三菱 UFJ、5 千人バイト募集 コロナで困窮の学生支援

三菱 UFJ フィナンシャル・グループ (MUFG) は 14 日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で生活に困っている学生らへの総額 20 億円の支援策を発表した。 アルバイト収入が減った大学生らを対象に 6 月にも 5 千人規模でアルバイトに募集する。

アルバイト業務は、アンケートや意識調査への協力やデジタル関連サービスの試験利用で、報酬は数日間の協力で数万円の見込み。 募集は複数回にわけ、6 月にも始める第 1 弾は 5 千人規模を想定する。 募集は大学の学生課などを通じて行うが、18 歳以上であれば専門学校生なども対象。 得られたデータを新しいサービスの開発に活用する。

病気などで親を亡くした子どもの進学を支援する「あしなが育英会」と「日本学生支援機構」に 5 億円ずつ寄付する。 同育英会創始者の玉井義臣会長は「一企業による寄付でここまでの額は初めて。 びっくりしている。 企業の寄付文化が変わる。」と話す。 このほか、芸術活動の継続支援として公益社団法人「日本オーケストラ連盟」に 3 億円、医療関係機関への支援として日本赤十字社などに最大 5 億円を寄付する。

MUFG は今後、新型コロナの治療薬やワクチンの開発支援を目的に、100 億円規模の投資ファンドの立ち上げも検討する。 (笠井哲也、asahi = 5-14-20)


困窮学生に 10 万円給付 文科相「早急にやりたい」

公明党の斉藤鉄夫幹事長は 8 日、萩生田光一文部科学相と会談し、新型コロナウイルスの感染拡大で生活が苦しくなった大学生らに 1 人 10 万円の現金給付を求める提言書を手渡した。 斉藤氏によると、萩生田氏は「思いは同じだ。 早急にやりたい。」と述べ、前向きな姿勢を示したという。

提言書では「アルバイト収入の減少、解雇などで経済的影響が大きくなっている。 学生が進学・就学をあきらめることがないように支援することが重要」と指摘。 国民一律 10 万円の給付金とは別に実施することを求めた。会談後、斉藤氏は記者団に「急を要する。 1 週間のうちにスタートするものと思っている。」と語った。 対象は、外国人留学生を含む専門学校生や大学生、大学院生で、住民税が非課税となる収入水準の学生や学業や生活のためアルバイトが必要な学生の最大 50 万人を想定する。 予算規模は 500 億円の見通しで、1 次補正予算の予備費を充てることを軸としている。 (大久保貴裕、asahi = 5-8-20)


1 人 10 万円給付、首相が補正予算案の組み替え検討指示

安倍晋三首相は 16 日、新型コロナウイルス感染症に対する緊急経済対策として国民 1 人あたり 10 万円を給付するため、2020 年度補正予算案を組み替える方向で検討するよう麻生太郎財務相に指示した。 公明党などの強い要請を受けたもので、今月上旬に発表した所得が減収する世帯向けに 30 万円を給付する案の修正を余儀なくされた。

公明党の山口那津男代表は同日午前、首相に改めて 10 万円給付の早期実現を要請。 首相は「引き取って検討する」などと応じたという。 公明党の予算案組み替え要求を受け、補正予算案の審議日程などを協議する予定だったこの日午前の衆院予算委員会の理事懇談会は中止となった。 首相は同日午前、首相官邸で麻生太郎副総理兼財務相と会談し、予算案の組み替えを指示。 その後、自民党の二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長らとも会談し、対応を協議した。 政府・与党は来週明けに補正予算案を衆院で審議入りさせ、22 日に成立させるスケジュールを描いていたが、組み替えにより日程は後ろ倒しになりそうだ。

政府が経済対策の目玉に据えていた「1 世帯 30 万円」の現金給付については、「実際にもらえる人は少ない」などとして与党内から批判が出ていた。 二階氏は 14 日、10 万円の給付案を「速やかに実行に移すよう政府に強力に申し入れる」と表明。 山口代表は 15 日、首相に所得制限を設けない「1 人 10 万円」の実現と予算案の組み替えを直談判していた。 (asahi = 4-16-20)

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30 万円の現金給付、所得減少の世帯 首相と岸田氏一致

安倍晋三首相は 3 日午後、首相官邸で自民党の岸田文雄政調会長と会談し、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策で焦点となっている、個人への現金給付について、所得が減少した世帯を対象に 1 世帯あたり 30 万円を支給する方針で一致した。 岸田氏が会談後、記者団に明らかにした。 岸田氏は「一定の水準まで所得が減少した世帯に対して、1 世帯 30 万円を支給するべきだと申し上げ、総理と意見、認識が一致した。 (首相から)了解をいただいた。」と説明した。 支給の基準や方法などの詳細な制度設計は今後、政府内で検討するという。

