景気判断、2 カ月ぶり引き下げ 「緩やかに回復」は維持

政府は 24 日、5 月の月例経済報告で国内の景気判断を 2 カ月ぶりに引き下げ、「輸出や生産の弱さが続いているものの、緩やかに回復している」との認識を示した。 中国経済の減速を背景に、海外向けの輸出や製造業全体に弱さが広がっていると認定した。 一方、雇用環境などは堅調として、「緩やかに回復」という基本的な見方は維持した。

月例経済報告は景気に対する政府の公式見解で、3 月に判断を 3 年ぶりに引き下げたばかり。 米中貿易摩擦の激化などで先行きは不透明さを増し、消費増税の予定も 10 月に控える。 政府は経済運営で慎重なかじ取りを迫られそうだ。 3 - 4 月の総括判断では、「このところ輸出や生産の一部に弱さもみられる」としていたが、今回は「一部に」を削除したうえで、この状態が続いていることを明示した。 個別項目でも、企業の設備投資と生産の判断を下方修正した。

今回引き下げを余儀なくされたのは、中国向け電子部品や産業用ロボットをはじめ、幅広い製品で生産や輸出の弱含みを示すデータが出ていることが大きい。 今月 13 日には景気動向指数の基調判断が 6 年 2 カ月ぶりの「悪化」に。 20 日発表された 1 -3 月期の国内総生産 (GDP) 1 次速報も、輸入の急減で見かけ上は高い伸びとなったものの、内需の柱である設備投資や個人消費に陰りが見える結果となった。

それでも従来の「緩やかに回復している」という見方自体を維持したのは、雇用や企業収益が高い水準を保っているからだ。 政府は、中国経済の減速が今年後半に持ち直し、国内景気も短期間で停滞から抜け出すとみている。 ただ、期待通りになるかどうかは、米中摩擦の行方次第の面が強い。 政府も今回の報告で、先行きについて「通商問題の動向が世界経済に与える影響に一層注意する」とし、警戒感を強めた。 (高橋末菜、asahi = 5-24-19)

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景気「悪化」に引き下げ 動向指数、6 年 2 カ月ぶり

3 月分の景気動向指数の基調判断について、内閣府は 13 日、これまでの「下方への局面変化」から、景気後退入りした可能性がより高いことを示す「悪化」に引き下げた。 「悪化」の判断が示されたのは、6 年 2 カ月ぶり。 中国経済の減速で輸出が鈍り、国内企業の生産や出荷も停滞していることが大きく影響した。 景気動向指数を算出するもととなる指標のうち、鉱工業生産など 5 つが悪化要因となり、景気の現状を示す一致指数(2015 年 = 100)は、前月より 0.9 ポイント低い 99.6 だった。

その結果、@ 指数が前月よりマイナス、A 最近の下落傾向が一定の基準に達する、という条件を満たしたため、基調判断は自動的に引き下げとなった。 政府は最近、「景気は緩やかに回復している」との公式見解を続けているが、客観的な指標である景気動向指数では、景気後退の方向感が強まっている。 今月下旬の月例経済報告で、「緩やかな回復」の見方を変えるかどうかが焦点になる。 景気動向指数で基調判断が示されるようになった 2008 年以降、「悪化」に陥ったのは、08 年 6 月 - 09 年 4 月と 12 年 10 月 - 13 年 1 月の 2 回。 いずれも後から正式に景気後退期と認定されている。 (森田岳穂、asahi = 5-13-19)


1 - 3 月期 GDP、年 2.1% 増 中国経済の減速が影響

内閣府が 20 日発表した今年 1 - 3 月期の国内総生産 (GDP) の 1 次速報は、物価の変動を除いた実質(季節調整値)で前期(昨年 10 - 12 月期)より 0.5% 増えた。 この状況が 1 年続いたと仮定した年率換算では 2.1% 増。 プラス成長は 2 四半期連続だが、輸入が輸出を上回る規模で落ち込み、GDP を押し上げた面が大きい。 企業の設備投資が小幅な減少になるなど、中国経済の減速の影響は国内にも広がっている。

内需を支える項目である設備投資は、前期は四半期ベースで 2.5% 増だったが、今回は 0.3% 減。 マイナスは、自然災害の影響で落ち込んだ昨年 7 - 9 月期を除くと、2016 年 7 - 9 月期以来。 人手不足に対応する自動化などの投資は好調だが、米中貿易摩擦などを背景に様子見の企業もあったとみられる。 自然災害から回復した前期からの反動で減った部分もあった。

GDP の半分以上を占める個人消費は、前期の 0.2% 増から 0.1% 減に。 冬物衣料の売れ行きが伸び悩んだほか、食料品の値上げの影響で節約志向も強まったとみられる。 自動車も振るわなかった。 住宅投資は 1.1% 増だった。 前期に 1.2% 増だった輸出は 2.4% 減。 スマートフォンに使われる半導体や自動車用部品などの中国向け輸出が減ったことが響いた。

今回のプラス成長の要因は、大幅な輸入の減少だ。 3.0% 増だった前期から 4.6% 減に。 2009 年 1 - 3 月期の 16.0% 減に次ぐ落ち込み幅となった。 設備投資や消費など国内需要が減ると、輸入の減少要因となる。 輸出から輸入を差し引いた外需は、GDP を 0.4% 分押し上げ、今回の伸びの大半を占めた。 一方、物価の動きを反映した名目 GDP は、0.8% 増(年率 3.3% 増)だった。 (高橋末菜、asahi = 5-20-19)

