幼保無償化なのに「12 万円負担増」 制度の落とし穴

保育園の利用料負担が軽減されるはずなのに、逆に負担が増えてしまった - -。 10 月から始まった幼児教育・保育の無償化で、一部の保護者がそんな「逆転現象」を訴えています。 調べてみると原因は、急ごしらえの国の制度と、自治体がこれまで自主的に進めてきた制度とのミスマッチでした。

「無償になるどころか、我が家は年間 12 万円の負担増です。」 大阪府堺市で中学 1 年生から 2 歳までの 4 人の子どもを育てる女性 (35) は、不満を隠さない。 認可保育園に通う 5 歳と 2 歳の下の 2 人の子どもの利用料は今年度いっぱいまで無料だが、来年 4 月からは給食のおかず代として、1 人あたり月約 5 千円ずつを支払うことになった。 なぜか。堺市ではこれまで、子どもの人数が多い世帯への負担軽減策として、上のきょうだいの年齢や保護者の年収に関係なく、認可保育園などに通う第 3 子以降の子どもと、第 2 子以降の 4、5 歳児の利用料を無料にしていた。 この際、おかず代も利用料の中に含み、保護者の負担はなかった。

ところが、今回の国の無償化策を始める議論の中で、無料にするのは利用料のみとし、おかず代は別に保護者が園に直接支払うと整理し直された。 おかず代は「家で子育てをする場合も生じる費用だ」などの理由からだ。 もちろん、国も無策ではない。 これまでもあった生活保護世帯や、保育園を利用する住民税非課税(年収 260 万円未満)のひとり親世帯、一部の多子世帯に対し、おかず代の免除制度を持っていたが、無償化後は、対象を年収 360 万円未満の世帯まで拡大した。 しかし、それ以上の収入のある多子世帯向けの免除制度には、上のきょうだいの年齢に制限があり、女性は対象から外れてしまった。

免除対象拡大も実態調査せず

堺市では負担増になる世帯のおかず代を来年 3 月まで免除することにしたが、新年度からは「国の制度に倣う」という。 幼稚園はもともとおかず代を実費徴収しており、担当者は「保育園の利用者にだけ免除を続けるのは公平性の観点からも難しい」と話す。 市内には認可保育園などを利用する 3 - 5 歳児が約 1 万人いるが、このうち 2 千人ほどが負担増に転じる見通しだ。 女性は「子どもが多いと負担が増えてしまう。 少子化が深刻な問題になっているのに、納得がいかない。」と嘆く。

こうした逆転現象は、独自に手厚い利用料減免制度を持っていた他の自治体でも起きている。 千葉県市川市では、18 歳未満の子どもが 3 人以上いる世帯向けに、3 人目以降の子どもの保育園の利用料を月 2 万 5 千円減額してきた。 無償化にともなっておかず代が実費徴収に切り替わることで、市内の認可保育園などに通う 3 - 5 歳児約 5 千人のうち約 280 人が負担増になる。 甲府市でも、来年度から負担増になる世帯が生じる。 市の担当者は「新たに認可外保育園が無償化されるなど、全体で見れば支援の範囲は拡大される」と理解を求める。 内閣府は、今回の無償化にあわせた免除対象の拡大で、すべての逆転現象が解消されるか、調査や検討は行わなかったという。

急ごしらえ、周知遅れる

一方、10 月の無償化スタートに前後して、実際には国の免除制度の対象となる人たちからも、「逆転現象」を訴える声が上がった。 SNS 上には一時「非課税世帯で利用料が無料だったのに、無償化のせいで負担が増える」といった趣旨の書き込みが相次いだ。 これは無償化の制度が複雑だったり、詳細が決まらなかったりして、保護者への周知が遅れたことが大きい。 市区町村によっては免除対象者への通知が 9 月中旬以降にずれ込み、直前まで免除制度があることに気付かなかった保護者が続出した。

自治体によって対応が分かれたことも、混乱に拍車をかけている。 京都府では逆転現象を避けるため、府内の市町村と連携し、年収 640 万円未満で子どもが 3 人以上いる世帯については、国のきょうだいの年齢制限を緩和した上で、3 人目以降のおかず代を免除することにした。 京都市内で 3 人を育てる男性は国の免除制度は知っていたが、府内で対象が拡大されることについては知らなかった。

認可保育園などでは免除に特別な手続きは必要ないが、認可外保育園や一部の幼稚園などを利用する場合は、保護者が申請して後日返金を求める手続きが必要なケースが多く、知らなければ不利益を受ける可能性がある。 男性は「無償化というフレーズはよく耳にするが、内実は複雑で、自分の世帯の負担がどうなるのかわからない。 完全に説明不足だ。」と話す。

