2 社で雇用、トラック運転手の過労死認定「実態は 1 社」

二つの企業に雇われていたトラックドライバーの男性が死亡したのは長時間労働が原因だったとして、川口労働基準監督署(埼玉県)が 7 月 5 日付で労災を認定した。 遺族側の弁護士が 26 日、記者会見で明らかにした。 労災認定では副業など複数社の労働時間は原則として合計されないが、この男性の場合、実態は片方の会社だけに雇われていたという。

弁護士によると、男性は埼玉県三郷市の武田正臣さん(当時 52)。 1991 年に物流会社ライフサポート・エガワ(東京都足立区、以下エガワ社)に入社。 貨物の配送や積み下ろしを担当していた。 2018 年 4 月、配送先の倉庫内で意識不明で倒れているのが見つかり、致死性不整脈で亡くなった。 エガワ社は 15 年、別の会社を設立。 配送をエガワ社、積み下ろしを別会社に分担し、武田さんを 2 社で雇う形にしていた。 労働時間や仕事の指示は全てエガワ社が管理していたという。

川口労基署が認定した残業時間は亡くなる直前の 1 カ月間で約 134 時間だったといい、「過労死ライン」とされる月 100 時間を超えていた。 川人博弁護士は会見で「実質は一つの雇用を二つに分けて労災責任を免れる危険性があった」と指摘した。 エガワ社は取材に対し、「労災の認定を真摯に受け止め、長時間労働の再発防止に努める」としたが、業務を 2 社に分けたことなどについては「コメントを控える」とした。

厚生労働省によると、副業や兼業をしている場合の労災認定では原則、複数社の労働時間は合計しないが、雇い主が同一といった実態があれば合計する場合がある。 同一かどうかの判断について明確な基準はなく、個別の実態を見極めるという。 (滝沢卓、asahi = 7-26-19)


損するのは独身と共稼ぎ会社員 「年金」やっぱり国家ぐるみ詐欺

「今の日本社会でいちばんひどい目に遭っているのは、40 代の就職氷河期世代、つまり『団塊ジュニア』たち。 皮肉なことに、彼らが割を食った原因は、社会が親世代の雇用を守ろうとしたためなんです。」 こう語るのは、累計 60 万部を超えるベストセラー『言ってはいけない』シリーズの著者・橘玲氏だ。 「1990 年代前半のバブル崩壊後、『リストラ』という言葉が流行語になりました。 企業は新卒の採用を減らして、中高年の雇用を守った。 『終身雇用』である以上、正社員は解雇できない。 その結果、団塊の世代の子供たちが犠牲にされたのです。 親の雇用を守ったことで、子供たちの雇用が破壊されたわけです。(橘氏、以下同)」

2019年夏の参院選では、年金が争点のひとつになった。 だが、そこにも「不都合な真実」が隠されているという。 「日本の社会保障制度は、世代間格差というより、世代間『差別』です。 とりわけ、独身と共働きのサラリーマンがいちばん損をしています。 厚生年金と国民年金は基礎年金部分でつながっていて、国民年金の大赤字を厚生年金からの拠出金で補填している。 サラリーマンの『第 3 号被保険者』、つまり専業主婦は、保険料を払わずに、月 5 万円程度の年金を受給できますが、その保険料を誰が負担しているかといえば、(専業主婦がいない)独身や共働き世帯のサラリーマンたち。彼らは、二重にぼったくられていると言っても過言ではありません。」

個人の年金記録は、毎年 1 回送られてくる「ねんきん定期便」でわかるようになっている。 だが、そこにもカラクリが潜んでいる。 「厚生年金は、本人と会社が保険料を折半して負担する仕組みです。 ところが『ねんきん定期便』には、自己負担分の保険料の総額と、将来もらえる年金額しか記載されていない。 従順なサラリーマンは、両者を見比べて、『これだけもらえるなら重い負担もしかたないか …。』と納得しています。 しかし実際には、『会社負担分』の保険料も、会社の人件費の一部ですから、サラリーマンが支払っています。 それを考慮すれば、サラリーマンが加入する厚生年金は、支払ったぶんの半分程度しか戻ってこない。 『搾取』以外のなにものでもありません。

この事実に気づいたら、いくら従順なサラリーマンでもさすがに怒り出すでしょう。 だから『ねんきん定期便』は、会社負担分の保険料を、なかったことにしています。 これはまさに、国家ぐるみの詐欺みたいなものです。」 就職氷河期世代は、奪われる一方だった - -。 だが、なぜこのことに気づけなかったのか。 大新聞などの主要メディアは、こうした "サラリーマンいじめ" を報じてこなかった。 「2000 年代初めのことですが、ある経済紙が 1 面で『就職氷河期世代』を取り上げました。 正社員の雇用を過剰に守っていることが、若者を就職できなくさせているのではないかとの問題提起だったのですが、たちまち読者から抗議の電話が殺到したそうです。

