落に転じた。 一方、沖縄や北海道のニセコといったリゾート観光地は、上昇率は鈍化したものの、高い上昇率を維持した。 商業地の上昇率トップ 10 のうち沖縄は 7 地点を占め、北海道の倶知安(くっちゃん)と長野県の白馬もトップ 10 に入った。 外国人客は減っているものの、感染収束後を見越したホテルなどの開発意欲がなお旺盛だという。 (木村聡史、高橋尚之、asahi = 9-29-20)


電力容量市場、国民負担 1.6 兆円 当初想定の 1.5 倍

国が 2024 年度に始める電力市場の新制度で、最大 1.6 兆円の国民負担が生じることになった。 7 月にあった新市場の入札結果が今月公表され、価格が当初想定の 1.5 倍に膨らんだ。 国側は「想像していなかった」と戸惑い、制度ルールの一部見直しを始めた。 1.6 兆円は最終的に電気料金で回収されるため、単純計算だと 1 キロワット時 2 円の上昇要因。 平均的な家庭(月 260 キロワット時)の場合、1 カ月 500 円ほどの値上げにあたる。

新設されるのは、発電所の設備を確保する「容量市場」。 将来の電力不足を防ぐために発電所の維持・建設費を捻出するしくみだ。 4 年後の 24 年度に必要な容量(約 1.8 億キロワット分)の初入札が 7 月にあり、発電会社が参加した。 当初予定の 8 月末から遅れて 9 月 14 日に公表された落札結果によると、価格は 1 キロワット 1 万 4,137 円。 新規建設に必要なお金をもとに国がはじいた指標価格 1 キロワット 9,425 円の 1.5 倍で、上限にはりついた。 国民全体での負担は 1.6 兆円に達し、再生可能エネルギーの負担金(今年度約 2.4 兆円)の 70% 近い水準で、消費税率の約 0.6% 分になる。

なぜ高値となったのか。 国の中間報告によると、価格つり上げなどの問題事例はなかった。 ただ、入札では一部の発電所に対し高めの値をつけることを認める経過措置があり、価格上昇につながったという。 「ここまでひどい結果になるとは予想していなかった。」 17 日の経済産業省の審議会では、委員らが相次いで入札結果を問題視し、国側は「想像していなかった」と釈明した。

容量市場は発電所を多数持つ会社がお金を多く受け取れ、発電所の少ない会社はあまり入らない。 大手電力が多くの追加収入を得る一方、新規参入した新電力は恩恵が少ない。 17 日の審議会では、新電力から「非常に高い値段。 多くの新電力が懸念していることが起こった。 (24 年に)突然、消費者の電力料金への転嫁ということが起こる(イーレックス)」、「衝撃的で受け入れがたい。 100 億円の純支出増で、事業継続にかかわる。(エネット)」と不満が相次いだ。

「海外でも例がない高価格」と指摘

一方で、大手電力 10 社でつくる電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は 18 日の定例会見で、「(価格が)高い、低いという感想はない。 指針などに沿って入札したもので、(その額が)安定供給のコストで、その必要なお金が今まで入ってこなかった」と述べた。 発電所が多い大手は小売り部門の負担が増えても、それ以上に発電部門の収入が増える。 容量市場は欧米の一部地域でも導入済みで、落札価格は指標価格を下回ることが多いが、日本では逆に 1.5 倍になった。 入札は今後毎年続くため、国は今回の結果を踏まえてルールを一部見直す考えだ。 新電力側は「1.6 兆円」の具体的な負担のあり方や水準見直しも求めている。

電力市場に詳しい山家公雄・エネルギー戦略研究所長は「海外でも例がない高価格で、大手電力にとって『ぬれ手であわ』となった。 少なくとも今回の入札結果は失敗で、制度設計を間違えた。 新電力を経営不安に陥れかねず、消費者の選択肢を増やすための電力自由化に逆行しかねない。」と指摘する。 環境団体でつくる eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)は「大手電力の寡占化が進み、電力自由化が逆戻りすることを強く懸念する」として、消費者の電力選択の権利などを守る観点から容量市場を見直すように経産省へ要請書を出した。 (桜井林太郎、asahi = 9-28-20)

容量市場> 電力自由化で低価格競争が進むと、新たな発電所建設が進まなくなる恐れがある。 そこで、国の機関が入札を実施し、4 年後に全国で必要な設備能力(容量)を確保する費用を決める。 国の機関はそのお金を発電会社へ分配し、発電所の維持・建設費に充ててもらう。 費用の原資は小売会社が利用者の電気料金から集める。

電力取引は通常、実際につくった量 (kWh) を売買するが、容量市場は設備能力 (kW) を値づけするのが特徴。 発電所建設は数年 - 10 年単位の時間と多額のお金がかかるため、費用を回収しやすくする。 国は「電力不足を防いで中長期的な料金の高止まりを抑えられる」とみる。 落札価格が低いと必要な費用をまかなえない一方、高すぎると過大な発電所を抱えるムダが生じる。 国民負担が増えるとともに、老朽石炭火力や再稼働した原発も一定の収入を得られ、「延命」につながる恐れがある。