岸田氏はさらに「迅速に現金を支給することが大事だと強く強調した。 政府として、その点も勘案しながら今後調整していくと思い」と述べ、自己申告制とするなど簡易な手続きとすることで素早く個人に支給できる制度となるよう政府に求めた。 政府・与党は新型コロナの感染拡大を受けた緊急経済対策を来週決定し、今国会に補正予算案を提出する方針。 首相は「リーマン・ショック時の経済対策を上回る規模の対策をまとめる」と表明していた。 (西村圭史、asahi = 4-3-20)


小売り・外食、新型コロナで一時閉店拡大 セブンなど

従業員から新型コロナウイルスの感染者が出て店舗の休業に踏み切る小売りや外食の店舗が増えている。 日本マクドナルドやセブン-イレブン・ジャパンなどでは、感染者の確認後、すぐに店舗を休業し消毒作業にあたるなど早期の対応を急いでいる。 新型コロナの感染では、無症状だが陽性と確認されたケースも出ている。 小売りや外食の店舗では主婦や学生など幅広い属性のスタッフが多数働いている。 働き手全員の行動管理が難しいなかで、スタッフに感染者が出た場合にどれだけ早く認識し対処できるかが課題となる。

日本マクドナルドでは 3 日、京都吉祥院店(京都市)に勤務する女性従業員が新型コロナウイルスに感染していることを確認した。 同日京都市からの連絡を受け、午後 9 時には店舗を一時閉店、消毒作業を実施している。 女性従業員は 2 月 15 日、16 日に開催され、多くの感染者が出ている大阪市内でのライブイベントに参加しており、その後 3 日間、カウンターでの接客業務に就いていた。 マクドナルドでは全店舗に予防と健康管理の徹底を再度周知したほか、5 日からは全店舗で子どもが遊べる施設「プレイランド」も閉鎖している。

セブン-イレブンでは山梨上石森店(山梨県山梨市)のアルバイト従業員が新型コロナウイルスに感染していたことが 7 日に判明、8 日未明から休業した。 はま寿司では 7 日、茨木新和町店(大阪府茨木市)の従業員がコロナウイルスに感染していたことが分かり同日、営業を中止。 両店とも店舗の消毒作業を実施している。 はま寿司の従業員は、2 月 15 日から 23 日まで大阪市内の複数のライブイベントに参加していたが、発熱や体調不良などの症状は出ていなかった。 ライブハウスでの感染拡大の報道以降、ライブに参加していた旨を店舗に報告して出勤を控えた。 自身で保健所で検査を受け陽性だったことが判明したという。

小売り・外食各社が感染が発覚した場合に早期に一時閉店の対応を取るのは、従業員から利用客への感染の拡大を防ぎたいためだ。 食の安全・安心財団(東京・港)は「食中毒が発生した飲食店の場合、再開の許可は行政が示すが、感染症の場合は対応が異なる」と指摘する。 店舗の消毒などもいまのところ各社の判断だ。 消毒後の店舗再開についても「従業員同士の濃厚接触など二次感染のリスクを検討、対応した上で、営業再開の時期を各社が判断することになる(同)」という。

主婦や学生など幅広い属性のパートやアルバイトを多数抱える店舗が、働くスタッフ全員の行動履歴を管理・把握するのは難しい。 感染のリスクがあると判断した時点で、店舗の運営者と従業員の間で、細かなコミュニケーションを取れるかが早期対処のカギとなる。 (nikkei = 3-9-20)


JT や日清食品、原則として在宅勤務に

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、JT は 26 日から、やむをえない場合を除いて全国すべての従業員を在宅勤務にした。 対象は契約社員やパート派遣社員も含めて約 8,700 人にのぼる。 国内外への出張も原則的に中止や延期とした。

広報担当者によると、事業を続けるために工場の従業員や営業担当者らの一部は出社している。 出社する際には家族も含めて体温や症状の有無を確かめるようにしているほか、通勤ラッシュを避ける時差出勤を推奨しているという。 日清食品ホールディングスも工場勤務の従業員を除いて約 3 千人の従業員を原則として在宅勤務とする。 27 日から 3 月 11 日まで。 打ち合わせなどで出社が必要な場合はラッシュを避けて通勤するよう促す。 (asahi = 2-27-20)

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電通社員がコロナ感染、本社ビルの全 5 千人がテレワーク

