日米貿易協定、日本著しく不利か 車関税撤廃なしで試算

日米貿易協定で先送りとなった日本から米国への輸出時にかかる自動車関連の関税撤廃が実現しない場合、米国に納める関税の削減額はどうなるのか。 朝日新聞と民間シンクタンクが公表資料をもとに独自に試算したところ、260 億円前後との結果が出た。 政府が説明する全体の削減額の 1 割ほどに減り、米国からの輸出時の削減額とする約 1 千億円を大きく下回る。

撤廃は不透明

交渉トップを務めた茂木敏充外相が、11 月 6 日の衆院予算委員会で「日米双方にとってウィンウィン(両者が勝つ)な合意」と答弁するなど、政府は成果を強調している。 だが、自動車関連関税の撤廃時期を協議する次の交渉を開く機運が日米ともに薄れ、撤廃は不透明感が増している。 日本にとって著しく不利な協定となる可能性がある。 政府が 10 月 18 日に公表した協定発効後の関税削減額の説明資料によると、米国に納めた関税は 2018 年に約 2,600 億円。 政府はこの実績から、関税の削減額は 2,128 億円と試算した。

一方、輸入の際に米国から受け取る関税額は 1,030 億円減ると、18 年度の実績(約 1,570 億円)からはじいた。 このときの説明会で、内閣官房の渋谷和久・政策調整統括官は、この数字を引き合いに「倍ぐらいの(日本の)勝ち越しだ」とも話した。 ただ、この試算には、継続協議となった日本から輸出する乗用車(関税率 2.5%)や自動車部品(主に 2.5%)の関税撤廃も含めている。 そこで、朝日新聞は、通商問題に詳しい三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングの中田一良・主任研究員とともに、自動車関連を除いた日本の関税削減額を米国の 2 種類の公表資料から独自に試算した。結果は 2.4 億ドル(260 億円)前後となった。

自動車関連をめぐっては、政府は「撤廃は約束されている。 撤廃時期を今後決める。」とする。 だが、協定の関連文書には英文で「関税の撤廃に関してさらに交渉する」と書かれており、撤廃が確約されていない可能性が出ている。 こうしたことから野党は、自動車関連を除いた関税削減額を示すよう求めてきたが、政府・与党は「自動車関連は撤廃することになっているので交渉結果に反する」との理由で拒否している。 協定の承認案は 15 日の衆院外務委員会で可決された。 政府は来年 1 月 1 日の協定発効をめざし、今国会で承認を得たい考えで、議論の基本となるデータが示されないまま審議が終わる可能性がある。 (北見英城、大日向寛文)

関税削減効果額の試算方法

米国国勢調査局が公表している、米国が日本から輸入している品目ごとの「関税推計額」と、貿易協定の米国側の関連文書にある「関税引き下げリスト」の二つの資料から試算した。 関税推計額は日本政府も試算対象にした 2018 年のものを使った。 これを元に、関税引き下げリストにある全 241 品目それぞれの関税削減額を試算した。 自動車関連品目はリストにはない。 時期は即時から 10 年目までとまちまちだが、いずれも撤廃か関税率を半分にする内容で、撤廃なら関税推計額を全額、半分なら半額にして足しあわせた。

例えば、カメラのレンズとその部品の関税推計額は 909 万ドル(約 10 億円)。 これは撤廃されるため全額を合計額に入れた。 音楽用キーボードの推定額は 52 万ドル(約 5,800 万円)で、この品目は関税率が半分になるので半額にした。 為替レートは、政府試算と同じ 1 ドル = 110 円 41 銭で計算した。 米政権は、今回の協定の関税引き下げ対象となる工業品の年間輸入額を約 70 億ドル(約 8 千億円)と集計している。 今回の独自試算で合計した工業品の輸入額は 72 億ドルほどで、米政権の数字とほぼ一致した。 (asahi = 11-17-19)

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日米貿易協定で GDP 0.8% 増、農産生産 600 - 1,100 億円減 = 政府試算

[東京] 政府は 18 日、日米貿易協定により国内総生産 (GDP) が、同協定がない場合と比べて約 0.8% 押し上げられるとの暫定試算を公表した。 関税引き下げで牛肉などの価格が下がることで所得が増え、輸入・投資も増えるとの前提で、一般的な経済モデルで計算した。 今後の協議対象となっている米国側の自動車・同部品関税については撤廃されると仮定している。 2018 年度の GDP 水準で換算すると約 4 兆円の GDP 押し上げ効果があり、労働供給も、同貿易協定がない場合と比べ約 0.4% (約 28 万人)増えるとみている。 産業ごとの効果などは試算していない。

米国からの輸入品に対する関税の収入は、初年度で 460 億円、協定による関税引き下げが終了する最終年度で 1,030 億円と試算している。 試算の中で農林水産省は、日米貿易協定による国内の農林水産物の生産減少額は約 600 億円 - 1,100 億円との暫定試算を示した。 安価な米国産品輸入による価格低下が影響する。 政府による各種対策の効果により、生産数量は減少しないと仮定している。

日米貿易協定と環太平洋連携協定 (TPP11) を合わせた生産減少額は約 1,200 億 - 2,000 億円としている。 米国が TPP から離脱する以前、TPP による生産減少額は約 1,300 億 - 2,100 億円と試算していた。 今回の試算値が 100 億円少ない理由について、日米貿易協定では水産物が除外されている影響が大きいためと説明している。 (竹本能文、Reuters = 10-18-19)