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発電能力売買の容量市場 9 月下旬に初の入札結果公表へ

電力自由化で価格競争が進むなか、将来必要な発電所の投資をどう進めるか。 発電の能力を確保するための「容量市場」というしくみが今年度から始まった。 実際の発電量(キロワット時)でなく、発電所の容量(キロワット)に価値をつけて売買し、発電所の維持や建設を促すねらいだ。 7 月に実施された初の入札結果が 9 月下旬に公表される予定。 当初は 8 月末の予定だったが、「内容の分析・評価を継続して行う必要がある」として延期された。 この制度で原子力や石炭火力発電所の「延命」につながるとの指摘もあり、結果が注目される。

入札は年 1 回あり、4 年後の 1 年分の価格を決める。 参加するのは火力、原子力、風力や太陽光など再生可能エネルギーの発電所を持つ全発電会社。 落札した発電会社に対し、電気を売る小売会社が 4 年後に分担してお金を払う。 最終的には利用者が電気料金で負担する。 注目は落札価格。 低すぎると発電所建設の意欲を生まず、高すぎると過剰な発電所維持にもつながる。 決め方は、まず国の電力広域的運営推進機関(広域機関)が 4 年後に国内で必要な供給力などを設定。 入札の目安・指標価格は 1 キロワット 9,425 円とした。 液化天然ガス (LNG) の発電所建設費などを 40 年で回収できる水準だ。

海外の実績では取引価格は指標より大幅に安い傾向がみられる。 国内で仮に、1 キロワット 5 千円の価格となれば、100 万キロワットの発電所だと将来に年 50 億円入る。 今発電している電気は卸電力市場などで売れるため、40 年間続けば計 2 千億円の追加収入。 原発なら建設費の数割をまかなえる。 価格次第で原発新増設の弾みとなる可能性もある。

電力自由化の前は東京電力や関西電力などの大手が将来必要な電気の量を予測し、発電所建設を計画的に進め、費用を回収してきた。 2016 年の小売り自由化後は競争が激化。 燃料費のいらない再生エネ導入も進んで卸電力市場での価格は下がったが、再生エネは天候次第で発電量の変動がある。 それを調整する火力発電の役割が重要となる一方、巨額の建設費と時間がかかる。 新規建設の投資判断が難しくなっている。  このため、経済産業省は発電所建設が滞ると電力不足で料金が高止まりし、需給調整に必要な火力発電を確保できない恐れもあると判断。 米国の一部地域や英国で導入された容量市場開設を 17 年に正式に決めた。

専門家は制度の今後の行方に注目する。 電力市場のシステムに詳しい山家公雄・エネルギー戦略研究所長は「不要な老朽設備を延命させるリスクをはらむ。 安定供給を重視するあまり、必要な供給力を高めに設定すれば、国民負担が増える恐れもある。」と指摘する。 環境 NGO などは「大規模な発電設備を持つ大手電力に有利なしくみで、再生エネを扱う新電力は経営が圧迫される」と訴える。 経産省は 2 月、容量市場だけでは発電所建設への投資促進が難しく、さらに新たな制度も必要との報告をまとめた。 入札結果を踏まえて新制度の議論を本格化させるが、こちらも制度次第では原発支援につながる恐れがある。 (桜井林太郎、asahi = 9-6-20)

発電能力と発電量 : 火力や太陽光など発電所の能力は kW (キロワット)で、実際に発電した量は kWh (キロワット時)で示す。 例えば、1 万キロワットの発電所が 1 時間に生む電気の量は 1 万キロワット時。 卸電力市場が発電量(キロワット時)を売買するのに対し、容量市場はキロワットを取引し、将来の発電能力の不足を防ぐ。


7 月消費支出、前年比 7.6% 減 再び冷え込む

総務省が 8 日公表した 7 月の家計調査によると、2 人以上世帯の消費支出は 26 万 6,897 円で、物価変動の影響を除いた実質で前年同月より 7.6% 減った。 6月はコロナ禍に伴う緊急事態宣言の解除を受けて前年並みの 1.2% 減まで回復していたが、7 月は下落率が再び大きく広がった。 総務省は、長雨やセール時期のずれが影響したとみている。

前年割れは 10 カ月連続。 個別の品目では、10 万円の給付金効果もあり、家電や家具が前年水準を上回ったが、洋服は 25.3% 減、シャツ・セーター類は 17.9% 減と下落率が広がった。 小売店が例年 7 月に行うセールを 6 月に前倒しした反動や天候不順が影響したという。 通勤・通学用の定期代も 6 月に購入者が集中して前年比でプラスだったが、7 月はマイナスに転じた。 コロナ禍で不振が続く宿泊料は 39.3% 減、パック旅行費は 89.1% 減と、6 月より下落率が縮んだ。 観光振興策「Go To トラベル」の影響も一部表れたとみられる。 総務省の担当者は「新型コロナの影響は依然として続いており、今後の動向に注視が必要」としている。 (新田哲史、asahi = 9-8-20)