広告大手の電通は 25 日、東京・汐留の本社ビルに勤務する全従業員約 5 千人を対象に 26 日から当面の間、原則として在宅でのテレワークに切り替えると発表した。 本社ビルに勤務する 50 代の男性社員が 24 日、新型コロナウイルスの感染検査で陽性と確認されたのを受けた措置。 事態が収まるまで続ける予定で、この間は健康状態の報告を対象の社員に義務づけるという。

電通によると、本社勤務の 4 人が男性社員の濃厚接触者と保健所から認定され、男性社員が働いていたフロアを消毒するよう指示を受けた。 このフロア全体を 25 日に閉鎖。 このフロアで働く全社員はすでに 25 日からテレワークに移行し、取引先への訪問を禁止している。 男性社員は入院しているが、重篤な状態ではないという。 濃厚接触者などには自宅待機を命じている。

体調不良でない社員に限り、緊急を要する業務であれば、取引先の同意を得たうえで取引先のオフィスでの打ち合わせなどは認めるという。 関西支社(大阪市)や中部支社(名古屋市)はテレワークの対象外としている。 広告大手の博報堂も「感染防止に向けてテレワークの本格的な導入などを検討中」(広報担当者)としている。 (長橋亮文、asahi = 2-25-20)

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テレワークやラッシュ回避通勤、次々導入 行政も企業も

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、行政機関や企業では、働き手が自宅などで働く「テレワーク」や、通勤ラッシュを避ける「時差通勤」に取り組む動きが広がっている。 農林水産省は 21 日、週明けからテレワークと時差出勤を拡大すると発表した。 テレワークは今も希望すればできるが、今後は糖尿病などの基礎疾患がある職員や妊娠中の職員、未就学児や高齢者と同居する職員、体調が万全でない職員に推奨する。 勤務開始時間も従来の午前 8 時半、同 9 時、同 9 時半の3 通りに同 10 時、同 10 時半を加え、交通機関の混雑時の出勤を減らす。 本省職員の 6 分の 1 の約 800 人が新たに設定した二つの勤務時間を利用することを見込む。

東京都は 21 日、本庁舎に勤める職員 1 万人を対象に、3 月 2 日からテレワークや時差通勤に取り組むと発表した。 4 月からは東京五輪・パラリンピック期間中に想定していた「週 2 回以上のテレワーク」を前倒しして実施。 大会に向けて増やす予定だった常設のサテライトオフィスも予定を早めて順次、開設していくという。 民間でも、NTT グループや NEC など大手企業を中心にテレワークが広がる。 厚生労働省は 21 日、経団連や日本商工会議所などの経済団体に対し、テレワークや時差通勤の拡大を要請した。 発熱などの症状で仕事を休んだ従業員の収入面に配慮した仕組みを整えることも求めた。

加藤勝信厚労相は閣議後の記者会見で「感染リスクを減らす観点からテレワークや時差通勤の積極的な促進への協力をお願いする」と呼びかけた。 厚労省は今後、テレワークや従業員が休む場合の留意点などをまとめたウェブサイトやリーフレットをつくり、周知を図る。 総務省も 19、20 の両日、全国の自治体と全国知事会など約 100 の関係団体にテレワークなど柔軟な働き方への配慮を促す文書を送った。 (asahi = 2-21-20)


成果重視へ 三菱 UFJ 銀行が一律アップを廃止

銀行員の給与を一律で引き上げるのをやめて、成果重視にかじを切ります。 三菱 UFJ 銀行の労働組合は今年の春闘で行員の給与を一律でベースアップすることは要求せず、すべての行員に支払う報酬総額を増やすよう経営側に求める方針です。 そのうえで、一人ひとりの評価や仕事の成果に応じて賃上げ率を決める仕組みを導入する方向で交渉することにしています。 経営側も行員の成長のためにこうした仕組みが必要だとしていて、来月下旬にも労使間で合意する見通しです。 (ANN = 2-11-20)


19 年の実質賃金は、前年比 0.9% 減 最も月給が低かった業界は?

厚生労働省が 2 月 7 日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、2019 年の労働者 1 人当たりの給与総額は、月平均 32 万 2,689 円と、前年比 0.3% 減だった。 名目賃金から消費者物価指数を除いた実質賃金も前年比 0.9% 減と、マイナスに転じている。

産業別で見ると、最も給与総額が高かったのは「電気・ガス業」で、56 万 3,085 円(前年比 1.1% 増)。 次いで「情報通信業(49 万 2,294 円 / 1.4% 減)」だった。 前年からの伸び率が最も大きいのは「鉱業・採石業等(39 万 7,854 円)」で、前年比 6.4% 増。 次いで「建設業(41 万 7,287 円 / 3.0% 増)」、「学術研究等(48 万 1,000 円 / 2.2% 増)」と続いた。

