回復鈍い中国の消費、低所得層の「コロナ節約志向」顕著

[北京] 中国では新型コロナウイルスの感染がほぼ抑制されてから何カ月も経過し、消費者はゆっくりと財布のひもを緩め始めている。 だが、ロックダウンのつらい日々を過ごした多くの低所得世帯は、なお精神的なショックが残り、節約志向をやめようとしていない。 中国の今年第 1 四半期は、1992 年の四半期ベースによる統計開始以来、初のマイナス成長を記録した。 その後の中国経済の回復ぶりは、他の多くの国よりもかなり先行しているとはいえ、まだ全面的に上向いているわけではない。 特に消費の弱さは、習近平国家主席が推進する内需主導型の「双循環」モデル達成の足を引っ張る恐れもある。

実際、製造業はロックダウンに伴う落ち込みから比較的素早く立ち直った半面、消費者信頼感の改善は緩やかなペースにとどまっている。 小売売上高が前年比でプラスに戻ったのは 8 月になってから(0.5% 増)で、1 - 8 月の前年同期比は 8.6% 減とさえない。 また、イタリアの高級ブランド・プラダのバッグなど一部ぜいたく品の支出は「コロナ危機」を迅速に乗り切ったが、日々の生活に欠かせないモノやサービス消費の回復は鈍い。 アナリストによると、これは低所得世帯が特に慎重な態度を維持していることが主な理由だ。

河南省新郷市の自営業の内装職人でロックダウンの 4 カ月間仕事ができなかったという Zhou Ran さんは「我が家は貯蓄で生活しているが状況は厳しい。 本当に必要な物しか買わないようにしていた。」と語る。 1 - 8 月の小売売上高の内訳を見ると、衣料品・靴は依然として 15% 減、ガソリンやその他石油製品は 17.3% 減で、食品・飲料は 26% を超えるマイナスだった。

資産格差拡大

中国の消費者心理がどれぐらいのスピードで改善しているかを探る上で、アナリストは 10 月 1 日の国慶節から同 8 日までの大型連休における小売売上高に注目するだろう。 ただ、5 月に再び働き始めた Zhou さんは、内装仕事の依頼がなかなかない。 「多くの人が現金を手元に置こうとして、住宅改装は先送りされている。今年は誰にとっても苦しい」と打ち明け、自分がお金を使うどころではない様子だ。 Zhou さんの妻は 3 人の子供の面倒を見なければならず、現在は収入はない。

アリババ傘下の金融会社・アントの調査部門と中国の西南財経大学が共同で公表した四半期リポートでは、コロナ流行に対する低所得層の脆弱性が浮き彫りになった。 年収 10 万元(1 万 4,800 ドル)未満の世帯のほとんどは、第 1 四半期と第 2 四半期に資産が減少した一方、年収 30 万元超の世帯は資産増加が続いたという。 ガベカル・ドラゴノミクスのアナリスト、Wei He 氏は「所得が比較的高い世帯は、恐らく貯蓄を増やした。 なぜならロックダウン中は消費の縮小を強制されたからで、今は支出を拡大する態勢にある」と指摘。 家計の正常化に「より長い道のり」をたどることになるのが低所得世帯だと説明した。

京東商城(JD ドット・コム)のデータからは、6 月に中小の都市や低所得層の消費の伸びが、主要都市と高所得層に比べて弱かったことが分かった。 同社のフィンテック部門 JD ディジッツのチーフエコノミスト、Shen Jianguang 氏は、これは普段とは逆の動きだと指摘する。 多くの低所得労働者を雇っている中小企業が、コロナの影響をより大きく受けたからではないかというのが同氏の見方だ。

低所得層の苦境が中国の消費に及ぼす打撃は、相当大きくなる可能性がある。 李克強首相は 5 月の演説で、月収が 1,000 元程度しかない労働者は 6 億人前後存在すると明らかにしていた。 6 億人といえば全人口の 4 割を超える。 このため中央政府は、過去数カ月で雇用安定と家計支援に向けた幾つかの政策を打ち出し、例えば地方政府や企業は数十億元分の買い物券を配布している。

国内市場に軸足

もちろん世界全体で考えれば、中国の消費回復は不均等であるとはいえ、明るい部分であるのは確かだ。 他の主要国は感染第 2 波と格闘中で、再び経済活動を制限する動きも出てきている。 これまで輸出に依存してきた中国の幅広いセクターは、外需の冷え込みを背景に、政府の熱烈な後押しを受けて国内市場に軸足を移した。 製造業のサプライヤーが直接、国内消費者に製品を販売するのを手助けするアリババのアプリは、3 月の配信開始以降、120 万社がサインアップしている。 アリババの広報担当者は、その半分近くが元来は輸出専門企業だったと説明した。

江蘇省のある歯ブラシメーカーの幹部 Tu Xinye 氏の話では、今や受注総数の 4 割を国内が占め、以前の 10% から急増した。 それに伴って売上高もコロナ前の 9 割に回復したという。 だが、同氏は規模がより大きく、ライバルが乏しい「ブルーオーシャン」だった輸出市場と異なり、国内は競争がし烈だと述べ、新たな課題が浮上してきたとこぼした。 (Sophie Yu、Gabriel Crossley、Yawen Chen、Reuters = 9-26-20)