上場企業、3 年ぶり減益へ 米中摩擦、輸出鈍る 9 月中間

企業業績の落ち込みが鮮明になっている。 上場企業の 2019 年 9 月中間決算は純利益が前年同期より 1 割近く減り、3 年ぶりの減益見通し。長引く米中貿易摩擦などで、輸出に頼る製造業の悪化が大きい。 年間でみても業績を下方修正する企業が増え、経営者の見通しは厳しくなっている。

SMBC 日興証券が 9 月中間決算の東証 1 部上場 1,347 社(金融を除く)のうち、8 日までの公表分 1,087 社(全体の 8 割)を集計した。 売上高は前年同期比 1.1% 増の 213 兆円、純利益は同 9.5% 減の 13 兆円だった。 悪化が目立つのは輸出が不振な製造業で、同 20.5% の減益。 米中対立などで中国経済が減速し、中国向け取引の多い機械や電気機器などの業種は 20% 超の大幅減益となった。 利益額が大きい自動車など輸送用機器も 10% ほど落ち込んだ。

非製造業は変動幅の大きい電気・ガスを除き、同 4.8% の減益。 純利益が半減したソフトバンクグループの影響が大きかった。 年後半に向け、企業の先行き見通しは慎重になっている。 年間の業績予想見通しを下方修正した会社は全体で 264 社。 上方修正した企業の 2 倍に及ぶ。 下方修正の約 8 割は製造業の企業だ。 「海外経済の回復はこれまでの見込みより半年ほど遅れ、来年半ばごろにずれ込む」(日本銀行幹部)との見方が多い。

非製造業の今後の不安材料は消費増税の影響。 9 月までは駆け込み需要で利益を押し上げたが、10 月以降は反動減が現れる。 20 年 3 月期通期でみると、純利益(金融を除く)は前年比 3.0% 減と 2 年連続で減る見込み。 売上高も同 0.7% 減で、減収減益だとリーマン・ショック直後の 09 年 3 月期以来になる。 「米中関係が落ち着けば(業績は)回復するだろう(MBC 日興の伊藤桂一氏)」との楽観的な見方の一方で、「円高など金融環境が悪化すれば、日本からの輸出が大幅に減るリスクが一段と高まる可能性もある(日銀幹部)」という。 (湯地正裕、吉田拓史、asahi = 11-12-19)

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製造業の業績悪化拡大

長引く米中貿易摩擦の影響で、国内の製造業に業績悪化が広がってきた。 中国市場での早期の需要回復は望み薄で、堅調だった非製造業の勢いにも陰りがみえる。 企業業績の先行きへの懸念が強まってきた。

中国の景気減速

鉄鋼最大手の日本製鉄の 2019 年 9 月中間決算(国際会計基準)は、本業のもうけを示す営業利益が前年同期比 46.6% 減の 731 億円、純利益は 66.8% 減の 387 億円。 原料の鉄鉱石の価格が 5 年ぶりの高水準となる一方、中国の工場などに輸出する製造装置や中国向けに出荷する工業製品の生産が鈍って鉄鋼需要が低迷し、業績に急ブレーキがかかっている。 子会社の日鉄日新製鋼の呉製鉄所(広島県呉市)で 8 月に起きた火災や、9 月の台風 15 号による君津製鉄所(千葉県)の煙突倒壊などのトラブルに伴う計 500 億円の損失計上も響いた。

建機大手のコマツは 20 年 3 月期通期の業績予想を下方修正し、純利益の見通しを 4 月時点より 350 億円低い 1,800 億円に引き下げた。 中国の景気減速などを受けて石炭価格が下がったあおりで、インドネシアで鉱山向けの建機の需要が低迷。 下半期も需要の減少が続くとみる。 小川啓之社長は「ここまでとは見通しが甘かった。」と話す。 工作機械大手のオークマの 19 年 9 月中間決算は、売上高が 11.0% 減の 893 億円、純利益は 23.1% 減の 61 億円。 受注額は前年同期の実績を 3 割超下回った。 金属を削る機械などの輸出先の投資の抑制が響いたようだ。 家城(いえき)淳社長は「日米欧アジアの全部が弱い」と危機感を募らせる。

ニコンの 9 月中間決算も、売上高が前年同期比 13.3% 減の 2,910 億円、純利益は 28.4% 減の 163 億円と減収減益に。中国メーカーの投資の手控えにより液晶・有機 EL パネル製造装置の売り上げが減少。 デジタルカメラの販売低迷も響いた。 日韓関係の悪化も影を落とす。 ライオンは韓国の顧客との商談が不調で、韓国での 7 - 9 月期の売上高が前年割れに。 海外事業ではタイやインドネシアに続く規模だけに、掬川(きくかわ)正純社長は「大変大きなインパクトがある」とこぼす。