一方、最も給与総額が低かったのは「飲食サービス業等」で 12 万 5,263 円(0.7% 減)。 次いで「生活関連サービス等(21 万 612 円 / 1.9% 増)」、「その他サービス業(26 万 497 円 / 1.8% 増)」、「卸売業・小売業(28 万 2,623 円 / 1.3% 減)」だった。 前年から最も減少したのは「教育・学習支援業(37 万 3,608 円)」で 2.7% 減だった。

また、1 人当たりの月間総労働時間は、前年比 2.2% 減の 139.1 時間。 うち所定時間内労働時間は 128.5 時間(2.2% 減)、所定外労働時間は 10.6 時間(1.9% 減)だった。

毎月勤労統計調査は、賃金や労働時間の変化を把握するために厚生労働省が行っている統計調査。 19 年には、本来全数調査しなければならないところを一部抽出調査で行うなどの不正が発覚したことで話題となった。 同省は 20 年 1 月に改めて不正について謝罪し、「事実関係を確認するため引き続き調査を行い、調査結果がまとまりしだい公表する」と発表。 問題箇所の修正や再集計を進めている。 (ITmedia = 2-7-20)


製造業中心に控える動き 有効求人倍率、10 年ぶり低下

厚生労働省が 31 日発表した 2019 年平均の有効求人倍率(新規学卒者を除きパートタイムを含む)は 1.60 倍で、前年を 0.01 ポイント下回った。 リーマン・ショック後の急落から 18 年まで改善が続いたが、10 年ぶりに低下した。 米中貿易摩擦で景気の先行きが不透明になり、製造業を中心に求人を控える動きが出ている。 有効求人倍率は、求職者 1 人あたり何件の求人があるかを示す。「1」を上回ると職が見つかりやすい。

リーマン・ショック後の 09 年には 0.47 倍まで低下したが、その後改善して、17 年からは 1.50 倍以上の高水準となっている。 厚労省は「雇用情勢は着実に改善が進んでいる」との見方を変えていないが、ここへ来て求人の勢いが鈍り、有効求人倍率の上昇は頭打ちだ。 19 年平均の新規求人数は前年比で 1.8% 減。 19 年 1 年間のうち 8 カ月が前年同月比マイナスとなった。 特に製造業は 19 年 2 月以降、前年同月比マイナスが続いている。 31 日に総務省が発表した 19 年平均の完全失業者数は、前年より 4 万人減の 162 万人。 完全失業率は前年と同じ 2・4% だった。 (滝沢卓、asahi = 1-31-20)


「違反」残業なお 300 万人 人手不足、管理職にしわ寄せ

大企業の残業に罰則付き上限が導入された 2019 年 4 月以降も月 80 時間超の残業をしている人が推計で約 300 万人に上ることが総務省の調査で分かった。 労務管理の徹底でサービス残業があぶり出され、部下の仕事量が減ったしわ寄せで管理職の残業が高止まりしている。 今後は画一的に残業を減らすのではなく、生産性の向上で収益を高め、働き手にも還元していく改革が重要になりそうだ。

働き方改革関連法によって大企業は昨年 4 月から従業員の時間外労働を年 720 時間以内にすることが義務づけられた。 月 100 時間を超えてはならず、2 - 6 カ月平均で月 80 時間以内にしなければならない。 建設業など一部業種を除き、違反があれば 30 万円以下の罰金か 6 カ月以下の懲役を科せられる。 同様の規制は今年 4 月から中小企業にも適用される。

だが統計上は多くの企業がこのルールに「違反」した状態にある。 労働基準法が定めた法定労働時間は 1 日 8 時間、週 40 時間。 1 カ月単位で計算すると、80 時間の残業を含めて、およそ 240 時間程度が働くことができる上限になる。 ところが総務省の労働力調査によると、19 年 4 - 11 月に月 241 時間以上働いた雇用者(役員を除く)は月平均で約 295 万人もいた。

18 年度平均の 319 万人よりは減ったものの、それでも雇用者全体の 5% を占める。 このうち 4 割は従業員 100 人以上の大企業で働く人だ。 「過労死ライン」と呼ばれる月 100 時間超の残業をした人も月平均で 170 万人に達していた。 働き方改革の動きが広がる中で統計上の残業が減らない理由の一つは、これまで隠れていた残業が表に出てきたためだ。 ある大手居酒屋チェーン幹部は「労働時間を正確に把握しようとしたら、正社員の残業時間が跳ね上がった」とため息をつく。 店舗で働く社員はアルバイトの欠勤を埋めるため急にシフトに入ることも多い。 こんな正社員の「サービス残業」があぶり出されている。