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GDP 実質 1.4% 増、10 - 12 月年率 2 期ぶりプラス

内閣府が 14 日発表した 2018 年 10 - 12 月期の国内総生産 (GDP) 速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比 0.3% 増だった。 年率換算では 1.4% 増。 年率 2.6% 減だった 7 - 9 月期から、2 四半期ぶりのプラスとなった。 18 年夏の自然災害による個人消費の落ち込みが解消され、内需が全体の成長率押し上げに寄与した。

前期比 0.3% 増の成長率のうち、0.6% 分は国内需要を表す内需が寄与した。 内訳をみると、GDP の 5 割超を占める個人消費が前期比 0.6% 増と、7 - 9 月期の 0.2% 減から回復。 飲食や宿泊、航空などレジャー関連の回復が目立った。 自然災害が個人消費を下押ししていたが 10 - 12 月期は回復。 自動車販売も堅調だった。 住宅投資は 1.1% 増。 2 四半期連続でプラスを確保した。 住宅投資は工事の進捗状況に応じて GDP に計上しており、4 - 6 月期以降の着工の伸びが寄与した。 民間の設備投資も 2.4% 増と全体を押し上げた。 生産用機械の伸びが寄与した。

一方、外需は 0.3% 分、成長率を押し下げた。 中国経済の鈍化により情報関連財の輸出が伸びず、輸出全体の伸びを抑えた。 輸入は堅調な内需を背景に増加。 外需の寄与度は、輸出の寄与度から輸入の寄与度を引いて算出する。 前期からの伸び率は輸入が輸出を上回り、全体に対する外需の寄与度はマイナスとなった。

18 年 10 - 12 月期の GDP 成長率は名目で見ると 0.3% 増。 年率換算では 1.1% 増だった。 名目値は実質値に物価分を上乗せして算出するため、物価が上がれば名目値は上がる仕組みだ。 10 - 12 月期は物価上昇率が鈍く、名目の成長率が実質を下回った。 収入の動きを示す雇用者報酬は名目の前年同期比で 3.2% 増。 7 - 9 月期の 2.6% 増から伸び率が拡大した。 18 年暦年の成長率は実質 0.7% 増、名目で 0.6% 増。 いずれも 12 年以降、7 年連続のプラス成長となった。 成長率はともに 17 年を下回った。 18 年の名目 GDP は 548 兆円と 17 年の 545 兆円を上回り、過去最高を更新した。 (nikkei = 2-14-19)


景気悪化の公算大 専門家「間違いなく下方修正される」

景気動向指数の基調判断が、およそ 6 年ぶりに「悪化」となる公算が大きくなった。 生産や出荷など判断のもとになるデータが 26 日発表され、中国経済の影響で落ち込んだ。 「景気は緩やかに回復している」としてきた政府は公式見解を変えるのか、注目される。 景気動向指数の基調判断は、内閣府が機械的にはじく。 最新の 3 月分を連休明けの 5 月 13 日に公表する。 1 月分と 2 月分は「下方への局面変化」だったが、3 月分は最も厳しい「悪化」になる方向だ。

「悪化」は景気後退の可能性が高いことを示す。 海外経済の減速が響いた 2013 年 1 月分で使って以来、6 年 2 カ月ぶりの表現となる。 3 月分の基調判断に使うデータが 26 日出そろった。 鉱工業生産指数が前月比で 0.9% 減るなど、企業活動をめぐる 7 つのデータのうち 5 つが響いて、指数が前月比でマイナスになることがほぼ確実となった。 昨秋からの推移も踏まえ、基調判断は「悪化」へと引き下げになる方向だ。 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティングの小林真一郎氏は「間違いなく下方修正される」と話す。

次の焦点は、政府が 5 月の後半に発表する月例経済報告になる。 景気動向指数の基調判断は機械的にはじくのに対して、政府の公式見解である月例経済報告は「総合的な判断」だ。 政府は個人消費や設備投資の堅調さを理由に「景気は緩やかに回復している」としてきた。 中国経済の減速は、ここにきて歯止めがかかりつつある。 中国などの海外経済が力強さを取り戻し、日本経済の落ち込みが短期間で済むことを、政府は期待している。

一方、5 月 20 日に発表される 1 - 3 月期の国内総生産 (GDP) 1 次速報はマイナス成長になる、との予測が民間から相次いで出ている。 消費や設備投資の伸びが鈍っていることが理由に挙がる。 月例経済報告の動向は、消費税率を予定通り 10 0月に引き上げるかどうかにも影響する可能性がある。 16 年には、月例経済報告での景気判断を引き下げた 3 カ月後に、消費増税の延期を発表している。 (森田岳穂、asahi = 4-26-19)

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景況感、6 年 3 カ月ぶりの大幅悪化 日銀短観

日本銀行が 1 日発表した 3 月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)で、代表的な指標の大企業・製造業の業況判断指数 (DI) はプラス 12 となり、前回の昨年 12 月調査から 7 ポイント悪化した。 悪化は 2 四半期ぶり。 悪化幅は 2012 年 12 月調査以来、6 年 3 カ月ぶりの大きさとなった。 中国など世界経済の減速懸念が高まった影響が出た。 短観は全国の約 1 万社に 3 カ月に 1 度、景気動向を聞く。 DI は景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」を引いた指数。