無償化と給食費の保護者負担

保育園の給食費は施設ごとに異なるが、国は目安として、1 カ月の主食代を 3 千円、おかず・おやつ代を 4,500 円と設定している。 無償化に伴う「逆転現象」を避けるため、国はこれまでの免除対象に加え、年収 360 万円未満の世帯と、子どもが 3 人以上いる多子世帯も対象とする免除制度を設けた。 ただし、年収 360 万円以上の多子世帯では上のきょうだいの年齢に制限があり、保育園を利用している場合は未就学児の子どもの中で 3 人目以降、幼稚園の場合は小学 3 年生までの子どもの中で 3 人目以降が免除対象となる。 自治体によっては、独自に免除対象を拡大している場合もある。 (伊藤舞虹、asahi = 10-23-19)

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無償化で給食のおかず減る? 戸惑う保護者「本末転倒」

10 月から始まる幼児教育・保育の無償化。 幼稚園や保育所に通う 3 - 5 歳の利用料を原則無料(一部上限あり)にする制度だが、払うお金がゼロになるとは限らない。 給食費などの実費は対象外、というのが国の方針だからだ。 自治体によっては独自に補助し、給食費の保護者負担をなくすところもあり、支払額には地域差が。 一方、おかずを減らして対応する園も出始め、保護者の間には戸惑いが広がる。

「給食献立のメニュー変更について。」 横浜市の私立認可保育園に 5 歳と 2 歳の子を通わせる女性 (42) は、9 月中旬に園で配られた紙を見て驚いた。 これまで平均 310 円ほどだった副食(おかず)の材料費が 40 円ほど下がり、その分、おかずやおやつの品数を減らすと書かれていた。 国の目安では、主食(ご飯) 3 千円、副食が 4,500 円。 これまでも保護者が支払う仕組みだったが、特に副食費は、保育所の利用料に含まれる形で自治体に支払っていたため、保護者にとっては負担している実感が薄かった。 また、実際の材料費は、施設によってまちまちだった。

運営会社によると、この園での 9 月までの副食費は月に約 7,800 円かかっていた。 10 月以降は施設ごとに保護者から直接集めることになり、負担を減らすために材料費を千円ほど減額し、保護者からは 6,500 円集めることにした。 栄養価は変えず、日によっては品数を減らすことにしたという。 この女性は「保育の質を落とすなら無償化は本末転倒。 何のための制度なのか。」と話す。

新たに決めた金額が波紋を呼び、再検討を迫られた市もある。 「給食費を減額してほしい。」 東京都稲城市の認可保育所に通う保護者らが 19 日、市に要望書を出した。 9 月初旬から始めた署名の賛同者は 1 千人以上にのぼった。 同市が当初決めた金額は、月 7,500 円。 だが、周辺では副食費分の 4,500 円だけ徴収する市が多く、23 区では無償化を機に保護者負担がゼロになる自治体も多い。 その情報が保護者の間で出回り、「稲城市は高すぎる」と署名活動が始まったのだ。

市側は「保育所に通っていない児童との公平性を考えた」と説明するが、署名した 30 代女性は「子育てしやすい環境を作ることが目的のはずなのに、住む場所で額が変わるのは納得できない」と話す。 要望を受け、市は園長会と再協議し、月額 6 千円に改めた。 ただ、今度は現場から不満が。 市内の保育所園長は「事前の話し合いでは、材料費が 6 千円を超える園もあった。 消費増税もあり、現場の努力だけで質を保つには限界がある。」と漏らした。

保育所の給食費を保護者から徴収するかどうかは、自治体によって違う。 東京 23 区は、千代田区、江東区など大半が認可保育所の給食費全額を補助する方針だ。 保護者負担の軽減だけでなく、「計算が複雑で、専門の事務職員が必要になる(新宿区)」といった理由があがった。 秋田県内でも、県や市町村が補助を出し、25 市町村のうち 15 で保護者負担をゼロにする方針で検討中だ。

一方、国の目安の月 4,500 円より高く設定したところも。 千葉市では、公立の認可保育所で保護者から実費徴収する副食費の額を、月 5,160 円に決めた。 市によると、現在 1 人あたりにかかる食材費を元にして算出したという。 市の担当者は「無理に 4,500 円に抑えようとすれば、出せる給食もそれなりのものになってしまう」と説明する。 主食については、保護者がご飯やパンを持参するという。

さいたま市では、公立保育所で主食と副食費合わせて 5,500 円、私立は各施設で金額を決めたが、一部では 10 月を機に値上げする予定で、保護者からの問い合わせもあるという。 「市は金額の適正さなどを判断する立場にないが、説明を尽くすよう求めている」と担当者は話す。 (国米あなんだ、仲村和代、伊藤舞虹、asahi = 9-30-19)


付属校でない高大連携、続々 実は進学以外にメリット

大学入試改革などで付属校の人気が高まる中、大学と高校が「教育連携」を結び、進学につなげるケースが増えてきている。 付属のような大がかりな枠組みが必要ない上、多様な形で実践できる高大連携。 「○○大コース」など連携大学名を入れたコースも出現し始めた。 「3 年生 1 学期までの評定平均値が 3.5 以上」、「英検 2 級、TEAP220 点以上、GTEC CBT930 点以上のいずれか」、「一定の学力」 - -。