その怒りに恐れをなした経営幹部は、それ以後、『雇用の世代間格差にふれることを封印した』と、その記事を担当した記者から聞きました。 新聞の主要な購読者は、右も左も団塊の世代です。 このコア読者からそっぽを向かれると、新聞社は潰れてしまいます。」 そしていまや、新聞のコア読者層である団塊の世代は、全員が年金受給者になった。 「新聞が、『若者や将来世代が多額の損失を被らないように、高齢者世代は年金の一部をあきらめよう』などと書けるはずがありません。

また、読者に団塊の世代が多い、『週刊現代』や『週刊ポスト』、『週刊新潮』や『週刊文春』などの男性週刊誌も同じです。 ただでさえ減っていく読者を、さらに減らすような記事は、いっさい書けなくなっているのが実態です。 本来、リベラルなメディアこそが、『こんな年金制度を放置してきた高齢者世代に責任がある』『貧困高齢者対策は高齢者世代内の再分配でやれ』と書くべきだと思うのです。」 いまや多くのメディアで "タブー" と化した年金問題。 「人生 100 年時代」といわれる現在、団塊の世代が 90 代になる2040 年には、就職氷河期世代も前期高齢者(65 歳以上 75 歳未満)となり、日本の高齢化率は 35% に達する。

つまり、現役世代 1.5 人で、高齢者 1 人を支えることになる。 「社会保険料は、今後ますます上がっていくでしょう。 給与明細を見ればわかるとおり、名目では賃金が増えても、手取りは減っています。 社会保険料が増えれば会社負担分も重くなり、会社も利益を出せなくなっていきます。 国民年金や国民健康保険は天引きできませんから、保険料が上がると払えなくなって、『これなら生活保護のほうがマシ』と考える人が出てきます。 当然、ちゃんと保険料を払ってきた人は、『冗談じゃない』と怒り出して、世の中はますますギスギスしていくことになります。 これが、令和の最初の 20 年で起きることでしょう。 それでも、団塊の世代の年金だけは守られるでしょうが。」

額に汗して働いても、割を食う将来が待つサラリーマンたち。 どうすればいいのか。 「どのように計算しても、年金は受給開始を『70 歳まで繰り下げて受け取る』のが有利です。 これで年金額が 65 歳受給に比べて、42% も増えます。 平均余命から受給総額を計算すると、60 歳に繰り上げて受け取ったら 3,300 万円、70 歳まで繰り下げれば 4,400 万円で、1,100 万円も違います。 『年金は繰り上げてもらえ』と書く週刊誌もありますが、1,000 万円もの損失を正当化できる理屈などありません。 『年金をすぐにもらえ』と書くほうが、読者受けがよかったのかもしれませんけどね。」

さらに、こう続ける。 「平均寿命が急速に伸びるなかで、先進国はどこも『生涯現役』社会に向かっています。 そう考えれば、『人生 100 年時代』の人生設計は、『長く働いて年金を繰り下げて受給する』以外にありません。 定年後もずっと働いて稼げるように、ネットワークやスキルを磨いておくことが大事なのではないでしょうか。」 自分の身は、自分で守るしかない。 (SmartFLASH = 7-21-19)


仕事も休暇もリゾート地で 「ワーケーション」に熱視線

リゾート地などに滞在してあるときは仕事 (work)、またあるときは休暇 (vacation) を楽しむ - -、 「ワーケーション」と呼ばれるそんな新しい働き方が、注目を集めている。 人口減に悩む地方の自治体も、受け皿になろうと力を入れる。 避暑地として名高い長野・軽井沢は、北陸新幹線で東京駅まで 1 時間余りという好アクセスもあって、夏には多くの人らでにぎわう。 その駅から徒歩 2 分、「ハナレ軽井沢」が 6 月、オープンした。

売りの一つが、ワーケーション拠点だ。 NTT コミュニケーションズが運営にかかわり、電話会議などができる通信サービスを提供。 十数人が利用できる広さの部屋に高速無線 LAN やホワイトボード、プリンターなどを完備する。 「新規事業を立ち上げよ。」 指令を受けた企業のプロジェクトチームが合宿し、アイデアを練り上げる - -。 そんな利用のしかたを同社は想定。 「社内や企業間での活発なコミュニケーションやイノベーションが生まれる場を求めるニーズは、これから高まっていくだろう」と予想する。

ワーケーション拠点は 7 月下旬以降、希望する企業に体験利用してもらい、10 月から有料でフロアごと貸し出す事業を始めるという。 ビーチや温泉で知られる和歌山県白浜町も、飛行機なら東京から 1 時間 10 分ほどで着く。 空港から車で 5 分ほどの一角を町などがオフィスとして整備。 三菱地所が借りてワーケーション拠点を 5 月、本格オープンさせた。 同社が展開するオフィスビルに入居するテナント企業に、1 日 10 万円で貸し出す。 利用者には「仲間と一つのことに集中できる」と好評。 休暇を取って先乗りし、熊野古道など周辺で観光を楽しむ人もいるのだそうだ。 三菱地所は来年 3 月までに、ワーケーション拠点を全国に 3 カ所整備する計画だ。