55 万円支払い拒否のツケ、ぜいたく禁止 中国の大富豪

飛行機に乗ってはダメ、旅行や夜のクラブでの飲食も禁止 - -。 中国の裁判所が、約 2 千億円の個人資産があるとされる大手航空会社グループの会長に対し、こうした高額な消費を制限する命令を出した。 中国の報道によると、同グループが約 55 万円の支払い命令に応じなかったため、代表者として責任を取らされた。 命令を受けたのは、海南航空やホテルなどを経営する海航グループの陳峰会長。 傘下の企業が陝西省西安の取引先と契約トラブルを起こし、西安の裁判所が 3 月、海航グループに約 3 万 7 千元(約 55 万円)の支払いを命じた。 しかし同グループは今月 15 日までの支払いに応じなかった。

このため裁判所は、飛行機や日本の新幹線にあたる高速鉄道、列車の 1 等車、客船の 2 等客室以上の利用を禁止。 星付きホテルへの宿泊のほか、不動産の購入やゴルフ、夜のクラブでの飲食、旅行なども禁じた。 中国では負債を返済させたり、無責任な借金を思いとどまらせたりするため、消費を制限する制度がある。 中国メディアによると、8 月には消費制限令に背いて飛行機に乗った女性が、8 万元(約 125 万円)の罰金を科せられた例もある。

中国の民間調査会社「胡潤百富」によると、陳会長の 2019 年時点の個人資産は約 130 億元(約 2,050 億円)。 米ニューヨーク・タイムズによると、ニューヨークのセントラルパークを見下ろし、世界で最も高価ともいわれたタワーマンションの 1 フロアをまとめ買いしたこともあるという。 海航グループは、ヒルトンホテルのグループやドイツ銀行などの大株主になるなど世界各地で積極的に投資してきた。 しかし巨額な負債が積み上がり、今年 2 月に海南省政府が経営に参画するなど、事実上の公的管理に置かれている。

海航グループ傘下の企業が裁判所の支払い命令に応じれば、消費制限令は解除される。 朝日新聞は同グループに支払いに応じるか尋ねたが、21 日までに回答は得られなかった。 (広州 = 奥寺淳、asahi = 9-21-20)


中国、報道官発言に批判相次ぐ 「人民こそ共産党の堅固な鉄壁」

【北京】 中国外務省の報道官が、共産党による統治を批判した米政権への反論で「中国人民こそが共産党の堅固な鉄壁だ」と述べ、国内で反発を買っている。 一党支配を守るために国民に犠牲を強いるかのような発言で、インターネット上では「米国に対する盾になれと言うのか」と批判的な声が相次いでいる。 ポンペオ米国務長官は 8 月の演説で、中国共産党による統治を批判した。 中国外務省の趙立堅副報道局長は同 27 日の記者会見でこれに反論し「党と中国人民は魚と水のように切っても切れない関係だ」と強調。 人民は党の「金城鉄壁」であり「打ち破れると思うな」と米側をけん制した。 (kyodo = 9-18-20)

〈編者注〉 中国の人々の意識(の変化)を知る上で、非常に興味深い報道です。 「中国共産党は中国人民のために何ができるのか」を問うのであり、決してその「反対」ではないと、明確に意識している中国人民です。 意識の変化を読み誤ると、「強固と思われる中国共産党でも一挙に崩壊することもありうる」ことを中国共産党幹部は知っておくべきでしょう。


中国、食べ残しが御法度に 習氏の大号令にやりすぎの店

中国で、食べ物のむだをなくす「光盤行動(食べきりキャンペーン)」が広がっている。 きっかけは習近平(シーチンピン)指導部の呼びかけだ。 新型コロナウイルスや米中対立などの逆境のなか、14 億人の胃袋を満たすという重い課題を背負う政権。 運動の背後に、その危機感が見え隠れしている。 「これ、包んでくれますか。」 8 月、北京の四川料理店では男性客がこう店員に声をかけていた。 店員はテーブルの皿に残った料理を手際よくパックに詰め、男性に手渡した。 この店では最近、客が食べきることができるように量も値段も半分にした「半人前」メニューを始めた。 料理を食べきるか、持ち帰る客には 6 元(約 90 円)の割引券も渡す。 女性店員は「残飯はかなり減った」と話す。

「浪費は恥という雰囲気つくれ」

共産党機関紙の人民日報によると、中国の食べ残しは都市部だけで年間 1,700 万トンを超え、約 3 千万 - 5 千万人の 1 年間分の食事量に相当する。 食べきれないほどたくさんの食事を出すことが客へのもてなし、と考える習慣が残っていることも食べ残しが多い要因とみられる。 食べきりキャンペーンが広がったきっかけは、特に重要視する課題への取り組みを呼びかける「重要指示」を 8 月 11 日に習氏が出したことだ。 習氏は「浪費は恥、節約は栄誉だという雰囲気をつくれ」と求めつつ、新型コロナの流行に触れて、食糧安全保障についても危機感を持つよう呼びかけた。 新型コロナが世界の食糧生産や流通に影響を及ぼしていることが念頭にあるようだ。