大企業・非製造業の DI は 3 ポイント悪化のプラス 21 で、2 四半期ぶりの悪化となった。 中小企業・製造業の DI は 8 ポイント悪化のプラス 6、中小企業・非製造業が 1 ポイント改善のプラス 12 だった。 米中貿易摩擦や英国の欧州連合 (EU) 離脱問題を巡る不透明感が強まり、中国や欧州では経済の減速が目立つ。 3 カ月後の先行き DI は大企業・製造業が 4 ポイント悪化のプラス 8、非製造業が 1 ポイント悪化のプラス 20 だった。 (柴田秀並、asahi = 4-1-19)

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1 月景気指数、後退局面の可能性 「戦後最長」に疑問符

内閣府は 7 日、1 月の景気動向指数の速報値を発表し、景気が既に後退期に入った可能性が高いことを表す「下方への局面変化」に基調判断を引き下げた。 中国経済の減速で生産が落ち込み、景気の現状を示す一致指数(2015 年 = 100)が前月比 2.7 ポイント低下の 97.9 と、5 年 7 カ月ぶりの低水準に悪化したことが響いた。 政府は景気拡大期が 1 月で戦後最長に達したとの暫定的な見解を示してきたが、疑問符が付く結果となった。 アベノミクスによる好景気を支持に結び付けてきた安倍政権には打撃だ。 10 月の消費税率 10% への引き上げに逆風が強まることも予想される。 (kyodo = 3-7-19)

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今年の景気見通し、はや引き下げ 証券各社

2019 年に入りわずか 2 週間程度で異例の経済・市場見通し変更を行う証券会社が相次いでいる。 昨年末に急速に株安が進んだ上、年明け以降も米政府機関閉鎖や英国の欧州連合 (EU) 離脱方針の迷走などが加わり、世界経済への下押し圧力が増している。 例年 11 月下旬に出す翌年の見通しを、新年入り後ここまで早いタイミングで見直すのは珍しい。

JP モルガン証券は今年の世界の実質国内総生産 (GDP) 成長率見通しを引き下げた。 米国の 1 - 3 月の GDP 成長率が政府機関閉鎖の影響で 2.25% から 2% に切り下がるとみる。 欧州経済への見方も厳しくなっている。 野村証券は 19 年のユーロ圏の成長率見通しを 1.5% から 1.1% に引き下げた。 米中貿易戦争が対中輸出比率の高いドイツ経済の重荷になっている。

米連邦準備理事会 (FRB) による利上げペースも見直しが予想されることで、外国為替市場にも影響が及ぶ。 各社とも予想為替レートを円高方向に修正。 ゴールドマン・サックス証券は日本企業の 1 株当たり利益 (EPS) の伸び率が縮小し、日経平均株価の目標も下振れするとしている。 (nikkei = 1-20-19)

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景況感、足踏み鮮明 9 月短観大企業製造業

貿易戦争・原料高・自然災害で 3 期連続悪化

企業の景況感の足踏みが鮮明になっている。 日銀が 1 日発表した 9 月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の業況判断指数 (DI) は前回 6 月調査から 2 ポイント悪化のプラス 19 だった。 悪化は 3 期連続。 貿易戦争で輸出に懸念が出ているほか、原材料高や自然災害が逆風になった。 2012 年から続く景気回復の持続力への不安も出始めている。 業況判断 DI は景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業を差し引いた値。

大企業製造業では 17 年 12 月調査でプラス 25 と 11 年ぶりの高さを付けてから悪化が続いている。 3 期連続の悪化はリーマン・ショックの影響が続いた 09 年 3 月までの 6 期連続以来の長さだ。 QUICK が事前に集計した市場予想平均(プラス 21)も下回った。 米中が追加関税を課すなど貿易戦争が深まっていることが景況感に影を落としている。 生産用機械や業務用機械で業況感が 3 - 5 ポイント悪化した。 将来の世界経済の減速や輸出の減少を懸念する企業も増加。 自動車や化学などが先行きの業況感の悪化を見込んでいる。

もう一つの重荷が原料価格の上昇だ。 原油価格が 1 バレル 70 ドル台に上昇し、石油・石炭製品は 18 ポイントも悪化。 窯業・土石製品や繊維も 11 ポイントと大きく悪化するなど素材業種を中心に影響が広がっている。 大企業非製造業の業況 DI もプラス 22 と 2 ポイント悪化した。 悪化は 8 四半期ぶり。 天候不順や自然災害が打撃となったほか、人手不足が一段と深まっていることも影響している。

一方で設備投資は強気の計画を維持した。 大企業全産業で 18 年度は前年度比 13.4% 増を見込む。 9 月時点の比較では 90 年度以来、28 年ぶりの高水準だ。 日銀によると現時点では「貿易戦争の影響で設備投資を具体的に先送りしたという事例はほとんどない」という。 短観は全国約 1 万社の企業を対象としたアンケート調査。 中小企業を含め調査対象が幅広い。 速報性も高いことから、景気の変調をいち早く映すことがある。