近畿日本ツーリスト関東は、長野県駒ケ根市にある「日本一の標高」が売りのホテルでワーケーションを体験できる 3 泊 4 日のツアーを今月 23 日から実施する。 IT を使ってテレワークしつつ、アスパラガスの収穫体験もできる。 都市部で日々いそがしく働いていると、地方の自然豊かなリゾート地で癒やされたくなる。 IT を駆使すればテレワークは難しくないし、普段の職場から離れた環境に身を置けば、モチベーションや生産性の向上につながる - -。 「働き方改革」が叫ばれる中、企業にはそんな期待も高まっているようだ。

人口減に悩む地方の自治体もワーケーションに熱い視線を寄せる。 都会のビジネスパーソンとのつながりを通じて、地域活性化にもつなげられるからだ。 和歌山、長野両県知事や企業関係者ら約 350 人が 18 日、東京・大手町に集まり、両知事が「ワーケーション・スタートアップ宣言」にサインした。 三重県志摩市や長崎県五島市など、北海道から鹿児島まで全国 40 の市町村が参加する自治体協議会を近くつくり、普及を後押しする。

「ワーケーションを社内に取り入れようとする企業もあれば、オフィスの提供などでビジネスにしようとする企業もあるだろう」と和歌山の仁坂吉伸知事。 長野の阿部守一知事は「ミカンと海の和歌山と、リンゴと山の信州。 一緒に普及に取り組むことで、企業への訴求力は強くなる。」と期待を示した。 (大野択生、asahi = 7-20-19)


高齢世帯の 5 割、所得は公的年金・恩給だけ 厚労省調査

所得が公的年金や恩給だけの高齢者世帯が 5 割超にのぼることが、厚生労働省が 2 日公表した国民生活基礎調査で分かった。 生活が「苦しい」とする世帯が 0.9 ポイント増え、55.1% を占めた。 金融庁審議会の報告書は、公的年金だけでは老後の生活費が不足すると指摘したが、年金で家計を支える高齢者が多い可能性が改めて浮き彫りになった。 昨年 6 - 7 月に約 6 万世帯を対象に調査(有効回答 74%)、所得はうち約 9 千世帯に尋ねた(同 73%)。

高齢者世帯は、65 歳以上だけか、18 歳未満の未婚者と一緒に暮らす世帯。 2017 年の平均所得は 334 万 9 千円で、前年より 16 万 3 千円 (5.1%) 増えた。 増えた理由について、担当者は「働く高齢者が増えたため」としている。 金額に占める割合は、「公的年金・恩給」が 61.1% で最も多かったが、前年より 5.2 ポイント減少。 働いて得る「稼働所得」が 25.4% で同 3.1 ポイント増えた。

一方、世帯ベースでは、公的年金・恩給が所得に占める割合が「100%」と答えた高齢者世帯が 51.1% (前年比 1.1 ポイント減)で最多。 「60 - 80% 未満」が 13.4% (同 0.1 ポイント減)で続いた。 今回の調査では預貯金は調べていないが、利子が年 5 千円以下なら公的年金・恩給で「100%」に区分されるため、年金しか所得がない場合も、厚労省は「預貯金がないとは言い切れない」と説明している。

調査した全世帯の平均所得は 551 万 6 千円で、前年より 8 万 6 千円 (1.5%) 減った。 生活が「苦しい」と答えたのは 1.9 ポイント増の 57.7% だった。 昨年 6 月 7 日現在の世帯総数は 5,099 万 1 千世帯。 このうち高齢者世帯は 1,406 万 3 千世帯 (27.6%) で、世帯数も割合も過去最高だった。 (西村圭史、asahi = 7-2-19)


残業時間の上限、3 割で引き下げ 主要 100 社調査

主要 100 社を対象にした朝日新聞のアンケートで、労使協定で定める残業時間の上限を引き下げる企業が 3 割を占めた。 終業から始業までに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」を導入した企業も 3 割あった。 残業の上限規制などで長時間労働の是正を促す法律が 4 月に施行され、大企業に働き方を見直す動きが出ている。 アンケートは 5 月 27 日 - 6 月 7 日におこなった。 景気に加え、働き方についても質問した。

上限規制を受けて、労使協定で取り決める残業時間を減らしたのは、日立製作所やヤフーなど 25 社。 クボタは昨年 12 月、年間の上限を「750 時間以内」から、新ルールの上限である「720 時間以内」に見直した。 「今後減らす予定」も 4 社あった。 それ以外の企業では、すでに上限以下に設定しているとの回答が約 30 社あった。 これらも含めると、新ルールを満たすのは 6 割となる。 KDDI は 17 年に、「年 720 時間」から「年 540 時間」に引き下げた。 日本ガイシも「1 カ月 70 時間、6 カ月 300 時間」とする労使協定を結んでいるという。