習氏は 7 月と 8 月には吉林省と安徽省の農地を相次いで視察し、「食糧生産をおろそかにするな」などと指示した。 習氏の号令を受け、中国メディアは連日、「節約は中華民族の伝統だ」などと伝えている。 食べ残しに罰金を科したり、宴会で参加者より一人分少ない量の食事しか注文を受けない飲食店も増えた。 ネット上で流行していた大食いの生中継も、業界団体が「浪費を招く」と禁止した。

一方、「行き過ぎ」が議論を呼ぶこともある。 湖南省の飲食店は店内に体重計を置き、客の中でも体重の軽い人は食べる量も少ないという想定で、少ない量のメニューをおすすめする仕組みを取り入れた。 天津市の食堂は食事を男性用と女性用に分けて提供。 値段は同じだが、女性用はごはんの量を約 8 割に減らした。 体重や性別によって食べる量を判断するのは、「不平等」との指摘があった。 ネット上では、江西省の小学校で給食を残した児童を立たせ、その前で副校長が怒りながら食べ残しを平らげて見せる動画も出回った。 地元当局は「副校長は過ちを犯した児童を教育しようと考えた」と説明したが、SNS では「完食を強要すべきではない」との批判も起こった。

そんな波紋も広がるなかで、共産党指導部は食べ残し防止の法制化も進めている。 全国人民代表大会(全人代)常務委員会は 8 月に専門の研究グループを設けた。 報道官は「取り締まりや懲戒措置を提案する」としており、浪費行為には罰則が設けられる見通しだ。 ただ、これには冷ややかな声も少なくない。 北京の弁護士 (35) は「浪費を減らすことに反対する人はいないが、法律でしばるべき問題なのか。」 SNS でも「火鍋の汁まで飲み干せというのか」、「食べ物の無駄よりも、法律の無駄の方が問題だ」といった声が出ている。

「米国に頼れない」危機感も

共産党指導部が節約を呼びかける背景には、将来的な食糧の確保への不安がありそうだ。 新型コロナの流行に加えて、中国では対米関係の悪化により、急速に食の安全保障への危機意識が高まっている。 中国の食料自給率は約 95% だが、政府シンクタンクの中国社会科学院農村発展研究所は 8 月、農村人口の減少などで 25 年ごろまでに年間 1.3 億トンの食糧不足に陥る可能性があるとの報告書を発表した。

農業農村省幹部はその後の会見で、不足分は「主に大豆だ」と明らかにした。 中国は大豆の 8 割以上を輸入に頼る。 関係悪化が続く米国はブラジルに次ぐ 2 番目の輸入元で、全体の約 3 分の 1 を占める。 大豆は食用油の原料となるほか、家畜の飼料にも使われており、不足すれば中国の人々の食生活に欠かせない豚肉などの生産や物価に大きな影響が及ぶ。 歴史的にみても、人民の胃袋を満たすことが政権維持の要であることを共産党指導部は熟知している。

農業農村省は昨年 3 月、「複雑化する国際貿易環境に対応する」として大豆の国内生産量を増やす計画をまとめた。 トウモロコシや小麦との輪作などを進めているが、農業人口の減少などもあり、大幅に増産は難しいのが現状だ。 輸入の確保と増産がおぼつかなければ、消費を減らすしかない。 「食べきりキャンペーン」には、そんな狙いが込められていると見方は強い。 米中関係が専門の研究者は「米国に頼らない環境づくりが必要だ」と一連の動きの目的を説明する。 (北京 = 高田正幸、asahi = 9-18-20)

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習氏「食べ残し断固阻止」 食料不足懸念か - 中国

【北京】 中国の習近平国家主席が「飲食の浪費行為の断固阻止」を指示し、食べ残しの根絶を目指す方針を打ち出した。 習氏は、宴席で食べ切れない量の食事で歓待する中国の慣習を問題視。 国内で発生した水害や米国との関係悪化で食料不足に陥ることへの懸念もあるようだ。 共産党機関紙・人民日報は 12 日付と 13 日付の 1 面で、習氏が「飲食物の浪費は衝撃的で心が痛む」と語り、食料を無駄にしないための対策を取るように命じたと伝えた。 中国都市部の外食産業で 1 年に出る残飯は 1,700 万 - 1,800 万トンと推定され、3,000 万 - 5,000 万人分の 1 年間の食料に相当するという。

習氏は 2013 年から食べ残しをしないように求めている。 習氏が改めて指示を出したのは、食料問題が切迫する可能性があると判断しているからだ。 習氏は「食料の安全確保について常に危機意識を持たないといけない。 世界的な新型コロナウイルスの感染拡大はわれわれに警鐘を鳴らしている。」と述べた。 中国では今年、長江流域を中心に大雨による水害が起きている。 食料の輸入先である米国との関係が極めて悪化していることも不安材料だ。 習氏は米国との対立が深まる中、「自力更生」、「持久戦」を訴えてきた。 今回の「食べ残し禁止」の呼び掛けも長期的な覚悟を国民に求めたものといえる。