麹町学園女子高校(東京都千代田区)の「東洋大学グローバルコース」の生徒たちが、東洋大に進学できる基準だ。 2016 年に教育連携の協定を結び、17 年度に定員 80 人でこのコースを創設した。 基準さえクリアできれば、全員、東洋大進学も可能だ。 1 期生となる今の高 3 は、入学時、英検 4 級もしくは級の取得さえしていない生徒が半数近くいた。 朝のスピーキング、独自のアクティブイングリッシュの授業、個別指導など、教師たちの総力で英語力を高めた。 「東洋大の進学基準に達していない生徒は 5 人以下で、他大学に挑戦する生徒や海外留学する生徒を除けば、約 8 割が東洋大に進学する。 2 期生は全員クリアをめざす。」と山本三郎校長は意気込む。

山本校長が着任した 15 年度、同校では高校募集はしておらず、中学の入学者は、定員の半数程度という定員割れの状況だった。 かつて関西の私立中高一貫校で、関西学院大との教育連携コースを創設し、学校改革を成功させた山本校長は、首都圏の大学との教育連携を模索した。 関学と同じく、スーパーグローバル大学 (SGU) の東洋大と 16 年に提携。 高校入学者のみの「東洋大グローバルコース」を設け、高校募集を始めた。 東洋大も「グローバル人材となる学生の確保につながる」と歓迎する。

関西の高校では、立命館大など、連携大学の名を入れた個別コースは珍しくない。 山本校長は「保護者は進学に目がいくが、本当はほかのメリットの方が大きい」と説明する。 「全員が同じ大学に進学するので、教室内に偏差値や学力差が持ち込まれず、嫉妬心が生まれにくい。 学校説明会も東洋大キャンパスで行い、高 1 から全学部の授業案内を受けられるなど、大学生の自分が想像でき、早い段階からじっくり進路も考えられる。」

1 期生こそ定員割れだったが、3 期生の今春は、114 人が受験し、定員を超える 89 人が入学した。 東洋大とは別の中高一貫 6 年のコースでも、東京女子大や共立女子大、今年度は成城大や女子栄養大などとも協定を結び、推薦枠もさらに増やしつつある。 今年の学校説明会の参加者数は、異例の多さだという。 玉川聖学院高等部(世田谷区)も、明治学院大、武蔵大、神奈川大、東京女子大、東洋英和女学院大と、教育連携を結び、この春は卒業生の約 2 割が連携大の推薦枠で進学した。 進路担当者は「連携大学は保護者にも安心につながるようだ。 中等部は生徒集めに苦労しているが高等部は志願者が伸びている。」という。

横浜女学院高校(横浜市)も、関東学院大、成蹊大、明治学院大、武蔵大に続き、今年、東京女子大と成城大学と連携した。 井手雅彦副学院長は「連携はさらに広げる。 伝統のある多様な大学の教育を知り、進学できるメリットは大きい。」という。 大学側には、どんなメリットがあるのか。 17 年に麹町学園と玉川聖学院、今年 3 月に桐朋女子、横浜女学院と協定を結んだ、東京女子大(杉並区)は、各校に推薦枠も設け、「校種を超えた一貫教育」のような形の連携をめざしているという。 大学受験の勉強を本格化させる前の段階の高校生に対し、意識や関心、学習意欲が高まるような教育を提供した上で、入試、入学前教育、初年次教育と連続していくことで、大学の教育効果をより高めたい狙いだ。

入試課の担当者は「付属校を持たない大学なので、教育理念や教育内容などの親和性が高い学校と連携した。 意欲のある学生や安定した入学者の確保も目的の一つ。」と語る。 複数の公立高校と連携協定を結ぶ大学もある。 神奈川大学(横浜市)は、神奈川県内の公立、私立高校をはじめ、東京都立や静岡県立など約 90 の高校と、高大連携協定を結んでいる。 高大連携の担当者は「大学を知ってもらう狙いだが、入学後のミスマッチングも少なくなる」という。 連携先のある高校の関係者は「親近感を抱いて一般入試の受験校に選ぶ生徒もいる。 互いにウィンウィンの関係だ。」と話した。

高校と大学との教育連携は、今後ますます広がるのか。安田教育研究所の安田理代表に聞いた。 定員の厳格化で私立大への入学が難化しており、中学受験でも高校受験でも、付属校志向が強くなっている。 高校側は大学とのつながりを強め、推薦枠とともにアピールすることが、生徒募集に有利に働く。 高大連携は文部科学省が進める政策なので、高校、大学どちらにも実績になる。 しかも、教育連携なら、付属校になるほどの大がかりな枠組みや金銭負担はなく、解消もしやすい。

実際には、推薦枠はそれほど多いところばかりではない。 ただ連携する大学に一般入試で入学するとしても、事前の学生と生徒の相互交流、大学の出張授業など、大学で学ぶ内容を十分に知った上で学部学科選択をする意義は、非常に大きい。 将来像が描けるため、入学後に「こんな勉強は向いていない」と思ったり、やる気を失って留年や中退したりということも防げ、生徒にとっても大学にとってもメリットになる。 麹町学園のようにコースを作る動きは、関東では少ないが、今後、広がっていくのではないか。 (宮坂麻子、asahi = 10-16-19)