一方、4 月から努力義務が課せられた勤務間インターバルは 33 社が導入済み。 そのうち 19 社は休息時間が「7 - 11 時間未満」、14 社は「11 時間以上」だった。十分な休息には 11 時間以上が必要とされ、この制度を義務づける欧州連合 (EU) はこれを基準にしている。 10 時間と設定する JTB は「必要な休息をしっかり取ることが、いい仕事につながる。」 12 時間の DMG 森精機は、前の退社から 12 時間たつまでパソコンにログインできないシステムを採り入れている。 「今後導入する」も 2 社あり、J フロントリテイリングの山本良一社長は「働き方改革ができなければ、有能な人材が集まらないだけでなく、流出にもつながる」と話す。 (高橋末菜、長橋亮文、asahi = 6-28-19)

残業時間の上限規制〉 残業時間は最近まで、労使で「36 (サブロク)協定」を結べば、事実上青天井にできたが、4 月に改正労働基準法が施行され、罰則つきの上限が導入された(中小企業への適用は来年 4 月)。 新規制では上限を、原則「月 45 時間・年 360 時間」とし、事情がある場合は「年 720 時間以内」、「休日労働も含め月 100 時間未満、2 - 6 カ月平均で月 80 時間以内」とした。 ただ、「過労死ライン」までの残業を許容したとの批判もある。


年収 200 万円未満が 75% 非正規のリアルに政治は

非正社員が働き手に占める割合は過去最高水準

全都道府県で 1 倍超の有効求人倍率、高い大卒の就職率、歴史的な低失業率 - -。 安倍政権は「アベノミクスの成果」として雇用の指標をよく語ります。 でも、非正規雇用が 10 人に 4 人にまで増え、そのほとんどの年収が 200 万円に満たないことはあまり触れられません。 安倍晋三首相が「非正規という言葉を一掃する」と言いながら、歯止めなく増え続ける非正規雇用も、参院選での論点になりそうです。

東京都内で独り暮らしの 40 代女性はいま、法務サービス会社の事務職として働く。 1 年更新で最長 3 年の非正規社員だ。 20 年ほど前、「進学するなら自力で」と親に言われ借金して念願の大学に入った。 4 年秋に学費を滞納し、退学処分になった。 「新卒」の就職も厳しかったころだ。 証券会社やコンサルタント会社など様々な職場を転々としたが、どれも非正規雇用だった。 いじめやパワハラも経験した。 抗うつ剤、睡眠薬、安定剤などが手放せなくなった。 官庁でも働き、間近で「すべての女性が輝く社会」、「1 億総活躍社会」といったスローガンを聞いたが、自分のことのようには感じられなかった。

「いまさら何だ」憤り

安倍政権は今月、30 代半ばから 40 代半ばの「就職氷河期世代」の就労支援策を打ち出した。 非正規雇用が 317 万人、フリーターが 52 万人、職探しをしていない人が 40 万人とされるこの世代について、3 年で 30 万人を正規雇用にする目標を掲げる安倍晋三首相肝いりの施策だ。 だが、安定した職を求め、はね返され続けてきた女性は「いまさら何だ」と感じたという。 支援策には将来の生活保護費が膨らむのを食い止めるねらいがあると知り、「どこまでプライドをぼろぼろにされるのだろう」と傷つきもした。

憤ったのは、この女性だけではなかった。 経済財政諮問会議の民間議員がこの世代を「人生再設計第 1 世代」と呼んだと報じられると、ネット上では「上から目線だ」、「自己責任論に持ち込む魂胆にみえる」といった批判が噴出。 建設や運輸分野の短期の資格取得支援といった施策は「人手不足に対処するためにこの世代を活用しようとの意図が透けてみえる。 問題を解決する支援とは言い難い。(日本総研・下田裕介副主任研究員)」と、厳しい評価を受けている。

安倍政権はこの春から、働いた時間で賃金が変わらない「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」や、正社員と非正社員の不合理な待遇差を改善する「同一労働同一賃金」など、「働き方改革」の新制度を順次導入している。 ただ、高プロのように働き手のニーズというよりも、企業目線、経営者目線で生産性の向上をめざす改革が際立つ。

改革を推し進めてきた原動力は「アベノミクスの成果により、雇用環境は着実に改善している(安倍首相)」という自信だ。 首相は選挙のたびに政権発足後の就業者の増加ぶりや全都道府県で 1 倍を超えた有効求人倍率、歴史的な低失業率などを強調する。 高い大卒就職率は、若者の高い内閣支持率につながってきた。 だが、首相があまり触れない数字もある。 非正規雇用だ。 この 6 年間で約 300 万人増え、2018 年 10 -12 月は 2,152 万人になった。 首相は「非正規という言葉を一掃する」と宣言したが、働き手に占める非正規の割合はいまや 38% を超え、過去最高の水準にある。

働いても働いても …

この 6 年間の非正社員数の変化を年代別にみると、45 歳以上の女性が約 200 万人増え、65 歳以上の男性も約 90 万人増だった。 中高年でも正社員を望む人は多いが、現実は厳しい。 東京都内の女性 (58) は「一度正社員の道を外れると、不安定な生活になる」と話す。