習氏の指示を受け、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、飲食の浪費を抑制するための法整備について検討を開始。 国営中央テレビは、ネット上で人気となっている「大食い」を誇る動画を「食べ物を無駄にする極端な事例」と批判し、食料の節約を訴えた。 (jiji = 8-16-20)


ワクチン製造過程で菌漏れ 中国でブルセラ症 3 千人感染

中国西部・甘粛省蘭州市の製薬工場で昨年夏、動物向けのブルセラ症ワクチンの製造過程で菌が漏れる事故があり、周辺住民ら 3 千人以上が感染していたことが分かった。 蘭州市の衛生当局が 15 日、発表した。 感染者数について、当局はこれまで 203 人と説明していた。 発表などによると、事故が起きたのは動物用ワクチンを製造する「中牧蘭州生物薬工場」。 昨年 7 - 8 月、工場内で使用期限切れの消毒剤を使っていたため、滅菌が不十分なままブルセラ症の原因菌が混じった空気が排出され、工場周辺に漏れた。 工場従業員のほか、近くの家畜研究所や周辺住民ら延べ約 2 万 2 千人を検査したところ、9 月 14 日までに 3,245 人の感染が確認されたとしている。

ブルセラ症は家畜に多い感染症で、人にも感染する。 感染すると発熱などを起こし、死に至ることもある。 当局は感染者の健康状態については明らかにしていない。 蘭州市当局などは昨年 12 月に事故の発生を発表した際、確認できた感染者は 203 人とし、「排気量や風向きなどから、大量の感染者は発生しない」と説明していた。 だが、中国誌「財新」が今月 11 日、「今年 2 月末までに、これまでの当局発表より十数倍多い 3 千人以上の感染者が確認されていた」などと報道。 当局の 15 日の発表は同誌の記事を認める内容で、報道を受けて急きょ発表したとみられる。 (上海 = 宮嶋加菜子、asahi = 9-16-20)


中国の国内観光収入、今年は 3,940 億ドルに半減へ = 報告書

[北京] 中国政府系の中国旅行研究院によると、今年の同国の国内観光収入は、新型コロナウイルスの流行を背景に 52% 減の 2 兆 7,600 億元(3,940 億ドル)となる見通し。 今年の国内旅行者の数は 43% 減の 34 億 3,000 万人と見込まれている。 14 日の報告書で明らかにした。 中国では経済活動がおおむね再開し、航空輸送能力も新型コロナ危機前の 90% 以上に回復している。

ただ政府統計によると、今年上半期の国内旅行者は前年比 62% 減の 11 億 7,000 万人、観光収入は 77% 急減した。 中国旅行研究院は「今年下半期の観光産業については比較的楽観している」と述べた。 上海の旅行会社の幹部は、新型コロナで大打撃を受けたと指摘。 「他の省への旅行規制が 7 月中旬に解除されるまで、半年間にわたって基本的に業務が凍結状態にあった」と述べた。 報告書によると、中小都市が人気の観光スポットとなり、国内観光収入への寄与度が増えたという。 (Reuters = 9-15-20)


中国でザリガニの養殖が激増、生産者ウハウハも穀物不足懸念

中国では若者を中心にグルメ化が進んでいるが、「小さなロブスター」と呼ばれるザリガニの消費が急増している。 その年間生産量は 2003 年から 2018 年の 15 年間で 30 倍以上増加して中国全土で 160 万トンを超え、取り扱うレストランなどの関連産業を含めると数兆円規模のビッグビジネスになっていることが分かった。 その一方で、ザリガニの養殖に必要なため池を作るために、水田や畑などを浸水させることから、地域によっては、コメや麦などの穀物や野菜や果樹の生産量が半減。 そのため、今後の中国の食糧安全保障が危機的な状況になることを懸念する声が出ている。

中国農業農村省(日本の農林水産省に概ね相当)傘下の中国農民報などによると、同省は農家の所得向上の手段の一つとして、ザリガニの養殖を奨励しているという。 これは習近平国家主席が推進している貧困撲滅による「小康状態(生活するのに不安のない状況)」の実現と密接に結びついている。 ある農民は同省傘下の中国農業科学院の研究者に対して、米の生産からザリガニの養殖に転業したことで、年間所得が倍以上になったと報告している。

同科学院によると、2018 年にザリガニの養殖池に使用された 110 万ヘクタールの土地のうち、75% が水田を転用したものであり、今年の年末に 130 万ヘクタールまで増加すると予測されている。 特に、中国全体のザリガニの生産量の 90% 以上を占める湖北省、湖南省、安徽省、江蘇省、江西省の上位 5 省のザリガニの養殖池の面積は 2012 年から 2018 年の間に 2.8 倍に増加したという。 これらの 5 省を含む揚子江(長江)流域の地域の養殖池の面積の半分は、66 万 7,000 ヘクタールもの農地を転用したものであることが分かっているという。

このため、農業政策を担当する胡春華副首相は「穀物などの耕地を漁業生産目的のために過剰に転用することは中国の食糧安全保障政策を危うくすることにつながりかねない」と述べて、強い危機感を表明している。 しかし、その一方で、地元民の貧困解消を最重要目標としている地方政府関係者は手っ取り早く収入の増加につながるザリガニ生産を推奨しており、地方政府と中央政府の農業政策のねじれ現象が起こっているようだ。