今回の調査期間は 8 月 27 日 - 9 月 28 日で、回収基準日の 9 月 10 日に約 7 割の企業が回答した。 台風 21 号や北海道地震は 9 月上旬にあったため「影響を踏まえていない回答も含まれる(日銀)」という。 18 年度下期の想定為替レートは 1 ドル = 107 円 29 銭と 6 月調査とほぼ変わらなかった。 ただ足元では 113 円台後半まで円安が進んでおり、為替面では今後、輸出企業の収益に追い風となる可能性もある。 (nikkei = 10-1-18)


お金の未来どこへ キャッシュレス時代の新紙幣

日本「タンス預金」 50 兆円規模

政府・日銀は 9 日、千円、5 千円、1 万円の新紙幣を 2024 年度に流通させると正式発表した。 日本は世界に類をみない現金大国で、最新技術で偽造防止を強化し、今後も安全な決済手段として維持する。 一方、政府は 25 年に現金を用いないキャッシュレス決済の比率を欧米並みの 40% に上げる方針も掲げており、お金の未来像はみえてこない。

21 年度上期をめどに 500 円硬貨も刷新する。 現在の各紙幣と 500 円硬貨は新しい紙幣と硬貨の流通開始後も引き続き使える。 政府・日銀は各紙幣の図柄は一新するが、千円から 1 万円の種類の変更には踏み込まなかった。 世界に目を向けると、ユーロ圏は 18 年末で最高額紙幣だった 500 ユーロ(約 6 万 2 千円)の発行を停止した。 シンガポールやインドなどでもキャッシュレス化やマネーロンダリング(資金洗浄)対策で高額紙幣を廃止する流れがある。

日本でも今回の紙幣刷新について、一部では「キャッシュレス化を促すために 1 万円札の廃止を議論してもよかった(野村総合研究所の木内登英氏)」との声がある。 ただ政府・日銀は現金主義が根強い日本で 1 万円札をなくせば混乱を招きかねないとして見送った。 国内総生産 (GDP) に占める現金の存在感は日本が突出している。 16 年の GDP で比べると 8% の米国や 6% の韓国に対して日本は 20%。 世界で最もキャッシュレスが進み、中央銀行がデジタル通貨の発行を検討するスウェーデンはわずか 1.4% で、07 年時点の 3.3% から半分以下になった。

スマートフォン(スマホ)決済が普及する中国では、現金の流通残高は 2 月末で 7 兆 9,484 億元(約 131 兆円)と、1 年前から 2% 減少している。 日本はむしろ現金の流通が増えており、08 年末の 86 兆円から 18 年末には 115 兆円と、10 年間で 3 割増えた。 現金流通が多い背景には、日銀の超低金利政策の下で、銀行に預けず家計に眠る「タンス預金」の存在がある。 紙幣発行残高の半分程度とされ、50 兆円規模とみられる。 政府はこの眠っているお金をあぶり出し、消費や投資を活性化させる副次的な効果も狙っている。

国際通貨研究所名誉顧問の行天豊雄氏は「経済の効率性を考えると、新紙幣が出てもキャッシュレスの流れは変わらないはずだ」と指摘する。 経済産業省によると日本でクレジットカードや電子マネーなど現金を使わないキャッシュレス決済の比率は約 20% にとどまる。 これを 25 年に 40% に高める目標を掲げており、10 月に予定する消費税増税に伴うポイント還元の対象もキャッシュレス決済を条件にしている。

スマホ決済サービスを成長戦略の柱に掲げる LINE は「新紙幣の発行によって、お金に新たな流れが生まれる」と期待する。 みずほ総合研究所の高田創氏は「今後 20 年を考えると世界的に現金の保有や利用が減り、日本でも紙幣が使われなくなるだろう」とみる。 経産省は時期を明示していないが、将来的にはキャッシュレス比率を 80% まで高める目標を掲げている。 紙幣の需要が減っていくなかで、今回が実質的に最後の紙幣刷新になる可能性は否定できない。 (nikkei = 4-9-19)


1 月の消費者物価 0.8% 上昇 年始休みの日並びよく

総務省が 22 日発表した 1 月の消費者物価指数(2015 年 = 100)は、生鮮食品を除く指数が前年同月より 0.8% 上昇して 101.2 だった。 上昇は 2 年 1 カ月連続で、上昇幅は前月より 0.1 ポイント拡大した。 原油価格の下落でガソリンや灯油の上昇幅が縮小した一方で、年始の連休の日並びがよかった影響で宿泊代が上がり、全体を押し上げた。 (asahi = 2-22-19)


「紙なし、窓口もなし」 三菱 UFJ、20 年後リアル店舗ゼロをにらんだ新型店の実力度

整理券を受け取り、紙の書類に記入し、銀行員のいる窓口に行って手続きをする - -。 これまで当たり前だった、そんな銀行店舗のあり方が大きく変わろうとしている。 三菱 UFJ 銀行は 1 月 21 日、新コンセプト店舗「MUFG NEXT」を学芸大学駅前(東京都目黒区)にオープンした。 三菱 UFJ フィナンシャル・グループでチーフ・デジタル・トランスメーション・オフィサー (CDTO) を務める亀澤宏規執行役専務が「デジタライゼーション戦略の中でも重要なファーストステップ」と言うように、デジタル技術を存分に活用した。