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景気の基調判断「悪化」のまま 6 月の消費支出は急回復

総務省が 7 日公表した 6 月の家計調査で、2 人以上世帯の消費支出は、物価変動の影響を除いた実質で前年同月より 1.2% 少ない 27 万 3,699 円だった。 前年割れは 9 カ月連続だが、下落率はコロナ危機の影響で 10% を超えた 4、5 月から大きく縮み、前年に近い水準まで急回復した。 前月比(季節調整値)でみると 13.0% 増で、増加率は比較可能な 2000 年 2 月以降で最大だった。 緊急事態宣言の解除を受けて、控えられていた消費が反動で増えたとみられる。 ただ、足元ではコロナ感染が再拡大し、この先も回復基調が続くかは不透明だ。

10 ある分類の中では、「家具・家事用品」、「住居」など 5 つが前年同月を上回った。 特にテーブル・ソファやテレビ、エアコンといった家具や家電の伸びが大きかった。 1 人当たり 10 万円の給付金効果に加え、キャッシュレス決済のポイント還元が終わる前の駆け込み購入が広がった可能性もあるという。 一方、外食や娯楽などサービス消費は回復の遅れが目立つ。 外食の飲酒代は 5 月より改善したものの、前年同月比 63.6% 減だった。

また、内閣府が 7 日公表した 6 月分の景気動向指数(速報)で、景気の現状を示す一致指数は前月より 3.5 ポイント高い 76.4 だった。 上昇は 5 カ月ぶりで、商業販売額や耐久消費財の出荷など、速報段階で得られる全指標が改善方向に働いた。 上げ幅は 1985 年以降で最大だが、3 - 5 月の急落に比べると、回復ペースは鈍い。 基調判断は景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」のまま据え置いた。 悪化は昨年 8 月から 11 カ月連続で、リーマン・ショック前後の過去最長記録に並んだ。 (山本知弘、asahi = 8-8-20)

6 月の消費支出 (総務省の家計調査から。 前年同月比の実質増減率。
▼ はマイナス。 カッコ内は 5 月。)
【支出が伸びたもの】
テーブル・ソファ111.6%(42.7%)
テレビ83.1%(23.8%)
エアコン29.6%(10.5%)
即席麺13.2%(31.0%)
【低迷が続くもの】
外食の食事代▼30.9%(▼55.8%)
口紅▼51.5%(▼67.3%)
宿泊料▼57.9%(▼97.6%)
外食の飲酒代▼63.6%(▼88.4%)
鉄道運賃▼69.7%(▼86.0%)
映画・演劇等入場料▼95.6%(▼96.7%)

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6 月消費支出、過去最大の伸び サービス消費は鈍い回復

総務省が 7 日発表した 6 月の家計調査で、2 人以上の世帯の消費支出は 27 万 3,699 円だった。 緊急事態宣言が 5 月下旬に全面解除され、買い物や外食をする動きが広がった結果、前月比(季節調整)は実質 13.0% 増と急伸した。 伸び幅は、比較可能な 2000 年 2 月以降で過去最大。 ただ、サービス消費の回復は鈍く、前年同月と比べた実質は 1.2% 減だった。 消費支出が前月を上回るのは 4 カ月ぶり。 前年同月比では消費増税のあった昨年 10 月以来、9 カ月連続の前年割れだが、落ち幅は 2 ケタ台だった 4 月や 5 月と比べて縮小した。

大きく伸びたのは家具や家電だ。 前年同月比ではテーブル・ソファが 2.1 倍、テレビが 83.1% 増と急伸した。 「一律 10 万円」の定額給付金の効果もあったとみられる。 一方、映画・演劇等入場料は 95.6% 減、航空運賃は 83.5% 減など、依然、大幅なマイナスが続く品目もあった。 サービス消費の回復の遅れについて総務省は「県をまたぐ移動が 6 月半ばまで制限されていたことに加え、感染症への警戒もあったのでは」と指摘。 7 月以降は再び感染が広がっており、「影響を注視したい」としている。 (asahi = 8-7-20)


7 月の鉱工業生産、大きく上昇 コロナ前水準までは遠く

経済産業省が 31 日に発表した 7 月の鉱工業生産指数(2015 年 = 100、季節調整済み)の速報値は 86.6 で、前月を 8.0% 上回った。 上昇は 2 カ月連続で、上げ幅は比較可能な 13 年 1 月以降で最大。 新型コロナウイルスの影響で 4、5 月に大きく低下した反動で、回復幅も大きくなっている。 業種別では全 15 業種中、12 業種で上昇した。 生産が回復基調にある普通乗用車などの「自動車工業」が、材料関連など幅広い業種を引っ張った。 基調判断の表現は「生産は持ち直しの動き」に変更した。