45 年ぶりの高さの求人倍率 でも小さな異変が

厚生労働省が発表した 8 月の有効求人倍率(季節調整値)は前月と同じ 1.59 倍だった。 有効求人倍率の水準は約 45 年ぶりの高さで、雇用は好調さが続いているようにみえる。ただ、統計を細かくみていくと、小さな異変も出始めている。 雇用の先行指標とされる新規求人数(原数値)は 8 月、前年同月比 5.9% 減だった。 産業別でみると、製造業は 15.9% 減で、今年 2 月から 7 カ月連続でマイナスとなった。

厚労省によると、前年よりもハローワークの稼働日が少ない月があったことなどが影響したとみられるが、減少幅が大きい製造業では米中貿易摩擦が影響している可能性もあるという。 また、総務省が発表した 8 月の労働力調査によると、正規雇用者は 3,497 万人(前年同月比で 18 万人減)で、14 年 11 月以来、4 年 9 カ月ぶりに減った。 「卸売業・小売業」で前年同月と比べて、正規雇用者が 27 万人減ったことが影響したといい、好調なインターネット通販のあおりを受けて卸売業が振るわないことが背景にあるようだ。 他の産業に波及するかどうかは「今後注視する必要がある(同省)」としている。 (滝沢卓、asahi = 10-2-19)


年金、現状水準には 68 歳まで就労必要 財政検証

厚生労働省は 27 日、公的年金制度の財政検証結果を公表した。 経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より 16% 下がり、成長率の横ばいが続くケースでは 3 割弱も低下する。 60 歳まで働いて 65 歳で年金を受給する今の高齢者と同水準の年金を現在 20 歳の人がもらうには 68 歳まで働く必要があるとの試算も示した。 年金制度の改革が急務であることが改めて浮き彫りになった。

財政検証は 5 年に 1 度実施する公的年金の「定期健診」にあたる。 経済や人口に一定の前提を置き、年金財政への影響や給付水準の変化を試算する。 今回は 6 つの経済前提を想定して 2115 年までを見通した。 試算では夫が会社員で 60 歳まで厚生年金に加入し、妻が専業主婦の世帯をモデルに、現役世代の手取り収入に対する年金額の割合である「所得代替率」が将来どう推移するかをはじいた。 政府は長期にわたって所得代替率 50% 以上を確保することを目標にしている。 2019 年度は現役の手取り平均額 35.7 万円に対して年金額は約 22 万円で、所得代替率は 61.7% だった。

6 つのシナリオのうち経済成長と労働参加が進む 3 つのケースでは将来の所得代替率が 50% 超を維持できる。 14 年の前回財政検証と比べると、将来の所得代替率はわずかに上昇した。 女性や高齢者の就業率が想定よりも上昇し、年金制度の支え手が増えたためだ。 積立金の運用が想定を上回ったことも寄与した。 ただ 29 年度以降の実質賃金上昇率が 1.6%、実質経済成長率が 0.9% という最も良いシナリオでも今と比べた所得代替率は 16% 下がる。

成長率が横ばい圏で推移する 2 つのシナリオでは 50 年までに所得代替率が 50% を割り込む。 最も厳しいマイナス成長の場合には国民年金の積立金が枯渇し、代替率が 4 割超も低下する。 これらの場合、50% の給付水準を維持するために現役世代の保険料率の引き上げなどの対策が必要になる。 今の年金制度に抜本改革された 04 年当時の見通しに比べると、年金財政のバランスをとるために給付抑制が必要な期間は長期化している。 04 年の想定では基準となる経済前提のケースで 23 年度までの 19 年間で給付抑制は終了する計画だった。 今回の財政検証では最も経済状況が良いケースでも、今後 27 年間は給付の抑制を続けなければならないとの結果だ。

04 年改革は現役世代の保険料負担の増加と引退世代の年金給付抑制が改革の両輪だった。 だが実際には保険料の引き上げは進んだものの、少子化の進展にあわせて年金額を抑える「マクロ経済スライド」はデフレなどを理由に 2 回しか発動されていない。 そのことで将来世代の給付水準を押し下げている。 今回の検証では若い世代が何歳まで働けば、今年 65 歳で年金受給が始まる高齢者と同じ水準の年金をもらうことができるかを試算した。 それによると成長率が横ばいの場合、現在 20 歳は 68 歳 9 カ月まで働いて保険料を納め、年金の開始年齢も同様に遅らせる必要がある。 働く期間は今よりも 8 年 9 カ月長くなる。

同様に現在の 30 歳は 68 歳 4 カ月、40 歳なら 67 歳 2 カ月まで働いて、ようやく今の 65 歳と同水準をもらうことができる。 公的年金の受給開始年齢は 65 歳が基準で、60 - 70 歳の間で選べる仕組みだ。 開始年齢を 1 カ月遅らせると、毎月の年金額は 0.7% 増える。 厚労省は今回の財政検証を踏まえ、年末までに年金改革の具体案をまとめる方針だ。 支え手拡大と給付抑制に取り組む必要がありそうだ。 (nikkei = 8-27-19)