これについて、ネット上では「貧困層がザリガニ生産に熱心になるのは当たり前のことだ。 政府は穀物の買い上げ価格を上げるほか、新たに土地を開墾するなど穀物用の農地を増やすべきだ。 それでも、穀物が足りない場合、政府は膨大な予算を軍事費にかける前に、不足している穀物などの食糧の輸入予算に充てるべきだ。」などの意見が書き込まれている。 (News Post/Seven = 9-5-20)


中国でレストラン倒壊、29 人死亡 宴会の主役が土下座

中国山西省臨汾市で 29 日午前、レストランが倒壊し、客ら 57 人が下敷きになった。 国営新華社通信などによると、このうち 29 人が死亡、28 人が重軽傷を負った。 報道によると、現場では当時、80 歳を迎える男性の長寿を祝う会が開かれていた。 中国政府は同日、重大事故として同省政府に調査を命じた。 一部の現地メディアは、レストランは増築されており、1 階部分から倒壊したと報じた。 中国のネット上では、宴会の主役だった男性が関係者に土下座して謝る姿に対し、「謝るべきなのはおじいさんではない」と、同情の声が寄せられている。 (asahi = 8-30-20)


中国でまた感染症、493 人がこの病原菌に感染 - 台湾メディア

8 月 23 日、台湾・自由時報は、中国で赤痢菌の集団感染が発生したと報じた。 記事は、今年に入ってから中国では新型コロナウイルスの他にペスト、新型ブヤニウイルスなどのウイルス感染が発生しているとした上で、安徽省寿県政府が 23 日夜に「20 日以降同県保義鎮で住民 493 人が発熱、嘔吐、腹痛、下痢などの症状を訴えて、治療を行っている」とし、省などとの合同調査の結果「赤痢菌感染によるものと判定した」と発表したことを紹介した。

そして、台湾衛生福利部の情報として、赤痢は熱帯、亜熱帯地域で見られる伝染病で、監獄、託児所、療養施設、難民キャンプなど人が多く集まる場所で集団感染が起こりやすいと説明。 また、水道が普及していない、あるいは衛生環境が悪い地域で特に発生しやすく、汚染された飲食物で地域的な大流行を引き起こすとも解説している。

記事は、赤痢の集団感染が発生した同県は洪水災害が頻繁に発生する長江下流付近に位置しており、水質汚染による感染発生の可能性があると指摘。 現地住民からは「飲料水が黒くなった」という情報も出ているとし、現地政府が感染拡大防止のため 21 日より水道供給を停止してさらなる処置を実施していると伝えた。 (RecordChina = 8-24-20)


武漢のプールに数千人 観光客呼び戻しに当局も支援

新型コロナウイルスの感染が最初に広がった中国湖北省武漢市では、観光客を呼び戻そうと地元政府による支援策が展開されている。 徹底した検査で安全性をアピールしつつ、往来を回復させたい考えだ。 市内にあるテーマパークでは 7 月から連日、音楽イベントを開催。 AFP 通信によると、15 日に大型プールで開かれたイベントには数千人が集まり、すし詰め状態になった。 同市政府によると、施設の入場者は 50% に制限しているが、隣接地域の住民の入場料を半額にしており、週末は 2 万人近くが訪れているという。

市内の代表的な観光地である黄鶴楼などでも 8 月から無料開放が始まり、観光客でにぎわっている。 湖北省政府は全国を対象にした観光優待チケット 5 万枚の発行も決めた。 武漢市では 6 月以降、市外からの訪問者を除き新たな感染者は出ていないとされる。 湖北省政府は 5 月、約 1 千万人の武漢市民を対象に PCR 検査を実施するなど、不安を取り除こうと懸命だ。 観光振興は経済面でもカギを握る。 武漢市の 1 - 3 月期の域内総生産は、前年同期比マイナス 40.5% だったが、上半期全体では同マイナス 19.5% まで回復した。 (北京 = 冨名腰隆、asahi = 8-18-20)


中国、核技術者 90 人が集団辞職 副首相主導で調査、実態解明へ

【上海】 中国国務院(政府)直属の中国科学院の研究所から原子力関連の技術者約 90 人が 6 月に集団辞職し、騒動になっている。 科学院は科学技術分野で国内最高の研究機関。 辞職は待遇の悪さなどが理由と指摘され、政府は機密性の高い核関連の先端技術を扱う人材の流出を問題視。 劉鶴副首相が主導する調査チームを組織し、実態解明に乗り出した。

集団辞職が起きたのは「原子力安全技術研究所」。 ホームページによると、2011 年に設立され、中性子の研究などに携わる。 研究所は最大で 500 人程度が勤務していたが、最近は人材流出が止まらず、今回の集団辞職で約 100 人に減少したという。 (kyodo = 7-26-20)