ただ、感染拡大前の指数は 100 前後で、その水準と比べれば、まだ低い。 主要企業による先行き予測では 8、9 月とも上昇が見込まれるが、経産省の担当者は「需要が本格的に回復したわけではない」と見ており、コロナ前の水準まで回復するには一定の時間がかかるとみている。 (asahi = 8-31-20)

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機械受注 4 - 6 月 12.9% 減 基調判断引き下げ

内閣府が 19 日発表した機械受注統計によると、4 - 6 月の船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前期比 12.9% 減の 2 兆 2,243 億円となり 4 四半期連続で減少した。 リーマン・ショック後の 2008 年 10 - 12 月以来の落ち込みで、内閣府は基調判断を「弱含んでいる」から「減少している」に引き下げた。 内閣府の集計では 7 - 9 月の受注も 1.9% 減る見通し。 機械受注は数カ月先の設備投資を先取りするとされる。 新型コロナウイルスの感染拡大による景気の不透明感から、設備投資を絞り込む動きが続いている。 機械受注の基調判断に「減少」の表現を使うのは 09 年 8 月以来となる。

4 - 6 月は新型コロナの感染拡大を抑えるために政府が緊急事態宣言を出した。 内訳をみると製造業が 9,148 億円と 16.6% 減。 非製造業は 1 兆 3,130 億円で 9.7% 減った。 合計の受注額の水準は 13 年 1 - 3 月以来の低さとなった。 3 月末に集計した見通しでは 4 - 6 月は 0.9% 減を見込んでいた。 実績が見通しをここまで大きく下回るのは比較可能な 05 年以降で初めてとなる。 内閣府によると「注文の先送りがあったようだ」という。

4 期連続のマイナスは 12 年 4 - 6 月から 13 年 1 - 3 月まで続けて減って以来となる。 7 - 9 月の予測は 6 月末時点の企業の見通しをまとめたもので、7 月以降の感染再拡大の影響は織り込まれていない。 6 月単月の実績は船舶・電力を除く民需が前月比 7.6% 減った。 減少は 2 カ月ぶり。 (nikkei = 8-19-20)

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機械受注、5 月 1.7% 増 製造業は 15.5% 減

内閣府が 9 日発表した 5 月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比 1.7% 増の 7,650 億円だった。 QUICK がまとめた民間予測の中央値は 3.1% 減だった。

うち製造業は 15.5% 減、非製造業は 17.7% 増だった。 前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は 16.3% 減だった。 内閣府は基調判断を「足元は弱含んでいる」で据え置いた。 機械受注は機械メーカー 280 社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。 受注した機械は 6 カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。 (nikkei = 7-9-20)

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5 月の工作機械受注 52% 減 中国など一部で回復の動きも

日本工作機械工業会が 23 日に発表した 5 月の工作機械受注確報によると、受注総額は前年同月比 52.8% 減の 512 億 3,900 万円で、平成 21 年 11 月以来の低い水準だった。 新型コロナウイルスの流行に伴う経済活動の停滞の影響で 20 カ月連続で前年同月実績を割った。 ただ中国など一部の国では前月比ベースで増加に転じており、経済活動の再開を受け、受注回復の兆しが見えてきたようだ。

外需は前年同月比 49.8% 減の 330 億 4,700 万円で、20 カ月連続のマイナス。 地域別ではアジアが 33.9% 減の 186 億 6,400 万円、欧州が 69.5% 減の 44 億 7,200 万円、北米が 56.8% 減の 94 億円。 いち早く経済活動を再開させた中国は前月比 22.6% 増で 3 カ月連続の増加。ドイツが 4.0% 増、イタリアも 58.9% 増とそれぞれ前月比で 4 カ月ぶりの増加。 感染拡大が続く北米でも「航空宇宙や自動車関連などの受注が増加している。 商談の遅延はあるが、キャンセルが多くはない。(米国製造技術工業協会)」という。

内需は、自動車関連での受注減により、前年同月比 57.4% 減の 181 億 9,200 万円にとどまった。 日本工作機械工業会の飯村幸生会長は今後の受注の見通しについて、「5 - 6 月を底として、経済活動の再開が本格化する 7 - 8 月には実需が動き出すのではないか」と語った。 (sankei = 6-23-20)

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4 月の機械受注、大幅減 非製造業は過去最大の落ち込み

内閣府が 10 日発表した 4 月の機械受注統計(季節調整値)で、代表的な指標の「船舶・電力をのぞく民需」は前月比 12.0% 減の 7,526 億円だった。 減少は 2 カ月連続で、減少幅は 2018 年 9 月(16.8% 減)以来の大きさ。 受注額は、消費税が 8% に増税された直後の 14 年 5 月(7,208 億円)以来の少なさだった。 受注の落ち込みを受け、内閣府は基調判断を従来の「足踏みがみられる」から、「足元は弱含んでいる」へ下方修正した。