働き改革による残業代減少を嘆く声 「子供 2 人いてとてもじゃないけど生活できない」

生活費を稼ぐために残業をする「生活残業」という言葉がある。 2019 年 4 月から始まった働き方改革だが、単純に残業時間を減らすだけでなく、賃金の引上げも行ってほしいという声も少なくない。 キャリコネニュース読者から寄せられた、「働き方改革から受けた痛手エピソード」を紹介する。

営業職の 20 代男性の会社は、残業時間が月 30 0時間までと決まっている。 そのなかで外回りと内勤をこなすのだが、必然的に外回りの時間を削って内勤にあてなくてはならない。 しかし上司から、「外に出ろ!」と言われるため、終わらない内勤業務を家に持ち帰るという。

「上司に『家でやっている』と言っても、笑っているだけです。」
「以前のように、残った仕事をみんなで残業するほうがよっぽど良かった。」

販売・サービス職でパート勤務の 40 代女性は、空回りする現況を語った。 働き方改革でほとんどの人が定時で帰されるため、残った少数の人にすべての負担がかかっている。

「それでも社員からお疲れ様の労いもなく、『早く帰れ』という空気が漂います。 会社の雰囲気が悪くなり、仕事を残すのも、残ってこなすのも辛いです。」

それなのに、会社側に人員を増やす気配はない。 女性は、

「短い時間で必死に仕事をこなしても、限度があります。 以前の残った仕事をみんなで残業するほうがよっぽど良かったです。」

と漏らした。

「昇給やボーナスに響く未来しか見えない。 これは私たちを守る政策なのでしょうか?」

自動車部品製造会社に勤務する 30代男性は、働き方改革の残業規制について、

「生産性を 20% 向上しようなどと経営層は言い始めましたが、なんの投資もしないまま量産ラインの生産性が大きく上がるはずもない。」

と苦言を呈す。

「最終的には増員して 3 交代制などにしていくと思いますが、人件費が増えて経営を圧迫し、昇給やボーナスに響く未来しか見えない。 これは私たちを守る政策なのでしょうか?」

と製造業従事者ならではの声を挙げた。

電気・電子・機械系技術職の 30 代男性の声も切実な問題だ。 男性の基本給は 10 年間も上がらないなか、毎月 40 - 60 時間の残業でなんとか生活できていた。 しかし、現在は毎月の残業時間が 0 - 10 時間に削減された。

「とてもじゃないが子供が 2 人いて生活できるレベルではない。 残業に頼らない生活は、10 年前の独身だったらまだしも、家庭を持った現在では無理。 そもそも 10 年間基本給が上がらないのもどうかと思う。 ベースアップができるような体制の働き方改革にしてほしい。」

営業職の 30 代女性は、

「入社したての子たちは、権利を盾に定時退社。 そのツケは私たち、少し上の人たちが無言で尻拭い。 もっと上の人たちは、辞められては困るし、建前は働き方改革だから、言うに言えず、結局あちこちで板挟み。」

と不満をこぼしている。 (キャリコネ = 8-18-19)


最低賃金の格差、18 年度から 1 円縮小 改善 16 年ぶり

2019 年度の最低賃金(時給)の改定額が 9 日、全都道府県で出そろった。 最高は東京の 1,013 円で、神奈川とともに初めて 1 千円を超え、最低額は 790 円で 15 県が並ぶ。 東京と最低県の地域間の格差は 223 円で、18 年度の 224 円から 1 円縮小する。 金額差の改善は 16 年ぶり。

最低賃金上がっても格差 「貧乏県、仕方ないのかな」

厚生労働省の審議会は 7 月下旬、都道府県を A - D のランクに分け、28 - 26 円の引き上げ目安額を示し、これをもとに各地の審議会が改定額を議論してきた。 引き上げ目安を上回る改定額を出したのは 19 県。 700 - 800 円台の地域が目立ち、東京との金額差をわずかに縮めることになった。 厚労省は「最低賃金が高い都市部への人口流出を懸念した地方の実情が表れた」としている。 18 年度、最も低い鹿児島(761 円)は目安の 26 円を 3 円上回る 29 円の引き上げで単独の最下位を脱出する。 29 円の引き上げ額は 28 円上げた東京などを超えて全国で最も高い。

各地の労働者数を考慮した全国加重平均は 901 円になった。 18 年度の 874 円から 27 円増え、平均で初めて 900 円を超える。 各地で 15 日間、異議を申し出る期間を経て、この改定額で正式に決まれば、今年 10 月から順次、新しい最低賃金が適用される。 (滝沢卓、asahi = 8-10-19)

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最低賃金、東京・神奈川 1,000 円超え 全国平均 901 円に

中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は 31 日、2019 年度の全国の最低賃金の目安を 27 円引き上げて時給 901 円にする方針を決めた。 三大都市圏は 28 円上がり、東京都と神奈川県は初めて 1,000 円を超える。 大阪府は 964 円となる。 引き上げ額は過去最大となった。 持続的に賃金を引き上げるには、企業の生産性向上が課題だ。