需要低迷と円高

自動車業界には、世界的な需要低迷や円高の逆風が吹いている。 中間決算をまだ発表していない日産自動車をのぞく大手 6 社のうち、トヨタ自動車以外の 5 社が 20 年 3 月期通期の業績予想を下方修正した。 三菱自動車は北米や豪州などで利幅の大きいピックアップトラックの販売が低迷し、通期の純利益の見通しを 5 月時点より 92.3% 減の 50 億円に見直した。 収益改善に向け事務部門を中心に人員削減を検討する。 輸出比率が高く、円高の影響を受けやすいマツダは 3 月期通期の純利益の予想を 5 月時点のほぼ半分の 430 億円に引き下げた。 ユーロや豪ドル、英ポンドなどに対する為替レートが想定より円高となり、600 億円超の利益が押し下げられると見込む。

駆け込みの反動

非製造業では、10 月の消費増税前の駆け込み需要の反動減への懸念が広がる。 三越伊勢丹ホールディングスは、増税前の駆け込みで想定以上に高額品などが売れ、19 年 4 - 9 月期の売上高は前年同期より 120 億円増えたが、10 月以降の下半期は 160 億円の減収になるとみて、20 年 3 月期の売上高は前年比 0.6% 減と予想する。 杉江俊彦社長は「駆け込みが想定より少し多かった分、反動も多いとみている。」 しゃぶしゃぶ店などを展開する木曽路は、増税後約 1 カ月の既存店売上高が前年同期比 7% 程度減った。 前回の増税直後より落ち込みは大きいという。 吉江源之社長は「消費者の節約志向が理由だろう」と分析する。 (asahi = 11-12-19)


最新版! 「業績絶好調な企業」ランキング TOP100
7 位ワークマン、3 位大塚 HD、1 位はあの会社

ソフトバンクグループが中間期決算で 15 年ぶりの営業赤字に転落。 ファナックや日立製作所をはじめ、大手製造業が中国経済の悪化を理由に通期業績予想を下方修正するなど、主要企業の苦戦がニュースを賑わせている。 だがその反面、日経平均株価は米中貿易摩擦への懸念後退などで 11 月 8 日終値は 2 万 3,391 円と、連日で年初来高値を更新。 金融緩和相場への警戒は必要だが、足元ではとくに業績が上向いている銘柄の上昇が目立っており、企業決算の見極めが株式投資でより重要になっている。

『週刊東洋経済』の 11 月 16 日号(11 月 11 日発売)では、「株式投資・ビジネスで勝つ 決算書 & ファイナンス」を特集。 株式投資で不可欠な企業決算の読み解き方を、会社四季報編集部などが厳選した 30 のノウハウで紹介している。

ランキング 1 位に立ったのは貸会議室大手

同特集では全上場企業の中から、本業の儲けを示す営業利益が 2 期以上連続で増加、なおかつ最終的な儲けを示す純利益が今期過去最高を更新する見込みの絶好調企業を、『会社四季報』データの中から選出。 営業増益率が高い順にランキングした。 その最新データ版をここでは特別に公開する(11 月 5 日時点。 時価総額 1,000 億円以上の企業が対象)。

ランキングトップは、今期営業増益率が 77.2% だった貸会議室大手、ティーケーピーだ。 あのお家騒動で不振に陥った大塚家具の支援表明でも話題になった企業である。 今 2020 年 2 月期は、買収した日本・台湾のリージャス社を連結開始して収益を上乗せするほか、ハイグレードなビルへの貸会議室の積極出店が続き、営業益が急伸する見込みだ。

続く 2 位は半導体のマスク欠陥検査装置とレーザー顕微鏡が主力のレーザーテック。 ファブレスで開発主体の技術集団を擁し、新製品開発能力に強みを持つ。 近年では半導体メーカーの微細化投資で需要が拡大しており、とくに最先端の EUV (極紫外線)露光向けが業績を牽引。 2020 年 6 月期の営業利益は前期比 63.7% 増の 130 億円と急拡大が期待される。

3 位は製薬大手の大塚ホールディングスである。 機能性飲料「ポカリスエット」が堅調に伸びているうえ、多発性のう胞腎の治療薬「サムスカ」をはじめ主力医薬品が好調。 2019 年 12 月期の営業利益は前期比6割増の 1,740 億円と急回復する見込みだ。 一方で、消費者に身近な企業も上位に数多く登場し、見逃せない。

7 位は作業服専門チェーン店のワークマンだ。 機能性とおしゃれを両立し、女性からの支持も獲得。 近年の小売業では異例の躍進を遂げている。 今期は新規業態の「ワークマンプラス」業態で出店を加速し、メディア露出効果もあって、4 - 10 月累計の既存店売上高は 127% と絶好調である。 株価は 11 月 8 日終値で 7,870 円と、今年 1 月終値の 3,950 円から倍近くまで上昇した。

16 位の寿スピリッツは地域限定の観光土産菓子で急成長を遂げている。 とくに国際線ターミナル売店での土産販売が好調で、インバウンド需要もしっかり取り込んでいる。 2020 年 3 月期はグループ会社のシュクレイが牽引。 台風や増税影響を慎重視する会社計画はやや保守的で、『会社四季報』では通期の営業利益が会社予想を上振れ、2 割超の増益率になると見込んでいる。

たとえ増益率が 1 桁でも、長期で安定した成長を続ける大企業もある。 トイレタリー首位の花王(63 位)は、衣料用洗剤の着実増や化粧品事業の回復で、2019 年 12 月期に 10 期連続の営業増益を見込む。 今期で 30 期連続の増配を見込むなど、株主還元に手厚い企業としても有名だ。