大卒の正社員だった 24 歳で結婚、退職し、家事と育児に専念。 30 代半ばで離婚した。 簿記の資格を取り、職場をいくつか経験したが、パートでは多くても年収が 200 万円に届くかどうか。 現在は求職中で、若い頃の蓄えを切り崩しながら、30 代でアルバイトの長男と暮らす。 読みたい本は買わずに図書館で順番を待つ。 「生活がやっと。 お金は使いたくない。 こんなので個人消費なんて伸びるわけがない。」と言う。

今年パートで外回りの仕事をしたが、体調を壊しかけ、1 カ月足らずで断念。 「人手不足なのは体力勝負の業界ばかり。 事務職ばかりだった身には厳しい」と語る。 総務省の 2017 年調査では、非正社員の 75% は年収 200 万円未満。 「働いても働いても生活が豊かにならない」、いわゆるワーキングプアに当てはまる。 女性だけだと比率は 83% に達する。

政権も「官製春闘」で企業に賃上げを促し、最低賃金の全国平均は 6 年間で 125 円上がったが、賃金が低い非正社員の伸びが正社員の伸びを大きく上回っているため、働き手の平均給与額は伸び悩んだままだ。 アベノミクスの「3 本の矢」表明から 6 年が過ぎても、消費が上向かない一因がここにある。 氷河期世代に象徴される非正規雇用が増え続けるのは、企業が人件費を抑えようと正社員よりもパートやアルバイトを雇ってきたことがある。 加えて、1990 年代後半以降、自民党政権が企業の求めに応じて派遣労働などの規制緩和を進めたことも背景にある。

平均賃金を上昇させるには、際限なく増え続ける非正規雇用に歯止めをかけることが欠かせない。 それには過去の規制緩和を冷静に検証し、企業や経営者がいやがる改革にも踏み込む覚悟が問われるが、目先の看板施策にこだわる今の政権にそうした機運は乏しい。 直近では、最低賃金の大幅な引き上げを求める政府内の声が、企業側の強い反対でかき消された。

この先、多くの外国人労働者が「特定技能」の資格で入ってくると、平均賃金はさらに伸び悩む恐れがある。 少子高齢化が進むなか、政府は 70 歳まで働ける場を確保することを企業の努力義務とする方針だ。 だが、いまのところ、高齢者が豊富な知識や熟練した技能を提供できたとしても、それに見合った報酬を受け取れるかはわからない。 (堀内京子、滝沢卓、志村亮)

<視点> 有期契約の規制、再検討を

「1 億総活躍社会」、「働き方改革」、「人づくり革命」 - -。 労働分野でも、安倍政権は次々と「看板」を付け替えてきた。 6 年前の「失業なき労働移動」はどこにいったのだろう。 派手な「看板」の一方で、丁寧に政策を練り上げる発想には乏しい。 官邸主導の「看板」作りが優先される結果、しばしば場当たり的な政策パッケージが打ち出される。 外国人労働者政策や就職氷河期世代支援策が典型例だ。 本来、労働政策に求められるのは、将来の労働市場や雇用慣行を見据えた長期的な視点だ。 それが政治の役割でもある。

安倍首相は「働き方改革」で「非正規という言葉を一掃する」と繰り返した。 非正規で働く人の多くは、契約期間が決められた有期契約だ。 仕事があるのに契約が細切れなので、不安がつきまとう。 この不安を解消するため、昨年 4 月に本格スタートしたのが「5 年ルール」だ。 有期契約が繰り返され、通算 5 年を超えた場合に無期契約になる権利がえられる。 2013 年 4 月施行の改正労働契約法に盛り込まれた。

当時検討されたもう一つの選択肢がある。 有期契約を結べるケースを限定する方法だ。 「入り口規制」といわれ、労働側が主張したが、経営側の反対で見送られた。 人手不足のいま、「5 年ルール」の成果を検証した上で、再び検討してもいいのではないか。 (編集委員・沢路毅彦、asahi = 6-18-19)


国際機関、タイムリーな? 報告書 日本人の老後の蓄えは

日本人の老後の蓄えは 4 年半分しかなく、女性で約 20 年、男性で約 15 年分の資産が不足する - -。 世界経済フォーラム (WEF) が 13 日、そんな報告書をまとめた。 同フォーラムは長寿化や少子化により各国で年金制度が揺らいだとし、資産形成の重要性を呼びかけている。

報告書をまとめた WEF 機関投資部門トップのハン・イク氏によると、日本については退職時に 65 歳で最終的な年収の約 2.9 年分の蓄えがあるとし、退職前の 7 割の消費を続けるとして試算した。 公的年金などは含まれていない。 米国や豪州など調査対象の他国では年収の 5 - 5.8 年分の蓄えがあるといい、資産を投資に回さず預貯金する傾向の強い日本人の蓄えの少なさが目立つ。 一方で 65 歳に達した人の平均寿命が長いため、不足年数が他国に比べて女性で 7 - 9 年、男性で 5 年ほど多くなっているという。