機械受注は企業の設備投資の先行指標とされる。 業種別では、非製造業が前月比 20.2% 減と、比較可能な 05 年 4 月以降で最大の落ち込み幅だった。 前月に大型受注があった運輸・郵便が 61.0% 減、通信が 36.9% 減となった影響が大きかった。 製造業は 2.6% 減。 自動車は 0.6% 減で、受注金額は 2 カ月連続で 300 億円を下回った。 (asahi = 6-10-20)

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4 月の工作機械受注、中国向け 26% 減 5G で下げ縮小

日本工作機械工業会(日工会)が 26 日発表した 4 月の工作機械受注額(確報値)によると、中国向けの受注額は前年同月比 26% 減の 115 億円だった。 26 カ月連続の前年割れだった一方、下落率は 3 月の 43.8% と比べて大幅に縮小した。 新型コロナウイルスの影響からの脱却に向け、次世代通信規格「5G」向けなどの投資を活発化していることがあるもようだ。

中国向けの受注は足元で外需全体の約 3 分の 1 を占める。 中国市場や半導体製造装置向けに強いツガミは「中国で政府の補助金を背景にしたと思われる案件が多かった」と指摘する。 中国政府が 5G やデータセンターなどの分野をコロナ終息後の経済対策の目玉に据え、補助金などを手厚くしていることが影響しているようだ。 オークマも「中国で建機や油圧系部品向けの需要が回復している」と話す。 都市封鎖などで 1 - 2 月に停滞していた建設工事が再開し、現地の 4 月の油圧ショベル販売台数は同月としては過去最高を更新した。

とはいえ、工作機械の受注額は全体では低迷が続く。 日工会の 4 月の国内外の受注総額は前年同月比 48.3% 減の 561 億円だった。 うち外需向けは 46.3% 減の 349 億円。 中国向けは下落率は縮小したものの、新型コロナの感染が続く欧州向けは 66.7% 減の 54 億円、北米向けも 41.5% 減の 118 億円だった。 内需向けは 51.4% 減の 211 億円だった。 全業種でマイナスだったが、特に内需の約 3 割を占める自動車関連が 61.5% 減の 48 億円と落ち込んだ。 単月で 50 億円を割り込むのは 10 年 3 カ月ぶりだ。

日工会は「5G 基地局の増設やテレワーク普及でパソコンやタブレットの需要が伸び、半導体製造装置向けで需要が上向いたが、全体の落ち込みを補えなかった」としている。 (nikkei = 5-26-20)


上場企業の純利益 36% 減、減収減益 6 割 21 年 3 月期予想

新型コロナウイルスの影響で遅れていた上場企業の 2021 年 3 月期の業績予想の開示が広がってきた。 7 日までの開示を集計すると、純利益は前期比 36% 減となり 3 期連続の減益となる見通しだ。 上場企業全体で赤字となったリーマン・ショック時の 09 年 3 月期以来の落ち込みとなる。 秋以降の回復力を高めるため、踏み込んだコスト構造の見直しや事業改革が欠かせない。

7 日時点で今期予想を開示した企業は全体の 66% になった。 利益の合計額は業績がピークだった 18 年 3 月期比で半減し、1 ドル = 80 円前後の円高に苦しんだ 13 年 3 月期と同水準となる。 売上高も前期比 1 割減の見込み。 減収幅は上場企業全体が 11% 減だった 10 年 3 月期以来となり、企業は多くの製品やサービスの需要低迷に直面している。 需要減少などで最終赤字となる企業もある。 三越伊勢丹ホールディングスは店舗休業などで 600 億円の最終赤字(前期は 111 億円の赤字)を見込む。 事業環境が厳しい百貨店や航空など業績予想を出していない企業の開示が増えれば、全体の集計値が悪化する可能性もある。

今期の業績予想で、もっとも多いのが「減収減益型」で 6 割を占める。 トヨタ自動車は 20% の減収、64% の減益となる見通し。 世界販売台数が 13% 減るのが響く。 ホンダも 14% の減収、64% の減益の予想。 新興国などで二輪車販売が落ち込む。 企業が投資を手控え、設備投資関連の企業の業績も悪化する。 建機大手コマツは 15% の減収、56% の減益を見込む。 小川啓之社長は「業績回復は V 字型ではなく L 字型に近い」とみる。

環境が悪いなかでも「増収増益型」の企業は全体の約 2 割ある。 電子部品のイビデンは次世代通信規格「5G」向け基板が伸び、32% の増益を見込む。 日清食品ホールディングスは「巣ごもり消費」により即席麺が好調で最高益を計画する。 コロナ影響が今後徐々に収まり、業績も持ち直すと期待する企業も多い。 各国で都市封鎖が広がった「4 - 6 月が業績のボトム(三菱重工業の小沢寿人最高財務責任者)」との声が増えてきた。