最低賃金は法律で支払いを義務づけた最低限の時給を指す。 経営者と労働者の代表に学者を加えた公労使で構成する審議会が年 1 回、引き上げの目安を決める。 この目安をもとに各都道府県で議論し、10 月をメドに改定する仕組みだ。 政府が 19 年度の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で「より早期に全国平均で 1,000 円を目指す方針」を明記したのを受け、引き上げ額に注目が集まっていた。

今の最低賃金は全国平均874円だ。今回示した 27 円という引き上げ目安は 18 年度を 1 円上回る。 目安額は地域の経済力などに応じて A - D の 4 つに分類して提示した。 東京や神奈川など A ランクは 28 円、茨城や京都などは 27 円、北海道や群馬などの C ランクと青森や鹿児島など D ランクは 26 円とした。 最も高い東京都は目安通り引き上げた場合、1,013 円になる。 神奈川県は 1,011 円だ。 D ランクの引き上げ率は平均 3.4% と 4 グループで最も高くなる。

審議会は 30 日午後 2 時に始まり、31 日午前 4 時 40 分まで徹夜で議論した。 地域間格差の縮小と全国平均 1,000 円を目指すという政府方針が議論の軸となるなか、労働者側は全ての都道府県で 800 円以上になるよう主張した。 経営者側は中小企業の経営環境は厳しい状況にあるとして大幅な引き上げに反対だった。 生産性の向上に見合った賃上げになっていないとの不満が強い。 最後は引き上げを認める形で決着した。

目安通りに引き上げた場合、17 県が最低賃金 800 円を下回るものの、31 日に記者会見した連合の冨田珠代総合労働局長は「格差拡大に一定の歯止めがかかった」と評価した。 一方、日本商工会議所の三村明夫会頭は「中小企業の経営、地域経済に及ぼす影響を懸念する」とコメントした。 政府は 16 年に最低賃金を 3% 程度引き上げる目標を掲げ、3 年連続で達成した。 19 年 6 月にまとめた骨太の方針では 3% 超の賃上げを促してきた。 今回の引き上げ目安は平均で 3.1% となり、厚労省は「骨太に沿った目安」としている。 (nikkei = 7-31-19)


全ての会社員、iDeCo へ加入可能に 改革の案が判明

老後にむけた資産形成を促すため、厚生労働省が私的年金「確定拠出年金」についてまとめた改革案の概要が分かった。 勤め先で「企業型」に加入する会社員が、個人で入る「個人型 (iDeCo)」は原則として併用できないルールを改め、全ての会社員がイデコに入れるようにする。 加入期間の延長など、他の利用拡大策も検討を進める。

厚労省が確定拠出年金の改革に乗り出すのは、公的年金の水準が目減りする中で、老後の生活費を自助努力で増やしてもらう流れを強める狙いがある。 今後、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)での議論や財務省、与党との調整を進め、来年の通常国会への関連法改正案の提出を目指す。 年金には、国民年金や厚生年金といった公的年金のほか、それを補う私的年金がある。 確定拠出年金は私的年金の一つで、掛け金や運用益は非課税になり、節税効果がある。 ただ、掛け金の運用方法は加入者が決めるため、運用結果によって年金額は増減する。 6 月末現在の加入者は、企業型が約 716 万 4 千人、イデコが約 127 万 8 千人。

今は企業型に入る人は、原則としてイデコが併用できない。 労使合意があれば併用できるが、その場合は事業主が払う掛け金の上限を 5.5 万円から 3.5 万円に下げるルールがあり、従業員の利点が薄まるため併用は進んでいなかった。 改革案では、事業主の掛け金の上限が 5.5 万円のまま、企業型とイデコの併用を可能にする方針。

このほか改革案では、加入期間も延長する。 いまは 20 - 59 歳だが 65 歳まで引き上げる方向。 掛け金を長く払えば、年金額は増える可能性がある。 また、自前の企業年金制度がない中小企業が、福利厚生のために従業員のイデコ掛け金の一部を負担できる制度「イデコプラス」を使える対象企業も、今の「従業員 100 人以下」から「300 人以下」に広げる。 掛け金は、従業員と事業主の合計で月 5 千 - 2 万 3 千円で、事業主の掛け金は損金扱いになる利点がある。 (山本恭介、asahi = 8-9-19)


大手夏ボーナス、92 万円 = 3% 減も高水準維持 - 経団連最終集計

経団連が 2 日発表した大手企業の今夏のボーナスの最終集計によると、平均妥結額は前年比 3.44% 減の 92 万 1,107 円となった。 「ボーナスよりも月例賃金の引き上げを優先した労働組合があった(労働政策本部)」という。 ただ、最高だった 2018 年に次ぐ過去 2 番目の額で、経団連は「好業績を反映し高水準を維持した(同)」としている。 (jiji = 8-2-19)