もう一つは部下の残業時間を抑えたしわ寄せも受ける形で、管理職の労働時間が高止まりしているためだ。 リクルートスタッフィングが昨年 9 月にまとめた調査では、従業員 300 人以上の企業の管理職 412 人の 12.8% が残業が「増えた」と答えた。 働き方改革に詳しいパーソル総合研究所の小林祐児主任研究員は「労働時間に上限を設けると、部下に残業を頼めない中間管理職に業務が集中する」と話す。

残業減で手取り収入が減ることを避けようと、労働時間管理の緩い企業に転職する動きもありそうだ。 ヤマト運輸は 17 年からドライバーの労働時間の削減に取り組み、18 年度の 1 人あたり残業時間は 16 年度比で 3 割減った。 一方、西日本で働く 50 代のドライバーは「手取りが減ったことが原因で他社に移った人がいる」と打ち明ける。

残業規制が本格適用される今後は、生産性の向上を伴う改革を実現することが課題になる。 コンサルティングの大手、アクセンチュアは 15 年から午後 6 時以降の会議を原則禁止し、同時に人工知能 AI) や定型作業を自動化するロボティック・プロセス・オートメーション (RPA) などを活用し業務を効率化した。 15 年ごろは深夜までの激務が当たり前だったが、今は 1 日の残業が平均 1 時間に減った。

この結果、約 10% だった離職率は半分に低下。優秀な人材の確保などで顧客への提案力が高まり売上高は大幅に伸びたという。 江川昌史社長は「きちんと働き方改革をすれば生産性も売り上げも上がる」と話す。 生産性の向上を伴わずに残業時間だけを減らすと、働き手の手取り収入が減り、それが消費を下押しする構図に日本経済がはまりかねない。 労働時間を厳しく管理するだけでなく、収益を高める生産性向上と一体的に進め、その果実を働き手にも還元する好循環をつくることが課題になる。 (奥田宏二、井上孝之、nikkei = 1-20-20)


「黒字リストラ」拡大 昨年 9,100 人、デジタル化に先手
早期退職で人員見直し

好業績下で人員削減策を打ち出す企業が増えている。 2019 年に早期・希望退職を実施した上場企業 35 社のうち、最終損益が黒字だった企業が約 6 割を占めた。 これらの企業の削減人員数は中高年を中心に計 9 千人超と 18 年の約 3 倍に増えた。 企業は若手社員への給与の再配分やデジタル時代に即した人材確保を迫られている。 業績が堅調で雇用環境もいいうちに人員構成を見直す動きで、人材の流動化が進む。

上場企業が 19 年に募集(または社員が応募)した早期・希望退職者は 35 社の計約 1 万 1 千人だった。 東京商工リサーチが調べた。 企業数も人数も 18 年(12 社、4,126 人)の約 3 倍にのぼり、多くの電機大手が経営危機に陥っていた 13 年(54 社、1 万 782 人)の人数を超え、6 年ぶりに 1 万人を上回った。 35 社の業績を日本経済新聞が分析したところ、全体の 57% に当たる 20 社が直近の通期最終損益が黒字で、好業績企業のリストラが急増していることが分かった。 この 20 社の削減幅は約 9,100 人と、全体の 8 割を占めた。 最終赤字の企業は 15 社 (43%) だった。 ただ、有効求人倍率は高止まりしており雇用全体としては悪くない状況が続く。

「黒字リストラ」で目立ったのが製薬業界だ。 中外製薬は 18年 12 月期に純利益が 2 期連続で過去最高を更新したが、19 年 4 月に 45 歳以上の早期退職者を募集し 172 人が応募した。 アステラス製薬も 19 年 3 月期の純利益が前期比 35% 増えるなか 3 月までに約 700 人が早期退職した。 企業を取り巻く経営環境は人工知能 (AI) のようなデジタル技術の進展を受け急激に変化している。 中外製薬は「従来の技術や専門性で競争力を保つのは難しい」と人材配置の適正化を急ぐ。

高度技術を持つ人材や若手を取り込むため、高額報酬で競い合う構図も鮮明だ。 NEC は 19 年 3 月までの 1 年間に約 3 千人の中高年がグループを去る一方、新入社員でも能力に応じ年 1 千万円を支払う制度を導入した。 富士通も 2,850 人をリストラしたが、デジタル人材に最高 4 千万円を出す構想を持つ。 年功序列型の賃金体系を持つ大手企業では、中高年の給与負担が重い。 厚生労働省によると、大企業では 50 - 54 歳(男性)の平均月給が 51 万円で最も高く、45 - 49 歳も 46 万円だった。 昭和女子大学の八代尚宏特命教授は「人手不足に対応するには中高年に手厚い賃金原資を若手に再配分する必要がある」と指摘する。