新型店で「新しい銀行体験を」

受付は専用のタブレット端末で行い、従来の店舗で行われていたような書類の記入は必要ない。 テレビ電話を通じた相談窓口「LINKS」や税金や公共料金などの支払いも可能な ATM「STM」などで取引を進める流れだ。 店舗の中心にはインターネットバンキングを利用するためのタブレット端末が設置されている。 店舗には 5 人のコンシェルジュが常駐し、タブレット端末などの操作方法をサポートする。

インターネットバンキングを使えば、いつでもどこでも取引ができ、手数料も安く取引ができる。 一方でネットになじみのない高齢者層にはハードルが高い。 三菱 UFJ 銀行チャネル企画部の荻窪大介上席調査役は、今回の店舗で「新しい銀行体験をしてもらい、簡単に早くできるというメリットを実際に感じてもらいたい」と語る。 次世代店舗には、ネットバンクへの移行促進という狙いが込められている。 学芸大学駅前店は当面、2 階部分に従来型の窓口を残して運営する。 同店の窓口の人員は現在約 20 人。 次世代店舗での取引が主流になれば、窓口は不要になり、店舗の人員は半分以下で済む。

重要なのは、このようなデジタル技術を活用したサービスを顧客が受け入れるかどうかだ。 荻窪氏は「今回の店舗が完成形ではなく、進化を続ける」という。 その意気込みは店舗にも見て取れる。 今回の店舗には 13 台のカメラが設置され、人数や年齢、店舗のどこをどのように移動したかなどを分析する。 どのような層の顧客がどんな理由で店舗を必要としているか、待ち時間を減らすために必要な機器の配置や効率の良い動線を模索する。

進む消費者の銀行店舗離れ

今後の展開としては、大阪・心斎橋で「MUFG NEXT」の 2 店舗目を 4 月にオープン予定。 学芸大学駅前支店とは異なり、窓口を備えたフルバンク型の店舗だ。 形式の異なる両店舗での試行検証を経た後、2023 年度をメドに「MUFG NEXT」を軸としてコンサルティングに特化した店舗や、銀・信・証一体型などの次世代店舗を 70 - 100 店舗まで拡大予定だ。

今回の次世代店舗からもわかるように、銀行の店舗は大きな変化が訪れている。 背景には、消費者の行動変化がある。 三菱 UFJ の場合、店舗への来店客数が過去 10 年間で 4 割も減少した。 一方でインターネットバンキングの利用者は 5 年で 4 割増加している。 取引の件数では、ネットでの取引が店頭での取引を上回っている。

コスト面でも圧力がかかる。 個人や中小企業向けのリテール部門は、銀行にとって基盤とも言えるビジネス。 しかし、多くの行員や店舗を抱えることによるコストは業績の重しになっている。 国内では低金利環境が続く中、収益性の改善にはリテール改革が急務。 フィンテックによる事務量削減や店舗外 ATM の相互開放など、運営の効率化を意識した取り組みが続いている。

リテール改革の柱・店舗改革

中でも店舗改革は、リテール改革の大きな柱となる。 三菱 UFJ は現在 515 カ所ある店舗を 2023 年度までに 2 割減らす計画を発表している。 みずほフィナンシャルグループも同様に約 500 カ所ある店舗を 2024 年度までに 100 カ所減らす計画となっている。 統廃合だけではなく、より効率的な店舗運営として次世代店舗化も求められるようになった。

三井住友フィナンシャルグループは、2019 年度までに国内の 430 店舗すべてを次世代型店舗に切り替える方針だ。 個人専用店舗や予約制店舗など複数の形態の店舗を展開する。 「GINZA SIX」内の銀座支店や中野坂上支店などすでに移行は進んでいる。 行員が顧客と隣り合って相談に応じる「寄添い型ブース」などコンサルティングに重点を置く。

みずほは銀・信・証一体型を追求

みずほは銀行と信託、証券の各業務を一体化した店舗を拡大している。 現在は店舗全体の 4 割程度だが、2020 年度までに全拠点を一体型店舗にする方針だ。 次世代店舗化にあたって、デジタル化、コンサルティング特化、銀行と信託、証券業務を一体化した店舗といった方向性は各社に共通している。 しかし、各社の 1 号店をみると、どの要素に比重を置くのか、各社の戦略は異なっているように見える。 今までどの銀行の店舗に行っても同じようだったことも、今後はそうでなくなる可能性が高い。

三菱 UFJ は 2018 年 6 月の株主総会で、20 年後にはリアルの店舗はなくなっているという見方を示した。 今回の新コンセプト店は、銀行の店舗がなくなるまでの過渡期の状態と言える。 本当にそんな未来がやってくるのか定かではないが、銀行の経営とサービスの両面において、店舗も 1 つの差別化要素となってくることは間違いない。 (藤原宏成、東洋経済 = 2-10-19)


日用品「日本製」人気 生産進む国内回帰

化粧品や日用品のメーカーが国内の生産能力増強を急いでいる。 訪日客の急増を背景に、「メイド・イン・ジャパン」の人気が海外で高まっているためだ。 数十年ぶりに国内工場を新設する動きが相次いでいる。 ライオンは年内に香川県に歯磨き粉の新工場を着工し、2021 年の稼働を目指す。 歯磨き粉の工場の新設は国内では 52 年ぶりとなる。 「中国や東南アジアで、虫歯予防効果がある歯磨き粉の人気が高まっている(広報担当者)」ためで生産能力は現在より 7 割増える。