3 千万人突破の女性就業者、半分は非正規雇用 賃金低く

総務省が 30 日に発表した 6 月の労働力調査で、女性の就業者数が前年同月より 53 万人増えて 3,003 万人となり、初めて 3 千万人を超えた。 男性は同 7 万人増の 3,744 万人だった。 働き手の人数の男女差は縮まりつつあるが、女性の働き手の半分程度は正社員よりも賃金が低い非正規雇用で、賃金面の男女差はなお大きい。 6 月の完全失業率(季節調整値)は、前月より 0.1 ポイント改善して 2.3% だった。 バブル経済期の 1989 年 6 月の失業率も同水準の 2.2% (同)だったが、就業者数は男性 3,686 万人、女性 2,553 万人だった。 この 20 年で男性の働き手は 58 万人の増加にとどまったが、女性は 450 万人も伸びたことになる。

背景には、女性の社会進出に加え、人手不足に直面した企業側が女性の積極採用にかじを切ったことがある。 世帯主の収入の伸び悩みや、増税と社会保険料の負担増で家計が苦しくなり、働き始めた女性も多いとみられる。 自営業主や会社役員を除いた雇用者に占める非正規率は、6 月は男性が約 23% (703 万人)、女性は約 55% (1,445 万人)だった。 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、5 月の女性の平均賃金は約 19 万円で、男性の 6 割以下の水準だ。

足元で堅調な雇用情勢だが、変調の兆しも出始めている。 厚労省が 30 日に発表した 6 月の有効求人倍率(季節調整値)は前月より 0.01 ポイント低い 1.61 倍で、約 10 年ぶりに 2 カ月連続で悪化した。 米中摩擦などを受け、おもに製造業で求人を控える動きが出ている。 厚労省は「先行きとして悪化していくとは見込んでいない(職業安定局)」としている。 (内藤尚志、asahi = 7-30-19)

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6 月の有効求人倍率、2 カ月連続悪化 米中摩擦など影響

厚生労働省が 30 日に発表した 6 月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月より 0.01 ポイント低い 1.61 倍で、2 カ月連続で悪化した。 求職者 1 人あたり何件の求人があるかを示すもので、仕事をさがす高齢者が増える一方で、新たに出てくる求人が減ったのが響いた。 米中摩擦などを受け、おもに製造業で求人を控える動きが出ている。 有効求人倍率の悪化が 2 カ月続くのは、リーマン・ショックの影響があった 2009 年 8 月以来、約 10 年ぶり。 ただ、現状の倍率は約 45 年ぶりの高水準のため、厚労省は「雇用情勢は改善が進んでいる(職業安定局)」との見解を維持した。 正社員に限った有効求人倍率(季節調整値)は前月と同じ 1.15 倍だった。

一方、総務省が同日に発表した 6 月の完全失業率(季節調整値)は、前月より 0.1 ポイント改善して 2.3% だった。 改善は 2 カ月ぶり。 転職などをめざして自ら仕事を辞める人が減り、完全失業者数が減少した。 企業側の人手不足を背景に就職しやすい環境は続いており、女性の就業者数が前年同月比 53 万人増の 3,003 万人となり、初めて 3 千万人を上回った。 男性は同 7 万人増の 3,744 万人だった。 (asahi = 7-30-19)


子どもの貧困に新指標 衣食困窮・公共料金滞納・養育費

子どもの貧困対策大綱の見直し案について検討している内閣府の有識者会議は 29 日、貧困状態を把握するための 37 の指標を取りまとめた。 食料の確保に困った経験や公共料金の滞納などの新指標を含む。 政府は今年度中に改定する大綱に、37 指標を盛り込む方針だ。

内閣府は同日の有識者会議の会合で、国立社会保障・人口問題研究所が 2017 年に実施した「生活と支え合いに関する調査」の結果に基づき、過去 1 年間で衣服を買えない経験をしたひとり親家庭は 39.7%、食料の確保に困ったのは 34.9%、電気料金滞納は 14.8% だったと発表。 ひとり親家庭を含む子どもがいる家庭では、それぞれ 20.9%、16.9%、5.3% だった。

有識者会議は、こうした調査結果を踏まえて指標を検討。 今の大綱で示している子どもの貧困に関する 25 指標のうち、子どもの貧困率など 15 指標はそのまま残し、生活保護世帯や児童養護施設の子どもの就職率など 10 指標は、「貧困を表すか評価が難しい」などとして削除することにした。 新たな 22 指標には、衣服や食料に困った経験がある割合や公共料金の滞納率のほか、ひとり親家庭の親が正規職員・従業員として働く割合、離婚後に養育費を受け取っていない割合なども加える。 (浜田知宏、asahi = 7-29-19)


「天下の山形屋も時給 761 円」 鹿児島女性のため息

今年度の最低賃金(時給)の引き上げ額の「目安」が、30 日に開かれる国の審議会で示されます。 近年は賃上げを重視する安倍政権の意向に沿って平均 3% の高い伸びが続いており、今年もこの流れを引き継ぎそうです。 一方で、都市部と地方の格差は広がり続けています。 格差是正は参院選でも争点になりましたが、抜本的な見直しは難しそうです。