中間決算発表が相次ぐ中、企業の "真の実力" である業績を見極める力を身に付け、株式投資に生かしてほしい。 今期営業増益率の高い「絶好調企業ランキング」の詳細は、下記をご覧ください。 (秦卓弥、東洋経済 = 11-11-19)

1 位  - 50 位 https://toyokeizai.net/articles/-/313235?page=3
51 位 - 100 位 https://toyokeizai.net/articles/-/313235?page=4


消費増税、還元特需に湧く業界 「厳しい局面」恨み節も

消費税が 10% に上がってから 1 日で 1 カ月。 増税対策を追い風にキャッシュレス事業者や「中食(なかしょく)」業界は特需に沸く。 一方で、5 年半ぶりの増税がもたらす消費の落ち込みも明らかになりつつある。 景気の失速を食い止めるため、政府は新たな経済対策を打ち出す方針だ。 政府は消費増税に併せて、現金によらないキャッシュレス決済への還元策を始めた。 経済産業省に登録した中小の店で購入した客に、税込み価格の 5% (コンビニなど大手のフランチャイズ店は 2%)分がポイントなどで還元される。

経産省によると、還元を受けられる店は 1 日時点で約 64 万店となり、対象とされる店の 3 割強にあたる。 消費者への 1 日あたりの平均還元額も 10 億円超に。 今年度当初予算に計上された費用を上回るペースだ。 これを追い風にするのがキャッシュレス決済事業者だ。 スマートフォンに表示した QR コードで決済できる「LINE ペイ」は、10 月 1 日の新規登録者数が 9 月 1 日の 2.8 倍になり、登録者数は 9 月末に計 3,690 万人に達した。 「増税の効果で登録が増えている(広報)」という。

「PayPay (ペイペイ)」では 10 月の決済回数が 8,500 万回となり、直前 3 カ月の計 9,612 万回に迫った。 出資するヤフーの川辺健太郎社長は「増税前後は想定よりだいぶ上ぶれした」と話す。 「メルペイ」でも、10 月中旬に利用者が 500 万人になった。 増税を意識し、9 月中の駆け込み需要での利用も多かったという。

フランチャイズ店が対象となるコンビニ大手は、ほとんどの店が 2% 分を即時還元する「実質値引き」をしており、増税前後でキャッシュレス決済をする客の割合が伸びた。 ファミリーマートとローソンは約 20% から 25% ほどに上昇。 最大手セブン-イレブンでは 35% から 42% に増えた。 ローソンの竹増貞信社長は先月の決算会見で「キャッシュレスが大いに盛り上がっている」と話した。 10 月の売り上げについては、複数の大手幹部が「いまのところ大きな反動減はない」と話す。

弁当の持ち帰りや宅配といった「中食」にも勢いがある。 軽減税率の対象で税率 8% が維持されたため、10% となった外食よりも「お得感」が強いからだ。 宅配サービス「出前館」は、10 月の第 1 週を前年同期と比べると注文数が約 2 割増えた。 持ち帰りできる店の検索から決済までが完結するサービス「LINE ポケオ」は、10 月に入って会員が 20 万人以上も急増。 増税前後を比較すると注文数も 1.5 倍に。 牛丼の吉野家やカフェチェーンのタリーズコーヒーでも、増税後に持ち帰りの比率が上がったという。

イオン社長「不公平だ」

ただ、5 年半ぶりの消費増税の影響はやはり大きい。 大手百貨店 4 社が 1 日発表した 10 月の売上高(速報値)は、全社が前年を 2 割近く下回った。 日本百貨店協会の山崎茂樹専務理事は「(増税前の駆け込み需要の)反動減は少なくとも 3 - 4 カ月は続く」とみる。 高島屋は 10 月の売上高が 19.7% 減だった。 台風 19 号の影響を除いても、前回の増税時(前年同月比 13.6% 減)より、「消費の動きは若干弱く、インパクトは少し強い(広報)」とみる。 大手各社は軽減税率で 8% に据え置かれた「食」の物産展を何度も開いたり、売り場を改装したりして客の呼び込みに注力する。 回復が遅れれば、クリスマスや年末年始の「年間最大の商戦」に影響がでかねない。

地方の百貨店では、軽減税率の対象外となった「店内飲食」での試行錯誤が続いている。 大丸の福岡天神店では、増税後に撤去していた休憩用ベンチを 10 月 30 日に戻した。 「持ち帰り」で総菜などを買った客が店内で食べる混乱を避ける狙いもあったが、「憩いの場に何をする」、「行かないぞ」といった苦情が複数よせられたという。 大手スーパーなどでつくる日本チェーンストア協会の井上淳専務理事は「増税前から消費に力不足があった。 増税の負担に加え、国際情勢も不透明だ。 厳しい局面が続くだろう。」と、景気の先行きに懸念を示す。

大手小売りの不安の種は政府のポイント還元策だ。 大手スーパーは対象外になり、自力での価格競争を強いられるとの懸念が強い。 コンビニが対象となったことに、流通大手イオンの岡田元也社長は、先月の決算説明会で「こんな不公平なことはない。 コンビニが中小企業でないことは明白。 大手スーパーだけ割高にするのは、お客不在だ。」と憤った。 還元策は来年 6 月までだが、ライフコーポレーションの岩崎高治社長は「延長されない保証はない」と警戒する。