資生堂もアジアで化粧品の販売が好調で、国内では 36 年ぶりとなる新工場を年内に栃木県に建設、20 年度には大阪府にも新工場を建設する。 いずれも化粧水などを増産する。 エステーやユニ・チャームも今春、国内新工場で生産を始める計画だ。 化粧品や日用品は自動車などと比べ単価が安い。 このため、輸送費をかけて輸出しても利益が出にくいと考えられ、海外に生産拠点を移す動きが続いていた。

だが、2010 年代に入って訪日客が急増し、大量に日用品などを買う「爆買い」が広がったことが転機となった。 日本製の品質の良さを知った訪日客が帰国後にインターネット通販「越境 EC (電子商取引)」で買い続ける例が増えている。 海外の小売店やネット通販では偽物も多いので日本製であれば安心との心理が背景にある。 みずほ証券の佐藤和佳子シニアアナリストは「日本製がブランドになっている」と指摘する。

生産動態統計によると、17 年の化粧品の国内工場出荷額は約 1.6 兆円で過去最高を更新した。 輸出額も 5 年連続で最高となり、5 年前の約 3 倍に増えた。 18 年 12 月の全国百貨店売上高でも化粧品は 45 か月連続で前年同月比プラスとなっている。 こうした好調な販売が各メーカーの国内生産回帰の背中を押している。 ただ、こうした製品の世界展開では、ロレアルやユニリーバなど欧米大手が先行し、日本企業は出遅れているのが現状だ。 国内生産の拡大を持続させるには、自動車のように日本製の良さを世界に浸透させられるかどうかがカギを握る。 (yomiuri = 2-4-19)


円急伸、一時 104 円後半 世界経済の減速懸念 アップル業績下方修正で

3 日早朝の外国為替市場で円が急伸し、一時 1 ドル = 104 円 70 銭をつけた。 2018 年 3 月以来の円高ドル安水準。 米アップルが中国景気の減速を理由に業績を下方修正したことで、世界経済の減速が現実味を帯びたと受け止められた。 投資家がリスク回避姿勢を強め、相対的に安全な通貨とされる円を買って、ドルを売る取引が優勢となった。 その後は急速にドルが買い戻された。

年明け 2 日のニューヨーク市場の円相場は午後 5 時現在は、休み前の昨年 12 月 31 日と比べ 69 銭円高ドル安の 1 ドル = 108 円 83 - 93 銭だった。 ユーロは 1 ユーロ = 1.1338 - 48 ドル、123 円 50 - 60 銭。 米政府機関の一部閉鎖が続いていることも円買い材料となった。 (kyodo = 1-3-18)


GDP、下方修正で年率 2.5% 減に 7 - 9 月期

内閣府が 10 日発表した 7 - 9 月期の国内総生産 (GDP) の 2 次速報は、物価変動の影響を除いた実質で 4 - 6 月期から 0.6% 減った。 この状態が 1 年間続いた場合に換算すると 2.5% 減。 1 次速報の年率換算 1.2% 減から引き下げた。 設備投資の落ち込み幅が、 1 次速報の時点より大きくなった。 (asahi = 12-10-18)

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7 - 9 月期 GDP 年率 1.2% 減、2 期ぶりマイナス 予想下回る

→ 相次ぐ自然災害が影響、個人消費や設備投資が減少
→ 工場や空港の一時的閉鎖などで輸出は 5 期ぶりマイナス

7 - 9 月期の実質国内総生産(GDP、速報値)は、2 四半期ぶりにマイナス成長となった。 年率換算の成長率は市場予想を下回った。 相次ぐ自然災害に伴う供給制約や消費マインドの低下が、個人消費や外需を押し下げ、輸出は 5 四半期ぶりにマイナスに転じた。 内閣府が 14 日発表した。 (占部絵美、Bloomberg = 11-14-18)

キーポイント :

・ 実質 GDP は前期比 0.3% 減、年率換算 1.2% 減(予想中央値は 0.3% 減と 1.0% 減)
・ 個人消費は 0.1% 減(予想は 0.2% 減)
・ 設備投資は 0.2% 減(予想は 0.2% 増)と 8 四半期ぶりマイナス
・ 輸出は 1.8% 減と 5 四半期ぶりマイナス、寄与度はマイナス 0.3 ポイント

背景 :

7 月の西日本豪雨や 9 月の北海道地震、大型台風など相次ぐ自然災害により、ブルームバーグの集計したエコノミストの 9 割以上は 7 - 9 月期実質 GDP のマイナス成長を予想。 関西国際空港の一時閉鎖やサプライチェーン途絶で自動車など製品輸出が減り、訪日外国人客の国内消費にも悪影響を与えた。 9 月の経済指標は、自然災害や海外経済の減速懸念から、市場予想を下回る統計が相次いだ。 家計支出は前年比 1.6% 減と市場予想(1.5% 増)に反して減少したほか、国際収支統計でも、輸出減少により貿易黒字は 3,233 億円と前年から縮小した。