イク氏は「長寿化が進んだが、これだけ長い期間年金を支払うことが制度設計時に想定されていなかった」として、各国で公的年金制度が揺らいでいると指摘。 「長期的な視点に立った資産運用が可能になるよう、個人だけでなく、政府や企業が協力して取り組まなければならない」などと述べた。 老後の資産形成をめぐっては、金融庁の審議会が生活費が 30 年間で約 2 千万円不足するなどとした報告書をまとめたが、年金に対する不信感の高まりをうけて、麻生太郎金融担当相が報告書の受け取りを拒む事態になっている。 (ニューヨーク = 鵜飼啓、asahi = 6-13-19)

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老後の蓄え、地方は 2,500 万円必要? 宮城の FP 試算

人生 100 年時代、老後に必要なお金をどう備えるか。 金融庁の報告書で、年金をもらっても老後の生活に約 2 千万円足りない、との試算が示された。 中小企業の多い宮城県内では、「年金が少なく、もっと足りない人もいる」とみる専門家もいる。 3 日に金融庁が公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」によると、夫 65 歳以上で妻 60 歳以上の平均的な無職夫妻の場合、収入が年金を中心に月 20 万 9 千円なのに対し、食費や医療費、娯楽費などの支出は 26 万 3 千円。 毎月 5 万円強の赤字は「自身が保有する金融資産より補てんすることとなる」としている。

この赤字が 20 年続くと約 1,300 万円(夫が 85 歳以上)、30 年で約 2 千万円(同 95 歳以上)となる計算だ。 老人ホーム入居費や住宅リフォームなどの特別な支出は含んでいないことにも注意が必要とする。 少子高齢化を踏まえて公的年金の水準は今後調整されていくことが見込まれるといい、若い頃からの資産形成などの「自助」を勧める。 仙台市のファイナンシャルプランナー林正夫さん (57) によると、報告書が例示する高齢夫妻の収入 20 万 9 千円は、総務省の家計調査からの平均値。 大企業に勤めた人が多く含まれ、県内の姿とは乖離があると指摘する。

厚生労働省の賃金構造基本統計によると、2018 年の都道府県別賃金では、宮城県は 28 万 2 千円と全国平均より 7.8% 低い。 もらえる厚生年金の額は現役時代の賃金とほぼ連動しているため、県内の年金額は報告書より月 1 万数千円少ない可能性がある。 収入が減ると支出が減る傾向があるとも指摘されるが、仮に支出が報告書と同じとすると毎月の赤字は 7 万円近くに膨らみ、20 年で約 1,700 万円、30 年で約 2,500 万円足りない計算になる。 一般的に中小企業では退職金も少ないといい、さらに老後の暮らしへの不安は深刻になる。

では、どうすればいいのか。 林さんは、若い頃から税制面で有利な「つみたて NISA (ニーサ)」や「iDeCo (イデコ)」などを活用した資産運用を提案する。 月 2 万円を 40 年ためるとして、タンス預金だと 960 万円だが、年利 3% で運用すると約 1,800 万円になる。 また、支出の見直しも重要だ。 医療保険は、公的保険があるのに、高すぎる民間保険に入っている場合も多いという。 携帯電話代や外食の頻度などもよく考えてみる。 林さんは「預金通帳を印字し、自分の生活を『見える化』してほしい。 早い段階で対策をした方が選択肢が増える。」と話す。

かつて自公政権が「100 年安心」とした年金制度に不安を抱かせるとして、野党側は金融庁の報告書を問題視している。 老後の資産形成に「自助」を促す内容が、年金だけでは老後の生活費が不足することを政府自ら強調する形となったためだ。 今夏の参院選宮城選挙区(改選数 1)に立候補を予定する立憲民主党の石垣のりこ氏 (44) は、10 日の取材に「『100 年安心』から『自己責任』への急転換にみえる。 貯蓄がない人も多く、不安をあおった。」と批判。 「年金の運用や財政の見通しなどの情報がこれまで小出しにされ、将来の全体像が見えてこない。 前提から問い直すべきだ。」と語り、問題視していく姿勢を示した。

一方、与党側は火消しに躍起になっている。 自民で立候補予定の愛知治郎氏 (49) は 9 日の仙台市内の集会で、「消えた年金」問題で自民が大敗した 2007 年参院選について触れ、「年金の問題が報道された。 12 年前の選挙のことを片時も忘れたことはない。 大変厳しい選挙になると覚悟している。」とあいさつした。 その後の取材には、金融庁の報告書を「誤ったメッセージだった。 選挙にとっても厳しい。」と述べ、政府への苦言を呈した。

10 日の参院決算委員会では、安倍晋三首相が報告書について「誤解や不安を広げる不適切な表現だった」と釈明した。 麻生太郎金融担当相は 11 日、報告書は受理しない考えを示した。 金融庁は「報告書は年金制度を問題にしているのではなく、その補完手段を提起しただけだ」としている。 (井上充昌、asahi = 6-12-19)

高齢無職夫妻の収入と主な支出 *金融庁の報告書から
【実収入】20 万 9,198 円
・社会保障給付(年金)19 万 1,880 円
・その他1 万 7,318 円
【実支出】26 万 3,718 円
・食料6 万 4,444 円
・住居1 万 3,656 円
・光熱水道1 万 9,267 円
・被服及び履物6,497 円
・保健医療1 万 5,512 円
・教養娯楽2 万 5,077 円