事実上の「消費増税対策」 とりまとめへ

政府は、経済対策のとりまとめに動き始めた。 今月上旬にも安倍晋三首相が対策を指示し、年内に補正予算をとりまとめる方向だ。 災害対策などが名目となるが、事実上の「消費増税対策」にもなる。 この秋に相次いだ台風被害からの復旧・復興のほか、中小企業対策などが盛り込まれる見通しだ。 今回は既に増税対策を手厚く講じていたため、需要の反動減は比較的小さい、との見方が多い。 ただ、10 月31 日発表の消費者態度指数(10 月分)は 36.2 と低水準が続き、基調判断は「弱まっている」のまま。 政府は 10 月の月例経済報告で景気の判断も引き下げていた。 (栗林史子、佐藤亜季、長橋亮文、高橋末菜、asahi = 11-2-19)


「日本は 26 位に転落」一人当たり GDP の減少に見る日本経済の処方箋

情報法や個人に関する情報の分野で、最近特に個人の「学識・学歴」と「生涯所得」に関する議論が活発になってきていますが、先日元新潟県知事で医師・弁護士の米山隆一さんが Twitter で「日本の一人当たり GDP が 26 位に転落した」点を踏まえた日本再興の議論を呼びかけているのが話題になっていました。 非常に重要な論点ではないかと思います。

この問題で見落としてならない重要な点は「日本はドルベースの名目 GDP が、いまなお世界 3 位である」ということです。 ただし、GDP の成長率が名目も実質も低いので、生活面で劇的な改善が見られず、働いても給料が上がるめどの見えない仕事に就くという閉塞感を日本全体では持ちやすいことが、我が国のイケてない雰囲気を醸し出している部分はあります。

では、日本の「一人当たり GDP」はどうなのかというと、自由民主党と公明党による安倍晋三政権が立ち上がって以降もこれといった成長をしていないうえに物価も上がらない状態であって、賃金も改善しないことが理由でずっと横ばいです。 それを、中堅国の所得の伸びが日本を上回る形で抜いていったので、日本が順位を落としている、と主張する向きもあります。

しかしながら、実際には日本の「一人当たり GDP」は勤労世帯で見ればむしろ健闘をしていて、実際に足を引っ張っているのは「付加価値の低い産業の温存」と「低い所得でも楽しく働いている高齢者世帯の急増」であることが分かります。 逆に言えば、付加価値の高い金融業やソフトウェア産業の振興を行い、低い所得で働いてしまう高齢者を普通の労働者の賃金にまで引き上げれば、あっという間に日本の一人当たり GDP は改善してしまいます。 もちろん「それでいいのか」という議論があるわけですが、まずは一人当たり GDP のランキングに関するカラクリから見てみます。

この上位を見てみると、そもそも上位がルクセンブルク、スイス、マカオと並んでいます。 どれも産業面で金融やソフトウェア、観光に特化した小国であり、アメリカは 9 位です。 また、ドイツ 18 位、フランス 21 位、イギリス 22 位、イタリア 27 位と、EU/欧州諸国は日本とそう大差ありません。 そして、成長著しい中国は 70 位です。 人口を抱えている国と、儲かる産業に特化した中小国との関係で言えば、その国内に GDP に寄与しない産業を多く抱えざるを得ない人口と国土の大きい国は、必然的に世界的な競争とは無縁の稼げない産業を温存せざるを得ない宿命にあります。

かつて日本が一人当たり GDP が 2 位だった(1988 年)のはひとえにバブル経済の最終局面であったことと、日本の人口における労働人口がピークであったこととが大きな背景にあります。 逆に言えば、生産性が最も高くバブル経済を引き起こしていたころの日本ですら、金融産業に特化していたスイスよりも一人当たり GDP では 7 割しか稼げていなかったことになります。

翻って、いまの一人当たり GDP 上位はルクセンブルク、スイス、マカオであり、国内では一次産業(農業や酪農)はゼロで、ルクセンブルクは OECD 諸国で最下位の割合しか農業や製造業に従事していません。 そして、ルクセンブルク自体の人口は 60 万人ですが、ルクセンブルクに納税している人口はほぼ倍の 110 万人ほど、これらはほとんどが金融関連事業者です。

スイス、マカオや、シンガポールも同様で、同じく人口の少ないスウェーデン、デンマーク、ノルウェーといった国は、特徴的な産業政策を取り、また、カタールは産油国であって、産業構造や人口構成から見て日本と「一人当たり GDP」という尺度で並べて競争力を考えるという意味ではあまり適切ではないかもしれません。 例えるならば、日本の東京都港区・中央区・千代田区の人口 55 万人と、これらの地域に本社を構え働きに来る人たちが暮らす地域 GDP を人口で割ると、概ね一人当たり GDP は 11 万ドル(約 1,320 万円)ほどになり、実に見事に僅差の 2 位になります。

このように、国際的な経済力や競争力をランキングで見ることそのものにはさしたる意味は持たないのは確実なのですが、しかし米山隆一さんが指摘するように「とはいえ、この 30 年間で日本が伸び悩んでいたのは事実であり、他国に比べて失速感が否めない」のは正鵠を射ています。