鹿児島市の女性 (60) は、求人誌や新聞に載るパート募集の記事を見てはため息をついている。 「天下の山形(やまかた)屋も 761 円か …。」 山形屋は、鹿児島を中心に展開する老舗百貨店グループだ。 だが、女性が目にした求人の時給は、2018 年度に全国最下位となった鹿児島県の最低賃金と同額だった。 数年前までパートとして菓子製造会社で働いていた。 時給は鹿児島の当時の最低賃金とほぼ同じ 680 円。 繁忙期には自宅に 2 千枚のシールを持ち帰り、深夜まで商品に貼り続けた。 無給のサービス残業だ。 さすがに嫌気がさし、15 年間勤めた職場を去った。

もう最低賃金レベルで働くのはこりごりだ。 だが、鹿児島で時給 1 千円を求めれば、ノルマが厳しい仕事や水商売などに求人が絞られてくる印象で、自分には無理だと思う。 一方で、最低賃金が全国トップの 985 円の東京都では、時給 1 千円以上の求人が様々な業種から出ると聞く。 「スーパーの売り場を見ても、都会と物価にそれほどの差があるとは思えないのに。 それでも、長く働くほど収入には大きな差が付く。」 同じ労働の対価に地域間格差がある現状に、女性は釈然としない思いだ。

都道府県格差どう是正

最低賃金は毎夏、労使の代表と大学教授らでつくる厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会が、物価や所得水準から都道府県を四つのランクに分け、引き上げ額の目安を示す。 今年は 30 日の会合で示す予定で、これをもとに各都道府県で実際の上げ幅がそれぞれ決まる。 18 年度の目安は、全国加重平均で過去最高となる 26 円の引き上げ額を示した。 引き上げ率は 3 年連続で 3% を超える。 今年も 3% を下限にどこまで上積みされるかが注目点だが、それだけではない。

22 日の小委では、労働側の委員が「金額の差が開いている。 地域間格差の是正が必要だ。」と問題を提起した。 最低賃金が全国首位の東京都と最も低い県との差は広がっている。 02 年度は 104 円だったが、18 年度は 224 円と 2 倍超になった。 最低賃金が生活保護の給付額を下回らないように上げてきた経緯もあるが、安倍政権が 15 年に設定した目標が影響を与えているとの見方もある。 最低賃金を「年 3% 程度」引き上げ、「全国加重平均で 1 千円」を達成 - - という目標だ。

加重平均は、各都道府県の労働者数の違いを考慮して算出する。 「1 千円」の早期達成には東京、大阪、神奈川のような人口が多く、最低賃金も高めの都府県を大きく引き上げることが近道になるが、それではランク上位と下位の差はいつまでも縮まらない。 18 年度の最低賃金の全国加重平均は 874 円。 これを上回るのは東京など 7 都府県にとどまる。

政治で盛り上がる「一元化」論

「人間の尊厳を守る生活には、足りなさすぎる。 最低賃金の全国一律 1,500 円を、政府が保証してはどうか。」 7 月 9 日。 九州新幹線が発着する鹿児島中央駅前で、れいわ新選組の山本太郎代表が声を張り上げていた。 結党直後の参院選で 2 人が初当選したれいわ。 公約で、都道府県ごとに異なる最低賃金を一元化し、引き上げると訴えた。

都道府県間の格差を問題視する声は与党にもある。 「地方に居住する若者の給料は低くてもいいんだと言わんばかりの国の制度がまともだとは思えません。」 自民党の務台俊介・元内閣府大臣政務官(比例北陸信越ブロック)は自身のブログに、都会と地方の最低賃金の格差にこう疑問をつづる。 務台氏は 2 月にできた同党の「最低賃金一元化推進議員連盟」の事務局長。 顧問に二階俊博幹事長(和歌山 3 区)、会長に衛藤征士郎氏(大分 2 区)が座り、メンバーにも稲田朋美氏(福井 1 区)ら「大物」議員が名を連ねる。

地方に支持基盤をもつ議員らは、最低賃金が低い地域から都市部に若い人材が流出し、人手不足の切り札とされる外国人労働者の確保も難しくなると主張する。 アベノミクスのもとで実質賃金が伸びていない実態が認識されてきたことも、危機感の背景にあるとみられる。 今年度の最低賃金は、引き上げ額が前年並みならば、東京都と神奈川県が初めて 1 千円を超える一方、鹿児島県が 1 千円に届くにはあと 10 年かかる計算だ。 厚労省関係者は「今年の改定で解決できるような問題ではない」と言う。

格差是正には地方に都市部以上の上昇が必要だ。 ただ、日本総研の山田久理事は「企業が急速な引き上げに耐えきれず、最低賃金で働く人たちの雇用が失われるおそれがある」と指摘する。 そのうえで「引き上げが雇用に与える影響などの副作用を十分に検証し、格差の是正や一律化には相当きめの細かい対策が必要になる」と語る。 (榊原謙、asahi = 7-28-19)