今年もこの流れは強まる見通しだ。 味の素は 20 年 1 月から 50 歳以上の管理職の 1 割強に当たる 100 人程度の希望退職者を募集。 20 年に早期退職を実施する予定の企業は足元で 9 社(計 1,900 人)あり、うち 7 社が 19 年度に最終黒字を見込む。 定年後を見据え、早いうちに新しいキャリアに転じて長く働きたい人が増えるなど、働き手の意識も変わっている。 即戦力となる中高年は、中小企業などの引き合いが強い。人材紹介大手 3 社の紹介実績では、19 年 4 - 9 月の 41 歳以上の転職者数は前年同期比 3 割増と、世代別で最も伸びた。

実際にエーザイでは当初見込みの 3 倍が希望退職に応募し、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスでも募集より 36% 多く集まった。 デジタル化など事業構造の変革を機に、流動性の低かった日本の人材市場のあり方が変わる可能性がある。(中藤玲、nikkei = 1-13-20)

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味の素が希望退職 100 人募集 50 歳以上の幹部対象

味の素は 28 日、50 歳以上の管理職を対象に 100 人の希望退職者を募ると発表した。 募集期間は来年 1 月 6 日から 3 月 13 日までの予定。 約 800 人が対象で、退職予定日は来年 6 月末。 特別加算金を上乗せした退職金を支給し、再就職も支援する。 募集人数を超えても受け付ける。

同社では管理職を対象とした早期退職制度はこれまでもあったが、募集期間を限定して行うのは初めて。 募集の理由について「事業環境の激しい変化のなかを勝ち抜いていくため、黒字である今だからこそ構造改革を進めていく必要がある(広報)」としている。 味の素は今月 6 日、2020 年 3 月期通期(国際会計基準)の業績予想を下方修正した。 売上高は従来予想より 325 億円減の 1 兆 1,385 億円、純利益は同 320 億円減の 180 億円の見込み。 アジアで流行する ASF (アフリカ豚コレラ)の影響で、飼料に混ぜるアミノ酸などを販売する事業が打撃を受けた。 (長橋亮文、asahi = 11-28-19)

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希望退職者 6 年ぶり 1 万人超 最多は富士通の 2,850 人

東京商工リサーチは 9 日、今年 1 - 9 月に国内の上場企業が募った希望退職者の合計は 1 万 342 人で、6 年ぶりの年間 1 万人超えが確定したと発表した。 900 人規模を想定していた半導体大手ルネサスエレクトロニクスの希望退職に、約 1,500 人が応募していたことも判明した。 東京商工リサーチは、1 - 9 月に募集を表明した 27 社分をまとめた。 募集者数が未定の場合は、応募者数を集計した。 最多は富士通の 2,850 人で、ルネサス、ジャパンディスプレイ(約 1,200 人)、東芝(1,060 人)が続いた。 実施を発表していないルネサスについては、応募者数を独自に調べたという。

今年の特徴は、業績のよい企業でも将来の需要減などを見込んで募集に踏み切る例が出ていることだという。 東京商工リサーチの調査担当者は「バブル期に大量入社した社員の過剰感を是正する動きもあり、今後も好業績の企業による募集が続く可能性がある」とみている。 日本の大企業にとって、定年前の希望退職の募集は代表的なリストラ策。 募集者数の合計は、リーマン・ショック直後の 2009 年は 2 万人を超え、製造業が円高に苦しんだ 12 年も 1 万 8 千人近くに達し、翌年も 1 万 782 人を数えた。 だが、景気の回復もあって、17 年と 18 年はともに 5 千人を下回っていた。 企業側が対象の社員をしぼり込み、応募を重ねて促す手法への批判も強まっていた。 (内藤尚志、asahi = 10-9-19)

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キリンが早期退職を実施、過去最高益なのにリストラ着手の裏事情

キリンホールディングスが、45 歳以上の社員を対象に早期退職を実施することがダイヤモンド編集部の調べでわかった。 2018 年度決算で過去最高益をたたき出したにもかかわらず、人員整理に手をつける理由とは。 近年、日本企業で増加している「先行実施」型の早期退職の実態に迫る。

45 歳以上の中堅社員も対象の衝撃

キリンホールディングス (HD) と傘下のキリンビールが 45 歳以上の社員を対象に早期退職の募集を行うことがダイヤモンド編集部の調べで分かった。 10 月 1 日から受付を開始し、希望者に面談を行い、11 月末に確定する見込みだ。 「今回の目的は、要するにバブル入社組の処理。 50 代でも部下を持たない人間が多く、明らかにターゲットは彼らだ。(キリンビール社員)」と明かす。