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自民、金融庁に撤回要求 老後資産の報告書 公明代表も「猛省促す」

自民党の二階俊博幹事長は 11 日、特定の無職世帯で老後資産が約 2 千万円不足するとの試算を示した金融庁審議会の報告書に関し、党として同庁に抗議したと表明した。 党本部で記者団に「国民に誤解を与えるだけでなく不安を招いており大変憂慮している。 撤回を含め厳重に抗議している。」と述べた。 公明党の山口那津男代表も記者会見で「与党に説明がなかった。 いきなり誤解を招くものを出してきた。 猛省を促したい。」と批判した。

金融庁の有識者会議が 3 日にまとめた試算は定年退職後に夫婦で 95 歳まで生きるには約 2 千万円の金融資産が必要とした。 夫が 65 歳、妻が 60 歳以上の無職世帯だと毎月 5 万円ほど足りないという前提であり、退職金や貯蓄は考慮されていない。 安倍晋三首相は 10 0日の参院決算委員会で報告書について「不正確であり誤解を与えるものだった」と述べた。 麻生太郎金融相は「貯蓄や退職金の活用に触れることなく、誤解や不安を広げる不適切な表現だった」と答弁した。 (nikkei = 6-11-19)


就職氷河期の雇用 30 万人増 3 年で、百万人集中支援

政府が今月策定する経済財政運営の指針「骨太方針」の原案が 4 日、判明した。 所得向上による内需下支えのため、30 代半ば - 40 代半ばの就職氷河期世代で非正規労働や引きこもりといった状況にある約 100 万人を集中支援し、3 年間で正規雇用者を 30 万人増やす数値目標を定めた。 また給付と負担の在り方を見直す社会保障制度改革を進め、年金・介護分野は法改正も視野に、2019 年末までに結論を出す。 景気優先を強調し、米中貿易摩擦などの悪影響が波及した場合に追加経済対策を講じる姿勢をにじませたほか、地域活性化策も列挙し、夏の参院選を意識した内容だ。 (kyodo = 6-4-19)


繊維・アパレル業界の給与の満足度が高い企業 1 位旭化成「頑張りが評価される
能力給は個人の実績が大きく反映」

企業口コミ・給与明細サイト「キャリコネ」は 5 月 17 日、「繊維・アパレル業界の給与の満足度が高い企業ランキング」を発表した。 調査対象は、『日経業界地図 2018 年版(日本経済新聞出版社)』の「繊維」、「アパレル」、「カジュアル衣料、ファストファッション」に記載があり、対象期間中に「キャリコネ」に 20 件以上寄せられた企業。 対象期間は、2015 年 4 月 - 2018 年 3 月。

1 位は「旭化成」で、給与の満足度は 5 点中 3.82。 上位 10 社は、「帝人 (3.74)」、「クラレ (3.06)」、「東レ (3.05)」、「ファーストリテイリング (3.0)」、「タカキュー (2.9)」、「青山商事 (2.89)」、「しまむら (2.88)」、「アダストリア (2.87)」、「ライトオン (2.83)」と続く。

1 位の旭化成の報酬に関して、

「今の給料にはある程度満足している。 さらにこの会社は残業がほとんどない。 給与制度はシステム化され不公平感の少ないものとなっている。 基本給と能力給に分かれていて、能力給に関しては個人の実績が大きく反映され、この部分で頑張りが評価されていきます。(研究開発/40 代後半男性/年収 420 万円/2017 年度)」

といった口コミが寄せられている。 東京ミッドタウン日比谷に本社を置く大手総合化学メーカーで、旭化成グループの中枢を担う「旭化成」。 繊維や化学品、電子部品などを扱うマテリアル領域のほか、戸建て住宅「へーベルハウス」や分譲マンション「アトラス」などのブランドで知られる住宅領域、医薬品や医療機器関連のヘルスケア領域と、グループ全体で 3 つの領域を中心に事業を展開している。

同社は人材育成に力を入れており、年次や業種・職種に合わせた各種研修や資格取得の支援等を充実させている。 また、育児・介護支援制度や短時間勤務制度などを導入するだけでなく、男性社員や非正規社員も含め、実際に制度を利用しやすい体制を整えた。 そういった姿勢が評価され、2008 年には公益財団法人日本生産性本部が主催する「第 2 回ワーク・ライフ・バランス大賞」で優秀賞を受賞。 2016 年には、子育て支援に積極的な企業なうち、特に取り組みが優秀な企業を厚生労働省が認定する「プラチナくるみん」を取得している。

なお、2017 年度の実績では月間平均残業時間は 18.3 時間、有給休暇の平均取得日数は 16.6 日。 有給休暇の取得日数は平均よりかなり多い水準だ。 (キャリコネ = 5-26-19)