あくまで国際比較の経済力で見ると、我が国の経済政策は「脱デフレ」の掛け声のもとに、バブル経済の後遺症を 30 年かけてなお低迷している現状があります。 リコー経済社会研究所の所長をされている神津多可思さんが指摘するように、バブル経済の崩壊からの回復過程で、グローバル経済の進展や、日本の少子高齢化が進んだことなど、複数の日本経済や社会の構造変化が同時期に押し寄せた結果として、90 年代から安倍政権までずっと脱デフレ政策・財政出動をしてきたにも関わらず物価も景気もそう簡単には上向かなかったということが言えるのではないかと思います。

もしも日本が経済の構造改革を本気で進める政治決定を行い、産業の転換を促す抜本的な政策を志すならば、農本主義的な地方へのばら撒きや製造業に対する支援はすべて打ち切り、金融とソフトウェアなどの「カネになる産業」、「世界で戦える業界」にだけ重点的に予算と人材をつけ、子どもの教育から産業競争力に至るまで一貫した経済政策を実現する必要はあったでしょう。 言わば「陽はまた昇る」の世界であり、新しい時代の殖産興業論のような政策を起案し実現する必要がありました。

安倍政権においては、むしろ地方創生、ふるさと納税などの縫合策に徹し、都市部も地方も一体となった日本経済全体をどうにかするという取捨選択をしない政治にシフトした結果、米山さんが憂う「日本が何をして何をしてこなかったか」の議論に直結することになります。 ただ、そのような政策を実施する過渡期に起きることは、地方経済の猛烈な壊滅であり、地域社会の崩壊であって、地域の産業が維持できない地方はそのすべてにおいて再起不能なほどに衰退・消滅を余儀なくされたことでしょう。

消費税は 10% に引き上げられ、社会保障改革も道半ばの状態で、合計特殊出生率も低迷したまま 2019 年の日本人新生児数は 90 万人を割ってしまいました。 日本人はそれぞれに政治改革の必要性は叫ぶ一方で、目の前の生活が当然大事ですから、いま喰えている状態を確保してくれている安倍政権への支持率は安定して高い状態が続いている、というのが現状ではないかと思います。

国際比較から見て、日本経済が相対的に競争力を失い、魅力のない衰退国家になりつつあるとはいえ、全体の GDP はいまなお世界第 3 位であり、労働力人口の減衰があってもなお余力は残されています。 国際競争力を確保するためにお荷物になっている地方経済や高齢者に対する救済を産業力強化に振り分けるべきなのか、ある程度の衰退は受け入れながらもいまある平等を目指して努力を続けるのかは、消費税増税も実施されたことですし貿易相手国・中国の大規模な景気低迷の波が日本を襲う前に国民的な議論にしていく必要があるのではないかと思わずにはいられません。 (山本一郎、Yahoo! = 10-28-19)

〈編者注〉 であれば、「人口 1 千万人以上とか 2 千万人以上とかの国だけで「1 人当たりの GDP」を比較したら、比較対象国が抱える問題もよく分かるでしょうし、もっと現実的に今後日本の進む進路も見えてくるのではないでしょうか。 今一つ、生産性の低さが今問題視されていますが、真に見るべきは「付加価値」ではないかと考えます。 生産性の低いものには、古来からの伝統製品がありますが、いたずらに生産性ばかりを追求すれば、殆ど消滅してしまうでしょう。 「付加価値」という要素を加えて評価すべきだと考えます。


消費者物価、9 月 0.3% 上昇 2 年 5 カ月ぶり低水準
エネルギー価格が下落

総務省が 18 日発表した 9 月の全国消費者物価指数(CPI、2015 年 = 100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が 101.6 と、前年同月から 0.3% 上昇した。 上げ幅は前月の 0.5% から縮小し、2017 年 4 月以来 2 年 5 カ月ぶりの低水準となった。 エネルギー価格の下落が物価を下押ししており、影響はしばらく続きそうだ。 エネルギーは前年同月比 1.9% 下げた。 原油価格の下落傾向を反映し、8 月の 0.3% 低下から下げ幅を拡大した。 中でもガソリンは 6.9% 下落し、4 カ月連続で前年同月を下回った。 総務省は「電気・ガス代はすでに 10 月の値下げも決まっており、しばらくエネルギー価格の下落は続く」との見方を示した。

6 月以降の携帯電話大手の値下げを反映し、携帯電話の通信料は 9 月も 5.2% 低下した。 一方、菓子類や外食は原材料費や人件費の高まりで価格の上昇が続いている。 家庭用耐久財は 6.0% の上昇。 電気掃除機や冷蔵庫の価格が前年より大幅に上昇した。 増税前の駆け込み需要の影響が出た可能性がある。 (nikkei = 10-18-19)


政府「緩やかに回復」維持、月例経済報告

政府は 18 日に示す「10 月の月例経済報告」で景気は「緩やかに回復している」との基本認識を維持する方針だ。 雇用情勢や設備投資は底堅く推移しており、内需を支える国内経済の基盤は堅調との見方を反映する。 消費増税後の消費者心理の悪化や台風 19 号の日本経済への影響に留意し、総括判断の表現は下方修正する方向だ。