キリングループにとって早期退職の募集は今年に入って初めてではない。 2 月には、グループで医薬品事業を担う協和キリン(当時は協和発酵キリン)が生産部門を除く 45 歳以上の社員を対象に早期退職の募集を行い、296 人が応募したばかりだった。 磯崎功典・キリン HD 社長は、いよいよ "本丸" である持株会社とキリンビールの合理化に着手したとも言える。 キリングループで飲料事業を手掛けるキリンビバレッジでも、「今後、うちでも早期退職の動きがあるようだ(キリンビバレッジ関係者)」との証言もあり、キリングループに激震が走っている。

ライバル社員も寝耳に水の人員整理策

「正直に言えば、キリンは業績が好調だったから寝耳に水だった。(アサヒビール社員)」 ライバルメーカーも、今回の合理化策に驚きを隠さない。 それも無理からぬ話だ。 キリン HD は、第 3 のビール「本麒麟」の大ヒットなどが貢献し、2018 年 12 月期決算で過去最高益を達成したばかりだったからだ。 これまで日本企業が実施する早期退職では、業績不振で追い詰められた企業が半ば強制的に人件費をカットする「リストラ」型が主流だった。

だが近年は、手元にキャッシュがあるうちに余剰人員を削減する「先行実施」型の早期退職が増加している。 業績好調な企業が、成長分野への事業展開を図るために、財務的な余裕のあるうちに人員の適正化を進めるケースが増えているのだ。 今回のキリンのパターンもこの典型例である。 今年発表した中期経営計画では、キリンビールを中心とした「食領域」と、協和キリンが手掛ける「医領域」の中間に位置する「医と食をつなぐ事業」を立ち上げ、3 年間で 3,000 億円の投資を掲げている。 早速 8 月に、1,300 億円の巨費をつぎ込み、化粧品大手ファンケルへの資本参加を決めるなど、次世代の種まきへの投資を加速させている。

前年比 2 倍で増える「先行実施」型リストラ

東京商工リサーチの調べによると、2019 年上半期(1 - 6 月)の間に希望・早期退職者を募集した上場企業は、開示している企業で 17 社に達し、2018 年(1 - 12 月)の実施企業数である 12 社をすでに上回っている。 募集人数についても 2019 年上半期で 8,178 人となっており、2018 年(4,126 人)の約 2 倍に達するなど、規模人数共に昨年に比べ急拡大している。 人事コンサルティング会社ベクトルの秋山輝之副社長は、先行実施型の希望退職が増えた背景について以下のように解説する。

まず、「バブル世代の退出と若手への投資」である。 未だ年功序列の賃金体系が根強く残る日本企業では、50 代以上の社員の構成比が高い企業は人件費が高止まりしている。 そのため、早期退職制度を使って若返りを図ろうというものだ。 デジタル・トランスフォーメーションに代表されるように、企業のビジネス環境は激変している。 現場では若い感性が求められており、「若手社員に機会を与えるだけではなく、ビジネスで勝つための人的投資として若返りが急務」なのだ。

加えて、政府の社会保障制度改革の本格化を睨んだ「企業の防衛」である。 世の流れは、定年延長と高齢者の再雇用を実質的に企業に迫る "強制高齢者雇用" である。 そのため、企業側には、高齢者に至る一歩手前の「バブル世代」の余剰感を事前に失くしておこうとの思惑が働いているようなのだ。 付け加えれば、雇用情勢の急速な悪化が、企業を人員合理化に走らせている裏事情もありそうだ。 求職者 1 人に対し企業から何人の求人があるかを表す有効求人倍率は、7 月まで 3 か月間連続で低下している。 「転職環境が良好なうちに、早期退職で会社を辞めてもらいたい」という企業の本音も垣間みえている。 (山本興陽、ダイヤモンド = 9-27-19)


防衛省 約 2.7 億円かけ "AI 人事" 導入へ

防衛省が、幹部自衛官の人事に人工知能 (AI) を活用する方針を固めたことがわかった。 防衛省は、2020 年度予算に、AI 開発費としておよそ 2 億 7,000 万円を計上し、今後 2 年間で、人事評価や異動に関するシステムを開発する方針。 対象となるのは、将官から尉官までの 4 万人を超える幹部自衛官で、およそ 25 万人の自衛官のうち、6 分の 1 程度。 人事に AI などの技術を活用する「HR テック」は、民間で活用が広がっていて、防衛省も、AI の活用で業務を効率化したい考え。 (FNN = 1-6-20)


働き方改革で減った残業代が、5 割以上の大企業でまったく社員に還元されていなかった!