上期と通期の両方の業績予想を開示した 585 社で集計するとその傾向が鮮明だ。 純利益は上期に前年同期比 54% 減となるのに対し、下期は 19% 増える見込み。 例年の利益の内訳は下期が 55% の割合だが、今期は下期が 65% だ。 もっとも全体の売り上げ計画では、上期(24% 減)に続き下期も 2% 減る見通し。 下期の増益はコスト削減によるところも大きそうだ。 コスト削減で利益を上積みし、日本電産は通期で「減収増益」を計画する。 永守重信会長兼最高経営責任者は「社員からも何万という改善提案が出た」とし、70% 増益を見込む。

コロナ以外でも米中対立など逆風は多く、収益強化が欠かせない。 半導体製造装置のアドバンテストは、中国の華為技術(ファーウェイ)のスマホ出荷が減るとの懸念から製造装置の引き合いが減少。 今期は 33% の減益を見込む。 セブン & アイ・ホールディングスが大型買収に乗り出すなどコロナ後を見据えた投資も増えてきた。 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券の斎藤勉氏は「今後は不採算事業の撤退や設備縮小といった構造改革が必要だ」と指摘する。 (南畑竜太、村上徒紀郎、nikkei = 8-11-20)

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上場企業 3,427 社が「新型コロナウイルス」の影響を開示
業績下方修正は約 900 社、売上高消失は 6 兆 2,566 億円

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」が全面解除され、まもなく 1 カ月を迎える。 この間、感染者数は局所的なクラスターの発生で一進一退を繰り返しながらも、企業活動は「ウィズコロナ」に向けた新しい生活様式に対する取り組みが迫られている。

6 月 24 日までに、新型コロナの影響や対応などを情報開示した上場企業は 3,427 社に達した。 これは全上場企業 3,789 社の 90.4% を占める。 業績の下方修正を発表したのは 898 社と、全上場企業の約 2 割 (23.7%) に達した。 また、898 社のうち 248 社が赤字だった。 下方修正額のマイナス分は合計で、売上高が 6 兆 2,566 億円、利益は 4 兆 682 億円にのぼった。 2020 年 3 月期決算の 2,406 社のうち、2,376 社 (98.7%) が決算短信を発表した。 減益が約 6 割を占め、新型コロナが利益の下振れに繋がった。 一方、次期(2021 年 3 月期)の業績予想では、「未定」とした企業が約 6 割 (59.7%) に達し、流動的な環境下で先行きが見通せない企業が多いことを反映している。

* 本調査は、2020 年 1 月 23 日から新型コロナの影響や対応など全上場企業の適時開示、HP 上の「お知らせ」等を集計した。
* 「影響はない」、「影響は軽微」など、業績に影響のない企業は除外。 また、「新型コロナウイルス」の字句記載はあっても、直接的な影響を受けていないことを開示したケースも除外した。 前回発表は 6 月 18 日(6 月 17 日時点)。

◇ エイチ・アイ・エス 2 度目の下方修正で通期業績予想を取り下げ「未定」に

旅行業大手のエイチ・アイ・エスは 6 月 24 日、2020 年 10 月期第 2 四半期決算を発表。 同時に通期決算の従来予想については一旦取り下げ、「未定」とした。 同社は 3 月 2 日、新型コロナによる旅行・ハウステンボス・ホテル事業への悪影響を要因として、同期決算の業績予想を、売上高で 1,250 億円、最終利益を 121 億円下方修正していた。 しかし前回公表以降、各国で外出制限や渡航制限が実施されるなか、今後も影響が深刻化することが予想され、現時点で業績に与える影響が合理的に算出できないとした。

◇ 2020 年 3 月期決算、未公表は 2,406 社中 30 社

【2020 年 3 月期決算】 6 月 24 日までに、2020 年 3 月期決算の上場企業 2,376 社(3 月期決算の上場企業の 98.7%)が決算短信を公表した。 決算作業や監査業務の遅延などを理由に、30 社が未公表となっている。 決算発表した 2,376 社のうち、最多は「減収減益」で 894 社(構成比 37.6%)。次いで、「増収増益」が 700 社(同 29.4%)だった。 増収企業(1,202 社、50.5%)と減収企業(1,174 社、49.4%)は拮抗したが、利益面では減益企業(1,396 社、58.7%)が増益企業(980 社、41.2%)を 17.5 ポイント上回った。 新型コロナによる減損や繰延税金資産の取り崩しでの損失が利益の下振れに繋がった。

【2021 年 3 月期決算見通し】 次期(2021 年 3 月期)の業績予想は、2,376 社のうち、約 6 割の 1,420 社(構成比 59.7%)が、「未定」として開示していない。 新型コロナによる経営環境の激変で、業績予想の見通しが立てられない企業が多い。 一方、次期の業績予想を開示した 956 社のうち、最多は「減収減益」の 404 社と、約 4 割 (42.2%) を占め、収益環境の悪化を予想している企業が多い。