災害による影響の解消が見込まれる 10 - 12 月期には反動増を予想する声は多いが、米国の保護主義的な政策に端を発した貿易摩擦や世界景気に不透明感が増している。 貿易摩擦の高まりによって、世界の経済成長が今後 2 年間に 1% 押し下げられる恐れがあると国際通貨基金 (IMF) のラガルド専務理事が指摘するなど、外需に支えられる日本景気の回復基調に水を差す可能性もある。

詳細 :

・ 内外需の寄与度は、内需がマイナス 0.2 ポイント、外需がマイナス 0.1 ポイント
・ 民間住宅は 0.6% 増(前期は 1.9% 減)
・ 民間在庫変動の寄与度はマイナス 0.1 ポイント(同 0.0 ポイント)
・ 財貨・サービスの輸入は 1.4% 減(同 1.0% 増)
・ 公的固定資本形成は 1.9% 減(同 0.3% 減)


40 年で GDP25% 減 IMF、日本に構造改革促す

【ワシントン = 河浪武史】 国際通貨基金 (IMF) は 28 日、日本の経済情勢を分析する報告書を公表して「日本は人口減によって、今後 40 年で実質国内総生産 (GDP) が 25% 以上減少しかねない」との試算を示した。 生産性を高める構造改革を徹底すれば、経済規模の縮小を抑えられるとも指摘した。 2019 年秋に予定する消費税率の引き上げには需要喚起などの緩和策を促した。

IMF は年 1 回、加盟国と経済状況を分析する「4 条協議」を開き、報告書をまとめている。 28 日公表した対日協議の報告書では「現行政策のままでは人口減で実質 GDP の縮小が続く」と指摘し、構造改革が欠かせないと主張した。 具体的には非正規労働者の就業研修などを強め、6 月に関連法が成立した「同一労働同一賃金」を根付かせる必要があると指摘した。 フルタイム労働の意欲を損なうような税制・社会保障制度の見直しも求めた。 企業統治や貿易制度の改革なども徹底すれば、今後 40 年間の GDP を、基本シナリオから 15% 程度引き上げられると分析した。

18 年の経済成長率は 1.1% を見込み、19 年は消費税増税の影響で 0.9% に減速するとした。 IMF は日本の消費税増税を促してきたが、来秋の増税時には「経済収縮を引き起こす懸念が残っている」とも指摘した。 増税の影響緩和策として自動車や住宅関連の減税を挙げ、安倍政権が検討する措置を後押しした。 日銀には「金融緩和を維持すべきだ」と主張し、早期の緩和縮小には否定的な見方を示した。 金融緩和の副作用で地方銀行などの収益悪化も懸念されるが「地銀に求められるのは人口減に対応する事業モデルへの転換で、金融と IT を融合したフィンテックの活用も有効だ」と指摘した。 (nikkei = 11-29-18)


工作機械受注 23 カ月ぶり減、空前の活況は終わり?

国内堅調・中国に陰りも「基調が変わったとまでは言えない」

日本工作機械工業会(日工会)がまとめた 10 月の工作機械受注実績(速報値)は、前年同月比 1.1% 減の 1,391 億 7,700 万円だった。 減少は 23 カ月ぶりとなる。 国内はプラスを維持したが、外需の減少が響いた。 工作機械市場は国内外の旺盛な設備需要を受け、空前の活況が続いた。 ここにきて中国の変調を指摘するメーカーもある。 日工会は「基調が変わったとまでは言えない」と好調維持を強調する。

工作機械受注は単月 1,000 億円が好不調を分ける目安とされており、10 月の約 1,400 億円は依然高水準。 内訳は内需が同 1.1% 増の 573 億 4,700 万円、外需は同 2.5% 減の 818 億 3,000 万円だった。 外需は 2 カ月ぶりの減少だが、10 月としては過去 3 番目の高実績だ。 減少は、比較対象の前年 10 月が当時の過去最高額と極めて水準が高かったことが主要因とみられる。

内需は 21 カ月連続の増加で、10 月としては 2008 年のリーマン・ショック後の最高額を記録した。 11 月 1 日から 2 年に一度の工作機械の大型展示会が予定されており、買い控えが懸念される中での増加だった。 9 月決算の翌月だったことも加え、「それでも増加したのは国内投資が堅調な証だ(日工会)」と指摘する。 しかし、減少に転じ、一部で中国受注に陰りが出ているのも事実。 日工会は先行きを「11 月実績を踏まえ見極めたい」と慎重に判断する。 (NewSwitch = 11-18-18)

◇ ◇ ◇

機械受注 7 - 9 月は 10 年ぶり高水準、先行き受注も増加見通し

[東京] 内閣府が 8 日発表した機械受注統計によると、設備投資の先行指標である船舶・電力を除いた民需の受注額(季節調整値)は、足元 9 月は反動減が大きかったものの、7 - 9 月は前期比 0.9% 増と 5 四半期連続増加し、10 年ぶりの高水準となった。 先行き 10 - 12 月の受注見通しも同 3.6% 増と高めとなっており、貿易摩擦など先行き不透明感が増していても、今のところ企業の投資意欲への影響はさほどうかがえない。