働き方改革で減った残業代が還元されていない

「いくらなんでも、それはないだろう。」 報道を知って、私は天を仰いだ。 そして思わずつぶやいた。 「それはないだろう、大企業」と。 なぜなら、働き方改革で減った残業代が社員に還元されていない事実が明らかになったからだ(日経新聞調べ)。 残業削減に成功した大企業のうち 5 割が、社員に何も報いていなかったのである。

2019 年 4 月から働き方改革法が施行され、最大の目玉である「残業上限規制」の新ルール適用がスタートした(大企業のみ。 中小企業は 2020 年 4 月から。)。 この法律の最大の特徴は、違反すれば罰則(事業主に 30 万円以下の罰金または 6 ヵ月以上の懲役が科せられる可能性)が付いてくることだ(これまでは違反しても行政指導のみ)。 したがって、「そうは言われても難しいよね」と言ってはいられなくなり、多くの企業(とくに大企業)で業務効率化、生産性アップの取り組みが、それこそ加速度的に、行われるようになった。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。 これまでのオファーの大半は「本業による売上目標の達成」を支援することだったが、この 1 - 2 年で、残業削減の支援も大幅に増えた。 だから言える。 たかが残業削減と言うなかれ。売上・利益目標の達成ほどではないにしても、現場の事情にもよるが、かなり難易度が高い。 なぜなら残業削減は「業務改革」ではなく「組織改革」だからだ。 理屈だけでうまくはいかない。 人間の思考パターンそのものを変えるための、地道なケア、アレンジメントが必要なのだ。

残業削減の難しさ

当事者でない人は、なんとでも言える。 結果を出さなくてもいいのなら、いくらでも労働時間は減らせる。 が、そんなことをしてしまえば、単なる「怠け」だ。 結果を維持、もしくは増やしつつも、投入する労働量を抑えなければならないのだ。 「練習量を 20% 削減して、でも例年通りに県大会でベスト 8 はめざせ」と言われた高校野球の監督は、どういう気分になるだろうか。 それを考えてほしい。

曖昧で不確実な時代(VUCA の時代)と言われて久しく、結果を維持するのだけでも現場の管理監督者は相当な苦労をするのに、労働量という大事なリソースそのものが減っている。 誰もが一目見てわかるようなムダな残業を、恒常的にやっている組織ならともかく、そうでない一般企業では、かなりの努力をしなければ残業時間は減らないのだ。 それでも現場は対応した。 日経新聞の調べによると、「残業時間が減った」と答えた大企業は 3 割あるという。 しかし、残業削減した大企業のうち、その分を従業員に還元したのは半分も満たなかったのだ。 具体的には以下のとおりである。

・還元した …… 14.0%
・検討中 …… 22.0%
・還元していない …… 50.0%

すべて足しても 100% に満たないということは、残りの 14.0% の企業も還元していないのではないか。 というか「検討中」とは何だ? 「検討中」と「還元していない」の違いがよくわからない。「還元する予定」ならともかく、「検討中」を額面通りに受け止めたら「還元していない」と同義語である。 つまり、この日経新聞の調査結果を見る限りは、還元した 14.0% 以外の、86.0% の大企業は、残業削減に一定の成果を出したにもかかわらず、努力した従業員に報いていない、ということではないか。

働き方改革を利用した人件費削減か?

先述したとおり、残業を削減し、現場の生産性をアップさせるのは、一筋縄ではいかない。 その一筋縄ではいかぬことを実現したのに、大半の企業は還元していないのである。 現場の若い人は残業代が減って、労働意欲を落としていることだろう。 そしてその若者たちをマネジメントする中間管理職の負担は、さらに増えているに違いない。 心配だ。 還元のカタチは、もちろん給与や賞与のアップのみではないだろう。 福利厚生や社員育成など、いろいろなカタチがあっていい。

いろいろなカタチがあっていいが、企業側はキッチリ明確に報いることだ。 そうでなければ「働き方改革法」を利用した人件費削減と捉えられかねない。 2020 年 4 月からは、中小企業も含め、すべての企業が「残業上限規制」の対象となる。 従業員の労働意欲をダウンさせるような働き方改革は、意味がないだろう。 企業はもっと現場に目を向け、生産性向上の難易度を正しく計測することだ。 そしその努力に報いるよう、柔軟な制度改革を早期にすべきだ。 (横山信弘・経営コンサルタント、Yahoo! = 12-31-19)