来年から長江流域で 10 年間の禁漁に、30 万人の漁師が転職へ

中国政府は 2021 年 1 月 1 日から、環境保護のため長江流域の重点水域で 10 年間の禁漁を実施する。 実質、全面的な禁漁措置で、30 万人の漁師が転職する「前代未聞」の措置となる。 今年 1 月から先行して始まった水生生物保護区 332 か所での禁漁は全体的に順調だが、一部では違法漁業が続いているという。 農業農村部の于康震副部長は 15 日の定例会見で、「禁漁と漁師の転職は、悪化する長江の生態環境を改善する重要な措置だ」と強調した。 この政策で 10 万隻以上の漁船が操業停止となり、30 万人の漁師の職種転換と生活保障が必要なため、于氏は「前代未聞の規模となる」と話した。

于氏によると、今年 1 月以降ですでに 8 万隻の漁船が停止し、10 万人の漁師への転職支援や生活保障を段階的に行っている。 上海市、江西省、雲南省などは計画を繰り上げて実行している。 一方で于氏は「地域によって廃船措置や漁師の転職支援の進み具合にばらつきがある上、違法漁業が顕著な地域もある。 違法行為の組織化、分業化の傾向もみられ、計画通りに禁漁を実現するのは難しい面もある」と明らかにした。 農業農村部は今後、関連部門や長江沿岸の自治体と連携し、廃船措置や漁師の転職、補償を積極的に進めると同時に、違法漁業や漁獲物の違法販売の取り締まりを強化していく。 (中新社/AFP = 7-21-20)


中国のバス事故、生活の不満で故意に転落か 21 人死亡

中国・貴州省安順市で 7 日、路線バスが道路脇の貯水池に転落し 21 人が死亡した事故について、地元警察は 12 日、バスの男性運転手 (52) が、生活への不満などから故意にバスを転落させたと発表した。 運転手も事故で死亡した。

事故は 7 日正午過ぎ(日本時間午後 1 時過ぎ)に発生。 警察によると、男性運転手は 4 年前に離婚して以降、たびたび周囲に生活への不満を口にしていた。 最近、住んでいた公営住宅の取り壊しが決まり、事故当日の朝、行政サービス窓口に電話をかけて取り壊しへの不満を訴えていたという。 事故の瞬間を映した監視カメラの映像には、ゆっくりと直進していたバスが突然加速し、反対車線を横切り、柵を突き破って湖に転落する様子が映っていた。 バスには大学試験の受験生らが乗っており、運転手を含む 21 人が死亡、15 人がけがをした。 (上海 = 宮嶋加菜子、asahi = 7-12-20)


コロナ禍の中国で巻き起こった露店ブームは、忽然と消えた

<大量倒産や失業に対する手軽な解決策として国を挙げて沸き立った露店経済ブームだが、わずか 1 週間で「急速冷凍」>

5 月末、中国各地で突然「露店経済」ブームが巻き起こった。 普段は露天商の無許可営業を容赦なく取り締まることでよく知られている治安要員「城管」が、自ら電話をかけて「露店をやろう、ぜひ来てくれ」と誘っているという。 しかも、それが大きな記事になって報じられている。 皆、唖然とした。 中国の SNS に「夏俊峰(シア・チュンフォン)がまだ生きていたらよかったのに」という嘆きが投稿されたのも無理はない。

瀋陽市で露店商として暮らしを立てていた夏は 2009 年 5 月、路上に露店を出していた時、無許可営業だと城管に連行され、ひどい暴行を受けた。 怒った夏は持っていたナイフで城管 2 人を刺殺。 殺人罪で死刑になった。 この事件は今でも中国人の脳裏に刻み込まれている。

これまで不衛生だとか景観悪化だと言って露店を厳しく取り締まってきた中国政府が急に露店推奨に転換した理由は、李克強(リー・コーチアン)首相が 5 月 28 日の全人代(全国人民代表大会)閉幕後の会見で、「中国には月収 1,000 元(約 1 万 5,000 円)の人が 6 億人いる」、「中国西部のある都市で 3 万 6,000 台の露店を設置したら、一晩で 10 万人分の雇用が生まれた」と推奨したからだ。 コロナ禍で発生した大量倒産や失業に対する手軽な解決策として、露店は一気に全国的ブームになった。 各地方の政府幹部も勉強会を開催し、露店経済はまるで露店そのものみたいに活気にあふれた。

ただし、国を挙げて沸き立った露店経済ブームは 1 週間で「急速冷凍」された。 きっかけは、共産党北京市委員会の機関紙である北京日報が 6 月 7 日に「中国の玄関として、露店経済は北京にふさわしくない」と記事で反対したこと。 この後、各地で露店の取り締まりが再び始まった。 首相が旗を振った政策に急に逆風が吹いたのは、共産党内の政治闘争の影響だともいわれている。 ただし、中国の朝令暮改は今に始まったことではない。 個人の性生活や人生に国が介入した 1 人っ子政策は、あっさり 2 人っ子政策に変わった。 権力者のご都合主義の被害者は、いつの時代も「老百姓(庶民)」だ。 (ラージャオ/トウガラシ、NewsWeek = 6-20-20)

城管 : 城市(都市)管理総合行政執法局職員の略称。 1997 年に北京市で設置され、各都市に広がった。 露天商の無許可営業や違法駐車、違法建築などの取り締まりに当たる。 取り締まりの過程で違法な賄賂を要求したり、暴力を振るうことが問題視されている。