内閣府が 7 日公表した 8 月の景気動向指数による機械的な景気の基調判断は、4 カ月ぶりに「悪化」に転じた。 政府が毎月景気の全体認識を公式に示す月例経済報告では、2018 年 1 月以降続けている「緩やかに回復」との見方を 10 月も維持する。 政府が景気は回復局面にあるとの判断を維持するのは、雇用・所得環境や設備投資などの内需が底堅いためだ。 有効求人倍率は 1970 年代以来の高い水準を維持している。 日銀が 1 日発表した 9 月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、2019 年度の設備投資計画(全規模全産業)が 6 月時点より上方修正された。 (nikkei = 10-17-19)

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設備投資、下方修正もなお底堅さ 9 月日銀短観

日銀が 1 日発表した 9 月の全国企業短期経済観測調査(短観)は設備投資の底堅さを改めて示す内容となった。 前回 6 月調査時点から投資計画はやや下方修正されたが、なお過去の平均を上回る水準を維持している。 ただ今後、海外経済の持ち直しがずれ込めば、息切れするリスクも漂う。

経済への波及効果が大きい大企業の 2019 年度の設備投資計画は 18 年度に比べて製造業が 11.8% 増、非製造業が 3.6% 増だった。 6 月の前回調査時点から製造業が 1.0 ポイント、非製造業も 0.5 ポイント下方修正されたが、いずれも 2000 - 18 年度の平均を上回っており、日銀も「引き続き高水準を維持している(幹部)」と判断している。 大企業の設備投資計画は前年度に先送りした案件が上乗せされる年度前半に高く、工事の遅れや案件の先送りを反映した年度後半にかけて下方修正する傾向が強い。 今回の下方修正も「人手不足による遅延」などの声があったといい、米中貿易摩擦を背景に投資そのものを控える動きを反映したものではなさそうだ。

とくに業界を問わず人手不足に対応した設備の自動化に向けた投資意欲は強く、自動車業界でも自動運転や電動化などへの対応が急務となっている。 このため景況感の悪化と設備投資計画が直結しにくい構造になってきている。 一方、企業が収益計画の前提とする想定為替レートも足元の円安基調を反映した設定になった。 19 年度下期の対ドルの想定レートは 1 ドル = 108 円 50 銭。 前回 6 月調査時点(1 ドル = 109 円 34 銭)よりもやや円高方向に修正されたものの、1 ドル = 108 8円台前半で推移している 1 日の東京外国為替市場での水準よりも円安方向を見込む。

日銀は当初、19 年後半から 20 年にかけて世界経済が回復するシナリオを描いていた。 それまで堅調な内需が国内経済を補う姿だ。 ただ米中摩擦の長期化や混迷を深めている英国の欧州連合 (EU) 離脱問題などを背景に「海外経済の下振れリスクが高まりつつあり、持ち直しの時期が想定より遅れる可能性がある(日銀の黒田東彦総裁)」との懸念を強めている。 今回の短観は、景況感が事前の民間予測を上回り、焦点だった設備投資も底堅い内容となった。 ただ世界経済の減速懸念は強まり、消費増税が個人消費に与える影響も読み切れない。 頼みの綱の内需が息切れするリスクを見極めながら、日銀は今月末の金融政策決定会合で慎重に追加の金融緩和が必要か議論する。 (nikkei = 10-1-19)

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月例経済報告、景気「緩やか回復」維持 住宅は下げ

政府は 19 日に公表した 9 月の月例経済報告で、国内景気について「輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している」との総括判断を維持した。 米中貿易戦争の影響で海外経済が減速する一方、個人消費を中心に内需は依然として堅調とみている。 10 月の消費増税を前に、景気が回復基調にあることを改めて確認したかたちだ。 月例経済報告は統計や内外の情勢を踏まえて、景気に関する政府の公式見解を示す。 第 2 次安倍政権発足後の 2013 年 7 月以降は「回復」の文言を使い続けている。 今回は消費増税について「経済の回復基調に影響を及ぼさないよう、経済財政運営に万全を期す」と明記した。

個別の項目では、住宅建設についての判断を先月までの「おおむね横ばい」から「このところ弱含んでいる」に下方修正した。 新設住宅着工戸数が落ち込んでいることを反映した。 持ち直しが続く個人消費など他の項目の判断はすべて据え置いた。 先行きに関しては貿易戦争の世界経済への影響などに加えて「原油価格の上昇」を懸念材料にあげた。 14 日にサウジアラビアの石油施設が攻撃を受けて一時的に原油価格が急騰したためだ。 同国が早期回復の見通しを示したことで需給逼迫への不安は後退したが、内閣府の担当者は「来月以降もリスクとして注視していく」と話した。 (nikkei = 9-19-19)


2 つの顔が同居する日本経済、グループ B 再生策に世界も注目

グループ A の東名阪には最新技術やビジネス・富が集中
それ以外のグループ B では若者流出で過疎化・高齢化が進行

日本経済は大きく二つのグループに分かれる。 最新技術やビジネス、富が集まる首都圏、中京圏、近畿圏の 3 大都市圏で構成する「グループ A」と、若い世代の流出が止まらずに高齢化が加速するそれ以外の大部分の地域「グループ B」だ。 グループ B では今後も過疎化が進み、「限界集落」現象の増加も避けられそうにない。 世界の先進各国も似たような道をたどっているだけに、高齢化や人口減少で先頭を走る日本から何らかの教訓を得られるかもしれない。