◇ 上場企業の約 2 割が決算発表延期を公表

新型コロナウイルスの影響・対応を分類すると、「業績への影響(下振れ、懸念・未定)」以外では、「決算発表の延期」が 739 社と上場企業の約 2 割 (19.5%) に達した。 3 月期決算の発表はピークを過ぎたが、その後の決算期でも決算発表の延期を公表する企業が相次いでおり、コロナ禍での決算作業の遅れによる混乱は当面続きそうだ。 「その他(989 社)」のうち、新型コロナウイルスの影響がプラス効果になっていると公表した企業は 178 社だった。 また、新型コロナによる業績ダウンを受けて役員報酬の減額や自主返納などを表明した企業(111 社)なども目立った。

◇ 新型コロナ対応の「資金調達」は 202 社、総額は 10 兆 163 億円

事態の長期化や、「ウィズコロナ」、「アフターコロナ」に備えた対応策として、運転資金の確保や手元資金を厚くする動きが広がっている。 金融機関などからの資金調達を公表した企業は 202 社で、調達額の総額は 10 兆 163 億円にのぼった。

トヨタ自動車の 1 兆 2,500 億円を筆頭に、1,000 億円以上の調達が大手中心に 27 社で、上位 20 社中 6 社が自動車メーカーだった。多額の調達額を開示した一部企業が全体を引き上げたため、1社あたりの平均額は503億3300億円だが、調達金額レンジでは、10億円以上100億円未満が 97 社(構成比 48.0%)と、約 5 割を占めた。 業種別では製造業が最多の 60 社(同 29.7%)だった。 世界経済の悪化に備えたグローバル企業が多い。 次いで、サービス業の 51 社(同 25.2%)、小売業の 48 社(同 23.7%)と、新型コロナの影響が直撃した消費関連の業種が続き、上位 3 業種で 159 社(同 78.7%)と約 8 割を占めた。 (東京商工リサーチ = 6-25-20)


財政再建、コロナ影響でさらに遠のく PB の最新試算

政府は 31 日、財政再建の目標として 2025 年度の黒字化をめざしている国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス = PB)に関する最新の試算を発表した。 新型コロナウイルスの影響で、25 年度の PB の赤字額は高い経済成長が実現した場合でも 7.3 兆円に拡大し、黒字化は 29 年度まで遅れるとした。 PB が黒字になると、社会保障などの政策経費を新たな借金に頼らずにまかなうことができる。 しかし、今回の試算によると、20 年度はコロナ対策の 2 度の補正予算で、国の借金である国債を計 57.6 兆円発行するため、PB が 67.5 兆円の赤字まで一気に悪化する。

21 年度には経済が回復し、その後も「実質 2 - 3% 程度」の高い成長を維持するという想定でも、25 年度の PB は 1 月の前回試算の 3.6 兆円の赤字から大幅に悪化。 コロナの影響で落ち込んだ税収の回復に時間がかかるためだ。 黒字化の時期も、前回試算の 27 年度から 2 年先になる。 さらに、経済成長率が現状に近い想定では、25 年度の PB は 12.6 兆円の赤字。 試算の最終年度の 29 年度でも黒字化できないとしている。

もともと実現が危ぶまれていた財政再建目標の達成は、コロナの影響で、さらに大きく遠のいた形だ。 いまは、日本銀行が国債を市場で大量に買うことで、国債の金利が低く抑えられているため、すぐに国債が暴落するなどの財政危機は起きないとの見方が専門家の間では多い。 だが、欧米の複数の格付け会社は 6 月以降、コロナによる財政悪化を受け、日本国債の格付け(借金の返済能力の判断指標)の見通しを相次いで引き下げた。

内閣府は 25 年度での黒字化には、社会保障費の増加を一定の範囲内に抑えるいまの取り組みに加え、「これまで以上の歳入・歳出両面の改善が重要」とする。 西村康稔経済再生相は会見で「25 年度の黒字化は引き続き目指す」としたが、具体的な施策は、デジタル投資で高成長を実現すれば「不可能ではない」と述べるにとどまった。

政府・与党内では財政健全化に向けた議論はほとんどなく、今年度の政府の「骨太の方針」には財政再建目標の記述もなかった。 財務省内でも感染が収まるまでは財政健全化の議論は難しいとの声は少なくない。 足元では感染が再び国内外で広がり始め、さらなる財政支出を強いられる可能性も高まっている。 財政再建の道筋は一層不透明になっている。 (山本知弘、津阪直樹、asahi = 8-1-20)


「最初の設計が甘い」赤字の農水ファンド、検証まとめる

農林水産省は 31 日、所管する官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構 (A-FIVE)」の事業が失敗した原因を検証した報告書を公表した。 農産品の加工、流通、販売を手がける 6 次産業化の支援組織。 赤字続きで、2025 年度末の解散が決まっている。