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「厄介者」の露天商、中国政府が突如奨励に転じた訳

[北京] 3 週間前、北京市当局者らは道ばたの露天商、シャン・ペンさん (51) を急襲して拘束し、仮ごしらえの屋台と、彼女の商品であるヨーグルトやズボン、それに電動三輪車まで押収した。 彼女はと言えば、警察に強制退去させられるのには慣れっこだった。 「お役人さん、どうかお目こぼしを。 そうすれば私ども行商人はなんとか生きていけますから。」と頭を下げ、釈放を乞うのだ。 1 日当たり最低 100 元(14 ドル)を稼いで帰途に就くのが、彼女の望みだ。 年老いた母と保護施設から引き取った犬を養い、がん患者である自分自身も食いつなぐ必要があるからだ。

しかし、今日は様子が違った。 シャンさんはあの日と同じく、にぎわう路地で、段ボール箱から真空パックのベーコンを取り出して売っていた。 しかし、以前とは違い、当局から嫌がらせのような取り締まりは受けなかった。 中国の近代化する都市の風景の中で、当局からは疫病害のように扱われてきた露店商たち。 だが、新型コロナウイルスによって同国の経済が前代未聞の打撃を被った今年、彼らの商売は一転して当局の奨励対象となり、意外な復権を果たしている。

電子商取引大手も支援を約束

先月開かれた中国の全国人民代表大会(全人代 = 国会)では、普通の人々の暮らし向きが広く議論された。 その後に李克強首相は記者団に対し、今なお 6 億人が月収 1,000 元で暮らしていると述べた。 失業者の膨大な増加が視野に入った今、中国指導部は蓄えの乏しい低所得層の失業問題に神経をとがらせるようになった。 当局は先週、従来の姿勢を転換。 地方政府に対し、今年は行商人の数によって行政を評価することはしないと告げた。 過去には、行商人の根絶に力を入れた地方高官が高く評価されていた。

山東省にある海辺の街を訪れた際、李首相は自ら「露店商経済」は人類の希望と中国の活力そのものだと持ち上げ、彼らに祝福を贈った。 これを受け、上海や成都といった都市は、異例のスピードで露店商経済を後押しする措置を打ち出した。 新型ウイルス感染拡大の脅威が薄れた今は、武漢ですらその輪に加わっている。 電子商取引大手も支援を約束。 アリババと京東商城(JD ドットコム)は、行商人に後払いで商品を売る方針を表明。 ピン多多(ドウドウ)は露店の設営に必須となる懐中電灯や小型扇風機といった商品を値引き販売する。

政府系メディアによると、自動車の五菱汽車は、露店専用の新型ミニトラックに 6 月 3 日だけで 5 月全体を上回る受注があった。 香港に上場している同社株はこの週に 200% 超も上昇した。 他の自動車メーカーも、自分たちの一部の小型トラックは野菜売りや肉を焼いて売るように改造することができるとアピールする。 一方、露店で成功する方法を記した著者不明の PDF 本がこの週、ソーシャルメディア上で人気を博した。 題して「秘密の露店商マニュアル」。そこには、販売する携帯電話は最新版に限ること、そして「若い女の子がおおっぴらに買えないような」ブラジャーやショーツは店頭にディスプレーしないこと、などのノウハウが説かれている。

経済効果よりも意識浮揚の対策

一部のエコノミストによると、露店商ビジネスは国内総生産 (GDP) にほとんど寄与しない。 それでも政府が後押しするのは、雇用を安定させ、社会不安を抑えなければならないという強烈なプレッシャーを感じているからだ。 上海のエコノミスト、ニー・ウェン氏は「新型コロナがもたらした失業問題への、緊急かつ臨時の対応だ」と解説する。 モバイル決済企業に勤めるワン・カンさん (38) は給与を 30% 削減され、夕方に T シャツと玩具を売る露店商を始めた。 「お金が必要だからここにいる。 1 晩の稼ぎがたったの数十元でも、昼食代には事足りるからね。」

中国社会科学院の研究者、イー・シャオフア氏は、露店商活性化策は少なくとも国民の気持ちを浮揚させると指摘。 「結果として人々の外出を促し、街角に活気をもたらし、ひいては景気信頼感の上昇につながる」と語った。 (Reuters = 6-8-20)


中国のタンクローリー爆発、死者 19 人に … 車体吹き飛び再爆発で 200 棟超倒壊

【上海 = 南部さやか】 中国浙江省台州市の高速道路インターチェンジ付近で 13 日午後、液化石油ガスを積んだタンクローリーが走行中に爆発し、19 人が死亡、170 人以上が負傷した。 中国中央テレビなどによると、タンクローリーの車体の一部が付近の工場に吹き飛び、再び爆発が起きて 200 棟を超える建物が倒壊、複数の車両も炎上した。 浙江省の地元当局によると、倒壊した建物の下敷きになっている人もおり、救急隊員ら 2,600 人以上が捜索を続けている。 このタンクローリーを所有する省内の会社は 2016 - 18 年、安全管理などを巡り、地元当局から 10 0度、行政処罰を受けていたという。 (yomiuri = 6-15-20)