秋田県南秋田郡五城目町浅見内にある「お互いさまスーパー『みせっこあさみない』」は 3 年半前、買い物難民対策として県の補助金などを受けて開店した。 そこは日用品が買えるだけでなく、店内で焼きそばやカレーライスなどの食事もでき、地域住民にとって憩いの場となっている。 新鮮な魚が店頭に並ぶ毎週木曜日には、住民が集まって一緒に歌う。 みせっこあさみないは、ここで働く工藤悦子さん (66) のような地域住民のために開設された。 今は楽しく暮らす工藤さんだが、「何年こうやってできるべか、心配なところもある」と話す。 同世代の多くが感じているように、運転ができなくなる将来、買い物や病院に通うのが難しくなることに工藤さんは不安を募らせる。

国際連合のデータによると、日本の地方人口は 2018 年からのわずか 12 年間で 17% も減少する見通し。 地方人口の減少ペースはその後さらに加速し、30 年代には年 2% 程度のペースでの減少が見込まれている。 一方、米国の地方人口は 18 年から 30 年の期間に 7.4% 減少する見通しで、ドイツの地方人口は同期間に 7.3%、イタリアは 15% それぞれ減ると予想されている。 日本の地方人口の減少ペースは 40 年代にはブルガリアとアルバニアを除いて全ての国を超えると予測されている。 一部では人口の半分以上を 65 歳以上が占める限界集落の状態を超え、何百という地方市町村が消滅するシナリオを描く専門家もいる。

既に人口減少の影響が出ている地方市町村は少なくない。 昨年実施された農林水産省のアンケート調査によると、回答した市町村のうち 8 割超が買い物難民への対策が必要と感じており、大多数が高齢化を理由に挙げた。 文部科学省によれば、国内では 02 年から 17 年にかけて 7,000 校を超す公立学校が廃校となった。 出生率が低下する中、高齢化が先行する地方での廃校が大都市圏を上回る。 学校の減少やその他社会インフラに課題を抱える地方では、若い世代が都市へ向かいやすい。

若い世代がグループ B からグループ A へ移ると、家計資産も相続を通じて大都市圏に流れやすくなる。 三井住友信託銀行の試算によると、14 年を基点とする 20 年から 25 年の間に、世代間相続による家計資産の流出率が 47 都道府県のうち 30 県で 20% を超える見込みだ。  富や人が都市部に流れるのを止めるのは不可能に近いというのが日本の現状から得られる教訓かもしれない。 一部の日本人エコノミストらは、政府はこうした流れを止めるよりも、むしろこの流れに沿って政策を進めるべきではないかと話す。

政府は首都圏から地方へ移住・起業した場合に最大 300 万円の一時金を支給するなど、多様な支援策で地方創生に取り組んでいる。 ただ、政策効果の検証では、若者の雇用創出などで成果が出ている項目は多数あるものの、人や資金の根本的な流れは変わっていない。 安倍晋三首相が進めてきた経済政策のアベノミクスでは過去 6 年間、 グループ B よりもグループ A が主に恩恵を受けてきた。 国土の 14% に人口約 1 億 2,600 万人の約半分が住むグループ A に力点を置くことは、政治的には成功した。 その結果、安倍首相は 11 月に首相在任期間が歴代最長になる見通しだ。

しかし、アベノミクスはこれまでグループ B の目立った再生にはつながっておらず、日本銀行による異次元緩和の副作用は首都圏よりも地方で積み上がっている。 「金融政策では副作用は完全に地方に大きく出ている。」 大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストはこう語り、さらに「地方銀行がマイナス金利政策導入後どんどん収益を低下させ弱っていき、行政主導で統廃合、大変な道をこれからひたすら進んでいくしかない」と指摘した。

一方、日本は大陸国家よりもシンガポールのような都市国家に近い方針を採る方が良いとする見方もある。 「21 世紀、世界中の人々はどんどん都市に住んでいく、 都市に固まっていく」と予想する野村総合研究所の桑津浩太郎未来創発センター長は、「都市間競争の観点で日本が今やるべきことは東京の強化ではないか」と指摘した。 東京都出身の柳澤龍さん (32) はこの意見に反対だ。 柳澤さんが会長を務める一般社団法人ドチャベンジャーズは秋田県五城目で起業・就業や移住の促進、自立の支援などを行っている。 20 世紀は競争の時代だったと振り返る柳澤さんは、「21 世紀はたぶん、人がそれぞれ楽しく暮らしていければよいのではないか」と語る。

ドチャベンジャーズは旧馬場目小学校を改装して設立した地域活性化支援センター「BABAME BASE」内で活動を行っており、みせっこあさみないからは車で 40 分ほどの場所にある。 柳澤さんが暮らす五城目には、都市よりも豊かな生活があるという。 グループ A とグループ B の溝が広がる状況では、人や資金の流れが止まるシナリオを描くのは難しいのかもしれない。 岐阜県出身の大谷翔さん (33) は 12 2年前に上京。 東京大学で航空宇宙工学を専攻した後、ビッグデータや人工知能 (AI) 関連の企業で働いている。 地元にはもっと活用できる資産があると言うが、そこに戻るつもりはない。 「すぐには岐阜の良いところが思い浮かばない」からだ。 (竹生悠子、Hannah Dormido、Bloomberg = 9-24-19)