9 月は前月比 18.3% 減の 8,022 億円となった。 ロイターの事前予測調査では 10.0% 減と予想されていたが、これを下回った。 大幅増となった 7、8 月の反動が大きく出た形だ。 前年比では 7.0% 減だった。  それでも 7 - 9 月機械受注は前期比増を確保。 当初の見通しではマイナスだったが、結果は増加に転じた。 受注額は 2 兆 7,022 億円で、2008 年 4 - 6 月期以来の高い水準となった。 特に非製造業が前期比 3.5% 増とけん引、運輸業からの鉄道車両の受注や通信業、建設業からの受注が寄与した。 製造業は増加見通しを覆して同 2.0% 減となり、6 四半期ぶりのマイナスだった。 (Reuters = 11-8-18)

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9 月の鉱工業生産指数は 101.4 前月を下回る

経済産業省が 31 日に発表した 9 月の鉱工業生産指数(2010 年 = 100、季節調整済み)の速報値は 101.4 で、前月を 1.1% 下回った。 基調判断は「緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」とした。 (asahi = 10-31-18)


日銀の総資産、戦後初の「GDP 超え」 553 兆円に

大規模な金融緩和で大量の国債を買い続けている日本銀行の総資産の規模が、国内総生産 (GDP) を上回った。 13 日公表の 10 日時点の総資産は 553 兆 5,922 億円で、名目 GDP の 552 兆 8,207 億円(4 - 6 月期、年換算)を超えた。 日銀の総資産が同じ年の GDP を超えるのは戦後初めて。 総資産のうち国債が約 469 兆円、上場投資信託 (ETF) が約 22 兆円を占める。 黒田東彦(はるひこ)総裁の下で異次元緩和を始める直前の 2012 年度末の総資産は約 164 兆円で、この 5 年余りで約 3.4 倍まで膨れあがった。 日銀は「物価上昇率 2%」の目標に向けて国債などの買い入れを続けており、今後も資産はさらに増える。

保有資産の規模があまりに大きいと、緩和を終える「出口」で日銀の財務が悪化する懸念がある。 現在日銀が買っている国債の利回りは低いが、政策金利を引き上げる出口の局面では、日銀にお金を預けている民間銀行などへの利払いが増え、日銀は債務超過に陥りかねない。 SMBC 日興証券の丸山義正氏は「バランスシートの後始末など、出口に向けた様々な立案を進めておく必要がある」と指摘する。 (湯地正裕、asahi = 11-13-18)


密輸の金、商社経由し海外へ 国の損害、年 640 億円か

日本に密輸された金の多くが、大手商社経由で輸出されていた実態があることが財務省の調べで分かった。 金の密輸は、輸入時に支払いを不正に逃れた消費税分だけ密輸業者に利益が入るため、2014 年の消費増税以降に急増した。 来年 10 月の再増税を控え、財務省は大手商社に対し、取引の仕方を見直すよう協力を求めている。  金を輸入する場合は本来、税関に申告し、消費税を納める必要がある。 しかし、密輸業者は消費税がない香港などから金を買って日本の税関に申告せずに密輸し、買い取り業者に消費税込みの値段で売って利益を上げている。

財務省の調べでは、金は買い取り業者から大手商社数社に転売され、国外に輸出されているという。 少なくとも、このうち輸出量の多い 2 社は、取引先の金の入手ルートや形状などの確認を十分していなかったという。 日本では、金の輸出の 8 割近くを大手商社が担う。 金の輸出には税関長の許可が必要で、国際取引でも信用が欠かせないからだ。 商社は金の輸出額に応じ、消費税分の還付を受けられるため、買い取り業者から消費税込みの値段で買っても損はしない。 密輸業者から消費税込みで金を仕入れた買い取り業者にとって、商社は都合のいい転売先になっている可能性がある。

17 年に日本から輸出された金は 215 トンなのに対し、正規の輸入は 5 トン。日本国内での金の産出量や消費量から判断すると、財務省は輸出量のうち 160 トン程度が密輸された金とみている。 消費税の脱税額は年 640 億円に上る計算だ。 金の密輸は消費税率が 5% から 8% に引き上げられた 14 年以降に急増。 17 年 6 月までの 1 年間の金密輸事件は前年比 1.6 倍の 467 件、脱税額も 1.4 倍の約 8 億 7 千万円と、いずれも過去最高だった。

来年 10 月に消費税率が 10% に上がれば金密輸で得られる利益が増えるため、財務省は 17 年末から密輸対策を強化。 商社側に入手ルートが不明な金を買わないようにするなどの見直しを要請した。 今年 4 月には金を密輸したり、密輸された金を買い取ったりした際の罰金を大幅に引き上げる改正関税法を施行した。 ただ、買い取り業者や流通業者の罪が問えるのは、業者が密輸された金だと認識していた場合。 事情を知らずに取引している業者を罪に問うのは難しいという。 密輸を「水際」で阻止するため、財務省は空港などに金属探知機や X 線検査装置を増やしているが、密輸量の急増に追いついていない。

金の輸出量が多いとされる大手商社 2 社は朝日新聞の取材に対し、財務省からの要請があったことを認め、1 社は「適正な取引を実施してきた」としながらも、「金の密輸撲滅に向けた取り組みとして、本年 5 月以降は買い取り業者からの金の購入を全面的に停止している」と回答。 別の 1 社は「過去より複数社から購入しているが、契約上の守秘義務の兼ね合いもあり、当社からの開示は差し控える」としている。 (笠井哲也、asahi = 11-10-18)