経済回復、世界の先駆けに見えるけど … 中国の内憂外患

経世彩民

2 月の「経世彩民」で報告した北京市の風景は、新型コロナウイルスの厳しい感染防止策のなかで、どんよりと沈んでいた。 3 カ月がたった今、統計上の感染者はほとんど出ておらず、街の様子は大きく変わった。 マスクをしながらもみな街へ出るようになった。 公共交通機関に活気が戻り、朝夕のラッシュ時に主要な地下鉄駅で行列が復活した。 飲食店は検温があるが向かい合って座れる。ただ、映画館やジムは閉まったままだ。

日常を取り戻しつつある北京市で、5 月下旬には国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が開かれた。 中国各地から選ばれた 3 千人近い代表が人民大会堂に集まった。 年に 1 回だけ開かれる政治イベントだが、今年は新型コロナの影響で異例ずくめだった。 もともと 3 月上旬から開かれる予定だったが感染の収束を待ち、2 カ月以上先送りされた。 それでも念を入れ、習近平(シーチンピン)国家主席ら最高指導部を除いて会場は皆マスク姿だった。 疫病の爪痕は深く、毎年示されてきた経済成長率の目標も、今年は「不確実性が高い」として提示すらできなかった。 会期中に取材した代表が口々に語ったのは活路を見いだすための必死な取り組みだ。

各地の代表が語った必死の取り組み

輸出向けの衣類や雑貨などの工場が集まる沿海部の浙江省義烏市。 新型コロナで世界最大級の卸市場は外国からの受注が急減した。 「1 カ月半かけて、義烏市場をオンラインにそのままコピーしました」と言うのは、市共産党委員会書記(市のトップ)の林毅さん(浙江省代表)だ。 春は盛んに展示会が開かれてきた。 だが、展示場は「3 密」状態だ。 そこで出展者が映像のライブ(生)配信で商談するオンライン展示会に切り替えた。 ライブの良さは映像で商品の細部を PR できるだけでなく、視聴者の質問に即答できること。 林さんは「危機は義烏の輸出企業が変革する機会と信じています」と言っていた。

大手家電メーカー、格力電器(グリー)の会長を務める董明珠さん(広東省代表)は、中国で最も知られた女性経営者だ。 新型コロナで始めたのが、自らが出演するライブ販売だ。 4 月の初回の売り上げこそはネットの接続状況が悪く 23 万元(346 万円)にとどまった。 だが、その後は好調で 2 回目は3.1億元、3 回目は 7 億元と増やした。 ライブ配信を始めた理由を董さんに聞くと、「新型コロナで店に客が来られなくなったから」と言う。 格力の 1 - 3 月の売り上げは前年の半分にとどまっていた。

感染を防ぐ「非接触」は中国でも注目されており、デジタルシフトがさらに加速すると誰もが感じている。 政府は景気対策で消費を刺激すると同時に、高速通信規格 5G 施設など「新型インフラ」の整備を進め、ビジネス界の試行錯誤を後押ししようとしている。

政府、失業対策を最重視

一方で、政府が最も重視するのが失業対策だ。 外需頼みの沿海部を中心に大量の失業者が出ており、その数は「7 千万人」とも「2 億人」とも見積もられている。  政府は経済の底割れを防ぐ「六つの保障」政策を掲げる。李克強(リーコーチアン)首相はこのうち、雇用など三つの保障さえ実現できれば、「今年はプラス成長できる」と強調。 雇用は景気回復のための「一丁目一番地」に位置づけられている。

5 月に北京市の出入りに制限がなくなり、失業した人に話を聞きに出かけている。 「失業して初めて貯金が頼れるものだと知った(29 歳男性)」、「春夏ものを買う予定はない(24 歳女性)」と貯金の大切さと節約志向がにじみ出る。 失業は免れても給料を大幅に減らされた人も多い。 外需が見込めないなかで、政府は消費を刺激することで内需を拡大させ、景気を回復させる道のりを描く。 だが、失業してしまった人が再び職を得ることなしに、消費が盛り上がっていくことは想像しがたい。

米国など対外関係も暗い影

失業と並んで中国経済に暗い影を投げかけるのが外国との関係、特に米国との関係だ。 米国とは 1 月に通商協議の「第 1 段階の合意」に署名して一時休戦していた。 だが、新型コロナの感染源や、香港への優遇措置の見直しなどで泥沼の状態になってしまった。 トランプ米政権は中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)にかけていた輸出規制を強め、米議会上院は米国市場に上場する中国企業の締め出しで規制強化策を可決した。 追加関税の応酬で進んだ米中のデカップリング(切り離し)は、今や企業の資金調達にまで及ぼうとしている。

米の措置はトランプ大統領の再選戦略だけでは説明できない。 新型コロナによって米国だけでなく世界各国が供給網の分断リスクを意識した。 中国を「世界の工場」に引き上げた「グローバル化」の見直しをいや応なくせまる転機になっている。 他国に先駆けて経済が回復しつつある中国。 だが、内外で向き合うべき問題は、他のどの国よりも複雑で深刻なのかもしれない。 (中国総局・福田直之、asahi = 6-2-20)