報告書では、機構設立の段階で投資先の成長率を高く見積もり、人件費や家賃などがかさむ組織になったと指摘。 高収益を得ようと投資先を絞り込んで投資実績も伸び悩み、運営費ばかりがかさむ赤字体質になったなどとしている。 農水省の担当者は「最初の制度設計が甘かった」と述べた。 機構は 13 年の設立から 5 年間で 4 千億円の投資をめざしたが、実際は昨年度末で 138 億円にとどまった。 解散時の累積赤字は 120 億円にのぼる見通し。 (高木真也、asahi = 8-1-20)


日本の労働生産性は「韓国以下」世界 34 位の衝撃
最新版「世界ランキング」の凋落が止まらない

オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「@  人口減少によって年金と医療は崩壊する」、「A 100 万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、新刊『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。

世界 34 位に落ちた日本人の労働生産性

日本の労働生産性は、実際どれほどなのでしょうか。 最新のランキングをご紹介します。 最新の世界銀行のデータによると、2019 年の日本の労働生産性は前年より 1 つランクを落とし、世界第 34 位でした。 目を覆いたくなるような低い順位です。 このランキングは各国の購買力調整後の数字を比較しているので、為替やデフレの影響は調整されています。 デフレを言い訳にして、日本の労働生産性が極めて低いという現実から目を背けることは許されません。

驚いたことに、直近の日本の労働生産性は韓国(1991 年時点では世界 51 位)や、トルコ(同 47 位)、チェコ(同 35 位)、スロベニア(同 33 位)といった国にまで抜かれてしまいました。 つい最近まで、こと経済に関してはまったく足元にも及ばないと思っていたこれらの国々は、日本を凌ぐ勢いで労働生産性を伸ばしているのです。 逆に言うと、日本の労働生産性がそれだけ著しく伸び悩んでいるということです。 労働生産性の低さは、日本経済の最大の問題です。 なお日本の労働生産性は、日本経済が絶頂期にあった 1991 年でも世界 26 位と決して高くはなかったので、構造的な問題であることが推察できます。

日本の全体の生産性が世界 28 位となっている理由は、労働参加率が向上しているからです。 毎年毎年、多くの人が、労働生産性が低く、それゆえ給料水準も低い仕事をするために採用されています。 とはいえ、日本の労働生産性もまったく上がっていないわけではありません。実際、1991年以降、現在までに日本の労働生産性は1.2倍に増えています。しかし、世界銀行が定義している高所得国の生産性は、同期間に1.4倍になっているのです。

1991 年の日本の労働生産性は高所得国の 89.2% でしたが、2019 年には 75.8% まで下がって、1991 年以降の最低水準に落ち込んでいます。 日本人の給料が低迷している原因は結局、生産性が高くなっているにもかかわらず、労働生産性があまり上がっていないからです。

労働生産性を高めるのは経営者の責任だ

日本人の労働生産性が低いという話をすると、「自分はがんばっているのにバカにされた」と怒りを覚える人がいるようですが、経済学的には、労働生産性を高めるのは第一義的に経営者の責任です。 また、実際に労働生産性を大きく高めることができるのは、経営者やそれに準ずる経営層だけです。 労働生産性を高めるために労働者 1 人ひとりができることは、きわめて限られます。 なぜなら、労働者自身は通常、機械化を決める権利も、自分がどんな仕事をするかを選ぶ権利もないからです。 生産性の低い仕事を機械化したうえで、より生産性の高い仕事に労働者を再配分するという決断は、経営者しか下せないのです。

では、なぜ日本の経営者はこれまで、労働生産性を高めてこられなかったのでしょうか。 その根本原因は多かれ少なかれ、政府の経済政策と規制にあります。 日本政府はこれまで、小規模事業者を中心に、成長しない企業も、経済合理性を失った企業も守りすぎていたのです。 政府に守られた企業は創意工夫をしなくても存続できてしまうため、経営者は経営を改善したり成長を目指したりするモチベーションを失ってしまいました。 その結果、労働生産性の低い企業が蔓延してしまったのです。

要は、意図的ではないにせよ、経営が下手な企業経営者に同情するあまり、多くの国民を低賃金の地獄に叩き込んできたのです。 その象徴が「低すぎる最低賃金」であり、拡大し続ける「非正規雇用」であり、途上国からの「外国人労働者」です。 MMT によって政府支出を増やしても、それによって比較的容易に生産性を高められるのは完全雇用を達成するまでです。 それ以降、政府支出を活かすには、労働生産性を高める政策、産業構造の改善を促進する政策が不可欠です。 そうしないと、政府支出を継続しても、ただインフレになるだけです。 (デービッド・アトキンソン・小西美術工藝社社長、東洋経済 = 7-16-20)