70 歳まで働く人のため 政府、企業に支援義務化の方針

70歳まで働きたいすべての人が働けるように、政府が企業に高齢者の雇用機会をつくるよう努力義務を課す方針を打ち出した。 高齢者の働く意欲を生かし、人手不足の緩和につなげるねらいがあるが、低賃金のまま働かされたり、仕事中のけがが増えたりする懸念もある。 政府が検討する新たな仕組みのイメージはこうだ。

65 歳の誕生日を前に、会社の人事担当者と面談した。 これからどうするか聞かれたので「体も元気だし、70 歳までは働きたい」と答えた。 すると、いくつかのメニューを示された。 他社への再就職、起業 …。 配偶者とも相談し、これまでの経験を自社以外でも生かすために独立してみようと「起業」を選んだ。 すると、会社は自分の会社の立ち上げを資金面で支援してくれるという - -。

政府が 15 日の未来投資会議で示した新制度の骨子では、70 歳まで働きたい従業員の希望に応えるため、会社が用意できる 7 つの選択肢を示した。 このうち、@ 定年を廃止する、A 定年を引き上げる、B 契約社員などで再雇用する、の三つは、現行制度でも 65 歳まで働きたい人のため、企業がいずれかを用意することを義務づけている選択肢だ。

政府は今回、65 歳まで働きたい人へのこの義務は維持したうえで、さらに 65 歳を過ぎても働きたい人のため、この @ - B に加え、新たな選択肢をそろえた。 C 他企業への再就職の実現、D フリーランスで働くための資金提供、E 起業支援、F NPO などの社会貢献活動への資金提供 - - の 4 つだ。 計 7 つの選択肢のうち、どれを採用するかは、各企業の労使で話し合って決めてもらう。

70 歳までの雇用は当面は「努力義務」とし、企業が守らなくてもペナルティーはない。 ただ、政府は企業の取り組みを見極めたうえで、将来的には企業に義務づけることを検討する。 「社会貢献活動への資金提供」といっても、お金を渡す相手が本人なのか NPO なのかなど、細かい仕組みはまだ決まっていない。 こうした制度設計は今秋にも始まる厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論する。 そのうえで来年の通常国会に高年齢者雇用安定法の改正案を提出する方針だ。

定年廃止・延長、渋る企業

ただ、課題もある。 厚労省の 2018 年調査によると、いまの制度のもとでも、「定年廃止」、「定年延長」を選んだ企業は 2 割にとどまり、8 割が契約社員などとして再雇用することを選んでいる。 再雇用時に賃金を下げ、人件費を抑えるためだとみられる。 新制度でも、こうした企業側の傾向が変わらない場合、70 歳まで低い収入で働き続けることになりかねない。

高齢の社員が同じ会社に残れば、その分、若い世代の昇進の遅れにつながる可能性も指摘される。 東京大公共政策大学院の川口大司教授(労働経済学)は「企業が定年延長に抵抗を示すのは、解雇がしにくいからだ。 さらなる定年延長をするなら、企業が解雇をしやすくする法整備を求める声も強くなるのではないか。」と指摘する。

身体機能が低下する高齢者に元気に働き続けてもらうには、段差をなくすなど安全な職場にすることも課題だ。 厚労省の 18 年の調査では、仕事中のけがなどで労働災害になった 60 歳以上の働き手は前年より 10.7% 増え、労災全体の 4 人に 1 人を占めた。 労働組合の中央組織・連合の神津里季生会長は「高齢者雇用の拡大には、安全に働ける環境整備が不可欠だ」とクギを刺す。

70 歳雇用が今後、年金制度の大きな見直しにつながる可能性もある。 政府は今回、年金の受給開始年齢を 60 - 70 歳の間で選べるいまの仕組みを変え、希望に応じて 70 歳超になってからでも上乗せした年金を受け取れるように受給開始時期の範囲を広げる。 「もう働きたくない」と考える人や、健康上の理由で働けない人がいることなどを踏まえ、原則 65 歳の受給開始年齢は引き上げない方針だ。

ただ、70 歳まで働いてもらう政府の思惑の一つは、社会保障費の抑制だ。 将来、70 歳雇用が企業に義務づけられた後、65 歳の受給開始年齢の引き上げがテーマになる可能性は否定できない。 (村上晃一、吉田貴司、asahi = 5-20-19)

三菱 UFJ リサーチ & コンサルティング・小川昌俊チーフコンサルタントの話 : 定年延長は人件費がかさむ。 若い世代がなかなか役職につけずにやる気が下がる恐れもある。 働きたい高齢者は出来るだけ会社に残らず自立して欲しい、が本音の企業もあるだろう。 その意味では政府が今回、他企業への再就職、フリーランス化、社会貢献活動といった新しいメニューを示した意味は大きい。 人手不足が深刻な中小企業にとっては、経験豊かな人材を呼び込むチャンスにもなる。

課題もある。 例えば高齢になるほど体力は衰えるため、製造業などの現場では、安全な作業環境などの配慮をしないと事故が増える恐れがある。 テレワーク(在宅勤務)で働いてもらうといった事故の芽を摘むような工夫も必要だろう。